資
料
産科病棟における早産児を出産した母親の
母乳分泌を促すケアの現状と課題
The current situation and challenges of care to promote breast milk
production for mothers of preterm infants in the maternity ward
田 中 利 枝(Rie TANAKA)
*1, 2堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)
*3, 4 抄 録 目 的 産科病棟での早産児の母親の母乳分泌を促すケアの現状と課題について母親の搾乳実施状況と看護者 によるケアの現状の両側面から探索する。 対象と方法 早産児(在胎週数28,30週)の母親2名の産後1ヶ月間の搾乳実施状況(毎回の搾乳開始時間と終了時 間,1日の搾乳回数,搾乳量,搾乳方法,搾乳場所,搾乳前後の出来事,毎日の気分)を調査し,搾乳 の実態を記述した。また産科病棟で働く経験年数4年目の助産師4名に,早産児の母親の母乳分泌を促 すケアの現状と課題についてフォーカスグループインタビューを実施し,語られた内容を質的帰納的に 分析した。 結 果 母親 2 名の産後 1ヶ月間の搾乳実施状況は,初回搾乳開始時期が分娩後 1 時間よりも遅延していた。 出産当日を除き1日平均搾乳回数は,母親Aが6.83回,母親Bが6.67回であった。両者とも出産後1ヶ月 間で安定的に 1 日 500ml 以上の搾乳量を維持することが困難な状況にあった。また助産師に対して フォーカスグループインタビューを行った結果,早産児の母親の母乳分泌を促すケアの現状および課題 として【暗黙のケア方針】,【帝王切開分娩後の早期搾乳開始の難しさ】,【母親の搾乳リズムを確立させ る難しさ】,【退院後に関わる機会のなさ】,【NICU と連携してケアする困難さ】,【母親の搾乳へのモチ ベーションを維持する難しさ】のカテゴリーが抽出された。 結 論 早産児の母親の搾乳実施状況は搾乳開始時期が分娩後 1 時間よりも遅延し,搾乳回数が不足してい た。産科病棟における母親の母乳分泌を促すケアにはいくつかの困難があり,特に搾乳開始時期の遅延 2018年6月11日受付 2018年10月14日採用 2018年12月25日公開*1聖路加国際大学大学院看護学研究科博士後期課程(St. Luke's International University, Graduate School of Nursing Science, Doctoral
Program)
*2帝京大学助産学専攻科(Teikyo University, Graduate Course of Midwifery) *3聖路加国際大学(St. Luke's International University)
は帝王切開分娩後だけでなく経膣分娩後にも生じており,看護者の認識と実際にギャップが生じてい た。今後はこれらの現状を踏まえ,産科病棟で働く看護者が早産児の母親の母乳分泌を促すケア基準を 設け,早期搾乳開始,頻回搾乳の支援に取り組めるような教育プログラムを開発していく必要がある。 キーワード:母乳分泌を促すケア,早産児,母親,産科病棟 Abstract Purpose
This study reveals obstetric nurses' current situation and challenges to promote breast milk production for mothers of preterm infants, as well as the actual outcome of mothers' status of breast milk expression during the same period of time.
Methods
We surveyed two mothers who gave birth to preterm infants: at 28 and at 30 weeks' gestation. To describe the current situation of mother's breast milk expression we collected the following data: time of starting and ending breast milk expression, frequency of breast milk expression per day, amount of breast milk per day, method of breast milk expression, place of breast milk expression, event before and after breast milk expression, and daily mood during the first month after giving birth. In addition, we conducted a focus group interview with four midwives, each with four years of clinical experience and who worked on the obstetric ward. They were prompted to discuss aspects of their nursing care to promote breast milk production for mothers of preterm infants. The interview content was analyzed using thematic analysis.
Results
With regard to two mothers' status of breast milk expression during the first month after giving birth, we found the times at which the mothers begin breast milk expression to be delayed more than one hour after birth. Except for the birth day, the average frequency of breast milk expression per day of mother A was 6.83 times, and that of mother B was 6.67 times. Moreover, during the first month after giving birth, both mothers had difficulty stabilizing their milk volume to at least 500mL per day. The midwifery focus group results revealed six categories impinging on their care to promote breast milk production for mothers of preterm infants on maternity wards:“implicit care policies”, “diffi-culty initiating early breast milk expression after a cesarean delivery”, “difficulty establishing mothers' rhythm of breast milk expression”, “lack of opportunities to provide care after discharge”, “difficulty providing care in coopera-tion with the neonatal intensive care unit”, and “difficulty maintaining mothers' motivation for breast milk expression”. Conclusion
Mothers of preterm infants had delayed breast milk expression more than one hour after birth. The frequency of breast milk expression was low. Obstetric nurses encountered some barriers in their attempts to provide care to promote breast milk production for mothers. There was a gap in the recognition of nurses and practice especially, for the first time starting breast milk expression. We found the time at which not only the mother of cesarean section but also of vaginal delivery begins breast milk expression to be delayed. Building on the findings from this research, the next phase is to develop an educational program that enables nurses working on obstetric wards to set the standard of and provide care to promote breast milk production such as early and frequent breast milk expression for mothers of preterm infants.
