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要旨 水痘帯状疱疹ウイルスは全身にかゆみを伴う赤い水ぶくれができる 小児に多い疾患で 感染力は麻疹に次いで強く 空気感染や接触感染で周囲に広がる 1) 成人の水痘は重症になる傾向があり 死亡率も小児の25 倍との報告もある世界各地で流行が見られる疾患である 本調査では 新潟市内の小児科で発行した処方

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平成

25 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ

皮膚疾患に関する研究

水痘帯状疱疹ウイルスにおける処方せん調査

Studies on Skin Disease

Survey on Medical Prescription of Varicella Zoster Virus

臨床薬剤学研究室 6 年

07P195 佐藤 詠子

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要 旨

水痘帯状疱疹ウイルスは全身にかゆみを伴う赤い水ぶくれができる、小児に多い疾患で、感染力 は麻疹に次いで強く、空気感染や接触感染で周囲に広がる1)。成人の水痘は重症になる傾向があり、 死亡率も小児の25倍との報告もある世界各地で流行が見られる疾患である。本調査では、新潟市 内の小児科で発行した処方せんについて水痘の処方箋の調査を行いそこから水痘の治療薬、使用 回数、処方する際の注意点などを処方せんを用いて調査した。 治療はヘルペスウイルス治療薬を主として、鎮痒薬や解熱薬、とびひの薬が処方される。薬剤選 択では、発熱にはアスピリン以外の解熱剤を使用する、アトピーや喘息などでステロイドを使用して いる場合には非ステロイド薬に変更するなど、薬による合併症に注意し、適正使用することが重要で あると考えた。

キーワード

1.水痘帯状疱疹ウイルス

2.小児

3.終生免疫

4.帯状疱疹

5.アシクロビル

6.バラシクロビル

7.アスピリン

8.ライ症候群

9. ステロイド

10.フェノール・亜鉛華リニメ

ント(カチリ)

(3)

目 次

1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1

2.疾患の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1

3.治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2

4.調査方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3

5.結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4

6.考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

11

謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

12

引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

13

(4)

1

論 文

1.はじめに

水痘は、水痘帯状疱疹ウイルスによって伝染するウイルス性疾患である。感染症法の第 五類疾患に分類され、世界各地で流行が見られる。特徴として、全身にかゆみを伴う赤い 水ぶくれができ、感染力は麻疹に次いで強く空気感染や接触感染で周囲に広がる1)。患者 の多くは小児である。一度かかると二度とかからないといわれているが、初感染の後、神 経節に潜伏し、宿主の免疫低下に伴い皮膚に疱疹を形成し帯状疱疹となる。成人の水痘は 重症化する傾向にあり、死亡率も小児の25倍との報告もある。本調査では、新潟市内の 小児科で発行した処方せんについて水痘の処方箋の調査を行いそこから水痘の治療薬、使 用回数、処方する際の注意点など処方せんを用いて調査した。

2.疾患の概要

2-1水痘帯状疱疹とは1) 水痘帯状疱疹ウイルスの初感染によって起こる伝染性疾患で、9 歳以下の小児に多く、 一度かかると二度とかからないといわれている。 潜伏期は10日~20日で、健康な小児では脳炎など重篤な合併症をおこすことは稀だ が、免疫機能が低下している人や、大人が罹ると重症化することがある。 2-2病態生理2) 水痘帯状疱疹ウイルスは2本鎖 DNA のヘルペスウイルス属に分類され、気道粘膜や眼粘 膜に感染したのち、その部位のリンパ節で増殖した後、第一次ウイルス血症を起こす(感 染後4~6日)。その後肝臓や脾臓に運ばれさらに増殖し、第二次ウイルス血症をおこし (感染後10~20日)、これが皮膚上皮細胞に到達することで発疹を引き起こす。また 呼吸器に運ばれて体外に排出され、潜伏期間中の感染源となる。 2-3終生免疫と水痘帯状疱疹2)3) 治癒後は終生免疫を獲得し、水痘には 2 度と罹らない。 ウイルスは知覚神経節である三叉神経節や脊髄神経節に移動し、神経節細胞を取り囲む外 套細胞のなかにDNAの形で潜伏する。免疫力が低下するとウイルス粒子を複製し、神経 節から神経にそって移動し皮膚に疱疹を形成する。帯状疱疹の発症である。

