成長戦略としての雇用制度改革
2014年11月19日(水)
紙パルプ産業労使懇談会
慶應義塾大学大学院商学研究科
規制改革会議雇用WG座長
鶴 光太郎
1最近の雇用情勢
2
人手不足の現状
3 出所:斉藤太郎(2014)「人手不足経済への処方箋」基礎研レポート 早川英男(2014)「人手不足時代の到来(上)」富士通総研 出所:吉田和央「雇用形態と職業別にみた人手不足の状況」 ビジネス・レバー・トレンド2014/08雇用分野における規制改革会議のアプローチ
第一次答申(2013年6月)
– 「成長戦略の1丁目1番地としての規制改革」
– 「人が動く」をキーワード
– 雇用の多様性、柔軟性を高め、「失業なき円滑な労働移動」を
実現するための雇用改革(3つの柱)
• ①正社員改革(ジョブ型正社員、労働時間、雇用終了) • ②民間人材ビジネスの規制改革(派遣労働、職業紹介) • ③セイフティネット・職業教育訓練の整備・強化– 雇用改革を貫く横断的な理念・原則
• ①労使双方の納得感とメリットを生む改革 • ②国際比較からみて合理的な改革 • ③働き手が多様な雇用形態を選択でき、個人の能力・資質を高める 機会が与えられるとともに、雇用形態による不合理な取り扱いを受け ない均衡処遇を推進する改革– 成長戦略→人が動く→解雇しやすい?という誤解を生んだ面も
4雇用分野における規制改革会議のアプローチ
第二次答申(2014年6月)
• 第一次答申に比べ「多様な働き方の拡大」をより強調
– 「個人のライフスタイルや価値観に応じて多様で柔軟な働き方が選択 できる雇用制度を整える必要」、「多様な働き手が社会に貢献できる 環境を作り、一人ひとりの働く価値を高めることが、経済成長の源 泉」 – 雇用に限らず選択肢を増やしていく改革を強調(抵抗するのは難し い) – 雇用改革の全体像、基本理念は第1次答申を踏襲• 雇用制度改革の2本柱
– ①多様な働き方の拡大 • 労働時間規制の見直し • ジョブ型正社員の雇用ルールの整備 • 労働者派遣制度の合理化 – ②円滑な労働移動を支えるシステムの整備 • 有料職業紹介事業等の規制の再構築 • 労使双方が納得する雇用終了の在り方• ②は議論の方向性と出発点を提示→来年6月の第3次答申に向け
て再び「人が動く」へ回帰
5雇用制度改革と経済成長
• 労働、雇用面から経済成長への寄与をどう考え
るか?(3つのルート)
– 人口減少社会の突入で長期的に労働力人口の低下
が見込まれる中での女性・高齢者等の労働参加の
促進
– 教育・能力開発を通じた人的資本強化による一人一
人の就労者の生産性向上
– 生産性の低い部門から高い部門への労働移動を促
進し、労働の再配分を図ることによる経済全体の生
産性上昇
6キーワードとしての「人が動く」
• 本来働きたい希望があるにも関わらず職探しを
やめて非労働力化してしまっている女性や高齢
者が再び労働市場へ戻る
• 正社員を希望しながらも非正規社員を続けてい
る不本意型非正規雇用の人々が正規雇用へ転
換
– 非正規社員は正社員に比べ企業で訓練等を受ける
機会少
– 非正規雇用の割合が過度に高まると労働全体の質
の低下
• 衰退部門・産業から成長部門・産業へ労働が移
動
7「人が動く」ことを阻害している要因とは?
• 「人が動く」ことに対する大きな阻害要因の一つが正社員を取り巻く様々 な仕組み・制度 • 「人が動く」ためには「正社員改革」が必要 • 正社員とは? – (1)無期雇用、(2)フルタイム勤務、(3)直接雇用(雇い主が指揮命令権を持つ) • 日本の正社員は、これらに加え、無限定正社員(正社員の「無限定性」) という傾向が欧米に比べても顕著 – 将来の職務、勤務地、労働時間(残業)が特定されていない。 – 使用者が広範な指揮命令権を持つ。 • 無期雇用、無限定社員、解雇権濫用法理(正社員の雇用終了ルール) の三要素は、相互に強い補完性(「鉄の三角形」) – 長期雇用を前提にある企業・組織の一員になることが意味を持つ、就社型、 メンバーシップ型の雇用システムを形成 – 経済メカニズムの沿った労働異動・再配分に制約 8正社員改革をどう進めるか?
