第1節 子育てレジリエンスに影響を及ぼす関連要因の検討 第1項 問題と目的
子育ては,不快な出来事を経験しても,決して放棄することが許されない。また,
子どもの成長に伴って,親が子育て場面で求められる対応は異なる。小学生の子ども に目を向けると,従来から比較的安定していると言われてきたが,最近では「小1 プ ロブレム」,「いじめ」,「不登校」,「学級崩壊」,「暴力行為」,「発達障害」等の様々な 問題が挙げられる。学習面においては,小学校 3 年,4 年生はつまずきやすい時期と 言われており,学校生活,子どもの交友関係や学習などに目配せが必要な時期である といえる。それらに対して母親は適宜柔軟に対応が求められることから,母親は子育 ての経験を通じて子育てレジリエンスを獲得していくと考える。すなわち,子育てレ ジリエンスは,年齢が高くになるにつれてより高くなり,子どもの人数が増えること や家族が拡大することによって高くなると予測する。
そこで,研究 3 では,子育てレジリエンスを高めることに影響する要因を,母親の 属性,子どもの属性の要因から検討することを目的とする。
第2項 方法
(1)対象者
健常児群:調査は2010年2月から3月の期間,首都圏A市立小学校2校の小学生 の母親1123名を対象に,2011年7月首都圏A市私立幼稚園の母親230名を対象に,
質問紙と回収用の封筒を配布し,幼稚園児と小学生の担任を通して回収した。有効回
答866(回収率 64.0%)名あった。平均年齢 40.19歳(SD=4.45)であった。子どもの
数の平均は1.99人(SD=0.71),家族の人数の平均は4.13人(SD=0.99)であった。
(2)質問内容
個人的背景要因として,母親の基本的属性(母親の年齢,子どもの数,配偶者の有 無,家族の人数,祖父母との同居の有)と,子どもの属性(年齢,性別)を記入して もらった。
レジリエンスは,尾野ら(2011)の子育てレジリエンス尺度を使用した。「ペアレン タル・スキル」,「ソーシャルサポート」,「母としての肯定感」の3 つの下位因子から 構成されており,「そう思う(4点)」から「まったく思わない(1点)」の4段階評定 で評定を求めた。28項目で構成されている。
(3)倫理的配慮
調査協力者には,調査目的,個人情報の保護,調査結果を研究目的以外に使用しな いことを文書により説明した。関係機関とは調査契約書を取り交わし,契約書には倫 理的配慮について記載した。本研究は,大学研究倫理委員会の承認を得た。
第3項 結果
(1)健常児の母親の属性
母親の年齢,第一子の子どもの年齢,子どもの数と家族形態等の属性によって子育 てレジリエンス得点に差がみられるか検討した。母親の平均年齢 40.19歳を基準にし て±1SD(SD=4.44)を算出し,34歳まで,35から39歳,40 から44歳と 45歳以 上の4群の因子得点の平均値を比較したところ,「ペアレント・スキル」において群間 の得点差が有意であった(F(3, 832)=3.13, p <.05)(Table11)。多重比較を行った ところ,45歳以上の群と35から39歳の群との間と,45歳以上の群と40から44歳 の群との間に有意な得点差がみられた。45歳以上の群が高得点であった。その他の項 目において有意差は認められなかった。
(2)健常児の母親のレジリエンスの特徴
第一子の子どもの年齢を幼稚園児の6歳まで,小学生の8歳まで,小学生の9歳か ら12歳までと中学以上の13歳以上の4群に分けた。子どもの年齢区分を, 9歳に設 定した。9 歳の頃という時期は,「9歳の壁」と言われる時期であり,子どもにとって 思考の発達が著しい時期である。そして落ちこぼれる時期でもある(稲葉ら,2007)。
子どもの学業のつまずきは,子育てにも少なからず影響すると考えられるため,小学 生を8 歳までと,9 歳からの2 つに区分した。子どもの成長によって母親のレジリエ ンス得点が異なるかどうかを検討するために,1要因の分散分析を行った。「ペアレン タル・スキル」は,どの年齢にかかわらず他の下位因子よりも得点が低く,群間の得 点差は1%水準で有意差が認められた(F(3, 861)=4.89, p<.01)。「ソーシャルサポ ート」においては全体において平均3 点以上と高い結果となり,群間の得点差は有意 傾向であった(F(3, 86)=2.50, p<.10)(Table12)。多重比較の結果から,「ペアレ ンタル・スキル」で,第一子が中学生以上の群と6 歳以下の子どもの群の間に有意差 がみられ,中学生以上の群が高得点であった。「母としての肯定感」は,母親の年齢,
子どもの年齢や家族の形態にかかわらず群間に差が見られなかった。
家族の形態によって,レジリエンス得点に差が見られるか,核家族と母親もしくは 父 親 の 両 親 や そ の 他 の 家 族 成 員 と 同 居 す る 拡 大 家 族 の 2 群 間 で 比 較 検 討 し た
(Table13)。拡大家族が「ペアレンタル・スキル」因子において有意差が確認された
(t(865)=3.13, p<.05)。
子どもの数によって違いが見られるか,子どもの数を1 人,2人,3 人以上の3 群 間で比較したところ,群間に有意な差は見られなかった(Table14)。
Table 11母親の年齢別 各項目の平均と標準偏差 及び分散分析の結果
平均 SD 平均 SD 平均 SD 平均 SD F値
ペアレンタル・スキル 2.82 .46 2.81 .48 2.81 .44 2.94 .43 3.13 * 40-44<45*,35-39<45* ソーシャルサポート 3.38 .46 3.35 .50 3.27 .48 3.36 .44 2.06 n.s.
