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がんのシアリダーゼ異常 - J-Stage

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【解説】

がんのシアリダーゼ異常

宮城妙子

シアリダーゼは糖タンパク質や糖脂質糖鎖から酸性糖である シ ア ル 酸 残 基 を 遊 離 す るExo-型糖 分 解 酵 素 で,糖 鎖 分 子 の コンホメーションや認識機構などを変化させ,多くの細胞機 能にかかわっている.哺乳動物細胞には,遺伝子構造,細胞 内局在や酵素学的性状が相違する4種が存在するが,これら はがん化で互いに異なった挙動を取り,発現異常を示すこと がわかってきた.本稿では,シアリダーゼ異常によってもた ら さ れ る が ん の 糖 鎖 シ ア ル 酸 制 御 の 破 綻 と そ の 意 義 に つ い て,筆者らの研究成果を中心に,この変化ががんの発がん過 程や進展にいかに深くかかわっているかを紹介したい.

がんとシアル酸

糖鎖は核酸,タンパク質に次ぐ第3の鎖として,その 情報のもつ重要性が高まっている.糖鎖は,DNAの直 接的な支配下にある第1・2の鎖とは異なり,糖転移酵 素や糖分解酵素の触媒作用によって形成され,それゆえ に,糖鎖が付くタンパク質や脂質分子の多様性や迅速な 応答性を生み出している.最近の糖鎖研究の進歩によっ て,糖鎖が分子や細胞間の認識や品質管理などを介し

て,細胞機能を決定的に調節している証拠が蓄積してき ている.酸性糖であるシアル酸はこのタンパク質や脂質 糖鎖の非還元末端に局在し,生体内では,それ自身が遊 離の形で存在することはほとんどなく,この形で血液や 外分泌液中に,また細胞表層に多く見いだされる.シア ル酸は炭素原子9個を含むアミノ糖であるノイラミン酸 のアシル誘導体の総称であり,生物界に広く分布する.

-アセチル (Neu5Ac),  -グリコリル (Neu5Gc),  -アセ チル-9- -アセチル(または  -メチル)体が自然界で最 も多く見られ,ヒトにはふつう  -アセチルノイラミン 酸の形で存在する.近年では,5位のアミノアシル基が 水酸基で置換されたデアミノシアル酸 (Kdn) をもシア ル酸に含めている.シアル酸は細胞分化,増殖,がん化 などに際して構造や量において変化し,ウィルスや細菌 による感染においては,その病原性にかかわってい る(1〜3)

細胞ががん化すると,この糖鎖に異常が起こる.細胞 表層の糖タンパク質や糖脂質の糖鎖が変化し,そのうち でもシアル酸量の異常は浸潤や転移などのがんの悪性形 質と密接に関連があると従来から指摘されてきた.しか し,どのような機構でシアル酸量異常をもたらすのか,

Aberrant Expression of Sialidase in Cancer Taeko MIYAGI, 東北薬科大学分子生体膜研究所

(2)

その異常がどのような意味をもつのかなど,いまだはっ きりしない点も多い.シアリダーゼががんの転移や浸潤 ともかかわっているらしいことは1960年代から推察さ れていた.それは細菌由来のシアリダーゼでがん細胞を 処理すると,その浸潤能などを含む悪性形質が変化する 現象が見られていたからである.その後,必ずしも表層 シアル酸量とがんの浸潤や転移能が相関するとは限らな い例も見いだされた.引き続いて,木幡らのグループ(4) 

やカナダのDennisら(5) の研究によって,がん細胞の糖 タンパク質には  -結合型(Asn-型)糖鎖の側鎖分岐が 増加すること,これはしばしば,ポリラクトサミン糖鎖 の増加によること,そして,その糖鎖非還元末端にはシ アル酸が付加していることがこの背景となっていること が 明 ら か と な っ た(図

1

事 実,が ん 遺 伝 子rasを NIH3T3マウス繊維芽細胞に導入すると,浸潤能の獲得 とともに,細胞表層の -結合型糖鎖のポリラクトサミ ン構造をもつ側鎖分岐が増加し,ここにシアル酸の付加 が悪性形質の発現維持に必要であることがわかった(6). また,ムチンタイプ  -型糖鎖もがん関連糖鎖として見 いだされた(7).シアリル-Tn (sTn),  シアリル-ルイス 