Key words: care to promote breast milk production, preterm infant, mother, maternity ward
Ⅰ.緒 言
近年,わが国の子どもの出生数が減少しているにも 関わらず,早産の割合は増加傾向にあり,1980 年に は 4.1% のところ,2015 年には 5.6% である(厚生労働 省,2017)。一方で,早産が母親の心的外傷になる, 母子分離により愛着形成障害が生じる,育児負担や不 安要因が継続するなど,母親が抱える育児困難から (厚生労働科学研究「周産期ネットワーク:フォロー アップ研究」班,2007),早産児の母親への適切な育 児支援が求められている。 その中でも,母乳育児における搾乳は,出産後すぐ に開始でき,母親の子どもに何かをしてあげたいとい う願望をかなえ,母親である自分にしかできない役割 を持つことを可能にする(堤他,2010)。また,母乳 は消化されやすく,感染症を予防する免疫物質,認知 機能を高める成長促進因子やホルモンを含み,早産児 の予後および成長に多くのメリットがある(大山,2010)。よって,看護者が母親の母乳分泌を促すこと は,早産母子にとって,重要な支援である。 しかしながら,2007~2008年の国内112施設の母乳 育児支援に関する実態調査においては,「出産後6時間 以内」に母乳育児指導を行っている施設は約1 割であ り,出産後の最初の指導において,約 2~3 割の施設 は,母乳の利点,乳汁産生を促す方法,用手搾乳法の 指導を実施していなかった(横尾他,2008)。また“専 門的な知識をもつスタッフが少ない”, “基準やマ ニュアルが整備されていない”という課題を抱えてい た(横尾他,2008)。 そ の よ う な 実 態 か ら, NICU(Neonatal Intensive Care Unit)に入院した新生児のための母乳育児支援ガ イドライン(横尾他,2010)において,母親の母乳分 泌量確保のために“出産後6時間以内の搾乳開始”,“1 日 8 回以上の搾乳”が推奨され,“産後 7~10 日間に 1 日500ml以上の母乳分泌が得られるとその後の分泌維 持が容易”と説明された。しかしながら,それ以後の 実態調査においても,“出産後6時間以内の搾乳開始” ができていない(立木他,2011),“1 日 8 回以上の搾 乳”ができていない(井口他,2016;立木他,2011), 母親の母乳分泌量が少ない(立木他,2011)という状 況である。 このような母親の搾乳の実態から,看護者により, ガイドラインに基づいた母乳育児支援が十分に実施さ れているとは言えない。また,NICUの看護者の立場 からの母乳育児支援に関する実態は示されているが, 主に母親の搾乳開始を支援するのは,産科側の看護者 であり(横尾他,2008),産科側の看護者が抱えてい る現状および課題を探索する必要がある。 そこで,本研究では,産科病棟における,早産児を 出産した母親の母乳分泌を促すケアに関する現状およ び課題について,母親の搾乳実施状況と看護者による ケアの現状の両側面から探索することとした。
Ⅱ.研 究 方 法
1.母親の調査 1)研究参加者 看護者と同様の施設(1 施設)において,在胎週数 24週以上 34 週未満の早産児を出産し,子どもを母乳 で育てるために搾乳を実施しており,産科病棟に入院 中の母親とした。早産児のNICUにおける栄養管理に おいて,経管栄養から経口栄養への移行は 34 週以降 に検討される(細井他,2017)。直接母乳が可能にな るまで搾乳を継続する必要のある母親を想定した場 合,早産児のなかでも在胎週数 34 週未満という基準 を設けることとした。また,児の予後が重篤である可 能性を考慮し,22~23 週は除外することとした。研 究協力施設において,2014 年度の極低出生体重児お よび超低出生体重児の患者数は約 20 名であり,調査 期間中(2017年6~10月)に約8名の参加者がおられる ことが想定できたが,産後の身体の回復が順調でない 母親を除き,紹介していただくことができた母親は4 名であった。そのうち 2 名の母親からは,1ヶ月間に わたる調査が負担であるという理由により,同意が得 られず,同意を得られたのは2名であった。 2)データ収集方法 母親の入院中に,母子の属性(年齢,産科歴,分娩 様式,母乳育児の意思決定時期,母乳育児の継続希望 期間,搾乳に関するストレス,搾乳支援に関する満足 度,児の在胎週数,出生時体重)に関する質問紙への 回答,産後 1ヶ月間にわたる搾乳の記録(毎回の搾乳 開始時間と終了時間,1日の搾乳回数,搾乳量,搾乳 方法,搾乳場所,搾乳前後の出来事,毎日の気分)を 依頼した。搾乳に関するストレスは,一番強くストレ スを感じたときを 10 点とすると,搾乳によるストレ スは何点であるか,搾乳支援に関する満足度は,大変 満足しているときを 10 点とすると,産科病棟の看護 者によるサポートへの満足度は何点であるかを質問し た。出産後から研究協力に同意するまでの期間の搾乳 状 況 に つ い て は, 母 親 が 記 録 を 残 し て い た た め, 遡って記入してもらった。 3)データ分析方法 質問紙調査に基づき,研究参加者の属性を記述し た。