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思春期における摂食異常症

思春期

キーワード コーピングスキル、飢餓症候群、低身長、初潮の未発来、骨粗鬆症、成長曲線、家族療法、広汎性発達障害 東京女子医科大学内分泌疾患総合医療センター内科

 荒

あら

 木

 まり子

こ 政策研究大学院大学保健管理センター

 鈴

すず

(堀

ほっ

)眞

はじめに

 摂食異常症とは、心理的な要因で食行動に異 常をきたす、主として若年女性の心身症である。 著しいやせと無月経を呈する神経性食欲不振症 (AN)と、過食発作を特徴とする神経性大食症 (BN)に大別される。小児期では AN が多いが、 最近、AN から BN への移行例が目立つ1)。筆者 の施設では、15 歳未満での発症(以下、小児例 という)は 25%を占め、12 歳以下の発症も珍し くない。この稿では小児 AN のプライマリ・ケ アと治療について述べる。

1.症状と検査所見

 AN には二つの病型がある。食欲がない、ある いは、食欲を抑えてやせを維持している制限型 と、飢餓に耐えかねて衝動的な大食が出現したも のの、自己嘔吐や下剤の乱用でやせを維持してい るむちゃ食い/排出型がある。小児例では後者は 少ない。AN の心理や異常行動は理解されにくく、 家族を混乱させる。大別すると、①やせを維持す る行動、②低栄養の反動である食への執着、③飢 餓による精神症状が特徴である。小食で低カロ リー食品を好み、過剰な活動はやせを維持する一 方で、料理番組や雑誌を好み、特別な食品へのこ だわりが強く、異常な食べ方や調味料の乱用な ど、食への執着や異常な興味を認める。これらは やせる行動とは矛盾するようにみえるが実は飢餓 が惹起する異常行動である。さらに、飢餓は思考 力、気分、認知を変化させ、病的な頑固さなどの 飢餓症候群とよばれる精神症状を引き起こす2) 小児 AN では、ダイエットの既往ややせ願望が はっきりしないことが多く、腹痛や嘔気などの身 体症状を伴いやすいことが特徴である。  身体的には重症のやせが特徴で、種々の低栄養 状態に起因する身体所見と臨床検査所見を認める (表 1)。成長曲線は早期発見に有用である。また、 初潮の遅れや無月経、徐脈やカロチン症も頻度の 高い理学的所見で、体質性やせと鑑別できる。ま た低栄養に伴う種々の内分泌異常も認める3)。重 篤な合併症として、低血糖昏睡、脱水、腎不全、 上腸間膜動脈症候群、低 K 血症(偽性バーター 症候群)、横紋筋融解症、不整脈、タコツボ型心 筋症、感染症などがあげられる4)。低身長、初潮 の未発来、骨密度の低下は、低年齢発症では後遺 症になりうる。

2.AN のプライマリ・ケア

 診断と鑑別診断、栄養アセスメント、緊急入院 の適応の判断や運動制限を行う5) 1)診断と鑑別診断  DSM-Ⅳによる AN の診断基準があるが、小児 は成長期にあるため、標準体重の 85%以上でも 体重増加が不良な場合は AN を疑う必要があり、 小児ではやせ願望やボディーイメージの歪みなど 言語化せず、初潮前の発症もある。そこで、小児 用診断基準(思春期やせ症の実態把握及び対策に 関する研究班、主任研究者:渡辺久子先生)(表 2

