タイトル
刑事判例研究 福井簡判平成30年5月21日(覚醒剤い
たずらドッキリ事件)
著者
神元, 隆賢; KANMOTO, Takayoshi
引用
北海学園大学法学研究, 54(3): 63-76
発行日
2018-12-30
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覚
醒
剤
に
見
せ
か
け
た
白
い
粉
末
入
り
の
ポ
リ
袋
を
警
察
官
の
前
で
落
と
し
て
走
り
去
り
、
警
察
に
追
跡
さ
せ
、
そ
の
様
子
を
撮
影
し
た
動
画
を
⽛
い
た
ず
ら
ド
ッ
キ
リ
⽜
の
タ
イ
ト
ル
で
動
画
サ
イ
ト
に
投
稿
し
た
場
合
に
つ
い
て
、
偽
計
業
務
妨
害
罪
の
成
立
を
認
め
た
事
例
福
井
簡
裁
平
成
三
〇
年
五
月
二
一
日
判
決
(
控
訴
)
(
平
二
九
(
ろ
)
二
号
・
平
二
九
(
ろ
)
三
号
:
偽
計
業
務
妨
害
被
告
事
件
)
(
判
例
集
未
登
載
)
神
元
隆
賢
【 事 実 の 概 要 】 被 告 人 は 、 元 妻 ( 公 判 時 ) A と 共 謀 の 上 、 平 成 二 九 年 八 月 二 六 日 午 後 三 時 五 九 分 こ ろ 、 福 井 県 福 井 警 察 署 a 交 番 前 歩 道 上 に お い て 、 前 記 交 番 に 勤 務 す る 福 井 県 福 井 警 察 署 警 部 補 B の 面 前 で 、 覚 せ い 剤 を 所 持 し て い そ う な 人 物 を 演 じ る た め 、 両 腕 の 入 れ 墨 が 露 出 す る 服 装 を 着 用 し た う え 、 覚 せ い 剤 に 偽 装 し た グ ラ ニ ュ ー 糖 入 り チ ャ ッ ク 付 き ポ リ 袋 を 、 着 用 し て い た ズ ボ ン の ポ ケ ッ ト か ら 故 意 に 落 と し 、こ れ を 拾 っ て 逃 走 し 、 前 記 B を し て 、 違 法 薬 物 を 所 持 し た 犯 人 が 逃 走 を 図 っ た も の 北研 54 (3・63) 157 〈刑事判例研究〉と 誤 信 さ せ 、 前 記 B に 被 告 人 を 追 跡 さ せ る と と も に 、 同 人 の 無 線 連 絡 に 基 づ き 発 せ ら れ た 指 令 等 に よ り 、 そ の こ ろ か ら 同 日 午 後 七 時 二 五 分 こ ろ ま で の 間 、 同 人 ら 福 井 県 警 察 職 員 二 八 名 に 、 被 告 人 の 逃 走 現 場 へ の 臨 場 、 被 告 人 の 福 井 県 福 井 警 察 署 へ の 任 意 同 行 、 被 告 人 に 対 す る 取 調 べ 等 の 徒 労 の 業 務 に 従 事 さ せ た 。 同 月 三 〇 日 、 被 告 人 は 、 A が 被 告 人 の 逃 走 の 様 子 を 撮 影 し た 動 画 を 、 動 画 サ イ ト ⽛ ユ ー チ ュ ー ブ ⽜ に ⽛ 覚 醒 剤 い た ず ら ド ッ キ リ ⽜ の タ イ ト ル で 投 稿 し 、 こ の 動 画 は 一 〇 〇 万 回 以 上 再 生 さ れ た ( 1) 。 以 上 の 事 案 に つ き 、被 告 人 は 偽 計 業 務 妨 害 罪 で 起 訴 さ れ た 。 こ れ に 対 し 弁 護 人 は 、 ① 本 件 は 、 覚 せ い 剤 取 締 と い う 権 力 的 公 務 に 対 す る 偽 計 に よ る 妨 害 で あ る か ら 、 刑 法 第 二 三 三 条 に い う ⽛ 業 務 ⽜ に 該 当 し な い 、 被 告 人 の 行 為 が な け れ ば 遂 行 さ れ て い た は ず の 警 察 官 ら の 刑 事 当 直 、 警 ら 活 動 、 交 番 勤 務 等 の 業 務 の 遂 行 と い う の は 、 薬 物 事 件 の 対 応 と い う 権 力 的 公 務 が 妨 害 さ れ た こ と の 反 射 効 で あ っ て 、 薬 物 事 件 の 対 応 と は 表 裏 一 体 の 関 係 が あ る か ら 、 反 射 効 を 持 ち 出 し て 権 力 的 公 務 に 当 た ら な い と い う の は 詭 弁 で あ る 、 ② 業 務 妨 害 罪 の 成 立 範 囲 に つ い て 、 故 意 の 面 か ら 、 被 告 人 は 、 交 番 で 検 査 し て グ ラ ニ ュ ー 糖 と 分 か り 帰 し て も ら え る か 、せ い ぜ い パ ト カ ー 一 台 、 二 、 三 人 の 応 援 だ と 認 識 し て い た に す ぎ な い か ら 、 そ の 認 識 に 基 づ く 範 囲 に 対 す る 妨 害 の み が 、 ま た 、 因 果 関 係 の 面 か ら 、 覚 せ い 剤 簡 易 検 査 キ ッ ト ⽛ M X チ ェ ッ カ ー ⽜ に よ る 予 試 験 で 砂 糖 と 判 明 し た 時 点 ま で が 業 務 妨 害 罪 の 成 立 範 囲 で あ る 、 ③ 覚 せ い 剤 撲 滅 に 向 け た 啓 発 が 目 的 で あ る か ら 違 法 性 が 阻 却 さ れ る 、 ④ 本 件 は 軽 犯 罪 法 第 一 条 一 六 号 ( 虚 構 申 告 の 罪 ) ま た は 三 一 号 ( 悪 戯 な ど に よ る 業 務 妨 害 の 罪 ) が 成 立 す る に と ど ま る 、平 成 二 三 年 法 律 第 七 四 号 に よ り 強 制 執 行 行 為 妨 害 罪( 刑 法 第 九 六 条 の 三 第 一 項 ) が 新 設 さ れ た こ と か ら 、 権 力 的 公 務 に 対 す る 偽 計 に よ る 妨 害 に つ い て は 特 別 な 立 法 が 必 要 で あ る と い う の が 国 法 の 姿 勢 で あ る 旨 主 張 し た 。 【 判 旨 】 有 罪 ( 罰 金 四 〇 万 円 )。 ① に つ い て は 、⽛ 業 務 妨 害 罪 の 客 体 に は 、 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 は 含 ま れ な い と さ れ る が 、 そ の 理 由 は 、 強 制 力 を 行 使 す る よ う な 公 務 は 、 暴 行 ・ 脅 迫 に 至 ら な い 程 度 の 威 力 や 偽 計 に よ る 妨 害 は 、 強 制 力 に よ っ て 排 除 し う る か ら 、 あ え て 業 務 妨 害 罪 に よ っ て 保 護 す る ま で も な い と い う 点 に あ る 。 そ 北研 54 (3・64) 158 北研 54 (3・65) 159
