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はじめに 2007年より顕著となった穀物価格の高騰は

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(1)

はじめに

2007

年より顕著となった穀物価格の高騰は、コメと小麦を輸入に頼っているサブサハ ラ・アフリカ諸国の都市住民の生活を直撃した。2008年

2月から 4月にかけて抗議のデモン

ストレーションが頻発し、時には暴動にまで至る事態となった(1)。その後、穀物価格は

2008

年5月をピークに下降し始めたが、以前の水準に戻ることはないだろうと国際連合食糧農業 機関(FAO)は

2008年 6月の時点で予測している

(FAO 2008a)。

サブサハラ・アフリカは地球上の陸地面積の

16%

を占める広大な大地であるが、総人口 は世界の11%にすぎない(外務省)。つまり、サブサハラ・アフリカは相対的に豊富な土地 資源をもつ。にもかかわらず、その人口を養うに十分な食料を生産することができない。

それが、経済成長の大きな制約の一つとなっているのである。

1 サブサハラ・アフリカの食糧問題

サブサハラ・アフリカは地域外から多くの食料を輸入している。FAOSTATによれば、

2000年から 05年の地域外からの年間平均輸入量は、コメ

(籾

もみ

ごめ

換算)が約1023万トン、小 麦が約1032万トン、メイズ(とうもろこし)が約

101万トンであった

(2)。これは同期間の地 域内の年間平均生産量のそれぞれ

83%、218%、3%

にあたる。しかし、主食の自給率が低い こと自体が食糧問題というわけではない。問題は、人々が食料を安定して入手できない、

すなわち「食料安全保障(food security)」が実現していないことである。食料安全保障が達 成されている状態とは「すべての人々が栄養価が高く安全で十分量の食料を物理的にも経 済的にも常に入手する手段をもち、そうした食料が活動的で健康な生活を送るための必要 性と嗜好を満たしている時」である(FAO 2003)。この定義によれば、ある国で食料が十分 にある(国内生産、輸入、食料援助を合わせて)ことは、食料安全保障の必要条件ではあるが、

十分条件ではない。食料安全保障のためには、自家生産や市場での購入、贈与(食料そのも のの場合と食料入手手段を受け取る場合を含む)を組み合わせることにより、すべての人々が 食料を入手できなければならない。

栄養不良人口は、食料安全保障がないこと(food insecurity)の指標の一つとなる。第

1表

に示したように、2003―

05

年の時点で、栄養不良人口はインドのほうがサブサハラ・アフ リカよりも多い。しかし、インドの総人口(約11.7億人)はサブサハラ・アフリカ(約7.7億
(2)

人)よりずっと多いため、総人口に対する栄養不良人口の比率は、インドが

20.8%であるの

に対してサブサハラ・アフリカは27.5%である。すなわち、食料安全保障の欠如という問題 はサブサハラ・アフリカのほうがずっと深刻である。FAO(2008b)は

2006

年以来の世界的 な食料価格の高騰が発展途上国の栄養状態に及ぼした影響を推計しているが、第1表にまと めたように、新たに栄養不良に陥った人口はサブサハラ・アフリカとアジア・太平洋地域 に集中している。総人口の違いを考えると、食料価格高騰の影響はサブサハラ・アフリカ のほうが大きいと言え、食料価格の高騰が栄養不良人口を増やすという事実は、サブサハ ラ・アフリカにおける食料安全保障の欠如の原因が貧困問題にあることを示唆している。

国単位でみても、低所得国が集中するサブサハラ・アフリカは世界で最も食料安全保障に 関する問題を抱えている。2008年

7

月の時点で外部からの支援を必要とするような深刻な食 料不足に見舞われている国は世界で

34ヵ国にのぼるが、そのうち 21

ヵ国はサブサハラ・ア フリカである(FAO 2008c)。

2 サブサハラ・アフリカの貧困削減

貧困の解消がサブサハラ・アフリカの食糧問題解決の前提であるとするなら、貧困人口 の半減を第一の目標にかかげた国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成を目指せばよい。

