実道路橋変状調査への橋体の加熱および冷却を用いた熱赤外線映像法の適用
Application of the Thermal-Infrared Imaging Method Using Heating and Cooling of the Main Girderto Road Bridge Deterioration Survey
浅利公博*・後藤惠之輔**・高橋洋一***・渡邉浩平****
Kimihiro ASARI ,Keinosuke GOTOH ,Youichi TAKAHASHI and Kohei WATANABE
*正会員 ㈱ 計測リサーチコンサルタント (〒812-0007 福岡市博多区東比恵 2 丁目 2-25) **正会員 長崎大学大学院生産科学研究科教授 (〒852-8521 長崎市文教町 1-14) ***正会員 ㈱ 計測リサーチコンサルタント (〒812-0007 福岡市博多区東比恵 2 丁目 2-25) ****九州大学新キャンパス計画推進室助手 (〒812-8581 福岡市東区箱崎 6 丁目 10-1) 本論は、熱赤外線映像法を実橋としての道路橋の変状調査に適用することについて述べたも のである。今回の対象橋梁は表面被覆が施されており、一般的な検査技術である目視観察だけ で変状を確認することは困難であるが、提案する熱赤外線映像法では、コンクリート主桁の表 面被覆下の変状や、アスファルト舗装下の調整コンクリートの剥離等の抽出を可能としている。 この方法は対象橋梁を人為的に加熱・冷却することにより、調査にかかる時間短縮を可能とす るとともに、デ-タ解析の際に、差画像を用いることにより、変状がより明確に抽出できるよ うにした。 1. 緒言 高度成長期に次々と建設された構造物が経年 30 年を 越え、構造物の維持管理が近年ますます重要となってき ている。2001 年にコンクリート標準示方書「維持管理編」 が制定され、ようやくマニュアルが整備されてきたが、 健全度調査診断、補修設計からその工法に至るまで、未 だ研究開発中のものが多い。このうち調査診断において は、可能な限り非破壊の検査が望ましく、種々の非破壊 検査手法が開発されているが、これらのほとんどが対象 構造物に接触することを必要とし、そのために多くは足 場や高所作業車等を用いなければならない。調査費に占 める、これらの補助設備・機械の割合は大きく、遠隔か ら可能な構造物の非破壊検査の開発が切に望まれてい るところである。 本論は、東九州の山間地に位置するコンクリート道路橋 (A橋梁及びB橋梁)を対象に、従来より行なわれている 検査手法とともに、遠隔からの検査が可能である熱赤外線 映像法を用いて橋梁の変状を調査・検証し、橋体の加熱お よび冷却による熱赤外線映像法が実橋梁の変状調査に適 した手法であることを提言するものである。 2.熱赤外線装置を用いた既往の研究 コンクリート構造物を対象とした非破壊検査手法のう ち、電磁波を利用する方法としては、利用する電磁波の 波長の長い方から、レ-ダ-法、熱赤外線法、X線法等 に分類される。また、これらの電磁波を利用する方法を 用いることにより、主として①コンクリート中の鉄筋の 位置、径、かぶり、②コンクリート中の空隙、③コンク リートのひび割れ、および④コンクリートの剥離のよう な情報を得ることができる1)とされている。 ここで、熱赤外線映像法で用いる熱赤外線装置とは、物 体から放射される熱赤外線エネルギーを検知し、その表面 温度を平面的に映像化する装置である。物体から放射され る熱赤外線エネルギーは物体内部に空洞や異物が存在す る場合、加熱冷却時にその影響を受けるため、同内部が均 一な部分に比べ温度の経時変化が異なってくると考えら れる。従って、今回の橋梁の観測個所の内部に剥離もしく は漏水個所などが存在すれば、加熱または冷却時に観測す ることにより、その存在を推定できることになる。 熱赤外線装置を用いた、コンクリート構造物の非破壊 検査に関する既往の研究としては、コンクリート構造物 内の空隙や鉄筋の状態の判読に関する研究2)、FRPシ ートとコンクリート間の剥離検出に関する研究3)、タイ ルやモルタルなどの外壁仕上げ材の欠陥に熱負荷を与え て検出する研究4)、型わくのコンクリートの充填状況を セメントの水和熱を利用して検出する研究5)、トンネル 覆工の変状調査に関する研究6)、7)などがある。 このように、コンクリート構造物を対象とした研究は
