3.3 “ 多項式関数 ” 、有理関数の連続性
4.6 多変数の連続関数
ここは授業では、かなりはしょって (「同様」の嵐で) 説明しました。
4.6.1 多変数の連続関数
多変数ベクトル値関数の連続性の定義は、1変数実数値関数の場合と同様である。
定義 4.2 (多変数ベクトル値関数の連続性) Ω⊂Rn, f: Ω→Rm とする。
(1) a∈Ω で f が連続とは、lim
x→af(x) = f(a) が成り立つことをいう。
(2) Ωで f が連続とは、任意の a∈Ωで f が連続であることをいう。
f = (f1, . . . , fm)T とするとき、
• f が a で連続であるためにはfi (i= 1, . . . , m) が a で連続であることが必要十分。
• f が Ω で連続であるためにはfi (i= 1, . . . , m) が Ω で連続であることが必要十分。
連続関数の和、差、積 (スカラー倍、内積、ベクトル積)、商(実数値関数の逆数の積)が連 続であること、連続関数の合成関数が連続になることなども同様である。
多項式関数、有理関数が連続であることも同様であるが、これは一応説明しておこう。
講義ノートの前の版では、n 変数で説明をしていて、ところどころ、おかしな式も書いてい ました。以下では授業でしたように n = 2 の場合で説明しています。
一般にn 変数の多項式, n 変数の有理式というものと、それが定める多項式関数、有理関数 を導入できるが、以下では式を簡潔に書くため、n= 2 の場合に限って説明する。
4.6.2 多変数の多項式
P(x, y) =x2+ 2xy+ 3y2+ 4x+ 5y+ 6 のように、変数 x, y と実数の定数から掛け算、足 し算だけで作られる式、つまり一般に
∑N i=0
∑N j=0
aijxiyj (ここでN ∈N, aij ∈R)
の形に書ける式を変数 x と y の(実係数)多項式と呼ぶ。これから自然に関数 f: R2 → R, f(x, y) =P(x, y) ((x, y)∈R2)が定義できるが、f のことを多項式 P(x, y)が定める多項式関 数と呼ぶ。以下誤解のない限り、f と P はどちらか一つの文字で表す(f のことを P と書く とか)。
2個の変数 x, y の実係数多項式全体をR[x, y] と表す:
R[x, y] :=
{ N
∑
i=0
∑N j=0
aijxiyj
N ∈N, aij ∈R (0≤i≤N, 0≤j ≤N) }
. R[x, y] には自然に環の構造が入り、R[x, y] は多項式環と呼ばれる。
4.6.3 多変数の有理式
R(x, y) = x2+ 2xy+ 3y2 + 4x+ 5y+ 6
7x+ 8y+ 9 のように、分母と分子が2変数x と y の(実係数) 多項式であるような式を、つまり一般に
R(x, y) = Q(x, y)
P(x, y) (P(x, y), Q(x, y)∈R[x, y]) の形に書ける式を 2変数x と y の(実係数)有理式と呼ぶ。
2変数 x,y の実係数有理式全体をR(x, y) と表す:
R(x, y) =
{Q(x, y) P(x, y)
P(x, y)∈R[x, y], Q(x, y)∈R[x, y], P(x, y)̸= 0 }
.
R(x, y) には自然に体の構造が入り、R(x, y) は有理関数体と呼ばれる。
4.6.4 多項式関数と有理関数
f が n 変数の (Rn 上の) 多項式関数であるとは、ある P(x1,· · · , xn)∈R[x1,· · · , xn] が存 在して、
f: Rn→R, f(x1, . . . , xn) =P(x1, . . . , xn) (x= (x1, . . . , xn)T ∈Rn) であることをいう (つまり多項式関数とは、多項式の定める関数である)。
f が n 変数の有理関数であるとは、ある Q(x1, . . . , xn), P(x1, . . . , xn)∈R(x1, . . . , xn) が存 在して、
Ω :={(x1, . . . , xn)∈Rn|P(x1, . . . , xn)̸= 0} とおいたとき、
f: Ω→R, f(x1, . . . , xn) = Q(x1, . . . , xn)
P(x1, . . . , xn) ((x1, . . . , xn)T ∈Ω)
であることをいう (つまり有理関数とは、有理式の定める関数である。ただし定義域は分母の 多項式が 0 にならない点全体の集合とする。)。
多項式関数も有理関数も定義域全体で連続である。特に多項式関数の定義域は Rn 全体で、
Rn 全体で連続である。このことは以下の命題から分かる。
命題 4.3 n ∈N とする。
(1) Rn 上の定数関数は Rn で連続である。
(2) i∈N, 1≤i≤n とするとき、
φi(x1, . . . , xn) = xi ((x1, . . . , xn)T ∈Rn) で定義される第i 座標関数 φi: Rn →R は、Rn で連続である。
(Cf. 1変数のときは、(2) に相当するのは、恒等写像 φ(x) =x の連続性であった。)
証明
(1) f を定数関数とする。すなわち(∃c∈R) (∀x∈Rn)f(x) =cと仮定する。任意のa∈Rn, 任意の ε > 0 に対して、δ := 1 とおくと、δ > 0 であり、|x−a| < δ を満たす任意の x∈Rn に対して、
|f(x)−f(a)|=|c−c|=|0|= 0< ε.