しかしながら、サブサハラ・アフリカにおいて貧困をいかに削減するか、つまり目標に到 達する道筋については必ずしも明確な合意があるわけではなかった。

サブサハラ・アフリカの農村人口の割合は

2007

年に総人口のおよそ

63%

である(OECD/

AfDB〔2008〕のデータをもとに筆者が計算)。「1日当たり

1

ドル未満での生活」を貧困者の定

義として採用すると、サブサハラ・アフリカの貧困者比率は、減少の兆しがあるものの

2004年の時点で 41.1%

であり、いまだに高い水準にある(UN 2007)。しかも、この貧困人口 の大半、おそらく

7割は農村に居住していると推定される。したがって、サブサハラ・アフ

リカの貧困削減のためには農業開発を優先するのが当然であるように思えるだろう。とこ ろが、サブサハラ・アフリカの貧困削減戦略の中心は、長いこと教育や医療といった社会 開発であった。実際、サブサハラ・アフリカに対する農業分野の政府開発援助(ODA)の総

第 1 表 栄養不良人口の分布(2003―05年)と食料価格高騰のインパクト

サブサハラ・アフリカ 212 27.5 24 30.6

アジア・太平洋地域 188 13.1 41 15.1

イ ン ド 231 20.8

中  国 123 9.4

南米・カリブ海地域 45 8.1 6 9.2

中東・北アフリカ 33 10.6 4 11.9

発展途上国全体 832 15.2 75 16.5

地 域 栄養不良人口

(100万人)

2007年に増えた 栄養不良人口

(100万人)

2007年の 栄養不良蔓延率 当該地域人口に

対する%

栄養不良の 蔓延率 当該地域人口に

対する%

(注) *インドと中国を含まない。

 **インドと中国を含む。

(出所) FAO(2008b)およびWorld Bank(2007)のデータより筆者が計算。

** **

( )

( )

(3)

額は、1980年代の後半には

30億米ドル

(2004年価格)を超えていたのに、その後は減少する 一方で、2004年には

12億米ドル程度に落ち込んだ

(World Bank 2007)。

援助機関が農業分野の支援を減らした理由として、World Bank(2007)は次の5点を指摘 している。①国際的な農産物価格の低下により発展途上国の農業の収益が低下した、②他 の分野、とりわけ社会開発分野に予算が配分された、③さまざまな危機に対する緊急的支 援に予算が配分された、④輸出市場で競合する可能性のある一部の先進国の農家は農業支 援に反対している、⑤環境保護団体のなかには農業は環境破壊の元凶の一つであるとして 農業支援に反対するものがある。農業分野へのODAの減少はサブサハラ・アフリカに限っ たものでなく、アジアを含むすべての発展途上国にあてはまり、世界のODA総額に占める 農業分野の割合は、1979年には

18%

だったものが、2004年には

3.5%

にまで激減している

(World Bank 2007)。アジアにおいては、緑の革命が達成された後の

ODA削減であったが、緑

の革命がいまだ始動していないサブサハラ・アフリカにとって、農業分野のODA減少は痛 手であった。それに代わる分野として、上の②で指摘されているように社会開発(すなわち 教育や保健など)が浮上し、1990年代には国際的な開発援助の潮流が社会開発重視にシフト したのである。

しかし、現在では、サブサハラ・アフリカの開発援助は経済成長重視へと変化の兆しが みえている。その理由の一つは、長年にわたり停滞を続けていたサブサハラ・アフリカの 経済が、近年になりようやく成長を開始したことである。サブサハラ・アフリカの実質国 内総生産(GDP)の成長率は

2005

年に5.7%、2006年

5.9%を記録し、2007年は5.7%、2008年

は5.9%と予測されている(OECD/AfDB 2008)。こうした現実を背景に、2008年の主要国首脳 会議(北海道洞爺湖サミット)で発表された「G8アフリカ行動計画の実施に関する

G8APRに

よる進捗報告書」(外務省2008)では、第1番目に「成長の加速化」という項目がおかれ、そ のなかに、 貿易、投資、経済成長および持続可能な開発の促進 、 債務救済の実施 、 農 業生産性を高めること という三つの課題が並んでいる。3年前の

2005

年のグレンイーグル ズ・サミットの際に作成された「アフリカ」文書では、「成長の促進」は、「平和と安定」

「良い統治・反応のよい統治の促進」「人々への投資」に続く第

4

番目の項目であり、「成長 の促進」の内容として記述されているのは民間投資、貿易、インフラストラクチュアの改 善が中心である。「成長の促進」の項で、農業はごく短く言及されているにすぎず、しかも 農業の持続性だけが述べられ、生産性向上という文言はない(外務省2005)。

