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特集:AV&通信

「サラウンド音響・最近の話題から」

沢 口 真 生

Masaki Sawaguchi 要 旨 各種調査,アンケート結果に基づいて,最近のサラウンド音響を取りまく動向につ いて述べる。各種調査結果から,サラウンド音響が理論や技術的な手法開拓分野は一段落し,普及 のための環境整備といったいわばソフト面でのインフラ整備の段階にきていることがうかがえる。 キーワード : サラウンド,サラウンドの優位性,ミキシング,アンケート調査,インフラ整備 1. まえがき 前回の R&D(1)では,基礎編として技術面からのサ ラウンド音響について述べた。技術面での最近の動き でいえば高臨場感というキーワードの元で各種高さと 空間印象についての研究や心地よさといった心理面か らの取り組みがなされている。 今回は,最近のサラウンド音響を取りまく動向につい て各種調査,アンケート結果などを中心に述べる。 2. サラウンド音響振り返り ? ステレオ VS サラウ ンド 何がメリットか? ここでは以下のポイントでサラウンドの優位性を 述べる。 ● 我々が日常聞いている聴覚の立体聴取能力 ● 作曲家やアーティストといったクリエータの ツールとしてのサラウンド キャンバス ● ミキシングエンジニアからみた解放されたサラ ウンド空間の優位性 ● 音に浸ることによる心地よさ についてである。 2.1 聴覚検知という観点からみたサラウンドの優位性 私たちの耳は 2 つだから 2CH ステレオの情報で 十分だ!と考えるのは早計と言わなくてはならない。 たしかに耳は 2 つだが,私たちは,水平面 360 度, 上下といったリアルな立体音を聴覚と連携した脳内神 経で関知している。これを考えれば「2CH ステレオが 最高!」というには不足している情報がたくさんある ことに気づくはずである。図 1 には我々が日常さまざ まな生活環境音を立体的に捉えている様子を示した。 図 1 生活環境音の立体的様子 Summary This paper will describe the recent trends in surround sound system based on the results of various investigations on this topic. According to those investigation results, our theoretical analysis of surround sound and the development of the method of reproducing it has been completed. To encourage the use of surround sound systems by many users, the development of contents that effectively reproduce the surround sound is necessary.

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ここでは前方の海岸や波音上方での鳥やヘリコプ ター,後方の都会の喧噪や交通音などが 360 度で聞 こえている様子を示している。しかしこれが 2CH の ステレオ空間へ閉じこめると図 2 に示すように限られ た空間へ全ての情報が凝縮されることになる。 リスナーによってはこの凝縮感と高密度感が好み だ!という声もあるが,純粋な空間認識という観点か らは 2CH ステレオは,「歪んだ空間」と捉えられよう。 たしかに我々の立体認知能力は何万チャンネルという チャンネル数がなければ正確な再現は不可能である が,少なくとも今日の 5.1CH(6CH) や 7.1CH(8CH) 等 といったチャンネル数は,こうした空間情報再現能力 を持っているという点で従来の 2CH ステレオに比べ 優位性を持っているといえる。 2.2 表現者にとってのサラウンド空間の優位性 2つ目に作曲家やアーティスト サウンドデザイナーと いったクリエータからみたツールとしてのサラウンドの優 位性について述べる。音響表現はモノーラルから 2CH ステレオへそしてマルチチャンネル サラウンドへと発 展しようとしている。中国や日本の伝統芸術のひとつで ある水墨画の世界は,墨というモノクロの濃淡によって 描き出される表現芸術である。また油絵の世界はその表 現方法を色彩表現という点で大きく発展させたジャンル でもある。両者に共通しているのは,観察者すなわち客 観視という前提に立った表現手法である。では,ここで 用いているキャンバスを観察者中心に 360 度取りまくよ うなキャンバスの拡大を行うとどんな変化が生じるであ ろうか?観察者は対象と一定の距離をおいて観察する客 観視から自らもその世界の一部となり得る主観視の世界 へと変化する。 これを音響の世界へ当てはめてみると図 3,04 に 示すような構図を描くことができよう。すなわち, 図 2 生活環境音をステレオへの閉じ込めの様子 2CH ステレオという観察者の前面に展開したサウン ドキャンバスから観察者がその中に没入できる 360 度のキャンバスの拡大が可能となり結果客観取聴から 主観取聴の世界へと音響世界が変化することになる。 こうした音響キャンバスを用いて表現者としての 作曲家やアーティストそしてミキシングエンジニアや サウンドデザイナーは,従来では表現できなかった 360 の水平面を縦横に使うことが出来るツールを手 に入れたことになる。これは,表現としてのステレオ キャンバスに限界を感じていた新感覚のクリエータに とって新たな表現世界を構築することができよう。そ のための音響理論や実際のお手本は,こうした新感覚 のクリエータに科せられた大いなる挑戦とパイニアス ピリットによって提示されるものである。360 度とい う拡大された音響キャンバスをいかに効果的に使って 従来にない新たな表現が提示出来たかの進歩がとりも なおさず多くのユーザーの心を捉え,サラウンド音響 という新たな表現領域も健全なビジネスベースで推移 していくことができる。 図 3 2ch ステレオの構図 図 4 サラウンドの構図

