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理科教育学研究

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Academic year: 2021

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ができる。両研究においても,年齢や学年を問わず, 昆虫の体のつくりに関する低い認識状態やその非科 学性が指摘されている。 一方,諸外国と同様,我が国においても,多数の 先行研究を列記することができる(松森,2000;岩 下,2001; 矢 田,2005; 日 置・ 星 野,2007; 上 岡, 2009;市川,2009;松森・菅沼・佐久間,2013;松 森・佐藤・望月,2014)。いずれの研究においても, 主に描画法を用いて昆虫の外部形態の認識状態につ いて評価したものであり,小学生はもちろんのこと, 教員志望学生の間にも,昆虫の体のつくりに対する 低い認識状態が報告されている。 しかしながら,「昆虫の体のつくり」に対する学習 前後の児童の認識状態に対する評価研究は Shepard-son(2002)が挙げられる程度であり,我が国におい ては殆ど行われていない。そこで,本評価研究では, 我が国の小学校第 2 学年児童(学習前)と第 3 学年 児童(学習後)を対象にして,「昆虫の体のつくり」

1.はじめに

1.1 問題の所在 現在,我が国の小学校第 3 学年理科単元「昆虫と 植物」では,身の回りの「昆虫の体のつくり」が取 り扱われている。具体的には,昆虫の成虫の体は頭, 胸,腹の三つの部分からできていることや,胸には 3 対 6 本の脚があること等を学習する(文部科学省, 2008;文部科学省,2017)。 ところで,これまでに諸外国において,昆虫の体 のつくりに関する認識状態を評価する研究が多数遂 行されてきた。例えば,評価ツールとして自由記述 法と描画法を併用し,トルコの高校生を対象にした Cinici(2013)の研究や,描画法と面接法を併用し, アメリカ合衆国の幼稚園児及び小学校第 1∼5 学年を 対象にした Shepardson(2002)の研究を挙げること

資料論文

「昆虫の体のつくり」の学習前後における児童の認識状態の評価

―自由記述法と描画法を併用して―

佐々木智謙

1

佐藤 寛之

1

塚原 健将

2

松森 靖夫

1

【要   約】

本研究の主目的は,自由記述法と描画法を評価ツールとして併用し,「昆虫の体のつくり」 の学習前の小学校第 2 学年児童と,学習後の第 3 学年児童の認識状態を評価することにある。 得られた知見は,以下の 4 点である。1)「昆虫の体のつくり」について,命題 A(昆虫の体は, あたま・むね・はらの 3 つの部分に分かれていること)及び命題 B(昆虫のむねには,6 本 のあしがあること)に依拠した科学的な説明 AB を行えた小学校第 2 学年児童は皆無であり, 第 3 学年児童においても約 30%にとどまっていること,2)小学校第 2 学年の場合,昆虫概 念の内包と外延に対するいずれの認識も乏しいため,特定の昆虫や生き物を事例にして非科 学的説明を行った児童が約 95%にも及んだこと,3)小学校第 3 学年の場合,命題 A のみに 依拠した科学的な説明 A が約 40%存在する一方,命題 B のみに依拠した科学的な説明 B は わずかに約 1%のみであったこと,及び 4)両学年のうち,数%の児童が人の体のつくりとの 比較・照合を通して説明していた。得られた評価結果に基づき,我が国の現行の「昆虫の体 のつくり」の学習指導を再構成するための視点を提案した。 [キーワード]理科評価,昆虫の体のつくり,小学校理科 ,科学的認識,生物教育 doi: 10.11639/sjst.sp17008 1 山梨大学大学院総合研究部 2 山梨大学教育人間科学部

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なお,表 1 の各コードにおいて,記号「A」は「命 題 A」,記号「B」は「命題 B」,記号「H」は「非科 学的な説明」,及び記号「S」は「その他の説明(無 回答,分からない,及び判読不能な説明等)」が回答 中に含まれていることを示している。 2.4 誤答分析の方法 表 1 の「非科学的な説明(H)」に該当する回答に ついては,誤答分析を施した。誤答分析にあたって は,分析者の信念や願望を排除することを根本原則 としている KJ 法(川喜田,1986)を分析方法に用 いた。