(sLe ), シアリル-ルイス (sLe ) 抗原の出現である (図1). これらの蓄積はがん細胞の浸潤・転移能や接着能を変化 させるが,その働きはシアル酸を除くと消失する.最 近,高宮らは,sTnは肺がん,大腸がん,胃がん,乳が んなどに多く検出され,シグレック-15と相互作用し,

TGF-

β

 の分泌を促進することを報告し,また,sLe  は 大腸がん,胃がん,乳がんなどに,sLe  は肺がん,大

腸がんでがんマーカーとして利用され,これらの発現は がんの進行や転移に伴って高く,予後が悪いとされてい る.sLe  やsLe  は接着分子E-セレクチンのリガンドと して,血管内皮細胞と相互作用し,がん細胞の転移や播 種を促進すると言われている.

一方,糖脂質糖鎖にもがん化による変化が認められ る.とくに箱守ら(8, 9) によって,シアル酸をもつ糖脂質 であるガングリオシドのうち,より短い糖鎖のものが増 加し,比較的長い糖鎖のガングリオシドが減少するとい う糖鎖不全現象と,それに伴う前駆体糖脂質の蓄積があ り,加えて,正常対照細胞には見られない新しい糖脂質 の出現が見られることが提唱された(図1C).がんで蓄 積 す る 糖 脂 質 と し て は,た と え ば,globotriaosylce- ramide (Gb3Cer) や糖鎖の短いガングリオシド GM3,  GM2, GD3, GD2 などが腫瘍関連抗原として同定されて いる.前者はバーキットリンパ腫に大量認められ,

CD77と命名されたが,がん細胞の分化やアポトーシス を起こすことが知られており,後者はメラノーマ,神経 芽細胞腫,グリオーマに多く発現し,がん細胞の接着や 浸潤を亢進している.

さらに,正常では認められないシアル酸のタイプが検 出されるという.ヒトのシアル酸は専らNeu5Acである が,がん細胞ではNeu5GcやKdnが認められることが神 奈木らや北島らによってそれぞれ報告された.このよう なシアル酸の出現は,がん細胞に有利な低酸素状態おい て,シアル酸トランスポーターであるシアリンや

合成系が誘導され,外界からの食物や細胞培養液

図1シアル酸をもつがん関連糖鎖 抗原 A とがん細胞に増加する糖 タンパク質  -型多分枝糖鎖 B お よび糖脂質のがん性変化 C

(膵がんなどの消化器がん)

(肺がん,膵がん,大腸がんなど)

(卵巣がん,腎がん,大腸がんなど)

(3)

に含まれるこれらのシアル酸が取り込まれるためと言わ れている.実際に,藪,宮本ら(10) によって,ヒト前立 腺がん組織において,Kdnを含む糖鎖の蓄積が観察さ れた.ヒトでは食肉由来のNeu5Gcに対する抗体が検出 され,慢性炎症やがんの病態にかかわっているという.

さらに,糖鎖結合シアル酸量を制御する酵素研究が進 み,動的な観点からの観察も加えられるようになった.

主な調節酵素は糖鎖にシアル酸を付加するシアリルトラ ンスフェラーゼであり,シアル酸の除去にあずかるシア リダーゼである.がんにおけるシアル酸の異常は,単に 細胞表層膜のシアル酸量が増加することとは必ずしも相 関しないが,シアル酸がその糖鎖分子の機能変化をもた らすことで,がんの病態と密接していることが見いださ れてきている.次項では,シアリダーゼに焦点を絞り,

シアリダーゼの生理機能とその異常による機能の破綻に ついて概説したい.

シアリダーゼの性状と機能

シアリダーゼは哺乳動物から微生物まで,自然界に広 く分布する.微生物由来のシアリダーゼは病原体による 感染などにかかわっていることが知られており,たとえ ば,現在,インフルエンザの治療や予防に使用されてい るタミフルやリレンザはインフルエンザウィルスのシア リダーゼの阻害剤である.しかし,哺乳動物と微生物の シアリダーゼは構造や性質がかなり異なっている.糖鎖 結合シアル酸がシアリダーゼによって脱離されると,糖 鎖分子の異化分解が促進されるだけでなく,コンホメー ションやレセプターによる認識機構,細胞接着や免疫機 構などが大きく影響を受ける.とくに重要であるのは,