浅利、後藤、高橋、渡邉: 多く行われていると言えるが、本研究で対象とするよう な実橋梁での熱赤外線装置を用いた非破壊検査について は、若干の研究8)、9)がなされているのみで、試行段階で あるのが現状である。 3.調査対象橋梁及び調査方法の概要 (1) 調査橋梁の概要 調査を実施した橋梁は、1960 年に架設された橋長 62.2m、RC3径間連続T桁橋のA橋梁と、1966 年架 設、橋長 42.0m のPC2径間単純ポストテンションT 桁橋のB橋梁である。両橋梁とも後年、吹き付けコン クリ-トによる表面被覆が施されている。A及びB橋 梁の橋梁諸元を表-1に示す。また、両橋梁の変状に対 し用いた調査方法を、表-2に示す。表中の熱赤外線映像 法を用いた調査以外の方法は、いずれも従来より用いら れているものであり、ここではその説明は割愛する。 なお、これら従来の調査は部分的に設置した調査足場 を用いて行っている。 (2) 熱赤外線映像法を用いたA橋梁の調査方法 図-1(a)に示すA橋梁では、上部工下面及び橋面の変 状を熱赤外線装置を用いて調査した。上部工下面の調査 では、離れた場所から表面被覆の剥離箇所及び密着した 表面被覆下のコンクリートの損傷などについて、その変 状箇所の推定を試みた。 A橋梁では、橋面にアスファルト舗装のひび割れが多く、 ポットホールも発生していること、また上部工下面の一部 表面被覆が剥落している箇所に遊離石灰や漏水が発見さ れたことから、アスファルト舗装下の調整コンクリートに おける剥離、損傷が懸念された。なお、橋面上の構造は橋 桁上面に調整コンクリート(厚さ 10cm)が打設され、そ の上にアスファルト舗装(厚さ 5cm)が施工されている。 ポットホ-ルに対してはパッチング処理がなされ、橋面防 水は未施工である。このため変状調査として、部分的なア 調査方法 備 考 目視調査 近接目視、遠望目視 打音調査 点検ハンマーにより人力で打音し た。 シュミットハンマ- 法 コンクリ-ト圧縮強度の推定JIS A 1155「コンクリートの反発度 の測定方法」に準拠 圧縮強度試験 コンクリ-トコアφ75mm 使用 JIS A 1107「コンクリートからの コア及びはりの切り取り方法並び に強度試験方法」に準拠 鉄筋探査 パコメ-タ-使用 自然電位測定 鉄筋の腐食状況の調査 超音波測定 コンクリ-トの品質調査 応力頻度測定 実交通による応力の発生状況 熱赤外線映像法 表面温度の遠隔測定 表-2 調査方法 橋梁名 A橋梁 B橋梁 橋長 62.2m 42.0m 橋格 一等橋 一等橋 橋種 RC橋 PC橋 構造形 式 3径間連続T桁 2径間単純ポスト テンションT桁 支間 24.8m×1連 18.7m×2 連 21.0m×2 連 上部 工 幅員 7.8m 8.8m 橋台 半重力式 半重力式 下部 工 橋脚 ラ-メン式 ハンマ-式 架橋年次 1960 年 1966 年 示方書 1956 年 1964 年 表-1 調査橋梁の諸元 高 欄 橋 台 橋 台 P 1 P 2 A 2 A 1 観 測 箇 所 0 1 0 2 0 m (a)A 橋 梁 高 欄 橋 台 橋 台 橋 P 1 A 2 A 1 観 測 箇 所 0 1 0 2 0 m (b)B 橋 梁 図-1 調査対象橋梁の概観(側面図)
スファルト舗装のはぎ取り調査により、舗装下の調整コン クリートの損傷が確認されたが、供用中の橋梁であるため、 橋面全体を同様に調査することは困難であった。したがっ て、全体的な状況を非破壊で把握する熱赤外線映像法を用 いることとした。 a)上部工下面の調査方法 写真-1 に示すA橋梁上部工下面の調査方法としては、 観測箇所を加熱するために桁下 4.0m の位置にジェット ヒーターを設置し、上部工下面の表面温度が 2℃上昇す るまで加熱した。その際の主桁ならびに床版における加 熱過程及び自然冷却過程の温度変化を、橋梁下に設置し た熱赤外線装置により観測した。加熱は 15:30 から 16:40 としその後は自然冷却とした。