3.評価結果及び考察

3.1 評価結果の全体的傾向 表 2 は,各児童の説明に対する科学的正誤の人数 とその割合を示したものである。一覧すると分かる ように,科学的な説明 AB(命題 A+命題 B)の該当 に対する認識状態を評価する。 なお,評価ツールとしては,小学校第 2 学年と第 3 学年児童の回答しやすさに配慮して,Cinici(2013) と同様に,自由記述法だけではなく描画法も併用す ることにする。さらに,得られた評価結果に基づき, 我が国の現行の「昆虫の体のつくり」の学習指導の あり方にも検討を加える。 1.2 評価実施の目的 ・ 学習前の小学校第 2 学年児童と,学習後の小学校 第 3 学年児童の「昆虫の体のつくり」に対する認 識状態を評価して,考察する。 ・ 評価結果とその考察に基づき,我が国の現行の小 学校理科における「昆虫の体のつくり」の学習指 導を,再構成するための視点を提案する。

2.評価の実施の方法

2.1 評価ツールの選定,及び評価シートの作成 評価対象者である小学校第 2 学年と第 3 学年の回 答しやすさに配慮して,自由記述法と描画法を併用 する。なお,評価シートは,B4 判 1 枚に「こん虫は, どのようなからだのつくりをしているかな? 絵や 図やことばで,くわしくせつめいしてください。」を 印刷したものであり,各自に 1 枚配布して,復唱さ せた後に回答を求めた。 2.2 評価実施の期日,及び実施対象 2017 年 2・3 月にかけて,山梨県内の小学校第 2・ 3 学年児童,計 254 人(各学年 127 人)を対象に実 施した。なお,回答時間は,各自に必要なだけ与 えた。 2.3 科学的正誤を判断する基準の作成 無回答者は小 2 児童 2 人,小 3 児童 1 人のみであり, 計 251 人(全体の 98.8%)から何らかの回答が得ら れた。また,回答しやすさを優先し,評価ツールと して自由度の高い自由記述法と描画法を併用したた め,多様な回答が表出した。そのため,評価結果の 分析にあたる前に,各児童の説明に対する科学的正 誤を判断する基準を明らかにしておく。 文部科学省検定済小学校第 3 学年理科教科書(計 6 社)のいずれにおいても明記されている,図 1 に 示した計 2 の命題(命題 A と命題 B)の両者が読み 取れる回答を科学的に正しい説明とした(松森ら, 2013)。さらに,この 2 つの命題に依拠しながら,各 児童の説明の科学的正誤を判断した結果を示すため に,表 1 のようなコーディングを施して使用する。 命題 A: 昆虫の体は,あたま・むね・はらの 3 つの部分 に分かれている。 命題 B:昆虫のむねには,6 本のあしがある。 図 1 昆虫を規定する 2 つの命題 表 1 質問 1 の各説明の種類とコード 説明の種類 コード 科学的な説明 AB(命題 A+命題 B) AB 科学的な説明 A(命題 A のみ) A 科学的な説明 B(命題 B のみ) B 科学的な説明(命題 A+B)と非科学的な説明と が混在した説明 ABH 科学的な説明 A(命題 A)と非科学的な説明とが 混在した説明 AH 科学的な説明 B(命題 B)と非科学的な説明とが 混在した説明 BH 非科学的な説明 H その他の説明(無回答,分からない,及び判読不 能な説明等) S 表 2 質問 1 の各説明別の該当人数(人) AB A B ABH AH BH H S 小 2 (N=127) ― ― ― ― ― ― 99 28 小 3 (N=127) 41 46 1 2 8 ― 21 8 計 41 46 1 2 8 ― 120 36