また,研究参加者ごとに,搾乳の記録に基づき, 搾乳状況を記述した。 2.看護者の調査 1)研究参加者 地域周産期母子医療センター1施設の産科病棟で働 いており,早産児を出産した母親へのケアに3年以上 従事した経験のある看護師または助産師とした。研究 協力施設に,この基準を満たす看護師または助産師 4~5名の紹介を依頼し,経験年数4年目の助産師4名 をご紹介いただいた。母親の入院中は,複数の看護者 が交代でケアを実施しており,研究参加者となった母 親に実際にケアを提供し,入院中にその母親に行われたケアの全体を具体的に語ることのできる看護者を特 定することは困難であると考えたため,ケアの受け手 と担い手を対応させるようなリクルートはしなかった。 2)データ収集方法 2017年8月に,自作のインタビューガイドを用いて フォーカスグループインタビューを行った。グループ ダイナミクスを活用し,発言内容が広がり,深まるよ うに,個人面接ではなく,フォーカスグループインタ ビューを行うこととした。早産児を出産した母親の母 乳分泌を促すケアに関して,①病棟におけるケアの基 準や手順はどうなっているか,②実際のケアの現状は どうか,③ケアをしていく上で困難に感じていること は何かについて,質問した。約 1 時間程度で実施し, 語りの内容は,研究参加者の承諾を得て,IC レコー ダーに録音した。 3)データ分析方法 インタビュー内容を逐語録に起こし,逐語録を繰り 返し読んで,早産児の母親の母乳分泌を促すケアの現 状および課題に関する内容を語られた言葉のまま抽出 した。次に,それを意味が損なわれないようにコード 化した。さらに,コードの同質性と異質性に基づい て,サブカテゴリーを抽出した。同様に,サブカテゴ リーの同質性と異質性に基づいて,カテゴリーを抽出 した。分析結果の真実性・信憑性確保のため,共同研 究者と分析過程を共有した。また,臨床現場の管理者 に分析結果を報告し,内容の共有を行った。さらに, 3名の看護学研究者から,分析結果の妥当性について スーパーバイズを受けた。 3.倫理的配慮 研究参加者への説明は文書および口頭で行い,書面 で同意を得た。研究への参加は自由意思であり,参加 に同意しない場合も,それによる不利益を受けること はないこと,同意はいつでも不利益を受けずに撤回す ることができることを説明した。聖路加国際大学研究 倫理審査委員会で承認を受けて実施した(承認番 号:17-A002)。
Ⅲ.結 果
1.母親の産後1ヶ月間の搾乳実施状況 1)研究参加者の概要 研究参加者2名の概要について,表1に示す。母親A は初産婦で,在胎週数28週1日の新生児を経腟分娩で 出産した。子どもを母乳で育てようと決めたのは出産 後で,6ヶ月以上12ヶ月未満の期間,母乳をあげ続け ることを希望していた。入院中,搾乳にストレスはそ れほど感じておらず,産科病棟の看護者の搾乳へのサ ポートに大変満足していた。母親Bは経産婦で,在胎 週数30週1日の新生児を帝王切開分娩で出産した。子 どもを母乳で育てようと決めたのは妊娠する前からで, 1年以上の期間,母乳をあげ続けることを希望してい た。入院中,搾乳にストレスは全く感じていなかった。 2)母親Aの搾乳状況 初回の搾乳開始は,児が出生してから2時間17分後 に,助産師が手で開始した。出産後1ヶ月間の搾乳時 間,搾乳回数・方法,搾乳量の推移は,図 1 に示す。 搾乳時間は,産褥 2 日以降は 1 日 100 分以上確保され ていた。搾乳回数は,出産当日は 2 回,産褥 1 日は 3 回,産褥 2 日以降は平均 6.97 回であった。搾乳方法 は,産褥2日の午前中までは助産師の手で行われてい たが,午後から自分の手で搾乳を開始し,産褥 2~4 日は 1 日 1 回,電動搾乳器を使用し始め,産褥 5 日以 降は,手と電動搾乳器を併用して行っていた。搾乳量 は,産褥4日に85.2mlであり,退院後も徐々に増加し ているが,1 日 500ml には満たなかった。搾乳場所に ついては,入院中は病室,退院後は自宅,NICU 面会 時にはNICUで実施していた。 母親 A は,産褥 1 日は「母乳を出す重要性がよくわ からない」と感じていたが,翌日には「搾乳量が増え てきてうれしい」「(子どもに)少しでも与えられたら ・・・」と母乳が出ることが励みになってきていた。 しかし,退院した翌日から「搾乳だけで1日が終わる」 「他のことが何もできない」「搾乳して器具を消毒して いるだけで時間が過ぎ,ゆっくりする間もない」とい う気持ちになり,自分が少し楽になれることを期待し て,電動搾乳器を追加購入していた。また,実母から 家事や搾乳のサポートを受けていた。産褥15日には, 表1 研究参加者(母親)の概要 A B <母親に関する項目> 年齢(歳) 38 37 産科歴 初産婦 経産婦(2 人目) 分娩様式 経膣分娩 帝王切開分娩 母乳育児の意思決定時期 出産後 妊娠する前から 母乳育児の継続希望期間 6~12ヶ月未満 1年以上 搾乳に関するストレス(10点満点) 2 0 搾乳支援に関する満足度(10点満点) 10 6 <子どもに関する項目> 在胎週数 28週1 日 30週1 日 出生時体重(g) 1,250 1,430搾乳による手指や手首の痛みが生じてきていた。