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レセプトデータベース(NDB)の現状とその活用に対する課題

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レセプトデータベース(NDB)の現状とその活用に対する課題

藤森 研司

1)

1.はじめに

医療におけるビッグデータの活用が活発になっ ているが,全国統一形式で最大数量があるのは電 子レセプトである。DPCデータは患者の臨床像 がより精緻なデータではあるが,その本体は急性 期病院の入院医療のデータである。DPCデータ 形式で急性期以外の入院医療や入院外については 記述できない訳ではないが,限定的に運用されて いるのみである。特に調剤レセプトや歯科レセプ トはDPCデータ形式で記述されることは今のと ころないので,電子レセプトがより広範囲の医療 をカバーする。 本稿では厚生労働省保険局が所有する電子レセ プトのアーカイブであるNational Database(以 下,NDB)の現状と活用のための課題について 概観する。制度は常に動いているので,あくまで も執筆時点での現状と課題であることはご理解い ただきたい。

2.NDBとは何か

厚生労働省保険局総務課保険システム高度化推 進室では高齢者の医療の確保に関する法律(いわ ゆる高確法)により,平成21年度分より電子レセ プト並びに特定健診の匿名化後データの収集を開 始した。これは特定健診・特定保健指導の推進に  医療のビックデータの一例として匿名化電子レセプトのアーカイブであるNational Database (NDB)について,その特徴と制約について詳述した。NDBは平成21年度分からすべての電子レセ プト(医科,DPC,歯科,調剤)と特定健診データが突合可能な匿名化の後に厚生労働省保険局に 集積されている。本来は医療費適正化のために集積されたデータであったが,都道府県や研究者に も門戸が開放された。  そもそもの電子レセプトの制約に加えNDB特有の制約はあるが,電子レセプトの電子化率が98% に迫る今日では,我が国の医療状況を悉皆性を持って把握できる仕組みと言えるだろう。NDBの活 用例として厚生労働省医政局と共同で申請し,都道府県の地域医療計画,地域医療構想のために提 供しているデータブックの例を記した。都道府県別,二次医療圏別,市区町村別の医療提供体制と 患者受療動向を示したものである。  NDBに対する大きな期待は全国民を対象とするコホート研究の優れた情報源となることである。 現在は保険情報に基づいたレセプト情報の突合であるので,保険が切り替わると結合が中断するが, 今後,医療用の個人番号等の導入により,長期間に渡るレセプトの結合が可能となり疾患の発生か ら収束まで一連のエピソードを把握することが可能となる。 キーワード 電子レセプト,NDB,National Database 1)東北大学医学系研究科公共健康医学講座医療管理学分野

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より,医療費が適正化されるか否かを判断するこ とを主たる目的としたものであるが,残念なこと に電子レセプトと特定健診データを個人単位で紐 づけるための情報の書き方に著しい不一致があ り,20%程度しか突合されないことが判明した。 突合は主としてID1と呼ばれる保険者番号+被保 険者番号+生年月日+性別をハッシュキーとする ものであったが,保険者番号あるいは被保険者番 号の記載方法が多彩であったため,同一個人でも 異なるハッシュ値を持ってしまい,突合ができな いという事態に陥った。患者氏名+生年月日+性 別のハッシュ値であるID2も同時に作成された が,氏名の書き方はより多彩であり突合率は低い。 従ってNDBの当初目的である特定健診と電子 レセプトの統合分析は難しい状況であるが,電子 レセプト単体での利用は進んでいる。NDBでは 医科,DPC,調剤,歯科レセプトが収集されて いる。現在は歯科レセプトの電子化率も向上し, 国内のレセプトの97%以上が電子化されている。 NDBをもってほぼ悉皆性のある分析が可能と なったといってよいだろう。