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が出されている6)。体重表は表 3を用いる。成長 曲線、ストレスの有無(過剰な勉強時間やスポー ツ)、初潮や月経の状態、身体症状などについて 問診を行い、下垂体・視床下部腫瘍、クローン病 などの炎症性腸疾患、結核などの感染症、甲状腺 機能亢進症、悪性腫瘍などを除外する。  小児の広汎性発達障害では、こだわりが強迫性 障害に発展したり、体重や食へのこだわりを基盤 にストレスへの不適応として AN を合併したり することが周知されてきた。広汎性発達障害の見 地から治療がなされるべきである。 2)重症度診断と入院適応や運動制限  AN の死亡率は 5 ~ 10%で、小児は脂肪量が 少ないため生命危機に陥りやすい。重症度は体重 やバイタルサインで評価される。血清 IGF - I が 短期の栄養状態の評価に有用である。同研究班 による重症度診断と生活管理基準では、肥満度が 0 ~-15%では通学可、ただし体育は不可、-15 ~-20%では原則として通学不可で、-20%未満 で入院治療を推奨する厳しい基準となっている。 アメリカ精神医学会による摂食障害診療ガイドラ イン(2000)による入院基準では、次のいずれか 1 項目に該当すれば入院の適応となる。①標準体 重の 70%以下あるいは急激な体重減少、②心拍 数 50/ 分以下、③血圧 80/50 ㎜ Hg 以下、④低カ リウム血症、⑤低リン血症7)  AN 患者は疲れを感じにくく、低体重になれば なるほど過活動になり通学や運動をしたがる。し かし筋力や運動能力は低下し、体育や課外授業で 事故を起こす可能性がある。標準体重の 80%以上 で健康時と同じ活動を許可し、それ以下では水泳 やマラソンを含む重労作の制限を行う必要がある。 表 1. 神経性食欲不振症患者で認められる主な身体症状と検査値 症状と徴候 検査所見 皮 膚 うぶ毛の密生 脱水 カロチン症 低体温 凍瘡 吐きだこ 循環器 低血圧 徐脈 心雑音 不整脈 浮腫 心陰影の縮小 心電図異常 僧帽弁逸脱症 口 腔 歯肉炎 エナメル質障害 う歯 唾液腺の腫脹 味覚障害 唾液腺アミラーゼの上昇 血中亜鉛の減少 消化器 腹部膨張感 嘔気 嘔吐 腹痛 便秘 下痢 内臓下垂 胃排出能低下 萎縮性胃炎 イレウス 上腸間膜症候群 腎・尿路 乏尿 失禁 夜尿 浮腫 膀胱筋力低下 腎希釈 ・ 濃縮能障害 腎不全 肝・膵 トランスアミナーゼ上昇 膵型アミラーゼ上昇 総タンパク・アルブミンの低下 脂質代謝 高あるいは低コレステロール血症 血 液 貧血 白血球減少 血小板減少症 電解質 不整脈 意識障害 けいれん 低 Na・Cl・K・Mg 血症 内分泌系 無月経 低身長 T3 低値 GH 上昇 IGF- Ⅰ低下 性ホルモン低下 骨・筋肉系 側彎 骨折 筋力低下 筋肉痛 末梢神経麻痺 横紋筋融解症 骨密度低下 中枢神経系 不眠 思考・判断・集中力の低下 認知障害 脳萎縮像 異常脳派 表 2. 小児用診断基準6) 1.がんこな拒食、減食 2.はっきりした身体疾患がないのに、体重増加不良、 または減少がある 3.以下のうち 2 つ以上の症状がある 体重にこだわる カロリー摂取にこだわる スタイルにこだわる 太ることをこわがる 自分で吐く 運動しすぎる 下剤を使う 小・中学生の子どもが、以下の診断基準の 2 つ以上を満たす時 「思春期やせ症 ( 小児期発症神経性食欲不振症 )」と診断される。

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3.治 療

 AN の治療は栄養療法とコーピングスキルの向 上である。成長期の低栄養の弊害を予防するため に栄養療法は優先される。しかし、AN 治療の困 難さは、「体重を増やしたくない」患者に体重を 増やさなければならない点である。 1)医学情報の提供と心理教育  食べないことを責められ、無理に入院させられ るのではないか、といった不安や警戒を軽減して いく。栄養の基礎知識を教え、「心が疲れるとな る病気」「やせると辛いことを辛いと思わない効 果がある」という風にわかりやすく説明する。異 常行動は病気の症状で本人に責任はない、と説明 すると安心する。筆者らは小学生高学年~中学生 を対象にした画像の多い書籍を作成している8) 2)治療動機  やせには「休んでよい」「親が優しい」などの 心理的メリットがあるため体重増加を容易には受 け入れない。「辛いけれども体重を増加せざるを 得ない」という動機をもたせるには、「入院を免 れる」「通学できる」「運動ができる」「身長が伸 びる」などの現実的なメリットを認識させる方法 しかない。「○ kg になったら△ができる」とい うように目標の体重を具体的に提示することが 有効な場合がある。 3)安心できる療養の場の確保  特に小児期には家庭や就学環境が回復に大き な影響を与える。家庭や学校が安心して療養でき る場になることが早期回復の条件である。学業な どの心身の負担をできるかぎり軽減する。家族は 病気に対して不安、混乱しており、病気に巻き込 まれて疲弊することを防ぐために、家族への支援 も必要である。筆者らも家族の集団心理教育を行 う「EAT ファミリーサポートの会」を主催して いる(内容は DVD、詳細は http://www3.grips. ac.jp/~eatfamily/)。  学校は大きなサポートになりうる。養護教諭と 連携して、低体重の際には通学、課外授業やクラ ブ活動の停止の基準を指示し、保健室登校や保健 室での補食を依頼して療養しやすい環境を調整 する(表 4)。 4)栄養療法の実際  外来治療の始めは、どんな食品でも本人が楽に 食べられるなら良いと対応した方が治療意欲を 持たせやすい。好物を取り入れて摂取エネルギー をできるだけ必要エネルギーに近づける。本人の 食事内容を否定せずに良い点を支持して、可能な 限りエネルギー量と栄養学的バランスを改善し ていく現実的な栄養指導が有効である。「体が温 かくなった、早く歩ける」などの自覚症状や、検 査所見の改善をフィードバックして良い食行動 を褒めて強化する。体重増加が不良なら、長期休 暇を利用して計画的に入院して経腸栄養法や経 静脈性高カロリー栄養法の導入も考慮する。筆者 らは、入院が不可能な患者に手技を指導して、在 宅で経鼻経管栄養を行う場合もある。入院治療に ついては文献を参照していただきたい9) 5)薬物療法  摂食障害に特効的で標準的な薬物療法は確立 されておらず、本邦では摂食障害で認可された 薬物はない。消化酵素胃機能調整薬、下剤が栄養 療法の補助として使用される。低体重時のAN にみられる抑うつ、強迫性、認知の障害や不眠な 表 3. 標準体重の計算方法6)  標準体重= ax - b a, b は性別、年齢別 x は身長 男子 a b 女子 a b 5 歳 0.381 23.099 5 歳 0.379 22.923 6 0.440 30.134 6 0.433 29.331 7 0.489 36.294 7 0.484 35.640 8 0.576 47.007 8 0.538 42.371 9 0.634 54.615 9 0.620 53.008 10 0.708 64.866 10 0.700 64.186 11 0.763 72.848 11 0.784 76.406 12 0.784 76.118 12 0.806 78.855 13 0.816 81.589 13 0.682 58.704 14 0.822 82.034 14 0.614 46.482 15 0.774 72.009 15 0.562 36.913 16 0.708 60.404 16 0.588 40.622 17 0.675 54.084 17 0.583 39.935 山崎公恵ほか:日小児会誌 98:96-102,1994 より引用,一部改変