サブサハラ・アフリカで農業生産性の向上に焦点が当てられているのは、農業生産性の 上昇がサブサハラ・アフリカの経済成長の前提として欠かせないという認識が深まったた めである。たとえば、2007年に発表された世界銀行のWorld Development Report 2008では、

1982

年版以来

26

年ぶりに農業をテーマに取り上げ、経済発展における農業の役割を強調し ている。農業の役割については、緑の革命がようやくアジア諸国に波及した26年前よりも、

緑の革命を経て経済的繁栄に至った現在のほうが確実に分析できる。大塚・櫻井(2007)は、

アジア諸国の長期にわたる農家家計レベルのデータを用いた分析により、緑の革命の経験 をつぶさに分析した。その結果、農業生産性の上昇により増加した農家所得が子弟の教育

(4)

に投資され、教育水準の上がった子どもたちが非農業部門に職を得ることにより貧困が解 消されていったことを明らかにした。このような歴史的事実は、サブサハラ・アフリカで 持続的、長期的な経済成長を実現するためには、まず農業生産性の向上、すなわち緑の革 命を達成する必要があることを強く示唆するものである。

ところで、サブサハラ・アフリカの近年の経済成長は、国際的な資源価格の高騰の恩恵を 受けたものである。しかし、資源価格の高騰は食料価格にまで及び、コメや小麦などの主食 を輸入に依存するサブサハラ・アフリカ諸国が打撃を受けている。こうした事態に対して、

北海道洞爺湖サミットの文書では「世界的な食料価格の急激な高騰がアフリカの進歩や

MDGs

の達成、そして、食料安全保障を脅かしていることについて、深く憂慮する。……食 料安全保障に取り組むため、短期、中期、長期にわたる幅広い措置をとる必要性を認識す る。この関連で、食料増産と農業生産性向上のため、G8は農業分野への支援を増大する」

と宣言している(外務省2008)。

現在のサブサハラ・アフリカで起きている経済成長が資源輸出に依存するものであると すると、「オランダ病」が懸念される。つまり、資源輸出による国際収支の黒字増大が実質 為替レートの切り上げをもたらし、資源以外の貿易財(農産物、工業製品など)の国際競争 力が低下し、貿易財部門の縮小を招く可能性である。実際、銅価格の高騰により輸出額が 拡大しているザンビアでは、輸出向け換金作物である綿花の生産が落ち込むという影響が

出ている(櫻井 2008)。1970年代の石油危機の際に産油国は石油収入の増大を享受し、その

結果、多くの国が「オランダ病」を経験した。その典型が、ナイジェリアである。ナイジ ェリアは石油収入を放漫な財政支出により浪費し、石油ブームの後には「オランダ病」に より疲弊した農村が残された。一方、インドネシアは石油収入を灌漑投資や化学肥料への 補助金にあて、緑の革命を推進した結果、石油ブームの後も経済成長を続けることができ たのである(速水 2000)。この教訓からも、資源輸出により始まったサブサハラ・アフリカ の経済成長を持続させるためには、農業部門への投資が必要であると言える。

3 サブサハラ・アフリカの食料供給

多くのサブサハラ・アフリカ諸国が独立を果たした

1960

年代から現在までの食料(穀物)

供給の推移をまとめたのが第2表である。表からは人口はおよそ

3

倍強に増えたことがわか るが、1960年から

2006

年の46年間でみると1.9億人から7.5億人までほぼ

4

倍になっている。

第 2 表 サブサハラ・アフリカの食料(穀物)供給の状況(1961―2005年)

人口(100万人) 219.6 288.6 387.0 564.2 697.5

1人当たり穀物収穫面積(ha) 0.224 0.173 0.142 0.125 0.109

穀物生産量(100万t) 38.7 47.5 59.0 74.0 87.3 穀物単収(kg/ha) 788 960 1072 1055 1142

1人当たり穀物生産(kg) 176 165 152 132 125

1961―70 1971―80 1981―90 1991―2000 2001―05

(注) *穀物にはコメ、メイズ、小麦のほか、ミレットやソルガム、その他雑穀の類を含む。

(出所) FAOSTATデータより筆者が集計。

(5)