分子や細胞の機能部位を認識,あるいは隠蔽すること で,糖鎖分子の生理機能を制御している点である.しか し最近まで,生体内でシアル酸がどのように脱離され,

その結果どのような細胞変化がもたらされるのかについ てはほとんどわかっていなかった.動物シアリダーゼ研 究の進展によって,細胞内シアリダーゼがリソソームで の糖鎖の異化分解を担っているのみではなく,糖鎖分子 の機能を変化させ,細胞増殖・分化,シグナル伝達など の細胞現象に大きな影響を与えていることがわかってき た(11)

動物細胞には,これまで4種 (NEU1‒NEU4) のシア リダーゼが同定され,性状解析されている.これらは染 色体部位が異なるだけでなく,主な細胞内局在や基質特 異性を含めた酵素学的な性質にも明らかな差異が認めら れる.生理機能についてもそれぞれのシアリダーゼが性

状に応じて,特徴的な役割を果たしているようである が,がん化によっても異なった挙動をとることが見いだ されてきた(12).筆者らは,哺乳動物では最初の例で あったラットの シアリダーゼ遺伝子を単離し,こ れまで知られていた微生物酵素と一次構造を比較する と,有意の相同性はないが,微生物のシアリダーゼ間に 見いだされていたいくつかの共通配列がこの動物由来酵 素にも存在することが明らかになった.Asp-box (Ser- X-Asp-X-Gly-X-Thr-Trp) 配列やN末端に近い部位の 

(Phe)-Arg-Ile-Pro配 列 と2つ のAsp-box間 に 位 置 す る 

(Val)-Gly-X-Gly配列が見いだされた.その後,主に形 質膜にあって,細胞の増殖や分化で重要な役割を果たし ている   遺伝子の単離,同定に成功し,性状解析 を行った.このうち,3種については細胞内では主に,

それぞれリソソーム,細胞質,形質膜に局在しており,

4番目のシアリダーゼNEU4についてはリソソーム,あ るいは2種のアイソフォームがミトコンドリアおよび小 胞体にあると報告されている.しかしながら,最近,こ れらの細胞内局在は種々の細胞条件で変化することも知 られており,Neu1はT細胞の活性化によって酵素の細 胞内局在がリソソームから細胞表層へと移動することが 見いだされ,また,ヒト単球がマクロファージに分化す る過程においてもこの発現が著明に上昇し,MHCクラ スIIコンパートメントから形質膜に移行するという報告 がなされた.ヒト酵素NEU3については血清やEGFな どの増殖因子の添加によって,Leading edgeに移動し,

Rac-1と局在をともにし,細胞の運動能を上昇すること がA431細胞で見いだされている.NEU1については保 護タンパク質や 

β

-ガラクトシダーゼと複合体を形成し ており,その解離はシアリダーゼの失活をもたらす.

NEU1は糖ペプチドやオリゴ糖のシアル酸をよく分解す るが,NEU3はガングリオシドからほとんど特異的にシ アル酸を遊離する.一方,NEU2やNEU4は糖ペプチ ド,オリゴ糖,糖タンパク質およびガングリオシドに働 く広い基質特異性を有するが,NEU4はほかの3種には 認 め ら れ な い ム チ ン 水 解 活 性 を 示 す.4種 の う ち,

NEU2のみがヒト酵素のX線結晶解析によって三次構造 が明らかにされている(13).中性pH付近で最大活性を示 すNEU2以外は至適pHが酸性であるが,ヒトNEU3酵 素活性は酸性と中性の二相性を示す.ヒト酵素につい て,一次構造を比較すると,NEU1はほかのシアリダー ゼに対して,19 〜 24%と相同性が低く,NEU2, NEU3,  NEU4  間では34 〜40%と比較的相同性が高い.ヒト組 織における発現レベルを各々の標準cDNAを用いた定 量的RT-PCR法によって比較すると,NEU1は最も発現

(4)

が高く,NEU3やNEU4の発現は,その10 〜 20分の1 の発現量を示し,NEU2はNEU1の約1万分の1と極端 に低い.しかし,ラット,マウスではNEU2の発現は低 くはない.各々のシアリダーゼの詳細については他書を 参照されたい(11, 12)

