第 2 章 日本における都市間競争の議論と都市の創造性指標
4. 都道府県の創造産業の推計
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前節で都市の創造産業を評価する指標について検討を行った。本節では,その検討を踏 まえ,日本の地域データで入手可能なものから都市の創造性指標を推計する。
現時点で,日本の都市・地域の創造産業を都道府県,都市レベルで測定した研究は,第 3 節で見た北海道未来総合研究所(2007)と吉本(2009)によるものしかない。本節では これらの成果を参考に,それぞれの定義による都道府県別・大都市別の創造産業就業者数 を計算する。統計データは,平成18年事業所・企業統計調査と平成24年経済センサスか ら抽出し,2006年と2012年の2時点の変化を見る。なお,北海道未来総合研究所(2007)
は創造産業に含める産業分類が多いので2,この章では広義の創造産業と呼び,吉本(2009)
の定義に従った数値は狭義の創造産業と呼ぶことにする。
まず,北海道未来総合研究所(2007)では,HC指標の構成要素の1つとしてクリエイテ ィブ産業就業者数が用いられている。そこで,この分析で創造産業として分類されている 産業について,都道府県と16大都市の就業者数を計算した(詳細は付表1,全国集計は表 4)。計算結果によると,2006 年の国内の創造産業就業者は 1202 万人,2012 年には 1118 万人を記録した。これは,3.1で見たアメリカの創造産業就業者が全産業の23.55%を占め るという説明に近いものとなっている。
表4 創造産業就業者数(2006年,2012年)(単位:万人)
広義の創造産業 狭義の創造産業
全産業就業者 創造産業就業者 創造産業比率 加重変動係数 創造産業就業者 創造産業比率 加重変動係数
2012年
全国 5,584 1,118 20.0% 0.219 288 5.2% 0.620
16大都市 1,889 483 25.6% - 171 9.1% -
2006年
全国 5,863 1,202 20.5% 0.185 287 4.9% 0.654
16大都市 1,889 473 25.0% - - - -
(出所)総務省「平成18年事業所・企業統計調査」「平成24年経済センサス」より作成
2006年から2012年にかけて全産業の就業者数は 280万人減少しているため,創造産業
就業者数も84万人の減少を見せている。創造産業就業者数が全産業に占める割合(創造産 業就業者比率)は,20.5%から20.0%へとわずかに減少した。また,創造産業就業者につい て16大都市が全国に占める割合は,2006年の39.4%から2012年の43.2%へと増加を見せ ている。さらに,16大都市だけで見ると,創造産業就業者数は96000人の増加となる。
また,創造産業就業者の地域分布の偏りを見るため,加重変動係数を求めたところ,2006 年の0.185から2012年の0.219へと増加している。このことから,広義の創造産業就業者 は都市圏での比重が大きくなり,地域的な分布の格差が生じつつあることをうかがわせる。
2 産業分類は表3による
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ただし,この分類における構成要素について産業分類ごとに見ると,増加したのは医療 業の341万人,学校教育の79万人となっている。16大都市で見ても医療業は99万人(全
体の28.9%),学校教育は27万人(34.5%)増加している。さらに,情報通信業は全体では
20万人の増加に対し,16大都市では57万人の増加となっている。すなわち,情報通信業 は地方圏で大きく減少しているのに対し,大都市は地方圏の減少を補う以上の増加を見せ ているのである。
次いで,吉本(2009)の定義に従って3,創造産業就業者数を計算した(詳細は付表 1,
全国集計は表4)。先述の通り,吉本(2009)は創造産業を芸術,デザイン,広告,コンピ ューター文化に関連した産業ととらえており,狭義の創造産業ということが言える。2006 年の創造産業就業者数は287万人(全就業者数の4.9%)で,2012年には288万人(5.2%)
となり,実数はほぼ変わらなかった。
2006年の16大都市のデータは得られなかったので,時系列変化は見ることができない
が,2012年で16大都市の創造産業就業者は全国の59.5%になっている。地域的な偏りを示 す加重変動係数は,全国について2006年の0.654から2012年の0.620へと減少した。産 業小分類ごとに見て成長が著しいのは,高等教育機関の 10.8 万人増,ソフトウェア業の 8.5 万人増となっている。狭義の創造産業では,ソフトウェア業,高等教育機関の比重が 大きくなるため,都市部への集中度がより際だったものとなると言える。
このように,創造産業の就業者数について広義の分類と狭義の分類で計測を試みたが,
広義では全産業の20.0%,狭義では5.2%と大きな差を見せた。両者の最大の違いは,ボリ ュームの大きな医療業,金融業・保険業,学校教育を加えるかどうかである。3 章で見た
ように,Florida(2002)は,創造的な仕事かどうかを分ける基準として職場の計画に従う
だけではない自立性・柔軟性の高さをあげているが,その点で医療業,金融業・保険業,
学校教育の全てを含めるのは適当ではないと思われる。この点は産業分類ベースのデータ では把握できない部分で,職業分類を含めた検討が必要になるだろう。