温度の観測時間は 16:00 から 18:50 までである。 使用した熱赤外線映像装置は、温度分布表示の能力が 最低表示温度から最高表示温度までを段階的に色彩表示 するのは 8 段階までという制限があった。そのため、健 全部と変状部との温度差を明示しながら、全体の状況を も把握できるような温度分布帯を繰返し試行した結果、 装置の温度分解能力の設定を本装置の温度最小分解能力 である 0.7℃として観測を行った。 b)橋面の調査方法 写真-2には、A橋梁の橋面の舗装ひび割れの状況を示 している。中心線上や路側上の舗装に発生している多く のひび割れに、写真-3のように冷水を注入すると、ほと んど冷水は溢れることなく舗装内部に浸透していくこと から、少なくともひび割れ直下には剥離層が存在すると 考えられた。そこで、このひび割れを中心として剥離層 がどのくらいの範囲で広がっているのか、熱赤外線装置 により測定することとした。 調査方法としては、温度差を与えるために 7:10 より 30 分間、冷水(約 200ℓ、水温約 5℃)をひび割れに注 入し、道路脇に設置した熱赤外線装置から、冷水の注入 によるアスファルト舗装面の温度変化を観測して、剥離 部分の抽出を行った。温度の観測時間は 7:00 から 19:00 までとし、観測のための熱赤外線映像装置の温度分解能 力の設定を0.7℃とした。 (3)熱赤外線映像法を用いたB橋梁の調査方法 図-1(b)に示すB橋梁では、吹き付けにより表面被覆 が施されており、被覆の上から主桁側面での変状箇所の 推定を試みた。調査方法としては、写真-4に示す観測 箇所を写真-5のように、主桁側面から 3.5m 離れた位置 に設置したジェットヒーターにより、同側面の表面温度 が 5℃程度上昇するまで加熱し、その後ジェットヒータ ーを止め自然冷却させた。これらの加熱から自然冷却ま での温度変化の過程を、橋梁に近接した斜面に設置した 熱赤外線装置を用いて観測した。観測時間は 9:00 から 11:30 までとし、熱赤外線映像装置観測の温度分解能力 の設定はA橋梁と同じく試行を繰返した結果、1.0℃と して観測を行った。 4.調査結果及び考察 (1)A橋梁における調査結果と考察 a)従来方法による調査結果 熱赤外線装置による観測に先立ち、その観測箇所を含 む限定された範囲で調査足場を設置し、近接目視及び打 音調査を実施した。その結果、橋梁下面において表面被 覆の浮きが部分的に発生しており、これらの浮きを除去 したところ、コンクリート表面に遊離石灰や漏水などが 認められた。 コンクリートコアの圧縮強度は、シュミットハンマーに よる推定値が 30N/mm2、抜取りコアを用いた強度試験値が 38N/mm2(いずれも平均値)と、いずれも十分な強度を保 写真-3 舗装ひびわれへの冷水注入状況 写真-2 橋面舗装ひびわれの状況 (A 橋梁、写真中点線はひび割れ箇所を示す)
ジェットヒ-タ
熱 赤 外 線 装
置
測定箇所 写真-1 上部工下面の調査状況 (A橋)浅利、後藤、高橋、渡邉: っていることが判明した。また、超音波測定の結果からは 3050m/sec 以上で“やや良” の領域にあり、建設当時の コンクリートの品質に問題はないものと考えられた。中性 化の進行は 7mm から 20mm 程度であり全体的にはまだ鉄筋 に達していないが、自然電位測定の結果、局部的に-300mv を下回る箇所があった。これは、この部位でコンクリート 内部の鉄筋が発錆している可能性を示唆するものである。 応力頻度測定の結果については、主桁および床版ともに応 力度は許容値内であった。 以上より、従来の方法による調査結果としては、A橋 梁のコンクリート強度及び品質は、おおむね良好である が、橋面防水工が未施工であったために、遊離石灰や漏 水及び表面被覆の剥離を生じており、劣化が進行しつつ あると判断された。ただし、調査足場が部分的な設置で あったため、近接目視及び打音調査は限定的な範囲での 実施となった。このため、広範囲な状況の把握は熱赤外 線映像法によることとした。 b)熱赤外線映像法による上部工下面の解析 画像-1(a)に、ジェットヒーターによる上部工下面の加 熱過程における最高温度状態を示し、画像-1(b)に冷却過 程での最低温度状態を示す。