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一般成人における抑うつに対する幼少期ストレス、気質、ライフイベントの影響 : 階層的重回帰分析による検討

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Instructions for use Title 一般成人における抑うつに対する幼少期ストレス、気質、ライフイベントの影響 : 階層的重回帰分析による検討 Author(s) 中井, 幸衛 Citation 北海道大学. 博士(医学) 甲第12565号 Issue Date 2017-03-23 DOI 10.14943/doctoral.k12565

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/65922

Type theses (doctoral)

Note 配架番号:2306

File Information Yukiei_Nakai.pdf

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学位論文

一般成人における抑うつに対する幼少期ストレス、気質、ライフイベ

ントの影響:階層的重回帰分析による検討

(The influence of childhood abuse, adult stressful life events

and temperaments on depressive symptoms in the nonclinical

general adult population:Consideration by the

Hierarchical Multiple Regression Analysis )

2017 年 3 月

北海道大学

中井 幸衛

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目次

発表論文目録および学会発表目録 ... 1 緒言 ... 3 略語表 ... 13 方法 ... 14 結果 ... 20 考察 ... 35 総括および結論 ... 44 謝辞 ... 45 引用文献 ... 46

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1

発表論文目録および学会発表目録

本研究の一部は以下の論文に発表した。

Yukiei Nakai, Takeshi Inoue, Chong Chen, Hiroyuki Toda, Atsuhito Toyomaki, Yasuya Nakato, Shin Nakagawa, Yuji Kitaichi, Rie Kameyama, Yumi Wakatsuki, Kan Kitagawa, Hajime Tanabe, Ichiro Kusumi

「The moderator effects of affective temperaments, childhood abuse and adult stressful life events on depressive symptoms in the nonclinical general adult population 」 Journal of Affective Disorders, Volume 187, Pages 203–210 (2015)

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2 本研究の一部は以下の学会に発表した。 中井幸衛、井上 猛、豊巻敦人、仲唐安哉、中川 伸、北市雄士、亀山梨絵、 若槻百美、北川 寛、久住一郎 幼少期ストレス、ライフイベント、気質の抑うつに対する交互作用 第125 回北海道精神神経学会 (2014.7.13. 札幌) 中井幸衛、井上 猛、豊巻敦人、仲唐安哉、中川 伸、北市雄士、亀山梨絵、 若槻百美、北川 寛、久住一郎 幼少期ストレス、ライフイベント、気質の抑うつに対する交互作用 第30 回日本精神衛生学会 (2014.11.1-2. 札幌)

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3

緒言

我が国の 2014 年の患者調査の結果によると、うつ病などの気分障害で医療機 関を受診している総患者数は、112 万 2 千人と調査を開始して以来過去最多とな った1。前回調査の 2011 年(95.8 万人)に比べると約 17%の増加であり、気分障 害が追加された 1996 年(43.3 万人)に比べると約 2.6 倍にもなる。また、我が国 の自殺者数は、2015 年は 2 万 4025 人とここ数年 3 万人を下回ってはいるが、依 然として深刻な問題である。自 殺 の 背 景 に は 多 様 か つ 複 合 的 要 因 が 関 連 す る が 、 特 に う つ 病 な ど の 精 神 疾 患 が 関 連 す る こ と が 多 い こ と が 指 摘 さ れ て い る 。2011 年 に お け る 自 殺 者 の う ち 、 自 殺 の 原 因 ・ 動 機 が 特 定 さ れ た 者 22581 名 の 中 で 、 う つ 病 へ の 罹 患 が 自 殺 の 原 因・動 機 の 一 つ と し て 推 定 で き る も の は 6513 名 で あ っ た 2。 さ ら に 、 う つ 病 や 自 殺 に よ る 経 済 損 失 が 約 2.7 兆 円 に 上 る と い う 推 計 結 果 も で て お り 、社 会 的 に 大 き な 問 題 の 1 つ で も あ る 3 う つ 病 発 症 の 危 険 因 子 と し て 、 遺 伝 的 要 因 、 環 境 要 因 、 人 格 特 性 な ど 複 数 の 要 素 が 関 係 し て い る こ と が 知 ら れ て い る が 、 大 う つ 病 障 害 の 遺 伝 性 は 統 合 失 調 症 (81 % ) お よ び 双 極 性 障 害 (85% ) と 比 較 し て 低 い ( 37% )4 1 . う つ 病 発 症 に お け る 遺 伝 あ る い は 人 格 要 因 と 環 境 の 交 互 作 用 環 境 要 因 は 、 幼 少 期 ス ト レ ス と 成 人 期 ス ト レ ス の 2 つ の 主 要 な タ イ プ に 分 け ら れ 5 - 8、 抑 う つ 症 状 や う つ 病 の 発 症 に 大 き く 関 連 す る 。 こ れ ら の 2 つ の 環 境 因 子 は 、 遺 伝 因 子 と 交 互 作 用 し て

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4 う つ 病 発 症 に 寄 与 す る こ と が 知 ら れ て お り 、こ の 交 互 作 用 は「 遺 伝 子 - 環 境 ( G x E ) 相 互 交 互 作 用 」 と 呼 ば れ る 9 , 1 0。 C a s p i ら の 前 方 視 的 な 長 期 追 跡 コ ホ ー ト 研 究 は 、 セ ロ ト ニ ン ト ラ ン ス ポ ー タ ー 遺 伝 子 ( 5 H T T ) プ ロ モ ー タ ー 領 域( 5 - H T T L P R )の 遺 伝 子 多 型 が s 型 で あ る 対 象 者 で は 、 l 型 で あ る 対 象 者 に 比 べ て 、 小 児 期 ( 3 ~ 1 1 歳 ) の 虐 待 お よ び 成 人 期 の ス ト レ ス と な る ラ イ フ イ ベ ン ト の 程 度 が 強 く な る に し た が っ て 、 成 人 後 の う つ 病 発 症 、 抑 う つ 症 状 の 程 度 、 自 殺 念 慮 あ る い は 自 殺 行 動 の 出 現 が 増 強 さ れ や す い と 報 告 し た 1 0 一 方 、 K e n d l e r1 1 ら は , 双 生 児 を 対 象 と し た 1 年 間 の 追 跡 研 究 に よ り , ス ト レ ス の 多 い ラ イ フ イ ベ ン ト が 強 い ほ ど う つ 病 を 発 症 し や す く な る が 、 そ の 傾 向 は 神 経 症 的 傾 向 が 弱 い 対 象 者 よ り も 、 強 い 対 象 者 で 顕 著 で あ る こ と を 報 告 し た 。 し た が っ て 、 人 格 因 子 と 環 境 因 子 も 交 互 作 用 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 つ ま り 、 遺 伝 、 環 境 、 人 格 の 3 因 子 は 、 そ れ ぞ れ 単 独 の 因 子 が 陽 性 の 場 合 よ り も 、 2 因 子 が 同 時 に 陽 性 の 場 合 の ほ う が 、 う つ 病 発 症 に 大 き く 寄 与 す る と い う こ と で あ る 。 こ の よ う に 最 近 の 研 究 に よ れ ば 、 遺 伝 因 子 と 小 児 期 の ス ト レ ス ( 虐 待 を 含 む )、 発 症 前 の 成 人 期 の ス ト レ ス ( ラ イ フ イ ベ ン ト と 呼 ぶ こ と が 多 い ) が 交 互 作 用 す る こ と に よ り 、 あ る い は 人 格 因 子 と 発 症 前 の 成 人 期 の ス ト レ ス が 交 互 作 用 す る こ と に よ り 、 顕 著 に う つ 病 を 発 症 し や す く な る こ と が 明 ら か に な っ た が 、 そ の ほ か の 発 症 要 因 の 組 合 せ ( 人 格 因 子 と 発 症 前 の 成 人 期 の ス ト レ ス 、 小 児 期 の ス ト レ ス と 発 症 前 の 成 人 期 の ス ト レ ス ) の う つ

