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多くの皆さんは日常的に電子レンジを使われていることでしょう。電 子レンジは軍用レーダーを設計販売していた米国レイセオン社が1947年 に販売を開始しました。レイセオン社のレーダー技師であったパーシー L.スペンサーが、機械の調整中にポケットの中のピーナッツ・クラス ター・バーが溶けたことにヒントを得て、食べ物を温める技術に発展し たと言われ、このことはセレンディピティ(偶察力)の例として、たび たび取り上げられます(図1.1)。1949年には電子レンジによるポップ コーンの作り方についての特許が取得され、いかにもアメリカらしい電 子レンジ調理がスタートしました。日本でも1961年には商品名「レー ダーレンジ」として販売が開始されました(図1.2)。販売当初は高価 格と和食文化の壁に阻まれ、20年間はあまり売れない家電の一つでし た。現在では冷蔵庫、洗濯機に次ぐ代表的な家電に成長し、世帯普及率 が98%と言われています。また、電子レンジを使った料理本などがベス トセラーになるほど、私たちの暮らしと密接な関係にある家電に成長し ました。マイクロ波は電磁波の中でも光ではなく電波の仲間に入り、大 きく分けて通信と加熱の用途で使われています。通信は電波に情報を載 せて運ぶため、綺麗な波(周波数、位相、振幅を制御)を使います。一 方、加熱用途では、マイクロ波の出力と効率的な照射方法が重要です。 同じマイクロ波でも、目的用途によって必要なマイクロ波の性質が変わっ てくるので、それに応じたマイクロ波装置を使用しなくてはなりません。 宇宙技術においてもマイクロ波の利用が知られています。例えば、 2005年に小惑星ITOKAWAに着陸した、探査機はやぶさに搭載されて いるイオンエンジンもマイクロ波で駆動しています。また、静止衛星軌 道に巨大な太陽電池を持った衛星を設置し、地上へ電気を送電する構想 (Solar Power Satellite:SPS構想)もマイクロ波技術が必要です(図

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第1章 マイクロ波化学 1.3)。発電した電気を正確に地上へ供給するには、通信分野で培われ た精度の高いマイクロ波送信と加熱分野で進化した大パワー化の最新技 術が融合することで、初めて達成できます。 図1.3 宇宙発電と地上へのマイクロ波送電衛星 (京都大学 篠原真毅教授) SPS構想 地球 地表での給電所 発電衛星 図 1.1 マイクロ波加熱の偶然発見 図 1.2 初期の電子レンジ(レーダーレンジ)(高さ 180cm 重量 340kg)

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マイクロ波が加熱用途で使われる前から、同じ電波の仲間である高周 波を用いた加熱が使われてきました。高周波を使った誘電加熱の特許は 1930年に報告されており、わが国でも欧米の技術が導入された1945年 より様々な実用化が進められてきました。当時の電波を利用した加熱の 期待は高く、1946年には日本学術振興会において、電気、化学、生物 学、生理学、木材などの専門家らによる高周波電気応用第34特別委員 会が設けられ、技術開発に対する活発な議論が繰り返されました。その 後、高周波を用いた誘電加熱は木竹材の乾燥・成型・接着、殺虫、茶葉 の乾燥、金属の焼入れ、繊維分野、ゴムの加硫、化学合成、薬品、ラジ オメスなどの医療分野へ実用化されています。中にはペニシリンの濃縮 乾燥や繭の殺菌にも利用されており、当時の時代背景が反映されていま す。また、ラジオウエルダー(溶かしながら接合する)の開発も進みま した。現在では、ドーム球場の天井に張られているシートの接合には、 欠かせない加熱技術と言われています。このような高周波の活躍の中 で、マイクロ波加熱も様々な応用分野へ発展してきました。 電磁波の一種であるマイクロ波は光速度で移動し、複雑な形状の容器 に入れたサンプルでも瞬間的に加熱することができるため熱伝導の時聞 が不要となります。したがって、既存の熱エネルギーに代わる新エネル ギーとして幅広い分野で使用されてきました。マイクロ波加熱応用の一 部を図1.4にまとめました。環境、医療、フイルム・紙、食品、農業、 インク・塗装、木材などの分野に加え、化学分野でも利用されはじめて います。マイクロ波加熱以外の用途として、半導体の表面加工や人工ダ イヤモンドの合成などに使うプラズマ発生源としても利用されていま す。また、化学で使われる電子スピン共鳴(ESR)も9GHzのマイクロ 波を用いたマイクロ波分光光度器です。軍用通信技術として利用されて