それぞれの画像内のアルファ ベット a 点から e 点は観測点を示している。 この加熱及び自然冷却過程の観測画像を比較した結果 上部工下面に温度変化の大きい箇所が存在していること が判明した。それらの箇所の温度経時変化を調べるため に、温度変化の大きな箇所に観測点a、b、c 点を、温度 変化の比較的小さい箇所に観測点d、e点を設定した。 図-2は、観測点aからe点の温度経時変化を示してい + a + b + c + d + e + a + b + c + d + e + a + b + c + d + e (a)温度分布(最高温度状 (b)温度分布(最低温度状 (c)差画像(最高温度分布 画像-1 A橋梁,上部工下 (a) 温度分布(最高温度状態) (b) 温度分布〔最低温度状態〕 (c) 差画像(最高温度分布-最低温度分布) 画像-1 A橋梁、上部工下面の温度分布
ジェットヒ-タ
熱赤外線装置
観測方向
写真-5 加熱及び観測状況(B橋 写真-4 観測箇所の主桁側面(B 観測箇所 る。温度変化の大きかった観測点a、b、c 点では、観測 を開始した 16:00 の時点で、既に温度変化の比較的小さ い観測点d、e点に比べて温度が高くなっている。加熱 を止めた 16:40 で観測点はすべてほぼ最高温度に達し、 その後、自然冷却過程に入ると観測点a、b、c 点は急速 に温度低下し、観測を終えた 18:50 には観測点d、e点 よりも温度が低くなった。これは観測点a、b、c 点のそ れぞれの位置に剥離個所もしくは漏水箇所などの変状部 が存在することを示唆するものである。しかし、観測点 aからe点の観測結果は点的なデータであるため、その 変状部の範囲は見て取ることができない。そこで、観測 箇所の温度変化のデ-タを面的に捉えるため、また観測 箇所の汚れなどによる表面温度分布への影響を取り除く ために、温度差画像による変状部の抽出を試みた。 画像-1(c)には、最高温度状態の画像(画像-1(a)) から最低温度状態の画像(画像-1(b))を差し引いた 差画像を示している。この差画像から、温度差の大きい 所がa点及びb点の周辺部に面的に広がっていることを 確認できる。 ここで実橋において、健全部よりも変状部の温度変化 率が大きくなったのは、本試験による作用(ジェットヒ ーターによる加熱)を受けた為であるのか、また、この 事象が理論的な計算とも合致するかを確認するため、 FEM 解析によるシミュレーションを実施した。図-3と表 -3にFEM 解析に用いたモデル図と解析条件を、図-4に 解析結果を示す。シミュレーションでは、橋面上の外気温 を 19℃に設定し、ジェットヒーターによる上部工下面の 外気温上昇を 15℃と仮定して1時間継続させた後、3時 間かけて自然冷却する過程を解析した。14.0 15.0 16.0 17.0 18.0 19.0 20.0 21.0 22.0 23.0 16: 00 16: 10 16: 20 16: 30 16: 40 16: 50 17: 00 17: 10 17: 20 17: 30 17: 40 17: 50 18: 00 18: 10 18: 20 18: 30 18: 40 18: 50 時刻 表 面 温 a b c d e 図-2 観測点の温度変化(A橋梁,上部工下面) 加熱過程 自然冷却過程 表面温 度 ( ℃ ) 観測点 FEM 解析結果においても、ジェットヒーターによる小 規模な加熱により、変状部の温度上昇・下降率を健全部よ りも高めることが可能であることが確認された。 c)熱赤外線映像法による橋面の解析 画像-2(a)は、熱赤外線装置による冷水注水前におけ るアスファルト舗装面の温度画像である。センターライ ン以外、舗装面はほぼ均一な温度分布となっている。 これは、アスファルト舗装の表面温度に対する調整コ ンクリートの剥離、損傷の影響よりも、日照による影響 の方が卓越していたためと考えられる。 画像-2(b)は、温度差を付与するために、アスファル ト舗装のひび割れ部から冷水(水温約5℃)の注入作業 を行った後の画像である。画像-2(b)に示すように、 冷水を注入したひび割れ箇所を中心にアスファルト舗装 面の温度が低下していることが分かる。(写真-2参照) これはアスファルト舗装下の調整コンクリートが剥離も 密度ρ 床版(変状部) 主桁 図-3 A 橋梁のモデル図 27 21 22 26 空洞部
