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Akita University 秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要第 41 号 2019 年 フォルケホイスコーレの基本価値の類型化と自己評価 * 原義彦 * 秋田大学教育文化学部 本稿は, デンマークの成人教育施フォルケホイスコーレの基本価値の類型化を試みるとともに, 基本価値に基づいて行われ

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1 本研究の目的と方法 1.1 研究の目的 本稿は,デンマーク発祥の成人教育施設である フォルケホイスコーレ(folkehøjskole)の各校が示 す基本価値(værdigrundlag)の類型化を試みると ともに,この基本価値に基づいて行われる学校の自 己評価(selvevaluering)の実態と特徴を明らかに することを目的とする. フォルケホイスコーレは,19世紀半ば,グルント ヴィ(N.F.S.Grundtvig)らの提唱により,デンマー クの民主化や敗戦によって荒廃した国土の復興と郷 土愛の向上などのため,農村青年の教育を目的とし て設立された成人教育施設である1.現在,フォル ケホイスコーレは,デンマークの成人教育のうち の自由成人教育の一機関として位置付けられてい る.また,デンマークフォルケホイスコーレ協会 (Folkehøjskole Forening i Danmark)(以下,FFD

とする.)によると,2000年には94校あったフォル ケホイスコーレは2015年には66校まで減少している が,2017年には 3 校の増加がみられ,2018年には69 校となっている(表 1).このように2000 年以降の 学校数の推移をみれば減少傾向にあるが,それぞれ の年の開校と閉校の状況を見ると,単純に学校数が 減少しているのではなく,新規に開校された学校は 2000年以降では13校あることがわかる. さらに,フォルケホイスコーレは17歳 6 ヶ月以上 であれば,性別,年齢,国籍を問わず無試験で入学 が可能となっている2.ここで提供される学習機会 には,長期コースと短期コースのプログラムがある. 長期コースは,新年度が始まる 8 月中旬から12月ま でと,1 月から 6 月中旬までのおよそ 5 ヶ月間の開 設が一般的である.学習内容に決められたものはな く,デンマーク語,歴史,文学,哲学,政治,メディア, ジャーナリズム,体育,音楽,演劇,陶芸など多岐 にわたっており,それらを組み合わせたプログラム が提供されている.学生の年齢構成では,20歳代前 半が全体の多くを占めている.一方,短期コースは 7 〜 8 月や12月など年内の一時期に,一つのテーマ で一週間程度の期間で開催されることが多い.例え

フォルケホイスコーレの基本価値の類型化と自己評価

† 原  義彦*  秋田大学教育文化学部*   本稿は,デンマークの成人教育施フォルケホイスコーレの基本価値の類型化を試みると ともに,基本価値に基づいて行われる学校の自己評価の実態と特徴を明らかにすることを 目的としたものである.この中で,フォルケホイスコーレの基本価値の記述に頻出する語 には,「生」「共同体」「民主主義」「責任」「尊敬」があることを明らかにした.さらに, 基本価値の記述の内容と具体性のレベルから基本価値の 4 類型を提示したところ,基本 価値の記述が36.8%の学校では教育理念や教育観であり,44.1%の学校では教育的提供に 関わる教育方針であることが示された.また,基本価値に基づく自己評価は,全般的には 教員と学生間や教員間の討論・会話によって行われており,それとともに多くの学校で学 生や教職員を対象に基本価値の内容を含む質問紙調査を組み合わせて行っていることが明 らかになった. キーワード:フォルケホイスコーレ,基本価値,自己評価,対話,成人教育,デンマーク   2019年 1 月 7 日受理   † Yoshihiko H

ARA*, Classification of core values and self-evaluation of Danish folk high school

  * Faculty of Education and Human Studies, Akita

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ば,自転車(サイクリング),絵画,ヨガ,旅行な どをテーマにしたプログラムがそれぞれ開設されて いる.短期コースの受講者は,20歳代から80歳代以 降まで幅が広い.加えて,長期コースも短期コース も全寮制であるのがフォルケホイスコーレの特徴で ある.学生は他の学生とプログラムの全期間,生活 を共にしながら,学習を行っている. FFDは,フォルケホイスコーレが提供する内容, 受け入れる学生の年齢などから学校を 7 つに分類し ている.その分類とは,一般的な教育内容を提供し ている普通・グルントヴィ系,音楽やデザイン,演 劇などを中心とする専門特別系,体育やスポーツを 中心とする体育・スポーツ系,キリスト教に関わる 内容を中心とするキリスト教系,ダイエットなど生 活スタイルに関わる内容を中心とするライフスタイ ル系,概ね60歳以上の高齢者を対象とする高齢者系, 16歳から在籍可能な青少年系である. 表 2 は,2012/13年度以降の年間の学生数を長期 と短期のコース別に示している.これをみると,長 期コースの学生数は年々増加し,2016/17年度は 1 万人を超えている.学校数が減少している中にあっ て,長期コースの学生が増えていることから,全体 として各学校の在籍者数は増加傾向にあると考えら れる.また,短期コースの学生は3.2万人から3.5万 人の間を推移している.これらを合計すると,最も 新しい2016/17年度には約4.3万人がフォルケホイス コーレのプログラムで学んでいる. このようなフォルケホイスコーレの自己評価に関 して,2003年の「フォルケホイスコーレ・エフタス コーレ・家政学校・手芸学校(私立寄宿学校)法(Lov om folkehøjskoler, efterskoler, husholdningsskoler og håndarbejdsskoler(frie kostskoler))」 の 改 正 により,各フォルケホイスコーレが目指す価値を 自身のウェブサイトで公開することと,その価値 に基づいた評価を少なくとも 2 年に一度行うこと が義務づけられた.この規程は,2013年12月改正 (2014年 8 月発効)のフォルケホイスコーレ法(Lov om folkehøjskoler)にも引き継がれており,現在 は,同法第17条で,「学校は,学校の基本価値を自 身のホームページで公表する.学校委員会(Skolens bestyrelse)は,学校の基本価値に基づいて学校活 動の評価計画を作成しなければならない.学校は, 少なくとも 2 年に一度,この評価を行わなければな らない.」とされている. 本稿では,フォルケホイスコーレの評価研究の一 つとして,現在,フォルケホイスコーレの自己評価 がどのように行われているかについて,その実態を 明らかにしたいと考えている.また,フォルケホイ スコーレ法が示すように,フォルケホイスコーレの 自己評価は学校の基本価値に基づいて行われるた め,基本価値の内容分析が必要となる.そこで,こ こでの研究課題を次のように設定した.すなわち, 表 1 2000年以降の学校数 年 開校数 閉校数 学校数 2000 0 3 94 2001 0 6 88 2002 1 2 87 2003 0 0 87 2004 0 5 82 2005 1 3 80 2006 1 1 80 2007 1 1 80 2008 0 2 78 2009 1 2 77 2010 1 2 76 2011 1 5 72 2012 0 3 69 2013 0 0 69 2014 1 2 68 2015 0 2 66 2016 1 1 66 2017 3 0 69 2018 1 1 69 注)歴史的にデンマークのフォルケホイスコーレと 関わりのあるJaruplund Højskole(フレンスブ ルグ(ドイツ)),Nordiska Folkhögskola(ヨー テボリ(スウェーデン))の 2 校を含む. ( 出 典 )FFDの ウ ェ ブ サ イ ト(https://ffd. dk/)に掲載の統計資料をもとにして作成.     表 2 学生数  (人) 年度 長期コース 短期コース 計 2012/13 9,276 34,373 43,646 2013/14 9,293 32,093 41,386 2014/15 9,733 35,038 44,771 2015/16 9,966 34,581 44,547 2016/17 10,065 32,894 42,959 (出典)表 1 に同じ.