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5 病 発 症 あ る い は う つ 症 状 出 現 に 対 す る 交 互 作 用 に つ い て は ま だ 明 ら か に な っ て い な い 。 2 . 感 情 気 質 と う つ 病 の 関 連 病 前 性 格 と し て の 感 情 気 質 と 気 分 障 害 発 症 と の 関 連 に つ い て は 古 く よ り 指 摘 さ れ て お り 、 K r a e p e l i n1 2 , 1 3 は 、 躁 う つ 病 的 基 本 状 態 と し て 、 抑 う つ 性 素 質 、 躁 性 素 質 、 刺 激 性 素 質 、 気 分 循 環 性 素 質 を 挙 げ 、「 発 作 と 発 作 の 間 の 発 病 し て い な い 中 間 期 に し ば し ば み ら れ る 障 害 」 あ る い は 「 病 気 が 十 分 発 展 し て こ な い よ う な 症 例 で も 、 躁 う つ 性 の 素 質 が 特 徴 と な っ て い る よ う な 障 害 」 で あ る と 述 べ て い る 。A k i s k a l ら は 、K r a e p e l i n の 基 本 状 態 4 型 に 不 安 気 質 を 加 え て 、感情気質(affective temperament)の 概 念 を 提 唱 し 、 質 問 紙 に よ る 評 価 法 を 確 立 し た 。 感 情 気 質 は 5 亜 型 に 分 類 し 、 抑 う つ 気 質 、 発 揚 気 質 、 焦 燥 気 質 、 循 環 気 質 、 不 安 気 質 と 命 名 し た 1 4。 Te m p e r a m e n t E v a l u a t i o n o f t h e M e m p h i s , P i s a , P a r i s a n d S a n D i e g o A u t o q u e s t i o n n a i r e ( T E M P S - A ) は A k i s k a l ら 1 4 が 開 発 し た 感 情 気 質 の 自 記 式 質 問 紙 で あ り 、 気 分 障 害 の 臨 床 研 究 で そ の 妥 当 性 が 検 証 さ れ て い る 。 循 環 気 質 と 不 安 気 質 が 双 極 性 障 害 で 健 常 者 よ り も 多 い こ と 1 5 , 1 6、 循 環 気 質 が 双 極 性 障 害 で 大 う つ 病 性 障 害 よ り も 多 い こ と 1 6、 循 環 気 質 と 抑 う つ 気 質 が 双 極 性 障 害 と 大 う つ 病 性 障 害 で 健 常 者 よ り も 多 い こ と 1 7、 な ど が 報 告 さ れ て き た 。 前 節 で 述 べ た 神 経 症 傾 向 ( n e u r o t i c i s m:外 部 刺 激 に 敏 感 に 反 応 し 、 情 緒 不 安 定 の 傾 向 ) は 発 揚 気 質 以 外 の 4 つ の 感 情 気 質 と は

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6 中 等 度 の 正 の 相 関 を 示 す こ と が 報 告 さ れ て お り 1 8、 神 経 症 傾 向 と 同 様 に 感 情 気 質 も 成 人 期 ス ト レ ス と 交 互 作 用 し て 抑 う つ 症 状 に 影 響 す る 可 能 性 が 高 い 。 さ ら に 、 人 格 因 子 と 小 児 期 ス ト レ ス と の 交 互 作 用 は こ れ ま で 報 告 さ れ た こ と が な い た め 、 感 情 気 質 と 小 児 期 ス ト レ ス の 成 人 期 抑 う つ 症 状 に 対 す る 交 互 作 用 に つ い て 検 討 す る こ と は 非 常 に 重 要 で あ る 。 4 . 修 士 課 程 の 研 究 う つ 病 の 危 険 因 子 と し て 、遺 伝 、性 差 、小 児 期 の 体 験 、気 質 、 ラ イ フ イ ベ ン ト ( 特 に 否 定 的 な イ ベ ン ト ) な ど が こ れ ま で 報 告 さ れ て き た 。 ラ イ フ イ ベ ン ト に つ い て は 、 最 近 で は イ ベ ン ト の 認 識 の 仕 方 の ほ う が イ ベ ン ト 自 体 よ り も 重 要 で あ る と 指 摘 さ れ て い る 1 9。 遺 伝 的 素 因 と 小 児 期 ス ト レ ス 1 0、 遺 伝 的 素 因 と ラ イ フ イ ベ ン ト の 間 の 相 互 作 用 2 0 は す で に 報 告 さ れ て き た が 、「 小 児 期 の ス ト レ ス ( 虐 待 )」、「 気 質 」、「 ラ イ フ イ ベ ン ト ( 発 症 前 の 成 人 期 ス ト レ ス ) 」な ど の 要 因 同 士 の 相 互 作 用 に つ い て 検 討 し た 研 究 は こ れ ま で な い 。 本 研 究 で は 、 上 述 し た こ れ ま で の 研 究 か ら 、 「 小 児 期 の ス ト レ ス - 気 質 - ラ イ フ イ ベ ン ト ( 最 近 の ス ト レ ス ) 」 が 相 互 作 用 し て 現 在 の 抑 う つ に 影 響 を 与 え る と い う 仮 説 を 立 て て 共 分 散 構 造 分 析 に よ り そ の 相 互 作 用 を 検 証 し た 21 一 般 募 集 し 同 意 が 得 ら れ た 成 人 3 0 2 名 を 対 象 と し て 自 記 式 質 問 紙 で 調 査 を 実 施 し た 。 有 効 回 答 数 は 2 9 4 名 で あ っ た 。 使 用 し た 質 問 紙 は 、 ① P a t i e n t H e a l t h Q u e s t i o n n a i r e - 9 ( P H Q - 9 ) : う つ 病 尺 度 、 ② L i f e E x p e r i e n c e s S u r v e y ( L E S ) : 過 去 1 年 間 の ラ イ フ イ ベ

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7 ン ト に 対 す る 評 価 、 ③ Te m p e r a m e n t E v a l u a t i o n o f t h e M e m p h i s , P i s a , P a r i s , a n d S a n D i e g o A u t o q u e s t i o n n a i r e ( T E M P S - A ) : 気 質 尺 度 、④ C h i l d A b u s e a n d Tr a u m a S c a l e ( C AT S ): 小 児 期 の 虐 待 的 養 育 環 境 を 測 定 す る 尺 度 の 4 つ の 質 問 紙 を 実 施 し た 。 以 下 の 構 造 方 程 式 モ デ ル を 作 成 し 、 適 合 度 を 検 討 し 、 共 分 散 構 造 分 析 に よ り 因 子 間 の 相 互 作 用 に つ い て 検 討 し た 。 モ デ ル の 仮 説 は 、 「 小 児 期 の ス ト レ ス が 大 き い ほ ど 気 質 と 最 近 の ラ イ フ イ ベ ン ト の 評 価 に 影 響 を 与 え 、 間 接 的 お よ び 直 接 的 に 抑 う つ 気 分 の 程 度 に 影 響 を 及 ぼ す 。 ま た 、 気 質 も 最 近 の ラ イ フ イ ベ ン ト の 評 価 と 抑 う つ 気 分 に 直 接 的 な 影 響 を 及 ぼ し 、 最 近 の ラ イ フ イ ベ ン ト の 評 価 は 直 接 的 に 抑 う つ 気 分 に 影 響 を 与 え る 」 で あ る ( F i g . 1 )。

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8 Fig. 1 一般成人294名における小児期ストレス、気質、成人期ストレス(ライフイベン ト)の抑うつへの影響に関する共分散構造分析(構造方程式モデル): 小児期のストレスは 気質を介して間接的に、気質は直接的に、一般成人の抑うつ気分の程度に正の影響を及ぼ していると考えられる。 丸で囲った文字は潜在変数と関連した観測変数を示す。2本線の矢印は統計学的に有意 な影響を示し、破線の矢印は有意ではない影響を示す。矢印の横の数字は標準化影響指数 (-1〜1)を示し、P 値は有意水準を示す。間接効果は他の経路を介した標準化影響指数(-1 〜1)を示す。

解 析 方 法 は 、 SPSS Statistics version 20 (SPSS, Chicago, IL)お よ び SPSS A m o s 2 0 (SPSS, Chicago, IL)を 使 用 し 、 共 分 散 構 造 分 析 、 最 尤 推 定 法 で モ デ ル の 解 析 を 行 っ た 。 共 分 散 構 造 分 析 を 行 う 場 合 、 モ デ ル の 適 合 性 を 判 断 す る 絶 対 的 な 基 準 が 存 在 し な い た め 、 い く つ か の 適 合 度 指 標 を 組 み 合 わ せ て 総 合 的 に 判 断 す る 。 本 研 究 で は 、 G o o d n e s s o f F i t I n d e x ( G F I ) , A d j u s t e d G F I ( A G F I ) , C o m p a r a t i v e F i t I n d e x ( C F I ) , R o o t M e a n S q u a r e E r r o r o f A p p r o x i m a t i o n ( R M S E A ) を 共分散構造分析: 全調査対象294名における結果(抑うつ) 幼少期ストレス 性的 虐待 ネグレ クト 罰 0.49 0.95 0.31 TEMPS気質 循環 不安 0.80 0.80 抑うつ 焦燥 0.67 0.73 0.54 ライフイベント (LES) 最近1年間のネガテ ィブ得点 0.32 抑うつPHQ総点 0.10 0.53 0.11 間接効果は 0.30 間接効果は0.03 (P=0.08) (P<0.001) (P<0.001) (P<0.001) (P=0.04)

