<慣性モーメントとは>
長さaの軽い棒の一端に質量mの重いおもりをつけて、棒のもう一方の端の点Oを通り 棒に垂直な軸(回転軸)のまわりに角速度ωで回転させる場合を考える。
回転軸まわりの角運動量であるlzは、2.3 節の式(2.20)角運動量l=r ×p =r ×(mv)より、
lz =a(mv) ω
=a
v を用いて、
lz =a(mv)=a(maω)=ma2ω ①
この場合の慣性モーメントI は、2.7 節の式(2.47)
∑
=
j j jr m
I 2より、
I =ma2
と表せる。このI を用いて式①を書きなおすと、回転 軸まわりの角運動量lzは次式のようになる。
lz = ωI ②
なお、多数の質量から構成される質点系の場合、2.7 節の式(2.47)より慣性モーメント は以下の式で求められる。
I m rj j
j
= ∑ 2 (2. 51)
マクロな剛体は連続体と考えられるので、慣性モーメントI を上式で計算するときには 和でなく積分を使うことになる。剛体を体積dV の細片に分けると、mjはρdV (ρ:密度 [kg/m3])となるので、次式によってIを計算する。
I =∫∫∫
(
x2 +y2)
ρdxdydz (2. 52)
z軸を中心として回転している剛体の運動方程式(2.7 節の式 2.49)
(
xF y F)
Ndt I d
i
ix i iy
i − =
=
∑
2 2ϕ
において、力のモーメントNを一定にした時、剛体の角速度d2ϕ/dt2は慣性モーメントI に逆比例する。従って、質量が直線運動の慣性の大きさを表すことと類似しており、
慣性モーメントは回転運動の慣性の大きさ
を表すものである。式(2.51)によれば、慣性モーメントは質量に比例し、質量が軸から 遠くに分布しているほど大きいことがわかる。
次ページ以降で、一様な棒、薄い円盤、一様な球に関する慣性モーメントの計 算を説明し、112 ページでは、慣性モーメントの計算に便利な定理を紹介する。
114 ページでは、剛体の平面運動を説明し、慣性モーメントの使い方を実際に紹 介する。
図 2‑ 15 垂直な軸まわりに回転
するおもり
[例題 2. 9] 細い一様な棒
質量をM、長さl の棒について、この一端か らaだけ離れた点Oを通って棒に垂直な軸ま わりの慣性モーメントを求める。
棒に沿ってx軸をとり、棒を長さdxの微小片
に細分する。一片の質量は(M l dx/ ) であるから、式(2.52)は、
=
∫
−l−aa x dx
I
2ρ
[ ]
(
2 2)
3
2 3 3
3
3 M l la a
l x dx M l x
M l a
a a
l
a = = − +
= − −−
∫
−a = l
2ならば、
12 3 4
3 2 3
2 2
2 l l Ml
l M l
I =
− +
=
a =lならば、
( )
3 3 3 3
2 2
2
2 Ml
l l M l
I = − + =
[例題 2. 10] 一様な薄い円板
一様な薄い円板の中心を通り板に垂直な軸のまわりの 慣性モーメントを求める。
質量をM、半径をaとすると、単位面積当りの質量(面 密度)は
M/πa2
いま、これを半径がrとr+drの同心円で区切った円環
を考えると、式(2.51)I =
∑
mjrj2 のrj は円環の全体にわたって共通であるから∑
=r mj
I 2 、すなわち、
(円環の質量)×r = M × a
rdr r
2
2
2 2
π π
が得られる。これをrについて0からaまで積分すると、
[ ]
0 2 42
0
3
2 2
1 4
1 2
2 r Ma
a dr M a r
I = M
∫
a = a =
この結果は薄い円板ではなく、円筒でもそのまま使える。
O
a
x x dx
l-a
図 2‑ 16 細い一様な棒
図 2‑ 17 一様な薄い円板 y
x
[例題 2. 11] 一様な球
質量M、半径aの球において、ある一つの直径まわりの 慣性モーメントを求める。
球をz軸に垂直な平面で厚さdzの薄い円板に分け、円板 の慣性モーメントを求め、それを合計すればよい。
中心からzのところにある円板の半径rは r= a2 −z2
