• 検索結果がありません。

逆関数定理とその証明

ドキュメント内 数学解析 - 明治大学 (ページ 75-80)

3.3 “ 多項式関数 ” 、有理関数の連続性

10.4 逆関数定理とその証明

定理 10.4 (逆関数定理, the inverse function theorem) Ω は Rn の開集合、f: Ω RnC1 級、a Ω, detf(a) ̸= 0 ならば、(∃U: a を含む開集合) (∃V: b = f(a) を含 む開集合) fe= f|U: U Vfe(x) = f(x) (x U) で定めると feは全単射で、逆関数 fe1: V →UC1 級である。

証明には色々な方法があり、解析学の常套手段である「逐次近似法」を使う証明は非常に魅 力的だが、準備に手間がかかるので、ここでは Weierstrassの最大値定理に持ち込む方法を採 用する。

おおまかな方針の説明: xa に十分近いとき(δ を小さな正数として ∥x−a∥ < δ で考 えて)、f(x) ≒ f(a)(x−a) +f(a) であるから、f は1次関数で十分良く近似される。特に

f(a) = I の場合を証明すれば良いことが分かるので、f(x)≒x+c となっている。与えられ

y に対して y =f(x)を満たす x を求めるため、x7→ ∥y−f(x)2 の最小値を考える。

証明

1 A := f(a), g(y) := A1y, ˜f :=g ◦f とおくと、

(f˜ )

(a) = g(f(a))f(a) = A1A = I (I は単位行列)となる。f˜について定理を証明すれば、f =g1◦f˜について示せたことにな る。そこで以下 f(a) = I と仮定として証明すれば十分である。

2 (∃δ >0)K :=B(a;δ)とおくとき、K Ωかつ (a) (∀x∈K) ∥f(x)−f(a)∥< 1

2. (b) (∀x∈K) detf(x)̸= 0.

(c) (∀x∈K\ {a}) f(x)̸=f(a).

主張 (a), (b), (c) の証明 f の連続性により、x7→ ∥f(x)−f(a) は連続で、x=a の とき0 であるから、

(∃δ1 >0)(∀x∈B(a;δ1))∥f(x)−f(a)∥< 1 2. 同様に x7→detf(x) は連続で、detf(a) = 1̸= 0 であるから、

(∃δ2 >0)(∀x∈B(a;δ2)) detf(x)̸= 0.

(c) については、まず fa で微分可能であることから

xlima

∥f(x)−f(a)−f(a)(x−a)

∥x−a∥ = 0.

ゆえに (∃δ3 >0)

() (∀x: 0<∥x−a∥< δ3) ∥f(x)−f(a)−f(a)(x−a)

∥x−a∥ < 1 2.

これから0<∥x−a∥< δ3 ならばf(x)̸=f(a) が成り立つ。実際、もしもf(x) =f(a)と すると ∥f(x)−f(a)−f(a)(x−a)

∥x−a∥ = 0−I(x−a)

∥x−a∥ = ∥x−a∥

∥x−a∥ = 1

となり () に矛盾する。δ := min1, δ2, δ3} とおけば δ >0で、(a), (b), (c) が成り立つ。

3 (d) (∀x1 ∈K) (∀x2 ∈K) ∥x1 −x2∥ ≤2∥f(x1)−f(x2).

これから fK に制限したものが単射であることはすぐ分かるし(x1, x2 K, f(x1) = f(x2) ならば x1 =x2 が成り立つ)、後述の逆写像が連続であることの証明の鍵となる。

主張 (d) の証明 g(x) :=f(x)−x (x∈K) とおくと

g(x) = f(x)−I =f(x)−f(a) であるから、(a) を用いて

maxxK ∥g(x)∥ ≤ 1 2. g の変化を g を用いて評価する。

g(x1)−g(x2) = [g(x2+t(x1−x2))]t=1t=0 =

1 0

d

dtg(x2 +t(x1−x2))dt

=

1

0

g(x2+t(x1−x2))(x1−x2)dt であるから

∥g(x1)−g(x2)∥ ≤

1 0

∥g(x2+t(x1−x2))∥ ∥x1 −x2∥dt

max

xK ∥g(x)∥ ∥x1−x2

1

2∥x1−x2∥. すなわち

(f(x1)−f(x2))(x1−x2)∥ ≤ 1

2∥x1−x2∥. ゆえに (不等式 ∥a∥ − ∥b∥ ≤ ∥a−b∥ を用いて)

∥x1−x2∥ − ∥f(x1)−f(x2)∥ ≤ 1

2∥x1−x2∥. 移項して両辺を 2倍すれば、(d) を得る。

4 S :=閉球 K の境界={x∈Rn| ∥x−a∥=δ}はRnの有界閉集合であり、x7→ ∥f(x)−f(a) は連続であるから、d:= min

yS ∥f(y)−f(a)が存在する。(c)より∥f(x)−f(a)∥>0 (x∈S) であるから、d >0. V :=B(f(a);d/2)とおくと、

(e) y∈V ∧x∈S ⇒ ∥y−f(a)∥<∥y−f(x).

