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コリネ型細菌における糖取り込み機構PTSの 遺伝子発現制御

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セミナー室

産業微生物の細胞膜を介した物質輸送研究の最前線――物質生産の効率化に向けた新たな挑戦-3

コリネ型細菌における糖取り込み機構PTSの 遺伝子発現制御

田中裕也,乾 将行,湯川英明

(公財)地球環境産業技術研究機構RITE

生物は環境の変化に対して適切な遺伝子を適切な量,

タイミング,確率で発現させることにより対応してい る.炭素源に対する応答もその一つであり,炭素源応答 の研究はオペロン説など遺伝子発現制御の重要な概念を 数多く生み出してきた.糖代謝系遺伝子の発現は環境中 に存在する糖源によって誘導されるのが基本であるが,

他の糖源の存在や細胞の状態に応じて複雑な発現制御を 受ける.この複雑な発現制御の全容を解明するには,そ の制御に関わる転写因子と制御シグナルの解明が重要と なる.

はアミノ酸生産菌とし て1950年代に日本で単離された高GC含量のグラム陽性 菌で(1),グルタミン酸,リジンなどのアミノ酸や核酸な どの工業的生産に広く用いられている.筆者らは

 R株を改良し,高生産性バイオプロセス

「RITEバイオプロセス」によりエタノール,コハク酸,

乳酸など有用物質の生産に取り組んでいる(2〜4).グル コースなどの糖は有用物質生産における主要な炭素源と して利用されており,糖取り込み能力の改良が生産性効 率の向上において重要な鍵となる. にお けるグルコースなどの取り込みは,主にphosphoenol- pyruvate (PEP): sugar  phosphotransferase  system 

(PTS) が担っていることから,筆者らは 

PTS 遺伝子の発現制御機構を解明し,その知見を 応用して糖取り込みを適切に制御することで,物質生産

のさらなる効率化を目指している.今回は

のPTSについて,筆者らのR株での解析を含め,

近年解明された転写制御因子に注目し(各 遺伝子の 制御の概要は図1参照),これまでの解析状況をまとめ る.

 PTS

原核生物の糖取り込みはPTS, Major Facilitator Su- perfamily, ABC輸送体などによって行なわれており,

その中でもPTSは原核生物のみに存在する輸送機構で ある.PTSによる糖の取り込みは,リン酸化と共役し て行なわれることが他の糖輸送機構とは異なるユニーク な点である(5, 6) (図2.リン酸基は解糖系のホスホエ ノールピルビン酸に由来し,細胞質タンパク質のEn- zyme I (EI), Histidine-phosphorylatable protein (HPr) 

を順に経由して Enzyme II (EII) に受け渡される.EII は膜タンパク質で,それぞれの糖に特異的なEIIが存在 し,糖の輸送とリン酸化を同時に行なう.PTSの基質 はグルコース,フルクトースなどのC6糖が含まれてお り, では通常,グルコースはほぼすべて PTSにより取り込まれる.PTS以外の機構では糖の輸 送とリン酸化でそれぞれエネルギーを消費するのに対し て,PTSではPEP 1分子の消費で糖の輸送とリン酸化 が行なわれ,さらに解糖系などの代謝経路に速やかに受

(2)

け渡される.PTSタンパク質のリン酸化状態は,細胞 外の糖の存在と細胞内PEP/ピルビン酸比率によって決 定されている.PTSはこのリン酸化状態の変化に応じ て様々な細胞機能の制御にも関わる.たとえば大腸菌の グルコースEII細胞質サブユニットは,リン酸化状態で はcAMP合成酵素を活性化し,逆に脱リン酸化状態で はラクトースなどの非PTS糖の取り込みタンパク質を 阻害する.