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2 2-4症状3) 症状は発熱と発疹が主となる。発熱はほとんど気付かない程度のものから、39℃台の 高熱を見るものまで様々である。有熱期間は3~4日が多い。 発疹は、発熱例では発熱とともに出現し、かゆみが強い。体幹を中心に、顔面や頭部に 分布することが多く、1~2日間で、紅斑、丘疹、水疱、膿疱、かさぶたの順に変化する 特有の経過をたどる。この経過中にも新しい発疹が次々と出現し、各種の発疹が混在する ことになる。全ての発疹がかさぶたになるまでには 1 週間程を要し、発疹が出る1~2日 前からこの期間中は感染の可能性がある。 2-5感染に注意が必要なケース A) 妊娠期間中や分娩後の母体感染は、胎児への悪影響が懸念される。そのため、妊娠を望 む場合は、あらかじめ水痘帯状疱疹ウイルスに対する抗体検査をうけ、抗体が無い場合 には妊娠していない時期にワクチン接種をうけ、接種後2カ月は避妊する。 B) ・気管支喘息やアトピー性皮膚炎などでステロイド薬を使用している場合。 ・小児白血病などの悪性腫瘍がある患者。 ・免疫不全の場合。 上記の患者は重症化しやすい。発疹も出血性や壊疽性になりやすく、致死率の高い脳 炎や肺炎を合併することがある。

3.治療

2)3) 3-1 治療方針 抗ウイルス薬としてアシクロビルが有効である。その他対処療法として発疹の掻痒に対し てはフェノール亜鉛華リニメントの塗布、発熱に対してはアスピリン以外の解熱薬を用い る。水痘罹患中にアスピリンを服用すると、激しいおう吐や痙攣、意識障害を引き起こす ライ症候群が発症することがあるので解熱薬の選択には注意する必要がある。皮膚の細菌 二次感染に対しては抗菌薬(ブドウ球菌を目標とした選択が必要)を投与する。その他、 二次感染予防の目的で皮膚の清潔を保ち、爪を短くする。 3-2主な使用薬剤4)5) (1)抗ウイルス薬 単純ヘルペスウイルス及び水痘帯状疱疹に起因する感染症と、それに付随する脳炎・髄 膜炎の治療に用いられる。

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3 アシクロビル(グロスパール®、ゾビラックス®) 水痘・帯状疱疹感染細胞内に入り、DNA の複製を阻害する。通常、成人はアシクロビル として 1 回 800mg を 1 日 5 回経口服用。小児は体重 1kg あたりアシクロビルとして 1 回 20mg を 1 日 4 回経口服用する。ただし、1 回最高用量は 800mg とする。 バラシクロビル塩酸塩(バルトレックス®) アシクロビルのプロドラッグ。生物学的利用度は、アシクロビルの 2~3 倍である。通 常成人および体重 40kg 以上の小児はバラシクロビルとして1回 1000mg を 1 日 3 回 (3000mg)、小児には体重1kgあたりバラシクロビルとして1回 25mg を 1 日 3 回(75mg) 経口投与する。ただし、1回最高用量は 1000mg とする。服用期間は通常5日間である。 ビダラビン(アラセナA®) 作用機序については確立されていないが、ウイルスの DNA 依存 DNA ポリメラーゼを強力 に阻害するものと考えられている。軟膏剤として患部に適量を 1 日 1~4 回、塗布又は 貼布する。 (2)鎮痒薬 フェノール・亜鉛華リニメント(以下 カチリ) 皮膚そう痒症、汗疹、蕁麻疹、小児ストロフルス、虫さされに1日1~数回適量を患部 に塗布する。糜爛・潰瘍・結痂・損傷皮膚及び粘膜には使用しない。 (3)解熱鎮痛薬 アセトアミノフェン(アンヒバ®、カロナール®) 中枢性解熱鎮痛薬、鎮痛作用は非ステロイド性抗炎症薬よりやや劣るが副作用は軽度で 有効性は高い 小児科領域の解熱・鎮痛薬として用いられ、アスピリン喘息・消化性潰瘍の患者には禁 忌である。通常乳児、幼児及び小児にはアセトアミノフェンとして、体重 1kg あたり 1 回 10~15mg の坐剤を直腸内に挿入して用い、投与間隔は 4~6 時間以上とされている。 イブプロフェン(ユニプロン®) 通常イブプロフェンとして1回の投与に体重1kg あたり、3~6mg を発熱時坐剤として 直腸内に挿入する。ただし、1日2回を限度とする。4歳以下の小児に対する安全性は確 立されていない。