同期間の人口増加は、インドが

2.6倍、中国が 2.0

倍であるから、サブサハラ・アフリカの人 口増加率の高さは顕著である。人口急増期には子供の比率が高くなるであろうから、人口1 人当たりの収穫面積や穀物生産が減少しても必ずしも食料不足を意味するわけではないが、

第2表が示すように過去45年間で

1人当たりの収穫面積は半減し、1

人当たりの穀物生産は3 割減少した。過去45年間で穀物の単位面積当たりの収量も増えたが、1人当たりの収穫面積 の減少を補うことはできなかった。第2表から以下の点を指摘できる。

1) 人口密度

人口増加率には及ばないものの耕作面積もほぼ倍増しており、人口希薄だったサブサハ ラ・アフリカは、少なくとも過去において耕地拡大の余地があった。アジアと大きく異な る点である。最近の推定人口と国土面積から人口密度を求めると、サブサハラ・アフリカ

全体で

1平方キロメートル当たり 34

人程度なのに対して、インドは

10倍の 340

人、中国も4

倍以上の140人である。インドと中国の人口密度は

1960

年の時点でもそれぞれ約140人、約

70人であり、現在のサブサハラ・アフリカの人口密度を大きく上回っていた。緑の革命が

始まった1960年ころのアジアは、すでに人口が稠密であり、耕地を拡大することは容易で はなかった。それに対して、サブサハラ・アフリカには最近まで豊富な未利用地があり、

耕地拡大による生産量増大が簡単だったのである。アジアのような集約的な農業生産技術 があまり普及していないのは無理からぬことであった。ただし、サブサハラ・アフリカの 人口密度は国ごとに大きく異なる。島嶼国を除くと、人口密度の最も高いのは内陸の小国 であるルワンダとブルンジで、1平方キロメートル当たりそれぞれ

350

人、280人である。続 くのはサブサハラ・アフリカで最大の人口規模をもつナイジェリアで、同150人である。一 方、人口密度の最も低いのは国土の大半を砂漠が占める国々で、ナミビア(2.4人)、モーリ タニア(2.9人)、ボツワナ(3.2人)の順になっている。

(2) 食料輸入

1

人当たりの穀物生産の減少には、食料輸入と根菜類消費の増大で対処してきた。FAO-

STATのデータを使ってサブサハラ・アフリカ域外からの 1

人当たり純輸入量を計算すると、

コメ(籾米換算)が

1961― 70年の4.9

キログラムから

2001― 05年には 55.0キログラムに、小

麦が同じく4.0キログラムから

48.9

キログラムに、それぞれ激増している。一方、メイズは、

1961― 70

年には

8.4

キログラムの純輸出を記録したが、1990年代に純輸入に転じ、2001―

05年には 5.4

キログラムの純輸入となっている。輸入量の増加は、コメや小麦と比べればず

っと小幅である。コメと小麦の1人当たりの輸入量を加えるならば、第

2表に示された 1人

当たりの穀物生産量の減少を補って余りある食料供給量となる。これは、コメや小麦の輸 入拡大がサブサハラ・アフリカ域内の穀物生産の不足を埋め合わせるためではなく、都市 住民の需要を満たす必要性に基づいていることを意味する。都市では、調理に手間のかか る伝統的な雑穀類よりも、簡便なコメや小麦が好まれるからである。経済成長が続き都市 化がさらに進展すれば、コメや小麦、さらにはメイズの輸入も増え続けるであろう。こう した食料輸入自体が悪いわけではない。しかし、上で述べたように、農業生産性を高めな ければ、サブサハラ・アフリカの経済成長と貧困削減は困難である。
(6)

3) 根菜類

一方、根菜類(ヤム、キャッサバなど)は、サブサハラ・アフリカの重要な主食の一つで あるが、第

2表の食料

(穀物)のなかには含まれていない。FAOSTATにデータのない南部ア フリカ地域を除いて第

2

表と同様にヤムとキャッサバの

1

人当たりの生産量を求めると、

1961― 70年に 232

キログラム、2001―

05年にも 232

キログラムである。この間、1人当たり の栽培面積は

3

分の2になったが、単収が1.5倍になっており、1人当たりの生産量がほぼ一 定に保たれたことがわかる。根菜類は穀物生産の減少を補ってきたと言えるだろう。しか も、現在ではキャッサバは都市向けの加工食品の原料としても重要度が高まっている。実 際、西アフリカのナイジェリアとガーナでは、都市向けの換金作物としてキャッサバ生産 が増大している(Nweke 2005)。