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9 適 合 度 指 標 と し て 用 い た 。 ま た 、 基 本 情 報 と 質 問 紙 の 2 群 間 の 比 較 は F i s h e r の 直 接 確 率 検 定 ま た は M a n n - W h i t n e y の U 検 定 に よ り 行 っ た 。 モ デ ル の 適 合 度 は 、 G F I= 0 . 9 5 1 、 A G F I= 0 . 9 0 4 、 C F I= 0 . 9 5 0 、 R M S E A = 0 . 0 7 8 で あ っ た 。GFI、AGFI,CFI は1 に近いほど、RMSEA は0.08 以下であるほどモデルの適合度が高いといえるので、本モデルの適合度は十分 に高いと判断し、採用した。 男 女 差 の 比 較 で は 、 女 性 の ほ う が う つ 症 状 が 強 く 、 抑 う つ ・ 循 環 ・ 不 安 気 質 が 高 く 、 小 児 期 ス ト レ ス と 否 定 的 な ラ イ フ イ ベ ン ト も 有 意 に 多 か っ た 。 一 般 成 人 2 9 4 名 の 共 分 散 構 造 分 析 に よ り 、小 児 期 の ス ト レ ス 、 特 に ネ グ レ ク ト が 不 安 ・ 抑 う つ ・ 循 環 ・ 焦 燥 の 気 質 を 増 強 し 、 さ ら に 気 質 は 最 近 1 年 間 の 否 定 的 な 影 響 を 与 え る ラ イ フ イ ベ ン ト の 評 価 を 増 加 さ せ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 さ ら に 、 小 児 期 ス ト レ ス は 気 質 を 介 し て 間 接 的 に 、 気 質 と 否 定 的 な ラ イ フ イ ベ ン ト は 直 接 的 に 抑 う つ 気 分 を 増 強 し て い た 。 本 研 究 で は 、 一 般 成 人 に お け る 小 児 期 ス ト レ ス 、 気 質 、 否 定 的 な ラ イ フ イ ベ ン ト の 抑 う つ へ の 影 響 を 共 分 散 構 造 分 析 に よ り 明 ら か に し た 。 そ の 結 果 、 小 児 期 ス ト レ ス は 気 質 を 介 し て 間 接 的 に 、 気 質 は 直 接 的 に 抑 う つ 症 状 の 出 現 に 影 響 し て い た 。 小 児 期 ス ト レ ス と 気 質 、 ラ イ フ イ ベ ン ト の 相 互 作 用 を 検 討 し た 研 究 は こ れ ま で な く 、 本 研 究 は 抑 う つ 、 不 安 の 感 情 発 生 解 明 に 寄 与 す る こ と が 期 待 さ れ る 。 意 外 な こ と に 過 去 1 年 間 の 否 定 的 な ラ イ フ イ ベ ン ト は 抑 う つ

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10 に 大 き な 影 響 を 与 え て い な か っ た 。 一 般 成 人 で は 抑 う つ の 程 度 が 軽 度 で あ っ た た め に ラ イ フ イ ベ ン ト の 影 響 が 小 さ か っ た 可 能 性 が あ る 。 さ ら に 、 本 研 究 で は 健 常 者 を 多 く 含 ん だ 一 般 成 人 を 対 象 と し て お り 、 こ の 結 果 を う つ 病 の 発 症 モ デ ル に 外 挿 す る の は 限 界 が あ る と 思 わ れ る 。 し た が っ て 、 今 後 は う つ 病 患 者 に お け る 検 討 に よ り 、 う つ 病 発 症 に も 同 様 の モ デ ル が 当 て は ま る か ど う か を 検 討 す る 必 要 が あ る 。本 研 究 で 検 討 し て い な い 要 因( 健 康 、 女 性 の 生 理 、 T E M P S - A 以 外 の 性 格 な ど ) も 抑 う つ 気 分 、 不 安 に 影 響 し て い る 可 能 性 が あ る 。 な ぜ な ら ば 、 モ デ ル に お け る 重 相 関 係 数 の 平 方 和 は 最 も 高 く て も P H Q - 9 の 0 . 4 1 で あ り 、決 し て 寄 与 率 が 高 い と は い え な い か ら で あ る 。 し た が っ て 、 小 児 期 ス ト レ ス 、 気 質 以 外 の 抑 う つ 気 分 に 影 響 す る 要 因 を 今 後 探 求 し て い く 必 要 が あ る 。 5 . 本 研 究 の 目 的 修 士 課 程 の 研 究 で も 示 し た よ う に 、 一 般 成 人 に お け る T E M P S - A の 5 気 質 の う ち 4 気 質 ( 抑 う つ ・ 循 環 ・ 焦 燥 ・ 不 安 気 質 ) が 、小 児 期 虐 待 の 成 人 期 抑 う つ 症 状 に 対 す る 影 響 に お け る 強 力 な 媒介因子であった21 小児期の虐待は、4 つの気質(抑うつ、循環、焦燥、および不安気質)に対す る効果を介して間接的に抑うつ症状の重症度を予測したが、発揚気質は媒介因 子ではなかった。これら4 気質は抑うつ症状と過去 1 年間の否定的なライフイ ベントの評価を直接予測した。意外なことに、過去1 年間の否定的なライフイ ベントの評価の抑うつ症状に対する効果は有意ではあったが、非常に軽度であ

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11 った。気質を媒介して現在の抑うつに影響することが分かったが、どの気質が より抑うつ症状に影響するかは分からなかった。媒介効果に加えて、抑うつ症 状を増強あるいは抑制する効果である調整効果を感情気質が有する可能性も検 討するべきである(Fig.2)。5-HTTLPR 遺伝子多型および神経症的傾向は、大う つ病エピソードの発症に対する成人期ストレスまたは小児期の虐待の影響を増 強する調整因子であることが報告されており、調整効果は交互作用とも呼ばれ る10,22 媒介因子 独立変数 従属変数 調整因子 独立変数 従属変数 Fig.2 媒介因子と調整因子の概念:媒介因子は目的となる変数間の関連を仲介する媒介 変数を想定し、媒介因子が変数間の関連をどれほど説明するかを検討するモデルである。 調整因子は、独立変数が従属変数に及ぼす影響を調整因子が加わることによって変化する か検討するモデルである。 これまで、うつ病の病因としては、「遺伝」の他、「小児期のストレス(虐待)」、 「気質」、「否定的なライフイベント(発症前の成人期ストレス)」などの因子が指

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12 摘されてきた。上記のように、抑うつ症状に対する効果における、遺伝と小児 期ストレスまたは成人期ストレスとの交互作用10、あるいは気質と成人期スト レスの交互作用22は報告されてきたが、それ以外の因子間の交互作用について はこれまで研究されていない。本研究は、感情気質、小児期の虐待、成人期の ライフイベント(過去1 年間の出来事)が交互作用して一般成人の抑うつ症状 に影響するという仮説をたて、階層的重回帰分析によって交互作用を検討した。

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略語表

本文中および図中に使用した略語は以下のとおりである。 A G F I A d j u s t e d G F I CATS C h i l d A b u s e a n d Tr a u m a S c a l e CFI C o m p a r a t i v e F i t I n d e x GFI G o o d n e s s o f F i t I n d e x LES L i f e E x p e r i e n c e s S u r v e y PHQ-9 P a t i e n t H e a l t h Q u e s t i o n n a i r e - 9 RMSEA R o o t M e a n S q u a r e E r r o r o f A p p r o x i m a t i o n STAI-X State-Trait Anxiety Inventory form X

T E M P S - A Te m p e r a m e n t E v a l u a t i o n o f t h e M e m p h i s , P i s a , P a r i s , a n d S a n D i e g o A u t o q u e s t i o n n a i r e

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方法

1.対象 2011 年 7 月から 12 月の間に、便宜的標本抽出により病院職員や製薬会社社員 またはそのご家族など一般成人 500 名を対象として自記式質問紙を用いた大規 模な調査を実施した21。そのうち、過去に神経学的疾患・精神疾患を患ったこと がある被験者、欠測値があった人を除き、有効回答者 286 名(57.2%)(男性 168 名、女性 118 名:平均年齢 42.4±11.3 歳)を分析対象とした。 2. 自記式質問紙による調査 1) 手続き 自記式質問紙を無記名式で行った。①研究への参加、質問紙への回答は強制 ではなく、自由意思で決定できること、②同意しない場合でも一切不利益を受 けないこと、③データ管理には個人を特定できない形式に記号化して個人情報 が外部に漏れることはないこと、などを文書で説明し、同意した者が自主的に 調査に参加し、回答した質問紙は無記名で返送してもらった。 本研究は北海道大学病院の自主臨床研究審査委員会の承認を受けて行った。

2) Patient Health Questionnaire-9 (PHQ-9)

PHQ-9 は 9 項目からなる自記式うつ病評価尺度である23。PHQ-9 の日本語版は

Muramatsu らにより作成され、その妥当性が検証された24。PHQ-9 による大うつ

病エピソードの診断方法は 2 つあり、アルゴリズム診断と総スコアで判別する 方法である。アルゴリズム診断は、質問 1 か 2 が 2 点以上かつ全 9 項目のうち 5

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15 項目以上が 2 点以上(ただし質問 9 は 1 点以上とする)の時、大うつ病エピソー ドと診断される。さらに、質問 1 か 2 が 2 点以上かつ全 9 項目のうち 2 から 4 項目が 2 点以上(ただし質問 9 は 1 点以上とする)の時、小うつ病エピソードと 診断される。また、総スコア診断では合計点数が 10 点以上(range=0~27 点)で 大うつ病エピソードと診断される。本研究では、合計点数を用いた。

3) Life Experiences Survey (LES)