• 「鉄の三角形」を形成する3要素のどこにメス
を入れるべきか?
– 無期雇用 or 解雇権濫用法理 or 無限定性?
• 無期雇用に手をつけるやり方
– 有期雇用を増やす→雇用の不安定化、不合理な
処遇格差等
9解雇ルールの見直し・緩和?
• そこから直に正社員改革を論じることには違和感
– 正社員の雇用保護法制の強さを国際的に比較しても、日本はOECD 諸国の平均からやや弱い部類(2013年OECD平均2.04、日本1.62、 OECD34か国中26番目の雇用保護の強さ) – 中小企業では大企業に比べてかなり解雇が行われやすいという事実• 解雇権濫用法理
– 解雇が有効であるために客観的な合理性と社会的な相当性を求め る(労働契約法第16条) • それ自体に問題があるわけではない。 – より具体的な解雇ルールの明確化? • ヨーロッパでも法律で原則が示され、個々のケースは裁判で争われることは 変わりない。• 整理解雇法理(整理解雇の四要件(要素))
– 経済的な理由による解雇の判断基準 – 近年では、4つのいずれの要素についても、真摯な検討を行い、努力 や説明を尽くしているかという手続き的な側面が重視 – 時代の変化に対応してある程度柔軟に変化 10解雇ルールはなぜ厳しいと感じるのか?
• 解雇権濫用法理は無限定正社員に対する解雇ルールと
して発展
• 解雇回避努力義務
– 「整理解雇の四要件(要素)」の一つ
– 解雇の前に配転、出向、希望退職募集などできる限りのことを
やったかどうか裁判で問われる。
– 配転によって勤務地や職務を変更してでも雇用を守るべき→
無限定正社員として雇っていることを前提とした考え方
• 試用期間終了時にも解雇権濫用法理が適用
– 無限定正社員で雇ったのだから特定の仕事ができないからと
いって解雇はできない。
– 労働者の能力や適格性を理由とする解雇についても、無限定
正社員の場合は、裁判例では会社の中で従事可能な職務が
それ以外にないかまで問われる。
13労働者が無限定正社員の「掟」を破ったら?
• 解雇権濫用法理はそのような労働者を守ってく
れないという厳しい例も
• 転勤や残業の拒否による懲戒解雇が裁判でも
有効と判断された事例
– 「東亜ペイント事件」(最2小 昭61.7.14)
– 「日立製作所武蔵野工場事件」(最1小 平3.11.28)
• 解雇権濫用法理はあくまで無限定正社員の雇
用を守る仕組みと考えれば納得
14働き方の多くの問題に結び付く正社員の「無限定性」
• 正社員の「無限定性」=該当する労働者は将来の勤務地、職務の変更、残業を 受け入れる義務があり、使用者側が人事上の幅広い裁量権を持つことが日本の 働き方に関わるかなり多くの問題点と密接な関係 • 労働市場の二極化に影響? – 非正規(有期)雇用から無限定正社員への転換は労使双方でハードルが高い。 • ワークライフバランスはなぜ進まない? – 無限定正社員は不本意な転勤や長時間労働を受け入れなければならない • 女性の活躍を阻害? – 無限定正社員が前提である社会では妻は専業主婦で家族を支えることが要請 – 自ら正社員で働こうとしても子育てや介護によりキャリアの継続が困難 • 労働時間規制に関する広範な適用除外制度導入はなぜ難しい? – そもそも自律的な働き方ができるかどうかがポイントであり、無限定正社員が前提であれば やはり困難 • 過労死、ハラスメント、ブラック企業と関係? – 使用者側の人事上の裁量権が強くなりすぎれば、「無限定」という性格はいつしか「無制限」 に – 日本の企業別労働組合はそうした裁量権が強くなり過ぎないように対抗するという役割 15ジョブ型(限定)正社員のメリット
• 非正規雇用から転換は無限定正社員に比べ容易で
あり、雇用の安定が確保
• 勤務地限定型や労働時間限定型正社員
– 男女ともに子育て、介護、ライフスタイルに合わせて勤務
可能
– 労働時間限定型はワークライフバランスに最も効果的
• 職務限定型正社員
–
職務が限定されていることで、自分のキャリア、強みを
意識し、価値を明確化
–
外部オプション、転職可能性拡大
–
現在の職場での交渉力向上期待
–
ジョブ・ディスクリプションが明確で自律的な働き方が可
能→長時間労働抑制にもつながる
16ジョブ型(限定)正社員の普及に政府が介入する必要はあるか?