4 サブサハラ・アフリカの食用換金作物

以上より、サブサハラ・アフリカの農業開発戦略においては、都市部で需要の伸びてい る食用換金作物、具体的には、コメや小麦、メイズ、キャッサバの生産拡大が重要である ことは明らかであろう。しかし、第3表にまとめたように、サブサハラ・アフリカにおける これらの作物の位置づけは異なっている。

小麦は、最大の生産国の南アフリカ共和国と、わずかの差で2番目にくるエチオピアの生 産量は、それぞれサブサハラ・アフリカ全体の小麦生産量のおよそ

41%

である。しかも、

生産量第5位のザンビアまでで全体の

94.4%

を占めており、小麦生産国は局在している。サ ブサハラ・アフリカの大半の国にとっては、小麦はもっぱら輸入する食品なのである。こ れは熱帯地域での栽培に適していないという小麦の特性に原因する。また、Rosegrant, et al.

(2001)は、構造調整以前のサブサハラ・アフリカ諸国では為替レートが過大に設定されて いたため、国際市場から安価で小麦を調達し都市の住民向けに供給するという政策が採用 され、国内生産が拡大しなかったと指摘している。同じくサブサハラ・アフリカ域外から 大量に輸入しているコメについては、生産量も多く、生産国も小麦ほど偏在してはいない。

それでも、第3表に示すように、上位の

2

ヵ国(ナイジェリアとマダガスカル)で総生産量の ほぼ半分である。両国を含む上位

11

ヵ国でサブサハラ・アフリカのコメ生産量のおよそ

第 3 表 サブサハラ・アフリカの食用換金作物の生産国分布(2001―06年)

年間生産量(100万トン) 4.90 12.87 39.26 650.3 生産量第1位国(シェア %) 南アフリカ共和国 ナイジェリア 南アフリカ共和国 ナイジェリア

(41.4%) (26.2%) (23.7%) (35.2%)

生産量第2位国(シェア %) エチオピア マダガスカル ナイジェリア コンゴ民主共和国

(40.5%) (23.8%) (14.1%) (13.9%)

生産量第5位までの累積シェア(%) 94.4 71.9 60.8 70.8

シェア90%までに含まれる国の数 3 11 15 10

小麦 コメ メイズ キャッサバ

(出所) FAOSTATデータより著者が集計。

(7)

90%

に達する(3)。これらの国では、コメを主食とする民族がいてコメ生産の歴史は長いが、

都市の成長に伴い、国内生産と輸入の両方が増加してきた。逆に言うと、都市における需 要の高まりに対して、国内供給が応じきれなかったわけである。

コメや小麦と比べて、メイズはサブサハラ・アフリカ域外からの輸入量が非常に少なく、

キャッサバはほとんど輸入されていない。その意味で、両者は国のレベルでは自給の傾向 の強い作物である。しかし、主食として農家が自家消費するだけでなく、他の農家や都市 住民が食用に購入するため、国内では重要な換金作物でもある。上で指摘したように、キ ャッサバは加工食品原料としての需要も増えている。メイズ、キャッサバともにサブサハ ラ・アフリカの広汎な地域で生産されているが、キャッサバのほうが特定の国に集中して おり、コメとほぼ同程度の集中度である(第3表参照)。他方、メイズは、生産量がコメの

3

倍にのぼるだけでなく、コメよりも生産国が分散している。ほとんどの国が生産していて、

生産量に対して貿易量がわずかであるという点で、サブサハラ・アフリカのメイズの位置 づけはアジアのコメに類似していると考えられる。

これら四つの食用換金作物を比較すると、国際穀物価格が高騰している現時点でサブサ ハラ・アフリカの食料安全保障を改善するためには、生産量・輸入量ともに多いコメの生 産量を増やすことがまず必要であると結論できよう。

5 サブサハラ・アフリカの農業生産性

前節までの議論を受けコメに焦点を当てることにする。拡大するコメの需要に対して、

サブサハラ・アフリカ域内からの供給が十分に増えず、アジア諸国や米国から大量のコメ が輸入されているのは、サブサハラ・アフリカのコメの生産性が低いことに原因がある。