LES では、57 項目のライフイベントについて過去 1 年間の経験の有無とそれ らの心理的に否定的な影響、あるいは肯定的な影響の強度を7 件法(-3~+3) で評価し、肯定的得点(プラスの数字)と否定的得点(マイナスの数字)の合 計を計算した25。肯定的得点と否定的得点はいずれもプラスの値として統計学 的解析に用いた。原著者の許可を得て、LES を日本語にまず翻訳し、原版を知 らない者による英語への逆翻訳を行ない、原著者の承認を受けて、日本語版 LES の作成をおこない、さらに信頼性・妥当性検証を行った26。一般成人126 名に おける検討で、LES の否定的得点の合計点は抑うつ症状(PHQ-9)と正の相関 (Pearson r=0.21), State-Trait Anxiety Inventory form X(STAI-X)の状態不安と正の相 関(Pearson r=0.22)、さらに特性不安と正の相関(Pearson r=0.28)を示すことが確 認された。肯定的得点と抑うつ症状、状態不安、特性不安との間には相関はみ

られなかった。これらの結果は LES の英語版と結果が一致していた25

なお、8 週間以内に 2 回実施したテスト-再テスト法でも中等度の再現性が確認

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4) Temperament Evaluation of the Memphis, Pisa, Paris, and San Diego Autoquestionnaire (TEMPS-A) Kraepelin は「発作と発作の間の発病していない中間期にしばしばみられる障 害」と「病気が十分発展してこないような症例でも、躁うつ性の素質が特徴と なっているような障害」として躁うつ病的基本状態があることを述べた12,13 Kraepelin は基本状態として抑うつ性素質、躁性素質、刺激性素質、気分循環性 素質をあげた。Akiskal らは Kraepelin の基本状態を気質とよんで、さらに不安気 質を加えて自記式の質問紙である TEMPS-A を作成した14。TEMPS-A は「抑う つ気質(21 項目)」「循環気質(21 項目)」「発揚気質(21 項目)」「焦燥気質(女性 21 項目、男性 20 項目)」「不安気質(26 項目)」の 110 項目からなっている。各 項目について「あてはまる」を 2 点、「あてはまらない」を 1 点として、各気質 の総得点を項目数で割った平均値をそれぞれの気質スコアとする (平均値をと るのは、焦燥気質において、男女間で項目数が異なるためである)。Akiskal の提 唱する気質は、状況によって変化することのない安定した特徴であるという仮 定に基づいた概念である。Kawamura らによると、178 人の成人を対象に、6 年 間の TEMPS-A の気質の安定性を評価した276 年の間隔で 2 回評価した気質は、 中程度から高い相関を示し、気質には長期的な安定性があることが示唆されて いる。 本研究では秋山らが作成した TEMPS-A の日本語版を用いた17

5) Child Abuse and Trauma Scale (CATS)

虐待的養育環境を測定するために,田辺が翻訳した CATS27の日本語版(全

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17 で)にどのような家庭環境・生育環境にあったのか、そして親からどのように扱 われていたと感じているのかを回答してもらった。質問紙の項目は「性的虐待(6 項目)」、「ネグレクト(14 項目)」、「罰(6 項目)」、「その他」(12 項目)に分かれ、 「0 点:まったくなかった」「1 点:まれに」「2 点:ときどき」「3 点:しばしば」「4 点:いつものように」の 5 件法で評価した。38 項目の総得点を CATS 総得点スコ アとし、各亜項目の総得点を項目数で割った平均値を各亜項目スコアとした。 3.モデルの仮説 以下の3つの仮説を立てて検証する。 仮説 1. 小児期ストレスと気質の抑うつ症状に対する交互作用 TEMPS-A の循環、抑うつ、不安の3気質はうつ病発症と関連することか ら30、3 気質が調整作用として働く。 仮説 2. 成人期ライフイベントと気質の抑うつ症状に対する交互作用 修士課程の研究結果より、抑うつ、循環、不安、焦燥気質が直接成人 期のライフイベントストレスに影響を与えることから21、4 つの気質が 調整作用として働く。 仮説 3. 成人期のライフイベントと小児期ストレスの抑うつ症状に対する交互 作用 成人期のストレスがうつ病発症と関連することから11、成人期ストレ ス(ネガティブなライフイベント)が調整作用として働く。

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18 4.解析方法 感情気質(TEMPS-A)、小児期虐待(CATS)、成人期のライフイベント(LES)のい ずれかの2 要因間の交互作用を調べるために、抑うつ症状(PHQ-9) と(a) 要因 1, (b) 要因 2, (c) それらの交互作用項間の関連性を推定するために moderated regression framework を使用した10 抑うつ症状(PHQ-9)を従属変数、感情気質(TEMPS-A)、小児期虐待(CATS)、成 人期のライフイベント(LES)を独立変数とした。これら3つの独立変数から下記 の数式には2 変数ずつ投入した(気質と小児期虐待、気質と成人期のライフイベ ント、小児期虐待と成人期のライフイベント)。交互作用を検討するために要因 1 と要因 2 の積である(要因 1 * 要因 2)を3番目の独立変数として加えた。 数式は以下の通りであり、交互作用を階層的重回帰分析によって解析した。 抑うつ症状 (PHQ-9 合計点) = b0 + b1(要因 1) + b2(要因 2) + b3(要因 1 ×要因 2) b0 :切片 b1 :要因 1 の影響に関係する係数 b2 :要因 2 の影響に関係する係数 b3 :2 つの変数の積(要因 1 ×要因 2)に関係する係数 (交互作用効果を示す). b3 が正のとき → 正(強め合う)の交互作用 b3 が負のとき → 負(弱め合う)の交互作用 があるといえる。

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19 階層的重回帰分析の Step 1 では、要因1 と要因 2 の 2 つを独立変数とした。 Step 2 では、要因1 と要因 2 に交互作用項(要因 1×要因 2)を加え、決定係数 R2 の変化量を F 検定により分析した。この場合、決定係数は抑うつ症状の変動を どの程度説明出来るかということを示しており、0〜1 までの範囲となる。 Step 1 から Step 2 までの R2の変化量が統計学的に有意であるとき,「この交互作用項 を追加することにより説明力が有意に増加した」といえる。 なお、階層的重回帰分析の前に、TEMPS-A、CATS、および LES のスコアを 平均値が0 となるように中心化処理した(個々のデータから平均を引くことによ って算出される)。要因1あるいは要因2の変数と交互作用項(要因 1×要因 2) の変数の間の相関が高くなり、重回帰分析で多重共線性が生じ、結果が妥当で ないものとなるため、データを中心化した31 質問紙の得点が非正規性のため、各人口統計学的情報の PHQ-9 合計点に対す る影響の検討には Mann-Whitney U 検定を行った。また人口統計学的情報や各種 質問紙の得点と PHQ-9 合計点との相関は Spearman の順位相関係数によって計算 した。

統計解析には、SPSS version 22 (SPSS, Chicago, IL)、Excel 統計 2012 for

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20

結果

1. 調査対象全体の基本情報と質問紙データ 302 例中、精神疾患を患ったことのある対象と欠測値があった対象を除いた調 査対象全体286 名の基本情報を Table 1 に示す。 男性168 名、女性 118 名、平均年齢 42.4±11.3 であり、302 名中精神疾患の既 往歴があった者は2 名だった。 修士論文では294 名で解析したが、その後基本情報に不備があったため 8 名除 外し本研究では286 名で解析した。 抑うつ症状をはかるPHQ-9 の得点は 3.4±3.7 であった。Kocalevent らによっ て調査された一般成人のPHQ-9 の得点は男性が 2.7±3.5、女性は 3.1±3.5 で あり先行研究とやや近い得点であった33 PHQ-9 の合計得点に対する「性別」「就労の有無」「婚姻の有無」「同居人の有無」 「子どもの数」「身体疾患合併の有無」「第一親族の精神疾患家族歴の有無」の 影響を Mann-Whitney U 検定と Spearman の順位相関係数により検討した。「性別 (女性) , p<0.01」、「婚姻歴 , p<0.01」、「同居人有無 , p<0.05」は PHQ-9 合計点 に有意な影響を与えた。 また、CATS のネグレクト得点と合計得点、TEMPS-A の抑うつ気質、循環気 質、不安気質、焦燥気質の得点、LES の否定的なライフイベント評価は PHQ-9 合計点と有意な相関を示した。

(24)

21

Table 1. 一般成人 286 名における基本情報と, PHQ-9, TEMPS-A, CATS, LES のデータ

平均 ± SD PHQ-9 との相関 (ρ) または PHQ-9 へ の影響(PHQ-9 平均 ± SD , U-test) 年齢 42.4±11.3 ρ= - 0.12, n.s. 性別 (男性 : 女性) 168 : 118 男性 2.7 ± 3.2 vs 女性 4.4 ± 4.1 ** (U-test) 教育年数 14.9±2.2 ρ= - 0.11, n.s. 職業(あり : なし) 236 : 47 あり 3.3± 3.7 vs なし 3.4 ± 3.5 n.s. (U-test) 主婦 41 婚姻歴 未婚 44 既婚 2.9 ± 3.4 vs 未婚・離婚・死別 5.0 ± 4.2 ** (U-test) 既婚 223 離婚 16 死別 3