う す る と 、 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 で あ る か ど う か に つ い て は 、 当 該 公 務 員 の 一 般 的 な 地 位 、 権 限 に よ っ て で は な く 、 対 象 と さ れ る 公 務 が 、 実 際 に 強 制 力 を 行 使 し う る 局 面 に あ る か 、 強 制 力 に よ る 妨 害 排 除 を 期 待 し う る か と い っ た 観 点 か ら 検 討 す べ き で あ る 。 本 件 に お い て 、 被 告 人 は 、 a 交 番 前 歩 道 上 に お い て 、 警 部 補 B の 面 前 で 、 覚 せ い 剤 様 に 偽 装 し た 白 色 結 晶 粉 末 在 中 の チ ャ ッ ク 付 き ポ リ 袋 を 、 故 意 に 落 と し 、 こ れ を 拾 っ て 逃 走 し て い る と こ ろ 、 こ の よ う な 妨 害 行 為 に 対 し て は 、 こ れ を 強 制 力 に よ っ て 排 除 す る こ と は 不 可 能 で あ り 、 前 記 白 色 結 晶 粉 末 が 違 法 薬 物 で は な い と た だ ち に 看 破 で き な い 限 り は 、 こ れ に 対 応 す る 徒 労 の 業 務 を 余 儀 な く さ れ る の で あ る か ら 、 そ の 結 果 と し て 、 被 告 人 の 妨 害 行 為 さ え な け れ ば 遂 行 さ れ て い た は ず の 判 示 の 刑 事 当 直 、 警 ら 活 動 、 交 番 勤 務 等 の 業 務 は 、 業 務 妨 害 罪 の 業 務 に 当 た る と い う べ き で あ る 。⽜ と し た 。 ② に つ い て は 、⽛ 覚 せ い 剤 所 持 事 案 に お い て は 、 職 務 質 問 及 び 所 持 品 検 査 を 行 い 、 何 ら か の 薬 物 様 の 物 な い し は そ の 使 用 用 具 が 発 見 さ れ れ ば 、 薬 物 予 試 験 を 実 施 し 、 仮 に 、 薬 物 予 試 験 に お い て 陰 性 も し く は 陽 性 反 応 と は 異 な る 変 色 を 呈 し た 場 合 に お い て も 、 本 鑑 定 を 実 施 す る 必 要 が 認 め ら れ る た め 、 薬 物 様 の 物 を 保 管 す る 措 置 を 取 っ た 上 、 被 疑 者 を 警 察 署 に 任 意 同 行 し 、 薬 物 様 の 物 の 押 収 手 続 や 、 被 疑 者 に 対 し 、 任 意 採 尿 を 求 め る 等 の 捜 査 を 行 う こ と に な り 、 被 疑 者 が 逃 走 や 証 拠 物 の 隠 匿 を 図 る な ど の 行 為 を し た 場 合 に は 、 少 な く と も 三 〇 名 前 後 の 警 察 職 員 が 動 員 さ れ る と い う の で あ る か ら 、 本 件 で な さ れ た 捜 査 や 動 員 さ れ た 警 察 職 員 も 、 被 告 人 が 警 察 官 に 誤 信 さ せ よ う と し た 覚 せ い 剤 所 持 の 犯 人 が 逃 走 を 図 っ た 事 案 に 必 要 か つ 相 当 な も の で あ っ た と 認 め ら れ る 。 弁 護 人 は 、 M X チ ェ ッ カ ー に よ る 予 試 験 で 砂 糖 と 判 明 し た 時 点 か ら 後 に つ い て は 業 務 妨 害 罪 の 成 立 を 争 う が 、 証 拠 に よ る と 、 予 試 験 で は 、 覚 せ い 剤 の 陽 性 反 応 は 示 さ な か っ た も の の 、 砂 糖 と 判 明 し た わ け で は な く 、 被 告 人 が 逃 走 し て い る こ と な ど か ら 、 何 ら か の 違 法 薬 物 の 可 能 性 も 否 定 で き な か っ た の で あ る か ら 、 そ の 後 も 取 調 べ 等 を 行 う 必 要 性 が あ っ た と い う べ き で あ る 。 … … 被 告 人 自 身 、 警 察 署 に 連 れ て 行 か れ 、 尿 検 査 を さ れ た り 、 取 調 べ を 受 け 、 あ る 程 度 の 時 間 が か か る こ と に つ い て の 認 識 も あ っ た も の と 認 め ら れ る 。 そ う す る と 、 業 務 妨 害 罪 の 成 立 に 妨 害 結 果 の 発 生 が 必 要 と し て も 、 そ の 点 に つ い て の 被 告 人 の 故 意 に 欠 け る と こ ろ は な い 。⽜ と し た 。 ③ に つ い て は 、⽛ 被 告 人 は 、 捜 査 段 階 に お い て 、 動 機 に つ い 北研 54 (3・64) 158 判 例 研 究 北研 54 (3・65) 159 〈刑事判例研究〉
て 、 本 件 の 一 年 半 ほ ど 前 か ら 、 動 画 を ユ ー チ ュ ー ブ に 投 稿 し て 、 再 生 さ れ る こ と に よ っ て 広 告 収 入 を 得 る ユ ー チ ュ ー バ ー を し て い て 、 再 生 回 数 を 増 や す た め に 過 激 な 動 画 を 投 稿 し て い た も の の 、 思 っ た ほ ど 再 生 回 数 が 伸 び な い 中 で 、 再 生 回 数 を 増 や し 、 そ れ に よ り チ ャ ン ネ ル 登 録 者 数 を 増 や し て 、 多 額 の 広 告 収 入 を 得 る 目 的 で ⽝ い た ず ら ド ッ キ リ ⽞ を し よ う と 考 え 、 本 件 を 思 い つ い た と 供 述 し て い る 。 … … さ ら に 、 本 件 へ の 協 力 や そ の 実 行 に 反 対 し た 元 妻 を 説 得 す る 際 に も 、 何 ら 覚 せ い 剤 撲 滅 に 向 け た 啓 発 目 的 な ど と は 言 っ て い な い こ と か ら す れ ば 、 被 告 人 の 主 な 目 的 が 面 白 い 動 画 を 撮 っ て 、 再 生 回 数 を 上 げ 、 広 告 料 収 入 を 得 る た め で あ っ た と 認 め ら れ 、 被 告 人 の 行 為 が 正 当 行 為 と し て 違 法 性 が 阻 却 さ れ る 余 地 は な い 。⽜ と し た 。 ④ に つ い て は 、⽛ 軽 犯 罪 法 一 条 三 一 号 は 、 業 務 妨 害 罪 ( 刑 法 二 三 三 条 、 二 三 四 条 ) 及 び 公 務 執 行 妨 害 罪 の 補 充 規 定 で あ り 、 軽 犯 罪 法 一 条 三 一 号 違 反 の 罪 が 成 立 し う る の は 、 業 務 妨 害 罪 等 が 成 立 し な い よ う な 違 法 性 の 程 度 の 低 い 場 合 に 限 ら れ る と 解 さ れ る 。 本 件 に お い て 、 被 告 人 … … の 行 為 は 、 当 該 警 察 官 を し て 覚 せ い 剤 所 持 の 犯 人 が 逃 走 し た と 誤 信 さ せ る に 十 分 な 行 為 で あ り 、 巧 妙 か つ 計 画 的 な 犯 行 で あ る こ と 、 そ し て 、 当 該 警 察 官 が 、 被 告 人 を 追 跡 し 、 職 務 質 問 や 所 持 品 検 査 等 を す る こ と に な り 、 通 常 の 覚 せ い 剤 所 持 事 案 と 同 様 の 対 応 を 余 儀 な く さ せ る こ と が 十 分 予 見 で き 、被 告 人 も 予 見 し て い た こ と 、 実 際 に 、 多 数 の 警 察 官 が 徒 労 の 業 務 を 余 儀 な く さ れ た こ と 等 に 照 ら す と 、 被 告 人 の 本 件 行 為 は 違 法 性 が 高 く 、⽝ 悪 戯 な ど ⽞ で は な く 、 偽 計 に よ る 本 罪 に 該 当 す る 。 な お 、 偽 計 業 務 妨 害 罪 が 成 立 す る 以 上 同 条 一 六 号 違 反 の 罪 も 成 立 し な い 。 … … 弁 護 人 は 刑 法 九 六 条 の 三 第 一 項 の 罪 と の 関 係 を 云 々 す る が 、 同 罪 の 対 象 と な る の は 、 強 制 執 行 に お け る 執 行 官 等 の 執 行 行 為 で あ り 、 こ の よ う な 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 は 、 業 務 妨 害 罪 に い う ⽝ 業 務 ⽞ に 当 た ら な い た め 、 威 力 や 偽 計 を 用 い て 、 執 行 官 等 に よ る 強 制 執 行 の 行 為 を 妨 害 す る 行 為 を 処 罰 対 象 と し た も の で あ る と こ ろ 、 本 件 で 妨 害 さ れ た の は 、 何 ら 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 で は な い の で あ る か ら 、 採 用 で き な い 。⽜ と し た 。 【 評 釈 】 一 本 件 で 問 題 と な る の は 、 以 下 の 三 点 で あ る 。 第 一 は 、 公 務 員 の 執 行 す る ⽛ 公 務 ⽜ が 、 業 務 妨 害 罪 の 客 体 で あ る ⽛ 業 務 ⽜ に 含 ま れ う る か と い う 点 で あ る 。 公 務 の 執 行 北研 54 (3・66) 160 北研 54 (3・67) 161