もちろん、生産から販売に至るすべての段階の効率が問題であるが、ここでは土地生産性 について考察しよう。

第1図は、アジア(東南アジアと南アジア)とサブサハラ・アフリカのコメの単位面積当た りの収穫量の変化を示している。1960年代には両者の差はごくわずかであったが、1970年 前後から両者の乖離が始まり、アジアでは2006年に至るまで単収は伸び続け平均で

1ヘクタ

ール当たり

3500キログラムを超えるまでになった。一方、サブサハラ・アフリカの単収の

伸びは非常にゆっくりとしており、2006年の段階でアジアのほぼ半分、1ヘクタール当たり

1750

キログラム程度でしかない。アジアにおける

1970

年からの急激で持続的な単収の上昇 こそが緑の革命と呼ばれるものである。それに対して、サブサハラ・アフリカではいまだ 緑の革命に匹敵するような単収の上昇はみられない。アジアに比べて土地に余裕のあった サブサハラ・アフリカでは、集約化により土地生産性を上げるよりも、栽培面積の拡大に より生産量を拡大してきたのである。

しかし、第

1図に示したのはあくまで平均値であり、これをもってサブサハラ・アフリカ

ではまったく集約化が起こっていないと断ずるのは早計であろう。2001年から

06

年の6年 間の国ごとの平均単収の分布を示すと第2図のようになり、37ヵ国の単収の単純平均は

1ヘ

クタール当たりほぼ2000キログラムである。栽培面積について最大のシェアを占めるナイ
(8)

ジェリアの単収が1400キログラムにとどまっていることが、第

1図に示されている単収の伸

び悩みの原因である。単収が

3000キログラムを上回る国は六つあり、高い順にモーリタニ

ア、ルワンダ、ケニア、スワジランド、ニジェール、ブルンジと並ぶ。ルワンダとブルン ジは、すでに紹介したように島嶼国を除くと人口密度の

1

位と2位の国である。他の

4

ヵ国 のうち、ニジェールとモーリタニアは国土の大半が砂漠で、人口密度は

10

人以下であり、

残るスワジランドとケニアの人口密度は65人程度で、サブサハラ・アフリカの平均の

34人

よりは高い。これら四つの国の共通点は何かというと、稲作がもっぱら灌漑のある条件で 行なわれていることである(4)。以上のことは、サブサハラ・アフリカにおいても、アジア並 みに人口密度が高いか、アジア並みに灌漑水田が発達していれば、緑の革命を経験したア

4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0

1961 65 69 73 77 81 85 89 93 97 2001 05(年)

第 1 図 コメ単収の推移

 各国のコメ栽培面積で重み付けした平均単収(籾米)である。アジアに含まれるのは、東 南アジアのすべての国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャ ンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、東ティモール、ベトナム)および南アジアのす べての国(アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、インド、イラン、モルジブ、ネパ ール、パキスタン、スリランカ)である。

(注)

 FAOSTATデータより筆者が作成。

(出所)

サブサハラ・アフリカ

アジア

(t/ha)

18 16 14 12 10 8 6 4 2

0 0―1000 1000―2000 2000―3000 3000―4000 4000―5000 単収(kg/ha)

第 2 図 サブサハラ・アフリカのコメ単収分布

 FAOSTATデータより筆者が作成。

(出所)

(9)

ジアに匹敵する単収が実現可能であることを意味している。

サブサハラ・アフリカ全体の稲作面積のうち、灌漑が備わっているのはおよそ20%にす ぎず、アジアと比べると灌漑普及率がかなり低い(Balasubramanian, et al. 2007)。価格の安いコ メが輸入できる状況では、灌漑水田の拡大のために積極的な投資が行なわれてこなかった のである。しかし、最近の価格高騰は、灌漑への投資が行なわれる機運をもたらしており、

サブサハラ・アフリカの灌漑率は改善されていく可能性がある。

しかし、そのような大規模な灌漑水田の整備をしなくても、輸入米に対して価格競争力 のある都市近郊では、農民が自発的に畦を構築したり、用水路や排水路を掘削したりして、

水管理を行なってきた。櫻井(2005)によれば、コートジボワールの内陸にある同国第二の 都市ブアケ市内の低湿地田では、調査した稲作農民のほぼ全員が畦を構築しており、その3 分の2は用水路も利用していた。用水路のある条件で改良品種を栽培する農家の単収はヘク タール当たり