単身生活 (Yes : No) 61 : 214 Yes 3.9 ± 3.1 vs No 3.2 ± 3.8*

(U-test) 子どもの数 1.4±1.0 203(有) : 83(無) ρ= - 0.11, n.s. 3.2 ± 3.7 vs 4.0 ± 3.7, n.s. (U-test) 身体疾患合併の有無 63 : 223 有 3.3 ± 3.6 vs 無 3.4 ± 3.7, n.s. (U-test) 第一親族の精神疾患家族歴の有無 (Yes : No) 43 : 243 有 3.7 ± 3.8 vs 無 3.3 ± 3.7, n.s. (U-test) PHQ-9 score 3.4±3.7 TEMPS-A (平均値) 抑うつ 1.33±0.17 ρ=0.38 ** 循環 1.17±0.21 ρ=0.53 ** 不安 1.17±0.17 ρ=0.45 ** 焦燥 1.12±0.16 ρ=0.44 ** 発揚 1.25±0.21 ρ=-0.03, n.s. CATS (平均値) ネグレクト 0.56±0.65 ρ=0.31 ** 罰 1.49±0.64 ρ=0.06, n.s. 性的虐待 0.03±0.10 ρ=0.02, n.s. 合計 0.65±0.46 ρ=0. 25** LES ネガティブ 2.28±4.31 ρ=0.29 ** ポジティブ 2.06±3.42 ρ=0.08, n.s. データは means ± SD または数値で表示した ρ=Spearman's rank correlation coefficient * p<0.05, ** p<0.01, n.s. not significant

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22 2. 小児期ストレス(CATS) と気質(TEMPS-A)の抑うつ症状(PHQ-9)に対す る交互作用 抑うつ症状(PHQ-9)に対する感情気質(TEMPS-A)と小児期ストレス(CATS)の 影響と交互作用が有意であるか調べるために階層的重回帰分析を行った。 2.1 CATS 合計点と感情気質の交互作用 CATS の合計点と TEMPS-A の抑うつ、循環、不安、焦燥の 4 気質は抑うつ症 状(PHQ-9 合計点)に有意に相関していたが、発揚気質は抑うつ症状と有意に相関 していなかった。 抑うつ症状に対する影響において、CATS の合計点と TEMPS-A の抑うつ気質と の間に正の交互作用が、そして CATS の合計点と TEMPS-A の発揚気質との間に

負の交互作用がみられた(Table 2, Fig. 3A)。階層的重回帰分析では R2の有意な変

化が認められた。抑うつ気質と小児期ストレスは抑うつ症状を強め、さらに両 者の間に正の交互作用があることから、小児期ストレスと抑うつ気質は互いに 影響し合って抑うつ症状をさらに増強することを本結果は意味している。一方、 発揚気質自体は抑うつ症状に直接影響しないが、発揚気質と小児期ストレスの 間に負の交互作用がみられたことから、小児期ストレスの抑うつ症状増強効果 を発揚気質が減弱していた。

(26)

23 小児期ストレ ス 抑うつ症状 抑うつ気質 発揚気質

+

+

+

0

合計得点, ネグレクト

N

P

Fig.3A. 一般成人 286 名における小児期ストレス(合計点とネグレクト)と気質の抑うつ症 状に対する交互作用効果の検討 P: 正の交互作用、N: 負の交互作用、+:抑うつ症状を増強、0:抑うつ症状に対する因子単 独の主効果なし 小児期ストレスの抑うつ症状増強効果を、抑うつ気質はさらに増強するが、発揚気質は減 弱する。

(27)

24

Table 2. 抑うつ症状(PHQ-9 の合計点)を従属変数とした重回帰分析:独立変数として(a) 5 気質 (TEMPS-A 下 位項目), (b) 幼少期ストレス (CATS 合計 または下位項目), (c) それらの交互作用 気質 (TEMPS-A 下位尺度) 独立因子 抑うつ 循環 不安 焦燥 発揚 TEMPS-A 6.479 (0.0000)*** 8.200 (0.0000)*** 8.084 (0.0000)*** 8.556 (0.0000)*** -0.274 (0.7836) CATS 合計点 1.402 (0.0073)** 1.976 (0.0001)*** 1.186 (0.0262)* 2.256 (0.0000)*** 2.652 (0.0000)*** Interaction 6.125 (0.0104)* -1.904 (0.3406) 2.701 (0.1919) -2.806 (0.3103) -8.044 (0.0009)*** ANOVA 30.471 (0.0000)*** 41.506 (0.0000)*** 34.497 (0.0000)*** 29.292 (0.0000)*** 18.849 (0.0000)*** adjusted R2 0.237 0.299 0.261 0.229 0.158 TEMPS-A 6.386 (0.0000)*** 8.095 (0.0000)*** 7.924 (0.0000)*** 8.212 (0.0000)*** -0.426 (0.6638) CATS ネグレクト 1.238 (0.0007)** 1.559 (0.0000)*** 1.134 (0.0018)** 1.663 (0.0000)*** 2.051 (0.0000)*** Interaction 3.770 (0.0280)* -1.648 (0.2327) 1.184 (0.4029) -1.236 (0.5346) -5.610 (0.0013)** ANOVA 31.725 (0.0000)*** 43.836 (0.0000)*** 35.917 (0.0000)*** 31.320 (0.0000)*** 21.324 (0.0000)*** adjusted R2 0.244 0.311 0.269 0.242 0.176 TEMPS-A 7.728 (0.0000)*** 8.581 (0.0000)*** 9.317 (0.0000)*** 9.525 (0.0000)*** -0.551 (0.6113) CATS 罰 0.286 (0.3794) 0.396 (0.1924) 0.238 (0.4538) 0.484 (0.1347) 0.903 (0.0089)** Interaction 5.420 (0.0029)** 1.669 (0.2990) 3.646 (0.0366)* 2.000 (0.3658) -2.972 (0.0781) ANOVA 23.378 (0.0000)*** 34.798 (0.0000)*** 31.513 (0.0000)*** 22.635 (0.0000)*** 3.810 (0.0106)* adjusted R2 0.191 0.262 0.243 0.185 0.029 TEMPS-A 9.225 (0.0000)*** 9.252 (0.0000)*** 10.706 (0.0000)*** 10.316 (0.0000)*** -1.252 (0.2456) CATS 性的虐待 -0.480 (0.8372) -0.323 (0.8805) -0.878 (0.6919) -0.179 (0.9311) -1.018 (0.6856) Interaction 1.011 (0.9300) -3.178 (0.7494) -8.388 (0.3709) 18.997 (0.2355) -25.228 (0.0828) ANOVA 18.863 (0.0000)*** 33.543 (0.0000)*** 29.586 (0.0000)*** 21.749 (0.0000)*** 1.503 (0.2140) adjusted R2 0.158 0.255 0.231 0.179 0.005 表は F 値と R2(自由度調整済決定係数)のB値を除いている かっこ内は p 値. 階層的重回帰分析のStep2 の結果はこの表に示しているが、Step1 の結果は示していない * p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001.

(28)

25

2.2 CATS ネグレクト得点と感情気質の交互作用

CATS の下位項目であるネグレクトと TEMPS-A の感情気質の交互作用の結果 は CATS 合計点の結果と同じであった。CATS ネグレクト得点と TEMPS-A の抑

うつ、循環、不安、焦燥の4 気質の得点は抑うつ症状と有意な相関を示したが、

発揚気質は抑うつ症状と有意な相関を示さなかった(Table 2)。CATS のネグレク

ト得点と TEMPS の抑うつ気質との間に正の交互作用が、そして CATS のネグレ クト得点と TEMPS の発揚気質との間に負の交互作用が認められた(Table 2, Fig. 3A)。Table2 には示してないが階層的重回帰分析の step 2 に交互作用項を加える ことにより R2が有意に変化した。 2.3 CATS 罰と感情気質の交互作用 CATS の下位項目である罰と TEMPS-A の感情気質の間の交互作用の階層的重 回帰分析の結果、発揚気質を除いた感情気質は抑うつ症状と有意な相関をした が、CATS の罰得点は抑うつ症状と有意な相関を示さなかった (Table 2)。 発揚気質との解析で CATS の罰得点は抑うつ症状と有意な相関を示したが、 決定係数(adjusted R2=0.029)が小さ過ぎたため、意味のある効果とはいえなかっ た。 CATS の罰得点と TEMPS-A の抑うつ気質と不安気質との間に正の交互作用が 認められたことから、罰(身体的な虐待)自体は抑うつ症状を増強しないが、 抑うつ気質、不安気質による抑うつ症状増強効果を罰の履歴が増強していた (Table 2, Fig. 3B)。階層的重回帰分析の step 2 に交互作用項を加えることにより

R2が有意に変化した。

CATS の下位項目である性的虐待と感情気質との交互作用の階層的重回帰分 析では、発揚気質を除く4つの感情気質は抑うつ症状と有意な相関を示したが、

(29)