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①フォルケホイスコーレの基本価値にみられる内容 的な特徴を明らかにし,その類型化を行うこと,② フォルケホイスコーレにおける自己評価の実態とそ の特徴を明らかにすること,である. 1.2 先行研究の検討 本研究課題に関わる先行研究には,Peterによる 私立寄宿学校の自己評価の視点と方法についての研 究3と,デンマーク教育省が2006年に公表した私立 寄宿学校の基本価値と自己評価に関する調査結果4 がある.前者は,2003年の私立寄宿学校の法改正に よって,各学校の自己評価が規定されることを受け て,私立寄宿学校の自己評価のモデルとして,目 標達成評価(Målopfyldelsesevaluering),インパク ト評価(Virkningsevaluering),利用者志向の評価 (Brugerorienteret evaluering),熟議民主主義的評 価(Deliberativ demokratisk evaluering)の 4 つの モデルを提示している.このうち,フォルケホイス コーレの評価は,熟議民主主義的評価モデルに基づ くものとされている5.熟議民主主義的評価モデル の中心になるのは対話形式(dialogmøde)である. これは,相互理解と尊敬の視点を持った関わりを達 成するねらいのもと,各々が主題と評価の目的に関 わる考えを他者に提示していく方法である.これを 評価者が評価する.手法としてフォーカスグループ, 質問紙,フューチャーワークショップなどから選ん で行うとされる6.この研究は自己評価のモデル提 示が主要な意図であったため,実際の評価の動向と 現状の提示は行っていない. また,後者の教育省の調査は,フォルケホイスコー レを含む私立寄宿学校25校(エフタスコーレ16校, フォルケホイスコーレ 7 校,家政学校・手芸学校 2 校)を抽出し,私立寄宿学校の自己評価が法制化さ れた直後の2004と2005年に,基本価値の設定状況, 自己評価の実施状況を把握することを目的に行われ たものである.ここでは,フォルケホイスコーレと 他の学校が区別されて示されていないため,フォル ケホイスコーレのみの状況を知ることはできない が,調査した学校の全体的な状況について事例を提 示しつつ,結果として次のようにまとめられている. 学校価値については,「ほとんどすべての学校で基 本価値が採択され公表されている」「3 分の 1 の学 校で基本価値を示す言葉が設定されている」「学校 委員会の議事録には同意された基本価値の採択が全 てのケースで記載されているわけではない」「基本 価値の間には常に一貫性があるわけではない」など である.また,自己評価については,「未だ多くの 学校が評価を行っていない」「監査人が誤ったチェッ クをしていたケースがあり,正しいチェックマーク が法律の求める最小要件を満たしている保証はな い」などである. この結果は,自己評価の法制化直後の実施状況を 把握し,その後の展開に生かそうとしていた点に意 義がある.他方,この研究には,対象がフォルケホ イスコーレのみでないことと,フォルケホイスコー レの基本価値と自己評価の全国的な状況とその特徴 が不明なことなどが指摘できる.加えて,この調査 が行われた2005年以降の状況を示す研究は見当たら ない. 1.3. 研究方法 これらの研究課題を解明するため,2 つの調査を 行った(表 3).調査 1 はフォルケホイスコーレの 基本価値の分析のための調査で,68校すべての学校 の基本価値に関する資料収集を,主として各校の ウェブサイトを通じて行った.また,調査 2 はフォ ルケホイスコーレの自己評価の実態を明らかするた めの調査で,全68校のうち35校を訪問し7,学校長 等へのインタビューを行った. 表 3 調査の概要 調査 1 調査 2 目的 各フォルケホイスコー レの基本価値の分析と 類型化 (主に研究課題①のため) フォルケホイスコーレ の自己評価の実態と特 徴の解明 (主に研究課題②のため) 方法 主として各フォルケホ イスコーレのウェブサ イトを通じた収集,お よび学校訪問を通じた 収集 フォルケホイスコーレ 訪問による学校長等へ のインタビュー 調査 時期 2017年 3 〜 6 月 2017年 4 月〜 8 月 調査 内容 基本価値についての記述及び内容 基本価値とその設定方法,基本価値の具体的 実践例,自己評価の方 法等 調査 校数 68校(調査時点の全校) 35校(調査時点の全校68校中)