 R 株には EI, HPr が1つずつと糖特異 的EIIが6種類存在する(図3.EI, HPr  をコードする ,  遺伝子は,ゲノム上,フルクトースEII(フル クトースを主に基質とする意;以下同じ)をコードする の近傍に位置しており, は とオペロンと

して転写される.フルクトース が とオペロン を形成することは,グルコースEII細胞質サブユニット をコードする が ,  とオペロンとして転写さ れ る 大 腸 菌 や,グ ル コ ー スEIIを コ ー ド す る が ,  とオペロンを形成する枯草菌とは異なってい る.フルクトースEII以外のPTS,すなわちグルコース EIIをコードする ,スクロースEIIをコードする

β

-グルコシドEIIをコードする と ,そ し て こ れ ま で の と こ ろ 基 質 が 不 明 なAsc (arbutin-,  salicin-, and cellobiose-specific) 型EII遺伝子をコードす る ,  はそれぞれゲノム上に離れて存 在する. と は  R 株には存在す るが,  ATCC13032 株には痕跡のみが認

図1 の転写制御

(3)

められることから,進化の過程で欠失したことが推定さ れる.これらのうち ,  ,  , は解糖系の オペロンやペントースリン酸経路の オペロン, , 

といった中央代謝遺伝子とゲノム上で比較的近傍に 位置している.

近年, のゲノム配列が解読されたのを

契機に(7〜9),転写制御機構の解析が精力的に進められて

いる.その結果,PTSについても様々な新規転写因子 による制御の存在が知られるようになった.

PTS糖による 遺伝子発現誘導

に お け る 遺 伝 子 の 発 現 解 析 は,

PTSを介した糖取り込み活性の解析により行なわれて きた.その結果,フルクトースEII活性はフルクトース 培養時に最もよく誘導されること,メチル-

α

-グルコシ ドの取り込み活性はPTS糖が存在しないときにも存在 するがグルコースの添加によってさらに活性が上昇する ことが示された(10).これらの結果から,

にも 遺伝子の発現誘導機構が存在することが示唆さ れた.近年では主にRNAレベルでの発現解析が行なわ れている.RNA発現解析から,グルコース,フルク トース,スクロースなど,PTSにより取り込まれる糖 の存在下で 遺伝子の発現が誘導されることが判明し

(11, 12). はPTS糖が存在しないときにも一定量の

発現が観察されるが,グルコース,フルクトース,スク

ロースを培地中に添加することにより発現が上昇した.

も同様のパターンを示す. ,  ,  はPTS糖 が存在しないときにはほとんど発現せず,グルコースに よる発現誘導も少ない.しかし,フルクトース,スク ロースが培地中に存在するときには顕著な発現の上昇が 観察された.PTS糖以外の炭素源(酢酸,クエン酸,

シキミ酸など)では 遺伝子の発現上昇は見られない.

以上の事実から, ,  を除くすべてのPTSの 発現がフルクトースにより誘導されることが判明した.

このようなフルクトースによる発現誘導パターンは大腸 菌,枯草菌とは異なっており,フルクトース誘導に関わ る転写制御機構の存在が予想された.しかし,大腸菌の 遺 伝 子 発 現 誘 導 に 関 わ る 転 写 因 子 Mlc (making  large colonies) の相同タンパク質は存在せず,また枯草 菌の 遺伝子発現誘導に見られるアンチターミネー ター遺伝子は -PTS(後述)の近傍にのみ存在し,他 の 遺伝子周辺には見られない.このことからも,

では大腸菌や枯草菌と異なる制御機構が示 唆された. - 近傍のゲノム配列を解析するとDeo-  R-type転写因子遺伝子 が存在する.この 遺 伝子が の近縁種にも保存されていること から,SugRによる 遺伝子発現制御の可能性が考えら れた.

そこで, 遺伝子を破壊したところ, ,  ,  ,  ,  遺伝子においてPTS糖の存在しないときにも恒常 的な発現が観察された(13〜15).ゲルシフトアッセイから

図2PTS

解糖系の中間代謝産物であるホスホ エノールピルビン酸由来のリン酸基 がEI, HPr, EIIを経由し,EIIにより 取り込まれた糖に受け渡される.

