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糖および糖鎖の立体配座データベース開発に 向けて

前章まで,アルドヘキソピラノースの立体配座について2JCH値を用いた立体配座解析を 行った結果について述べた.これらの研究過程で得られた高度な理論計算に基づく糖の配 座異性体および立体配座に関する計算データは,糖鎖機能を解明する上で極めて貴重な情 報である.そこで,これらに関する計算手法や立体構造,NMR値のような結果を登録し 共有できるようにするための糖配座データベース開発を行っている.特に,第

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章で提案 した命名法による固有な配座名によって,配座ごとの構造の特性,解析結果の分類や登録 が容易となることが期待できる.また,創出された多くの配座異性体や分子動力学シミュ レーションで得られた構造情報を登録しておき,第

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章で開発した2JCH予測法を適用する ことで,個々の構造や計算結果に対して2JCH値に関する情報を付与することができる.そ して,糖配座データベースを中心とした様々な関連データとの連携,つまり各配座につい ての様々な計算化学的な解析手法やその結果と,実験によって得られた事実が関連付けら れることによって,今後の立体配座解析技術の高度化や今まで気づかれなかった新たな事 実の発見等に貢献できると考えられる.

一方,このようなデータベース間のデータ連携の枠組みとして,最近では

Semantic Web

技術が用いられるようになってきている.特に,現在進められている

NBDC

による統合化 推進プログラムにおいて,国内外の糖鎖関連データベースを国際協調のもとに統合化し,

連携利用していくための

Semantic Web

技術による研究開発が行われている.そこで,糖配 座データベースの国際的な連携利用を目的としたプラットフォームの開発と,私が開発し た糖配座命名法の提案を行うため,現在私は当プログラムにおいて現在進められている

「糖鎖統合データベースおよび国際糖鎖構造リポジトリの開発」プロジェクトに参画して いる.

ここでは,当プロジェクトにおいて行った,既存糖鎖関連データベースの連携に関する 研究開発と,国際糖鎖構造リポジトリの開発について概説し,私が開発している糖配座デ ータベースとの連携と意義について説明する.

7.1. Semantic Web 技術を利用した糖鎖関連データベースの連携

近年,ライフサイエンス関連データベースの統合化に向けた取り組みが世界的に行われ ており,そこでは基準の技術として

Semantic Web

技術,特に

Resource Description

Framework(RDF)技術が広く用いられている.RDF

とは,様々なデータや情報を

URL

して記述し,それらを「トリプル」と呼ばれる形式で記述するデータ記述形式である.

「トリプル」は主語,述語,目的語で構成され,主語と目的語が述語の関係によって関連

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付けられていることを表す(図7.1).主語や目的語が情報としてどのような種類なのか,

そしてそれらはどのような述語によって関連付けられうるのか,等はオントロジーによっ て定義する.そして,このようなトリプルを登録するためのデータベースを「トリプルス トア」と呼び,そこに登録されているデータにアクセスするためには,専用のクエリ言語

である

SPARQL

を用いる.

7.1 糖鎖と単糖の関係を表すトリプル.この場合,「糖鎖」が主語、「単糖」が目的語,「持つ」

が述語にあたり,「糖鎖はある単糖を持つ」という関係を表す.

7.2 RDF によるデータベース間の連携についての概念図.青い丸はデータベースに格納され

ている情報,矢印はその間の関係を表すトリプル,破線はあるデータベースに登録されている情 報の範囲を表す.データベース内の情報が青い矢印に相当するトリプルで関連付けられている とき,赤い矢印に相当するようなトリプルを新たに定義,追加することで,個々のデータベース 間の情報が関連付けられ,データベースを横断した連携が可能となる.

トリプルは主語,述語,目的語とその情報に関する方向が決まっており,いくつかの述 語を辿るプロセスを条件とした

SPARQL

を記述することで,トリプルストアからその情報 を得ることができる.つまり,トリプルで直接繋がっていない情報であっても,それらが 述語群によって繋がっていれば検索が可能となる.これにより,異なるデータベース上で

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登録されている情報同士でも,共通する情報ならば同じ

URL

を与えてやり,同じ意味を 持つ異なる情報であってもそれらが同じであるというトリプルを新たに追加してやること で,それぞれのデータベース間の連携が可能となる(図7.2).新たなデータの登録や別の データベースとの新たな連携を行う場合でも,新たに追加される情報と既にある情報との 関係性を記述したトリプルを追加するだけで良い.このように,これらの技術を用いるこ とで,データベース間の連携や追加が容易になる.

