第1項 目的
子育てストレス尺度と,育児ストレス認知尺度,特性的自己効力感尺度と精神的健 康度(GHQ-12)との関連を検討し,子育てレジリエンス尺度の構成概念妥当性を検 証することを本研究の目的とする。
子育てレジリエンス尺度と各尺度との関係は,子育てレジリエンス尺度の妥当性の 観点から以下のように予測される。先行研究からレジリエンスの高い母親は育児スト レスが低いことが明らかにされている(Gerstein et al., 2009;Margalit & Kleitman,
2006)。本研究でも育児ストレス認知とは負の相関を示すと予測される。Rutter(1987)
は,レジリエンスには自己効力感の確立と維持する機能があると述べている。「母とし ての肯定感」には母親としての自信や誇り含む要素から構成されており,自尊感情は 子育てレジリエンスの構成要因の一つである。自尊感情は本人自身の価値に関する感 覚であるのに対して,自己効力感は,ある結果を生み出すために必要な行動をどの程 度うまく行うことができるかという個人の確信を意味する。母親として価値があると 感じていることは,育児の行動をうまくやっているための基盤であるとすると,「母と しての肯定感」は自己効力感と正の相関を得ることが予測される。
個人内の要因である自己効力感は,ソーシャルサポートとの関連性が高く,育児ス トレス低減に影響を及ぼすことが明らかにされている(日下部・久保,2013;渡辺・
石井,2009)。渡辺・石井(2009)は,身近なソーシャルサポートが自己効力感の「行
動の積極性」を介して育児ストレス軽減することに影響を及ぼしていることを明らか にしている。先行研究から子育てレジリエンスの「ソーシャルサポート」も自己効力 感と正の相関を得ることが予測される。
「ペアレンタル・スキル」は子育て場面の様々な状況に対して対処していく方法や,
うまく子育てをやっていけるという確信を含む要素から構成されている。自己効力感 は,個人がある状況において必要な行動を遂行でいる可能性の認知を指しており
(Bandura, 1982 / 1985),自己効力感が高いと,育児に対しても必要な努力を惜しま ず,失敗や困難に対して臨機応変に対応すると考えられる。そこで「ペアレンタル・
スキル」と自己効力感は正の相関を得ることが予測される。
石毛・無藤(2005)は,レジレエンスを困難な出来事を経験しても個人を精神的健 康へと導く心理的特性であるとして,レジリエンスがストレス反応抑制に影響が大き いことを示している。本研究でも精神的健康度と負の相関を示すと予測される。
第2項 方法
(1)調査対象者の属性と手続き
調査の対象者は,幼稚園と小学校の子どもをもつ母親 106 名であった。平均年齢 39.54 歳 (SD=4.66)であった。期間は, 2011年7月に実施した。子育てレジリエンス尺度,育児 ストレス認知,自己効力感,精神的健康度の調査を実施し,その場で回答し回収した。
(2)調査内容
1)レジリエンスは,子育てレジリエンス尺度(尾野・奥田・茂木,2011)を使用し た。「ペアレンタル・スキル」,「ソーシャルサポート」,「母としての肯定感」の3つの 下位因子から構成されており,「そう思う(4点)」から「まったく思わない(1点)」
までの4段階評定で評定を求めた。28項目で構成されている。
2)育児ストレス認知は,種子田ら(2004)の育児ストレス認知尺度を使用した。「自 身の社会的役割活動に関する制限感」,「児に対する拒否感情」,「育児に伴う経済的逼 迫感」,「育児に対する否定感情」の4因子16項目から構成されている。育児ストレス 認知尺度の因子モデルは,障害児の母親にも適合することを確認しており(種子田ら, 2004),障害児の母親の育児ストレス認知を測る尺度として妥当であると判断した。
「まったくない(0点)」から「いつもある(4点)」の5段階で評定を求めた。
3)自己効力感は,成田・下仲・中里・河合・佐藤・長田(1995)の特性自己効力感 尺度を使用した。1因子23項目から構成されている。①行動を起こす意思,②行動を 完了しようと努力する意志,③逆境における忍耐などから構成されている。男女・年 齢を問わず様々な場面で使用できる尺度であることから,育児における効力感を測る 尺度として妥当である判断した。「そう思う(5点)」から「そう思わない(1点)」の 5段階で評定を求めた。得点が高くなるほど自己効力感が高いことを示している。
4)ストレス反応は,中川・大坊(1985)の精神的健康度の日本版GHQ-12項目短縮 版を使用した。ストレス状態を測定する尺度の一つとして広く活用されている。4 段 階で回答を求め,得点が高いほどストレスを感じており精神的健康度が低いことを示 している。12項目で構成されている。
(3)倫理的配慮