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2 フォルケホイスコーレの基本価値の定式化と自 己評価の方法 2.1 基本価値の概念と策定の枠組 調査結果の分析の前に,ここで検討するフォルケ ホイスコーレの基本価値の概念と各フォルケホイス コーレにおける基本価値の定式化の考え方について 整理しておきたい. 2003年の「フォルケホイスコーレ・エフタスコー レ・家政学校・手芸学校(私立寄宿学校)法」の改 正によって私立寄宿学校の自己評価が義務化される ことを受けて,2001年,教育省の協力のもと,デン マーク教育大学(当時)のToveらによって私立寄 宿学校の基本価値の概念,基本価値の定式化,自己 評価の方法に関する著書8が刊行された.ここでは, その序文で「私立寄宿学校に関する新しい法律は, 学校を価値に基づく組織として活性化する機会とし て捉えてきた.法律によって基本価値と自己評価が 求められているため,学校はその基本価値に基づい た出発点を明示的かつ一般的に理解可能な言語で表 現することが課題となっている.」9としている.そ の上で,学校の基本価値とは,学校の目的(formål), 実践(praksis),自己評価(selvevaluering)の基 盤となるものであり,一般的な言葉で表現され,公 開されるものとされている10.そのため,基本価値 は学校の目的よりも前に示されるものであり,マニ フェストでもあると述べられている.さらに,基本 価値で重要なことは,自己選択的なことであるとさ れた11.これは,学校自らが価値の選択と決定を行 うという意味で,法律に準拠したものである限り, 基本価値の定式化は学校の自由と自治に委ねられて いるという考え方によるものである.その一方で, 基本価値の定式化に当たって満たすべき要件も提示 されている. この考え方は,現在のフォルケホイスコーレ政策 にもつながっており,その内容は,教育省とともに フォルケホイスコーレを所管する文化省から出され ているフォルケホイスコーレの基本価値のデザイン に関する説明文書12で見ることができる. この中では,実践,目的,基本価値の順に,その 定式化の際の留意点が次の通り示されている. 実践 ・ 学校が日常生活をどのように組織化しているかの説 明は,通常,学校の実践を示すものである. ・実践は,ほとんどの場合,現代的な言語で記述される. ・実践についての記述は,基本価値に基づいて示され るのではなく,個々のコースの計画に基づいて示さ れなくてはならない.  目的 ・ 学校が何を望んでいて,どのような目標を設定して いるかの記述は,通常,学校の目的を示すこととなる. ・目的は,本質的には学校の意図を宣言するものであ る. ・ 目的は,ほとんどの場合,未来志向の言葉で記述さ れる.  基本価値 ・ 学校の基本価値は,学校が目的を設定し,実践方法 を設定した理由を示している. ・基本価値は,学校運営の根拠となる前提条件である. これは,そこに学校が基づいているという考えであ る. ・基本価値の変更には学則の変更が必要になるため, 基本価値は長期的である必要がある. ・ 価値基準は,ほとんどの場合,時代を超えた言語で 記述される. 文化省の説明文書には,基本価値の定式化に関わ るその他の留意事項として,次の 5 項目が挙げられ ている. ・ 基本価値は,学則にそのまま登録できるように,簡 潔かつ一般的な言葉で策定する必要がある. ・ 学校が基本価値を深めたい場合は,学則の付録また は教育計画の紹介として記載することができる. ・ 例えばインナーミッションのような宗教的または教 育的な方向性に言及するだけであったり,学校がグ ルントヴィ的/コル的であるというのでは不十分で ある. ・ 基本価値とその採択は,学校委員会の議事録に記載 されている必要がある. ・ 基本価値は,これに基づいて学校の活動を評価でき るように策定されなければならない. 各フォルケホイスコーレでは,これを参考にして, 学校の基本価値,目的,実践を定式化していると考 えられる.

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2.2 自己評価とその方法  Toveらは,学校の自己評価を「学校が自尊心の 基礎に基づいて確立した目標に基づいて学校が事業 を評価すること」13と述べている.さらに,Toveら は,基本価値,目標,活動等についての自己評価作 業のための調査方法として,質問紙調査とインタ ビュー調査の方法を例示している14  一方,教育省は,自己評価について基本価値と関 連づけた評価を行うことを求めつつも,誰が評価を 行うか,どのように評価を行うか,評価結果を生か して学校が何をすべきかについては学校自身が決め ることであるとしている. 3 調査結果 3.1 基本価値の記述の実際  調査 1 に基づいて,フォルケホイスコーレ68校の 基本価値を,各校のウェブサイトにおける記載,学 則(ウェブサイト上,または訪問調査による収集) における記載から収集した.ここでは,その結果を 述べる.  それぞれの記述の内容,形式,量ともに多様であっ た.全てのフォルケホイスコーレの基本価値を示す 紙幅はないため,その一例として,Den Rytmiske Højskoleの基本価値を以下に示すことにする. 私たちの 3 つの基本価値  Rytmiske Højskoleは,3 つの基本価値に基づいて 学校全体を構築しています. 「共同(Fælles)」  私たちはといえば,私たちが私たちの生活全体を 通じて他の人々に深く依存しており,そして彼らと は仲間であるということを明確にすることです. 「個人(Personlige)」  これは,私たちが自分自身の生き方に責任をとる ことを学ぶ必要があるという事実に基づいています. 「プロフェッショナル(Faglige)」  私たちは,人々が専門性を持って成長することが 重要であると信じます.このように,「世界」はより 見通しのあるものになり,「良い人生」の可能性はよ り大きくなります.  これら 3 つの基本価値は,音楽の世界における三 和音のようなものです.これらは互いの前提条件で あり,そしてそれらのどれも個別に成り立つことは できません.この三和音は学校のロゴの図柄に表現 されています.  基本的な価値を備えた私たちの活動は,ビジョン, プロセスと価値と呼ぶために選んだもので表現され ています.ビジョンは私たちが見てきた目標であり, プロセスは私たちがその目標に到達するための道で あり,私たちの価値は私たちが行動したい存在,行 動する出発点となる存在です.