4.調査方法

新潟に店舗を持つ市民調剤薬局に協力を得て、3店舗の処方箋調査を行った。 薬局1、薬局2では2011年12月1日~2012年11月30日までの期間に来院し

(7)

4 た患者、薬局3では2012年11月1日~11月30日までの期間に来院した患者で、 水痘帯状疱疹ウイルスと思われる患者の処方箋を解析した。

5.調査結果

5-1患者の内訳 患者数:165名 男性:80名 女性:85名 ○患者の性別に男女比はあまり見られず、患者の年齢は10歳以下の小児であった。特に 2~4歳の患者が多くみられた。 幼稚園入園前後とみられる年齢の小児患者の数が多い。考えられる理由として、水痘症 の主な感染経路が幼稚園や小学校、兄弟間での感染であるため、施設内で感染経験のない 小児による集団感染や、罹患した患者が家庭内で兄弟間の感染をおこすため、その年代の 患者が最も多いと考えられる。 ○水痘症は年間を通して発生する疾患だが、冬~春にかけて増加し、夏~秋にかけて減少 すると言われている。薬局1と2の年間の発生をみると、10月以降の発症数は増加傾向 にあり、4月前後から減少しており、今回の調査でも一致した(図2)。薬局3について は1年分の処方箋が集められず、患者数の偏りを避けるため、除外した。 2 14 34 44 33 23 9 4 1 0 1 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年齢別の人数 (人) (歳) 図1 水痘帯状疱疹の患者の年齢分布

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5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 薬局1 7 7 5 4 4 1 2 3 2 6 10 6 薬局2 9 6 14 3 1 1 5 0 4 2 5 26 0 5 10 15 20 25 30 人数

季節ごとの患者人数

5-2 処方の解析 処方は小児喘息・風邪・アトピーなどを併発しているものが多く、処方された医薬品の種 類も多岐にわたるため、水痘治療に関わると推測されるれる9種類の薬ををとりあげた。 A.抗ヘルペスウイルス薬:・・・2種類 B.鎮痒薬 :・・・2種類 C.解熱剤 :・・・2種類 D.とびひ薬 :・・・3種類 抗ヘルペスウイルス薬 バルトレックス(一般名 バラシクロビル):1日3回服用・・・・・162 処方(98%) グロスパール(一般名 アシクロビル) :1日4回服用・・・・・・3 処方(2%) ◎主な処方薬は抗ヘルペスウイルス薬、鎮痒薬、解熱剤であり、そのうち抗ヘルペスウイ (月) (人) (人)

図2

図3

(9)

6 ルス薬としてバラシクロビルが選択されることが圧倒的に多かった。 アシクロビル非選択の理由として考えられるのは以下の3つである。 ①患者のほとんどは小学校就学前の小児患者であり、薬の服用は親が管理している場合が ほとんどである。その年齢の小児に対して1日4回の投与は薬を飲ませる親の手間や負担 が大きい。 ②4歳前後の小児は、夕食を食べてから寝るまでの時間間隔が成人と比べて短いことが多 く、3回目(夕食後)と4回目(就寝前)の服用間隔を適切に取ることが難しいことによ り、血中濃度が高くなり、副作用が発現しやすくなる可能性がある。 ③バラシクロビルはアシクロビルのプロドラックであり、吸収がよく効果も高いと言われ ている。 *バラシクロビルのバイオアベイラビリティーは54.2%。アシクロビルは 15~30%程。 鎮痒薬 カチリ:水痘によく処方される軟膏 ・・・・・・・・・・・・・138 処方(74%) テルギンG(一般名 クレマスチンフマル酸塩):抗ヒスタミン薬、・・・79 処方(48%) [ 鎮痒薬の使用状況 ] 薬局1:57 名中・・・52 名使用(91.2%) 薬局2:74 名中・・・74 名使用(100%) 薬局3:56 名中・・・25 名使用(44.6%) ◎痒みを和らげ、疱疹を掻き壊すのを防止する目的でカチリや抗ヒスタミン薬であるテル ギンGが処方されていた。 テルギンGは持続時間の長い鎮痒薬でアレルギー性皮膚炎や風邪に伴うクシャミや咳な 図4 鎮痒薬の使用状況