調査協力者には,調査目的,個人情報の保護,調査結果を研究目的以外に使用しな いことを文書により説明した。関係機関とは調査契約書を取り交わし,契約書には倫 理的配慮について記載した。本研究は,大学研究倫理委員会の承認を得た。
第3項 結果
構成概念妥当性は,子育てレジリエンス尺度と,育児ストレス認知尺度,特性的自 己効力感尺度,精神的健康度尺度(GHQ-12)との相関係数により検討した(Table7)。
子育てレジリエンス尺度の全ての下位因子と育児ストレス認知との相関係数は,r
=.36~-.48 の弱いから中程度の負の相関がみられた。自己効力感との相関は,「ペア レンタル・スキル」と強い相関(r=73,p<0.1),「ソーシャルサポート」と中程度の 相関(r=.48, p<0.1),「母としての肯定感」と中程度の相関(r=.40, p<0.1)を示し た。精神的健康度との相関は,「ペアレンタル・スキル」と中程度の負の相関(r=.57,
p<.01)と,「ソーシャルサポート」と(r=.43, p<.01),「母としての肯定感」と(r
=.33,p<0.1)弱い負の相関がみられた。
全ての尺度間において,弱いから中程度の相関が見られ,構成概念妥当性を確認す ることができた。
Table 7子育てレジリエンス下位因子と育児ストレス認知,自己効力感と精神的健康度の
相関関係 ペアレンタル・
スキル
ソーシャル サポート
母としての
肯定感 育児負担感 自己効力感 精神的健康度 ペアレンタル・スキル 1 .64** .55** ‐.41** .73** ‐.57**
ソーシャルサポート 1 .57** ‐.36** .48** ‐.43**
母としての肯定感 1 ‐.48** .40** ‐.33**
育児負担感 1 ‐.36** .62**
自己効力感 1 ‐.53**
精神的健康度 1
***p<.001 **p<.01, *p<.05 †P<.10
第4項 考察
子育てレジリエンスと育児ストレス認知尺度との関連では,予測と一致した負の相 関を示した。先行研究でも,レジリエンスの高い母親は,育児ストレスが低いことを 述べており(Gerstein et al., 2009;Margalit & Kleitman, 2006),本研究はこれを支 持する結果であった。子育てレジリエンスと特性的自己効力感との関連では,予測と 同じ方向の正の相関を示した。精神的健康度との関係でも,同様に予測と同じ負の相 関を示した。
子育てレジリエンス尺度は,既存の尺度と一定の相関を確認することができ,構成 概念妥当性は支持され,妥当性を持つ尺度であるといえる。
国外の先行研究から,母親のレジリエンスは母親が子育て体験の変化にうまく適応 していく能力であり(Baraitser & Noack , 2007),レジリエンスを持ち合わせている 母親は,家族のつながりが良好であることが明らかにされている(Margalet &
Kleitman, 2006)。またTravis & Combs-Orme(2007)は,レジリエンスを備えた母 親は,子育てを適応的におこない,子育ての役割に苦しめられることや,子どもとの 交流に不満がなく,子どもを扱いにくいと考えていないと報告している。これらの先 行研究を踏まえれば,子育てレジリエンスは,個人の特性や性格などの内的資源と子 どもや家族はじめとする周囲の人との関係などの環境資源で構成されており,構成概 念的に,妥当であると考えられる。
第3節 子育てレジリエンス尺度短縮版の作成と妥当性の検証 第1項 目的
子育てレジリエンス尺度の短縮版は,子育てに柔軟に適応する力として子育てレジ リエンスを育成することを目的とした子育て支援の介入を実施する際に,子育てレジ リエンスの効果評価をより簡便に測定する尺度として有効である。そこで子育てレジ リエンス尺度短縮版の作成をすることを試みる。
第2項 方法
(1) 調査対象者と期間
2010年2月~3月の期間,A県下B市内小学校2校の全小学生の母親1123名を対象に,
さらに2011年7月A県下B市内幼稚園の母親230名を対象に,質問紙と回収用の封筒を 配布し,幼稚園児,小学生の担任を通して回収した。有効回答866名(回収率64.0%)
であった。
(2)手続き
子育てレジリエンス尺度短縮版の3因子の項目数が同じになるように,オリジナルの 子育てレジリエンス尺度の各因子内で,Table6において因子負荷量の高い順に上位4項 目を選出した。信頼性,尺度の基準関連妥当性の検討,オリジナルの尺度との相関関 係の検討を行った。
(3)倫理的配慮
調査協力者には,調査目的,個人情報の保護,調査結果を研究目的以外に使用しな いことを文書により説明した。関係機関とは調査契約書を取り交わし,契約書には倫 理的配慮について記載した。本研究は,大学研究倫理委員会の承認を得た。