3.NDBの現状

NDBには毎年16億件余りの電子レセプトが集 積されている。「National Database」とデータベー スの名を冠してはいるが,平成26年度まではテキ ストファイルのアーカイブを高速検索,高速抽出 をする仕組みであった。平成27年度からはSQL型 のデータベースとなり,その名にふさわしいもの とはなったが,検索や抽出の速度は大きくは変 わっていないようである。 NDBはその根拠法を高確法に拠っていたため, 保険診療分の電子レセプトしか使用できないこと になっていた。すなわち公費である生活保護分な どは,集積はされているものの分析には表向きに は使用できない。都道府県により生活保護による 医療の提供状況は大きく異なるため,生活保護分 を除いた分析では我が国の医療の実態を正確につ かむことはできない。平成27年度に法律改正が行 われ,市町村や都道府県の同意があれば,生活保 護分のデータも使用可能となった。平成28年度以 降は,生活保護分のデータも使用できる見込みで ある。労災や自賠責,自費部分はそもそもNDB には届かないので,分析の対象外となっている。 NDBでは個人を特定しやすい情報を最小化す るために,コメント等の文字列はあらかじめ削除 されてNDBに届く。電子レセプトのCOタグやSJ タグは事前に削除される。傷病情報を格納する SYレコードもテキスト部分は削除されるため, 未コード化病名で傷病名をテキスト記述されてい るものは,傷病名そのものが削除された状態で NDBに届く。したがって未コード化病名を文字 列から分析することはできない。およそ8%程度 の傷病名は未コード化病名であり,傷病名の分析 対象外となる。 NDBはその本来目的は医療費の適正化であり, それ以外の使用は目的外使用となる。最近は診療 報酬改定の基礎データ作りに相当使用されてお り,平成24年度からは社会診療行為調査もNDB を用いて実施されている。 NDBは本来業務の他,第三者提供として大学 等の研究者あるいは都道府県の利用も,多数の書 式を必要とする申し出と厳しい審査を経てではあ るが可能となっている。本省内の利用がマシンタ イムの相当を占めており,研究者等の申し出によ る第三者提供に割かれるマシンタイムは少なく, 相当のバックログがあるようである。

4.NDBの利用

NDBデータの研究目的あるいは行政目的の提 供は大きく三種類ある。第一にサンプルデータ セットとして,入院は10%程度,入院外は1%程 度を抽出し,出現数の少ない傷病名や医療行為等 の個人を特定しやすいものは削除し,個人や医療 機関を特定しえない状況になったものが提供され ている。これは目的別ではなく,すべての申し出

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者に同じものが提供される。医科と調剤など,異 なるレセプト種別でも同一人物であれば,同じ匿 名化キーが付与されており,統合した分析が可能 である。NDBでは医療機関も個人情報と捉えら れており,医療機関番号も匿名化処理が行われる。 第二に目的別の集計データの提供が行われる。 これは申し出者の指定した条件で,集計済みの データが用意される。個人を特定できる情報はな く,何が何件といった単純集計である。複雑な条 件の処理は行ってはもらえないようであるが,あ る特定の病名を持ち,ある特定の医療行為がなさ れている患者数程度の複合的な集計は行っていた だけるようである。 第三に個票単位の提供である。個票単位の提供 は個人の特定性が高まるので,申し出時に指定し た項目のみが提供される。十分に研究計画を練っ て必要な項目を事前に特定することが必要であ り,網羅的にデータを入手して探索的な研究を行 うということには向かない。 いずれのデータも何種類もの書式を用意して申 し出をする必要があり,有識者会議において提供 の是非が検討される。「公共性」のあることが重 要であり,公共性の薄い申し出は却下されやすい。 申し出においてはデータを扱うための環境整備が 重要であり,特に個票単位のデータを申し出する 場合は,データセンター並みのセキュリティー要 件を満たす必要がある。その他の申し出も,イン ターネットに接続していないPCで分析を行うな ど,一定の要件がある。 平成27年度からは第四の利用手段として,オン サイトセンターが東京大学と京都大学に設置され た。データ利用のためのセキュリティー要件を満 たすことが困難な利用者のために,利用者はオン サイトセンターに出向いて必要な処理を行い,最 終の分析結果のみを持ち帰ることを目的としてい る。設置されて間がないため,実際の利用勝手が どうであるのか,どのような自由度あるいは制約 があるのか,徐々に明らかになっていくと思われる。 利用の申し出に際しては,厚生労働省のホーム ページを参照し,レセプト情報・特定健診等情報 の提供に関するガイドラインや各種の書式を利用 する(厚生労働省, 2013, n.d.)。作成すべき書類 は複雑で多岐にわたる。最近の申し出の例として 平成27年9月17日に公表された「第8回 レセプ ト情報等の提供について」(平成27年1月17日~ 平成27年6月12日受付分)を表1に示す。この中 で井上の申し出が前記の第二の集計データであ り,その他は第三の個票データである。