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どは飢餓による影響で、薬物療法より栄養療法が 有効である。選択的セロトニン再取り込み阻害剤 (SSRI)は回復期に認められる過食衝動を軽度で はあるが抑制し、過食後の気分を持ち上げる効果 を期待できる10) 6)精神療法  AN にはやせることで現実の困難や辛さから回 避できるような心理が背景にあり1)、本人の問題 対処能力(コーピングスキル)でストレスに対応で きないときに発症する。治療の最終目標は、スト レス対処能力を向上させることであるが、本格的 な精神療法を行うにはある程度の栄養状態の改善 が必要である。小児の場合は言語表現が苦手であ り、遊戯や芸術療法を行うことも有用である7) 欧米では、18 歳以下の神経性食欲不振症患者に は家族療法の有効性が証明されている。

おわりに

 患児の心理的未熟さを心身の発達途上と温かく 見守り、体を守りつつ、コーチし、思春期の悩み の相談相手になるという柔軟な医療が求められて いる。首都圏の小学生へのアンケートで、女児の 約 70%がやせたいと思っており、健康を害して でもやせたいと思う児童はそうでない児童に比べ て、他人の評価に敏感で、学校や家庭でのストレ スをより多く感じていることが明らかになってい る。患者予備軍が増加していると言える。 文献 1.日本小児心身医学会編集「小児の神経性無食欲 症診療ガイドライン」『小児心身医学会ガイドラ イン集』南江堂、2009

2.Garner D, Rockert W, Olmsted MP, et al; Psychoeducational principle in the treatment of bulimia and anorexia nervosa, In Garner DM, Garfunkel PE(eds): Handbook of psychotherapy for anorexia nervosa & bulimia, Guilford Press, 523-532, 1985 3.堀田眞理『内科医にできる摂食障害の診断と治療』 三輪書店、64-66、2001 4.堀田眞理、大和田里奈、高野加寿恵「摂食異常 症における身の治療的役割 神経性食欲不振症の 身体的合併症と後遺症」日本心療内科学会誌、8 (3):163-168、2004 5.鈴木眞理『Primary care note 摂食障害』日本医 事新報社、33-52、2008 6.主任研究者:渡辺久子『思春期やせ症の予防と 早期発見のために』厚生労働科学研究子ども家 庭総合研究事業思春期やせ症の実態把握及び対 策に関する研究班、2004 1)早期発見と治療導入のチャンス 健康診断の結果の家庭へのフィードバック、家庭との連携 2)ストレスイベントの発生場所である 本人のストレスや悩みが学校に関連する場合は解決の努力、勉学のプロとしての指導 3)療養の場 体力低下時の早退や遅刻、保健室登校や保健室での捕食 4)体重による行動制限の評価 授業、クラブ活動、課外活動の停止、家族の付き添いの依頼 5)本人が安心して療養できるように早めのアナウンスと対策を指示 出席日数、出席日の代案(不足点数や単位をレポートや補習で補填)、留年や卒業の判定 6)本人の性格、プライド、家庭環境を考慮した進路指導 休学、留年、退学は急いで結論を出さず最後まで可能性を残す、進路の選択では目標を 絞り推薦などを有効に使う 7)コーピングスキルの練習場 教師や友人との交流が自然の精神療法になる 8)病期に適した声かけ(特に回復期や過食期) 回復期に過去のよい成績を期待しないし、「太った」と言わない 表 4. 学校が食欲不振症患者にできること

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7.崔明順ほか「一般小児科外来における初期治療」 『思春期やせ症の診断と治療ガイド』文光堂、61-73、2005 8.鈴木眞理「ダイエット障害」少年写真新聞社、 2006 9.鈴木(堀田)眞理「内科入院治療」切池信夫編『摂 食障害』(最新医学別冊)最新医学社、88-96、 2007 10.鈴木(堀田)眞理「患者さんの背景・病態で考 える 薬の選び方・使い方のエッセンス摂食障害 心身・精神 摂食障害」治療、 91(4 月増刊):1286-1290、2009 *    *    *

参照

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