 Den Rytmiske Højskoleは,その校名からも推察 されるように,音楽を中心としたプログラムを提供 している専門特別系のフォルケホイスコーレであ る.基本価値は,共同,個人,プロフェッショナル という 3 つの言葉と各内容で構成され,後半にそれ らをまとめる記述を加えている.

 Den Rytmiske Højskoleの基本価値の内容は,個 人としての生き方と他者とともに生きる生き方の 指針を示しており,デンマークのフォルケホイス コーレが持つねらいと重なっていると言える.また, Den Rytmiske Højskoleは音楽活動を中心とする学 校であるが,創作や演奏などの音楽技能の習得・ 向上を基本価値とするのではなく,ここで掲げら れているような基本価値をベースとしている点は, フォルケホイスコーレの在り様を提示していると も言える.記述の形式については,Den Rytmiske Højskoleの場合,基本価値を表す 3 つの言葉を用い て示し,それぞれの言葉が意味する内容を記述し, そのあとに,基本価値の全体を包括的に記述する構 成となっている.基本価値を表すキーワードとも言 える語を入れて示す方法は,他のフォルケホイス コーレにおいても数多くみられた.Den Rytmiske Højskoleの記述全体の分量については,調査をした 中では若干少ない部類である. 3.2 基本価値にみられる内容的特徴 次に,調査を行なった68校の基本価値の内容には どのような特徴が見られたかを検討する. ここでは,各校の基本価値の記述に共通してみら れる語の出現状況を分析した.分析に当たっては, 共通にみられる語がいくつの学校の基本価値で使わ れているかを計測することとした.その際,例えば, 名詞(demokrati)の形容詞(demokratisk等)も 同一語とした.また,基本価値の記述の中でのそれ

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ぞれの語の使われ方の違いは無視し,キーワードと して使用されていても,文中で使用されている場合 でも同じ扱いとした.また,同一の語が同じ基本価 値の記述の中で 1 箇所だけ使用されていても,2 回 以上の使用であってもその違いは無視することとし た. 表 4 は,出現状況の上位 5 位までの結果を示した ものである.これによると,第一位は「生,生きる こと,または,生き方(liv等)」であり,全68校中 54校(79.4%)の基本価値の記述の中でこの語が使 われていることになる.これは,全体の約 8 割であ り,一人一人が自分の生き方を考える場であるフォ ルケホイスコーレを裏付けることになった.第二位 は「共同体(fællesskab)」であり,これも37校(54.4 %)という全体の半数を超えるフォルケホイスコー レの基本価値に見られる.ここでいう共同体は,フォ ルケホイスコーレの中で学生や教職員との共同体と いう意味とともに,使い方によっては,地域や社会 における共同体という意味もある.いずれにおいて も,他者との共同という意味を基本価値に含めてい るケースが半数以上あるということになる.第 3 位 は「民主主義,または民主的(demokrati等)」と 「責任(ansvar)」が同点で,いずれも35校(51.5%) となっている.これも全体の半数を超える学校数で ある.これは,フォルケホイスコーレが民主主義の 考え方の普及と実践を重要視していることを示す結 果と言える.「責任」については,社会の一員とし ての責任を果たすということや責任を持つというこ とを基本価値に含めていると推察できる.第 5 位 は,「尊敬(respekt)」である.この語を使ってい る学校数は26校で全体の 3 分の 1 を超える程度であ るが,これは他者を尊重するという意味であり,共 同体や民主主義と通底するものである. これらを通してみると,現在のフォルケホイスー レが重視している価値を把握することができる.と 同時に,「生,生きること,または,生き方」や「民 主主義,または民主的」という点は,いまだ忘れら れることなくフォルケホイスコーレの基本価値とさ れていることを示している. 3.3 基本価値の類型化 3.2 では基本価値の記述に頻出する語から内容の 分析を行ったが,ここではさらにその内容と具体性 のレベルの違いに着目して,基本価値の類型化を試 みる.フォルケホイスコーレの基本価値の記述をそ の内容と具体性のレベルで捉えると,次の 4 つの分 類で捉えることが可能である. 類型 1 :フォルケホイスコーレの教育理念,教育 観あるいは宗教観の記述を中心とした内容 類型 2 :フォルケホイスコーレの教育方針,教育 的提供の内容あるいは教育環境の記述を中心と した内容 類型 3 :フォルケホイスコーレの教育方針(期待 する学生の資質能力を含む)の記述を中心とし た内容 類型 4 :フォルケホイスコーレの教育方針(地域 社会への貢献を含む)の記述を中心とした内容 類型 1 は,フォルケホイスコーレの教育理念や教 育観,あるいは宗教観が中心となっている基本価値 の記述の類型で,記述内容のレベルが 4 類型の中で は最も理念的と言える類型である.この類型に入る 例として,次のEgå Ungdoms-Højskoleの基本価値 がある. 私たちの価値 大人と若者が目の高さで出会う-私たちはそれを「調 和のとれた」人と見ます. 愚かな質問はありません-あえて質問して自分だけ が答えを得て賢くなることができる場合にのみ. 偏見は崩れ落ちます-皆のための場所があります. 若者は他者と一緒に成長します-世界を見る他の方 法に関しては. あなただけで遠くに行くことができます-一緒に私 表 4 基本価値の記述にみられる言葉 共通して用いられる言葉 学校数(%) 生,生きること,または,生き方 (liv, livet等) 54(79.4) 共同体(fællesskab) 37(54.4) 民主主義,または,民主的 (demokrati, demokratisk等) 35(51.5) 責任(ansvar) 35(51.5) 尊敬(respekt) 26(38.2)