5.NDBの活用例

NDBの利用として自験例を述べてみよう。厚 生労働省医政局地域医療計画課は地域医療計画, 地域医療構想を担当している課であるが,都道府 県がデータに基づいた議論が展開できるよう, データブックを作成して毎年配布している。この データブックには,各厚生局が公開している医療 機関の施設届等の各種データ,DPC公開データ による主たるDPCごとのアクセスマップ(国立 出典:厚生労働省(2015a) 表1 NDB の第三者提供

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がん研究センター 石川ベンジャミン光一室長), 総務省の救急車搬送時間の分析ツール(産業医科 大学 松田晋哉教授)に加え,筆者はNDBを活 用した医療提供状況と患者受療動向の可視化ツー ルを提供している。 医療提供状況と患者受療動向の可視化は医政局 が主たる申出者としてデータ利用の申出を行い, 筆者は共同研究者として登録され実際の分析を担 当している。平成27年度に配布したデータブック では,平成25年度診療分を対象とし,医科,DPC, 調剤レセプトの全数を使用して分析を行った。レ セプト件数としては全数であるが,分析を行う項 目をあらかじめ設定し,その範囲の項目のみの提 供を受けているのでデータ量としては半分程度で ある。レセプトに表現される医療行為や薬剤,傷 病名から,5疾病5事業+在宅を中心に270の指 標を作成し,都道府県別,二次医療圏別,市区町 村別にレセプト数を集計した。 提供対状況については,年齢構成,人口で標準 化 を 行 い, 全 国 平 均 が100と な る よ う 指 数 化 (Standardized Claim-data Ratio,以下SCR)し, レセプト数の過多を直接比較可能とした。患者の 受療動向については患者所在地が地域に割り付け ることができるのは,国民健康保険(以下,国保), 退職国保,後期高齢者医療制度(以下,後期)の みであり,被用者保険分は割り付け困難である。 そのため,受療動向は高齢者のそれに偏ったもの となっている懸念があるが,0~ 14才,15才~ 64才,65才~ 74才,75才以上と年齢区分ごとに 集計を行い,年齢の偏りを一定程度考慮した判断 ができるようにしている。 図1は都道府県別の入院基本料7:1及び10: 1のレセプト出現状況を見たものであるが,最大 と最小で2倍程度の差がみられる。医療提供は一 般に西高東低と言われるが,図1でも西日本と北 海道でレセプト出現が多いことが分かる。入院基 本料7:1及び10:1は急性期医療を担う根幹と なる病床群であるが,このような地域差がある状 態が果たして適切なのか,自県の整備状況はどう なのか,議論の出発点となるだろう。 図2は同じく入院基本料7:1及び10:1の提 供状況を福島県の二次医療圏別に見たものであ る。会津及び県中の二次医療圏で全国平均を上回 り,一方,南会津は50%に満たないことが分かる。 図1 一般入院基本料7:1,10:1の SCR

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提供体制は細分化するほど差は拡大し,市区町村 別ではより大きな差を示す。このようなツールを 47都道府県分作成した。なお,宮城県と徳島県は 平成25年度の二次医療圏の集約を行った(宮城県 は7→4,徳島県は6→3)が,前後の比較がで きるよう,両県では集約前と集約後の二つのバー ジョンを提供している。 SCRが全国平均よりも高いあるいは低い場合, 患者の流入あるいは流出がどの程度影響をしてい るのかを見る必要がある。SCRは高いが周辺の医 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 0701 県北 0702 県中 0703 県南 0704 会津 0705 南会津 0706 相双 0707 いわき 0701 県北 0702 県中 0703 県南 0704 会津 0705 南会津 0706 相双 0707 いわき KG04 宮城県 KG06 山形県 KG08 茨城県 KG09 栃木県 KG15 新潟県 4 保険者 医療機関

患者流入

0 50 100 150 県北 県中 県南 会津 南会津 相双 いわき 図2 福島県二次医療圏の一般入院基本料7:1,10:1の SCR 図3 福島県二次医療圏の一般入院基本料7:1,10:1の患者流入