がんとシアリダーゼNEU1

NEU1活性が転移能と逆相関する証拠が得られてい る.転移能の異なる3種の細胞系,すなわち,悪性転換 ラット3Y1繊維芽細胞系,マウスB16メラノーマ細胞系 およびマウス結腸がんcolon26細胞を用いて,各種シア リダーゼ活性やmRNAレベルを比較したところ,三者 に共通に認められた変化は,高転移性細胞株が低転移性 細胞に比べ,NEU1活性が低いという結果であった.こ の実験系においては,各種シアリルトランスフェラーゼ の活性には,細胞株に共通な変化は見られず,シアリ ダーゼ活性変化が自然転移能や浸潤能に密接にかかわっ ている可能性が高い.ラット3Y1繊維芽細胞にラウス 肉腫ウィルスを感染させ,造腫瘍性を獲得させたSR- 3Y1を受容細胞として,v-fosがん遺伝子を導入すると,

このfos-SR-3Y1細胞では肺への自然転移能が上昇し,

浸潤能も増強する.総シアル酸量や表層シアル酸量とも に,転移能に依存した相違は見られず,ほかのリソゾー ム酵素活性にはこのような変化は認められないので,こ の現象はNEU1活性に主に依存しているものと考えられ た.そこで,高転移細胞において低発現を示す   遺 伝子をB16メラノーマBL6細胞に導入したところ,予想 どおり,肺転移抑制が認められた.細胞の増殖速度や腫

瘍の増大速度が低下し,特に悪性度の指標の一つである 足場非依存性増殖 (anchorage independent growth) が 低下した.マウスcolon26細胞系においてはNL17が最 も 転 移 能 が 高 い が,転 移 能 が 低 いNL4と 比 べ て,

 のmRNAおよび活性レベルが著しく低下してい た.さらに,この現象はヒトNEU1においても確認され ている.  遺伝子を保護タンパク質とともに高転 移性ヒト大腸がんHT29細胞に導入したところ,NEU1 過剰発現によって運動・浸潤能が低下した.さらに,こ のNEU1過剰発現細胞を経脾的に移植すると,肝への転 移能が著しく抑制された.この現象を導く分子変化の一 つとして,  での基質特異性に基づいて,ガング リオシドにはっきりした変化は認められなかったが,図

2

に示すように,接着分子であるインテグリン 

β

4の糖鎖 シアル酸減少がこのシグナル経路の活性化を阻害し,運 動・浸潤能を変化させていることが明らかとなった(14)

がんとシアリダーゼNEU2

NEU2はマウス由来の細胞では神経や筋細胞の分化に 深くかかわっていることが知られているが,ヒトでは極 端に発現が低く,その機能ははっきりしない.  遺 伝子を高浸潤・転移能のマウスメラノーマB16‒BL6細 胞に導入し,このシアリダーゼが糖タンパク質と糖脂質 の両方に働く広い基質特異性をもつことを利用して,悪 性形質変化に伴う糖鎖分子の変化を網羅的に観察した.

この安定発現株を同種マウスの尾静脈から注入すると,

著しく肺転移が抑制された.浸潤能や運動能は低下した が,細胞の増殖速度やフィブロネクチンやコラーゲン

図2NEU1による大腸がん細胞の 肝転移抑制とその推定される分子機 構(13)

がんで低下しているNEU1発現を遺 伝子導入によって上昇させると,肝 への転移が抑制され,インテグリ ン β4のリン酸化と下流のシグナルが 低下した.

(5)

IVあるいはラミニンへの接着に変化は見られなかった.

また,細胞表層や細胞内の糖タンパク質糖鎖への影響は 検出できず,ガングリオシドGM3の減少やラクトシル セラミドの上昇が認められた.同じ遺伝子をマウス結腸 がんcolon26細胞の高転移性細胞NL17細胞に導入した 場合にも,同様なガングリオシド変化と転移抑制が認め られ,そのほかに,sLe  レベルが変化していた.高転 移性のNL17およびNL22細胞では,低転移性のNL4お よびNL44細胞に比較し,sLe  およびGM3レベルがは るかに高く,  導入後のNL17細胞では,肺転移能,

浸潤・細胞運動能の低下とsLe  およびGM3レベルが低 下していた.低転移能を示す細胞と同じ方向へ変化した ことを示し,細胞をsLe  やGM3に対する抗体で処理す ると,細胞接着や運動性が影響を受けたので,これらの 分子の脱シアリル化が転移抑制にかかわっていることが 検証された.また,CHO細胞由来の   遺伝子の A431細胞への導入はGM3の低下を招き,EGFレセプ ターのリン酸化や細胞増殖が阻害され,さらに,ヒ ト   遺伝子を白血病細胞K562に導入すると,糖タ ンパク質糖鎖の脱シアリル化を介して,Srcキナーゼシ グナルの低下によるアポトーシスが誘導されたという報 告もある.しかし,ヒトNEU2酵素についてはほとんど 組織においても発現が検出できないほど低く,しかもが ん細胞においてもさらに低下傾向を示す.ただ,前立腺 がんPC-3細胞では例外的にやや高い発現が検出され,