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たちは星に到達することができます. 類型 2,3,4 は,いずれもフォルケホイスコーレ の教育方針の記述が中心となる基本価値の類型であ る.このうち,類型 2 は,教育方針や学校が提供す る内容,教育施設や設備等の記述が中心となってい る類型である.この類型に含まれる例として,次の Grundtvigs Højskoleの基本価値がある.  Grundtvigs Højskoleは,人道主義的で民主的な伝 統に基づく啓発と自由志向についてのグルントヴィ の考えに基づいています.私たちは,歴史と文化に 関する知識が,今日世界に向けることのできる最も 重要な前提条件であると考えています.  私たちは,啓発,教育,そして民主的な市民権の 基礎として,思考と会話の自由の空間を作り出しま す.そこでは,言い争いと身構えが寛容という点か ら破られます.  私たちは,教育,経験,食事,そして家庭的で広々 としたことを特徴とするコミュニティを中心にした 社会化を重視しています. 教えることは好奇心,関 わり,そしてプロ意識によって支えられています. それは学生に挑戦し,没入と新たな視点への道を切 り開きます.  学校は,生活の中で役に立つことができる一般的 な教育とスキルを提供します. これには学校の教育理念に関わる内容が含まれて はいるが,学生に提供する教育や生活空間に関わる 内容も含まれている. さらに,類型 3 は,フォルケホイスコーレの教育 方針の記述が中心であるが,学生に対する期待や習 得して欲しい資質能力等の記述を含んでいる基本 価値の類型である.この類型には,次のKrogerup Højskoleの例がある. 基本価値  Krogerup Højskoleは,民主主義の強化と人間の一 般的な教育の発展のために活動しています.そして, それはすべての能力が注ぎ込まれる場で,人間全体 の考えとして理解されています.  社会がますます細分化され,知識が専門化されて いる現代においては,この知識を展望に入れ,そし て特定の分野にわたる自己批判的思考の能力を広げ ることが重要です.Krogerupは国際的な視野を持っ た政治的で創造的なホイスコーレで,若者が社会に 貢献することができるように幅広い背景を持って教 育をしたいと考えています.  私たちは責任を持ち,他の見解や文化に寛容で冒 険心のある市民になるための,すべての若い人々の 機会を発展させることに焦点を当てています.  私たちは,ハル・コック(Hal Koch)のように, 民主的な思考と行動には価値概念に関する絶え間な い多様な対話が必要であると考えています.自由志 向の感覚と想像力を持って,近くと世界の両方のコ ミュニティの利益のために行動したいという欲求を 強化することは重要です. Krogerup Højskoleは,記述にも登場するハル・ コックが初代校長を務め,伝統的に政治や社会に参 画する人材の育成を行っている.これは,その学校 の特徴が表れている基本価値と言える. 最後に類型 4 は,フォルケホイスコーレの教育 方針の記述が中心であっても,地域社会への貢献 の内容を含む類型である.この類型には,次の Højskolen Østersøenの基本価値が属すると考えら れる.  Højskolen Østersøensの目的は,私立寄宿学校に 関する現行の規則の範囲内でフォルケホイスコーレ を運営することです.  特にホイスコーレはデンマークとバルト海地域の 近隣諸国との間での文化的・大衆的発展ならびに環 境および商業的課題の解決に関する協力の促進に貢 献しなければなりません.  他の人々を理解するための前提条件は,彼ら自身 の文化に根ざしていることです.したがって,授業 時間の一部は,デンマークの歴史やデンマークの民 主主義,そしてデンマークの人々の文化的基盤の他 の部分について生徒を紹介するために使用する必要 があります.ドイツの状況の教育に関する限り,学

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生はドイツの歴史,今日のドイツ社会について知っ ておく必要があります.ホイスコーレはそれから EU,バルト諸国および北欧の人々の状態に学生を慣 れさせることを目指さなければなりません.  新しい大規模国家社会,すなわち最も近い隣国と してのドイツでは,将来の世代は人気のある文化的 な分野と教育および雇用の分野において大きな課題 に直面するでしょう.東ヨーロッパの人々の解放は, すべての州とバルト海地域の人々の間でまったく新 しい機会を提供します. Højskolen Østersøenは,ユトランド半島のドイ ツ国境に近い地域で,かつ,眼前にバルト海を臨む 場所に位置している.上のように基本価値に地域社 会への貢献が盛り込まれるのは,このようなフォル ケホイスコーレの地理的環境によるものと考えられ る. このようにして,68校の基本価値を 4 つの類型 に分類してみたところ,表 5 のような結果となっ た.これによると,類型別にみた学校数では,学校 価値の記述が最も理念的といえる「1 フォルケホイ スコーレの教育理念,教育観あるいは宗教観の記述 を中心とした内容」の学校は25校(36.8%)であっ た.また,教育方針ととともに,それを具現化す るための教育的提供(授業,講座等)や教育的環 境(教室環境,居住環境等)にかかわる内容の「2 フォルケホイスコーレの教育方針,教育的提供の内 容あるいは教育環境の記述を中心とした内容」は30 校(44.1%)あり,これが全体の中では最も多いこ とが明らかになった.この 2 類型で,学校数全体の 80%を超えている.一方,学校数は少ないものの, 教育方針に期待する学生の資質能力を含む類型 3 に は 9 校(13.2%),地域社会への貢献の内容を含む類 型 4 には 4 校(5.9%)が当てはまっている. 3.4 自己評価の調査結果 表 6 は,全68校中,自己評価の実施方法等につい てのインタビュー(調査 2)を行なった35校各校に ついて,自己評価の方法の主な内容や特徴的な内容 を略記したものである. これをみると,いずれの学校においても自己評価 は行なわれており,その方法として多くの学校が採 用しているのが学生との対話や討論によるものであ る(学校番号 1,17,23など).討論による方法も学生 主体の討論に 1 〜 2 名の教員が付いて行う形態(同 12,21),学生と教職員が全体で討議する形態(同 3,16),教職員だけで討論する形態(同 7,10,11など) がある.表中に記載がない場合でも,「授業や教室 において日常的に学生と対話を通じて自己評価を行 なっている」「常に教員間で討議をしている」とい う学校がほとんどであった.また,多くの学校が学 生に対して質問紙調査を行っている.しかし,質問 紙調査の内容に基本価値の内容を含めて実施してい る学校(同 5,8,19,28など)もあれば,そうで ない学校(同17,34)もある.同 9 のように,質問 紙調査でも,基本価値の質問は自由記述が良いとす るところもある.その一方で,同21のように,質問 紙等による記述的方法は行わないという学校もあ る.このほか,個別の方法として,倫理会計(同 6 ), SWOT分析(同32)などが見られた. これらを整理すると,自己評価で行われている方 法は, 1)教員から学生への口頭での質問による方 法, 2)学生同士や教師と学生による討論,対話に よる方法,3)学生への質問紙による方法,4)教員 とその他のすべての職員,学校委員会等との討論に よる方法,5)個別の方法がある. 各学校では,これらのすべて,あるいは一部の方 法を組み合わせて自己評価が行なわれている.例え ば,同 3 では,基本価値の内容について学生に質問 紙調査を行い,その結果を学生,教職員,学校委員 会で討議を行っている.このような質問紙調査と討 論の組み合わせにより自己評価を行っている学校は 表 5 基本価値の類型 基本価値の内容と具体性のレベルによる類型 (比率)学校数 1. フォルケホイスコーレの教育理念,教育 観あるいは宗教観の記述を中心とした内 容 25 (36.8%) 2. フォルケホイスコーレの教育方針,教育 的提供の内容あるいは教育環境の記述を 中心とした内容 30 (44.1%) 3. フォルケホイスコーレの教育方針(期待 する学生の資質能力を含む)の記述を中 心とした内容 9 (13.2%) 4. フォルケホイスコーレの教育方針(地域 社会への貢献を含む)の記述を中心とし た内容 4 (5.9%)