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療圏からの流入で説明できるのであれば,それは 過剰とは言わない。SCRは低いが隣接する二次医 療圏への流出で補完されているとすれば,移動時 間はかかるものの必要な医療は受けているという ことができるであろう。 図3は福島県の二次医療圏間及び周辺の他県か らの入院基本料7:1及び10:1の患者流入を見 たものである。左の縦軸が医療機関のある二次医 療圏,積み上げの棒グラフが患者所在地の二次医 療圏である。図2では会津及び県中の二次医療圏 でSCRは全国平均を上回っていたが,県中では他 の二次医療圏からの流入で説明できるものの,会 津では流入はわずかであり,流入では説明できな いほどの医療提供が行われていることが判断でき る。図4は図3とは逆に入院基本料7:1及び 10:1の患者流出を見たものである。南会津の入 院基本料7:1及び10:1のSCRは図2では45% 程度であり医療提供が足りないが,図4からはほ ぼそれを補うほど患者は会津に流出し医療を受け ていることが分かる。データブックではこのよう な医療提供状況と患者受療動向の可視化ツールで 270の指標についてデータを提供している。本年 度も平成26年度診療分について同様なデータブッ クを作成し,都道府県に配布予定である。

6.電子レセプトの課題

NDBの課題に言及する前に,電子レセプトそ のものの課題を考えてみよう。電子レセプトは保 険診療の請求のためのものであり,分析のために 設計されたものではないであろうから,請求のた めの電子データという意味においては十分な情報 があると言えるだろう。一方,これほどに電子レセ プトが普及し,一定程度の分析が可能となった現在 では,単に請求用のデータに終わるのではなく, 多面的な分析により我が国の医療提供体制の検討 や臨床疫学的な研究に用いられるべきであろう。 その場合,電子レセプトにはDPCデータと比 較して,さらに具備すべき情報の候補がある。第 一に現行の電子レセプトには患者の所在地を示す 情報がない。DPCデータには患者住所の郵便番 号の記載が必須であり,患者の受療動向の把握が 可能である。電子レセプトでは郵便番号情報がな く,患者受療動向を把握する場合は,保険証の発 行元で判断せざるを得ないのが現状である。保険 証の発行元が患者所在と強く紐づいているのは, 国保,退職国保,後期のいわゆる地域保険であり, 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 0701 県北 0702 県中 0703 県南 0704 会津 0705 南会津 0706 相双 0707 いわき 0701 県北 0702 県中 0703 県南 0704 会津 0705 南会津 0706 相双 0707 いわき KG04 宮城県 KG06 山形県 KG08 茨城県 KG09 栃木県 KG15 新潟県 5 保険者 医療機関