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7 ど用途が広いため水痘単独の目的で使用されているとは限らず、また使用にかなりばらつ きがみられるため、水痘での抗ヒスタミン薬処方は医師の判断によるところが大きいと考 えられる。 解熱剤6) 小児に解熱剤を選択するときの注意としてアスピリンは小児に使用するとライ症候 群をおこすため原則禁忌である。小児の解熱剤として選択される主なものは非ピリン系 解熱鎮痛薬であるアセトアミノフェンや、非ステロイド性抗炎症薬であるイブプロフェ ンの2つである。水痘による発熱は全く見られないものから、38~40℃の高熱が出るな ど様々で、発熱が見られる患者のみ頓服で解熱剤が処方されている。アンヒバ坐剤・カ ロナール細粒はどちらもアセトアミノフェンを主成分とする解熱鎮痛薬であり、今回の 調査では高熱がある場合のみ、6~8時間あけて使用するよう指示が出ていた。 ユニプロンはイブプロフェンを主成分とする解熱剤であり、4歳以下の小児に対する 安全性は確立されていないため、処方数が少ないと推測される。 < 小児の解熱薬 > 第一選択薬 :アセトアミノフェン 第二選択薬 :イブプロフェン

表1 水痘帯状疱疹患者で使用の解熱剤

薬局1

薬局2

薬局3

7

8

3

4

0

14

2

0

0

とびひ薬(伝染性膿痂疹) 水痘疹は痒みが強く、ひっかいて掻き壊すためとびひがおこることがある。ブドウ球菌 の感染によることが多いので有効な抗菌薬を使用する。表2、表3は使用された抗菌薬の 中で、とびひに保険適応のある軟膏と抗菌薬である。 アンヒバ坐剤 カロナール細粒 (アセトアミノフェン) (アセトアミノフェン) ユニプロン坐剤 (イブプロフェン)

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8 ○抗菌薬含有軟膏

表2 水痘患者で使用のとびひ薬

一般名

商品名

処方数

2

3

○抗菌薬

表3 水痘患者で使用の抗菌薬

カテゴリー 一般名

商品名

処方数

2

4

46

4

5-3 処方例5) 用法用量については、水痘帯状疱疹ウイルスの治療に関係する薬剤のみ記載。 処方例1 5歳 女性 Rp1)フェノール亜鉛華リニメント「ニッコー」 30g 1日3回 水痘疹に塗布 Rp2)バルトレックス顆粒50% 3.2g Rp3)白糖「ヨシダ」 1.2g 分3 毎食後 5日 処方例1では、ヘルペスウイルス感染症治療薬であるバルトレックス®(一般名:バラ シクロビル)と、水痘のかゆみをおさえ水疱を乾燥させるカチリが処方されている。バラ シクロビルは通常、成人および体重 40kg 以上の小児はバラシクロビルとして1回 1000mg を 1 日 3 回(3000mg)、小児には体重1kgあたりバラシクロビルとして1回 25mg を 1 日 3 回(75mg)経口投与する。ただし、1回最高用量は 1000mg とする。使用期間は水痘には5 日間で通常用いられる。この処方では1日 3.2g(バルトレックスとして 1600mg)5日間 処方されている。また解熱薬や鎮痒薬の併用が無いことから、体重21kg 前後の発熱のな い軽症の水痘患者への処方であるとみられる。 白糖の処方については、患者本人と保護者に服用の際の負担をかけないためと考えられ る。小児に飲ませやすいよう味の調節として処方されており、処方医によってはココア・ クロラムフェニコール クロロマイセチン軟膏 硫酸ゲンタマイシン ゲンタシン軟膏 セフェム系 ペニシリン系 スルバクタム セフジニル ユナシン セフゾン メイアクト フロモックス セフジトレン セフカペン

