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呼吸理学療法における地域医療連携

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Academic year: 2021

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理学療法学 第 41 巻第 8 号 672 はじめに  呼吸理学療法は呼吸器系の疾病による呼吸機能障害がある患 者に対して行われる理学療法である。対象となる病態は様々で あるが,病態で分別すると罹患期間が一時的な急性呼吸不全, 長期的に継続する慢性呼吸不全があり,原因は炎症疾患,肺実 質の疾患や呼吸筋の神経筋疾患など拘束性障害や閉塞性障害と 様々である。これらの呼吸障害は,労作時に換気制限を引き起 こし結果として息切れ感の増強や不活動によって最終的に日常 生活活動(activity of daily living:ADL)低下をきたすと考え られている。これらに対して理学療法は,日本における呼吸リ ハビリテーションマニュアル「運動療法」や国際的なガイドラ インにおいても理学療法の有用性を示唆している。  近年では日本の医療政策や医療制度の改革により理学療法の 重要性や必要性が示され,理学療法を実施する領域が拡大して いる。早期からの理学療法介入にて廃用を予防し,原因疾患に 対し積極的に治療介入することでより早い回復や入院期間の短 縮などが期待されている。また,長期入院による治療から可能 な限り在宅療養しながら治療を継続する「病院中心の医療」か ら「在宅中心の医療」へ変化してきた。そして,団塊の世代 が 75 歳を超える 2025 年に向けて高齢者が住み慣れた自宅や地 域で暮らし続けられるように「医療・介護・介護予防・生活支 援・住まい」の 5 つのサービスが一体的に提供される「地域包 括ケアシステム」1)の構築を実現していくと厚生労働省が政策 を示している。この 5 つのサービス領域に対して幅広く知識, 技術をもつ理学療法士への社会的ニーズはより高まると予想さ れる。もうひとつの政策として,2013(平成 25)年 5 月に「健 康日本 21(第 2 次)」2)の新たな基本方針が示され,がん,循 環器疾患,糖尿病に続き,呼吸器疾患である慢性閉塞性肺疾患 (Chorionic Obstructive Pulmonary Disease: 以 下,COPD)

が新たな対象として追加された。今後,増加の一途をたどると される COPD の認知度を高めるとともに疾病管理について国 策として検討されていく。この COPD は,呼吸理学療法の介 入による効果が高い。また,COPD のみならず間質性肺炎など 新たな疾患への介入を考慮すると理学療法に対する需要はより 高まると予測される。  これらを踏まえ筆者らは,急性増悪後の COPD 患者を在宅で 安心な生活が過ごせるように,2005(平成 17)年より地域連携 プロジェクトチームを結成し包括的呼吸リハビリテーションを 地域連携にて進めてきた。本稿では,COPD 急性増悪後の地域 医療連携における理学療法士の役割に焦点を絞り報告する。 地域医療連携  医療・病院管理用語辞典3)では,『医療連携』とは「医療施 設間の連携は,地域における『医療提供の最適化』を目的とし たものであり,より具体的にいえば『保険や医療などに関する 事柄について複数の医療施設が相互に連絡を取り合い,連携し て患者に最適な医療を提供すること』」と示されている。   近 年, 入 院 診 療 で は 包 括 的 診 療 報 酬 制 度(Diagnosis Procedure Combination:DPC)の導入により入院期間は短縮 され早期退院の傾向がある。以前であれば入院期間中に理学療 法や患者指導などが行われたが早期退院に伴い不十分のままに 退院となるケースもある。退院後は,外来診療が継続すれば医 療の連続性は担保できるが,医療機関によっては同一の医療機 関で継続して診療できないことも少なくない。また,在宅での 医療管理となれば医療のみならず福祉制度の適応もあり様々な 施設での介入となる。この「つながり」を「医療連携」といわ れている。医療連携の際に多施設を結びつけるのが「申し送り や報告書」であり各施設間で情報共有されている。転院先や退 院後に理学療法を継続する際に,診療に必要な情報を申し送り や報告書として作成しているが,本来の意味する「相互に連絡 がとれているか」については煩雑な業務の中で相互連絡を取り 合い情報交換・共有は困難であると思われる。しかし,連携の 際には施設や職域を越え「相互連絡」が可能となればより質の 高い医療提供につながることも考えられるため,円滑な連携シ ステム構築が課題である。 地域医療連携における呼吸理学療法  呼吸理学療法では,急性呼吸不全または慢性呼吸不全の患者 が対象となる。しかし,病態や状況によって異なるために十分 な評価結果より介入方針を明確にしたうえでの介入が必要であ る。原則,急性呼吸不全は一過性の呼吸不全なので原因病態の 改善に伴い呼吸問題は残存しないために,早期介入によって回 復を促しながら廃用を防ぐことが重要である。しかし,慢性呼 理学療法学 第 41 巻第 8 号 672 ∼ 675 頁(2014 年)