このような流れを受け,国内外にある糖鎖関連データベースの開発者らと協力して,

Semantic Web

技術,特に

RDF

による糖鎖関連データの記述(RDF化)と,それを用いた

データベース連携手法の開発を行った.[56]RDF化の際にまず問題となるのは,各データ ベースの間で登録されているデータに対する記述方法が異なっていることである.そこで まず,各データベースで登録されている情報の間で共通するものについて精査を行い,海 外の糖鎖関連データベース[57][58][59][60]と日本の糖鎖統合データベースである

JCGGDB

の各開発者らの合意のもと,必要最小限の記述方法の共通化でデータベースを連携できる ようにするためのオントロジーとして

GlycoRDF[61]を作成した.GlycoRDF

では,共通す る情報として,糖鎖構造,単糖,生物学的由来,参考文献,および実験的なエビデンスに 関するデータ,およびそれに関連するトリプルについて定義している.

次に,GlycoRDFに基づいて

RDF

化を行った各データベースについて,実際に連携する

ための

SPARQL

クエリの検討を行った.ここでは特に,(1)日本の糖鎖関連データベー

スの統合機関である

JCGGDB

と国際的なタンパク質関連データベースである

UniProt

に登 録されている共通の糖タンパク質の

ID

を連携させるクエリ,(2)糖鎖認識タンパク質で あるレクチンからそれが認識する糖鎖構造を検索するクエリ,および(3)抗体からそれ が認識する糖タンパク質を検索するクエリの検討を行った.私はこれらのクエリの検討を 行った.その結果,これまで難しかった各データベース間の横断的な情報の検索が可能と なった.

7.2. 国際糖鎖構造リポジトリの開発

これまで,各研究者が様々な糖鎖構造に対する表記法によって構造情報を登録すること によって登録情報の重複が起き,糖鎖関連データベース間の統合化の障害となっていた.

そこで,データベース間での構造情報の共通化や,共通の糖鎖構造に対する固有な

ID

の 発行を目的とした糖鎖構造リポジトリ

GlyTouCan

を開発した.[62]特に,構造情報の重複 を回避し固有

ID

の発行を管理するためには,糖鎖構造を一意に表現する方法を使って対 処することになるが,それにはこれまで多くのデータベースで用いられている糖鎖構造表 記フォーマットである

GlycoCT[63]が用いられてきた.しかしながら,化学的に合成され

た特殊な糖鎖など,GlycoCTでは一部の糖鎖構造が表現できず登録することができない問 題があったため,全ての糖鎖構造を一意に表記するための線形表記法として

Web 3.0

61

Unique Repre-sentation of Carbohydrate Structures (WURCS)[64]が開発されており,GlyTouCan

で採用している.既に幾つかのデータベース[56][58][59][60]間で,RDF化によるデータベ ース環境の構築によって,GlyTouCanを中心とした連携が行われており,更に同技術を利 用した登録や検索等が利用可能となっている.(図7.3)なお,ここでの糖鎖構造とは糖鎖 の枝分かれを含む配列を意味しており,コンホメーションといった立体構造に関する情報 は未だ扱っていない.

私はこれらの研究や開発の中で,特に

WURCS

の開発や拡張,それを元にした糖鎖構造 情報の

RDF

化,および構造検索やデータベース連携を行うための

SPARQL

記法の検討を 行った.

7.3 GlyTouCan(http://glytoucan.org)のトップページ.糖鎖構造の登録・検索を行うこと ができ,検索結果から連携している糖鎖関連データベースにアクセスできる.

7.3. 糖および糖鎖の立体配座データベースの開発と既存の糖鎖関

連データベースとの連携の意義

現在作成している糖および糖鎖の立体配座に関連する情報を収めた糖配座データベース については,Semantic Web技術を用いた開発を行うことで,GlyTouCanのような同技術を 用いた既に存在する糖鎖構造データベースとの連携が容易となる.また,GlyTouCanで採