• 大企業2000社近くを対象にした厚労省の調査では約半数の企業が既に 限定正社員を導入→後述 • 有期雇用の割合が世界的にみてもかなり高い。→後述 • 有期雇用から無期雇用への転換は日本では5年以内で約25%という分 析がある一方、OECD諸国では3年以内で40~60%が無期雇用に転換し ており大きな格差→後述 • 通常の無限定正社員への転換は難しい現状を考慮すれば、限定正社員 が有期雇用からの転換の受け皿として大きな役割を果たすべき • 雇用全体の少なくとも1割程度、有期雇用から限定正社員へ転換させる ことを目指すべきである。 • 改正労働契約法(本年4月から施行)では有期契約(2013年4月開始)が 通算で5年を超えれば労働者の申し込みにより無期労働契約に転換可 能→限定正社員を新たに制度的に作り出す仕組み 17「多様な正社員」導入状況
18 厚労省懇談会資料
「多様な正社員」産業別導入状況
19
厚労省 懇談会資料
OECD諸国のtemporary workerの比率(2011年)
(%)
(出所)OECD.Stat.
有期雇用から正規雇用への転換
Panel A. One-year mobility
Figure W5.2. Evolution of one-year and three-year mobility from temporary to
permanent jobs since mid-1990s
0 10 20 30 40 50 60 1995-96 1998-99 2000-01
出所:OECD, Employment Outlook 2006
Source: OECD calculations based on the European Community Household Panel (ECHP), waves 2 to 8.
Panel B. Three-year mobility
0 10 20 30 40 50 60 70 80 1995-98 1998-01 21
非正規雇用から正規雇用への
転換率の分析例
• 久米・鶴(2013)
– 総務省「就業構造基本調査」(2002, 2007)
– 前職が非正規で過去5 年以内に正社員に転換した
人の割合:約25%(男性約40%、女性約20%)
• 小杉(2010)
– 総務省「労働力調査」
– 15~34 歳で過去1 年に非正規の職を離職した者のう
ち正社員になった比率:19%( 2005 年)
• ヨーロッパ諸国と比べても最も低い部類
22企業がジョブ型(限定)正社員を更に
拡大できるような環境整備とは?
• 企業の中でジョブ型(限定)正社員と無限定正社
員を明確に区別した取り扱いが不十分
• 紛争を未然に防止するためには、以下が重要
– 就業規則、労働契約といった事前での扱い
– 雇用終了時といった事後の扱い
• ここをいかに明確化し、予測可能性を高めていく
かが「規制改革会議雇用WG報告書」(2013年6
月)が掲げた重点課題
23職務・勤務地限定の雇用区分に関する運用実態
24 厚労省懇談会資料
事業所閉鎖時の人事上の取り扱い
25 厚労省懇談会資料
「ジョブ型正社員の雇用ルール整備に関する意見」
平成25年12月5日規制改革会議 ジョブ型正社員(職務、勤務地、労働時間いずれかが限定される正社 員)は、専門性に特化したプロフェッショナルな働き方、子育てや介 護との両立、正社員への転換を望むも無限定な働き方は望まない非正 社員、等の受け皿として重要である。 ジョブ型正社員は多くの企業で既に導入されているが、その特性に 沿った雇用管理が行われていない、または、そうした雇用管理が事前 に明確に設定されている場合でも、実際の運用において徹底されてい ないことが多い。 したがって、ジョブ型正社員の形態・内容について労働契約や就業規 則で明示的に定めることが必要である。 その際、従来の「無限定契約」と「ジョブ型(限定)契約」との相互 転換を円滑化し、ライフスタイルやライフサイクルに合わせた多様な 就労形態の選択を可能にすること、また、両契約類型間の均衡処遇を 図ることが必要である。 ↓ (1)労働条件明示、(2)相互転換、(3)均衡処遇、が雇用ルール整備の 三本柱(+雇用終了の問題) 26契約の締結・変更時の労働条件明示について