(4)

はSugRが直接これらのプロモーター領域に結合するこ と,またSugRの結合は特にフルクトース1-リン酸の添 加により阻害されることが判明した.これらの結果は,

PTS糖が存在しないときにはSugRが 遺伝子の発現 を抑制しており,PTS糖が環境中に存在するときには SugRによる抑制が糖-リン酸によって阻害されること で 遺伝子の発現が促進されることを示している.フ ルクトース1-リン酸はフルクトースEIIによるフルク トース取り込みで生じる.このことは,

では 遺伝子の発現がフルクトースによって最もよく 誘導される現象をうまく説明できる. 破壊株のマ

イクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析からは,

SugRは 遺伝子のみならず解糖系や乳酸代謝遺伝子の 発現制御も行なうことが判明した.ChIP-chip (chro- matin immunoprecipitation-on-chip) 解析の結果やゲル シフト法の結果と併せて考えると,SugRはPTS糖の代 謝遺伝子の発現制御を中心として20以上の糖代謝経路 遺伝子発現を包括的に制御するグローバル転写因子であ ることが判明した(16)

遺伝子領域には に加え,DeoR-type転 写因子遺伝子 が存在する. 破壊株では オ ペロン, ,  の発現が上昇する(12).このことは 図3  R株の 遺伝子構造

(5)

FruRがこれらの遺伝子のリプレッサーとして機能する ことを示している.FruRがどのようなシグナルを認識 しているのかなど詳細については現時点では不明であ り,今後の研究が期待される.

ペントースリン酸経路とPTSGntRによる制御 においては,グルコン酸は菌体内に取 り込まれた後 GntK (gluconate kinase) の働きによりリ ン酸化され6 -ホスホグルコン酸となり,ペントースリン 酸経路によって代謝される. におけるグ ルコン酸代謝遺伝子を制御する転写因子の探索から GntR1, GntR2の両転写因子による制御が   ATCC13032株で見いだされた(17).なお,

 R株にはGntR1のみが存在する.マイクロアレイ による網羅的解析から, 遺伝子破壊株ではグルコ ン酸代謝遺伝子に加え,50以上の遺伝子の発現に変化 が見られた. 破壊株で発現が上昇した遺伝子には ペントースリン酸経路代謝遺伝子も含まれており,

GntRはグルコン酸代謝に関わる遺伝子群の発現を包括 的に制御することが示された.興味深いことに, , 

破壊株で発現が減少した遺伝子の中には ,  の2 つ の 遺 伝 子 が 含 ま れ て い た.こ の こ と はGntR1,  GntR2がこれらの 遺伝子に対し転写活性化因子とし て働くことを示す.精製GntR1, GntR2は ,ペン トースリン酸経路遺伝子,グルコン酸代謝遺伝子の各プ ロモーター領域に結合し,さらにこの結合はグルコン 酸,グルコノラクトンの添加により阻害された.

以上の結果は, ,  によるグルコース,スクロー ス取り込みとペントースリン酸経路による代謝がGntR によって制御されていることを示す.すなわち,グルコ ン酸が存在しないときにはGntRはDNA結合型であり,

グルコン酸代謝遺伝子,ペントースリン酸経路代謝遺伝 子発現を抑制し,逆に ,  プロモーターについて は活性化させ,グルコース,スクロースの取り込みを促 進させる.培地中にグルコン酸が存在するときには GntRのDNA結合能は阻害され,その結果としてグル コン酸代謝遺伝子,ペントースリン酸経路代謝遺伝子の 発現は上昇し, ,  の発現は低下する.このよう にGntRはグルコン酸の存在状況に応じてペントースリ ン酸経路による代謝とPTSによるグルコース,スク ロース取り込みのバランス調節を行なう.このようなペ ントースリン酸経路とPTSの制御は,現在までのとこ ろ に特有である. ,  はGntRの制 御下にあるものの, 発現は制御されていない.フル

クトースの代謝は主に解糖系によりなされ,ペントース リン酸経路がほとんど使用されないことと関係があるの か興味深い.

LldRによる オペロン, の制御

LldRはl-乳酸代謝遺伝子のプロモーター領域に結合 する転写因子として見いだされた.そのDNAへの結合 はl-乳酸により阻害される. 遺伝子破壊株と野生株 とのマイクロアレイによる遺伝子発現の比較から,乳酸 デヒドロゲナーゼ, ,  などの代謝遺伝子の発現 が変化することが判明した.このうち乳酸デヒドロゲ ナーゼ遺伝子, オペロンに関してはLldRが直接結 合することが確認されている(18). ,  の発現は 破壊株において発現が上昇することから,LldRは これらの遺伝子の転写抑制因子であり,菌体内の乳酸が 上昇するとその抑制が解除されると考えられる.