5. おわりに
本章の検討で明らかとなった都市間競争の議論での論点,創造産業を評価する指標の問 題点,創造産業の地域分布の現況は以下の通りである。
3 データの出所である「平成18年事業所・企業統計調査」「平成24年経済センサス」では,
産業小分類に分類の変更があったため,吉本(2009)の定義そのままを用いることができ なかった。そこで,吉本(2009)を参考に,若干の変更を加えた。本稿での狭義の創造産 業とした産業小分類は以下の通りである。公共放送業,民間放送業,有線放送業,ソフト ウェア業,情報処理・提供サービス業,インターネット附随サービス業,映像情報制作・
配給業,音声情報制作業,新聞業,出版業,広告制作業,映像・音声・文字情報制作に附 帯するサービス業,自然科学研究所,人文・社会科学研究所,デザイン業,著述・芸術家 業,広告業,機械設計業,写真業,高等教育機関,専修学校,各種学校,教養・技能教授 業
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(1) Florida(2005)で提示された,クリエイティブ・クラスは職場によって住む場所(都 市)を選ぶのではなく,3つのTが豊かな地域に住みたがるという仮説は日本でも反響を 呼んだ。しかし,この説に対して日本の都市データを用いての検証はまだ進んでいない。
(2) 日本での都市間競争の研究は,地域のシンクタンクや経済団体が実施するものが多く,
理論研究,実証研究の蓄積は未だ不十分である。
(3) 同じ「創造産業」といっても,創造産業にどの産業分類を加えるかはそれぞれの分析 によって異なる。分類の仕方によって,創造産業就業者数の全就業者数に占める割合は,
5%から20%までの開きが生じている。
(4) 日本の創造産業就業者数は,広義の分類では2006年から2012年にかけてわずかに減
少したが,狭義の分類では横ばいであった。創造産業就業者数は大都市の比重が高く,そ の割合は増加傾向にある。
本章は,人材獲得という面から都市間競争の議論を整理し,それに大きな影響を与えて いるフロリダのクリエイティブ・クラス理論を中心として既往研究のサーベイと創造産業 就業者数の測定を行った。これらの作業を通じて浮かび上がったのは,創造産業の定義に ばらつきが大きすぎるため,正確な比較が行えないということである。創造産業の議論に はいくつかの系譜があり,どの説を採用するかによって,就業者の属する産業分類に大き な違いが存在する。特に大きな違いは就業者数のボリュームが大きな金融業,医療,教育 を含めるかどうかである。
日本と欧米で労働者の移動状況や住居地の選択にはさまざまな相違はあり,特にフロリ ダ説で最も反響を呼んだ3つのTを日本にそのまま当てはめるのは無理だろう。しかし,
比較可能なデータで国際比較を行った Florida(2005)の実証分析は貴重で,それを参考 に日本のデータを用いて分析を行うことはさまざまな成果を期待させる。日本は人口や就 業者に関する詳細なデータが蓄積されており,クリエイティブ・クラス理論を検討するに は好条件だと言える。今後,詳細な就業者データを用いて,創造的人材の地域分布を明ら かにしていきたいと考える。
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参考文献
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田坂敏雄(2005)「東アジアの都市間競争と産業集積」『季刊経済研究』(大阪市立大学)
Vol.27 No.4,pp.1-28
中村弘志(2010)「創造都市の実現に向けた指標のあり方とその開発方法」法政大学政策科 学研究所
西部忠(2013)「地域創造性開発指標の概要と展望」『地域経済経営ネットワーク研究セン ター年報』(北海道大学)第2号,pp.55-59
廣瀬茂夫(2013)「都市間競争の実相」『JRIレビュー』Vol.5,No.6,pp.101-120 細川昌彦(2008)『メガ・リージョンの攻防』東洋経済新報社
北海道未来総合研究所(2007)『地域の「創造力」向上を目指した再生のあり方』(NIRA助 成研究報告書0751)
宮町良広(2008)「「グローカル化」時代におけるグローバル都市のネットワーク」『経済地 理学年報』第54巻第4号,pp.269-284
安田聡子(2013)「イノベーションと高度人材のグローバル移動 人材戦略のための概念フ レームワーク」『商学論究』(関西学院大学)第61巻第1号,pp.21-51
吉本光弘(2003)「創造的産業群の潮流」『ニッセイ基礎研REPORT』2003年11月号 吉本光弘(2009)「創造産業の潮流(2)」『ニッセイ基礎研REPORT』2009年8月号
Florida,Richard(2002), The Rise of the Creative Class : And How It's Transforming Work, Leisure, Community, and Everyday Life, Basic Books.(井口典夫訳(2008)『ク リエイティブ資本論』ダイヤモンド社)
Florida,Richard(2005), The Flight of the Creative Class: The New Global Competition for Talent, HarperBusiness.(井口典夫訳(2007)『クリエイティブ・クラスの世紀』
ダイヤモンド社)