患者流出

図4 福島県二次医療圏の一般入院基本料7:1,10:1の患者流出

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被用者保険は主として本社の所在地に紐づく傾向 がある。従って,患者の受療動向の把握,あるい は流入・流出の補正に用いることができるのは現 状では国保,退職国保,後期であり,年齢に偏り があると言わざるを得ない。国保であっても進学 等で家族が他地域にいる場合もあろうから,保険 証の発行市町村が必ずしも患者所在地を保証する ものではない。電子レセプトに患者所在地の郵便 番号の記載を切望する所以である。 患者郵便番号を欠くことはDPC電子レセプト においても同様である。DPCデータとDPC電子 レセプトは混同されやすいが別物である。DPC 電子レセプトはDPCデータとは異なり審査支払 用であるため,支払いにはかかわらないDPCデー タは一般に記載されない。DPCデータにはある がDPC電子レセプトに記載されない主なものは, 患者所在地の郵便番号,身長,体重,各種のスコ アやステージである。支払いに関連する出生時体 重 や 入 院 時 のJCS(Japan coma scale),Burn indexなどはDPC電子レセプトにも記載されてい る。なお,DPC電子レセプトではコーディング データとして包括化される医療内容も出力されて おり,DPCデータ並みの分析を可能としている。 ただし,出来高の医療行為等は本来のSIタグ等の 本体とコーディングデータであるCDタグの両者 に出力されるため,ダブルカウントしないような 処理が必要である。 第二に医科の電子レセプトでは傷病名の重みづ けが不足している。確かに出来高の審査では個々 の医療行為や薬剤に対する適応症が存在するか否 かが判断のポイントになるので,全体としての傷 病目の重みづけは重要ではないかもしれない。一 方,DPCデータでは当該の入院で傷病名は最も 医療資源を投入した傷病名,二番目に医療資源を 投入した傷病名,入院の契機となった傷病名,入 院時併存症,入院後続発症を書き分ける。このこ とにより,DPCデータでは傷病名の多彩な分析 が可能となる。電子レセプトでは主傷病フラグは あるものの,それは複数の傷病名に付与しても良 いものであり,主傷病フラグのある傷病名の間で 重みづけもされていない。従って電子レセプトか ら傷病名を使用した分析を行うことは難しい場合 が多く,疑い病名を除くすべての傷病名を均等の 重みで扱わなければならない。特に傷病別の医療 費分析では,傷病名に重みづけがない以上,疑い 病名を除くすべての傷病名に均等に医療費を配分 せざるを得ないことになる。 ところで,電子レセプトの傷病名には日付情報 があるが,これはその医療機関にとっての診療開 始日であり真の傷病の発症日ではない。そのため, 癌の五年生存率等の罹病期間を求める場合は,当 該の医療機関のレセプトのみでは不十分であり, 対象者の電子レセプトをすべて連結し,傷病の初 出時点を確認する必要がある。DPCデータや DPCレセプトの包括レセプトでは傷病名の発症 日や診療開始日の記載欄がなく,この点において は出来高の電子レセプトがやや優れているかもし れない。 電子レセプトの課題の第三は患者の連結性であ る。医療行為の効果や医療連携の進み具合をみる には,対象者のレセプトを連結して一定期間追跡 する必要がある。現行のレセプトではマイナン バー等の個人に固有かつ不変な情報はなく,個人 を識別するのは氏名,生年月日,性別と保険情報 である。分析用の電子レセプトでは個人情報保護 のためにこれらの情報はそのままではなく,一般 にハッシュ関数を用いて変換される。ハッシュ関 数では元の情報が異なるとハッシュ値が偶然に同 一となる確率は非常に低く,またハッシュ値から 元の値を知ることは極めて困難とされる。従って, 保険情報が一文字でも変更されると,保険情報で の連結が不可能となる。氏名の読み方による類推 なども不可能であり,氏名による連結の問題は先 に述べた如くである。 保険情報の変更は頻繁に行われ,国保,後期で は市町村外への住所地の移動で変更になる。被用

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者も職を変われば変更となり,勤務先の支店が変 わっただけでも変更となる企業もある。比較的住 所地の移動の少ないであろう高齢者においても, 75才の誕生日をもって全員が国保等から後期高齢 者医療制度に保険が変わるため,この日の前後で 保険情報による連結が破断する。いわゆる電子レ セプト分析における75才の壁である。この年齢層 は最も医療資源を使う時期でもあり,75才の前後 でレセプトの連結ができないことは,コホート研 究において手痛い。電子レセプトに個人固有の番 号の導入が期待される所以である。 電子レセプトそのもの課題ではないが,電子レ セプトを作成している医療機関においても,紙レ セプトでの請求も行われていることがある。特に 作成の難しいレセプト,移植関連のレセプトは電 子ではなく,紙レセプトによる請求の場合が多い。 従って,これらの特殊な疾患を分析する場合,電 子レセプトでは全数を把握できない可能性もある ことも留意する必要があるだろう。