産褥 17日には,「眠くて起きられず1日7~8回の搾乳が6回 になってきた」ので「搾乳量がなかなか増えない」と 感じていた。それ以降,「搾乳量が増えないことがス トレス」で「まとまって眠れることがこの先当分ない と思うとうんざりした気分」になっていっていた。テ レビを見ながら搾乳をしたり,家事代行サービスを活 用したり,母乳外来で無理のないよう夜は 4~5 時間 寝てもよいと言ってもらい,少し安心を得るなど,自 分の気持ちに対処していた。 3)母親Bの搾乳状況 初回の搾乳開始は,児が出生してから 19 時間 32分 後に,手で開始した。出産後1ヶ月間の搾乳時間,搾 乳回数・方法,搾乳量の推移は,図2に示す。搾乳時 間は,出産当日,産褥 1日,産褥 8~9日を除き,1日 100分以上確保されていた。退院後,産褥8日に搾乳時 間の減少がみられたが,その後,再び増加していっ た。搾乳回数は,出産当日は0回,産褥1日は2回,産 褥2日は3回,産褥3日以降は平均6.96回であった。搾 乳方法は,1日1~2回,電動搾乳器を使用している日 もあったが,基本的には手搾乳で行っていた。搾乳量 は産褥 4日に 308mlで,その後も徐々に増加し,産褥 10日には1日500mlに到達してはいるものの,その後, 安定的に1日500mlを維持することはできていなかっ た。搾乳場所については,入院中は病室,退院後は自 宅,NICU面会時にはNICUで実施していた。 0 50 100 150 200 250 300 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 産褥日数(日) 0 2 4 6 8 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 産褥日数(日) 手動搾乳器 電動搾乳器+手 電動搾乳器 手 0 100 200 300 400 500 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 産褥日数(日) ※ ※ ※ 搾乳時間(分) 搾乳回数(回) 搾乳量( ml ) 図1 1ヶ月間の搾乳時間,回数・方法,搾乳量の推移(母親A)
↓矢印は母乳外来を受診した日を示す。※実線は先行研究(Hopkinson, et al. 1988;Morton, et al. 2009)およびガイドライ ン(横尾他,2010)に基づく目標値(搾乳時間100分、搾乳回数7回、搾乳量500ml)を示す。
母親Bは,子どもの栄養摂取量や体重の増加を励み に搾乳を継続していた。また子どもとの面会時に, タッチングやカンガルーケアを大切に関わっていた。 産褥12日に「ここ数日母乳の出が悪い」と感じるよう になり,産褥 15 日から 4~5 日に 1 回,母乳外来に 通っていた。図2を見ると,母乳外来に通い始めた頃 を契機に,搾乳時間,搾乳回数が増加していることが わかった。 2.看護者が認識するケアの現状と課題 経験年数4年目の助産師 4名にフォーカスグループ インタビューを行った結果,早産児の母親の母乳分泌 を促すケアの現状および課題について【暗黙のケア方 針】,【帝王切開分娩後の早期搾乳開始の難しさ】,【母 親の搾乳リズムを確立させる難しさ】,【退院後に関わ る機会のなさ】,【NICU と連携してケアする困難さ】, 【母親の搾乳へのモチベーションを維持する難しさ】 の6つのカテゴリーが抽出された。カテゴリー抽出の プロセスについては表 2 に示す。以下に,各カテゴ リーについて説明していく。本文中の【 】はカ テゴリー,< >はサブカテゴリーを示す。 1)【暗黙のケア方針】 【暗黙のケア方針】とは,<病棟で明確なケア基準 がない>中で,助産師たちが<暗黙の了解でケアをし 0 50 100 150 200 250 300 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 産褥日数(日) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 産褥日数(日) 電動搾乳器+手 電動搾乳器 手 0 100 200 300 400 500 600 700 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 産褥日数(日) ※ ※ ※ 搾乳時間(分) 搾乳回数(回) 搾乳量( ml ) 図2 1ヶ月間の搾乳時間,回数・方法,搾乳量の推移(母親B)
↓矢印は母乳外来を受診した日を示す。※実線は先行研究(Hopkinson, et al. 1988;Morton, et al. 2009)およびガイドライ ン(横尾他,2010)に基づく目標値(搾乳時間100分、搾乳回数7回、搾乳量500ml)を示す。