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9 アイスクリーム・プリンなど薬と味の飲み合わせのよいものを一緒に服用させるよう説明 している所もある。 処方例2 3歳 女性 Rp1)フェノール亜鉛華リニメント「ニッコー」 30g 1日3回 水痘疹に塗布 Rp2)バルトレックス顆粒50% 2g Rp3)白糖「ヨシダ」 0.9g Rp4)テルギン G ドライシロップ0.1% 0.5g 分3 毎食後 5日 Rp5)アンヒバ坐剤小児用200mg 5個 高熱・疼痛時 1回2/3本 8時間以上あけること 38.5℃以上なおかつ不機嫌時に限定 処方例2は、処方例1の抗ヘルペスウイルス薬やカチリの他に、さらに鎮痒薬として抗 ヒスタミン薬テルギン G®(クレマスチンフマル酸塩)が処方されている。治療に用いる場 合、成人は 1 日 2g(クレマスチンとして 1mg)を分2で服用、3 歳〜5 歳未満は1日量 0.5g (0.5mg)で使用されるがこの処方では分3で処方されている。これは薬の数が多いと患 者に薬を服用させる保護者の負担になるので、バラシクロビルと服用のタイミングを合わ せて使用していると考えられる。 また水痘罹患中にアスピリンは原則禁忌(ライ症候群発症防止のため)であるので、解 熱薬の選択に注意が必要である。そのため、解熱薬としてアセトアミノフェン系解熱剤で あるアンヒバ坐剤が選択されている。乳児、幼児及び小児にはアセトアミノフェンとして、 体重 1kg あたり 1 回 10~15mg を直腸内に挿入して用い、投与間隔は 4~6 時間以上とされ ている。 疾患に伴う発熱は生体防御反応であり解熱薬の使用は回復を遅らせるという意見もあ るため、40℃以上の高熱があったとしても子供が元気にしているならば無理に解熱薬を使 用する必要はないとする意見もある10)ため、38.5℃以上かつ不機嫌時限定と指示が出て いると推測される。 処方例3 6歳 男性 Rp1)フェノール亜鉛華リニメント「ニッコー」 30g 1日3回 水痘疹に塗布 Rp2)オイラックスクリーム10% 20g 痒いところに1日1~4回塗布

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10 Rp3)白糖「ヨシダ」 1g Rp4)バルトレックス顆粒50% 3.3g 分3 毎食後 4日 Rp5)キプレスチュアブル錠5mg 1錠 分1 就寝前 Rp6)メジコン散10% 0.3g Rp7)ムコダイン細粒50% 1.2g Rp8)ホクナリンドライシロップ0.1%小児用 0.9g ホクナリンテープ併用不可 分3 毎食後 7日 Rp9)ザーネ軟膏0.5% 5000単位 20g Rp10)サトウザルベ軟膏20% 20g 1日2~3回、体幹、四肢(特に入浴直後、乾燥肌に塗布) ステロイドが入っていない保湿剤 処方例3は、経口薬として気管支喘息治療薬のモンテルカストナトリウム(キプレスチ ュアブル®)、非麻薬性鎮咳薬のデキストロメトルファン(メジコン散®)、去痰薬のカルボ システイン(ムコダイン®)、気管支拡張薬のツロブテロール塩酸塩(ホクナリン®)が処 方されている。また、軟膏剤として鎮痒薬のクロタミトン(オイラックスクリーム®)、保 湿剤のビタミンA 油(ザーネ軟膏®)、消炎・皮膚保護剤の酸化亜鉛(サトウザルベ軟膏®)を 使用している。 水痘症はステロイド療法中の患者、妊婦、新生児、アトピー性皮膚炎など免疫系の働き が変化している患者は重症化しやすい。特にアトピーと水痘を併発すると、皮膚が乾燥しど ちらの皮膚症状も悪化するので保湿剤が処方されることがある。このことからこの患者は小 児喘息とアトピー性皮膚炎、水痘を併発していると推測される。 そのため、この処方ではステロイドが入っていない薬剤を選択するよう医師の指示があ り、ステロイド剤を使用することによる症状の重症化を防止することが読み取れる。他疾 患を併発している際には非ステロイドの薬に変更し、水痘の症状が落ち着いてから医師の 判断のもとステロイドを再開する。 処方例4 4歳 男性 Rp)1 バルトレックス顆粒50% 2.7g 分3 毎食後 2日分 Rp)2 ホクナリンドライシロップ0.1%小児用 0.7g

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11 Rp)3 ムコダインDS50% 1g Rp)4 メイアクトMS小児用細粒 1.8g 分3 毎食後 2日分 Rp)5 カチリ「ホエイ」 30g 患部に塗布 処方例4は、気管支拡張薬のツロブテロール塩酸塩(ホクナリン®)、去痰薬のカルボシス テイン(ムコダイン®)、セフェム系抗生物質であるセフジトレンピボキシル(メイアクト MS®)が処方されている。メイアクトは抗菌スペクトルの広い抗生物質であり、風邪や 気管支炎、肺炎にも使用できる。このことから、水痘症の他、気管支炎を併発したと推測 され、解熱剤の処方が無いことから発熱はしていないことが読み取れる。