に 対 し 、 暴 行 ・ 脅 迫 を 手 段 と し て こ れ を 妨 害 し た 場 合 に は 、 公 務 執 行 妨 害 罪 ( 刑 法 第 九 五 条 第 一 項 ) が 成 立 す る 。 一 方 、 暴 行 ・ 脅 迫 に は 及 ば な い 程 度 の 威 力 ・ 偽 計 を 手 段 と し て こ れ を 妨 害 し た 場 合 に は 、⽛ 暴 行 又 は 脅 迫 を 加 え た ⽜ こ と を 構 成 要 件 と す る 公 務 執 行 妨 害 罪 の 成 立 を 認 め る こ と は で き な い が 、 し か し 威 力 業 務 妨 害 罪 ( 刑 法 第 二 三 四 条 ) や 偽 計 業 務 妨 害 罪 ( 刑 法 第 二 三 三 条 ) で あ れ ば 成 立 を 認 め る 余 地 は あ る の か が 議 論 さ れ て い る 。 こ れ が 、 公 務 は 業 務 に 含 ま れ う る か と い う 問 題 で あ る 。 こ れ に つ き 、 近 年 の 判 例 は 、 問 題 と な る 公 務 が 、 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 に 該 当 し な い の で あ れ ば 、 少 な く と も 威 力 業 務 妨 害 罪 の 業 務 に は 含 ま れ る と 解 し て い る 。 最 判 昭 和 六 二 年 三 月 一 二 日 刑 集 四 一 巻 二 号 一 四 〇 頁 ( 新 潟 県 議 会 事 件 ) は 、 新 潟 県 議 会 に お け る 総 務 文 教 委 員 会 の 委 員 長 や 委 員 ら が 、 同 県 の 条 例 改 正 案 の 審 議 、 採 決 の た め 、 同 県 庁 舎 内 の 委 員 会 室 に お い て 着 席 し 他 の 委 員 の 到 着 を ま っ て 開 会 し よ う と し て い た と こ ろ 、 被 告 人 ら 約 二 〇 〇 名 の 労 働 組 合 員 ら が 委 員 会 室 に 侵 入 し 、 罵 声 を 浴 び せ 、 机 を 叩 く な ど し た う え 、 委 員 長 の 退 室 要 求 も 無 視 し て 同 室 内 を 占 拠 し 、 議 案 審 議 、 採 決 を 一 時 不 能 に し た 事 案 に つ い て 、⽛ 本 件 に お い て 妨 害 の 対 象 と な つ た 職 務 は 、 新 潟 県 議 会 総 務 文 教 委 員 会 の 条 例 案 採 決 等 の 事 務 で あ り 、 な ん ら 被 告 人 ら に 対 し て 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 で は な い の で あ る か ら 、 右 職 務 が 威 力 業 務 妨 害 罪 に い う ⽝ 業 務 ⽞ に 当 た る と し た 原 判 断 は 、 正 当 で あ る ⽜ と し て 、 威 力 業 務 妨 害 罪 の 成 立 を 認 め た 。 最 判 平 成 一 二 年 二 月 一 七 日 刑 集 五 四 巻 二 号 三 八 頁 は 、 被 告 人 が 、 公 職 選 挙 法 上 の 選 挙 長 の 立 候 補 届 出 受 理 業 務 を 妨 害 し よ う と し て 、 立 候 補 届 出 を す る と 称 し 、 立 候 補 届 出 人 受 付 順 位 を 決 定 す る く じ の 実 施 や 、立 候 補 届 出 の 必 要 書 類 の 作 成 を 、 偽 計 や 威 力 を 用 い て 故 意 に 遅 延 さ せ た 事 案 に つ い て 、⽛ 本 件 に お い て 妨 害 の 対 象 と な っ た 職 務 は 、 公 職 選 挙 法 上 の 選 挙 長 の 立 候 補 届 出 受 理 事 務 で あ り 、 右 事 務 は 、 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 で は な い ⽜ と し て 、 業 務 妨 害 罪 ( 第 二 三 三 条 、 第 二 三 四 条 ) の 成 立 を 認 め た 。 最 判 平 成 一 四 年 九 月 三 〇 日 刑 集 五 六 巻 七 号 三 九 五 頁 は 、 新 宿 西 口 地 下 通 路 上 に お い て 、 多 数 の 路 上 生 活 者 が 段 ボ ー ル 小 屋 を 置 い て 起 居 し て い た と こ ろ 、 東 京 都 は 通 行 人 の 利 便 性 を 高 め る 目 的 で 新 宿 駅 西 口 地 下 通 路 に ⽛ 動 く 歩 道 ⽜ を 設 置 し よ う と 計 画 し 、 路 上 生 活 者 を 自 主 的 に 退 去 さ せ た 後 で 段 ボ ー ル や ゴ ミ を 撤 去 す る 作 業 を 行 お う と し 、こ れ に 対 し 被 告 人 ら が 、 北研 54 (3・66) 160 判 例 研 究 北研 54 (3・67) 161 〈刑事判例研究〉
工 事 を 実 力 で 阻 止 し よ う と し て バ リ ケ ー ド を 構 築 し て 座 り 込 み 、 鶏 卵 、 花 火 等 を 投 げ つ け 消 化 器 を 噴 射 し 怒 号 す る な ど し た 事 案 に つ い て 、⽛ 本 件 に お い て 妨 害 の 対 象 と な っ た 職 務 は … … 環 境 整 備 工 事 で あ っ て 、 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 で は な い か ら 、 刑 法 二 三 四 条 に い う ⽝ 業 務 ⽞ に 当 た る と 解 す る の が 相 当 で あ り … … こ の こ と は 、 … … 段 ボ ー ル 小 屋 の 中 に 起 居 す る 路 上 生 活 者 が 警 察 官 に よ っ て 排 除 、 連 行 さ れ た 後 、 そ の 意 思 に 反 し て そ の 段 ボ ー ル 小 屋 が 撤 去 さ れ た 場 合 で あ っ て も 異 な ら な い と い う べ き で あ る 。⽜ と し て 、 威 力 業 務 妨 害 罪 の 成 立 を 認 め た 。 