ている>,<試行錯誤しながらケアを行う>状況で あった。具体的には,出産後の乳頭刺激開始時期,搾 乳器の使用,搾乳に関するケア手順,搾乳方法に関す る母親への指導内容などについて,病棟全体での明確 なケア基準は設けられていなかった。そのような中 で,事例カンファレンスを通して搾乳は3時間おきと いう共通認識を持つ,母乳の勉強会で先輩方から教わ り学んだことを実践する,迷ったときは先輩に相談す るなど,チームでぼんやりとした方針を形成しつつ も,助産師たちは暗黙の了解で,試行錯誤しながらケ アを行っていた。 2)【帝王切開分娩後の早期搾乳開始の難しさ】 【帝 王 切 開 分 娩 後 の 早 期 搾 乳 開 始 の 難 し さ】と は,<最初の搾乳は助産師が手で乳頭刺激することか ら始めている>が,<早産では帝王切開分娩が多く身 体が辛そう>で,<帝王切開分娩の場合,分娩後1時 間以内の搾乳が難しい>という状況であった。出産当 日は助産師が搾乳を介助し,しっかり指で刺激して乳 頭を柔らかくするケアを行っていた。早産の場合は帝 王切開分娩になることも多く,そのような場合の乳頭 刺激は,帰室してから早くて 2~3 時間後になってし まい,経腟分娩の場合は,分娩後1時間以内には必ず 乳頭刺激をしているのに,帝王切開では乳頭刺激を1 時間以内にすることは難しい状況であった。 3)【母親の搾乳リズムを確立させる難しさ】 【母親の搾乳リズムを確立させる難しさ】とは,母 親の状況に合わせて<持続可能な搾乳回数を検討しな ければならない>,<積極的に時間をみて搾乳できな い母親への関わりは大変>,<帝王切開分娩後は搾乳 リズムが確立しにくい>という状況であった。助産師 たちは3時間おきの搾乳を勧めているが,体調不良や 上子の育児など,退院後の生活において3時間おきの 搾乳が困難な場合は,継続可能な搾乳回数を母親と検 討しなければならない状況や,積極的に時間をみて搾 乳できない母親に関わる大変さを抱えていた。また, 帝王切開分娩後の母親の搾乳は,身体の回復に時間を 要し,助産師の介助が必要なため,人手不足も重な り,産褥 1日くらいからしか 3時間おきの搾乳に近づ けることができない状況が生じていた。 4)【退院後に関わる機会のなさ】 【退院後に関わる機会のなさ】とは,<早産事例を 母乳外来で担当する機会はあまりない>,<退院後の 母親に関わることはあまりない>という状況であっ た。助産師たちは母乳外来で退院した早産事例に関わ ることがあまりなく,母親の退院後はノータッチに なってしまうため,母親の退院後の状況がわからない もどかしさを感じていた。 5)【NICUと連携してケアする困難さ】 【NICUと連携してケアする困難さ】とは,<実践し ているケアをお互いにしらない>,<密な情報共有が で き て い な い>,<母 乳 へ の 関 心 度 に 差 が あ る>,<病棟編成や配置によって連携の難しさが生じ ている>という状況であった。助産師たちは,NICU における母親の様子,スタッフの授乳への関わりを見 る機会がなく,また産科で行われているケアをNICU も知らないということはもったいないと感じていた。 NICUでは,お母さんが来なければ(母乳が間に合わ なければ)人工乳をこちらであげますということが多 く,産科の助産師が持っている母乳に対する意識とは 異なり,NICUスタッフは母乳に関心がないように感 じていた。さらに,NICUとの物理的距離から,母児 の様子を見に行けないなど,病棟編成やスタッフの配 置による連携の難しさが生じていた。 6)【母親の搾乳へのモチベーションを維持する難しさ】 【母親の搾乳へのモチベーションを維持する難しさ】 とは,<比較的前向きに頑張る母親が多い反面そうで ない母親もいる>,<母親が前向きに搾乳できるよう な関わりを試行錯誤する>,<母子分離や母乳分泌不 足が搾乳意欲を低下させる>という状況であった。子 どもを育てるのに人工乳でいいですという母親はあま りおらず,頑張って搾乳を子どもに届けてあげたい, 今の私にできることは母乳を届けることだと,気持ち を切り替え,前向きに搾乳に取り組む母親が多い。一 方で,生まれるべき時期でないのに子どもが生まれた ことに加えて,母乳まで出て,落胆する母親もいる状 況であった。そのような中,助産師たちは,直接母乳 を目指して搾乳を継続していることを意識できるよう な関わり,母親が頑張っていることを賞賛するような 関わり,赤ちゃんの写真を部屋に置くなど前向きに搾 乳できるような環境を整える関わり,搾乳に対する達 成感が得られるように搾乳ダイアリーを活用するな ど,母親が前向きに搾乳できるような関わりを試行錯 誤していた。しかしながら,母乳分泌が得られないこ とから,搾乳の意味がないと感じる母親もおり,助産 師たちは,退院後の長期間の母児分離状態はさらに搾 乳継続のハードルを上げるのではないかと,搾乳のモ チベーションを保つ難しさを感じていた。
