• 検索結果がありません。

酸素空孔低減に向けた更なるアプローチ

ドキュメント内 修士学位論文 (ページ 93-96)

第三章 実験結果及び考察

3.4 酸素空孔低減に向けた更なるアプローチ

3.4.1 N ドープ SnOX薄膜のサブギャップ欠陥の低減と課題

3.2.2.1項に示した式(3-3)では,3つの酸素空孔に対して2つの窒素が酸素サイトに置換される

ため,電荷補償効果を考慮すると 1 つの酸素空孔が残存することが明らかである.そのため,サ ブギャップを考慮し我々は更なる酸素空孔低減に向けたアプローチを行う必要がある.

3.4.2 硫黄ドーピング

我々は更なる酸素空孔低減に向けたアプローチとして硫黄ドーピングに着目した.硫黄は,酸 素と同様に周期表において第16族に属する元素であるカルコゲン材料に区別される.更に,酸素 のイオン半径が1.328Åに対して硫黄のイオン半径は1.772Åと酸素サイトに置換可能な材料であ る.また,O2p 軌道に比べ S3p 軌道は浅いため,SnO2 にドープした際に酸素サイトを埋めつつ VBM をさらに増加させることが可能であると期待される.実際,Walsh らの報告[3.31-32]では,

Sn5sとカルコゲン材料の有するアニオンp軌道のエネルギーは OからTeに向かって漸増する.

Sn(5s)とアニオンp状態の分離が大きくなり,それによって相互作用が減少し,結合の組み合わせ

ではアニオン p の性質が小さくなり,反結合の組み合わせでは Sn(5s)の性質が小さくなっている こと示されていた.さらに,Choらの研究[3.33]では,RFマグネトロンスパッタリングにより成膜した ZnO1-xSx 薄膜の硫黄濃度変化によるバンドギャップの変化について調査していた.調査の結果,

硫黄をドープしていないときの ZnO のバンドギャップが3.27eV であったのに対して,硫黄をドー プしたとき2.86eVまでバンドギャップが縮小した.このように,我々の製作したNドープ SnOX薄 膜においても同様な結果が得られることが期待される.

本項では,N,SコドープSnOXを製作しp型伝導が得られるかどうかを実証したので報告する.

3.4.3 S,N コドープ SnOX 薄膜の製作

手順は,2.2項までに紹介したNドープSnOX薄膜の製作手順の後,高機能デバイス研究室で 自作した管状炉(Fig.3-19)を用いて硫黄のドープを試みた.実験条件や実験方法は下記にまとめ る.まず初めに,成膜した基板をアルミナボートへ置き,硫黄粉末も同様に別途のアルミナボート へ入れた.その後,管状炉の中へ基板を搬送し,硫黄粉末はラバーヒーター上に設置した.ラバー ヒーターの温度は,200℃で固定した.硫化処理を施す前に,管状炉内の真空引きを行った.真空 引きを終えた後,Ar/H2の流量を 9sccm に固定しながらフローし,硫化処理を施した.硫化アニー ル温度は550℃,硫化時間は20分でそれぞれ固定して行った.また,本実験ではAr/H2を用いて 実験を行った理由として,Ahnらの報告[3.34]にH2ガスとS2ガスの反応によりSnO2からSnSが 形成されやすくなることが熱力学計算から示されていたためAr/H2ガスのフローを採用した.

85 3.4.4 S,N コドープ SnOX 薄膜の評価

本項では,製作した S,N:SnOX薄膜について XPS 測定による元素濃度比及びホール効果測 定による電気特性の調査を行った.Table.3-5に硫化処理前後におけるXPS測定から算出した各 ピークのピーク強度比を示す.この表からわかるように,今回製作した膜では硫化処理による窒 素の脱着は起こらず,S2p3/2のピークが確認されたことからSnOX薄膜への窒素及び硫黄のコドー プは行われたことが分かった.更に,一つのスズ原子に対するアニオン原子の比率 r を式(3-4)か ら見積もった.

r =𝐼𝑂1𝑠+𝐼𝐼𝑁1𝑠+𝐼𝑆2𝑝3/2

𝑆𝑛5/2

・ ・ ・ (3-4)

式(3-4)から見積もった比率rの値は1.81となった.この値から,今回形成されたSnO2由来の

成分が支配的であることが分かった.

Fig.3-19 本研究で使用した管状炉

Table.3-5 硫化処理前後におけるXPS測定から算出した各ピークのピーク強度比

86

Table.3-6 に硫化処理前後における SnOX薄膜の電気特性(キャリア密度,キャリア移動度,シ

ート抵抗値)を示す.硫化後の試料においても p 型伝導が確認された.また,正孔キャリア密度が 増加したことから膜内に残存する内在ドナー欠陥準位が減少したと考えられる.しかし,キャリア 移動度が減少し,シート抵抗値が増加していることから正孔伝導パスの形成が行われていないこ とが分かる.

3.4.5 まとめ

本項では,更なる酸素空孔低減に向けたアプローチとして硫黄ドーピングに着目し,高機能デ バイス研究室で自作した管状炉を用いて N ドープ SnOX薄膜に硫化処理を施した.XPS 測定か ら,今回製作した膜では硫化処理による窒素の脱着は起こらず,S2p3/2のピークが確認されたこと から SnOX薄膜への窒素及び硫黄のコドープは行われたことが分かった.更に,元素濃度比から 硫化処理後の薄膜もSnO2成分が支配的な膜であることが分かった.ホール効果測定による電気 特性の評価から,硫化後の試料においても p 型伝導が確認された.また,正孔キャリア密度が増 加したことから膜内に残存する内在ドナー欠陥準位が減少した.このことから,硫黄ドーピングは 酸素空孔の低減の手法として期待できる.しかし,キャリア移動度が減少したことから,正孔伝導 パスの形成に課題が残る.将来展望として,p型NドープSnOX薄膜の特性向上が求められる.

Table.3-6 硫化処理前後における SnOX薄膜の電気特性(キャリア密度,キャリア移動度,シート

抵抗値)

87

ドキュメント内 修士学位論文 (ページ 93-96)