第三章 実験結果及び考察
3.3 異なるアニール雰囲気で処理した SnO X 薄膜と窒素ドーピングの変化
3.3.2 XPS
3.3.2.1 N1s
本実験では,XPS 測定を用いてN2 PDA 処理膜での還元反応を調査するためにXPS 測定を 行った.N1s XPSスペクトラムでは3.2.2項で述べたas-depo.膜とN2 PDA処理膜に加えてAr/H2
PDA及びO2 PDA処理膜の評価を行った.測定の結果,Ar/H2 PDA及びO2 PDA処理膜でのN2
に由来するピークは現れなかった.スパッタリング成膜及びアニール処理中における窒素の混入 がないため妥当な結果である.
3.3.2.2 O1s
Fig.3-12(a)に 600℃,30 分間のN2 PDA及びO2 PDA処理後のSnOX薄膜中のO 1sのXPS スペクトルを示す.O2 PDA処理膜のピークトップは530.1eVに現れ,N2 PDA処理膜と比較したと
きに 0.3eV ほど高エネルギー側にアップシフトしていた.これは,電荷移動によるシフトではなくケ
ミカルシフトによるものと予想している.O2 PDA 処理膜では欠陥密度の比較的低い堅牢な SnO2
薄膜の製作が期待されるためN2 PDA処理膜で確認されたSnO成分の割合の低い試料となって いると予想される.また,N2 PDA処理膜のO1sスペクトラムのデコンボリューション解析結果であ る SnO2成分のピークトップと近い値が得られていることからもそれが期待できる.O2 PDA 処理 膜の O1s スペクトラムに対しデコンボリューション解析を行った結果,仮説の通りにO1s スペクト ラムを SnO2成分が支配する結果となった.また,酸素空孔を示すピークのピーク面積比は 9.8% とN2 PDA処理膜に比べ増加していた.
一方で,Fig.3-12(b)に 600℃,30 分間のN2 PDA及びAr/H2 PDA処理後のSnOX薄膜中のO 1sのXPSスペクトルを示す.また,Table.3-3にO1sから見積もった酸素空孔ピークのピーク面積 比を示す.Ar/H2 PDA処理膜のピークトップは530.1eVとO2 PDA処理膜と一致する結果となっ た.この結果から,Ar/H2 PDA処理膜においてもSnO2成分のほうが支配的であることが予測され る.また,Ar/H2 PDA処理膜ではN2 PDA処理膜と比較して531.0eVより高エネルギー側でのブ ロードなピークの重なりが確認される.これは,酸素空孔や化学吸着成分に由来するピーク強度 が増加している可能性を示唆する.このピークに対してデコンボリューション解析を行った結果,
SnO に由来するピークはほとんど現れることなく SnO2成分が支配的な結果が得られた.また,酸 素空孔を示すピークの面積比が 27.7%と N2 PDA 処理膜に比べ大幅に増加した.これは,Ar/H2
PDA処理膜による還元反応によりホスト格子中の酸素を還元していることが示唆され,SnOへの 還元反応は確認されなかったことを意味している.直接的な根拠はないが,我々の仮説としては 600℃におけるAr/H2 PDAの強力な還元反応によりSnOの生成は困難であると考察する.また,
酸素空孔に由来するピークの大幅な面積比の増加から自由電子のキャリア濃度も大幅に増加し たn型挙動の薄膜であることが予想される.対照的に,N2 PDA処理のO1sスペクトラムの低エネ ルギー側へのダウンシフトやピーク分離の結果からもN2 PDA処理によるSnOの生成は行われて いることは明らかである.これの現象は 600℃で解離した窒素原子による還元反応でないと説明 できない.この現象についてはさらなる調査が求められる.
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また,一方で 531.16eV に位置する酸素空孔由来のピークが大幅に増加したことは,単に酸素 空孔の増加ではないことが文献に示されている.Wangらの報告[3.29]によると,およそ531.1eVに 位置するピークはいくつかのピークの重なりが示唆されている.このピークは,酸素空孔,ヒドロキ
シル基(-OH),O1-などに由来するピークが今までに報告されている.今回の場合では,H2を使用し
ていることからSnO2内に意図しないH混入や表面でのOH基の形成が行われた可能性が検討 される.さらに,期待したようなSnO成分の生成が確認されなかったことから,Ar/H2アニーリング での還元は充分に行われず,弱結合酸素の還元に伴う酸素空孔の生成およびヒドロキシル基と して形成した意図しない不純物混入の両者が検討していく必要がある.
Table.3-3 O1sから見積もった酸素空孔ピークのピーク面積比
Fig.3-12 (a) N2 PDA及びO2 PDA処理後のSnOX薄膜中のO 1sのXPSスペクトル及び(b) N2
PDA及びAr/H2 PDA処理後のSnOX薄膜中のO 1sのXPSスペクトル
74 3.3.2.3 Sn3d5/2
Fig.3-13に600℃,30 分間のN2 PDA及び(a)O2 PDA,(b)Ar/H2 PDA処理後のSnOX薄膜中の O 1sのXPSスペクトルを示す.O1sスペクトルの結果と同様にO2 PDAとAr/H2 PDA処理膜の両
者ともにN2 PDA処理膜のピークトップに比べて高エネルギー側にアップシフトしていた.また,N2
PDA 処理膜に対し行ったデコンボリューション解析の結果と照らし合わせると,SnO2成分に由来 するピークのピークトップ位置とほとんど一致しておりこの評価からもO2 PDAとAr/H2 PDA処理 膜の両者ともにSnO2成分が支配的であることが分かった.また,Ar/H2 PDA処理膜でのSnO生 成が確認されなかったことからAr/H2アニーリングでの還元反応に関する議論が行えない結果も O1sスペクトルの結果と整合性を示した.
Fig.3-13 (a) N2 PDA及びO2 PDA処理後のSnOX薄膜中のSn3d5/2のXPSスペクトル及び(b)
N2 PDA及びAr/H2 PDA処理後のSnOX薄膜中のSn3d5/2のXPSスペクトル
75 3.3.2.4 N2p
Fig.3-14にas-depo.膜,N2 PDA,O2 PDA,Ar/H2 PDAにおけるSnOX薄膜の価電子帯スペクト ルを示す.Fig.3-14 では,C1s を用いてピーク強度をそれぞれ規格化したもので統一している.こ の図から,各アニール処理を施した試料におけるそれぞれのバンド端がほとんど一致しており明 確な差は現れなかった.これは,雰囲気毎の影響の違いではなく600℃30分でのアニール処理の 影響として共通していることが分かる.更に,Fig.3-7で,N2 PDA処理膜においてNO準位に由来 するブロードなピークが1.5eVに示唆された.この領域に着目するとO2 PDA,Ar/H2 PDAの両者 においてピークが現れておらずこの領域での欠陥準位等の深い準位は確認されなかった.従って,
窒素ドープに由来するピークであることが明らかとなり,このブロードなピークがNOレベルである 可能性が強まった.後述するホール効果想定の結果からも p 型伝導が得られたアニール処理は
N2 PDA 処理のみであることからこの準位が外乱等のエネルギーを受けることによってホール伝
導に寄与していると期待する.しかし,通常 deep acceptor がホール伝導に寄与するには膨大なエ ネルギーを必要とするためこの準位がホール伝導に寄与するとは考えにくい.そのため,ホール生 成の起源及びホール伝導パスについて更なる調査が必要である.
Fig.3-14 as-depo.膜,N2 PDA,O2 PDA,Ar/H2 PDA における SnOX薄膜の価電子帯スペクトル
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