ゆえにf は a で連続である。a は任意であったから f は Rn で連続である。
(2) a∈Rn とする。任意の正数 ε に対して、δ:=εとおくと、δ > 0で、|x−a|< δ を満た す任意のx∈Rn に対して
|φi(x)−φi(a)|=|xi−ai| ≤ |x−a|< δ =ε.
ゆえにφi は a で連続である。a は任意であったから φi は Rn で連続である。
授業では、上の (2)を、n = 2の場合にx= (x, y)T,a= (a, b)T として説明をざっと書いた。
φ1(x) =x, φ2(x) =y, φ1(a) =a, φ2(a) =b であるから、
|φ1(x)−φ1(a)|=|x−a| ≤ |x−a|,
|φ2(x)−φ2(a)|=|y−b| ≤ |x−a|
となり、x→a のとき φ1(x),φ2(x) がそれぞれφ1(a), φ2(a) に収束する、と板書半分、口半 分で説明した。
微積分で扱う多くの関数は、定義域全体で連続である。そのことを経済的に証明する方法を 学ぼう。
連続関数を組み立てたものは連続である
連続関数を “組み立てたもの” は連続関数(実は微分可能な関数を組み立てたものは微分可 能な関数、のように他での「応用」がある考え方)
• f: Ω→R, g: Ω→R がともに連続ならば、f+g,f−g,f g はいずれもΩ から Rへの 連続関数。g ̸= 0 (on Ω) ならば f /g も Ω からR への連続関数。
• 連続関数の和、差、内積、ノルム、実数値連続関数倍、実数値連続関数による商f⃗+⃗g, f⃗−⃗g,
(f , ⃗⃗ g )
, f⃗,k ⃗f, 1 k
f⃗(ただし k̸= 0) も連続である。
• f⃗=
f1 f2 ... fm
について、f が連続 ⇐⇒ すべての i∈ {1, . . . , m} についてfi が連続。
• 連続関数の合成関数 ⃗g◦f⃗は連続関数。
• n 変数実係数多項式は Rn 上の連続関数を定める: f(x1, . . . , xn)∈R[x1, . . . , xn]ならば、
Rn ∋(x1, . . . , xn)7→f(x1, . . . , xn)∈R は連続である。
簡潔のため、多項式 f(x1,· · · , xn)が定める関数を f と書くことを約束し、多項式の定 める関数を「多項式関数」と呼ぶことにする。
• 高校生以来知っている(切れていないグラフが思い浮かべられる) 指数関数 ex = expx, ax (ただしa >0,a̸= 1)、対数関数logx(x >0)、三角関数cosx, sinx、√
x(x≥0),冪 乗関数 x7→xα (ただし α∈ R, 定義域は x >0), n 乗根 √n
x (x∈R または x∈ [0,∞)) 絶対値 |x| は、それらの定義域上で連続である。
• 大学に入ってから教わった逆三角函数tan−1x= arctanx, sin−1x= arcsinx(x∈[−1,1]), cos−1x= arccosx (x∈[−1,1]) もそれらの定義域上で連続である。
これらの関数の多くは C∞ 級であることが分かり、証明も同様である(ただし √
x が C∞ 級であるのは、x > 0 の範囲で、x = 0 を含めると成り立たなくなる、などの注意は必要で ある)。
例 4.4 f(x, y) = x2+ 2xy+ 3y2+ 4x+ 5y+ 6 は2変数の多項式関数であるから、R2 上の関 数として連続である。
φ(x, y) = sin(x2+ 2xy+ 3y2+ 4x+ 5y+ 6) は、g(z) = sinz とすると、φ=g◦f. f も g も連続関数であるから、合成関数 φは連続である。
問 43. 次の各関数がR2 で連続であることを示せ (理由を述べよ)。
(1) f(x, y) =x2 +√
2xy+ (log 3)y2+ π4x+e5y+ 6 (2) g(x, y) = exp (3x+ 2y+ 1) (3) h(x, y) = x2+ 2x+ 3
x2+y2+ 1 (4) φ(x, y) = log (
1 +√
x2+y2 )
(5) F(x, y) = (
x3 −3xy2 3x2y−y3
)