表-3 FEM 解析条件
物性値 コンクリート 空気 水 熱伝導率λ (W/K・m) 1.105 0.0256 0.578 比熱C (J/kg・K) 879 1000 4208 (kg/m3) 2100 1.161 999.8 (a)冷水注入前 (b)冷水注入後 画像-2 橋面の温度分布(A橋梁) 図-4 FEM 解析結果のグラフ(A 橋梁) 19 20 23 24 25 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 時刻 温度 ( ℃) 健全部 (秒)浅利、後藤、高橋、渡邉: しくは損傷しており、ひび割れに注入された冷水がそれ らの損傷部の空隙に浸透していったためと考えられる。 冷水注入による冷却が、アスファルトを通し、舗装面 にまで伝達し得るのかを確認するため、FEM 解析によ るシミュレーションを行った。図-5、6にシミュレーシ ョン結果を示すが、実橋観測とほぼ一致した結果が得ら れた。したがって、アスファルト舗装下の調整コンクリ ートには、剥離、損傷が広い範囲で存在すると推定され た。 (2)B橋梁における調査結果及び考察 a)従来方法による調査結果 B橋梁においても、A橋梁と同様に部分的に調査足場 を設置し、近接目視及び打音調査を行った。その結果、 局部的な表面被覆の浮き、上部工間詰部から遊離石灰の 析出、漏水が認められた。 コンクリートの圧縮強度については、シュミットハン マーによる推定値が30N/mm2、コアを用いた強度試験 値42N/mm2(いずれも平均値)と十分な強度を保って いることが判明した。超音波測定の結果も、3660m/sec 以上と“良”の領域にあり、建設当時のコンクリートの 品 質 に 問 題 は な い も の と 考 え ら れ る 。 中 性 化 深 さ は 0.5mm から 1.5mm とほとんど進んでいなかった。また、 主桁の応力頻度測定については、応力度は許容値を満足 する結果となった。 このようにB橋梁においても、コンクリートの強度及 び品質は概ね良好であるものの、遊離石灰の析出や漏水 等の劣化が進行しつつあると判断された。橋梁全体の状 況については、調査足場が全面足場でないために、熱赤 外線映像法を用い、より広範囲に変状部の抽出、把握を 行うこととした。 b)熱赤外線映像法による主桁側面の解析 画像-3(a)にジェットヒーターによる主桁側面の加熱 過程における最高温度状態を示し、画像-3(b)に自然冷 却過程における最低温度状態を示す。この両画像からは、 B橋梁の主桁側面の加熱及び自然冷却過程の観測におい ても“熱しやすく冷めやすい”箇所が存在することが分 かった。B橋梁においても表面温度の経時変化を調べる ために、温度変化の大きい箇所に観測点aからc 点、温 度変化の比較的小さい箇所に観測点dおよびe点を設定 した。観測点は画像-3(a) 及び画像-3(b) に示してい るが、両画像間でいずれも同一箇所である。 図-3に、B橋梁の主桁側面における各観測点の温度の 経時変化を示す。温度変化の大きかった観測点a、b、c 点は観測開始の9:10 の時点で、温度変化の小さい観測点 d、e点に比べて既に温度が高くなっている。表面温度 は、加熱を止めた10:30 にすべての観測点が最高温度に 達し、その後、自然冷却過程に入ると観測点a、b、c 点は急速に冷却され、観測点d、e点との温度差は小さ くなり、観測を終えた11:30 にはほとんど差がなくなっ 変状部 健 全 ア ス フ ァ ル 25 30 35 40 45 50 0 1000 2000 3000 時間 温度 (℃ ) 健全部 空洞部 図-5 FEM 解析による温度変化図 (B 橋梁、舗装面) (秒) 調整コンクリート の損傷部(剥離部) 図-6 FEM 解析による温度分布
+a
+ b
+ c
+ d
+ e
+a
+ b
+ c
+ d
+ e
+a
+ b
+ c
+ d
+ e