東 京 地 判 平 成 二 八 年 二 月 一 六 日 ( 判 例 集 未 登 載 、 首 相 官 邸 無 人 機 落 下 事 件 ) は 、 被 告 人 が 、 福 島 県 か ら 採 取 し た 放 射 性 物 質 を 含 有 す る 土 砂 を 茶 色 ボ ト ル に 入 れ 、 放 射 能 標 識 及 び 放 射 能 が あ る こ と を 意 味 す る ⽛ R A D I O A C T I V E ⽜ の 文 字 が 印 刷 さ れ た シ ー ル を 貼 付 し 、 こ れ と 緊 急 保 安 炎 筒 二 本 を 小 型 無 人 飛 行 機 に 搭 載 す る と と も に 、⽛ 原 発 再 稼 働 反 対 官 邸 サ ン タ ⽜ と 書 か れ た 紙 片 を 小 型 無 人 飛 行 機 に 貼 付 し て 、 遠 隔 操 作 に よ り 小 型 無 線 飛 行 機 を 総 理 大 臣 官 邸 屋 上 に 落 下 さ せ 、 後 日 、 内 閣 官 房 内 閣 総 務 官 室 総 理 大 臣 官 邸 事 務 所 庁 舎 管 理 担 当 所 長 補 佐 が 官 邸 の 屋 上 を 視 察 し た 際 に こ れ を 発 見 、 警 備 担 当 の 職 員 に 連 絡 し 、 予 定 し て い た 視 察 を 中 止 す る と と も に 、 上 司 で あ る 官 邸 事 務 所 長 に 状 況 を 説 明 し て 、 警 察 官 の 事 情 聴 取 を 受 け る な ど し 、 同 官 邸 事 務 所 庶 務 担 当 所 長 補 佐 も 通 常 業 務 等 を 中 止 し 、報 道 機 関 か ら の 問 い 合 わ せ に 対 す る 対 応 、 国 会 議 員 に 対 す る 説 明 を 行 う な ど し た 事 案 に つ い て 、 上 掲 最 判 昭 和 六 二 年 三 月 一 二 日 を 引 用 し て⽛ 業 務 妨 害 罪 の 客 体 に は 、 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 は 含 ま れ な い と 解 さ れ る ⽜ と し た う え で 、 官 邸 事 務 所 の 庁 舎 管 理 や 庶 務 な ど の 事 務 は 権 力 的 公 務 で な い と し て 、 当 該 公 務 を ⽛ 業 務 ⽜ に 含 め て 威 力 業 務 妨 害 罪 の 客 体 と し て 認 め た 。 も っ と も 、 公 務 が 威 力 業 務 妨 害 罪 の 業 務 に 加 え て 、 偽 計 業 務 妨 害 罪 の 業 務 に も 含 ま れ う る か は 検 討 を 要 す る 。 東 京 高 判 平 成 二 一 年 三 月 一 二 日 高 刑 集 六 二 巻 一 号 二 一 頁 は 、 被 告 人 が 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 掲 示 板 に お い て 一 週 間 以 内 に 土 浦 駅 に お い て 無 差 別 殺 人 を 実 行 す る 旨 の 虚 構 の 犯 罪 予 告 を し 、 こ れ を 閲 覧 し た 者 か ら の 通 報 を 介 し て 警 察 官 八 名 が 駅 構 内 及 び そ の 周 辺 等 へ の 出 動 、警 戒 等 に 従 事 し た 事 案 に つ い て 、 ⽛ 最 近 の 最 高 裁 判 例 に お い て 、⽝ 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 ⽞ が 本 罪 に い う 業 務 に 当 た ら な い と さ れ て い る の は 、 暴 行 ・ 脅 迫 に 至 ら な い 程 度 の 威 力 や 偽 計 に よ る 妨 害 行 為 は 強 制 力 に 北研 54 (3・68) 162 北研 54 (3・69) 163
よ っ て 排 除 し 得 る か ら な の で あ る 。 本 件 の よ う に 、 警 察 に 対 し て 犯 罪 予 告 の 虚 偽 通 報 が な さ れ た 場 合 ( イ ン タ ー ネ ッ ト 掲 示 板 を 通 じ て の 間 接 的 通 報 も 直 接 的 一 一 〇 番 通 報 と 同 視 で き る 。) 、 警 察 に お い て は 、 直 ち に そ の 虚 偽 で あ る こ と を 看 破 で き な い 限 り は 、 こ れ に 対 応 す る 徒 労 の 出 動 ・ 警 戒 を 余 儀 な く さ せ ら れ る の で あ り 、 そ の 結 果 と し て 、 虚 偽 通 報 さ え な け れ ば 遂 行 さ れ た は ず の 本 来 の 警 察 の 公 務 ( 業 務 ) が 妨 害 さ れ る ( 遂 行 が 困 難 な ら し め ら れ る ) の で あ る 。 妨 害 さ れ た 本 来 の 警 察 の 公 務 の 中 に 、 仮 に 逮 捕 状 に よ る 逮 捕 等 の 強 制 力 を 付 与 さ れ た 権 力 的 公 務 が 含 ま れ て い た と し て も 、 そ の 強 制 力 は 、 本 件 の よ う な 虚 偽 通 報 に よ る 妨 害 行 為 に 対 し て 行 使 し 得 る 段 階 に は な く 、 こ の よ う な 妨 害 行 為 を 排 除 す る 働 き を 有 し な い の で あ る 。 し た が っ て 、 本 件 に お い て 、 妨 害 さ れ た 警 察 の 公 務 ( 業 務 ) は 、 強 制 力 を 付 与 さ れ た 権 力 的 な も の を 含 め て 、 そ の 全 体 が 、 本 罪 に よ る 保 護 の 対 象 に な る と 解 す る の が 相 当 で あ る ⽜ と し て 、 偽 計 業 務 妨 害 罪 の 成 立 を 認 め た 。 東 京 高 判 平 成 二 一 年 三 月 一 二 日 は 、⽛ 強 制 力 を 付 与 さ れ た 権 力 的 な も の を 含 め て 、 そ の 全 体 ⽜ が 業 務 に 含 ま れ る と し て い る か ら 、 公 務 は す べ て 、 偽 計 業 務 妨 害 罪 の 業 務 に 含 ま れ る と の 立 場 に 立 っ て い る と 見 る こ と が で き よ う 。 一 方 、 学 説 上 は 激 し い 対 立 が あ る 。 積 極 説 は 、 刑 法 は と く に 業 務 に つ い て も 公 務 に つ い て も 限 定 を 加 え て い な い こ と か ら 、 公 務 は 業 務 に 含 ま れ 、 公 務 に 対 す る 業 務 妨 害 罪 の 成 立 は す べ て 認 め ら れ る と す る ( 2) 。 さ ら に 、 妨 害 の 手 段 が 暴 行 ・ 脅 迫 に 及 ぶ 場 合 に は 業 務 妨 害 罪 と 公 務 執 行 妨 害 罪 の 同 時 の 成 立 を 許 容 し 、 両 罪 は 観 念 的 競 合 に な る と す る ( 3) 。 こ れ に よ れ ば 、 偽 計 に よ る 公 務 の 妨 害 に つ い て は 、 当 然 に 偽 計 業 務 妨 害 罪 が 成 立 す る 。 消 極 説 は 、公 務 は 業 務 に 含 ま れ な い と す る ( 4) 。 こ れ に よ れ ば 、 暴 行 な い し 脅 迫 に 及 ば な い 威 力 、 偽 計 に よ る 公 務 の 妨 害 は 不 可 罰 と な る 。 身 分 振 分 け 説 は 、 非 公 務 員 で あ る 郵 便 集 配 人 の 郵 便 集 配 業 務 を 業 務 に 含 め た 従 来 の 判 例 を 参 照 し 、 公 務 員 の 公 務 は 業 務 に 含 ま れ な い が 、 非 公 務 員 の 従 事 す る 公 務 は 業 務 に 含 ま れ る と す る ( 5) 。 こ れ に よ れ ば 、 偽 計 に よ る 公 務 の 妨 害 は 原 則 不 可 罰 だ が 、 被 害 者 が 公 務 に 従 事 す る 非 公 務 員 で あ っ た 場 合 に は 偽 計 業 務 妨 害 罪 が 成 立 す る 。 現 業 説 は 、 公 務 の う ち 、 権 力 的 公 務 は 業 務 に 含 ま れ ず 公 務 執 行 妨 害 罪 に よ っ て の み 保 護 さ れ る が 、 鉄 道 ・ バ ス に お け る 公 務 や 旧 郵 便 局 の 公 務 の よ う な ⽛ 非 権 力 的 公 務 こ と に 現 業 的 北研 54 (3・68) 162 判 例 研 究 北研 54 (3・69) 163 〈刑事判例研究〉