26 CATS の性的虐待は抑うつ症状とは有意な相関を示さなかった。CATS の性的虐 待と TEMPS-A の各感情気質との間には有意な交互作用は認められなかった。 小児期ストレ ス 抑うつ症状 抑うつ気質 不安気質

+

P

0

0

+

P

Fig3B. 一般成人 286 名における小児期ストレス(罰)と感情気質の抑うつ症状に対する 交互作用効果の検討 P: 正の交互作用、N: 負の交互作用、+:抑うつ症状を増強、0:抑うつ症状に対する因子単 独の主効果なし CATS の罰得点は抑うつ症状に対する有意な影響を示さなかった。しかし、CATS の罰得点 と TEMPS-A の抑うつ気質と不安気質との間に正の交互作用があることから、罰の既往自体 は抑うつ症状に影響しないが、罰の既往は抑うつ気質と不安気質による抑うつ症状増強効 果をさらに増強していた。

(30)

27 3. 成人期のライフイベント (LES) と感情気質(TEMPS-A)の抑うつ症状 (PHQ-9)に対する交互作用 抑うつ症状(PHQ-9)に対する感情気質(TEMPS-A)と成人期のライフイベント (LES)との間の交互作用を階層的重回帰分析によって検討した。 LES の否定的なライフイベント得点と TEMPS-A の発揚を除いた 4 感情気質は 抑うつ症状と有意な相関を示した(Table 3)。LES の否定的なライフイベント得点 は、焦燥気質とは正の、発揚気質とは負の交互作用を示した(Table 3, Fig. 3C)。 前者の交互作用は、焦燥気質は抑うつ症状得点を単独でも高くし、さらに成人 期ストレスによる抑うつ症状増加作用をさらに増強することを意味している。 後者の交互作用は、発揚気質は抑うつ症状に直接影響しないが、成人期のスト レスによる抑うつ症状増加作用を減弱することを意味している。データには示 してないが、階層的重回帰分析の step 2 に交互作用項を投入すると R2が有意に 変化した。

(31)

28 ネガティブなラ イフイベント 抑うつ症状 焦燥気質 発揚気質

+

+

+

0

N

P

Fig3C. 成人期の否定的なライフイベント (LES) と感情気質(TEMPS-A)の抑うつ症状 (PHQ-9)に対する交互作用 P: 正の交互作用、N: 負の交互作用、+:抑うつ症状を増強、0:抑うつ症状に対する因子単 独の主効果なし 焦燥気質は抑うつ症状を増加し、成人期の否定的なライフイベントによる抑うつ症状増加 作用をさらに増強する。発揚気質は直接抑うつ症状に影響しないが、成人期の否定的なラ イフイベントによる抑うつ症状増加作用を減弱していた。

(32)

29 LES の肯定的なライフイベント得点と感情気質との階層的重回帰分析の結果、 発揚気質を除く 4 感情気質は抑うつ症状と有意な正の相関を示したが、LES の 肯定的なライフイベント得点は抑うつ症状と有意な相関を示さなかった(Table 3)。肯定的なライフイベント得点と循環気質、不安気質の間に有意な負の交互作 用が認められた(Table 3, Fig 3D)。すなわち、肯定的なライフイベントは抑うつ症 状に直接影響しないが、循環気質と不安気質による抑うつ症状増加作用をさら に増強した。データには示してないが階層的重回帰分析の step 2 に交互作用項を 投入することにより R2が有意に変化した。

(33)

30 ポジティブなラ イフイベント 抑うつ症状 循環気質 不安気質

+

0

+

N

0

N

Fig3D.成人期の肯定的なライフイベント (LES) と感情気質(TEMPS-A)の抑うつ症状

(PHQ-9)に対する交互作用

P: 正の交互作用、N: 負の交互作用、+:抑うつ症状を増強、0:抑うつ症状に対する因子単 独の主効果なし

肯定的なライフイベントは抑うつ症状に直接影響しないが、循環気質と不安気質による抑 うつ症状増加作用を減弱した。

(34)

31

Table 3. 抑うつ症状(PHQ-9 の合計点)を従属変数とした重回帰分析: 独立変数として(a) 5 気質(TEMPS-A 下位 尺度), (b) ネガティブまたはポジティブなライフイベント(LES), (c) それらの交互作用 気質(TEMPS-A 下位尺度) 独立因子 抑うつ 循環 不安 焦燥 発揚 TEMPS-A 7.927 (0.0000)*** 8.393 (0.0000)*** 9.147 (0.0000)*** 8.698 (0.0000)*** -1.491 (0.1358) LES ネガティブ 0.229 (0.0008)*** 0.173 (0.0003)*** 0.205 (0.0036)** 0.195 (0.0000)*** 0.260 (0.0000)*** Interaction -0.243 (0.3806) 0.052 (0.8307) -0.335 (0.2236) 0.634 (0.0208)* -1.212 (0.0001)*** ANOVA 25.418 (0.0000)*** 40.740 (0.0000)*** 33.523 (0.0000)*** 31.6151 (0.0000)*** 15.816 (0.0000)*** adjusted R2 0.204 0.295 0.255 0.244 0.135 TEMPS-A 9.152 (0.0000)*** 9.573 (0.0000)*** 10.807 (0.0000)*** 10.319 (0.0000)*** -1.303 (0.2406) LES ポジティブ 0.040 (0.5019) -0.021 (0.7116) -0.019 (0.7607) -0.003 (0.9570) 0.078 (0.2523) Interaction -0.102 (0.8181) -0.628 (0.0171)* -0.594 (0.0469)* -0.269 (0.5113) -0.229 (0.4306) ANOVA 19.039 (0.0000)*** 36.540 (0.0000)*** 31.288 (0.0000)*** 21.336 (0.0000)*** 0.927 (0.4283) adjusted R2 0.160 0.272 0.242 0.176 0 表はF 値と R2(自由度調整済決定係数)のB値を除いている かっこ内は p 値. 階層的重回帰分析のStep2 の結果はこの表に示しているが、Step1 の結果は示していない * p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001.

(35)

32 4. 成人期のライフイベント (LES) と小児期ストレス(CATS)の抑うつ症状 (PHQ-9)に対する交互作用 抑うつ症状(PHQ-9)に対する成人期のライフイベント(LES)と小児期ストレ ス(CATS)との間の交互作用を階層的重回帰分析で検討した。 CATS の合計点とネグレクト、LES の否定的ライフイベントは抑うつ症状と有 意な正の相関を示した(Table 4)。CATS のネグレクト、罰、合計点と LES の否定 的ライフイベント得点の間に正の交互作用がみられた(Table 4, Fig. 3E)。これら の交互作用は、CATS の合計点、ネグレクト、罰が成人期の否定的ライフイベン トによる抑うつ症状増加作用を増強することを意味している。データには示し

てないが階層的重回帰分析の step 2 に交互作用項を投入することにより R2が有

(36)

33 ネガティブなラ イフイベント 抑うつ症状 小児期ストレス 小児期ストレス

+

P

罰 合計点, ネグレクト

P

0

+

+

Fig3E. 成人期の否定的なライフイベントストレス(LES) と小児期ストレスの合計点・ネグ レクト(CATS)の抑うつ症状(PHQ-9)に対する交互作用 P: 正の交互作用、N: 負の交互作用、+:抑うつ症状を増強、0:抑うつ症状に対する因子単 独の主効果なし CATS の合計点、ネグレクトは抑うつ症状を直接増加させ、罰は直接な影響を示さなかった が、いずれも成人期の否定的ライフイベントによる抑うつ症状増加作用を増強した。

(37)

34

Table 4. 抑うつ症状(PHQ-9 の合計点)を従属変数とした重回帰分析:(a) 幼少期ストレス (CATS 合計 または下 位項目), (b) ネガティブまたはポジティブなライフイベント(LES), (c) それらの交互作用 CATS 合計 または下位尺度 独立因子 合計 ネグレクト 罰 性的虐待 CATS 2.170 (0.0000)*** 1.786 (0.0000)*** 0.613 (0.0674) 1.625 (0.4538) LES ネガティブ 0.150 (0.0033)** 0.119 (0.0292)* 0.195 (0.0005)*** 0.259 (0.0000)*** Interaction 0.284 (0.0029)** 0.194 (0.0044)** 0.152 (0.0399)* -0.637 (0.1812) ANOVA 25.497 (0.0000)*** 27.394 (0.0000)*** 12.960 (0.0000)*** 10.338 (0.0000)*** adjusted R2 0.205 0.217 0.112 0.089 CATS 2.978 (0.0000)*** 2.322 (0.0000)*** 0.951 (0.0061)** 1.828 (0.4166) LES ポジティブ 0.041 (0.5007) 0.030 (0.6226) 0.058 (0.3652) 0.047 (0.4708) Interaction 0.063 (0.6835) 0.122 (0.3113) -0.034 (0.7324) 0.582 (0.4508) ANOVA 14.569 (0.0000)*** 17.497 (0.0000)*** 2.765 (0.0423)* 0.498 (0.6839) adjusted R2 0.125 0.148 0.018 0 表は F 値と R2(自由度調整済決定係数)のB値を除いている かっこ内は p 値. 階層的重回帰分析の Step2 の結果はこの表に示しているが、Step1 の結果は示していない * p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001

(38)