破壊株では ,  の発現は約2倍の上昇が観察され たが,これは 破壊株における10倍以上の発現上昇 と比べると少ない.このことから, 遺伝子の発現制 御は主としてSugRの活性制御によって行なわれ,Gnt - R, LldR, あるいはこれから述べる RamA (regulator of  acetate metabolism A) などはPTS糖以外の環境シグナ ル,たとえば他の炭素源が環境中に共存するときに 遺伝子の発現を適切なレベルに調整する機能をもつと考 えられる.LldRに関しては,l-乳酸により活性が調節さ れることから,乳酸代謝による 遺伝子の発現調節が その役割と考えられる.今後解明すべき点としては,l- 乳酸が菌体内に存在するときに ,  の発現が上昇 することが にどのようなメリットをもた らすのか,なぜ ,  は上昇するのに は発現に 変化が観察されないのかなどが挙げられる.

RamA, RamB, GlxRによる制御

RamAは,酢酸代謝遺伝子の発現制御に関わる転写因 子として見いだされ,その後の解析から酢酸代謝に限ら ず様々な代謝経路の発現を制御することが明らかとなっ た.マイクロアレイによる野生株と 遺伝子破壊株 の発現比較の結果, 破壊株では ,  ,  の 発現が減少し, ,  の発現は上昇した(19).これら の 遺伝子のうち ,  プロモーター領域には RamAの結合コンセンサス配列が存在しており,精製 RamAによる結合が観察されている.このことから,

,  プロモーターはRamAによって直接的に抑制

(6)

されていると考えられる.一方, ,  ,  プロ モーター領域にはRamAの結合配列は存在せず,精製 タンパク質による結合も観察されていない.したがっ て, ,  ,  の 破壊による影響は間接的であるこ とが示唆される.興味深いことに,RamAは転写因子 SugRの発現を抑制することが知られており, 遺 伝子破壊による ,  ,  の発現減少は,SugRの タンパク質量が増えたことでこれらの遺伝子のプロモー ターが抑制されたことによる可能性が考えられる( , 

,  は ,  と比べSugRによる抑制効果が大 きい).RamA制御の標的遺伝子はPTS,解糖系,ペン トースリン酸経路,TCAなどの中央代謝経路をはじめ として多岐にわたっている.しかし,SugRやGntR,  LldRとは異なり,RamAの活性がどのようなシグナル により制御されるのかは不明である.RamA制御シグナ ルの解明が今後の重要研究課題である.

RamAの発見とほぼ同時に,酢酸代謝経路を制御する 転写因子としてRamBが見つかった.結合配列による予 測から ,  プロモーターを制御することが予想さ れ,実際に精製RamBによる結合が観察された.マイク ロアレイ解析により判明した 遺伝子破壊による発 現の変化は, 遺伝子破壊による影響と比べ限定的 であり,酢酸代謝遺伝子,ピルビン酸カルボキシラー ゼ,そして ,  の発現の変化が観察された. , 

の 発 現 は 遺 伝 子 破 壊 株 で 減 少 し て お り,

RamBによるプロモーター活性化が予測される.ただ し,RamBの結合部位は 転写開始点の下流に位置 しており, プロモーターの活性化がどのようなメ カニズムによるのか,間接的な影響である可能性も含 め,解明が待たれる.さらに,RamBタンパク質の活性 制御メカニズムはRamAと同様に不明であり,この解 明も今後の課題である.

大腸菌や様々な生物において3′-5′サイクリックAMP 

(cAMP) はシグナル物質として働くことが知られてい る.大腸菌のcAMPは転写因子CRP (cAMP receptor  protein) と結合し,糖代謝遺伝子をはじめ様々な遺伝 子の発現を制御することが知られている.