「ジョブ型正社員の雇用ルール整備に関する意見」続き
• ジョブ型正社員の雇用形態を導入する場合には、就業規則におい
てジョブ型正社員の具体的な契約類型を明確に定めることを義務
付ける。
• ジョブ型正社員を採用するときは、その契約類型であることを契約
条件として書面で交わし明確にすることを義務付ける。
• 労働条件明示に関する現行規定は、労働契約締結時だけを対象
としていると解されているため、ジョブ型正社員については、労働
条件を変更する場合にも、変更内容を書面で明示することを義務
付ける。
• 労働基準法施行規則第5 条により労働者に通知することが求めら
れる事項の一つである「就業の場所及び従事すべき業務に関する
事項」につき、無限定正社員か又はジョブ型正社員かの別につい
て明示することを義務付ける。
27相互転換制度と均衡処遇について
「ジョブ型正社員の雇用ルール整備に関する意見」続き
• 無限定契約とジョブ型(限定)契約について、相互転
換を円滑にする方策を法的枠組みも含めて検討する。
• 相互転換に当たっては、労働者本人の自発的意思を
前提とし、労働条件決定を合意することに加え、労働
条件変更の書面による明示を義務付ける。
• 均衡処遇を図るために、有期労働契約について無期
労働契約との不合理な労働条件の相違を認めないと
する労働契約法第20 条に類する規定(雇用形態によ
る不合理な労働条件の禁止)を設ける。
28ジョブ型正社員の雇用ルール整備
閣議決定部分(「規制改革推進計画」) • 職務等に着目した「多様な正社員」モデルの普及・促進を図るため、労働条 件の明示などの雇用管理上の留意点、好事例及びそれらを踏まえた就業規 則の規定例等を取りまとめ、周知を図る。【平成26 年7月までに取りまとめ、 速やかに実施】 – 厚労省「多様な正社員普及・拡大のための有識者懇談会 報告書 」後述 • 労働契約の締結・変更時の労働条件明示、無限定正社員との相互転換・均 衡処遇について、当面、労働契約法(平成19 年法律第128 号)の解釈を通知 し周知を図る。【平成26年中に実施】 – 「当面」と入っているのは、適切な雇用管理が広く定着する中で、将来的には労働 契約法(第4条の書面での確認)や労働基準法等(第15条の明示の義務付け)の 法律改正も視野に入ることを意味している。 – 明示が定着していない中で労働基準法による義務化は難しい(逆に定着していけ ば検討可能) • 労働契約の締結・変更時の労働条件明示、無限定正社員との相互転換及び 均衡処遇に関する政策的支援の制度的枠組みについて検討する。【平成26 年度検討・結論、結論を得次第措置】 – 次世代育成支援対策推進法(事業主が従業員の仕事と家庭の両立等に関する行 動計画を策定)に基づく一般事業主行動計画の内容に関する事項に位置づける、 助成金の対象とする、限定の内容を対外的に公表する企業を好事例として紹介し たり表彰するなど 29「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者
懇談会報告書案(以下、「懇談会報告書)
(2014/07/30)
「多様な正社員」導入企業の事例
(「懇談会報告書」)
31 厚労省懇談会資料
多様な正社員の効果的な活用が期待できるケース
(「懇談会報告書」)
労働条件の明示
(「懇談会報告書」)
相互転換制度
(「懇談会報告書」)
相互転換制度へのコメント
• ジョブ型(限定)正社員の議論で留意・配慮が必要な部分
• 本人がジョブ型(限定)正社員について十分理解していないにもか
かわらず、使用者主導のいわば「だまし討ち」のような転換は×
• 労働条件決定の合意原則が前提
• 条件変更自体も書面で明示化されることが必要
• 同一企業における転換は本人の希望が起点となるべき
• 無限定正社員が子育てや勉学などのために一定期間、限定正社
員に転換し、その後、無限定正社員に戻ることが予め合意されて
いる場合には、無限定正社員として解雇の合理性・相当性が判断
されるべき
35均衡処遇
(「懇談会報告書」)
ジョブ型(限定)正社員の処遇へのコメント