この細胞の骨転移能にNEU2が関与している可能性が推 察された(15)

がんとシアリダーゼNEU3

NEU3はガングリオシドを水解することによって,が んの悪性度に深くかかわっている.NEU3が主に局在す る細胞表層の形質膜には,ほとんどほかの糖分解酵素が 検出できず,NEU3の良い基質であるガングリオシドが 豊富に存在する.ガングリオシドは細胞のシグナリング を制御する分子でもあり,NEU3が単なる糖分解酵素で はなく,シグナリングに深くかかわっている可能性が推 察されていたが,事実,NEU3がシグナル伝達分子の一 つとして働いている種々の証拠が挙がってきた(16). NEU3分子は情報伝達分子が集合しているカベオラと呼 ばれる膜ミクロドメインに局在し,その主要タンパク質 であるカベオリンと会合していること,上皮成長因子受 容体EGFRやその関連アダプタータンパク質Grb-2,  細 胞運動にかかわるRac-1とも相互作用し,シグナルの制 御にあずかっていることがわかってきた.

大腸がん患者手術摘出標本において,がん部と非がん 粘膜部のmRNAレベルをRT-PCRで比較すると,がん 部においてはほとんど例外なく,3 〜100倍に上昇して いた(17).  hybridization によってこの発現上昇は がん細胞に起こっていることが確認された.NEU3異常 発現が細胞に与えている影響を解析するため,Ecdy- son‒誘導系を用いて大腸がん細胞でNEU3活性を高発現 させると,対照細胞に比べて,ブチル酸で誘導されるア ポトーシスが著明に抑制され,この細胞ではBcl-2など のタンパク質発現上昇があり,Caspase-3活性は低下し ていた.複数の手術摘出標本で,また,NEU3高発現大 腸がん細胞において,反応産物ラクトシルセラミド 

(Lac-cer) の蓄積があり,これが細胞のアポトーシス抑 制にかかわっているようであった.NEU3発現の異常亢 進は大腸がんだけでなく,腎細胞がん(18),卵巣がん,

前立腺がん(19) などにも認められ,それぞれのがん細胞 で,亢進したNEU3がアポトーシス抑制をもたらし,ま た,がん細胞の運動性や浸潤性を亢進させていることも わかってきた.大腸がん細胞では,アポトーシスの抑制 のほかに,細胞外マトリックスとの接着についてもがん 細胞に都合良い環境に導く.すなわち,ラミニン-5への 接着時にはインテグリン 

β

4のリン酸化を亢進させ,

FAKやERKなどを活性化し,Grb-2やShcがリクルー トされるが,ラミニン-1のみを含むEHS-ラミニンや フィブロネクチンへの接着時には,逆にこのシグナル経 路が低下する.この現象には,NEU3の良い基質である GM3レベルの低下がかかわっているようであった(20). 前述のように,図らずも細胞内でインテグリン 

β

4が NEU1によって自身の糖鎖の脱シアリル化の結果として リン酸化の抑制を受け,NEU3によってはガングリオシ ド基質の修飾により,活性化を受けることが明らかと なった.このことは,2つのシアリダーゼがそれぞれの 基質特異性に従い,同一細胞内で,同一分子の機能を異 なった方向に制御していることを示し,シアリダーゼ分 子の多様性の意義の一つが検証された.また,腎がん細 胞ACHNでは,NEU3がSTAT3の活性化よりは,主に PI3K/Akt経路を活性化し,転移能などの悪性度を促す IL-6シグナリングを活性化させていること,PI3K/Rho 活性化を介して運動・浸潤能の亢進をもたらすこともわ かった(18).さらに,前立腺がんではNEU3亢進が悪性 度を示すグリソンスコアとほぼ相関し,がん細胞のホル モン不応性出現に影響しているようであった.ホルモン 不応性になると,アンドロゲンレセプターの変異や発現 亢進が起こるが,NEU3はこのレセプターの発現を増強 させ,前立腺特異抗原 (PSA) やがんの進展にかかわる