6.考察

水痘帯状疱疹ウイルスは罹患者の 90%以上が9歳以下の小児であると言われており、成 人も罹ることのある疾患である。調査数が少なく完全に一致はしなかったが、今回の調査 結果はこれを支持するものであった。特に2~4歳の、幼稚園入園前後の患者が全体の 67% を占める結果となった。 処方については、患者の 98%がバラシクロビルを処方されており、圧倒的に多いという 結果になった。アシクロビルと比べ吸収がよく服用回数が少なく済み、また小児患者は夕 食後(3回目)から就寝前(4回目)の間隔が近いことが多く、副作用が発現する可能性 があるなどの理由から患者本人や薬を飲ませる保護者にとって負担が少ないので処方率 が高いと推測した。 次にフェノール亜鉛華リニメント(カチリ)や抗ヒスタミン薬が、鎮痒薬として患者全 体の 91%に処方されている。このことから、この疾患にはかゆみを伴うことがうかがえた。 うち 74%がフェノール亜鉛華リニメントであり、抗ヒスタミン薬は 48%と、ほとんどがカ チリと併用されているという結果になった。併用率は薬局によってばらつきがあり、水痘 への使用は処方医の判断によるところが大きく、また抗ヒスタミン薬はアトピーなど水痘 症以外の痒みや風邪への適応があるので水痘症以外の目的で処方されているとも考えら れる。 解熱薬については、水痘症に限らず小児の発熱にはアスピリンは原則禁忌とされている。 使用するとライ症候群をおこすためであり、小児の解熱は第一選択に非ピリン系解熱薬で あるアセトアミノフェン、第二選択に非ステロイド性抗炎症薬であるイブプロフェンが使 用される。イブプロフェンが第二選択である理由として、低出生体重児、新生児、乳児又 は4歳以下の幼児に対する安全性は確立していない(使用経験が少ない)ためと考えられ、 今回の調査結果もこれを支持するものであった。 とびひはブドウ球菌の感染によるところが多いので有効な抗菌薬を使用するが、とびひ

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12 の薬は全体の 36%程と決して高くなかった。これはカチリや抗ヒスタミン薬による鎮痒に よって抑えられていると推測される。 患者の中には小児ぜんそくやアトピーと推測される処方もあり、水痘患者にステロイド を使用すると重症化することがあるので、これらの処方でステロイドを使用している場合、 非ステロイド薬に変更の指示が出る。このことは、調剤をする際に薬剤師が注意すべき点 である。 水痘帯状疱疹ウイルスの患者のほとんどは小児であるため、小児に使用してはならない 薬や、喘息などの持病、体重に合わせた薬の増減など、適切に薬を使用するため薬と疾患 両方の特性を理解し、また薬を服用させる保護者や患者本人へ負担が少ないよう配慮しつ つ治療していくことが重要であると考えた。

謝 辞

本調査を行うにあたり、多大なる協力をしていただきました新潟薬科大学臨床薬剤学研究 室 河野健治教授および、株式会社 市民調剤薬局の皆様に深く感謝申し上げます。

(16)

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引 用 文 献

1.細矢光亮:小児に多い皮膚感染症 水痘・帯状疱疹 Derma 164:80~84 2010. 2.武田美文、木村哲 : 感染症 2004.9.5 3.鴨下重彦、柳澤正義 : 子供の病気の地図帳 4.斎藤康 : わかりやすい疾患と処方薬の解説 2009 2009.3.26. 5.高久史麿 , 矢崎義雄 : 治療薬マニュアル 2009 . 6.横田俊平 田原卓浩 橋本剛太郎 : 小児の薬の選び方・使い方 7.山口和克 : 病気の地図帳 2000.11.20. 8. 大日康史, 菅原民枝, 三野正博, 島内泰宏, 尾崎貴視, 香川嘉宏, 岡部信彦 水痘予防接種に対する公費補助制度の政策評価 感染症誌 84:159~164 2010. 9.水之江俊治,門田淳一 : 水痘肺炎 呼吸 29(1):59~62 2010. 10.切替一郎 : 新耳鼻咽喉科学 1967.11.1.

参照

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