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2.3 ミキシングから見たサラウンド音響の優位性 3 つ目としてミキシングから見たサラウンドの優位 性について述べる。図 5 を参照されたい。 ここでは作曲家の意図にもとづいてさまざまな楽 器をもちいた音楽空間が録音ミキシングされている。 これらの要素を全て 2CH のステレオ空間で表現しよ うとすると,お互いの楽器の音色はマスキングという 現象によってかき消されてしまう楽器が生じる。ある いは 2 次元空間のなかでの前後という奥行感を出す ためにメインの楽器や歌とバックを支える楽器群とで は音色や距離感を加工しなければならない。このため にリミッターやコンプレッサー,イコライザーといっ た音色加工を行い空間の整理をしなくてはならなくな る。こうしたマスキングをいかにバランス良く整えス テレオ空間を作るかが「腕のいいミキシングエンジニ ア」と言われてきた。しかしこうして整えられた個々 の楽器の音色は録音した段階から加工により変化して いるのである。加工が少なく無理なく聞こえかつ自然 な音という普段我々が耳にするサウンド空間から見れ ばこれは,「スパイス過剰の食材」と言われかねない。 図 6 に示すようにこれを 5CH のサラウンド空間へと 拡大した場合はどんな変化が生じるであろうか? 同じような音色の楽器でも空間配置をかえて定位 することでマスキングから解放される。各々の再生ス ピーカの役割は大きく減少するため再生負担が少なく なり結果低歪み高再現性が得られ自然なサウンド空間 が再現できる。このように同じような音色の楽器のマ スキングを避け無理のない自然な音色が維持できるこ とと,再生スピーカなど機材面での低負荷による再現 性の向上といった点に技術面から見たサラウンド音響 のメリットがある。 図 5 ステレオでのミキシングの様子 図 6 サラウンド でのミキシングの様子 2.4 心理面からみたサラウンドの優位性 ここでは技術的な特性比較ではなくサラウンド音 響が聴取者に与える心理面での効果について経験をふ まえて述べる。筆者は,最近色々な場所で一般リスナー の方々へサラウンド音響を体験していただく機会を提 供している。ここでは,派手なアクションや戦闘シー ンではなく自然環境音や純アコースティックな音楽な どを主体として再生しているのだが,そこで 20 分程 聞いていると 20%くらいの方々が気持ちのいい眠り の状態へと移っていくという現象が見られたのであ る。当初はサラウンド音響が退屈で寝てしまったのか と心配していたのだが,後で聞いてみると「音に浸っ ているようで気持ちよくなってしまって」といった応 えが返ってくる。動物は生命体となってから母親の子 宮の中で羊水に浸りながら誕生を待っているという源 体験があるではないか?サラウンド空間は,図 7 に示 すように,まさにこの音に浸っている「バスタブ音響」 「 サウンド ミスト 」 を提供しているのである。豊か なサラウンド空間に包まれることで我々はリラックス し,心が解放されるというこれまでの Hi-F 指向とは 図 7 サラウンドの心理効果