表2 早産児の母親の母乳分泌を促すケアの現状および課題 カテゴリー サブカテゴリー 主なコード 暗黙のケア方針 病棟で明確なケア基準がない 乳頭刺激開始時期は決まっていない,搾乳器使用について病棟の基準はない,ケアの手順に決まりはない,搾乳方法について説明する内容は決まっていない,ケアの基準 や手順に決まりはない 暗黙の了解でケアをしている 事例カンファレンスで先輩方から教えていただき搾乳は 3 時間おきという共通認識が ある,実践していることは母乳の勉強会で先輩方から教わり学んだこと,搾乳器を使 用した方がいいかどうか迷うときは先輩に相談している,暗黙の了解のようにチーム でぼんやりとした方針はある 試行錯誤しながらケアを行う 乳頭を刺激することを目的に搾乳器を使うこともある,母乳分泌が増えて、搾乳器に 反応するようになってから使うこともある,搾乳を介助しながら、搾乳の手技やポイ ントについて説明している,搾乳を介助しながら、徐々に自分でできるように関わっ ている,可能な場合は妊娠中に母乳分泌の仕組みや搾乳方法について説明している, 保温や水分補給、バランスのとれた食事について指導している 帝王切開分娩後の 早期搾乳開始の難しさ 最初の搾乳は助産師が手で 乳頭刺激することから始めている 出産当日は助産師が搾乳を介助している,最初は表面だけをポンプする搾乳器は使わず、しっかり指で刺激して乳頭を柔らかくする,最初は用手搾乳から始めている 早産では帝王切開分娩が多く 身体が辛そう 帝王切開分娩後の方は身体が辛そう,帝王切開後は、移動に介助が必要なためなかな か面会に行けない,分娩方法として帝王切開の方が多い,緊急帝王切開分娩では身体 が辛そう 帝王切開分娩の場合,分娩後 1時間以内の搾乳が難しい 帝王切開分娩の場合の乳頭刺激は、帰室してから早くて 2~3 時間後になる,夜中の 緊急帝王切開だと、搾乳開始は人手不足のため、帰室して 2~3 時間後になる,分娩 方法で最初の乳頭刺激時期が異なる,経腟分娩の場合、分娩後 1 時間以内には必ず乳 頭刺激をしている,帝王切開では乳頭刺激を 1 時間以内にすることは難しい 母親の搾乳リズムを 確立させる難しさ 持続可能な搾乳回数を 検討しなければならない 退院後の生活を見据え、どのくらいの頻度なら搾乳が実現可能かを話し合い、ミルク とおっぱいの割合を一緒に考えている,体調不良や上子の育児などで 3 時間おきの搾 乳が困難な場合は、持続可能な回数を母親と検討しなければならない,3 時間おき片 方15 分の搾乳を勧めている 積極的に時間をみて搾乳できない 母親への関わりは大変 積極的に時間をみて搾乳できない母親への関わりは大変だと思う 帝王切開分娩後は搾乳リズムが 確立しにくい 帝王切開分娩後の搾乳は、介助が必要なため、人手不足もあり、産褥 1 日くらいから 3時間おきの搾乳に近づく,分娩方法により 3 時間おきの搾乳リズムになるスピード が違う,帝王切開分娩後は、身体の回復もゆっくりで、搾乳リズムが確立しにくい 退院後に関わる 機会のなさ 早産事例を母乳外来で担当する 機会はあまりない 早産事例を母乳外来で担当する機会はあまりない 退院後の母親に関わることは あまりない 人手不足で、退院後に母親と関わることはあまりない,母親の退院後の状況がわからなくてもどかしい,母親の退院後はノータッチになってしまう NICUと連携して ケアする困難さ
実践しているケアをお互いに知らない 産科でのケアを子やスタッフの授乳への関わりは見たことがないNICUが知らないのはもったいない,NICU ・ GCU における母親の様
密な情報共有ができていない 継続看護の視点で、産科と NICU の密な情報共有が必要だと思う,NICU と母乳に関する情報共有はない,NICU から母親の状態に関する情報共有を求められることはな
い,母親の退院後にNICU のスタッフと情報共有したい 母乳への関心度に差がある NICUのスタッフは母乳に関心はないように思う,NICU では、子どもの成長に重き が置かれていて、産科の助産師の母乳に対する意識とは差があるように思う,NICU では、母乳が間に合わなければ、お母さんが来なければ、人工乳をこちらであげます ということが多い 病棟編成やスタッフ配置によって 連携の難しさが生じている NICUとは物理的な距離もあり、母児の様子を見に行けない,病棟編成やスタッフの 配置によっても連携の仕方は異なる 母親の搾乳への モチベーションを 維持する難しさ 比較的前向きに頑張る母親が多い反面 そうでない母親もいる ミルクでいいですという事例はあまりいない,母乳が出ると、頑張って搾乳してあか ちゃんに届けてあげたいと前向きな発言をする母親が多い,生まれるべき時期じゃな いのに赤ちゃんが生まれ、おっぱいも出て、落胆した母親もいた,今の私にできるこ とは母乳を届けることだと気持ちを切り替える母親もいた 母親が前向きに搾乳できるような 関わりを試行錯誤する 直接母乳を目指して搾乳を継続していることを意識できるように関わっている,身体 が辛い中、おっぱいを頑張っていることを賞賛している,母親のモチベーションを保 つために褒めることを大事にしている,赤ちゃんの写真を部屋に置くなど、前向きに 搾乳できるようにしている,母乳のメリットを伝えるなど、母親がポジティブに搾乳 できるようにしている,前向きな幸せな気持ちで、リラックスしながら搾乳をするこ とを指導している,搾乳に対する達成感が得られるように搾乳ダイアリーを活用して いる,赤ちゃんの様子を想像しながら搾乳することを勧めている 母子分離や母乳分泌不足が 搾乳意欲を低下させる 長期間の母児分離状態は、搾乳継続のハードルを上げていると思う,自宅が遠方の場 合、搾乳のモチベーションを保つことは難しそうに感じる,おっぱいの状態によっ て、搾乳に対する気持ちが変化すると思う,母乳分泌が得られず、搾乳の意味がない と感じる母親もいる
Ⅳ.考 察