においてもcAMPの合成が知られており,ゲノム 解 析 か らCRPの ホ モ ロ グ と し てGlxR (glyoxylate  regulator) が存在することも判明した.実際, 遺 伝子は大腸菌の 遺伝子欠損株を相補し,またGlxR はプロモーター領域に存在する結合配列にcAMP依存 的に結合することが示されている.その後,GlxR結合 配列からの予測,ChIP-chip解析などからGlxRの標的遺 伝子が解析されている(20, 21).これらの結果から,GlxR

は解糖系,TCA,乳酸代謝などの代謝遺伝子を含む200 以上の遺伝子の発現を直接制御していると考えられてい る. 遺伝子としては 以外のすべての遺伝子上流 域でGlxRの結合が観察されており,GlxR結合部位の位 置がプロモーター下流に存在することから,これら 遺伝子の発現はGlxRにより抑制されると考えられる.

では菌体内cAMPの量はグルコース培養 時に酢酸培養時よりも上昇することが知られており,

GlxRはグルコース培養時に 遺伝子の発現を抑制する と考えられる.大腸菌においてはcAMP-CRP複合体は 遺伝子の発現を上昇させ, とは逆方 向に作用するが,cAMP量はグルコース培養時に低下す る.すなわち,どちらの菌においてもcAMP制御系は グルコース培養時に 遺伝子の発現を低下させる方向 に働くが,それが異なる制御機構によってなされている ことになる. ではcAMP量の制御機構に ついては不明であり,分子機構の解明は今後の重要な課 題である.

β

-グルコシドEIIのアンチターミネーション機構に よる発現制御

 R株 に は2つ の

β

-グ ル コ シ ドEIIを コードする ,  遺伝子が存在する(22, 23) (図2).

,  の発現は

β

-グルコシドにより誘導されるが,他 の 遺伝子とは異なりSugRの制御下にはない. , 

遺伝子下流には転写アンチターミネータータンパク 質をコードする ,  遺伝子が存在し,また , 

上流の非翻訳領域には転写終結配列およびそれと重 なる形でアンチターミネーター配列(RAT配列)が存 在する.これらの制御因子の存在から, ,  の発現 制御はアンチターミネーションにより行なわれると考え られる.

アンチターミネーションによる制御については以下の モデルが考えられている(図4.基質(

β

-グルコシド)

が存在しない状態では,アンチターミネータータンパク 質BglGのリン酸化ドメイン 1 (PRD1) が

β

-グルコシド EIIによりリン酸化されており,BglGは不活性型となっ ている.この状態では 遺伝子の転写はコード領域上 流に位置する転写終結配列で終結し,発現は抑制され る.

β

-グルコシドが存在すると

β

-グルコシドEIIのリン 酸基は

β

-グルコシドに渡され,その結果BglGは脱リン 酸化されて活性型となり,RAT配列に結合する.RAT 配列が安定化されると,それと重なる転写終結構造の形 成が阻害され,転写伸長は 遺伝子コード領域に到達 して遺伝子発現が誘導される.これを支持する結果とし

(7)

て, 遺伝子破壊株では転写は誘導されず,また上 流の転写終結配列を欠損させることで発現は恒常的と なった.

,  の両遺伝子ともにアンチターミネーショ ン機構により制御されるが,興味深いことにグルコース を

β

-グルコシドと共存させると は強いカタボライ ト抑制を受けるのに対して はほとんど抑制されな い.この違いはアンチターミネータータンパク質BglG,  BglG2の翻訳量の違いに由来することが示唆されてい る(24).すなわち, の翻訳コドンは翻訳開始効率の 悪いGTGで始まり,BglGの発現量は少ない.その結果 として,グルコース抑制の効果を強く受ける.それに対 し, はATG開始コドンから翻訳されることで発 現量が多く,グルコース抑制による影響を受けにくいと 考えられる.以上の事実は,コリネ菌においても転写開 始後制御が存在することを示しており,今後はmRNA の安定性制御も含め多彩な制御系の解明を進めていくこ

とになるであろう.