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違った心地よさという効果もサラウンドは持ち合わせ ている。 3. 日本オーディオ協会 サラウンド WG ユーザー アンケート結果より JAS 日本オーディオ協会にサラウンド推進 WG が 2006 年に発足した。 これまで,メーカーなど個別の調査はあったもの の,体系的で有意な一般ユーザーのサラウンドに対す る調査結果がなかったことを受けて 2007 年 7 月から 8 月にかけて初めて大規模なアンケート調査を行った 中から概要を紹介する。 調査は WEB にて各性別世代別均等分布無作為抽出 により1000 名のデータを集計した結果である。いわ ば,サラウンド関心層や否定派といった個別嗜好がない ニュートラルな調査データである点が有益といえよう。 大別すると, サラウンド普及環境調査 12 項目 視聴経験の有無      2 項目 視聴したコンテンツ    1 項目 サラウンド放送関連   10 項目 など計 25 項目を調査,サラウンド経験者,未経験者 を問わず均等な回答が出来るような仕組みを考慮して データを得ている。 比 較 参 考 の た め に JAS の サ ラ ウ ン ド URLhttp:// www.jas-audio.or.jp/m/index.php にアクセスしている サラウンドに関心の強いユーザにむけても同様の調査 を行った。こちらは均質データ収集とはいかず,結果 として 600 名から回答が得られた。内訳は性別男性 95%女性 5% 世代分布は 30 代:26% 40 代:36% 50 代:17%といった分布である。 3.1 特徴的な項目から推測できるのは サラウンドという言葉の認識率は,60%。聴いた ことのあるユーザーは 30%である。 自宅での視聴者は 26% AV アンプ保有率は 6%で ある。サラウンドを聴いたことのあるユーザーの印象 は,60%以上で好印象を持っている。音質や重低音 について Hi-Fi オーディオとの比較では 2%のユーザー が悪いと認識している。このデータは,サラウンド関 心層では,7%が悪いと認識している。デジタル放送 でのサラウンド経験は 16%で,今後視聴したいとい う方々は 64%で期待値は高いといえる。一方デジタ ル TV 未設置が 57%と依然高く,視聴方法やサラウ ンド番組情報の入手方法が分からないと言ったサービ ス形態の不十分さも浮き彫りになっている。 サラウンド関心層のデータからは 94%が認知して おり 13%が AV アンプ保有と一般データの倍の数値 が示された。視聴場所も 70%が家庭でと回答してい ることから家庭でのサラウンド環境も整っていること が分かる。デジタル TV の非設置率も 23%と一般に 比べ導入が進みその分サラウンドに関連した情報やソ フトの増大を希望していると言えよう。 3.2 調査結果 以下に一般ユーザー 1000 名からのデータ抜粋とサ ラウンド関心層 600 名からのデータ抜粋を示す。 3.2.1 一般層データ抜粋 質問 1:サラウンドという言葉を知っていますか? 質問 2:サラウンド視聴体験がありますか? 質問 3:聴いた場所はどこですか? 質問 4:どのような機器をお持ちですか? 質問 5:聴かれた印象は? 質問 6:放送でサラウンドを視聴したことがありま すか? 質問 7:未経験の理由は? それぞれの質問の回答結果を図 8 ∼図 14 に示す。 63 % 37 % 0% 10 % 20 % 30 % 40 % 50 % 60 % 70 % 知 って い る 全 く知 らな い 系 列 1 図 8 質問 1 の結果 50% 12% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 聴 い た ことが あ る 聴 い た ことが 無 い 系 列 1 図 9 質問 2 の結果