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であり,図 3 のように,命題 A への言及は認められ るものの,説明文及び添えられた絵からも命題 B の 内容が読み取れない回答等が該当する。一方,命題 Bのみに言及した小 3 児童 1 人(B)は,「頭むね足 を使って生活している。足は 6 本でむねに足がつい ている。(小 3:男 31)」と記しており,命題 A のう ちの「はら」の部分が欠落していた。このように, 命題 A のみに言及する小 3 児童に比べ,命題 B のみ の小 3 児童は僅少であることからも,命題 A より命 題 B の方が長期記憶化しづらいことが推察される。 3.2.3  誤答理由の類型化による分析 1) 本評価研究における誤答について 誤答とは,表 1 に示した ABH,AH,BH,及び H に該当する説明であり,何らかの非科学的な説明を 含む回答を指している。具体的には,小 2 児童の H に該当する 99 人(78.0%)と,小 3 児童の約 24.4% (ABH:2 人,AH:8 人,及び H:21 人)が含まれる。 誤答分析を行ったところ,児童の認識状態は計 6 の類型(類型Ⅰ∼Ⅵ)に分類することができた(表 3)。以下,この 6 類型に該当する児童の誤認識につ いて,具体例を挙げながら分析する。 者は,小 3 児童の 41 人(32.3%)のみであり,学習 後であっても 40%に満たない。また,科学的な説明 A(命題 A のみ)及び B(命題 B のみ)も小 3 児童 に,それぞれ 46 人(36.2%),1 人(0.8%)存在し た。さらに,科学的な説明と非科学的な説明とが混 在した説明(ABH,AH,及び BH)も小 3 児童のみ が該当し,ABH が 2 人(1.6%),AH が 8 人(6.3%) であった。なお,BH の該当者は皆無であった。一 方,非科学的な説明(H)の該当者は小 2 児童 99 人 (78.0%),小 3 児童 21 人(16.5%)と,小 2 児童で は約 80%に達した。その他の説明(S)については, 小 2 児童 28 人(22.0%),小 3 児童 8 人(6.3%)で あった。 ところで,いずれの文部科学省検定済小学校理科 教科書でも,「昆虫の体のつくり」に関する学習内容 は,春季から夏季に取り上げている。したがって, 学習後,約半年経過した半数以上の小 3 児童には, 昆虫の体のつくりに関する概念規定が長期記憶化さ れていないことが明らかになった。 3.2 評価結果の考察 3.2.1  科学的な説明 AB(命題 A +命題 B) 小 3 児童の 41 人(32.3%)のみに存在し,例えば 図 2 の説明文のように,命題 A・B ともに過不足な く示された回答を挙げることができる。添えられた 絵からも,命題 A「昆虫の体は,あたま・むね・は らの 3 つの部分に分かれていること」や命題 B「昆 虫のむねには,6 本のあしがあること」を読み取る ことができ,昆虫の体のつくりに対する科学的な認 識を有していることが分かる。 3.2.2  科学的な説明 A(命題 A のみ),及び科学的な 説明 B(命題 B のみ) Aに該当したのは小 3 児童の 46 人(36.2%)のみ 図 3 コード A の回答例 図 2 コード AB の回答例 表 3 非科学的な説明の回答分類(延べ数(人)) 類型 学年 小 2 小 3 計 Ⅰ: 特定の昆虫に依拠した説明 68 17 85 Ⅱ: 特定の生き物(昆虫を除く)に依拠 した説明 32 2 34 Ⅲ: 特定の昆虫の生活史や変態の様式に 依拠した説明 18 5 23 Ⅳ: 人の体のつくりとの比較・照合に依 拠した説明 4 3 7 Ⅴ: 体形や体表の状態,及び摂食等に依拠 した説明 21 0 21 Ⅵ:あしのつく体の部分の誤認識 0 5 5 計 143 32 175