1.搾乳開始時期の遅延と搾乳回数不足 産科病棟における看護者のケアの現状と課題におい て,助産師たちは,出産後の搾乳開始時期,搾乳に関 するケア手順について,病棟全体での明確なケア基準 は設けておらず,事例カンファレンスを通して搾乳は 3時間おきという共通認識を持つ,母乳の勉強会で先 輩方から教わり学んだことを実践する,迷ったときは 先輩に相談することなどを頼りに【暗黙のケア方針】 でケアを行っていた。 助産師たちは【帝王切開分娩後の早期搾乳開始の難 しさ】を指摘していた。具体的には,経腟分娩の場合 は,分娩後1時間以内に必ず開始できるが,帝王切開 分娩の場合は,帰室してから早くて 2~3 時間後に なってしまうというものであった。しかしながら,母 親の搾乳状況において,経腟分娩した母親Aは分娩後 2時間後,帝王切開分娩した母親Bは分娩後19時間半 後に搾乳を開始しており,経腟分娩の場合も,帝王切 開分娩の場合も,助産師たちの認識している時間に搾 乳は開始されておらず,搾乳開始時期は遅れていた。 早産児の母親の産後早期の母乳分泌を促していくため には,出産後早期の搾乳開始,搾乳回数・時間の確 保,乳汁生成II期に入るまでの手搾乳が重要であるこ とがわかっている(田中他,2018)。出産後の搾乳開 始については,分娩後 1 時間以内に搾乳を開始する と,産後 1 週間の搾乳量が有意に多い(Parker, et al. 2012;Parker, et al. 2015)ことが示されている。よっ て,経腟分娩の場合は分娩後1時間以内,帝王切開分 娩の場合も帰室してからできるだけ早く搾乳を開始す ることを,病棟のケア方針として確実に実践する必要 がある。 助産師たちは【母親の搾乳リズムを確立させる難し さ】として,母親が積極的に時間をみて搾乳できない 場合や,助産師の人手不足などを指摘していた。母親 の搾乳状況においても,母親A,Bともに1日の平均搾 乳回数は7回に満たない状況であり,特に産後数日は, 1日2~3回しか実施されていなかった。搾乳回数につ いては,産褥2週までは1日7回以上の搾乳を実施する こ と で 多 く の 母 乳 分 泌 量 が 得 ら れ(Morton, et al. 2009),特に出産後3日間は,1日6回以上の手搾乳を すると母乳分泌量の有意な増加がみられる(Morton, et al. 2009)ことが示されている。出産の翌日,母親Aは 「母乳を出す重要性がよくわからない」状況で,その次 の日にようやく,子どものために母乳が出ることを励 みに感じられるということから,出産後すぐに母親が 自立して搾乳を実施することは困難である。そのた め,この時期は,看護者が介助して母親をリードし, 搾乳回数を維持しながら,徐々に自立に向けて支援し ていく必要がある。 搾乳時間については,母親A,Bともに産後数日は 搾乳回数自体が少ないことから,搾乳時間も確保され ていなかったが,産後2日以降,ほぼ1日100分以上は 確保されていた。最適な母乳分泌量を得るためには, 1日 100 分以上の搾乳をすること(Hopkinson, et al. 1988)が必要とされている。産科病棟において,看護 者が搾乳回数の維持に関わることで,搾乳時間は確保 されると思われる。 助産師たちは,母親の搾乳を支援する過程で【母親 の搾乳へのモチベーションを維持する難しさ】を感じ ており,その中には,母乳分泌が得られないことでモ チベーションが下がるなど,搾乳の悪循環につながり かねない状況も生じていた。母親Aが「搾乳量が増え ないことがストレス」と表出していたように,母親に とって十分な母乳分泌量が得られることは,搾乳を継 続する意味づけにもなっていると考えられる。よっ て,母親の搾乳へのモチベーションを維持していくた めにも,母親の母乳分泌を促すケアは重要である。 早産児の母親の母乳分泌に関して,産後1週の母乳 分泌量は,その後の母乳分泌量を有意に反映すること から(Hill, et al. 2005a),産科病棟入院中における母 親への母乳分泌を促すケアは,母親の母乳分泌量の確 保に非常に重要である。今回,産科病棟における看護 者のケアの現状から,看護者が,早産児の母親への母 乳育児支援における自身の役割を理解した上で,母親 の母乳分泌を促すために,出産後1時間以内に早期搾 乳(乳頭刺激)を開始する,搾乳開始から 3 時間おき に 1日7回以上の搾乳回数を維持するというケアを実 践していくことが課題であるとわかった。 2.NICUスタッフとの連携の必要性 産科病棟における看護者のケアの現状と課題におい て,助産師たちは【NICUと連携してケアする困難さ】 を挙げていた。母子に対して実践されているケアをお 互いに知らない,母子についての密な情報共有ができ ていないことなどが課題となっていた。この背景に は,病棟が離れており,スタッフ同士が行き来して, 顔を合わせる機会がないこと,母乳育児支援についての姿勢や意識を共有する機会がないことなどが考えら れた。早産児の母親は退院後も搾乳を継続し,NICU に母乳を届けることになるため,母親が産科病棟に入 院中の搾乳状況,病棟で行われた母乳育児支援につい てNICUのスタッフと密に情報共有を行い,母親への 継続的な支援を行うことができる体制を構築すること は重要である。