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3.2.2 関心層データ抜粋 質問 8:サラウンドを視聴したことがありますか? 質問 9:どのような機器をお持ちですか? 質問 10:視聴する場所はどこですか? 質問 11:視聴した印象は? 質問 12:未経験の理由は? それぞれの結果を図 15 ∼図 19 に示す。 27 % 26 % 25 % 24 % 25 % 25 % 26 % 26 % 27 % 27 % 28 % 映 画 館 自 宅 店 頭 系 列 1 図 10 質問 3 の結果 55 % 88 % 84 % 87 % 62 % 2% 62 % 2% 0% 10 % 20 % 30 % 40 % 50 % 60 % 70 % 80 % 90 % 10 0% 感動 臨場 感 広が り感 迫力 音質 音質 悪い 重低 音 重低 音悪 い 系 列 1 16 % 48 % 64 % 0% 10 % 20 % 30 % 40 % 50 % 60 % 70 % 放 送 で 視 聴 した 経 験 が 無 い 経 験 した い 系 列 1 57% 20% 12% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% D-T V 無 い 視 聴 方 法 が 分 か らな い 番 組 情 報 が わ か らな い 系 列 1 図 11 質問 4 の結果 図 12 質問 5 の結果 図 13 質問 6 の結果 図 14 質問 7 の結果 94 % 6% 0% 10 % 20 % 30 % 40 % 50 % 60 % 70 % 80 % 90 % 10 0% 聴 い て い る 聴 い た ことは 無 い 系 列 1 80 % 13 % 12 % 0% 10 % 20 % 30 % 40 % 50 % 60 % 70 % 80 % 90 % 機 器 保 有 率 AV ア ンプ保 有 率 ホ ー ム シ ア ター 保 有 率 系 列 1 3 2% 6 % 1 0% 0 % 5 % 1 0% 1 5% 2 0% 2 5% 3 0% 3 5% 関 連 機 器 保 有 率 A V ア ンプ保 有 率 ホ ー ム シ ア ター 系 列 1 5 0 % 7 0 % 6 2 % 0 % 1 0 % 2 0 % 3 0 % 4 0 % 5 0 % 6 0 % 7 0 % 8 0 % 映 画 館 自 宅 店 頭 系 列 1 図 15 質問 8 の結果 図 16 質問 9 の結果 図 17 質問 10 の結果 図 18 質問 11 の結果 70 % 92 % 87 % 86 % 46 % 7% 60 % 7% 0% 10 % 20 % 30 % 40 % 50 % 60 % 70 % 80 % 90 % 10 0% 感動 場感 広が り感 迫力 音質 音質 悪い 重低 音 重低 音悪 い 系 列 1

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4. JEITA 2007 CEATEC サラウンド体験アンケート 2006 年の InterBEE フォーラムで制作者側とコンスー マー側の連携の必要性を議論した我々は,JEITA サラウ ンド委員会と放送制作者との情報交換を目的としてサラ ウンド放送普及懇談会を 2007 年 6 月に発足した。ここ での大規模な制作側からのアンケート結果から浮かび上 がったのは,個別の放送制作者の情熱だけではサラウ ンド放送の普及に限界があること。推進のためには,業 界全体での取り組みをうながす行動が必要であるとの観 点から経済産業省・総務省などへデモやアピールをおこ なった結果 2007 年 11 月 30 日に総務省のデジタル放 送推進第 8 次行動計画のなかへ初めて制作側と AVメー カー側に対してサラウンド普及と啓蒙のための行動を呼 びかける文言が取り入れられた (詳細は www.somu. go.jp/s-news/2007/071130_5.html 参照)。また 10 月 に開催された CEATEC 2007 において JEITA・NHK に てサラウンド放送体験ルームを設置し同一番組の 2CH ステレオと 5.1CH サラウンドの比較試聴を行った。その 際に来場者へ 10 項目のサラウンドの優位性を行ったの でその概要を紹介する。集計は 406 名,性別では男性 90%女性 10%。世代別では 30 代 40 代 50 代でほぼ 100 名分布である。 設問 1 のサラウンド機器保有率では 21%が設置と JEITA 等の一般ユーザー対象データにくらべ大変高い 数字が出ているのは,こうしたデモに関心があって来 場している結果ではないかと思われる。 設問 2 の同一番組をステレオとサラウンドで比較 視聴した場合の印象結果ではステレオの方が良いとい う回答が 0.6%あった以外は圧倒的にサラウンドが 好まれている結果が出ている。ここから課題として浮 かび上がるのはこうした体験を一般ユーザーが気楽に 出来る場が提供されていないという点である。 設問 3 での結果からもわかるように 70%のユー ザーが実際の経験をしていない。 図 19 質問 12 の結果 設問 4 では,今後自宅をサラウンド環境で聴いて みたいかを質問したが,2%の方々がステレオで十分 と応えた以外は大変前向きである。ここにも導入のた めの普及や啓蒙策の具体化が課題として明らかになっ ているといえよう。 質問 13:サラウンド機器保有率と今後の導入希望 質問 14:ステレオとサラウンドの視聴印象比較 質問 15:いままでのサラウンド視聴経験の有無 質問 16:今後家庭でもサラウンドで聴いてみたい それぞれの結果を図 20 ∼図 23 に示す。 94% 0.60% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% サ ラウ ンドが 良 い ス テレオ が 良 い 系 列 1 2 9 % 7 1 % 0 % 1 0 % 2 0 % 3 0 % 4 0 % 5 0 % 6 0 % 7 0 % 8 0 % サ ラウ ン ド視 聴 経 験 無 い 系 列 1 図 20 質問 13 の結果 図 21 質問 14 の結果 図 22 質問 15 の結果 96 % 2% 0% 20 % 40 % 60 % 80 % 10 0% 12 0% サ ラウ ンドで 聴 きた い 聴 きた くな い 系 列 1 23% 5% 6% 0% 5% 10% 15% 20% 25% D-T V 無 い 視 聴 方 法 が 分 か らない 番 組 情 報 が わ か らない 系 列 1 96 % 2% 0% 20 % 40 % 60 % 80 % 10 0% 12 0% サ ラウ ンドで聴 きた い 聴 きた くない 系 列 1 図 23 質問 16 の結果