呼吸理学療法における地域医療連携

長谷川 信

**

内部障害理学療法研究部会

Regional the Medical Partnership in the Respiratory Physical Therapy

**

群馬大学医学部附属病院リハビリテーション部 (〒 370‒8511 群馬県前橋市昭和町 3‒39‒15)

Makoto Hasegawa, PT: Gunma University Hospital Department of Rehabilitation

キーワード:地域医療連携,呼吸理学療法,呼吸リハビリテーション

Japanese Physical Therapy Association

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呼吸理学療法における地域医療連携 673 吸不全の急性増悪や慢性呼吸不全へ移行する急性呼吸不全で は,廃用を防ぐのみならず療養生活など生活や予後を重視した 介入が重要である。このように呼吸理学療法は,疾病の病気や 予後を予測したうえで介入内容を検討することが重要である。 そのためには,急性呼吸不全や慢性呼吸不全など病態で異なる が,基本的には病態生理を理解し,どのような治療が必要かを 把握することで介入内容や時間の調整が必要である。  また,介入形態は様々であり入院診療の後の外来診療や在宅 療法を進める際には,同一施設による一施設完結型や複数施設 による多施設連携型がある。同一施設での介入では,患者状態 や治療方針など情報共有しやすい環境であるが,多施設連携型 では施設母体が異なる入院と外来での連携や入院と訪問との連 携となり,情報共有が困難な場合が存在する。そして,理学療 法のみならず呼吸リハビリテーションの継続確認や吸入薬確認 など訪問看護師や薬剤師など職域を越えた連携も存在するため に継続性のある理学療法を進めるためには様々な情報を集約し 共有することが必要となる。また,同一施設での介入であって も在宅での療養状態や生活状況を把握することは,患者本人や 家族からの聴取に限られるために医学的視点での客観的な状況 把握には至らない。  理学療法介入には医学的な情報および患者状態,患者背景が 必要な情報である。医学的情報では,予後や進行度などの疾病 状況をはじめ薬物療法や酸素療法などの治療方針は書面などで 確認できる項目であるが,診療以外のほとんどの時間を過ごす 在宅での様子は十分に把握できない。直接,定期的な訪問をす ることで状況把握することが可能であるがすべての医療機関で 対応可能ではない。この問題を解決するためのひとつとして地 域連携が考えられる。地域連携における呼吸理学療法では,在 宅療養下で医学的管理を含め自己管理を患者自身が行うことが 求められ各々の生活,価値観の相違,地域特性などの考慮が必 要となり,療養生活で求めているものを評価したうえで患者視 点の介入が求められる。このような患者に対して Wagner4)は 慢性疾患ケアモデル(図 1)を提唱している。慢性疾患ケアで は地域社会の医療資源や制度の中で医療システムを構築し,自 己管理(セルフマネージメント)支援,ケア提供システムの企 画,意思決定の支援,臨床情報システムの構築によってアウト カム改善が得られると述べており円滑な地域連携はより高いア ウトカムが期待される。  地域医療連携の利点は,医療の連続性を担保でき各施設特性 や関係する医療スタッフの相互補填が可能であり医療機関での 医学的な管理情報と在宅での療養状況を情報交換できる。ま た,必要に応じて各専門性の視点で助言やディスカッションを 行うことができ在宅中心の医療を進める際には有意義である。 一方,欠点となるのは,多施設多職種になるほど情報交換や共 有が困難になる点である。実際に行われている医療連携での情 報交換といえば,紹介先に申し送りや報告書を送付し,その結 果を返事として返信されてくることが多いと思われるが,定期 的な情報確認や直接的な連絡による情報交換は実際的には稀で ある。理想論からいえば,現状は十分でないことはいうまでも ないが,情報交換することが医療連携の目的ではなく必要時に 相互に連絡可能な協力連携体制を構築しておくことが最低限必 要であると考える。 地域医療連携の進め方  地域における医療連携は,各々地域によって形態や運営が異 なる。これは,地域にある医療資源の相違があるために一様 ではない。理学療法の連携としても様々な医療機関に所属し, 各々の専門性をもって診療を行っている。また,在宅で療養す る慢性呼吸不全の患者となれば医師や看護師,薬剤師など他の 医療従事者のみならず介護支援専門員など生活全般をコーディ ネートする職種の関与も必要となる場合がある。このように, 様々な分野や職種が個々に介入することで様々な在宅療養を支 援するサービスの提供が可能であるが,一貫性を担保するため には情報を交換し共有することが重要となる。しかし,時間的 や環境的な問題から理想的な連携を十分に行うことは困難であ る。そこで連携をする医療機関や医療スタッフが事前に治療方 針や介入内容について標準化することが必要となり,各々の立 場で様々な問題点を可視化し,対応策を議論することでアウト カムが明確化され次第に統一化されていく(ブレインストーミ ング)。そして統一し標準化されたアウトカム,評価,介入内 容や進捗状況が確認できるように可視化されたものが地域連携 クリニカルパスという形に表され,パスを運用することにより

