• 検索結果がありません。

認知再構成のプロセスに関する研究~「腑に落ちる理解」についてのインタビュー調査~

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "認知再構成のプロセスに関する研究~「腑に落ちる理解」についてのインタビュー調査~"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-71 438

-認知再構成のプロセスに関する研究

〜「腑に落ちる理解」についてのインタビュー調査〜

○唐木 瞬也1)、甲田 宗良2)、伊藤 義徳3) 1 )埼玉みさと総合リハビリテーション病院、 2 )琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座、 3 )琉球大学人文社会学 部人間社会学科心理学プログラム 【背景・目的】 認知行動療法において認知再構成は治療の中核的概 念と言える。しかし,認知再構成がなされたかどうか を客観的に判断出来る基準は今日まで存在しておら ず,エビデンスベイストの理念に基づいて発展してき た認知行動療法にとって,効果の最も核となる部分に ついてのエビデンスが得られないという自己矛盾に 陥っている。よってその基準を作成することが必要で あると言える。それでは,認知再構成を客観的に判断 する基準を開発するにはどのようにアプローチしたら よいのだろうか。従来から認知再構成法を実施するに あたっては,クライエント自らが認知の歪みに気づき 納得することが重要視されているが(Beck et al., 1979; Westbrook et al., 2011下山監訳, 2012),こ れはつまり「腑に落ちる理解」が認知再構成を捉える 上での重要な概念として考えられる。 「腑に落ちる理解」は認知行動的に,「ある情報が提 示されて,その情報から導かれる行動レパートリーの 生起頻度が上昇する際の背景にある認知的操作」と定 義される(重松ら, 2018)。「腑に落ちる理解」に関す る先行研究には,伊藤(2009)や永田・久貝・伊藤 (2011),久貝(2012)などがあり,これらの研究によっ て,「腑に落ちる理解」が情動制御方略である認知的 再評価や,マインドフルネストレーニングの効果を促 進することが明らかにされている。しかしながら,こ れらの研究でも,対象者が「腑に落ちた理解」をした かどうかを判断するにあたって課題を抱えていた。例 えば久貝(2012)では,上記 2 つの先行研究よりも妥 当性の高い方法として教員アンケート法を採用した。 これは実験で提示された情報への「納得度」を実験者 の指導教員が聴取するというものであった。ただしこ の方法でも教員という権威のある者から問われること で,より従順な回答に偏った可能性も否定できず,さ らに検討する必要性があると言及された。このように 先行研究ではまだ,「腑に落ちる理解」がなされたか どうかを客観的に判断する基準が確立されておらず, その確立が望まれている。 「腑に落ちる理解」や認知再構成という概念の間に, 仮に上述したような密接な関係があるならば,「腑に 落ちる理解」を判別する基準を作成することで,同様 に「認知再構成」の測定もまた可能となるだろう。 よって本研究ではまず,「腑に落ちる理解」を測定す る行動チェックリストを作成することを前提に,人が 「腑に落ちる理解」をした後にどのような変容が生じ るのか,半構造化面接により調査することを目的とし た。 【方法】 対象者:健常な大学生30名がインタビュー調査の対象 者であった。次にインタビューの中で具体的な「腑に 落ちた」体験・場面の想起が出来なかった者 6 名,及 びMarlowe-Crowns Social Desirability Scale 日本 語版(佐藤・安田・吉村, 1997)の得点が平均+1SD (8.22+3.32; 12点)以上ある者 5 名を調査から除外 し,最終的に19名(男性11名,女性 8 名,平均年齢 =20.37,SD=1.012)を分析対象者とした。 調査手続き:調査協力者に「腑に落ちた」体験談に関 する半構造化面接を実施して,人が「腑に落ちた」時 に生じる認知・行動・身体感覚・感情面での変化に関 する情報を収集した。質問項目は,予備調査などを繰 り返してまとめた11項目であった(1.腑に落ちた出来 事について,2.腑に落ちる直前・前の状況について, 3.腑に落ちた出来事のインパクトに関して,4.その時 生じていた感情について,5.その時の身体感覚・生理 的変化について,6.腑に落ちた直後の行動や反応, 7.腑に落ちた後に行ったことについて,8.腑に落ちた 後,出来るようになったことについて,9.考え方の変 化・広がりについて,10.人生の影響について,11.そ の他)。調査時間は 1 人につきおよそ90分であった。 倫理的配慮:「ヘルシンキ宣言」における倫理的配慮, および,安藤らによる「心理学者のための研究倫理 (安藤・安藤, 2006)」を参考に,調査協力者の心身面 への配慮に努めた。また,調査の目的,調査への協 力・拒否の自由,協力意思の撤回可能性,個人情報の 保護などについて書面及び口頭で説明し,承諾書にて 同意が得られたものに調査協力を要請した。 【結果と考察】 インタビュー調査によって集められた回答は,KJ法 (川喜田, 1967)を参考に分類・整理した。評定者は, 調査者と,臨床経験が 3 年以上あり臨床心理士の資格 を持つ博士課程の大学院生,臨床心理学を専攻する修 士課程の大学院生の計 3 名であった。なお今回KJ法に よる分類・整理の対象となった質問項目は,4.から