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表 6 自己評価についてのインタビューの結果 学校(番号) 学校の類型 基本価値の類型 自己評価の方法 (主な内容,特徴的な内容を略記) 1 A 4 会話,対話を通じた評価. 2 A 3 基本価値を構成する各テーマごとに別れた 教職員チームによる評価. 3 A 2 学生には基本価値を伝えている.学生に質 問紙調査を行い,結果を教職員,学生,学 校委員会で討議する. 4 A 2 学生への質問紙による調査. 5 A 2 全ての基本価値について,学生に質問紙調 査を行う.教員,職員にも質問紙調査.会 話による評価.討議による評価. 6 A 1 倫理会計.学校がその後どのようにするか を知ることができる質問紙調査. 7 A 2 学生への満足度調査(0-5 段階).学生の 活動や諸事項について教員による討議. 8 A 2 基本価値を修文した内容を含む質問紙調 査. 9 A 4 質問紙調査.(基本価値に関しては自由記 述が重要) 10 A 2 長期コースでは,教員のミーティングと学 生のミーティングを実施し,継続的に評価 を行い,第 8 週,15週,20週に評価をまと め,討議を行う.短期コースでは,受講者 が最初に期待を明らかにし,終わりに評価 を行う.この結果について職員によるミー ティングを実施. 11 A 1 教職員全員の討議による.また,常に学校 委員会とも討議している. 12 A 3 学期末に,8 〜 9 名程度の学生グループに 1 名の教師がついて討議する.質問紙調査 も行う.学生は最後に基本価値を知る. 13 A 1 学生の評価は口頭による.自己評価は討議 で行う. 14 A 2 評価システムを用いたデータ重視の評価を 実施.質の評価も同時に行っている. 15 A 2 学生にどうすれば良いアドバイスができる か,物事をよりよくするにはどうするかに ついて職員で討議する.基本価値を学生に はあえて伝えない. 16 A 1 質問紙調査を行う.その後,2 回の全体集 会で日常生活について討論する.これとは 別に,それぞれのクラスにおいて学生と教 員による会話を通じての評価. 17 A 2 質問紙調査(一般的な質問)で通常の状況 を把握している.基本価値に基づく評価は 学生との対話で行う. 18 A 2 5 つの基本価値に基づく評価は,職員が 5 グループに別れて行った. 19 A 1 1 つの方法は基本価値を含めた質問紙調査 を行う.第 2 の方法は,特定の話題を決め て,学校委員会と一緒に職員で討議する. 20 A 1 2 年に一度,選択した基本価値について学 校委員会と一緒に評価を行う. 21 A 3 学生の小グループを作り,教員を 2 名つけ て多くのことについて討議する.質問紙等 の紙は一切使用しない. 22 F 1 毎年,基本価値を 1 つ選んで教員,学生, 全職員で評価を行う.方法は多様で,質問 紙,インタビュー,観察など. 23 F 1 学期中の評価は学生グループへの質問や職 員のミーティングで行う.学期末の評価は 質問紙調査と,学生グループとの討議に よって行う.短期コースの評価は,受講者 への質問紙調査で行う. 24 F 3 学生への自由記述の調査を実施. 25 F 2 異なるレベルごとにワークショップを通じ て討議する.教員のミーティングや非常勤 講師による観察によっても行う. 26 F 3 学期末に,良かった点やより良いと感じた ことについて討議を行う.学生には聞き取 りだけを行う. 27 G 3 学生,教員,その他の職員に対して,活動 について,満足度について,達成度につい て,学校のコミュニティがうまくいったか について質問する. 28 G 2 学生に対して基本価値の内容も含んだ全般 的な質問紙調査を行う. 29 G 1 基本価値について学生への質問紙調査. 30 G 4 2 年に一度,具体的な目標に基づいた評価 を小グループに別れて討議する.質問紙調 査も行う. 31 K 2 教員による観察とミーティング.学生への 質問も行う.