(6)

転写因子EGR-1の発現を誘導し,不応性出現を促進し ていた(19).これらの結果は,NEU3亢進ががんの進展 に深くかかわることを示している.ここでもLac-cerの 蓄積があり,これが一因となっていることが推察され た.結局,大腸がん,腎がん,前立腺がんなど多くのが んで異常にNEU3発現が亢進し,このNEU3異常ががん 細胞のアポトーシスの抑制,運動・浸潤性,ホルモン不 応性などの悪性形質を増強していると考えられる.一 方,NEU3をsiRNAでノックダウンすると,運動・浸 潤能の低下が起こるだけでなく,増殖因子レセプターな どのチロシンリン酸化を低下させ,がん細胞のアポトー シスが誘導された(21).興味深いことに,正常細胞では ノックダウンによってアポトーシスは誘導されなかっ た.また,これらの現象の標的分子を検索すると,

NEU3ががん細胞のRas活性を上昇させ,ERK1/2など の活性化を介してがん細胞をアポトーシス抑制に導き,

siRNAを導入すると,Rasの活性化を阻害し,がん細胞 が特別の刺激もなく自ら細胞死に陥ることを見いだし た.標的分子の一つとして,EGFRのリン酸化がNEU3 によって制御されていることが検証された.この結果は NEU3ががん細胞の生死を制御する重要な分子であるこ とを示している.

  においては,NEU3が大腸がんの進展だけで なく,発がん過程に関与している可能性が出てきた.

 トランスジェニックマウスに発がん剤アゾキシ メタンを投与し,大腸粘膜に形成される前がん病変 ab- errant crypt foci (ACF) 数を対照マウスと比較したと ころ,その発生率が有意に高いことがわかった.そこで はアポトーシス抑制が起こっており,EGFRシグナリン グの亢進も認められた(22).さらに,  ノックアウト マウスにおいては,デキストラン硫酸によって大腸炎を

誘導させると,アゾキシメタンによる腫瘍形成が抑制さ れた(23).これらの結果はNEU3ががんの進展のみでは なく,発がん過程にも大いに影響していることを示して いる.そこで,NEU3ががん化能にかかっている可能性 について,テトラサイクリン誘導系の大腸がんNEU3 ノックダウン細胞を用いて調べると,軟寒天培地上での コロニー形成能やヌードマウスにおける   腫瘍形 成能が有意に低下した.NEU3がWntの共レセプター であるLRP6のリン酸化を上昇して,Wnt/

β

カテニンシ グナルを活性化させ,そのノックダウンがWnt関連遺 伝子の発現低下を招いていることが推察された(高橋 ら,投稿中).これは,NEU3ががんの進展のみではな く,がん化能をも制御していることを推察させる(図

3

がんとシアリダーゼNEU4

NEU4は,がんにおいては浸潤・転移性に関与するよ うである.ヒト大腸がん組織でmRNAレベルを調べる と,NEU3の場合とは逆に,非がん粘膜部と比べて有意 に低下していた.組織の分化の程度や病理のステージと の関連性に有意差はないが,がん部の非がん部に対する NEU4発現の割合(T/NT比)が静脈侵襲 (venous in- vasion) の度合いと統計的に有意であり,NEU4の大腸 がんにおける低下が血行性転移の進展と関連することが 予想された.大腸がん細胞でNEU4を高発現すると,浸 潤・転移能は抑制され,ノックダウンすると逆に促進が 見られた(24).これらの分子機構を明らかにする目的で,

NEU4の内因性基質を詳細に調査すると,NEU4は広い 基質特異性を有し,興味深いことに,内因性の基質分子 として,ほかのシアリダーゼにはほとんど抵抗性であっ たムチン型sLe  やsLe  糖鎖抗原を効率良く水解するこ とがわかった.一方,正常大腸粘膜に発現するジシアリ ルLe  やシアリル6-スルホLe  などの糖鎖には働かず,

が ん 部 で 見 ら れ るsLe  やsLe  の 蓄 積 の 一 因 と し て NEU4の低下が大きく影響することが示唆された.ガン グリオシドには顕著な変化は認められていない.E-セレ クチンへの接着がp38/Hsp27/actin経路の活性化を起こ し,NEU4はこのシグナルを抑制して,がん細胞の運動 能を低下させるようである(25).さらに,がん細胞は低 酸素誘導因子 (HIF) を高発現し,低酸素抵抗性を獲得 するが,この状態で,sLe  やsLe  の合成にかかわる糖 転移酵素の転写が誘導される一方,逆にNEU4の発現は 低下し,これらの糖鎖抗原が蓄積する方向に進む可能性 が考えられた.シアリダーゼNEU1とともに,大腸がん ではNEU4の発現が低下し,この変化ががん転移能と密

(22)

(23)

図3推定されるNEU3のがんにおける役割

がんの進展のみではなく,発症過程にも関与している証拠が挙 がってきた.