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て,「羽が 4 枚ある」ことを第 3 の命題として適用し ていることを読み取ることができる。 3) 類型Ⅱ:特定の生き物(昆虫を除く)に依拠した 説明について 例えば,図 6 のように,ダンゴムシを取り上げて, その体のつくりを,絵や説明文により示した回答等 が当てはまる。他にも,「ムカデです(小 2:女 25)」 や,「さなぎにならずにこん虫になる。足が 8 本ある クモなど。(小 3:女 6)」といった回答を挙げること ができる。昆虫以外の生き物と昆虫とを混同してお り,小 2 児童 32 人(25.2%)だけではなく,僅かば かりであるが小 3 児童にも 2 人(1.6%)が,本類型 に含まれた。 4) 類型Ⅲ:特定の昆虫の生活史や変態の様式に依拠 した説明について 全体の計 9.1%(小 2 児童 18 人,小 3 児童 5 人) が該当しており,昆虫の生活史を引き合いに出し ながら,体のつくり等を説明した回答である。例え ば,図 7 の女 7(小 2)のように,土中の幼虫から変 態を遂げ成虫となった際の体長の変化等に言及した 説明を挙げることができる。また,図 8 の女 45(小 3)のように,チョウを取り上げ,変態時の各段階に おける体のつくりを示した説明や,「たまご→よう虫 →こん虫,たまご→よう虫→さなぎ→こん虫(小 3: 女 3)」のように不完全変態及び完全変態を論拠とし た説明等も散見された。 2) 類型Ⅰ:特定の昆虫に依拠した説明について 小 2 児童 68 人(53.5%)と,小 3 児童 17 人(13.4%) の計 85 人(全体の 33.5%)が該当する。例えば,図 4(小 2:男 11)のバッタや,図 5 (小 2:男 15)の カマキリ等を取り上げた回答である。いずれの回答 にも説明文の中に命題 A・B は明示されておらず, 特定の昆虫に限定してその諸特徴を説明するに留 まっていた。 しかしながら,図 5 に具体的に添えられた昆虫の 絵には,その体のつくりとともに 6 本のあしが示さ れている点では,昆虫を規定する命題に対する科学 的認識の萌芽が窺える回答だと判断できる。 また,ABH に該当する女 47(小 3)は,「こん虫 は頭,むね,はらに分かれていて,羽と足は,むね についている。羽は 4 まいあって,足は 6 本ある。」 のように説明している。つまり,命題 A・B に加え 図 4 類型Ⅰの回答例(コード H) 図 5 類型Ⅰの回答例(コード H) 図 6 類型Ⅱの回答例(コード H) 図 8 類型Ⅰ及びⅢの回答例(コード H) 図 7 類型Ⅲの回答例(コード H)

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に該当)等も存在した。 8) その他の説明(S)について 小 2 児 童 28 人(22.0%), 小 3 児 童 8 人(6.3%) が該当し,例えば「こん虫というのは,何ですか? わかりません。(小 2:女 12)」といった回答等が挙 げられる。小 2 児童については,「昆虫の体のつく り」の学習前であることからも致し方ない結果だと も言える。その一方で,小 3 児童においても同様の 回答が 8 人(6.3%)存在し,非科学的な説明(表 1 の H)の児童と合わせると小 3 児童の 29 人(22.8%) にも達する。小 3 児童の約 20%が,昆虫の体のつく りを規定する命題 A・B について,いずれの認識も 持ち合わせていないことが判明した。

4.結論

本調査研究において,「昆虫の体のつくり」の学習 前後における児童の認識状態について評価してきた。 結果として,「昆虫の体のつくり」について科学的説 明を行えた小学校第 2 学年児童は皆無であり,第 3 学年児童においても 30%にとどまった。また,小学 校第 2 学年の場合,昆虫概念の内包と外延に対する いずれの認識も乏しいため,特定の昆虫や生き物を 事例にして非科学的説明を行った児童が約 95%にも 及んだ。さらに,小学校第 3 学年の場合,命題 A(昆 虫の体は,あたま・むね・はらの3つの部分に分か れていること)のみに依拠した科学的な説明 A が約 40%存在する一方,命題 B(昆虫のむねには,6 本 のあしがあること)のみに依拠した科学的な説明 B はわずかに約 1%のみであった。

5.おわりに~我が国における現行の学習指導

を再構成するための視点~

以降,前章までの評価結果とその考察を踏まえな がら,現行の学習指導を再構成する視点を提案する。 5.1 取り上げる昆虫の種数について 現行の文部科学省検定済小学校理科教科書におい 5) 類型Ⅳ:人の体のつくりとの比較・照合に依拠し た説明について 小 2 児童 4 人(3.1%),小 3 児童 3 人(2.4%)の 計 7 人(全体の 2.8%)に見られた説明である。具体 的には,図 9 の髪の毛の有無に言及した「…〈中略〉 …つのもあるし人間とちがってかみのけがはえてな い。」といった回答や,「人げんの手は 2 本,かぶと 虫のこんちゅうの手は 4 本(小 2:男 66)」,及び「か ぶとむしやくわがたむしのつのは,ほねみたいなも ので,おってもいのちにべつじょうはありません。 …〈後略〉…(小 2:男 24)」等が挙げられる。いず れの説明も,人の体のつくりと昆虫の体のつくりと を比較・照合しながら,その構造上の違い等につい て言及した説明である。 6) 類型Ⅴ:体形や体表の状態,及び摂食等に依拠し た説明について 小 2 児童のみ 21 人(16.5%)が該当した。例えば, 女 22(小 2)の「丸かったり,細かったりする。」や 男 20(小 2)の「かたい,足のほうはやわらかい。 こうらのところはかたい。」,また女 40(小 2)の「み つで体を元気にしている。」や女 47(小 2)の「…〈前 略〉…こん虫ゼリーがすき」等の説明が挙げられる。 昆虫に触れた経験や飼育経験等を想起したものと推 察されるが,見た目や手触り等の体形や体表の状態, また体をつくるために摂食する食べ物等を取り上げ た説明である。 7) 類型Ⅵ:あしのつく体の部分の誤認識について 小 3 児童のみ 5 人(3.9%)が該当した。本類型中 には,図 10(小 2:男 16)のように,1 対 2 本のあ しを腹部に描いている説明等が含まれる。また,「頭 は前にある。足は六本ある。足ははらにある。(小 3:男 42)」や「頭,むね,はらにわかれている。ま た,こん虫は足が 6 本ある。足は,はらから出てい る。(小 3:女 27)」のように,腹部のみからあしが 出ているという誤認識が読み取れる説明(表 1 の AH 図 10 類型Ⅵの回答例(コード AH) 図 9 類型Ⅰ及びⅣの回答例(コード H)