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5. 制作側からみた家庭視聴環境調査結果から これはサラウンドで制作し放送されたソフトが一 般家庭では必ずしも理想的なスピーカ配置で視聴され ていないと言う現実をふまえ,果たしてどの程度の許 容範囲内であれば制作者の意図が反映されるのかを評 価実験した内容である。 実験は 2004 年に行われその結果が NHK 深田より 2006 年の InterBEE フォーラムで報告されたので概要 を紹介する。 5.1 評価実験 実験条件 ・実験場所:放送センター CR-601 スタジオ ・被験者:音響技術者 19 名 ・評価法:ITU-R BS-775 基準配置との一対比較 ・ITU-R BS775-1 をリファレンスとし,家庭での スピーカ配置を想定して比較 ・PDP ディスプレイ(50 インチ)によって画像 も提示 ・評価音:実際の 5.1 サラウンド番組(4 番組) 約 10 秒間 「サンプル A」ひとつの音源が視聴者の周 りを回るもの 「サンプル B」 環境音のように音像が均等分 布するもの 「サンプル C」音像定位のある音楽 「サンプル D」響きのある音楽 ・呈示方法:繰り返し 2 回 ・ 再生音圧レベル:70 ∼ 80dB (A ) ・評価尺度:総合的な印象を 5 段階評価 5:基準配置との違いがわからない 4: わかるが気にならない 3: 気になるが邪魔にならない 2: 邪魔になる 1: 非常に邪魔になる ・フロント L-C-R のスピーカ配置の許容範囲 結果:フロントスピーカは,ディスプレイの周辺 であれば配置による差は少ない。図 24 に示す。 ・リアサラウンドスピーカの各種配置と許容範囲 結果:サラウンドスピーカの角度は,90 度∼ 150 度程度まで許容できる。 150 度の場合,スピーカを前向き(画面に向く方向) に設置した方がよい。図 25 に示す。 ・民生 AV アンプのコスト別許容範囲  上位機と一般機の評価結果 これは AV サラウンドアンプの 30 万円クラスと 5 万円クラスを対象に上位機を 100 ポイントとし た場合の音質や空間表現,総合評価を制作した音 響技術者 7 名で 3 つのジャンルを再生し,主観評 価した。その結果, ・ラジオドラマ・映画では,総合評価:62?66 ポイント ・普及機では低域の特性が高級機にくらべ差が L C R L C R L C R L C R 基準配置 配置A 配置B 配置C 図 24 フロントスピーカの配置 ITU-R 基準 リア90度 150度 150度内向き 150度前向き 図 25 リアスピーカの配置