な 公 務 ⽜ に つ い て は 一 般 の 民 間 業 務 と の 間 に 実 質 的 な 区 別 を 認 め る こ と が で き な い か ら 、 業 務 に 含 ま れ 業 務 妨 害 罪 に よ っ て の み 保 護 さ れ る と す る ( 6) 。 こ れ に よ れ ば 、 権 力 的 公 務 を 偽 計 に よ り 妨 害 し た 場 合 は 不 可 罰 と な り 、 現 業 的 公 務 を 偽 計 に よ り 妨 害 し た 場 合 は 偽 計 業 務 妨 害 罪 が 成 立 す る 。 公 務 振 分 け 説 ( 公 務 区 別 説 、 民 間 類 似 説 ) は 、 公 務 の う ち 、 権 力 的 公 務 は 業 務 に 含 ま れ ず 公 務 執 行 妨 害 罪 に よ っ て の み 保 護 さ れ る が 、 国 公 立 学 校 や 鉄 道 ・ バ ス に お け る 公 務 の よ う な 、 非 権 力 的 公 務 と く に 私 企 業 的 性 格 を 持 つ 公 務 は 業 務 に 含 ま れ 業 務 妨 害 罪 に よ っ て の み 保 護 さ れ る と す る ( 7) 。 本 説 の 結 論 は 、 非 権 力 的 公 務 に お け る 私 企 業 的 性 格 が 重 視 さ れ る と い う 相 違 は あ る も の の 、 現 業 説 と ほ ぼ 同 一 に な る 。 限 定 積 極 説 は 、 基 本 的 に は 公 務 振 分 け 説 を 支 持 す る が 、 非 権 力 的 公 務 に 対 す る 妨 害 の 手 段 が 暴 行 ・ 脅 迫 に 及 ぶ 場 合 に は 業 務 妨 害 罪 と 公 務 執 行 妨 害 罪 の 同 時 の 成 立 を 許 容 し 、 両 罪 は 観 念 的 競 合 に な る と す る ( 8) 。 こ れ に よ れ ば 、 権 力 的 公 務 を 偽 計 に よ り 妨 害 し た 場 合 は 不 可 罰 と な り 、 非 権 力 的 公 務 を 偽 計 に よ り 妨 害 し た 場 合 は 偽 計 業 務 妨 害 罪 が 成 立 す る 。 修 正 積 極 説 は 、 威 力 業 務 妨 害 罪 に つ い て は 限 定 積 極 説 を 採 用 す る が 、 強 制 力 は 偽 計 に 対 し て は 無 力 で あ る と し て 、 偽 計 業 務 妨 害 罪 に つ い て は 積 極 説 を 採 用 す る ( 9) 。 こ れ ら の 学 説 に 照 ら す と 、 前 掲 東 京 高 判 平 成 二 一 年 三 月 一 二 日 は 、 強 制 力 に よ る 妨 害 排 除 を 期 待 し え な い 公 務 は 権 力 的 公 務 で あ っ て も 業 務 と し て 保 護 さ れ る と し た う え で 偽 計 業 務 妨 害 罪 の 成 立 を 認 め て い る か ら 、 基 本 的 に は 修 正 積 極 説 を 採 用 し た も の と 思 わ れ る 。 も っ と も 、 排 除 可 能 な ⽛ 偽 計 ⽜ に 対 し て は 業 務 妨 害 罪 が 成 立 し な い と も し て い る こ と か ら 、 必 ず し も 修 正 積 極 説 を 全 面 的 に 採 用 し て い る わ け で も な か ろ う 。 一 方 、 本 判 決 は 、 業 務 が 権 力 的 公 務 か 否 か に つ い て 言 及 し た う え で ⽛ 対 象 と さ れ る 公 務 が 、 実 際 に 強 制 力 を 行 使 し う る 局 面 に あ る か 、 強 制 力 に よ る 妨 害 排 除 を 期 待 し う る か と い っ た 観 点 か ら 検 討 す べ き で あ る ⽜ と し 、⽛ 刑 事 当 直 、 警 ら 活 動 、 交 番 勤 務 等 ⽜を 、⽛ 何 ら 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 で は な い ⽜ 業 務 で あ る と 結 論 づ け て 偽 計 業 務 妨 害 罪 の 成 立 を 認 め た 。 こ れ は す な わ ち 、 強 制 力 に よ る 妨 害 排 除 を 期 待 し え な い 公 務 は ⽛ 何 ら 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 で は な い ⽜ と し 、⽛ 権 力 的 公 務 ⽜ の 概 念 を 縮 小 し て 処 罰 範 囲 を 固 持 し つ つ 、⽛ 業 務 妨 害 罪 の 客 体 に は 、 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 は 含 ま れ な い ⽜ と の テ ー ゼ も 固 持 し よ う と し た の で あ ろ う 。 従 っ て 、本 判 決 は 、 東 京 高 判 平 成 二 一 年 三 月 一 二 日 の よ う に 修 正 積 極 説 を 採 用 し 北研 54 (3・70) 164 北研 54 (3・71) 165
た と は 言 い が た く 、 む し ろ 公 務 振 り 分 け 説 あ る い は 限 定 積 極 説 を 採 用 し た も の と 思 わ れ る 。 し か し 、 威 力 に よ っ て は 妨 害 さ れ な い が 、 偽 計 に よ っ て 妨 害 さ れ う る 公 務 は す べ て ⽛ 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 で は な い ⽜ と し て よ い か は 疑 問 も あ る 。 む し ろ 、 東 京 高 判 平 成 二 一 年 三 月 一 二 日 の よ う に 、 権 力 的 公 務 に 対 す る 偽 計 業 務 妨 害 罪 の 成 立 の 余 地 を 残 す べ き で は な か っ た か と も 思 わ れ る ( 10) 。 二 第 二 は 、 本 件 に お い て 被 告 人 は 覚 せ い 剤 撲 滅 に 向 け た 啓 発 目 的 に 基 づ い て 行 為 に 出 た と し て 、 正 当 行 為 に よ る 違 法 性 阻 却 を 主 張 し た と こ ろ 、 本 判 決 は ⽛ 主 な 目 的 が 面 白 い 動 画 を 撮 っ て 、 再 生 回 数 を 上 げ 、 広 告 料 収 入 を 得 る た め で あ っ た ⽜ と 認 定 し て 違 法 性 阻 却 を 否 定 し た が 、 あ る い は 被 告 人 の 目 的 が 真 に 覚 せ い 剤 撲 滅 に 向 け た 啓 発 に あ っ た な ら ば 、 正 当 行 為 と し て 違 法 性 が 阻 却 さ れ る 余 地 が あ っ た か と い う 点 で あ る 。 前 掲 東 京 地 判 平 成 二 八 年 二 月 一 六 日 は 、 原 発 再 稼 働 反 対 の ビ ラ を 貼 り 付 け た 小 型 無 人 機 を 首 相 官 邸 に 落 下 さ せ た 行 為 に つ い て 、 憲 法 上 保 障 さ れ た 表 現 の 自 由 ( 憲 法 第 二 一 条 第 一 項 ) で 保 護 さ れ る 行 為 と し て 刑 法 三 五 条 の 正 当 行 為 に あ た る と の 主 張 に 対 し 、⽛ 憲 法 も 表 現 の 自 由 を 絶 対 無 制 限 に 保 障 し た も の で は な く 、 公 共 の 福 祉 の た め 必 要 か つ 合 理 的 な 制 限 を 是 認 す る も の で あ っ て 、 そ の 手 段 が 他 人 の 権 利 等 の 他 の 法 益 を 不 当 に 害 す る よ う な も の は 許 さ れ な い と い う べ き で あ る と こ ろ 、 本 件 行 為 は 先 述 の よ う に 官 邸 職 員 の 自 由 意 思 を 制 圧 し て 対 応 等 を 余 儀 な く さ せ る 危 険 が あ る と い う も の で あ っ て 、 路 上 で 演 説 を 行 っ た り ビ ラ を 配 布 す る な ど 代 替 的 な 表 現 手 段 が あ る こ と に か ん が み て も 、 本 件 行 為 が 社 会 通 念 上 許 さ れ な い 態 様 で あ る こ と は 明 ら か で あ る 。 