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考察

本研究は感情気質が小児期虐待、否定的または肯定的なライフイベント と交互作用し、一般成人の抑うつ症状に影響することを示した最初の報告 である。抑うつ気質はそれ自体が抑うつ症状増強作用を有するとともに小 児期虐待による抑うつ症状増加作用をさらに増強した。対照的に、発揚気 質はそれ自体は抑うつ症状には影響しないが、小児期虐待による抑うつ症 状増加作用に抑制的に交互作用した。さらに、焦燥気質はそれ自体が抑う つ症状増強作用を有するとともに否定的なライフイベントによる抑うつ症 状増加作用をさらに増強した。対照的に、発揚気質はそれ自体は抑うつ症 状には影響しないが、否定的なライフイベントによる抑うつ症状増加に抑 制的に交互作用した。TEMPS-A の5気質のうち、抑うつ、焦燥気質はスト レスと正に交互作用し、発揚気質はストレスと負に交互作用した。本研究 は、これらの気質がストレスの媒介因子であると共に、ストレスの調整因 子として働くことが明らかになった。 1. 気質と小児期虐待の関連について 気質と小児期虐待の関連についての報告は非常に少ない。Pompili らは、 精神科入院患者で、小児期虐待経験がある患者は非虐待患者よりも焦燥気 質が高いことを示した34 。我々が以前行った一般成人における研究では、小 児期虐待のサブスケールのネグレクト(否定的な家庭環境)は抑うつ、循環、 焦燥、不安気質の感情気質の高スコアを予測し、4 気質は小児期虐待と抑う つ症状の関連の媒介因子だった。興味深いことに発揚気質には媒介因子と

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36 しての作用はなかった21。序論でも述べたように、抑うつ症状を抑制する気 質の別の機能、調整効果は上記の媒介効果と区別して考えるべきであり(Fig. 1)35、多因子間の関連性には、媒介効果とともに調整効果が重要である。本 研究では、小児期虐待と抑うつ症状の関連において、感情気質の様々な調 整効果を明らかにした。抑うつ気質が小児期虐待、特にネグレクトの抑う つ症状に対して正に増強する交互作用を示すのに対して、発揚気質は正反 対の負に抑制する交互作用を示した。すなわち、抑うつ気質は小児期虐待 の抑うつ症状に対する影響に対して調整効果を有することが明らかになっ た。一方、発揚気質の小児期虐待との関連はこれまで明らかではなかった が、発揚気質は病的と言うよりは、むしろ調整因子としてレジリアンスを 高めることにつながることが本研究で示唆されたことは重要である。レジ リアンスとは、精神医学ではストレスなどの疾患発症因に対する発症抵抗 性、あるいはストレス因に対しての適応的な反応を導く能力という意味で 用いられる36 私たちが以前行った研究21 と本研究の結果は、Rovai らの研究と一致して いる。Rovai らは、発揚気質と4つの気質(抑うつ、循環、焦燥、不安気質) との間に相違があり、区別して考えるべきと述べている37。これら 4 つの気 質は、気分障害、不安障害、物質使用障害の患者の感情状態と同じで、身 体疾患または日常生活のストレスにおいて情動的・行動的に適応するのが 困難であると示唆している。私たちが以前行った研究と本研究でも、4 つの 気質は現在の抑うつ症状に影響を与えており、成人期における発揚気質と 4 つの気質との間に相違があることを示唆している。言い換えれば、発揚気 質は小児期虐待に対するレジリアンスを高め、抑うつ気質は個体の脆弱性

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37 と関連していることを本研究は示唆している38 CATS の罰と感情気質の交互作用の解析では、罰自体は一般成人の抑うつ 症状に有意な影響を与えなかったが、罰(身体的な虐待)の履歴は、抑うつ 気質と不安気質による抑うつ症状を増強していた。以前の我々の構造方程 式モデリングでは、罰自体が抑うつ・不安気質を増強する傾向が見られた が、さらに罰の履歴と抑うつ・不安気質が共在すると抑うつ症状は高くな るということを本研究の結果は意味している。本研究では行っていないが、 今後、媒介効果と調整効果を同じモデルで解析したい。 2. 気質と成人期のライフイベントとの関係について 序論でも述べたように大規模な前向き研究では Neuroticism と成人期ライ フイベントストレスの大うつ病発症に対する交互作用は報告されているが、 気質と成人期のライフイベントストレスとの関係についての報告は極めて 少ない22 前回の私たちの研究では、気質が成人期ライフイベントの感受性を高め、 気質と否定的なライフイベントの両方が一般成人の抑うつ症状を増強する ことを報告した。本研究は、一般成人において、焦燥気質、発揚気質が否 定的なライフイベントと正または負の交互作用をもつことを示した。焦燥 気質と発揚気質は、成人期の否定的なライフイベントにおける抑うつ症状 に対する影響にそれぞれ正反対の調整効果を有することが明らかになった。 成人期ストレスは抑うつ症状を強め、焦燥気質も抑うつ症状を強めた。正 の交互作用が有意であることから、焦燥気質があると、成人期ストレスに より抑うつ症状が強く惹起されやすいことが示唆される。このことから、

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38 焦燥気質は個体の脆弱性と関連することが示唆される。成人期ストレスは 抑うつ症状を強めたが、発揚気質は直接抑うつ症状には影響しなかった。 しかし、負の交互作用が有意であることから、発揚気質があると、成人期 ストレスにより抑うつ症状が惹起されにくいことが明らかとなった。ここ では、発揚気質は病的と言うよりは、むしろ調整因子としてレジリアンス を高めることにつながることが示唆される。 神経症傾向は TEMPS-A の抑うつ・循環・焦燥・不安気質と相関していた が、発揚気質とは相関していなかった18。この結果は、先行研究で示されて いる神経症傾向と同様に、本研究で示されている成人期のライフイベント ストレスと焦燥気質の抑うつ症状に対する交互作用効果を支持するかもし れない22 本研究では、小児期虐待と同様に否定的なライフイベントのレジリアン スを発揚気質は高め、焦燥気質は低下させることを示唆している。興味深 いことに、ポジティブなライフイベントと、循環気質、不安気質は負の交 互作用を持ち抑うつ症状を低下させたが、ポジティブなライフイベント自 体は抑うつ症状に直接影響しなかった。LES の利点は、肯定的と否定的な ライフイベントを両方測定できることである25。ライフイベントとうつ病と の関連をみた先行研究では、否定的なライフイベントにのみ焦点を当てて いた10,11,22,39。しかし、抑うつ症状に対する肯定的なライフイベントの役割 に焦点を当てた研究ははるかに少ない。精神疾患のある被験者とない被験 者で肯定的なライフイベントは、快感喪失のうつ病および神経症傾向の低 下と関連していた40,41。これに加えて、神経症傾向とポジティブな生活の変 化には交互作用があり、神経症傾向が高いうつ病の患者では、神経症が低

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39 い患者に比べポジティブな生活の変化からより恩恵を得ているという報告 もあるが42、否定的な研究結果も示されている43 本研究の結果は、肯定的なライフイベントの存在は、それ自体は直接抑 うつ症状に影響しなかったが、循環・不安気質による抑うつ症状増強に対 して拮抗する交互作用を示した。すなわち、循環・不安気質を有する人で は肯定的なライフイベントが抑うつ症状軽減に役立つことを意味している。 したがって、肯定的なライフイベントを求めることが精神療法的に作用す る可能性があり、レジリアンスを高めることにつながると考えられる。 Haeffel らは、一般大学生を 4 週間認知スタイル(ネガティブとポジティブ) とライフイベント(ネガティブとポジティブ)の交互作用を検討するため縦 断研究を行った 44。上記の考えは先行研究の結果でもあったように、認知ス タイルまたは肯定的なライフイベントを強化する高いレベルをもつ一般大 学生で抑うつ症状をより回復した結果と一致している。 3. 成人期ストレスと小児期ストレスの関連について 小児期虐待と成人期のライフイベントストレスの両方が、一般成人およ び疾患群における抑うつ症状と関連し、大うつ病の発症を予測する10,11,22,45 それに加え小児期虐待、特に情動的またはネグレクトは気質を媒介してラ イフイベントストレスの否定的な評価を増大または予測する 21,46。しかし、 我々が知る限りでは大うつ病性障害での抑うつ症状に対する小児期虐待と 成人期ストレスとの交互作用は報告されていない。本研究では、一般成人 におけるネグレクト・罰・小児期虐待の合計点が否定的なライフイベント

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40 ストレスによる抑うつ症状を増大させた。さらに、小児期虐待の合計点と ネグレクトは、抑うつ症状を増大させ、否定的なライフイベントストレス と交互作用を引き起こした。小児期虐待の罰は否定的なライフイベントス トレスと調整効果を持つが、それ自体によって抑うつ症状は増大しない。 小児期虐待がある人は、否定的なライフイベントが起きると、より抑うつ 症状が強まることが示唆された。 4.媒介効果と調整効果についての検討 修士課程の研究 21 では、小児期虐待は 4 気質(抑うつ・循環・焦燥・不 安)を媒介し、また気質は直接現在の抑うつ症状に影響を与えていた。こ こでは発揚気質は媒介因子としての働きはなかった。しかし本研究では、 抑うつ、焦燥、発揚気質は現在の抑うつ症状に対して調整因子として働い ていた。よって、気質は媒介因子であると共に、調整因子も持つことが示 された。言い換えれば、小児期虐待は気質に影響を与え、その結果現在の 抑うつ症状を高める一方で、小児期虐待、成人期のライフイベントストレ スと抑うつ症状の関係の強さは気質によって強弱が変わることが示され た。以上のことから、気質は現在の抑うつ症状発症に大きな影響を及ぼし ており、気質を理解することにより治療や介入に有効な対応ができる可能 性が示唆された。

