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80 武凪沙, 他 態で腰椎のわずかな右側屈により 骨盤を右挙上させ下肢を後方へと振り出す これに対し本症例は 立位姿勢から上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左非麻痺側 ( 以下 左 ) 側屈位を呈し体幹直立位保持が困難となっていた また右股関節 膝関節が左側と比べてより屈曲していることで骨盤右下

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Academic year: 2021

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(1)

日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作時に

転倒の危険性が生じた脳梗塞後右片麻痺患者の

理学療法

武 凪沙

1)

  小松 菜生子

1)

  橋谷 裕太郎

1)

  早田 恵乃

1)

藤本 将志

1)

  大沼 俊博

1, 2)

  渡邊 裕文

1)

  鈴木 俊明

2)

Physical therapy for a patient with right hemiplegia after cerebral infarction

who had a tendency to fall forward in a Japanese dance

Nagisa TAKE, RPT

1)

, Naoko KOMATSU, RPT

1)

, Yutaro HASHIYA, RPT

1)

,

Ayano HAYATA, RPT

1)

, Masashi FUJIMOTO, RPT

1)

, Toshihiro OHNUMA, RPT

1, 2)

,

Hirofumi WATANABE, RPT

1)

, Toshiaki SUZUKI, RPT, DMSc

2) Abstract

We performed physical therapy for a patient who presented with right hemiplegia after cerebral infarction. The patient was a Japanese dancer, and she fell forward toward the right side during a right lower limb backward step movement in a dance. The basic stance of the dance is an upright trunk position with slight flexion of both the hip and knee joints. Furthermore, the right lower limb backward step movement produces right pelvic elevation by slightly lowering lumbar flexion on the right side. The patient had difficulty holding the trunk in the upright position with tilting of the trunk to the right due to the depressed right pelvic position. Moreover, when the patient pulled the right lower limb backward, the trunk tilted to the right due to the persistent depression of the pelvis on the right, with insufficient left lower limb weight shift. Therefore, it was difficult for the patient to maintain an even position during right pelvic elevation due to slight flexion of the lumbar spine to the right side. As a result, the patient tended to fall forward toward the paralyzed right side. Therefore, in physical therapy, we trained the patient to step the right lower limb posteriorly during smooth weight shift to the left side, after gaining an upright trunk position. As a result, the patient showed improved safety and stability during the right lower limb backward step movement. Throughout the course of this case, it was important to understand the performance characteristics of the Japanese dance to understand the right lower limb backward step movement. Evaluation of the problems before and after the onset of cerebral infarction confirmed the need to expand the physical therapy.

Key words: Japanese dance, backward step, longissimus

J. Kansai Phys. Ther. 16: 79–86, 2016

1)六地蔵総合病院 リハビリテーション科 2)関西医療大学大学院 保健医療学研究科

受付日 平成28 年 5 月 11 日 受理日 平成 28 年 7 月 25 日

Department of Rehabilitation, Rokujizo General Hospital Graduate School of Health Sciences, Graduate School of Kansai

University of Health Sciences

はじめに 今回、日本舞踊における右麻痺側(以下、右)下肢の後 方ステップ動作時に、右前方への転倒の危険性が生じ安 全性、安定性の低下を認めた脳梗塞後右片麻痺患者に対 する理学療法を経験した。日本舞踊では両側股関節、膝 関節を軽度屈曲させた体幹直立位を基本姿勢とし、右下 肢の後方ステップ動作時には、体幹直立位を保持した状

第 15 回 関西理学療法学会症例研究学術大会 大会長賞論文

(2)