そ う す る と 、 本 件 ド ロ ー ン を 官 邸 に 落 下 さ せ る 行 為 を 処 罰 す る こ と は 、 表 現 の 自 由 に 対 す る 必 要 か つ 合 理 的 な 制 限 と し て 憲 法 上 是 認 さ れ る も の で あ っ て 、 当 該 行 為 は 正 当 行 為 に あ た る と い え ず 、 そ の 違 法 性 は 阻 却 さ れ な い 。⽜ と し た 。 も っ と も 、 理 論 的 に は 、 傾 向 犯 ・ 目 的 犯 に お け る 主 観 的 超 過 要 素 と し て の 傾 向 ・ 目 的 の 裏 返 し と し て 、 正 当 な 目 的 に 基 づ く 構 成 要 件 該 当 行 為 に つ い て 、 違 法 性 阻 却 を 認 め る 余 地 が な く は な い 。 主 観 的 超 過 要 素 は 、 故 意 に 加 え て 、 外 部 的 行 為 に さ ら な る 法 益 侵 害 性 を 与 え る 主 観 的 違 法 要 素 で 、 例 え ば 強 制 わ い せ つ 罪 に お け る 性 的 意 図 ( 11) を 伴 っ た 暴 行 が な さ れ た 場 合 に は 、 性 的 意 図 の 存 在 に よ り 単 な る 身 体 法 益 を 超 え た 性 的 自 由 の 侵 害 を 惹 起 す る か ら 、 暴 行 罪 よ り 重 い 強 制 わ い せ つ 罪 が 北研 54 (3・70) 164 判 例 研 究 北研 54 (3・71) 165 〈刑事判例研究〉
成 立 す る 。 こ の 裏 返 し と し て 、 外 部 的 行 為 に 正 当 行 為 の 性 格 を 与 え る 主 観 的 正 当 化 要 素 と し て の 目 的 を 認 め る こ と が で き た な ら ば 、 違 法 性 阻 却 を 認 め う る 。 も っ と も 、 主 観 的 正 当 化 要 素 に よ る 違 法 性 阻 却 を 認 め る た め に は 、 そ の ⽛ 正 当 な 目 的 ⽜ が 、 外 部 的 行 為 に よ り 惹 起 さ れ う る 法 益 侵 害 性 を 、 少 な く と も 可 罰 性 が な く な る 程 度 に ま で 軽 減 さ せ る も の で な け れ ば な ら な い 。 東 京 地 判 平 成 二 八 年 二 月 一 六 日 に お け る 被 告 人 の 行 為 は 、 原 発 再 稼 働 反 対 を 表 現 し よ う と す る 点 で 、 あ る 程 度 の 正 当 化 を 認 め う る 主 観 的 要 素 に 基 づ い た も の と い っ て よ い か も し れ な い 。 し か し 、 東 京 地 裁 が 示 し た よ う に 、 合 法 的 な ⽛ 代 替 的 な 表 現 手 段 ⽜ を と る こ と が 可 能 で あ る 以 上 は ⽛ 社 会 通 念 上 許 さ れ な い 態 様 で あ る ⽜ か ら 、 違 法 性 阻 却 を 認 め る ま で の 正 当 化 を 認 め る こ と は 困 難 で あ る 。 こ れ と 比 較 す る な ら ば 、 本 件 に お い て も 、 仮 に 目 的 が 覚 せ い 剤 撲 滅 に 向 け た 啓 発 活 動 に あ っ た と し て 、⽛ い た ず ら ド ッ キ リ ⽜ に よ ら な い 、⽛ 路 上 で 演 説 を 行 っ た り ビ ラ を 配 布 す る な ど ⽜ の 合 法 的 な ⽛ 代 替 的 な 表 現 手 段 ⽜ は 当 然 に あ り う る か ら 、 や は り 違 法 性 阻 却 は 困 難 と い う べ き で あ ろ う 。 そ も そ も 、東 京 地 判 平 成 二 八 年 二 月 一 六 日 の 外 部 的 行 為 は 、 社 会 的 に 是 認 さ れ な い と し て も 、 評 価 規 範 に 照 ら し 一 定 の 価 値 あ る 表 現 を 認 め う る か も し れ な い が 、 本 件 の 外 部 的 行 為 す な わ ち ⽛ 覚 醒 剤 い た ず ら ド ッ キ リ ⽜ の 表 現 に 、 そ の よ う な 価 値 を 認 め る こ と が で き る と は 思 わ れ な い 。 た と え 被 告 人 の 目 的 が 真 に 覚 せ い 剤 撲 滅 に 向 け た 啓 発 活 動 と い う 正 当 な も の で あ っ た と し て も 、⽛ い た ず ら ド ッ キ リ ⽜ と い う 表 現 方 法 を 採 用 し た 時 点 で 、 外 部 的 行 為 の 客 観 的 違 法 性 の 軽 減 は 不 可 能 と い う ほ か な い 。 三 第 三 は 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 一 六 号 ( 虚 構 申 告 罪 ) ま た は 三 一 号 ( 悪 戯 な ど に よ る 業 務 妨 害 の 罪 ) と 業 務 妨 害 罪 と の 関 係 で あ る 。 ま ず 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 一 六 号 の 罪 と 業 務 妨 害 罪 と の 関 係 に つ い て 、 最 判 平 成 一 五 年 三 月 一 一 日 刑 集 五 七 巻 三 号 二 九 三 頁 は 、 被 告 人 が 、 コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア で 買 っ た 紙 パ ッ ク 入 り オ レ ン ジ ジ ュ ー ス に 次 亜 塩 素 酸 イ オ ン 等 を 成 分 と す る 家 庭 用 洗 剤 を 注 入 し た う え 、 警 察 官 に 対 し て 、 上 記 コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア で 買 っ た 紙 パ ッ ク 入 り オ レ ン ジ ジ ュ ー ス に 異 物 が 混 入 し て い た 旨 虚 偽 の 申 告 を し 、 警 察 職 員 か ら そ の 旨 の 発 表 を 受 け た 報 道 機 関 を し て 、 上 記 コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア で 異 物 の 混 入 さ れ た オ レ ン ジ ジ ュ ー ス が 陳 列 、 販 売 さ れ て い た こ と を 報 北研 54 (3・72) 166 北研 54 (3・73) 167