• 無限定正社員は、将来の職務、勤務地の変更、残業の要
請などを受けなければならない「暗黙の契約」が付加→そ
の部分は合理的に説明できる格差
• 無限定正社員とジョブ型(限定)正社員の処遇格差の評価
– 処遇は賃金ばかりでなくWLBも含め全体で評価、判断される
べき
• 職務の幅とスキルアップ、昇進機会との関係
• 高度な専門能力を生かした職務限定型正社員は、無限定
正社員よりも処遇は高い場合も
• ただし、ジョブ型(限定)正社員の場合、賃金の年功的な要
素は弱まる。
37就業規則の規定例(「懇談会報告書」)
ジョブ型正社員と雇用終了
• これまでの裁判例と同様、限定正社員に対して
も従来の無限定正社員に同じように解雇権濫用
法理が適用
• 解雇の客観的合理性・社会的相当性は丁寧に
問われるべき
• 過去の裁判例をみると、勤務地や職務が限定さ
れていることが考慮され、無限正社員とは異な
る判断が行われる事例が多い。
• つまり、同じ解雇ルール(解雇権濫用法理)を
「適用」するが、「結果」は異なる可能性
39ジョブ型正社員と雇用終了(続き)
• 例えば、経済的な理由による限定正社員の解雇に対し、裁判で解
雇回避努力義務が問われる場合も、勤務地や職務が限定されて
いる場合は配転の余地も限られているため、解雇回避努力があり
とみなす(またはその有無を問わない)ケースも多い。
• また、四要件の1つである人選の合理性についても、勤務地や職
務の廃止で対象となる労働者全員を解雇する場合は、人選の合
理性はある(または合理性を問わない)ケースも多い。
• 一方、他の要件である人員削減の必要性や労働組合・労働者か
ら納得が得られるような説明は限定正社員の場合でも必ず問わ
れる。
• 無用な紛争を避けるためには、事前に就業規則や労働契約で限
定正社員という契約類型等を明示し、その特性について労働者に
丁寧に説明し、彼らから十分な理解を得ておく必要あり。
40「多様な正社員」の普及・拡大のための
有識者懇談会報告書の見解
41• 過去の判例を更に丁寧に分析
• 高度な専門性を伴う職務とそれ以外を区別
• 契約で労働条件の明示化が進めば将来判例も変わりうる。
無限定正社員の今後
• 今後とも企業の中では一定割合必要
• ある程度、職務の幅を広げることは一般的な
能力開発の視点から言っても重要
• 無限定性がほとんどすべての正社員に求め
られるべきであるかは疑問
• 将来は一部の幹部候補生などに限定
43日本再興戦略の該当部分
予見可能性の高い紛争解決システムの構築
• 我が国の雇用慣行がとりわけ諸外国から見て不透明であるとの
問題の解消や中小企業労働者の保護、さらには対日直接投資の
促進に資するよう、予見可能性の高い紛争解決システムの構築を
図る。
• ①「あっせん」「労働審判」「和解」事例の分析
– 労働紛争解決手段として活用されている「あっせん」「労働審判」「和 解」事例の分析・整理については、本年度中に、労働者の雇用上の 属性、賃金水準、企業規模などの各要素と解決金額との関係を可能 な限り明らかにする。分析結果を踏まえ、活用可能なツールを1年以 内に整備する。• ②透明で客観的な労働紛争解決システムの構築
– 主要先進国において判決による金銭救済ができる仕組みが各国の 雇用システムの実態に応じて整備されていることを踏まえ、今年度中 に「あっせん」等事例の分析とともに諸外国の関係制度・運用に関す る調査研究を行い、その結果を踏まえ、透明かつ公正・客観的でグ ローバルにも通用する紛争解決システム等の在り方について、具体 化に向けた議論の場を速やかに立ち上げ、2015年中に幅広く検討を 進める。 44労使双方が納得する雇用終了の在り方
基本的な考え方(第2次答申より)