(2)

日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-71 439 -10.までであった。以下に4.から10.までの質問項目毎 に,原カード数において上位の分類となったものと, 考察を記す。 質問項目4.では,「喜び」や「安心感」,「驚き」,「開 放感」など,基本的にポジティブな感情が生起するこ とが示された。これは人が洞察に達した際の情動反応 とも一致するものであった (Gruber, 1995; Thagard, 2006)。ただし,今回の結果には「怒り」や「罪悪感」 も含まれており,人の「腑に落ちた」文脈によっては 必ずしもポジティブな感情のみを体験するとは限らな いことが示唆された。質問項目5.に関しては,「胸の スッキリ感」や「頭の解放感」,「肩の力が抜ける感 じ」,「全身の脱力」,「ドキドキ」といった身体感覚・ 生理的変化が生じることが示された。質問項目6.に関 しては,「腑に落ちた内容を確認する」,「腑に落ちた 内容を外在化する」,「身体の力が緩む」,「考える」, 「手の動作」,「あーという発声」,「笑顔になった」,「驚 いた」などが「腑に落ちた」直後の行動や反応として 現れることが示された。なお,「笑顔になった」,「驚 いた」といった表情の変化は認知再構成が起こる臨床 場面でも観察され,その表情の変化する瞬間を観察す ることは重要であるとされている(Beck, 2008)。清 水(2009)においても,顔が明るくなるような変化を 伴う「Aha」体験を観察することの重要性を指摘して いる。なお,「Aha」という用語は文字通り,人が洞察 を得た時に自然と出る「Aha!(あは!)」という発声に 由来するものであるが,これに類似して,今回の結果 からも「あーという発声」が「腑に落ちた」場面で生 じることが示された。質問項目7.の結果から,「腑に 落ちた情報に即した行動を行った」といったものや, やや派生して「思いやりのある行動」,「脱・体験の回 避」や「自己受容」といったものが,「腑に落ちた」 後に行われることが示された。なお「脱・体験の回 避」や「自己受容」はアクセプタンス&コミットメン トセラピーにおける,Creative Hopelessness(既存の アジェンダに対する認知の変容を導くセッション)に よって導かれる認知的変容と類似していると考えられ る。質問項目8.に関しては,「自分への思いやりのあ る行動」,「思いやりのある行動が出来るようになっ た」,「嫌なことにも対応出来るようになった」といっ た結果が見られ,「腑に落ちた」後には,自己や他者 に優しさを向けられるようになったり,嫌だと感じて いたものに向き合えるようになるなどの可能性が示唆 された。質問項目9.では,「考え方の内容が変わる」, 「自分の考えを客観的に見るようになった」,「ありの ままを受け入れられるようになった」といった結果が 示された。なお「自分の考えを客観的に見るように なった」といった変容は,認知再構成法によって導か れる脱中心化した視点の獲得と類似している。質問項 目10.においては,「自分の価値観を再構成出来た」, 「人生には厳しさも必要だ」,「問題解決能力が上がっ た」といった結果が見られた。「腑に落ちる」という 体験が,人の価値観にも影響を与えるという可能性が 示唆された他,日常生活における問題に実際に活かさ れていくということが示された。 【まとめ】 本研究の結果から,人が「腑に落ちる理解」をした 後にどのような変容が生じるのか明らかとなった。ま た「腑に落ちる理解」をした後には,臨床現場におい て認知再構成が行われた際に観察される表情の変化や 発声,更には「自分の考えを客観的に見る」といった 脱中心化した視点の獲得と類似する変容が生じること などが示された。この結果は「腑に落ちる理解」と認 知再構成の深い関連性を示唆するものだと言えるだろ う。今後の展望として,本研究で得られた「腑に落ち る理解」後の変容に関する知見をチェックリストとい う形にまとめ,これが臨床現場で実際に認知再構成を 判別し得るのかその妥当性の確認が望まれる。今後の 更なる知見の積み重ねが期待される。

参照

関連したドキュメント

機械物理研究室では,光などの自然現象を 活用した高速・知的情報処理の創成を目指 した研究に取り組んでいます。応用物理学 会の「光

次に、第 2 部は、スキーマ療法による認知の修正を目指したプログラムとな

タップします。 6通知設定が「ON」になっ ているのを確認して「た めしに実行する」ボタン をタップします。.

一次製品に関連する第1節において、39.01 項から 39.11 項までの物品は化学合成によって得 られ、また 39.12 項又は

また、当会の理事である近畿大学の山口健太郎先生より「新型コロナウイルスに対する感染防止 対策に関する実態調査」 を全国のホームホスピスへ 6 月に実施、 正会員

なお︑本稿では︑これらの立法論について具体的に検討するまでには至らなかった︒

1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における

そのため本研究では,数理的解析手法の一つである サポートベクタマシン 2) (Support Vector