道 さ せ た 事 案 に つ い て 、 コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア を 客 体 と す る 刑 法 第 二 三 三 条 の 信 用 毀 損 罪 及 び 偽 計 業 務 妨 害 罪 に 加 え て 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 一 六 号 の 虚 構 親 告 罪 の 成 立 を 認 め た が 、 そ の 際 、 刑 法 第 二 三 三 条 と 軽 犯 罪 法 第 一 条 一 六 号 の 関 係 に つ い て ⽛ 軽 犯 罪 法 一 条 一 六 号 は 、 異 常 な 事 態 に 対 処 す べ き 公 共 の 機 関 が 無 駄 な 活 動 を 余 儀 な く さ れ 、 ひ い て は 公 共 の 利 益 を 害 す る こ と に な る お そ れ の あ る 行 為 を 防 止 す る 趣 旨 で 規 定 さ れ た も の で あ る の に 対 し 、 刑 法 二 三 三 条 の 信 用 毀 損 罪 等 は 、 人 の 経 済 的 面 に お け る 社 会 活 動 に 対 す る 侵 害 を 内 容 と す る 犯 罪 で 、 信 用 や 業 務 の 安 全 を 保 護 す る も の で あ り 、 こ の よ う な 軽 犯 罪 法 の 立 法 趣 旨 、 両 罪 の 罪 質 、 保 護 法 益 の 相 違 等 を 考 え 併 せ る と 、 両 罪 が 特 別 法 と 一 般 法 の 関 係 に あ る と は い え な い 。 し た が っ て 、 捜 査 機 関 に 虚 偽 の 申 告 を し 、 こ れ が 公 表 さ れ て 人 の 信 用 等 が 害 さ れ た 場 合 は 、 軽 犯 罪 法 一 条 一 六 号 の 虚 構 申 告 罪 が 成 立 す る ほ か 、 刑 法 二 三 三 条 の 信 用 毀 損 罪 等 も 成 立 す る と 解 す る の が 相 当 で あ り 、 こ れ と 見 解 を 異 に す る 所 論 は 採 用 で き な い 。⽜ と 判 示 し て い る 。 さ ら に こ の 原 判 決 に あ た る 大 阪 高 判 平 成 一 四 年 六 月 一 三 日 高 刑 集 五 五 巻 二 号 三 頁 は 、⽛ 軽 犯 罪 法 一 条 一 六 号 は 、 異 常 な 事 態 に 対 処 す べ き 公 共 の 機 関 が 無 駄 な 活 動 を 余 儀 な く さ れ 、 ひ い て は 公 共 の 利 益 を 害 す る こ と に な る お そ れ の あ る 行 為 を 防 止 す る 趣 旨 で 規 定 さ れ た も の で あ る の に 対 し 、 刑 法 二 三 三 条 の 信 用 毀 損 罪 等 は 、 人 の 経 済 的 面 に お け る 社 会 活 動 に 対 す る 侵 害 を 内 容 と す る 犯 罪 で 、 信 用 や 業 務 の 安 全 を 保 護 す る も の で あ り 、 こ の よ う な 軽 犯 罪 法 の 立 法 趣 旨 、 両 罪 の 罪 質 、 保 護 法 益 の 相 違 等 を 考 え 併 せ る と 、 両 罪 が 特 別 法 と 一 般 法 の 関 係 に あ る と は い え な い 。⽜ と し て い る 。 以 上 に 照 ら せ ば 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 一 六 号 の 罪 に お け る 被 害 の 客 体 は 警 察 組 織 全 体 の 活 動 と 解 さ れ る 。 と す れ ば 、 本 件 事 案 に お い て も 、 偽 計 業 務 妨 害 罪 は 警 察 職 員 二 八 名 の 個 人 と し て の 業 務 が 被 害 の 客 体 と な り 、 そ の 一 方 で 警 察 組 織 全 体 の 活 動 が 妨 害 さ れ た と し て 、 さ ら に 軽 犯 罪 法 第 一 条 一 六 号 の 罪 の 成 立 を 認 め る 余 地 も あ る か も し れ な い 。 と く に 、 公 務 は 業 務 に 含 ま れ る か と の 問 題 に つ い て 積 極 説 を 採 る な ら ば 、 観 念 的 競 合 に よ る 罪 数 処 理 を す る に し て も 、 両 罪 の 成 立 を 認 め る こ と に 問 題 は な い 。 あ る い は 、 警 察 組 織 全 体 の 活 動 と 、 警 察 職 員 二 八 名 の 業 務 を ほ ぼ 同 視 で き る と 考 え た な ら ば 、 特 別 関 係 に よ る 処 理 を 認 め る こ と も 可 能 か も し れ な い が 、 客 体 に よ っ て 両 罪 の 罪 数 関 係 が 特 別 関 係 か 否 か が 変 更 さ れ る と い う の は 、 妥 当 と は 思 わ れ な い 。 む し ろ 、 特 別 関 係 を 否 定 し た う え 北研 54 (3・72) 166 判 例 研 究 北研 54 (3・73) 167 〈刑事判例研究〉
で 、 客 体 が 警 察 官 な い し 警 察 組 織 で あ る 場 合 に は 、 包 括 一 罪 の 吸 収 関 係 ( 12) と し て 罪 数 処 理 を す る 方 が 妥 当 か も し れ な い 。 い ず れ に せ よ 、 最 判 平 成 一 五 年 三 月 一 一 日 及 び そ の 原 判 決 に お い て 両 罪 が 法 条 競 合 の 特 別 関 係 に あ る こ と は 否 定 さ れ て い る か ら 、 本 判 決 が ⽛ 偽 計 業 務 妨 害 罪 が 成 立 す る 以 上 同 条 一 六 号 違 反 の 罪 も 成 立 し な い 。⽜ と し て 、 両 罪 が 法 条 競 合 の 特 別 関 係 で あ る か の よ う に 判 示 し た の は 、 若 干 説 明 が 不 足 で あ っ た よ う に も 思 わ れ る 。 と こ ろ で 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 一 六 号 の 罪 は 、⽛ 虚 構 の 犯 罪 ⽜ の 事 実 を ⽛ 申 し 出 る ⽜ す な わ ち 自 発 的 に 申 告 し た 場 合 に 成 立 す る と こ ろ 、 本 件 事 案 に お け る 、 グ ラ ニ ュ ー 糖 入 り チ ャ ッ ク 付 き ポ リ 袋 を ズ ボ ン の ポ ケ ッ ト か ら 落 と し た う え で 、 こ れ を 拾 っ て 逃 走 し た 行 為 が 、⽛ 申 し 出 る ⽜と い え る か が 問 題 と な る 。 こ れ に つ き 、 旭 川 簡 判 昭 和 五 〇 年 七 月 二 日 刑 月 七 巻 七 = 八 号 七 九 五 頁 は 、 地 下 歩 道 内 の 非 常 ベ ル の ボ タ ン を 悪 戯 で 押 し て 、 警 察 官 ら を 駆 け つ け さ せ た 事 案 に つ い て 、⽛ 軽 犯 罪 法 一 条 一 六 号 の 犯 罪 ま た は 災 害 の 事 実 と は 犯 罪 ま た は 災 害 そ の も の に つ い て の 具 体 的 発 生 事 実 を い う も の と 解 す る 。 こ れ を 本 件 に つ い て み る に 、 … … 被 告 人 の 所 為 は 、 確 か に そ の 日 時 、 そ の 場 所 に お け る 、 非 常 の 事 態 の 申 出 と は 認 め 得 る が 、 し か し 、 そ れ の み で は 、 未 だ 同 法 一 条 一 六 号 所 定 の 事 実 と し て の 具 体 性 に 乏 し い も の で あ る か ら 、 そ れ を 前 提 と す る 同 法 所 定 の 虚 構 申 告 の 訴 因 は 認 め ら れ な い 。⽜ と し て 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 三 一 号 の 罪 の み の 成 立 を 認 め て い る 。 と は い え 、 非 常 ベ ル の ボ タ ン を 押 す こ と が ⽛ 非 常 の 事 態 の 申 出 と は 認 め 得 る ⽜ と い う の で あ る か ら 、 こ れ に 照 ら せ ば 、 本 件 に お い て も ⽛ 申 し 出 る ⽜ 行 為 は あ っ た と 解 す る 余 地 は あ る 。 