質量mは
m=ρ⋅πr2 ⋅dz=ρπ
(
a2 −z2)
dz
[例 2.10]の結果I =Ma2 /2を用いると、厚さdzの薄い円板の慣性モーメントiは i Ma
(
a z)
z(
a z) (a z )
dz
2 d 1
2 1 2
1 2 2 2 2
2 2 2
2
2 = ρπ − ⋅ − = ρπ −
=
これをzについて積分し、 3 4
3 a M V
M
= π
=
ρ を用いると、
( )
2
2 2 2
5
2 2
i 1 a z dz Ma
I a
a a
a = − =
=
∫
− ρπ∫
−
O a
z dz
r
z
図 2‑ 18 一様な球
次に、慣性モーメントの計算には、次に示す2つの定理を用いると便利である(証明は次ペー ジ参照)。
剛体の質量をM、ある軸のまわりの慣性モーメントをIとするとき、
I = Mκ2 (2. 54)
によって定義される長さκ = I / M のことを、その軸のまわりの回転半径という。
例えば、半径aの一様な球について直径まわりの慣性モーメントは2Ma2/5であるので、
その回転半径は 2/5⋅aである。
定理[2.1]
1つの軸のまわりの剛体の慣性モーメントをI 、重心を通りその軸に平行な直線のまわ りの慣性モーメントをIG、剛体の質量をM、2つの軸の距離をλとすると、
I = IG +Mλ2 (2. 53) という関係がある。
定理[2.2]
薄い板状剛体の一点を通り、これに垂直な軸まわりの慣性モーメントは、この点を通り 板の面内にある互いに垂直な2本の軸のまわりの慣性モーメントの和に等しい。
[定理 2.1 の証明]
Iの軸をz、重心Gを通りこれに平行な軸をz' 軸とすると、式(2.52)より、
I r dV
IG r dV
=
=
∫∫∫
∫∫∫
2 2
ρ ρ '
① であるが、
( ) ( )
(
2 2) (
2 2)
2 2 2
' 2 ' '
2 '
' '
Y Yy y X Xx x
Y y X x r
+ + + + +
=
+ + +
=
2 2
2 = X +Y
λ とすると、上式、
r2 =r'2+λ2 +2Xx'+2Yy'
上式を式①に代入すると、
I =
∫∫∫
r'2ρdV +λ2∫∫∫
ρdV +2X∫∫∫
x dV'ρ +2Y∫∫∫
y'ρdV ②右辺第1項はIG、第2項の積分
∫∫∫
ρdV はMである。第3項と第4項の積分は 2.4 節の式(2.36)∑mi iv '=0のx y, 成分であるから零になる。従って、式②から式 (2.53)が得られる。
[定理 2.2 の証明]
板の面密度をσ、板を細分した一片の面積をdsとす ると、その細片の質量はσdsであるので、図のz x y, , 軸まわりの慣性モーメントは、
Iz =
∫∫
r2σds, Ix =∫∫
y2σds, Iy =∫∫
x2σds
r2 = x2 + y2であるから、
Iz = Ix +Iy (2. 55)
[問題 2. 15]
質量の無視できる長さlの棒の両端に質量 m/2 のおもりをつけた剛体を、棒の中心を通 り棒と垂直な軸のまわりに角速度ωで回転させる。慣性モーメントIを求めよ。さらに、
軸のまわりの角運動量L、回転による運動エネルギーKを計算せよ。おもりの質量を変え ずに棒の長さを2倍にしたとき、慣性モーメントI、角運動量L、運動エネルギーは何倍 になるか。
[問題 2. 16]
x 方向の長さが a、y 方向の長さが b の一様な薄い長方形の 板について、x,y,z軸まわりの慣性モーメントIx ,Iy ,Izを求 めよ。ただし、板の全質量を M とせよ。また、Iz=Ix+Iyが 成り立つことを示せ。
r
x y
z
x y
z
O λG
r
図 2‑ 19
y z
x O x
y
dS
図 2‑ 20
y z
x O
a b
<
剛体の平面運動>
斜面をころがり落ちる円筒のように、剛体の重心が 常に一つの平面内を運動し、回転軸が常にこの平面 に垂直であるような運動を考える。
重心が運動する平面をxy平面にとれば、重心の運動 をきめる方程式(2.2 節の式 2.11)は、
Md X dt