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出たという結果である。 ・クラシック音楽ではポイントは 68-77 ポイント。 これはオーケストラの成分が中高域に多く分布 しているため低域での差が顕著に出なかった結 果であると考えられる。いずれにしても普及価 格帯の機器であれ十分意図した表現が再現でき サラウンド音響を楽しめるという結論である。 ・スピーカ配置の実験結果 以下にリアのスピーカ配置・フロントスピーカ配 置評価実験データを図 26 に示す。 ・AV アンプ  高級機を 100 ポイントとした場合の普及機でのサ ラウンド主観評価結果を図 27 に示す。 ・再生モニターレベルの最適化と家庭における再生レ ベル調査 スタジオ制作側のモニターレベル基準値について は下記の調査表に基づきデータを得ることが出来た。 次の課題は一般家庭における視聴レベルを調査し再生 側と制作側とのバランス許容度について最適化を図ら なければならない。これについては JEITA 等度との 広汎な連携も必要である。モニターレベル調査票を図 28 に,家庭でのテレビ音量調査票を図 29 に示す。 6. InterBEE2007 フォーラム CM サラウンド制作 ∼世界の動向より 毎年放送関連業務機器展示をメインに InterBEE が 11 月に幕張メッセで開催されている。この展示会に 並行して筆者らは 1989 年よりアプリケーションを中 心としたフォーラムを企画開催してきた。2006 年は サラウンド音響について制作者からインストーラ  AV メーカそして JEITA 等の横断的な視点から普及の ための課題の洗い出しを行い,2007 年は,経営の立 場にいる人たちにもサラウンドという観点がプラスに なるのだ!という考えをアピールするため TV CM の サラウンド化について日米欧の取り組みや課題を取り 上げた。 評 価 平 均 ( 全 員 の 集 計 ) 1 .0 0 1 .5 0 2 .0 0 2 .5 0 3 .0 0 3 .5 0 4 .0 0 4 .5 0 5 .0 0 0 5 1 0 1 5 2 0 2 5 3 0 3 5 評 価 値 リアA B C D H フロントA B C リアA:90度 リアB:150度 リアC:150度内向き リアD:150度前向き リアH:150度 H-2.5m フロントA:L-C-Rが下側 フロントB:Cのみ上方 フロントC:L-C-R上方 評価平均 図 26 スピーカ配置評価実験結果 6 4 点 6 2 点 6 3 点 0 2 0 4 0 6 0 8 0 1 00音 質 空 間 的 印 象 総 合 評 価 6 6 点 6 6 点 6 4 点 0 20 40 60 80 100 音 質 空 間 的 印 象 総 合 評 価 6 9点 7 4点 7 4点 0 20 40 60 80 100 音 質 空 間 的 印 象 総 合 評 価 図 27 サラウンド評価結果 (a) ラジオドラマ:音声や効果音の移動 (b) 映画:弓矢の移動 (c) 音楽:クラッシックオーケストラ

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図 29 家庭でのテレビ音量調査票 図 28 放送局用モニターレベル調査票

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日本の広告マーケットは,6 兆円で推移しているが, その中で TV-CM がしめる割合は 33% 2 兆円規模であ る。しかしその広告収益は,わずかだがここ数年 2?3% の収益減少傾向にあり,一方インターネットを媒体と した新たな広告収益は年率 25%という勢いで増大し 2008 年初頭では,ついに雑誌媒体を追い越す勢いで ある。この現象は,10 年程前の,CD 音楽産業 Vs 配 信音楽の初期と大変似た状況に近似している。これを 打開する方策はあるのか?そのためには世界の産業の 変遷を振り返って見ると参考になる。時計産業を例に すると,かつて made in JAPAN のクオーツ時計が登 場すると名門スイスの時計産業は衰退してしまうので はないかと言われた。しかし近年の現状をみると,か れらは手作りやクオリティそして他のブランドとのコ ラボといった新たな戦略を採用することでしっかりと した収益とブランドステータスを確保している。 一方現在,関東 5 局で放送される CM 本数は 1 ヶ 月で約 4,500 本,放送回数は約 126,000 回(2007 年 8 月)。これだけの実績があるにもかかわらず,サ ラウンド CM の放送はほとんど無い。 いままでステレ オ制作された放送コマーシャルの常識は,「他よりラ ウドで,ほかより多く流す」という露出コンセプトで ある。筆者らは,CM も HD 画質と 5.1CH サラウンド というクオリティ CM,そしてレベル競争でなく本来 の素材がもつ声や音楽や SFX が自然に聞こえる CM を提供することでインターネット CM と差別化した CM が成り立つのではないかと考えている。 ここでは,国内からパネラーとして参加した 1991 スタジオが CM サラウンド・デモを東京 名古屋 大 阪で CM 関係者に行い調査した 100 名のアンケート 調査結果を紹介する (図 30 ∼図 34)。 ・調査結果の傾向 これらの調査結果から以下のような傾向が見えて 98% 2% Q 2:サ ラウ ンドは T V C M に 効 果 的 か   Y E S NO  臨 場 感 ひ ろが り 移 動 感 迫 力    低 音    そ の 他     な い ・サ ラウ ンド感 を感 じた ポ イントは (複 数 可 )  臨 場 感 ひ ろが り 移 動 感 迫 力    低 音    そ の 他      な い 図 30 アンケート結果 1 図 31 アンケート結果 2 0% 92% 7% 1% Q 3:T V C M の サ ラウ ンドに 将 来 は あ るか あ る な い そ の 他 AV 機 器 自 動 車 食 品 ハ ウ ス メー カー 通 販 ファッシ ョン 医 薬 品 ス ポ ー ツ 通 信 化 粧 品 流 通 金 融 Q 4:ど ん な 商 品 の C M に 効 果 的 か (複 数 可 ) AV 機 器 自 動 車 食 品 ハ ウ ス メー カー 通 販 ファッシ ョン 医 薬 品 ス ポ ー ツ 通 信 化 粧 品 流 通 金 融 ス タジ オ ミキ シ ング 音 響 効 果 演 出 代 理 店 ス ポ ンサ ー 放 送 局 納 入 方 法 視 聴 者 環 境 制 作 コス ト 制 作 期 間 Q 5:サ ラウ ンドC M 制 作 上 の 課 題 は ( 複 数 可 ) ス タジ オ □□ □ □□ 音 響 効 果 演 出 代 理 店 ス ポ ンサ ー 放 送 局 納 入 方 法 視 聴 者 環 境 制 作 コス ト 制 作 期 間 図 34 アンケート結果 5 図 33 アンケート結果 4 図 32 アンケート結果 3