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41 交互作用がもたらす臨床・実践的な意義としては、一般成人としてうつ 病発症高リスク者に早期介入することにより、うつ病発症を予防すること につながるかもしれない。 また、発揚気質が抑うつ症状に対して負の交互作用をもつことから、発揚 気質を高める介入が必要だが、気質は不変的なため難しいと考えられる。 しかし、Hoaki らによると、健康な一般成人を対象にして昼間の照度が高い ほど発揚気質が高まる 47 という結果から、発揚気質が低い患者に対して薬 物療法と並行して光照射療法を行うと治療がより効果が上がる可能性も考 えられる。また、ポジティブなライフイベントは抑うつ症状を低下させる ことから、ポジティブなライフイベントを増やす、またはストレスを感じ る出来事に直面したときにネガティブな思考をモニターし、かつ、思考内 容を評価して、ポジティブな思考に置き換えていく能力、すなわち、認知 再評価を行えるよう認知行動療法も併用して治療すると今後の再発予防に 繋がるかもしれない。 統計的モデルとしての予測の意義は、共分散構造解析では、小児期スト レスは 4 つの気質を介して現在の抑うつ症状に影響を与えていることが分 かったが、発揚気質がモデルに寄与していなかった。しかし媒介効果に加え 調整効果を検討することによって、発揚気質が重要な役割を果たすことが明 らかとなった。両解析を行うことで、うつ病を予測するモデルが一部同定さ れたのではないかと考える。

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42 5.本研究の限界 本研究の限界はいくつか考えられる。 第一に、サンプリングの偏りがあげられる。本研究ではランダムサンプ リングではないため、一般成人として母集団を反映していない可能性があ る。 久留米大学によって行われた 2012 年の調査によると、精神科で働く看護 師の約 7 割の人が精神的に不健康状態であると報告されている48。よって今 回のサンプリングは多くの医療関係者がおり、健常人と比較して抑うつに 関してハイリスクである可能性が高いものと考えられる。その点では社会 全体の一般成人と比較して抑うつ傾向が高いものをサンプルとして招いた 可能性があり、今回得られた交互作用はそれらの抑うつ傾向となる気質が ハイリスクな者に偏った傾向があり、一般成人を反映できていないかもし れない。また、一般成人よりも精神科医療を熟知している対象者もおり、 回答に対して無意識に操作している可能性も考えられる。 第二に、一般成人を対象としているため、本結果がうつ病患者では当て はまらない可能性がある。Toda らによると、大うつ病性障害の患者 98 名を 対象として本研究と同じ質問紙で共分構造解析を行った結果、うつ病の重 症度を小児期ストレスが間接的に、4 つの感情気質(抑うつ・循環・焦燥・ 不安気質)とネガティブなライフイベントが直接的に増加させることを明 らかにした。しかし、気質は過去 1 年間のネガティブなライフイベントに 直接影響を与えていなかった49。よって、気質と成人期のライフイベントの 抑うつ症状に対する交互作用の結果が変わる可能性がある。うつ病患者と 一般成人のモデルを症例対照研究として比較することにより、違いが抑う

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43 つ感情発生解明に寄与することが期待される。今後は大規模な気分障害患 者において感情気質、小児期虐待、成人期のライフイベントストレスの関 連性について検討する必要がある。 第三に、小児期の虐待を過去に遡って評価していることが挙げられる。 これらの影響を確認するためには、縦断的な出生コホート研究が必要であ る。 6.今後の展開 修士課程研究 21では、TEMPS-A の気質評価によって測定された5つの感 情気質のうち 4 気質(抑うつ・循環・焦燥・不安)が一般成人における幼少 期の虐待と抑うつ症状との間の強力な媒介因子であることを共分散構造方 程式で示した。重相関係数の平方が 0.41 であることから抑うつ気分の4 1%を説明できた。これらを踏まえ、幼少期ストレスが気質に影響を与え る媒介因子があると仮定して、現在検討中である。具体的には小児期スト レスを測る CATS の尺度の他に PBI の過保護・過干渉尺度を加え、小児期 ストレスが自尊心低下、対人関係過敏性亢進を惹起し、TEMPS-A の気質と 関連し、不安・抑うつを増強させるという仮説を検証している。 また TEMPS-A とは別の気質尺度である neuroticism(神経症傾向)、TCI(気 質・性格尺度)などの気質と成人期ストレス、虐待との関連も並行して検討 中である。 以上のことを今後一般成人とうつ病群で同じ質問紙を行い、抑うつ・不安 感の感情発症の解明に寄与していきたい。

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総括および結論

本研究は、気質、幼児期の虐待、成人期のライフイベント(過去 1 年間 の出来事)が互いに交互作用して抑うつ症状に影響すると仮説をたてて検 討した結果、以下の新しい知見が得られた。 ・発揚気質自体は抑うつ症状には影響しなかったが、幼少期ストレスや成 人期ストレスによる抑うつ症状増強を発揚気質は緩和した ・抑うつ気質と焦燥気質は、幼少期ストレスや成人期ストレスによる抑う つ症状増強を、それぞれさらに増強した ・抑うつ気質と焦燥気質は個体の脆弱性と関連し、発揚気質は個体のレジ リアンスと関連している可能性が示唆された ・ポジティブなライフイベントは抑うつ症状を低下させた 最後に、本研究では、小児期虐待と成人期ライフイベントストレスの間 に正の交互作用が認められた。小児期虐待の合計点、ネグレクトは抑うつ 症状の高スコアと関連したが、成人期ライフイベントストレスは小児期虐 待の抑うつ症状への影響をさらに増強した。すなわち、幼少期虐待、ある いはネグレクト経験のある人では、成人期ライフイベントストレスが加わ るとうつになりやすいことを示している。ありそうな交互作用ではあるが、 これまで統計学的に報告されたことはない。なお、双極性障害では幼少期 虐待と成人期ライフイベントストレスの相互作用が経過に影響することが 報告されているが、大うつ病性障害や健常者では報告されたことはない。 本研究から得られた知見は、将来心理療法の新たな開発に貢献できる可能 性があると考えられる。

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謝辞

本研究に際しまして、終始懇切な御指導と御鞭撻を賜りました北海道大学大 学院医学研究科精神医学分野 久住一郎教授 ならびに 東京医科大学精神医学 分野 井上猛教授に謹んで感謝の意を表します。また、直接御指導賜り、多く の有益な御助言をいただいた北海道大学大学院医学研究科精神医学分野 中川 伸准教授ならびに北海道大学大学院医学研究科精神医学分野 豊巻敦人特任助 教に心から感謝の意を表します。 本研究にご協力いただきました、北市雄士教育助教、若槻百美先生、中江病院 の仲唐安哉先生に感謝いたします。 さらに、終始有益な御助言をいただきました北海道大学大学院医学研究科精 神医学分野 医局員の皆さまに深く感謝いたします。

Table 1. 一般成人 286 名における基本情報と, PHQ-9, TEMPS-A, CATS, LES のデータ
Table 2.  抑うつ症状(PHQ-9 の合計点)を従属変数とした重回帰分析:独立変数として(a) 5  気質  (TEMPS-A 下 位項目 ), (b)  幼少期ストレス  (CATS  合計  または下位項目), (c)  それらの交互作用  気質   (TEMPS-A  下位尺度)  独立因子 抑うつ 循環 不安 焦燥 発揚 TEMPS-A    6.479  (0.0000)***  8.200  (0.0000)***  8.084  (0.0000)***  8.556  (0.0000)
Table 3.  抑うつ症状(PHQ-9 の合計点)を従属変数とした重回帰分析:  独立変数として(a) 5 気質(TEMPS-A 下位 尺度 ), (b)  ネガティブまたはポジティブなライフイベント(LES), (c)  それらの交互作用  気質 (TEMPS-A 下位尺度)  独立因子 抑うつ 循環 不安 焦燥 発揚 TEMPS-A    7.927  (0.0000)***  8.393  (0.0000)***  9.147  (0.0000)***  8.698  (0.0000)***  -
Table 4.  抑うつ症状(PHQ-9 の合計点)を従属変数とした重回帰分析:(a)  幼少期ストレス  (CATS  合計  または下 位項目 ), (b)  ネガティブまたはポジティブなライフイベント(LES), (c)  それらの交互作用  CATS  合計  または下位尺度  独立因子 合計 ネグレクト 罰 性的虐待 CATS    2.170 (0.0000)***  1.786 (0.0000)***  0.613 (0.0674)  1.625 (0.4538)  LES  ネガティブ

参照

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