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第1章 マイクロ波化学 きたマイクロ波は、セレンディピティのもとに、戦後民生応用として電 子レンジのような食品加熱装置として生まれ変わり、その技術は様々な 分野へ発展を遂げています。 図 1.4 マイクロ波加熱の応用分野(基礎研究段階も含む) ダイオキシンやPCBの分解 アスベストの無害化 プラスチックの油化・固化 放射性汚染物質の処理 廃油処理 医療性廃棄物の固化 フロンやVOCの分解 排ガス処理 ごみの焼却 バイオマス 廃タイヤのリサイクル 光触媒の促進 マイクロ波励起無電極ランプ 環境 機能性材料合成 ナノ材料の合成 顔料の水熱合成 微粒子コーティング 結晶構造の制御 窒化物の合成 耐火物の乾燥 接合・焼成・水熱 マイクロ波製鉄 金属粉末冶金 炭素化 軽量耐火建材の高速養生 特殊ガラスの加熱・溶融 人工ゼオライト合成 押出し成型ハニカムの乾燥 砂型の乾燥硬化および接着 ロストワックスの溶出 人工骨 無機・金属化学 迅速合成 固相選択合成 無溶媒反応 無触媒反応 有機金属錯体の迅速合成 青酸の合成 塩素化メタンの合成 コンビナトリアルケミストリー 有機化学 ゴム製品の加硫・発泡 高分子合成 加熱加工 分子量コントロール 高分子化学 酵素反応 PCR 実験用ラットの脳の加熱 DNA染色 生化学 不均一触媒(Pt還元触媒など) 均一触媒(鈴木-宮浦クロスカップリングなど) 高品質迅速触媒合成(ゼオライト合成など) 触媒化学 有用成分の抽出・濃縮 炭化処理 酸・アルカリ処理 高速濃縮・高速分解 分析化学 ハイパーサミア 殺菌 筋肉などの加温治療 血管治療・切断 医療 薄膜形成 電子配線の焼成 糊の選択乾燥 フィルム・紙 殺菌、加工、解凍 濃縮 高速炊飯 乾燥・減圧乾燥 酵素・酵母の活性化 食品 接着加工 曲げ加工 薬剤の加熱 木材の乾燥 木材 土壌の殺菌 木材の乾燥 木草の害虫駆除 有害物の抽出・分解 農業 印刷インクの乾燥 塗料乾燥 インク・塗料 マイクロ波加熱の応用分野 マイクロ波化学分野

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化学分野における電磁波とは光を指すことが多く、化学者が光を反応 に使い始めてから数百年以上の歴史が経っています。また、太古の昔か ら植物が光合成によって光触媒反応を行っており、自然界にもありふれ ています。一方、マイクロ波化学という言葉は、国際純正・応用化学連 合(IUPAC)に正式登録はされておらず、これからの学問と言えます。 しかし、マイクロ波を使った化学反応の論文や特許は、この10年で著 しく増加しました。電波は「見たり、聞いたり、触れたり」できないた め、マイクロ波を使った化学と聞くと、難しいように思われますが、私 たちはふだんから電子レンジで食品を加熱しています。 図1.5にはマイクロ波加熱の発表が盛んな特定非営利活動法人 日本電 磁波エネルギー応用学会のシンポジュウムにおける発表分野の分布を示 しています。各マイクロ波の研究の中で化学領域の発表件数が多いこと が分かります。マイクロ波化学の魅力はどこにあるのでしょうか? そ の一つには既存の有機合成などに比べ、反応速度が1桁から3桁短縮さ れるものがあります。数時間かかっていた有機合成を、数分または数秒 に短縮できれば、化学合成の生産性が著しく向上します。陸上の100m 競技では、世界記録を0.1秒縮めるために10年掛かると言われています。 しかし、ウサイン・ボルト選手は1人で10年以上の時間短縮を達成し、 世界中を驚かせました。20世紀には触媒反応を利用することで、化学 反応時間の短縮と生産性の向上が行われてきました。マイクロ波化学は これらをさらに革新的に短縮させることができる手法として期待されて います。マイクロ波による化学反応の特徴を図1.6にまとめました。 マイクロ波による化学反応の促進には、マイクロ波の特殊加熱を理解 し、それを使いこなす必要があります。次節では、マイクロ波加熱と既 存の加熱の違いを明確にし、マイクロ波による特殊加熱の中から、スー

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