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参 考 文 献

(1) 沢口:デジタル放送とサラウンド音声∼現状と課題, PIONEER R&D Vol.16,No.2

(2)Effectiveness of height information for reproducing

presence and reality in multiCHannel audio

system AES120th Convention 2006 May 20-23 KIMIO HAMASAKI etal

(3)Wide Listening Area with Exceptional Spatial Sound

Quality of a 22.2 multiCHannel Sound System

AES122nd Convention 2007 May 5-8 KIMIO HAMASAKI etal

(4)JAS サラウンドサウンド WG ユーザーアンケート報 告抜粋 2007?10

(5) 第 2 回サラウンド放送普及懇談会 報告抜粋   2007-11

(6)2006InterB EE フォーラム予稿集 AKIRA FUKADA 他  2006-11 (7) 総務省 第 8 次デジタル放送推進行動計画       2007-11 (8)2007InterBEE フォーラム予稿集 K.KITAMURA 他    2007-11 (9) プ ロ サ ウ ン ド「CM サ ラ ウ ン ド 制 作 の 現 状 」 M.SAWAGUCHI  2008-02 筆 者 紹 介 沢 口 真 生 ( さわぐち まさき ) 研究開発本部 ホームシステム開発センター オーディ オ支援 G。AES,IBS フェロー。JAS,ITE,日本音響学 会会員。オーディオ推進としてパイオニア社内外での オーディオ活性化施策を担当している。 趣味 : テニス 写真撮影 オーディオ JAZZ 鑑賞 サラ ウンドソフト鑑賞 得意分野 : サウンドデザイン ( 特にサラウンドによる表 現,ソフト制作 ) くる。 1. CM のサラウンド音響は,従来の映画や放送本編 にくらべ,より自由なサラウンドデザインが可 能である。 2. CM のサラウンドを否定する関係者は 2?7%と 非常に少ない。 3. CM をサラウンドにして有効なスポンサーの分 野は,AV 家電,自動車,スポーツの 3 分野であ る。何でもサラウンド化すればメリットがある わけではない。スポンサー側でも有効活用の可 能性について研究することが今後は重要である。 ・課題については, サラウンドを有効に使える CM 演出  視聴者環境の整備  制作コスト の 3 点であり,技術的なインフラ整備やミキシングテ クニックについてはすでに整いつつあるという認識で ある。 タイミング良く 2008 年 1 月 30 日にこうした CM サラウンド制作のための研究会が設立され具体活動が 国内でも開始されようとしている。今後の活動を期待 したい(http://www.1991.co.jp/surround_cm/)。 7. おわりに 本稿では筆者らが関係している最近のサラウンド 音響を取りまく動きについて紹介した。研究レベルの 話題ではないが,動向調査といった観点でお読み頂き たい。ここから言えることはサラウンド音響が理論や 技術的な手法開拓分野を一段落して,普及のための環 境整備といったいわばソフト面でのインフラ整備の段 階に来たことが理解いただけるのではないだろうか。 毎年 5 月 1 日を「サラウンドの日」としてその前後 にさまざまな啓蒙活動を横断的に取り組もうという動 きも提起されている。最後に各種データの提供に協力 頂いた関係各位に感謝したい。

図 29   家庭でのテレビ音量調査票 図 28   放送局用モニターレベル調査票

参照

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