図 1 慢性疾患ケアモデル Chronic Care Model

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理学療法学 第 41 巻第 8 号 674 様々な医療従事者が患者状況を把握や介入する際に役立つツー ルとなる(地域連携パス)。  このブレインストーミングや地域連携パスを作成過程におい て,筆者らは約 1 年を費やしたが連携するスタッフ間で施設や 職種を越えて議論することで各々の専門性を相互に理解するこ とができ結果としてシームレスかつ円滑な地域連携による医療 提供が行えるようになった。そして,患者への理学療法介入の 質を高めるのみならず医療者にも充実感が得られたと考える。 また,この地域連携パスは作成することが目的ではなく,円滑 な医療連携が第一の目的なので運用とともに定期的なミーティ ングを継続し必要に応じて修正を加え時勢に見合った連携シス テムを担保することが必要であると考える。 呼吸理学療法における COPD 地域連携の一例  2005 年から群馬県前橋地域(前橋赤十字病院,群馬大学医 学部附属病院,群馬県看護協会訪問看護ステーション前橋)で 開始した呼吸理学療法の地域連携について紹介する。COPD は,進行性慢性疾患であり疾患の管理を進めるとともに生活全 般での活動性維持が重要である。疾患特性から感染などを契機 に急性増悪を繰り返し徐々に機能低下が進むことがあるために 急性増悪を起こさないように運動療法のみならず自己管理でき るような教育的指導が重要であるとされている。しかし,急性 増悪にて呼吸理学療法を開始しても入院期間が限られ入院中に 十分な理学療法実施や患者指導ができないまま退院になるケー スが存在していた。このような背景から前橋地域での COPD 地域連携を構築する契機となった。まずは,各施設特性継続し た呼吸理学療法が行えないことから相互の対応できない部分を 補填する形で開始された。前橋赤十字病院では地域の急性期病 院で急性増悪に対応できる医療機関であったが退院後の通院で の外来理学療法継続が困難であった。一方,群馬大学医学部附 属病院では,通院による外来呼吸理学療法を行うことが可能で あったが急性増悪時の対応が困難であったために,外来理学療 法は群馬大学医学部附属病院で施行し,急性増悪時には前橋赤 十字病院で対応するという各施設の過不足を合わせた地域連携 を試みた(図 2,3)。連携にあたっては相互の理学療法士のみ ならず医師,看護師,薬剤師など多職種の専門職の立場で議論 し,「在宅で運動療法を継続できること」と「急性増悪予防の ために疾病の自己管理が行えること」をアウトカムとして地域 図 2 COPD に対する前橋地域の医療資源 図 3 COPD 呼吸リハビリテーション地域連携の概要