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多数ある.同22では,質問紙調査,インタビュー, 観察などを組み合わせた評価が行われている. 3.5 自己評価の方法:Den Internationale  Højskoleの場合 ここでは,自己評価の例として,Den Internationale Højskole(以下,IPCとする16.)の自己評価の方 法を示すことにする.IPCは1921年,第一次世界大 戦後の平和への取り組みとして,異なった国々から の人々を集め,デンマークのフォルケホイスコーレ 方式で勉強し,暮らしを共にするという考え方に よって創設された.現在もその考え方が継承されて いる.一般にフォルケホイスコーレは在籍者のうち デンマーク人が半数以上であることが条件である が,IPCは特別に許可されており,留学生が半数以 上を占めている. IPCの基本価値には,人権重視の立場から,「尊 敬と開放」「男女平等」「民主的協議」「命への畏敬 と非暴力」「コミュニティと社会的責任の促進」「持 続性」が掲げられている.聞き取り調査によると, 教職員は学生に対して,入学の当初から,また,日 常において基本価値やその意味内容を解説して,伝 えているという. 自己評価は,記述による方法,会話(言語)によ る方法,討論による方法によって行われている.記 述による方法は,年 2 回,各学期の終わりに学生に 対して基本価値に関する内容について,質問紙調査 を行なっている.質問紙によると,質問項目は,「自 分とは異なった文化,視点,意見に対してより寛大 に,また敬意をもつようになった」「男女平等の価 値をより認識することになった」「共同体に影響の ある事項について民主的協議があった」「他者との 付き合いの中で命への畏敬や非暴力を支持すること の価値の必要性をより認識した」「共同体やより大 きな社会により深い責任意識を持ったり,他者の存 在と必要性についてより敏感になった」「コミュニ ティの資源を無駄にすることなく大切にする必要性 をより意識するようになった」であり,これらに同 意するかについて 5 段階による回答と自由記述によ る回答を求めている.また,基本価値についての質 問紙による調査は,教員,および学校の全職員に対 しても行われている.例えば,教員には,「IPCの 基本価値は,あなたの授業や教育に関わって役立ち, また重要ですか.」という質問がされている.さらに, 全職員向けには,6 つの基本価値のそれぞれについ て,IPCが促進しているかどうかを尋ねている. 会話による方法は,学期末に学生を 9 グループ(1 グループ約10名)に分け,各グループに 1 名の教員 を配置し,各学生にインタビューを行う形式をとる. 質問内容は,学校生活を楽しめたか,IPCで最も重 要だったことは何か,学習の成果は何か,などであ る. 討議による方法は教職員が行うもので,記述によ る調査の結果,会話の結果をもとに,討論を通じて 基本価値の実現や実施の状況の評価を行ない,さら には,その後,学校は何をすべきか,何ができるか を考えている. 4. 考察 4.1 基本価値の類型化 これまでの分析から考えられることをいくつか指 摘してみたい.まず,基本価値の類型化に関わる分 析を通じて,その成果と更なる課題を検討する.フォ ルケホイスコーレの基本価値は,全般的な傾向とし て,いくつかのキーワードが用いられながら,学校 の教育理念,教育方針として定式化している学校が 多いことが明らかになった.また,その内容の具体 性のレベルには幅があり,4 つの類型に分類するこ とができた.このような具体性のレベルによる類型 に分けられる理由の一つに,各学校における基本価 値の捉え方が多様であることがあげられる.基本価 値を学校の理念として捉える学校がある一方で,そ れを目的,あるいは目標として捉えている学校もあ 32 K 1 SWOT分析を行い,ビジョンプロセスを 検討する.教員を 6 分野に分けて,分野別 に検討する.学生への質問紙調査も行う. 33 L 2 小グループによる討議. 34 S 1 全般的な質問を質問紙調査で行う.基本価 値に基づく評価は,教師による会話を通じ て頻繁に行う. 35 U 1 学校の向上に向けて全般的な質問を質問紙 調査で行う.基本価値に基づく調査は,コ ンサルティング機関の協力を得て,学生へ の質問や戦略分析,効果分析などを通じて 行う. 注)学校の類型は次の通り.A:普通・グルントヴィ系,F: 専門特別系,G:体育・スポーツ系,K:キリスト教系, L:ライフスタイル系,S:高齢者系,U:青少年系

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る.このような基本価値の捉え方と,それに基づく 基本価値の定式化プロセスの違いによって,基本価 値の内容と記述が異なってくる.さらに,これによっ て,自己評価の方法にも差異が生じてくると考えら れる. 例えば,今回の調査では,フォルケホイスコーレ の基本価値の類型では,教育理念,教育観,あるい は宗教観の記述を中心とした基本価値を定式化して いる学校が全体の36.8%あった.その一例は3.3で示 したが,類型 1 のような抽象度の高い基本価値の場 合,それに基づいた評価は,どのように行われるの だろうか.基本価値を基盤として,具体的な目的や 実践の内容があるので,それを評価しているといえ ばそれまでであるが,基本価値に基づく自己評価を どのように捉えるかを考える必要があるのではない だろうか. 4.2 自己評価の方法 自己評価の一環として多くの学校で行なわれてい る学生との討論,対話,および教職員による討論と いう方法は,1.2 で示した熟議民主主義的評価モデ ルの考え方に合致するものであり,フォルケホイス コーレにおいて歴史的に重視されてきている対話に 基づいた方法である.しかし,自己評価の結果を明 示するという点からすると,学校の基本価値に基づ く評価のための討論や対話の結果を記述し,示すこ とは簡単ではない.ここで必要かつ重要なことは, そこでどのような討論がなされ,対話がなされたか であると考えられる. この点からすると,質問紙による方法は,その結 果を用いてフォルケホイスコーレの基本価値の具現 化や達成状況を定量的に示す上で有効である.IPC では,基本価値の内容に関わる質問項目を作成し, 学生に対して年 2 回,各学期の終盤に調査を行い, その推移を定量的に捉える自己評価の作業を継続的 に行っている.加えて,教職員に対しても質問紙に よる調査が行なわれている.このような継続的な自 己評価の活動は,常に基本価値の実現を意識した教 育や学校運営を促進することにつながっていると考 えられる. フォルケホイスコーレにおける自己評価にみられ る主要な方法は上記に 2 つであるが,これらを進め る際に,学生は必ずしも学校の基本価値を理解して いるわけではない.このことに関しては,表 6 にも 記載したように,学生に積極的に学校の基本価値を 伝えている学校と,あえてそれを伝える必要はない と考えている学校がある.学生にとって,学校の基 本価値がどのような意味を持っているかについても 考える必要がある. さらに,学校の基本価値と自己評価の関連につい て触れておきたい.自己評価ではいくつかの方法を 組み合わせて行なっている学校がほとんどであった ため,基本価値の類型と自己評価の明確な関連を導 出することはできなかった.しかし,これらの関連 について,基本価値が理念的であるよりも,現実的, 具体的である方が具体的な討論項目や質問項目を設 定できる点で自己評価を行いやすいということがあ る.例えば,キリスト教系のフォルケホイスコーレ の主要な基本価値は地域における宗教的貢献につな がる内容であり,自己評価はその点に特化した内容 で行いやすいと考えられる.その一方で,相矛盾す ることではあるが,基本価値をあまり具体的にはし ない方が基本価値の内容を具体的に考えようとする 意識を高めることになり,それが却って自己評価の 自由度を高め,討論や質問紙の内容を幅広く取り上 げる容易さを生み出しているということも指摘でき る. 終わりに 最後に,本稿の課題を述べておきたい.第一に, フォルケホイスコーレの基本価値の類型と自己評価 の関連の分析が十分にできなかったことがあげられ る.本稿では,表 6 にそれぞれを示すところまでは 到達できたが,未だその関連は見出せていない.第 二に,そのためには,まだ行えていない約半数のフォ ルケホイスコーレの自己評価の調査を続けていきた いと考えている.さらに,第三の課題に,訪問調査 で得られた自己評価にみられた倫理決算,評価シス テムを用いた評価法など,生涯学習施設の評価に用 いることのできる評価方法の探索と解明を進めてい くことがある. 1 フォルケホイスコーレの設立過程に関する研究に は,佐々木正治『デンマーク国民大学成立史の研 究』,風間書房,1999が詳しい. 2 フォルケホイスコーレほか,デンマークのフリー スクールの概要をまとめたものに,FFD他の発 行 に よ るThe free Danish school tradition, 2017が あ