• 働き手のニーズや産業構造の変化等の環境変化に即して、円滑な労働 移動を実現する必要がある。このため、いわゆる日本型雇用から変容す る雇用システムとの整合性を踏まえ、労使双方が納得する紛争防止・解 決制度の多様化を図る必要がある。 • 適切な雇用終了の手続を明確化することで紛争の未然防止を図る必要 がある。あわせて、新たな職場の確保に努力する事業者や労働者への 支援策を組み合わせ、労使双方にとって望ましい制度の整備が必要で ある。従来、国や地方では経済政策や雇用政策等も踏まえ様々な就労 支援を行っている。このような就労支援を十二分に活用し、円滑な労働 移動を可能とすることが紛争解決にも資すると期待される。 • また、司法の資源には一定の限界がある。労働審判を含む司法の解決 機能を補完し、より身近で迅速な解決を可能とするため、行政機能の強 化が必要である。欧州主要国では、様々な形で新しい職場確保への支 援策や司法による紛争解決を補強する仕組みが構築されている。諸外 国の制度も参考としつつ、我が国の実情に即した制度の検討が必要で ある。 45労使双方が納得する雇用終了の在り方
基本的な考え方(第2次答申より)
• さらに、訴訟における解決の在り方も検討が必要である。現在の制度に おいては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められな い解雇は無効とされる。このため、復職が困難である、あるいは労働者 が復職を希望しないという実態であっても、解雇の訴訟では、労働者が、 解雇が無効で労働契約が継続しているとして解雇期間中の賃金の支払 いを求める訴えを提起する場合が少なくないとみられる(最終的には金 銭補償による和解で解決する。)。 • また、都道府県労働局によるあっせんや労働審判などにおいても、金銭 補償による解決が多くみられるが、補償の水準にはばらつきが大きいと の指摘もある。 • 労使双方にとって実態に即し納得が得られる訴訟解決を可能とする制 度について検討を深める必要がある。このような紛争の未然防止、再就 職支援及び訴訟解決などは、労使双方の利益に適った紛争解決を可能 とするシステムを一体として形成するものであり、総合的に検討を行う必 要がある。 46労使双方が納得する雇用終了の在り方
閣議決定部分
• 労使双方が納得する雇用終了の在り方につい
て、紛争の未然防止及び円滑な労働移動に資
する観点から、下記の事項を含め、検討を行う。
• ①個別労働関係紛争解決に関する行政機能の
強化について検討する。【平成26 年度検討開始、
1年を目途に結論】
• ②諸外国の関係制度・運用の状況に関する調
査研究を行うなど、労働契約関係の継続以外の
方法を含め、労使双方の利益に適った紛争解決
を可能とするシステムの在り方について検討を
進める。【平成26 年度中に調査研究を行い、そ
の結果を踏まえ検討を進める】
47労使双方が納得する雇用終了のあり方
規制改革会議アプローチ
• 「解雇規制の緩和」、「解雇をしやすくする」、「金さえ払えば首切り自由」という批判を 受けないことが重要 • 改革の方向性:以下の3つの柱は総合的に検討すべき • 紛争の未然防止・転職支援 – 紛争そのものをなるべく起こさないようにする – 円滑な雇用終了と移動 • 国家戦略特区の雇用労働相談センターで活用される「雇用指針」を更に発展させ、合意解約に至る手続き の規定や指針を整備 • 上記の手続き規定に労働移動支援(転職支援への企業努力)への政策的インセンティブを組み込む • 紛争処理の円滑化 – 紛争が起こった場合でもなるべく効率的(コスト、時間)かつ円滑に解決を行う – 訴訟の審理期間の長さ、労働審判の申立件数増加に対する裁判所の負荷への考慮 – 訴訟による解決をサポートしあるいは訴訟外で円滑な解決を可能とする行政機関の活用 • 仏は労働審判所の調停前置、独は和解前置、伊・西は行政調停前置、英では、ACAS (助言斡旋仲裁局) の調停前置 • 都道府県労働委員会の活用(個別労働紛争のあっせんは既に可能、労使の委員による紛争当事者への 説得が労働局のあっせんに比べてより納得感の高い解決を生むことも) • 紛争解決の多様化 – 紛争を解決するための選択肢を拡大する→訴訟における救済の多様化 – 現行制度では解雇無効判決によって労働契約関係の継続が確認されることになるが、それが労 使双方の利益に必ずしも沿わない場合も – 労働契約関係の継続以外の方法で労使双方の利益に適った紛争解決を可能とする制度を検討 すべき 48金銭的な解決の実態