病棟間で連絡ノートを用いて,母親の 搾乳実施状況,NICUにおける母子面会の様子,産科 病棟における母親の様子,子どもの栄養状況,両病棟 において母子に行われているケアに関する情報交換を 行う,定期的に母乳育児支援に関する勉強会や事例カ ンファレンスを合同で行うなどの工夫が必要である。 また産科病棟の助産師たちは,母親と【退院後に関わ る機会のなさ】により,母親の退院後の状況がわから ないもどかしさを抱えていた。退院後の母親の状況が わかることは産科病棟で母親に行われたケアを振り返 る一助ともなる。そのため,母親の入院中だけではな く退院後の状況についても,NICUのスタッフと情報 共有を行い,助産師たちが,産科病棟で実践している ケアが母親にとってどうであったのかを振り返り,見 直していくことができる機会を持つことも必要である。 母親の母乳分泌量を促すためには,カンガルーケア や母子接触を通して,母子の関係性を深める(Acuna-Muga, et al. 2014; Hill, et al. 2005a; Hill, et al. 2005b;Lau, et al. 2007)ことも重要である。2名の早産 児の母親は,入院中に病室で搾乳をしていた。【母親の 搾乳へのモチベーションを維持する難しさ】の中で, 助産師は,赤ちゃんの写真を部屋に置く,赤ちゃんの 様子を想像することを勧めるなど,産科病棟におい て,前向きに搾乳が行えるような工夫をしていた。子 どもから離れて(自宅や病院の別室)実施した搾乳の量 は,子どもに接近して(カンガルーケア中・後,保育 器のそばなど)実施した搾乳の量より有意に少ない (Acuna-Muga, et al. 2014)と言われることからも,母 親の入院中にはNICUと連携を図り,できるだけNICU で子どもと触れ合いながら搾乳を実施できるような支 援を行うことも大切である。またそのようなケアを行 うことは,母親の搾乳へのモチベーションを維持する 一助にもなる。 3.本研究の限界 本研究は,地域周産期母子医療センター1施設で実 施したものであり,国内における全ての施設の現状と 課題を反映しているとは言い切れない。また,ケアの 受け手である母親とケアの提供者である看護者が対応 するリクルートをしていないため,母親の搾乳実施状 況と看護者が認識するケアの現状が必ずしも合致して いるとは限らない。 NICUに入院した新生児のための母乳育児支援ガイ ドライン(横尾他,2010)では,母乳分泌を促すケア だけではなく,母親を精神的にサポートすること,母 親の母乳育児に関する意思や自己決定を尊重するこ と,母乳育児ができない母親を精神的に支え,必要と する情報を提供することなどについても述べられてい る。本研究においては,早産児にとっての母乳の重要 性,親役割の観点から,母乳育児支援の中でも母乳分 泌を促すケアとして,フィジカルな側面に焦点を当て た。早産児の母親の母乳分泌に影響を与える要因に は,母親の母乳育児に対する意思(Hill, et al. 2005a; Hill, et al. 2005b)や心理状態(Lau, et al. 2007)なども 挙げられており,将来的には,身体的,精神的両側面 から母親を支える母乳育児支援の検討が必要である。
Ⅴ.結 論
産科病棟における,早産児の母親の母乳分泌を促す ケアに関する現状と課題について,母親の搾乳実施状 況と看護者によるケアの現状の両側面から探索した。 母親の搾乳実施状況については,初回搾乳開始時期が 分娩後 1 時間よりも遅延していた。出産当日を除き, 1日平均搾乳回数は,母親 A が 6.83 回,母親 B が 6.67 回であった。両者ともに,出産後1ヶ月間で,安定的 に1日500ml 以上の搾乳量を維持することが困難な状 況にあった。また,助産師にフォーカスグループイン タビューを行った結果,産科病棟における,早産児の 母親の母乳分泌を促すケアの現状および課題として 【暗黙のケア方針】,【帝王切開分娩後の早期搾乳開始 の難しさ】,【母親の搾乳リズムを確立させる難しさ】, 【退院後に関わる機会のなさ】,【NICUと連携してケア する困難さ】,【母親の搾乳へのモチベーションを維持 する難しさ】が抽出された。これらの結果から,産科 病棟では,搾乳ケアに関する明確な基準がなく,母親 の十分な母乳分泌量を確保するための早期搾乳開始, 頻回搾乳が実施されていない現状にあることがわ かった。よって今後は,産科病棟で働く看護者が早産 児の母親の母乳分泌を促すケア基準を設け,早期搾乳 開始,頻回搾乳の支援に取り組めるような教育プログ ラムを開発していく必要がある。謝 辞 本論文を執筆するにあたり,ご協力くださいました 研究参加者の皆様および研究協力施設の皆様に深く感 謝申し上げます。また,ご指導くださいました聖路加 国際大学の大田えりか教授,八重ゆかり准教授,長崎 大学生命医科学域の江藤宏美教授に深く感謝申し上げ ます。さらに,英文抄録についてご指導くださいまし た米国オレゴンヘルスサイエンス大学のSarah E Porter 名誉教授に深く感謝申し上げます。なお,本論文は, JSPS科研費JP26861942の助成を受け,執筆した。 利益相反 本論文内容に関し,開示すべき利益相反の事項は ない。 文 献
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