(7)

接に関連することがわかってきた.しかし,NEU2の導 入時に見られる血行性転移をもたらすようなGM3の低 下は検出できず,この場合はムチン型糖鎖の脱シアリル 化に依存しているようである(25)

おわりに

動物シアリダーゼの研究の進歩によって,シアリダー ゼの機能やがんにおける変異の意義の解析が可能とな り,生体内における生理的・病理的シアル酸変化の実体 が次第に明らかになりつつある.予想を超えて,シアリ ダーゼは各種がんで異常を示し,その結果,増殖や細胞 死,あるいは接着や運動のシグナリングを破綻させ,が んの進展を規定する重要な因子となっていることがわ かってきた.たとえば,従来から,がんのシアル酸異常 が招いていると指摘されていた浸潤・転移能について は,細胞表層シアル酸量がこれらのがんの形質と必ずし も相関せず,シアリダーゼNEU1やNEU4の活性や発現 レベルが大きく影響していることが明らかとなった.ま た,NEU3については,がんの発症や進展を規定する分 子であることが検証されてきている.今後の主な課題と して,第一に,これらのシアリダーゼの内因性基質や発 現制御機構のさらなる解析が進められる必要がある.第 二に,図

4

に示すように,各種がんで発現亢進する NEU3の新規標的分子としての診断や治療への応用であ る.特に,その特異的阻害剤やsiRNA,特異抗体の使 用によって,各分野の研究者との共同研究を進めること により,新規がん治療薬の開発へとつなげることが筆者 らの責務であると考えている.

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  16)  T. Miyagi, T. Wada, K. Yamaguchi, K. Hata & K. Shio- zaki : , 144, 279 (2008).

  17)  Y.  Kakugawa  : , 99

10718 (2002).

  18)  S. Ueno  : , 281, 7756 (2006).

  19)  S. Kawamura  : , 19, 170 (2012).

  20)  K. Kato  : , 394, 647 (2006).

  21)  T. Wada  : , 26, 2483 (2008).

  22)  K. Shiozaki, K. Yamaguchi, I. Sato & T. Miyagi : , 100, 588 (2009).

  23)  K. Yamaguchi  : , 7, e41132 (2012).

  24)  T. Yamanami  : , 98, 299 (2006).

  25)  K. Shiozaki, K. Yamaguchi, K. Takahashi, S. Moriya & T. 

Miyagi : , 286, 21052 (2011).

プロフィル

宮城 妙子(Taeko MIYAGI)    

<略歴>東北大学医学部医学科卒業後,同 大学医学系大学院博士課程修了/同大学抗 酸菌病研究所(現,加齢研)助手,助教授 を経て,1993年,宮城県立がんセンター 研 究 所 部 長,2004年 か ら 所 長 を 兼 務/

2010年から東北薬科大学に移動し,現在 に至る<研究テーマと抱負>東北大学当時 は主にシアリルトランスフェラーゼのがん 性変化の研究を行い,その後,がん克服を めざしてシアリダーゼ研究を続けている.

がんの患者さんのために少しでも役に立つ 研究になることを願っている<趣味>声楽 鑑賞

図4シアリダーゼNEU3を標的としたがんの診断・治療法開 発

がんで一般に発現低下を示すNEU1やNEU4を活性化させ,また,

多くのがんで高発現するNEU3を抑制すると,がん形質の抑制が 見られる.NEU3はがん診断・治療の新規標的分子として期待さ れる.

参照

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研究の波及効果 急速な高齢化に伴い、AD を含む認知症患者が急増しています。しかし、AD に対する 根本的治療法は確立されていません。発症まで数十年を要するため、長期投与が望 まれます。本研究成果は安価で安全な予防法の一助となるとともに、他の食品由来成 分の予防効果も示されていることから、予防法を組み合わせることによって、より効果