F Md Y
dt
ix F
i
iy i 2
2
2
=
∑
, 2 =∑
(2. 56)
回転は重心を通りxy面に垂直な軸のまわりで考える と便利である。
いま考えているような運動では、この軸は剛体に固定されたものになっている。
このまわりの慣性モーメントをIGとすると、角運動量Lz'(108 ページ式②参照)は、
L I I d
z'= Gω = G dtϕ
であるから、2.5 節の式(2.43)は、
=
∑
×i
i
dt i
dL r F
' '
I d
( )
dt
x F y F
G i iy i ix
2 2
ϕ =
∑
' − ' (2. 57)となる。
上式を用いて、次ページでは斜面を転がり落ちる一様な円板について説明するが、摩擦 がなくて滑り落ちる物体と比較すると以下の通りである。
転がり落ちる円板(次ページ) 滑り落ちる物体(1.7 節) 加速度 (2/3)gsinθ gsinθ
速度 (2/3)gtsinθ gtsinθ 運動エネルギ 2 2sin2θ
2 1 9
4 mg t 2 2sin2θ
2
1mg t
従って、摩擦がなくて滑り落ちる物体と比較すると、加速度は 2/3、運動エネルギーは 4/9 になることがわかる。
y
x Mg
R
F
θ θ
図 2‑ 21 斜面を転落する円板
[例題 2. 12]
傾角θの斜面の最大傾斜線に沿ってすべることなく転がり落ちる一様な円板(質量M、 半径a)の運動を調べる。円板に働く力は重心(円板の中心)に重力、斜面との接点での摩 擦力Fと垂直抗力Rの3力である。
この例題において、式(2.56)、式(2.57)は、
Md X dt
Mg F
2
2 = sinθ− (a) Md Y
dt
R Mg
2
2 = − cosθ (b) I d
dt
G Fa
2 2
ϕ = − (c)
上式のFもRも未知なので、これらからX t( ), Y t( ), ϕ( )t を求めることはできない。それ はFやRは、円板が斜面にめりこまず、滑ることなく転がるように現れる拘束力だから である。
そこで、円板の回転角度をϕとすると、
a t t X Y
d d d
d 0
− ϕ
=
=
①
という条件に合うようにFやRの力が生じている。従って、上式Y =0より式(b)は、
R= Mgcosθ
[例題 2.10]の結果からIG = Ma2/2が得られるから、これを式(c)に代入し、式①と式(a) を用いると(導出は 117 ページ参照)、
d X dt
g
2 2
2
= 3 sinθ ②
となり、摩擦がなくて滑り落ちる時に比べると加速度が 2/3 になっていることがわかる。
これを積分して、t =0で 0 d ,d
0 =
= t
X X とすると、
= sinθ 3
2gt dt
dX
= sinθ 3
1 2
gt
X
となる。
この例でX =lのときを考えると、円板は重力の働く方向にlsinθだけ下がったことにな るから、1.8.1 節の式(1.60)(重力場の位置エネルギー)=Mghより、
(位置エネルギー)=Mglsinθ だけ位置エネルギーは減少している。
[115 ページ式②の導出]
[例題 2.10]の結果からIG = Ma2/2が得られるから、これを 115 ページ式(c)に代入する と、
2 2 2
2 2
d d d 2
d 1
2 M a t
a t
F = Ma ϕ =− ϕ
115 ページ式①
a t t X
d d d
d =− ϕより 2
2 2
2
d d d
d
t X a tϕ =−
であるから、上式は、
2 2
d d
2 t
X
F = M
これを 115 ページ式(a)に代入すると、
2
2 2
2
d d sin 2
d d
t X Mg M
t
M X = θ−
d X dt
g
2 2
2
= 3 sinθ
[問題 2. 17]
質量のない長さ2rの棒の両端にそれぞれ質量mの物 体が固定され、滑らかな水平面を滑っていく。中心の 速さがV 、中心周りの水平面内における回転の角速度 がωのとき、物体の運動エネルギーはどれだけか。た だし、物体の大きさは十分小さいとする。
m m
2r G
V
ω