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呼吸理学療法における地域医療連携 675 での患者生活,診療を支える地域連携パスを作成し,継続した 医療の担保と情報共有するツールを整備した。その後,地域連 携を進めていく中で在宅での指導や生活把握について必要性を 認識し訪問看護ステーションの協力を得た。その結果,定期的 な訪問看護で疾病管理を行いながら必要に応じて指導を行い情 報共有できる連携が追加でき,COPD の問題点である急性増悪 について早期発見,早期介入が行えるようになり,急性増悪に よる入院回避が行えるようになった。 地域連携における理学療法士の役割  理学療法士は,呼吸理学療法において呼吸法の習得や排痰方 法の習得,四肢筋力増強や持久力向上,ADL 向上など理学療 法の介入を行うことはいうまでもない。ひとりの理学療法士が ひとつの医療機関で継続的に行える環境である場合は大きな問 題を生じない。しかし実際に臨床を行う地域によっては地域連 携が必要となる場合もあり,その際には呼吸器疾患に関する医 学的な知識,呼吸理学療法の手技に関して診療を進めるうえで 必須なものであるが,それ以上に呼吸器疾患を罹患した患者が 在宅で療養生活するためになにが不足しているかを評価するこ とが重要となる。在宅での療養生活において呼吸を整えること や排痰など必要であるが,以前の生活を振り返り運動の必要性 や安全性を理解し経験させることで運動継続や ADL 維持を進 めることが重要である。そのためには「呼吸機能障害で動けな い」という考えから「日常生活を維持するために動く」とい う「行動変容」が必要である。Bureau ら5)は,行動変容を重 視したセルフマネジメント支援を実践し,医療費削減や QOL 向上などの効果を上げていることからも医療者は個別の患者教 育,指導など教育支援が必要となり,理学療法手技の介入のみ ならず教育的な精神面のサポートが重要である。  また,呼吸理学療法については運動処方や運動指導など理学 療法士の専門分野であるので診療においてイニシアティブをと る必要があり,他職種の医療スタッフへ知識や技術の指導をす る必要がある。一方,薬物療法や全身管理など理学療法士に とって知識,経験不足がある部分に関しては,他職種より指導 や助言を受けることでより質の高い理学療法の提供につなげる 必要がある。  筆者らの呼吸理学療法の地域医療連携について述べたが,地 域連携モデルのひとつとして参考として捉えていただきたい。 実際の地域連携構築には,各々の地域特性や医療情勢を考慮し た地域連携システムを構築し,運用していくかを考えて連携を 進めることが求められている。この連携により効果的な理学療 法を提供はもちろんのこと,地域の限りある医療資源を最大限 に有効利用することは患者にとっての有益はいうまでもない が,関与する医療従事者や社会全体にも有益になると考えて いる。  理学療法士は疾病や疾患の治療のみならず,地域連携におい て理学療法士のもっている医学的知識,技術,生活コーディ ネータースキルを有効に活用し,疾病管理という新たな分野 (マネージメント)へのパラダイムシフトが必要であり,日本 理学療法士協会で理念6)として掲げている「すべてのひとの 健康と幸福を実現するために,「尊厳ある自立」とその「くら しを守る」という点からも社会から期待されていることを踏ま え,理学療法士は様々な面で活動していかなければならない。 文  献 1) 健康日本 21.http://www.kenkounippon21.gr.jp/(2014 年 11 月 4 日引用) 2) 厚 生 労 働 省  地 域 包 括 ケ ア シ ス テ ム.http://www.mhlw.go.jp/ stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/(2014 年 11 月 4 日引用) 3) 日本病院管理学会学術情報委員会(編):医療・病院管理用語事典. エルゼビアジャパン.2006.

4) Wagner EH: Chronic disease management: what will it take to improve care for chronic illness? Eff Clin Pract. 1998; 1: 2‒4. 5) Bourbeau J, Nault D: Self-management strategies in chronic

obstructive pulmonary disease. Clin Chest Med. 2008; 28(3): 617‒628. 6) 日本理学療法士協会 基本理念.http://www.japanpt.or.jp/about/

about_jpta/06_index/(2014 年 11 月 4 日引用)

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