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る.また,フォルケホイスコーレの実践的教育手 法を示したものとして,Rasmus Kolby Rahbek & Jonas Møller, HØJSKOLE PÆDAGOGIK,

Aarhus, KLIM, 2016がある.日本においてフォル ケホイスコーレの学校生活や実態について詳しい 文献には,清水満『生のための学校 デンマーク で生まれたフリースクール「フォルケホイスコー レ」の世界』,新評論,1996などがある.

3 Peter Dahler-Lasen, Selvevalueringens HVIDE

SEJL, Odense, Syddansk Universitetsforlag, 2003

4 U n d e r v i s n i n g s M i n i s t e r i e t , Ti l s y n m e d

værdigrundlag og selvevaluering på frie kostskoler 2004 og 2005 (Revideret udgave), 2006.

5 Peter Dahler-Lasen, op.cit.,p.69. 6 Ibid., p.157.

7 訪問した35校は次のフォルケホイスコーレである. A s k o v H ø j s k o l e , B o r n h o l m H ø j s k o l e , Brandbjerg Højskole, Brenderup Højskole, Den Internationale Højskole, Egmont Højskolen, Grundtvigs Højskole, Hadsten Højskole, Højskolen Østersøen, Jaruplund Højskole, Johan Borups Højskole København, Krogerup Højskole, Nordfyns Højskole, Nordiska folkhögskolan, Odder Højskole, Rødding Højskole, Silkeborg Højskole, Testrup Højskole , Uldum Højskole, Vallekilde Højskole, Vrå Højskole, Den Rytmiske Højskole, Engelsholm Højskole, Krabbesholm Højskole, Kunsthøjskolen i Holbæk, Ryslinge Højskole, Gymnastikhøjskolen i Ollerup, Idrætshøjskolen Bosei, Idrætshøjskolen Aarhus, Aalborg Sportshøjskole, Kolding Internationale Højskole, Luthersk Missions Højskole, Højskolen Skærgården, Senior Højskolen Nørre Nissum, Egå Ungdoms-Højskole.

8 Tove Heidemann, Randi Nygaard Andersen, Finn Thorbjørn, Anders Bech Thøgersen,

Værdigrundlag og selvevaluering på de frie kostskoler,

København, Danmark Pædagogiske Universitet, 2001

9 Ibid., p.5. 10 Ibid., p.12.

11 Ibid., p.12.

12 Kulture Ministeriet, Udformning af værdigrundlag

på folkehøjskoler.

(https://slks.dk/fileadmin/user_upload/0_ SLKS/Dokumenter/Folkehoejskoler/Vejledning_ i _ u d f o r m n i n g _ a f _ v a e r d i g r u n d l a g _ p a a _ folkehoejskoler.pdf,2018年12月20日参照) 13 Tove et al., op.cit., p.15.

14 Ibid., pp.93-121.

15 Kulture Ministeriet, op.cit..

16 Den Internationale Højskoleは, 英 語 でInterna-tional People’s Collegeと呼ばれ,IPCはその略称. *本稿は,JSPS科研費JP16K04528の助成による研 究成果の一部と,平成28年度秋田大学研究者海外派 遣事業による研究成果の一部を含んでいる.

Summary

The purpose of this paper is to typify core values of Danish folk high school, and to make clear the situation of self-evaluation of this school. As a result, it became clear that the word live, community, democracy, responsibility, and respect often appear in the description of core values of each school. Further, after typifying the core values into 4 types, it became clear that 36.8% of core values classified into Type1 which is a type of most ideal core values including educational philosophy and idea and that 44.1% of those classified into Type2 which is an educational policy with educational supplies. Regarding self-evaluation based upon the core values, it was showed that main method of self-evaluation is discussion or dialog based upon principle of deliberative democracy, and questionnaire sheet containing question about core values.

Key Words : Danish folk high school, core value,

self-evaluation, dialogue, adult education

表 6 自己評価についてのインタビューの結果 学校(番号) 学校の類型 基本価値の類型 自己評価の方法 (主な内容,特徴的な内容を略記) 1 A 4 会話,対話を通じた評価. 2 A 3 基本価値を構成する各テーマごとに別れた 教職員チームによる評価. 3 A 2 学生には基本価値を伝えている.学生に質 問紙調査を行い,結果を教職員,学生,学 校委員会で討議する.  4 A 2 学生への質問紙による調査. 5 A 2 全ての基本価値について,学生に質問紙調 査を行う.教員,職員にも質問紙調査.会 話による評

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