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5.3 昆虫の概念規定の長期記憶化ついて 既述したように,文部科学省検定済小学校理科教 科書では,春季から夏季に「昆虫の体のつくり」を 取り上げている。しかしながら,学習後(約半年後) には,この既習内容を忘却したり,長期記憶化に 至っていなかったりする小 3 児童も相当数存在した。 ところで,周知の通り,小学校理科において,昆 虫の体のつくりを直接的に取り上げているのは,第 3 学年だけである。せっかくの既習知識であっても 時とともに忘却してしまう原因の一つである。加え て,第 4 学年理科以降において,活用する場やその 時間的余裕がないことも挙げられる。昆虫の体のつ くりに関する既習知識について,定期的に記憶のリ ハーサルを行い,長期記憶化を目指す方策の検討も 急がれる。

附記

本研究は,JSPS 科研費 17K12932,16K04675,及 び 17K01024 の助成を受けたものである。

参考文献

日置光久・星野昌治(2007)『シリーズ日本型理科教育/第 2 巻「子ども」はどう考えているか―とらえやすい自 然認識と科学概念―』東洋館出版社. 市川英貴(2009)「子どもの「見方」を変える観察―小学校 での観察の指導―」『理科の教育』第 58 巻,第 11 号, 46–49. 岩下育男(2001)「アリを教材に生かす∼共生の生態学を理 科教育に∼」『理科の教育』第 50 巻,第 3 号,58–61. 上岡学(2009)「理科教育における昆虫のからだの認識に 関する研究―大学生を対象としたアリのからだの認識 ―」『日本教育心理学会第 51 回総会発表論文集』167. 川喜田二郎(1986)『KJ 法―混沌をして語らしめる』中央 公論社,15. 松森靖夫(2000)『子どもの本音を知ろう!新しい評価方法 はこれだ『自然』についての見方・考え方の調査と分 析』学校図書. 松森靖夫・菅沼美奈・佐久間理志(2013)「小学校教員志望 学生の「昆虫の体のつくり」に関する認識状態の分析 ―「昆虫の体のつくり」に関する教授方策の再考―」 『山梨大学教育人間科学部紀要』第 15 巻,223–233. 松森靖夫・佐藤寛之・望月文(2014)「チョウの生活環と生 活様式に対する小学校教員志望学生の認識状態につい て―Cinici(2013)の調査問題を参考にして―」『山梨 大学教育人間科学部紀要』第 16 巻,157–165.