おわりに

ゲノム配列解読後, の転写制御機構に ついての研究報告が相次いでおり, の発現制御につ いても報告が積み重ねられている.その結果から,

の 遺伝子発現制御は,大腸菌や枯草菌と いったグラム陰性菌,低GCグラム陽性菌のモデル生物 とは多くの点で異なることがわかりつつある.違いの一 つはフルクトースにより最もよく発現が誘導されること であるが,これには が自然界では果実,

野 菜 か ら も 見 つ か る こ と と の 関 連 が 考 え ら れ る(25).筆者らはこれまでに得られた結果を応用し,

遺伝子の発現をコントロールして,糖取り込みを適切に することにより を用いた物質生産のさら なる効率化を目指している.また, はジ 図4 遺伝子発現制御

β-グルコシドが存在しないときにはBglGのPRD1部位はリン酸化される.リン酸化されたBglGはモノマーで存在しRAT配列に結合しな い.その結果, 遺伝子上流の転写終結構造が形成され,転写が中途でストップする.β-グルコシドが存在するとBglGは脱リン酸化さ れ,ダイマーを形成してRAT配列と結合する.この場合,転写終結構造の形成が阻害され,結果として転写は遺伝子全長を進む.

(8)

フテリア菌,結核菌と近縁種であることから,その研究 はこれら病原菌解析のモデル生物となりえる.特に PTSは原核生物にのみ存在する機構であり,PTSを標 的とした新たな薬剤の開発も期待される.

遺伝子の発現制御解析は,転写因 子の活性制御機構について解明を進めていく段階に入っ た.PTSタンパク質のリン酸化を介した様々な細胞活 性制御については,現在までに

β

-グルコシドEIIのアン チターミネーター活性制御が解明されたのみであり,

におけるPTSリン酸化を介した制御の全容 解明が今後の重要課題である.

文献

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青沼 宏佳(Hiroka Aonuma) <略歴>

2001年東京農工大学応用生物科学科卒 業/ 2003年同大学大学院農学研究科修士 課程修了/ 2008年大阪大学大学院医学系 研究科博士課程修了/ 2011年日本学術振 興会特別研究員(PD,東京慈恵会医科大 学熱帯医学講座),現在にいたる<研究 テーマと抱負>生物と生物(微生物)がど のような生活活動バランスの上に共存して いるのか<趣味>ペット飼育と観察 阿部 啓子(Keiko Abe) <略歴>1969 年お茶の水女子大学家政学部食物学科卒業 後,米国デューク大学研究員,お茶の水女 子大学文部技官,東京大学農学部助手,助 教授,教授を経て,2010年同大学退職後,

同大学名誉教授,同大学院農学生命科学研 究科特任教授,神奈川科学技術アカデミー

「健康・アンチエイジング」プロジェクト リーダー,現在にいたる<研究テーマと抱 負>食品の栄養性,嗜好性,機能性の統合 解析研究<趣味>囲碁(まだ笊碁の段階)

荒井 綜一(Soichi Arai) <略歴>昭和 34年東京大学農学部農芸化学科卒業後,

森永製菓(株),東京大学農学部助手,助教 授,教授,東京農業大学応用生物科学部を 経て,現在,同大学客員教授<研究テーマ と抱負>実学に関心.ただし,これは実用 的学問ではなく,応用を目指した基礎研究 あるいは基礎を踏まえた応用研究<趣味>

宝塚観劇,大リーグ野球観戦

乾   将  行(Masayuki Inui) 略 歴1988年広島大学大学院工学研究科工業化 学専攻博士課程前期修了/同年三菱油化

(株 )/ 1994年 三 菱 化 学(株 )副 主 任 研 究 員/ 2000年同社主任研究員/同年(財)地 球環境産業技術研究機構主任研究員/

2006年同機構副主席研究員/ 2008年東京 工業大学大学院生命理工学研究科連携教授

(兼任),現在にいたる.1993年工博(東 京工業大学)<研究テーマと抱負>コリネ 型細菌の遺伝子制御メカニズム解明,代謝 工学的改変,バイオ燃料・グリーン化学品 生産技術研究

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【解説】 植物が獲得した防御応答物質の 生合成遺伝子クラスター イネにおけるファイトアレキシン生産の制御機構 宮本皓司,岡田憲典 自由に生息場所を移動できない植物は,外敵から身を守るた めにさまざまな化学物質を生産しその侵略に対抗する.これ らの化学物質のなかには病虫害などに対する防御物質として 知られているものも存在しているが,それらの生合成を担う

乳酸菌の長寿遺伝子サーチュインが 果たす根源的な機能の発見: タンパク質合成と細胞分裂の制御 中 川 純 一*  † (平成 30 年 11 月 22 日受付/平成