(a) 温度分布(最高温度状態) (b) 温度分布(最低温度状態) (c) 差画像(最高温度分布-最低温度分布) 画像-3 主桁側面の温度分布(B橋梁)ていることが分かる。このことより観測点a、b、c点 のそれぞれの位置に変状部分が存在することが考えられ る。 画像-3(c) には、面的な変状部分を捉えるために最 高温度状態から最低温度状態を差し引いた差画像を示 している。画像中央部の、特に観測点aの周辺に変状 部と考えられる箇所が現れており、この周辺が変状部 であることを推定できる。 5.熱赤外線映像法による調査結果の検証 (1)A橋梁 a)上部工下面調査の検証 画像-1に示した観測点aからe点の結果についての 検証として足場を架設し、表面被覆の剥ぎ取り調査を実 施した。 写真-6に例示するように、熱映像法により変状が推定 された観測点a、b、c 点においては、いずれも表面被覆 が剥離しており、これらの箇所のコンクリート表面には 遊離石灰が析出していた。また、熱映像法では変状が認 められなかった観測点d、e点については、表面被覆層 は剥離しておらず、被覆をはぎ取ってもコンクリートに 変状は認められなかった。 b)橋面調査の検証 熱赤外線映像法により、A橋梁の橋面舗装下の調整コ ンクリートの剥離が推定されたため、2001 年 3 月に補修 工事が実施された。調整コンクリートの打ち替え準備を した上で、アスファルト舗装の撤去を行ったが、その結 果、調整コンクリートと橋桁面との剥離が広範囲に認め られたため、調整コンクリートの打ち替えが施工される こととなった。 写真-7は、A橋梁における調整コンクリートの撤去 後の状況である。調整コンクリートが一枚の板状になっ て、橋桁から引き剥がされていることが分かる。これは、 調整コンクリートと橋桁が剥離していたことを示すも のであり、熱赤外線調査に基づく剥離層存在の推定を実 証するものである。 (2)B橋梁 画像-3に示した観測点aからe点の結果についての 検証として、A橋梁と同様に足場を架設し、表面被覆の 剥ぎ取り調査を実施した。 熱映像法により変状が推定された観測点a、b、c点 においてはいずれも表面被覆が剥離し、浮きが生じてい たが表面被覆下のコンクリートには変状はなかった。ま た、熱映像法では変状が認められなかった観測点d、e 点については、表面被覆は剥離しておらず、被覆を剥ぎ 取っても、表面被覆下のコンクリートに変状は認められ なかった。 6.結論 本研究から得られた結果をまとめると次のとおりである。 14.0 15.0 16.0 17.0 18.0 19.0 20.0 21.0 22.0 23.0 9: 10 9: 20 9: 30 9: 40 9: 50 10: 00 10: 10 10: 20 10: 30 10: 40 10: 50 11: 00 11: 10 11: 20 11: 30 時刻 表面温 度(℃ ) a b c d e
加熱過程
観測点自然冷却過程
図-7 観測点の温度変化(B橋梁,主桁側面) 写真-6 上部工下面の変状 (A橋梁、画像-1 の点a付近) 写真-7 調整コンクリ-トの板状剥離の状況 (A橋梁)浅利、後藤、高橋、渡邉: ① A橋梁において、上部工下面をジェットヒーター で加熱し、その後の自然冷却過程までを熱赤外線装置を 用いて観測したところ、温度変化の大きい箇所が存在す ることが判明した。温度変化の大きい箇所は、温度変化 の比較的小さい箇所に比べ、温度の上昇および低下とも に急速に経時変化しており、変状部が存在すると推定さ れた。これらの変状が推定された箇所を温度差画像によ り面的に把握した上で、表面被覆の剥ぎ取り調査を実施 したところ、温度変化の大きな箇所は、いずれも表面被 覆が剥離しており、コンクリート表面に遊離石灰の析出 が認められた。また、温度変化の小さい箇所の表面被覆 は剥離しておらず、被覆を剥ぎ取ってもコンクリートに 変状は認められなかった。 ② A橋梁の橋面舗装部を、熱赤外線装置により観測 し、舗装面がほぼ均一な温度分布であることを確認した 上で、舗装ひびわれ部に冷水(水温5℃)を注入し、熱 赤外線装置により再度、舗装面の温度分布を観測した。 