7.NDBの課題

以上の電子レセプトの課題を踏まえた上で, NDBの課題について考えてみよう。NDBの第三 者提供は本来目的ではないため,利用環境や抽出 項目に厳しい制約があることはやむを得ないだろ う。制約の主たるものは個人情報保護のためであ るが,患者の特定性が高まるコメント情報や症状 詳記の情報はあらかじめ削除されている。未コー ド化病名の傷病名(いわゆるテキスト病名)も削 除される。重要な傷病名ほどテキスト病名となる 傾向があるので,これは困ったことである。 集計値の公表についても制約がある。すなわち 集計において全国レベル,都道府県レベル,二次 医療圏レベルでは集計値が10未満あるいは該当す る医療機関数が3未満の場合は,公表をしてはな らないルールである。市区町村別ではさらに個人 の特定性が高まるため,集計値が100未満は公表 できない。高度な医療では市区町村別には100未 満であるものが多く,入院基本料や外来の基本診 療料以外は公表しにくい状態にある。また,高度 な医療では二次医療圏で実施している医療機関が 1あるいは2であることも多いが,その場合も公 表してはならずゼロと同様な扱いとなる。高度か つ重要な医療を実施する医療機関が当該の二次医 療圏においてゼロであることと,1ないしは2あ ることは地域医療計画においては大きく意味が異 なるがルールはルールである。なお,先に示した 地域医療計画のためのデータブックでは都道府県 庁内での利用に限り,この医療機関制約は免除さ れている。 最後にNDBに対する筆者の期待を述べるが, 第三者提供へのマシンタイムを増やしていただく ことで,提供決定から実際のデータ提供までのタ イムラグが縮まることを期待したい。NDBのマ シンタイムの多くは本省の本来業務に割かれてお り,とくに診療報酬改定の時期ではマシンタイム をほぼ占有する。本来目的であるので当然と言え ば当然であるが,予算制約はあろうが第三者提供 のためのサーバを別に構築することで,マシンタ イムを奪い合うことがないような状況になること を期待したい。オンサイトセンターがそのための 第一歩であるのだろうと思われるが,これも東京, 京都の二か所のみではなく,国内に多数設置され ることが期待される。 また本省ではいわゆる「NDB白書」なるもの を作成・公開予定で,有識者による会議が開催さ れている(厚生労働省,2015b)。これはNDBの 分析結果を国民に広く知らしめるものとして期待 されるが,その議論は紆余曲折しているようであ る。まずは世に出すことが重要であり,年を経て 良いものになってゆくことを期待する。 今後,電子レセプトならびに特定健診のデータ に個人の固有番号が付され,患者の連結性が担保 されれば,NDBは1億2千万人のコホート研究 の基盤となる。ここから発せられる臨床疫学的な 研究結果は大いに期待できるものである。筆者も

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ピロリ菌感染の除菌により胃癌発生ならびに胃癌 に係る総医療費の低下を確認する研究をNDBで 行いたいと考えているが,10年以上の患者連結は 必要であろう。NDBは個人情報保護を第一とし た安全運転をしながら,医療の情報基盤として 益々成長してゆくことを期待して本稿を終える。

参考文献等

厚生労働省保険局医療介護連携政策課保険システム高 度化推進室(2015a)「第8回 レセプト情報等の提供 について」<http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/  0000104010.html> 2015年12月17日アクセス 厚生労働省保険局医療介護連携政策課保険システム高 度化推進室(2015b)「いわゆるNDB白書の作成につ いて」,<http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000092959.pdf> 2015年12月17日アクセス 厚生労働省保険局総務課保険システム高度化推進室 (2013)「レセプト情報・特定健診等情報の提供に関 するガイドラインの改正等について」<http://www. mhlw.go.jp/stf/shingi/0000013358.html>2015年12月 17日アクセス) 厚生労働省保険局医療介護連携政策課保険システム高 度化推進室(n.d.)「レセプト情報・特定健診等情報 提 供 に 関 す る ホ ー ム ペ ー ジ 」<http://www.mhlw. go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/ iryouhoken/reseputo/> 2015年12月17日アクセス 連絡先:藤森研司     [email protected]

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Current Status and Issues of the National Database

Kenji Fujimori

1) Abstract

The characteristic and limitation as an example of medical big data about National Database (NDB), archives of the e-claim data were discussed. The NDB accumulates all e-claim data (medical, DPC, dentistry, and pharmacy) and specific medical examination data from 2009 by the Ministry of Health, Labor and Welfare. NDB is data accumulat-ed for rationalization of maccumulat-edical expenses, but the door is left open to the local govern-ments and researchers.

There is the limitation peculiar to NDB in addition to limitation of the e-claim data. However, an electronic rate of the claim data approaching to 98% today, it may be said that NDB can almost grasp the medical care situation of our country. An ex-ample of the usage of NDB, the data book which we offered for the local health care planning of the metropolis and districts, a community medicine design is demonstrat-ed.

The big expectation for the NDB is to become the superior source of information of the cohort study for all nations. Because it is poking each other of the receipt infor-mation based on insurance inforinfor-mation, combination stops it when insurance is changed, but combination of the e-claim data to cross by the introduction such as medi-cal individual numbers for a long term is enabled and becomes able to grasp a series of episodes from the onset of the disease to convergence in future.

Keywords: E-claim data, NDB, National Database

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