引用文献

Cinici, A. (2013). From caterpillar to butterfly: a window for looking into students’ ideas about life cycle and life forms ては紙数が限られているため,自ずと掲載可能な昆 虫の種数も限られている。今後は,昆虫はもちろん のこと,昆虫以外の生き物についても,多様な種を 取り上げて,昆虫概念の外延に加えて昆虫以外の生 き物の外延についても拡張していく具体的方策を考 えなくてはならない。 例えば,カブトムシやクワガタムシ等が属する甲 虫目の昆虫は,小学生に人気の高い昆虫である(八 木,2010)とともに,動物全体においても種数が最 大である。本来ならば,多くの種を取扱うべきであ るが,胸部の体のつくりが複雑であること等も一 因となり,実存する種数に比べて,理科教科書にお ける甲虫目の掲載数が少ない。また,指導の難しさ から,甲虫目を例示して昆虫の体のつくりを説明す る教員も少ないことが推察される。今後は,柴ら (2008)の主張にもあるように,胸部のつくりが複雑 な甲虫目を敢えて取り上げ,内部構造とあしのつく 位置との連関を扱った理科授業の展開等を図りなが ら,昆虫の体のつくりに対する科学的な認識達成を 志向したいところである。さらに昆虫概念の外延の 拡張と同時に,昆虫以外の多様な生き物との比較等 も積極的に行う必要がある。 5.2 2 種類の命題の取り扱いについて 本評価研究で明らかになったように,命題 A(昆 虫の体は,あたま・むね・はらの3つの部分に分か れていること。)に比べて,命題 B(昆虫のむねには, 6 本のあしがあること。)が,児童に定着していない ことが分かった。文部科学省検定済小学校理科教科 書において,一般的に,命題 A の次に命題 B の文章 表記がなされていることにも起因するものと推察さ れる。今後は,命題 B にもウエイトを置いた学習指 導展開の構築が大切となる。 また本稿では,昆虫の体のつくりについて,自由 記述法と描画法を併用して認識調査を遂行した。そ の結果,小 2 児童では,命題 A・B を科学的に正し く認識していると判断できる回答は皆無であった。 ところで,本調査研究では,命題 A・B に内包され る「体の分かれ方」や「あしの数や位置」等の視点 を予め与えた上で,回答を求めるという手法は用い なかった。そのため,命題 A・B を認識しているの にも関わらず,本設問場面において,いずれの命題 も記述できていない子どもの有無を把握するまでに は至っていない。さらに,継続して調査研究を遂行 するとともに,その結果等を踏まえながら,より効 果的な学習指導展開を構築していく必要もある。

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日本図書.

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Shepardson, D.P. (2002). Bugs, butterflies, and spiders: Children’s understandings about insects. International Journal of

Science Education, 24(6), 627–643. 柴一実・山崎敬人・岸俊之・中田晋介・真田美保・秋山 哲・土井徹・田原潤(2008)「小学校理科における学 び文化の創造(8)―科学館等の出前授業が子どもの昆 虫理科に及ぼす影響に関する研究―」『広島大学学部・ 附属学校共同研究機構研究紀要』第 36 号,349–358. 矢田光宏(2005)「模型づくりを通して科学的概念の形成を はかる―こん虫のなかまをさがそう―」『理科の教育』 第 54 巻,第 1 号,50–52. 八木剛(2010)「昆虫リテラシー向上のための基礎資料― 展覧会「神戸元町・夏の昆虫館」における展示標本へ の人気投票から見た,男女別,年齢層別の昆虫の好み ―」『きべりはむし』第 32 巻,第 2 号,26–37. (2017 年 12 月 21 日受付,2018 年 3 月 30 日受理)

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Evaluation of Children’s Scientific Knowledge of Insect Morphology,

Before and After Learning

Tomonori SASAKI

1

, Hiroyuki SATO

1

, Kensho TSUKAHARA

2

, Yasuo MATSUMORI

1 1

Graduate School Department of Interdisciplinary Research, University of Yamanashi

2

Faculty of Education and Human Sciences, University of Yamanashi

SUMMARY

The main purpose of this study is to evaluate whether 2nd grade (before learning) and 3rd grade elementary school students (after learning) have acquired scientific knowledge about the morphology of insects by using free writing and drawing methods as evaluation tools. The main findings of this study were as follows; 1) none of the 2nd grade students and about 30% of the 3rd grade students explained insect morphology scientifically; 2) about 95% of the 2nd grade students explained morphology of insects from particular insects’ or other creatures’ examples unscientifically because they lacked knowledge about intension and extension of the insect’s concept; 3) in 3rd grade students’ case, about 40% of pupils’ scientific explanations were based on proposition A (a body of insects makes up head, thoracic, and abdomen), whereas only 1% of their scientific explanations were based on proposition B (insects’ thoracic has six legs); and 4) in both 2nd and 3rd grade students, a small percent explained insect morphology by contrasting their differences with human bodies. Based on these results, we suggested some perspectives to consider in order to reconstruct current teaching and learning methodology with regard to insect morphology.

<Key words> science evaluation, morphology of insects, elementary school science, scientific recognition,

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