• 金銭的な解決は幅広く行われている – 裁判の和解、労働審判制度の調停、労働局のあっせん – 解決金にかなりばらつき→予測可能性が低い 49 解決金額(中央値) 問題発生から解決までの期間(中央値) あっせん 17.5万円 2.4か月 労働審判 100.0万円 6.4か月 裁判・和解 300.0万円 15.6か月 (出所) 高橋陽子「金銭的側面からみた労働審判制度」、菅野他編『労働審判制度の 利用者調査 実証分析と提言』有斐閣 (出所)厚労省資料解雇の金銭解決制度導入に向けて
• ヨーロッパ諸国では法律に基づいた解雇補償金制度が存在 – 基本的に法律などで勤続年数に応じて不当解雇の際の解雇補償金の目安 額が明示 – スペイン:33日分給与×勤続年数(上限24ヵ月分)(以前は、45日分給与× 勤続年数(上限42ヵ月分) – ドイツ:裁判官の裁量で決定、法定で上限→月額賃金の12 ヵ月分以内(50 歳以上かつ勤続15 年以上の労働者については15ヵ月以内、55 歳以上かつ 勤続20 年以上の労働者については18ヵ月以内) • 予測可能性を高め、紛争解決手段の選択肢を増やすためにヨーロッパ にあるような解雇の金銭解決制度の導入が必要 – 現状、解雇期間の賃金支払い(バックペイ)狙いの訴訟も多く、裁判を長引か せるインセンティブあり • 解雇の金銭解決導入のためのしばしば指摘される問題点 – 複雑な利害対立 • 賛成:中小企業労働者、大企業使用者 • 反対:中小企業使用者、大企業労働者 – 労働者側の申し立て vs. 使用者による申立て を巡る対立 50解雇の金銭解決制度導入の
本当の「ハードル」とは
• なぜ、「規制改革会議第二次答申」では金銭
解決という言葉がないのか?
– 日本再興戦略改訂では「金銭救済の仕組み」に
言及
• 不当解雇は無効という法律体系
– 労働契約法16条「客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とする」
– 「無効」と「違法」との違い
– ヨーロッパでは基本的に不当解雇は違法→金銭
解決が可能
51不当解雇が無効なドイツのケース
• 不当解雇が無効でも金銭解決制度があるドイツ – 裁判所が解雇を無効と判断したことを前提条件に、使用者が労働者に対して補償金を支払う ことを引き換えに、労働契約を解消する権利を労働者、使用者双方に認めている(解消申し立 て)(解雇制限法9条1項) – 解消申し立てを行う者は(いずれであっても)解雇をきっかけにして労働契約を将来に向かって 継続することができないほどに労働者及び使用者間の信頼関係が崩壊していることを主張・立 証する必要あり(「期待不能性の要件)」 – これが認められれば、解雇予告期間が経過した時点にまでさかのぼって労働契約を解消し、 かつ、使用者に対して一定額の補償金を労働者に支払うべきことを命じる(解雇制限法9条2 項)。 – 補償金は原則として労働契約が解消される月の月給の12か月分を上限に裁判官が当該労 働者の年齢や勤続年数等を考慮し、裁量によって決定(解雇制限法10条1項) – しかし、解消判決・補償金制度の利用率は低い。 • 和解による金銭解決制度 – 解雇訴訟については訴えの提起から2週間以内に和解手続きを行うことが義務付け – 解雇紛争の多くは、労働契約は解消しつつ、使用者が労働者に補償金を支払うことを内容と する和解によって終了 – 事実上の和解による補償金金額目安の算定式=月給×勤続年数×0.5 (以上、山本陽大「ドイツにおける解雇の金銭解決制度」金融財政事情2013/5/13) より) • ドイツの仕組みを取り入れようとした経緯(2002~2003年)(参考1、2参照) • 日本への導入の場合は、裁判所との考え方の摺り合わせが重要 52不当解雇を違法とする枠組み
• (2014/11/05 産業競争力会議雇用人材分科会有識
者ヒアリング JILPT濱口氏提出資料より)
第○条 使用者は次の各号の場合を除き労働者を解雇
してはならない。
• 一 労働者が重大な非行を行った場合。
• 二 労働者が労働契約に定める職務を遂行する能力
に欠ける場合。
• 三 企業経営上の理由により労働契約に定める職務
が消滅または縮小する場合。ただし職務が縮小する
場合には、解雇対象者は公正に選定しなければなら
ない。