母としての肯定感 3.61 .39 3.63 .37 3.61 .40 3.67 .31 .69n.s.
***p<.001 **p<.01, *p<.05 †P<.10
35から39歳
(n=287)
40から44歳
(n=331)
45歳以上
(n=137)
34歳まで
(n=77)
Table 12第一子の子どもの年齢による母親のレジリエンス得点の比較
平均 SD 平均 SD 平均 SD 平均 SD F値 多重比較
ペアレンタル・スキル 2.75 .44 2.77 .47 2.81 .45 2.92 .45 4.89** 6歳まで<13歳以上**
ソーシャルサポート 3.41 .48 3.38 .45 3.29 .50 3.31 .46 2.17†
母としての肯定感 3.59 .36 3.65 .38 3.62 .37 3.62 .38 .49n.s.
***p<.001 **p<.01, *p<.05 †P<.10
6歳まで n=61 7歳から8歳 n=156 9から12歳まで n=406 13歳以上 n=236
Table 13拡大家族群と核家族群のレジリエンス得点の平均と標準偏差,及びt検定の結果
平均 SD 平均 SD t値
ペアレンタル・スキル 2.91 .44 2.82 .45 2.01*
ソーシャルサポート 3.37 .46 3.31 .48 1.13 n.s.
母としての肯定感 3.66 .32 3.62 .38 1.06 n.s.
***p<.001 **p<.01, *p<.05 †P<.10
拡大家族(n=107) 核家族(n=759)
Table 14子どもの数による母親のレジリエンス得点の比較
平均 SD 平均 SD 平均 SD F値
ペアレンタル・スキル 2.82 .48 2.83 .43 2.85 .49 .21 n.s.
ソーシャルサポート 3.31 .51 3.32 .47 3.34 .46 .18 n.s.
母としての肯定感 3.64 .36 3.62 .38 3.62 .38 .16 n.s.
***p<.001 **p<.01, *p<.05 †p<.10
三人以上(n=154)
二人(n=515)
一人(n=194)
第4項 考察
子育てレジリエンスに関連する要因として,母親と子どもの年齢を検討した。第一子 が中学生の群と,母親の年齢が45歳以上の群で「ペアレンタル・スキル」が高かった こと,幼稚園児の子どもの母親の群が「ペアレンタル・スキル」が低かったことから,
子育てレジリエンスは,第一子の年齢に伴う成長と,母親自身の加齢が関連することが 確認された。子どもの数によっては,子育てレジリエンスとの間で関連が見られなかっ た。これらのことから,第一子の子育てがレジリエンスに強く影響するのではないかと 考えられる。このことから,健常児の母親では,子どもの人数が増えることに伴う,子 育ての量的な経験の増加によって子育てレジリエンスが獲得されるではなく,子どもの 成長と共に経験する子育ての質的な経験をすることで獲得される可能性が考えられる。
親と子の相互作用によって子育てレジリエンスを獲得するのではないかと考えられる。
家族形態による特徴としては,拡大家族の母親は核家族の母親と比較して「ペアレン タル・スキル」得点が有意に高かったが,「ソーシャルサポート」得点と「母としての 肯定感」得点においては群間で差が確認されなかった。この結果の意味するものとして 1つに,拡大家族は成員間の人間関係が核家族に比べて複雑化するため,対人関係や家 事において柔軟に対応することが求められることが多いことが考えられる。そうである とするならば社会的スキル能力である「ペアレンタル・スキル」は,学習することが可 能で,発達させることができる可能性を持っている。
一方で,「ソーシャルサポート」は母親の年齢の群間において差が認められず,年齢 との関連は認められなかった。レジリエンスは,多くの支援してくれる資源を所有する ということと同様に,それら資源をどれだけ有効に活かすのかという実際の行動力も重 要であると示唆されているが(井隼・中村, 2008),環境資源を活かすには,何が必要 なのか年齢以外の要因についてい検討する必要がある。
「ソーシャルサポート」は,第一子の年齢の群間において,有意傾向にとどまるが,
得点に差を認めることができた。幼稚園自の母親が最も得点が高く,次に7歳,8歳の
子どもの母親の得点が高い結果であった。子どもが幼稚園や,保育園に在園中は,子ど もの送迎時に教諭や保育士と会話する機会や,子どもを通じた友人や知人との交流の機 会が得やすいことから,自然と子育ての情報や支援を得ていると認識しやすくなること が予想される。しかし,子どもが小学生になると学校教師と会話する機会や,子どもを 通じた友人や知人との交流の機会が次第に減っていき,周囲からの支援が得にくくなっ ていくと考えられる。
現代は子育てを取り巻く環境が変化して,地域社会の子どもを育てる力が弱くなって おり,地域社会からの子育て支援が得にくい時代といえる。「ペアレンタル・スキル」
得点が,「ソーシャルサポート」や母としての肯定感に比べると低いかった。では,「ペ アレンタル・スキル」を高めるにはどうしたらよいか。子育てレジリエンスの高まりが,
「ペアレンタル・スキル」の向上に役立つかどうか,検討することが大切になってくる。