3600キログラムにのぼる。しかし、都市から離れるほど畦や用水路の採用率

は減少し、たとえ改良品種が栽培されていても単収はブアケ市内に及ばない。また、畦や 用水路の有無だけでなく、栽培技術の向上も改良品種の単収を高めるためには必要である。

アフリカ稲センター(WARDA)がブアケ市近郊で実施した農民参加型技術普及実験では、

畦や用水路を用いても単収の低かった農民(2000キログラム程度)が、栽培技術の改善によ り単収を2倍にしたと報告されている(Defoer 2003)。

このように、灌漑が整備されていない低湿地田であっても、畦や用水路を構築し、さら に栽培技術を改善すれば、灌漑水田に匹敵する単収をあげることが可能である。にもかか わらず単収の上昇がサブサハラ・アフリカの広範囲に及んでいない原因として、次の2点が 指摘できる。第一に、インフラストラクチュアが未整備のため、都市から少し離れただけ で輸送費用のために価格競争力が失われてしまう。第二に、技術普及制度が不十分のため 適切な栽培技術が採用されていない。

まとめ

サブサハラ・アフリカの栄養不良人口の比率は、食料価格高騰により

30%

を超えたと推 定され、食料安全保障を改善することが急務である。栄養不良の原因は貧困にあることか ら、農業開発は食料供給を増やすと同時に所得向上が実現するような食用換金作物に焦点 を当て、その生産性の向上を目的とする必要があるだろう。サブサハラ・アフリカでは、

小麦、コメ、メイズ、キャッサバが主要な食用換金作物であるが、そのなかでも都市化の 進展とともに需要が拡大し輸入への依存が増えているコメが重要である。現時点でサブサ ハラ・アフリカ全体のコメの単収は、緑の革命を経験したアジアの半分程度でしかない。

しかし、灌漑が整備された国ではアジアに匹敵する単収を実現していることから、灌漑の 普及がサブサハラ・アフリカのコメの生産性増大に欠かせないことがわかる。しかも、大 規模な灌漑でなくても、畦や用水路を利用するだけでも単収は十分に向上する。つまり、

緑の革命を実現する技術はすでにサブサハラ・アフリカに存在するのである。しかし、イ ンフラストラクチュアの未整備のため輸送費用がかさむことや栽培技術の普及・指導制度

(10)

が機能していないのことなどが原因で、単収の増大が広い範囲にまで及んでいない。

こうした問題は、安価な食料を輸入できる状態が長く続き、農業分野への投資を怠って きたために引き起こされたと言えるだろう。最近の食料価格の高騰を契機に国際社会はサ ブサハラ・アフリカの農業開発に関心を寄せている。サブサハラ・アフリカの食糧問題の 解決、ひいては持続的な経済成長の実現は、この機運をサブサハラ・アフリカ諸国が活か せるかどうかにかかっている。

1) 報道されただけでも、以下のような例がある。2008年2月:ブルキナファソ(IRIN 2008a)、2008 2月:カメルーン(IRIN 2008b)、2008年3月:コートジボワール(IRIN 2008c)、2008年3月と4 月:セネガル(IRIN 2008d; 2008e)。なお、これらの暴動は、必ずしも食料価格の高騰だけが原因 ではなく、燃料価格の高騰や当該国の政治体制そのものに対しても抗議している場合が多い。西 アフリカに集中しているのは、都市住民のなかに価格の高騰が著しいコメを主食とする者の割合 が高いためである。

2 FAOSTATは、FAOがオンラインで提供する統計データである。本稿で特に断りのない場合は、

FAOSTATより入手したデータを用いている。http://faostat.fao.org/default.aspxからアクセスできる。

3) 上位11ヵ国は、上から順番に、ナイジェリア、マダガスカル、ギニア、マリ、タンザニア、コ

ートジボワール、シエラレオネ、コンゴ民主共和国、ガーナ、セネガル、モザンビークである。

4 Balasubramanian, et al(2007)によると、モーリタニア、スワジランド、ケニアの稲作の灌漑率は

100%である。ニジェールでは全稲作面積の80%で灌漑稲作が行なわれており、残りの20%はニジ

ェール川などの河川の氾濫原を利用した稲作である。

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さくらい・たけし 和光大学教授 [email protected]

参照

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