冷水注入後の温度画像により、冷水を注入したひびわれ 部を中心に温度低下が広がっていることが判明し、舗装 下の調整コンクリートが剥離もしくは損傷している可能 性が大きいと判断された。このことは、舗装補修工事に おける調整コンクリート撤去の際に実証された。 ③ B橋梁において、主桁側面をジェットヒーターで 加熱し、その加熱過程及び自然冷却過程の温度経時変化 を熱赤外線装置を用いて観測し、変状箇所の推定を試み た。 温度変化の大きい箇所を温度差画像により面的に把握 し、表面被覆の剥ぎ取り調査を実施したところ、変状が 推定された箇所においては、コンクリートに変状はなか ったもののいずれも表面被覆が剥離し、浮きが生じてい ることが確認された。 以上の結果から、コンクリート実道路橋変状調査に適用 した、橋体の加熱および冷却を用いる本法は、次のような 特色を有することが明らかとなった。 1) 提案する熱赤外線映像法により、コンクリート素地 の浮きの検出だけでなく、表面を被覆されたコンクリー トにおける、表面被覆自体の浮き及び表面被覆下に存在 する遊離石灰等の変状、並びにアスファルト舗装下の調 整コンクリートの剥離についても探知することが可能で ある。 2) 観測対象橋梁における温度経時変化の前後の画像か ら得た差画像を用いれば、より明確に、かつ面的に変状 を把握することができる。 3) 自然光の熱エネルギーのみの条件下で、差画像から、 より明瞭に変状部を検出するためには、観測に7時間か ら8時間を要してしまうが、本研究で提案した対象橋梁 を人為的に加熱もしくは冷却する方法を採用すれば、観 測時間帯を選ばず、かつ観測時間を3時間以内に短縮す ることが可能である。 コンクリート橋の変状についての調査手法は数多くあ るが、熱赤外線映像法による調査方法は、対象橋梁に対 し非破壊かつ非接触で観測できるところに大きな特長が ある。今回、熱源としてジェットヒーターを用いたため 橋梁の観測対象箇所が熱風の届く範囲(離隔距離、3m から4m 程度)に制限されたが、今後、手法の改良を重 ねることにより、さらに短時間で広範囲の調査が行える ようになると考える。 なお、本調査で確認されたAおよびB両橋梁の変状は、 2001 年 3 月までにすべて補修が完了していることを付 記しておく。 謝辞 本論の執筆に際し、種々の助言を頂いた日本学術振興 会特別研究員(西南学院大学)後藤健介、長崎大学工学 部社会開発工学科助手サロワロ・ウッディン・アーメド 両氏に深謝する次第である。 参考文献 1) 土木学会:コンクリート標準示方書[維持管理編]、 pp.53-66、2001. 2) 柳内睦人、魚本健人:熱赤外線計測技術によるコン クリート構造物内空隙・鉄筋の判読に関する基礎的 研究、土木学会論文集、No.422/Ⅴ-16、pp.91-100、 1992. 3) 河辺信二、岡島達雄、武藤正樹:サーモグラフィー 法による内部検出の可能性-左官モルタル塗りの施 工管理に関する研究その1-、日本建築学会構造系 論文集、No.467、pp.27-33、1995. 4) 塚田光司、七里知文、軽部良平:赤外線によるコン クリート桁の検査と評価、土木学会第 49 回年次学 術講演会、Ⅴ-80、pp.160-161、1994. 5) 渡部 正、魚本健人:型わく面の熱画像解析による コンクリート打込み時の欠陥検出法に関する研究、 土木学会論文集、No.478/Ⅴ-21、pp.51-59、1993. 6) 菊地保孝、小野田 滋、佐野 力、前川迪弘、島 貴 美樹:熱赤外線映像によるトンネル変状調査、土木 学会第45 回年次学術講演会、Ⅵ-90、pp.204-205、 1990. 7) 木村定雄、石橋哲夫、弘中義昭、岩藤正彦:赤外線 温度測定による覆工表面の欠陥部調査、土木学会第 46 回年次学術講演会、Ⅵ-PS 3、pp.6-7、1991. 8) 森吉昭博:土木、特にアスファルト舗装における熱 画像解析の応用、土木学会論文集、No.409/Ⅵ-7、 pp.177-180、1989. 9) 塚田光司、七里知文、軽部良平:赤外線によるコン クリート桁の検査と評価、土木学会第 49 回年次学 術講演会、Ⅴ-80、pp.160-161、1994. ( 2005.7.1 受付)