次 に 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 三 一 号 の 罪 と 業 務 妨 害 罪 と の 関 係 に つ い て は ど う か 。 軽 犯 罪 法 第 一 条 三 一 号 は 、⽛ 他 人 の 業 務 に 対 し て 悪 戯 な ど で こ れ を 妨 害 し た 者 ⽜ に つ い て 、⽛ 勾 留 又 は 科 料 に 処 す る ⽜ と 規 定 し て い る 。 こ こ で の ⽛ 業 務 ⽜ は 業 務 妨 害 罪 の ⽛ 業 務 ⽜、 公 務 執 行 妨 害 罪 の ⽛ 公 務 ⽜ の い ず れ に も 該 当 し 、 さ ら に ⽛ 強 制 力 を 行 使 す る 権 力 的 公 務 ⽜ も 軽 犯 罪 法 の ⽛ 業 務 ⽜ に 含 ま れ る と 解 さ れ て い る ( 13) 。 も っ と も 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 三 一 号 の 罪 の ⽛ 悪 戯 ⽜ は 、⽛ 威 力 ⽜ や ⽛ 偽 計 ⽜ に 至 ら な い 、 違 法 性 の 少 な い 行 為 と 解 さ れ て い る 。 例 え ば 、 上 掲 東 京 高 判 平 成 二 一 年 三 月 一 二 日 は 、 軽 犯 罪 法 第 一 条 三 一 号 の 罪 が 成 立 し う る の は 、 業 務 妨 害 罪 等 が 成 立 し な い よ う な ⽛ 違 法 性 の 程 度 の 低 い 場 合 に 限 ら れ る と 解 さ れ る ⽜ と し て お り 、 本 判 決 も ⽛ 軽 犯 罪 法 一 条 三 一 号 は 、 業 務 妨 害 罪 ( 刑 法 二 三 三 条 、 二 三 四 条 ) 北研 54 (3・74) 168 北研 54 (3・75) 169
及 び 公 務 執 行 妨 害 罪 の 補 充 規 定 で あ り 、 軽 犯 罪 法 一 条 三 一 号 違 反 の 罪 が 成 立 し う る の は 、 業 務 妨 害 罪 等 が 成 立 し な い よ う な 違 法 性 の 程 度 の 低 い 場 合 に 限 ら れ る と 解 さ れ る 。⽜ と す る 。 こ れ に 照 ら せ ば 、 両 罪 の 罪 数 関 係 は 、 法 条 競 合 の 補 充 関 係 と 解 す べ き で あ ろ う 。 ( 1) 朝 日 新 聞 二 〇 一 七 年 一 二 月 一 六 日 朝 刊 三 三 頁 。 ( 2) 植 松 正 ⽝ 刑 法 概 論 Ⅱ 各 論 ⽞( 再 訂 ・ 一 九 七 五 年 ) 三 五 一 頁 、 大 谷 實 ⽝ 刑 法 講 義 各 論 ⽞( 新 版 第 四 版 補 訂 版 ・ 二 〇 一 五 年 ) 一 四 三 頁 。 ( 3) 大 谷 ・ 前 掲 書 一 四 七 頁 。 ( 4) 吉 川 経 夫 ⽝ 刑 法 各 論 ⽞( 一 九 八 二 年 ) 一 一 五 頁 。 ( 5) 団 藤 重 光 編 ⽝ 注 釈 刑 法 ( 五 )⽞ ( 改 訂 ・ 一 九 六 八 年 ) 四 〇 〇 頁 ( 内 藤 謙 )。 ( 6) 団 藤 ⽝ 刑 法 綱 要 各 論 ⽞( 第 三 版 ・ 一 九 九 〇 年 ) 五 三 五 頁 。 ( 7) 井 田 良 ⽝ 刑 法 各 論 ⽞( 第 二 版 ・ 二 〇 一 三 年 ) 八 二 頁 、 曽 根 威 彦 ⽝ 刑 法 各 論 ⽞( 第 五 版 ・ 二 〇 一 二 年 ) 七 二 頁 、 松 原 芳 博 ⽝ 刑 法 各 論 ⽞( 二 〇 一 六 年 ) 一 五 三 頁 。 ( 8) 内 田 文 昭 ⽝ 刑 法 各 論 ⽞( 第 三 版 ・ 一 九 九 六 年 ) 一 八 四 頁 、 林 幹 人 ⽝ 刑 法 各 論 ⽞( 第 二 版 ・ 二 〇 〇 七 年 ) 一 二 九 頁 、 前 田 雅 英 ⽝ 刑 法 各 論 講 義 ⽞( 第 六 版 ・ 二 〇 一 五 年 ) 一 三 七 頁 。 ( 9) 西 田 典 之 ⽝ 刑 法 各 論 ⽞( 第 六 版 ・ 二 〇 一 二 年 ) 一 二 八 頁 、 山 口 厚 ⽝ 刑 法 各 論 ⽞( 第 二 版 ・ 二 〇 一 〇 年 ) 一 六 一 頁 。 ( 10) な お 、 私 見 は 積 極 説 を 採 る 。 拙 著 ⽛ 遠 隔 操 作 に よ り 点 火 可 能 な 状 態 に 改 造 し た 緊 急 保 安 炎 筒 、 及 び 福 島 県 か ら 採 取 し た 放 射 性 物 質 を 含 有 す る 土 砂 を 入 れ 放 射 能 標 識 等 の シ ー ル を 貼 付 し た ボ ト ル を 搭 載 し た 小 型 無 人 飛 行 機 を 首 相 官 邸 屋 上 に 落 下 さ せ た 場 合 に つ い て 、 火 薬 類 取 締 法 違 反 罪 、 威 力 業 務 妨 害 罪 の 成 立 を 認 め た 事 例 ( 首 相 官 邸 無 人 機 落 下 事 件 判 決 : 東 京 地 判 平 成 二 八 年 二 月 一 六 日 ( 判 例 集 未 登 載 )) ⽜ 北 海 学 園 大 学 法 学 研 究 五 二 巻 三 号 一 二 五 頁 以 下 参 照 。 ( 11) 強 制 わ い せ つ 罪 の 性 的 意 図 に つ い て 、 最 大 判 平 成 二 九 年 一 一 月 二 九 日 裁 時 一 六 八 八 号 一 頁 は ⽛ 故 意 以 外 の 行 為 者 の 性 的 意 図 を 一 律 に 同 罪 の 成 立 要 件 と す る こ と は 相 当 で な い ⽜ と す る が 、 男 児 へ の わ い せ つ 行 為 及 び 写 真 撮 影 に 関 す る 東 京 高 判 平 成 三 〇 年 一 月 三 〇 日 は⽛ 本 件 強 制 わ い せ つ 等 の 各 行 為 に は 、 陰 茎 等 を 緊 縛 す る 、 陰 茎 や 陰 部 を 露 出 さ せ る 、 陰 茎 の 包 皮 を む く と い っ た そ れ 自 体 性 的 性 質 が 明 確 な も の も 含 ま れ る 一 方 、 日 常 で も 目 に す る よ う な 全 裸 又 は 半 裸 の 乳 幼 児 の 姿 態 を 写 真 撮 影 す る と い う 態 様 の も の も 含 ま れ て お り 、 そ れ ら の わ い せ つ 行 為 該 当 性 を 判 断 す る の に 、 被 告 人 の 性 的 意 図 の 有 無 を も 考 慮 要 素 と す る 意 義 は な お 存 す る と い う べ き で あ る 。⽜ と し て い る 。 す な わ ち 、 判 例 は 、 強 制 わ い せ つ 罪 の 主 観 的 超 過 要 素 た る 性 的 意 図 ( 性 的 目 的 ) に つ い て は 、 態 様 ご と に そ の 要 否 が 異 な る と の 立 場 を 採 っ て い る と い え る 。 こ の 問 題 に 関 す る 私 見 の 詳 細 に つ い て は 、 拙 著 ⽛ 強 制 わ い せ つ 罪 に お け る 性 的 意 図 の 法 的 性 質 と 要 否 ⽜ 法 政 論 叢 五 四 巻 二 号 ( 二 〇 一 北研 54 (3・74) 168 判 例 研 究 北研 54 (3・75) 169 〈刑事判例研究〉
八 年 ) 一 一 六 頁 以 下 参 照 。 ( 12) 吸 収 関 係 に つ い て は 、 法 条 競 合 と 包 括 一 罪 の い ず れ に 属 す る か で 学 説 上 の 争 い が あ り 、 私 見 は 包 括 一 罪 説 を 採 る が 、 こ こ で は 詳 細 は 省 略 す る 。 ( 13) 伊 藤 榮 樹 ( 勝 丸 充 啓 改 訂 )⽝ 軽 犯 罪 法 ⽞( 新 装 第 二 版 ・ 二 〇 一 三 年 ) 二 一 〇 頁 。 北研 54 (3・76) 170