(図を描くとほぼ明らかである。Vf(a) を中心とする半径 d/2 の開球である。f(x) は

f(S) 上にあるが、それは f(a)を中心とする半径 d の開球の補集合に含まれる。) 主張 (e) の証明 実際、まず V の定義から

∥y−f(a)∥< d 2. 一方x∈S であることと、d の定義から

∥f(x)−f(a)∥ ≥min

yS ∥f(y)−f(a)=d

であるから

∥y−f(x)=∥y−f(a) +f(a)−f(x)∥ ≥ ∥f(x)−f(a)∥ − ∥y−f(a)

> d−d 2 = d

2 >∥y−f(a)∥. 5 (f) (∀y∈V) (!x∈K \S=B(a;δ)) f(x) = y.

主張 (f ) の証明 任意の y∈V を固定して、関数 h: K Rを h(x) := ∥y−f(x)2 (y−f(x), y−f(x))

で定義する。(これが 0になる点の存在を示すわけだが、それは最小値を与える点であるこ とに注目しよう。) このh は Rn の有界閉集合K 上の連続関数であるから、最小値を取る 点 x∈K が存在する。ところで(e) より

x∈S ⇒h(a)< h(x)

であるから、S 上の点が h の最小値を与えることはない。ゆえにx̸∈S. ゆえにh は内点 x で最小値を取ることになり、∇h(x) = 0.

一般に「F: ΩRnが微分可能ならば、h(x) :=∥F(x)2とおくと、∇h(x) = 2F(x)TF(x)」

となるので、∇h(x) = f(x)T(f(x)−y). (b)よりf(x)は正則行列であるからf(x)−y= 0.

すなわち f(x) = y. xの一意性は (d) から分かる。

6 ここまでで分かったことをまとめる。δ >0, d >0があって、

K =B(a;δ), S ={x∈Rn| ∥x−a∥=δ}, V =B(f(a);d/2) に対して

再掲(d) (∀x1 ∈K) (∀x2 ∈K) ∥x1−x2∥ ≤2∥f(x1)−f(x2). 再掲(f) (∀y∈V) (!x∈K\S) y=f(x).

このとき

B :=K\S=B(a;δ), U :=B ∩f1(V) とおくと、a∈U かつU は Rn の開集合である。実際、

a B(a;δ) = B, また f(a) B(f(a);d/2) = V であるから a f1(V). ゆえに a∈U.

B は開球であるから開集合である。

後は f1(V) が開集合であることを示せば、U は2つの開集合の共通部分として開集 合である。その証明は、本質的に命題 6.5 (p. 58) の証明と同じである。b f1(V) とすると、f(b)∈V であり、V は開集合であるから、(∃ε >0)B(f(b);ε)⊂V. f が 連続であることから、(∃δ > 0) (∀x Ω: ∥x−b∥ < δ) ∥f(x)−f(b) < ε. ゆえに f(x)∈V. x∈f1(V). これは f1(V)が Rn の開集合であることを示している。

このとき V ⊂f(B)に注意すると

f(U) = f(B∩f1(V))⊂f(B)∩f(f1(V))⊂f(B)∩V =V.

そこでfe:=f|U: U →Vfe(x) =f(x) (x∈U)で定めることが出来て、feは全単射とな り、逆写像 fe1: V →U が存在する。

7 fe1 は連続である。実際 (d) よりy1, y2 ∈V とするとき () ef1(y1)−fe1(y2)2∥y1−y2 であるから。

8 ∀x∈U に対して、fe1y:=f(x) で微分可能で (fe1)(y) = (f(x))1.

主張の証明 x0 ∈U に対して、A:=f(x0)とおく。(b) より det= 0 であるから、Aの 逆行列が存在する。微分可能性の定義から

(6) f(x)−f(x0) = A(x−x0) +ε(x) によって ε(x) を定めるとき

() lim

xx0

∥ε(x)

∥x−x0 = 0.

さて ∀y∈ V に対して x:=fe1(y) とおくと x∈ U であり、f(x) = y. それで (6) の両辺 に A1 をかけ、y0, y で書き直すと

A1(y−y0) = fe1(y)−fe1(y0) +A1ε(fe1(y)).

ゆえに fe1(y)−fe1(y0) =A1(y−y0)−A1ε(fe1(y)).

そこで次のことを示せばよい。

y→ylim0

A1ε(fe1(y))

∥y−y0 = 0.

これを示すには

ylimy0

ε(fe1(y))

∥y−y0 = 0 を示せばよい。

ε(fe1(y))

∥y−y0 =

ε(fe1(y)) ef1(y)−fe1(y0) ·

ef1(y)−fe1(y0))

∥y−y0 .

fe1 の連続性より、y y0 のとき fe1(y) fe1(y0) = x0. ゆえに () により右辺の第 1 因子0. 一方第2 因子は、()より 2で押さえられる。

9 fe1C1級であること。fe1 のヤコビ行列 (fe1)(y) は f(x) の逆行列であり、成分は Cramerの公式から、分母が detf(x),分子は ∂fi

∂xj(x) の多項式として表現できる。これは y の関数として見て連続である。ゆえに fe1C1級である。

11 陰関数定理

ドキュメント内 数学解析 - 明治大学 (ページ 75-80)