• 2 前項第三号の場合、過半数労働組合または従業
員を代表する者に誠実に協議をしなければならない。
53解雇補償金の水準決定
• ヨーロッパの解雇補償金の水準は国によってばらつきがあるが勤続年数に比 例(上限あり) • 欧米では厳格な先任権制度(不況の場合勤続年数の短い従業員から解雇) があり、解雇補償金の制度と補完的 • 日本は、むしろ、中高年がターゲット • 日本の場合、解雇の際、定年まで勤めておれば得ていたであろう賃金総額に 着目する見方もあり、その場合は解雇補償金は定年までの年数に依存 • 解決金の水準として裁判例では賃金の6か月分が目立つが必ずしも理論的な 根拠なし • 「あっせん」「労働審判」「和解」事例の分析で明確な答えがでるのか? • RIETIのアンケート調査の結果(参考3) • 予測可能性を高めることが目的の解雇補償金であるがその水準の設定は日 本の場合、様々な要因を考慮する必要あり 5455 参考1
56 参考2
57 Web 調査 調査時期:2013年1月 総回答数:6,128 人 (回答率52.7%) 雇用形態別: 正規雇用者3346 人(54.6%)、 パート・アルバイト1244 (20.3%)、 派遣社員135 人(2.2%) 契約社員・嘱託344 人(5.6%)、 自営・家族従業者769 人 (12.5%)、完全失業者290 人 (4.7%) 参考 3
日本の労働時間規制の評価と問題点
• 法定時間を超えた労働に対し罰則をもって原則禁止 – ヨーロッパ型の規制アプローチに近い • 健康確保・WLBに対して十分配慮されているか? – 休息時間への規定なし – 少ない年次有給休暇など • 「三六協定」はヨーロッパの個別オプトアウトよりも厳しい仕組みであるが、長時 間労働を抑制する実効性は乏しい(実質「青天井」)。 • 長時間労働への歯止めは実質的には割増賃金に依存 – 日本の規制はむしろアメリカ型に近い。 – 労働時間の問題が残業代を払うか払わないかの問題にすり替え・矮小化 • 労働時間規制の例外的措置に関する制度 – 労働時間、休憩、休日の規制が適用されない適用除外制度(管理監督者など) – 法定労働時間の枠を柔軟化する変形労働時間制やフレックスタイム制 – 労働時間の算定において実労働時間にかかわらず一定時間労働したものとみなす労働時 間のみなし制 • 事業外労働のみなし制(例、外まわりの営業、報道記者など) • 業務の性質上労働者が大きな裁量を持っているとして適用される裁量労働制(専門業務型、企画業 務型)など ↓ – 「接ぎ木的」に構築されてきたため非常に複雑化 – 労使双方にとって制度によって使い勝手が異なり、制度の運用にゆがみ 62労働時間関連制度の比較
労働時間実証分析例
• 「日本人の働き方と労働時間に関する現状」(黒田祥子准教授(早稲田 大学)規制改革会議雇用WG提出資料、2013/10/31) • 労働時間に関する実態(Kuroda(2010)、「社会生活基本調査」) – 年間の休日数 • 21日増加⇒雇用者平均でみれば、年・月・週当たりでは確実に短縮 – フルタイムの週当たり労働時間: • 1980年代と2000年代はほぼ同じ⇒ 1980年代のピーク時よりも長くなったわけではない – 週休二日制の普及により、週の中での時間配分はこの数十年で大きく変化 • 平日に労働時間がしわ寄せ。 • 睡眠時間は趨勢的に減少(1976→2011年男性:4.47時間減女性:3.05時間減)• 労働時間規制が働き方に及ぼす影響(Kuroda and Yamamoto(2012))
– 既に時間外規制が適用除外となっている労働者(「管理監督者」や「裁量労 働制」)と、適用されている労働者について、個人属性等をマッチングさせたう えで、労働時間を比較 – 平時は、時間外規制の有無は、労働時間に影響を及ぼしていない – 不況期には時間外規制適用除外の労働者の労働時間が顕著に長くなる傾 向→特にこの傾向は、一部の労働者(大卒以外等)に顕著に観察 • 資料は以下を参照 – http://www8.cao.go.jp/kiseikaikaku/kaigi/meeting/2013/wg2/koyo/131031/it em2.pdf 64