80 武 凪沙,他 態で腰椎のわずかな右側屈により、骨盤を右挙上させ下 肢を後方へと振り出す。これに対し本症例は、立位姿勢 から上位胸椎部屈曲位、胸腰椎移行部屈曲、左非麻痺側 (以下、左)側屈位を呈し体幹直立位保持が困難となって いた。また右股関節、膝関節が左側と比べてより屈曲し ていることで骨盤右下制位による体幹右傾斜を認めてお り、さらに左後足部は回外位を呈していた。そして右下 肢を後方へと振り出す際には、常に骨盤右下制位による 体幹右傾斜を呈し、左後足部回外位であるために左下肢 への体重移動が不十分となり、腰椎のわずかな右側屈に よる骨盤右挙上も困難であった。そのため左股関節屈曲 および内転による体幹が右前方傾斜しようとする働きが 増強し、転倒の危険性を認めていた。理学療法では、ま ず体幹を直立位保持させ、さらに右股関節伸展を促すこ とで、骨盤右下制位による体幹右傾斜を改善し立位姿勢 を獲得させた。そして、脳梗塞発症前から認めていたと 考えられる左後足部回外位を改善し、より円滑な左側体 重移動に伴う右下肢の後方ステップ動作練習をおこなっ た。その結果、日本舞踊における右下肢の後方ステップ 動作の安全性、安定性が向上し、退院後の公演会にて日 本舞踊を披露することが可能となった。そこで今回、本 症例に対する理学療法経過について考察をふまえて報告 する。なお、本論文の作成に関して趣旨を症例に説明の うえ、同意を得た。 症例紹介 本症例は平成X 年 2 月に脳梗塞(左放線冠)を発症し、 右片麻痺を呈した80歳代前半の女性であり、職業は日本 舞踊家である。脳梗塞発症後、他院にて約6 週間リハビ リテーションをおこなったのち、当院の回復期リハビリ テーション病棟に転院されリハビリテーションを継続 する運びとなった。発症前の日常生活活動(Activities of Daily Living : 以下、ADL)としては、平成X-20年より 左膝関節に内反変形を認めていたが独歩は可能であった。 しかし、平成X - 3 年から左膝関節の内反変形が増強す るとともに左膝に疼痛が出現し、歩きにくさを認めるよ うになり、移動時には伝い歩きまたは歩行車歩行となっ た。また日本舞踊においても、徐々に踊りにくさを認め るようになっていた。そして当院でのリハビリテーショ ン開始時は、脳梗塞を発症したことにより発症前は可能 であった伝い歩きが困難となり、歩行車歩行においては 介助を要していた。そのため約8 週間の当院での理学療 法経過にて、両下肢および体幹筋の筋緊張改善と、脳梗 塞発症前から認めていた左膝関節の内反の軽減により疼 痛が消失したことで屋内での伝い歩き、さらには短距離 であれば独歩も可能となり、院内でのADLは概ね自立と なった。そこで本症例より「もう一度踊りたい」という 新たな希望が聞かれ、さらにご家族からも「もう一度舞 台で踊ってほしい」との希望があがり、日本舞踊の動作 観察をおこなったところ、右下肢を後方へと振り出す際 に右前方への転倒の危険性を認めた。このため、日本舞 踊において右下肢の後方ステップ動作に続く方向転換が できず、踊りきることが困難となっていた。また本症例 からも「右脚を後ろに上手く引けない」との訴えが聞か れた。そこで今回、退院後の公演会で踊ることを目的に、 ニードを「日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作 の安全性、安定性の向上」とし、理学療法評価を実施した。 理学療法評価 まず日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作を評 価するにあたり、日本舞踊の正常動作を把握することを 目的に、本症例およびご家族から日本舞踊の動作につい ての情報収集をおこない、脳梗塞発症前の日本舞踊を動 画にて観察した。動作観察より、日本舞踊の正常動作で は両側股関節、膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位を基 本姿勢とし、衣装にしわを作らないために動作中は常に 股関節の内転、外転、内旋、外旋および体幹の側屈、回旋 を最小限にする必要があることが確認された。そして右 下肢の後方ステップ動作時には、支持側の左足関節背屈、 後足部、前足部回外により足底内側を離床しながら下腿 を前外側傾斜させ左側体重移動をおこない、腰椎のわず かな右側屈による骨盤右挙上および遊脚側の右股関節伸 展により右下肢を後方へと振り出す(図1)。つぎに日本 舞踊の正常動作をふまえたうえで、本症例の日本舞踊に おける右下肢の後方ステップ動作を観察した。まず立位 姿勢から上位胸椎部屈曲位、胸腰椎移行部屈曲、左側屈位 で体幹直立位保持が困難であった。加えて両股関節、膝関 節は屈曲位を呈し、右股関節、膝関節が左側と比べてよ り屈曲していることで、骨盤右下制位による体幹右傾斜 を呈し、骨盤の水平位保持は困難となっていた。さらに 左膝関節は内反位を呈し下腿は外旋、外側傾斜位で、左 後足部は前足部に対して回外位を呈していた(図2)。こ の立位姿勢より予測される問題点として、上位胸椎部屈 曲位、胸腰椎移行部屈曲、左側屈位を呈し体幹直立位保 持困難となっていることから、胸腰部伸展、右側屈の関 節可動域(Range of Motion:以下、ROM)制限、両側最長 筋、右外腹斜筋縦線維の筋緊張低下、腹直筋上部線維、両 側外腹斜筋斜走線維、左外腹斜筋縦線維、腸肋筋の筋緊張 亢進が予測された。また両股関節、膝関節は屈曲位を呈し、 右股関節、膝関節が左側と比べてより屈曲し骨盤右下制 位による体幹右傾斜を呈していることから、右股関節伸 展、膝関節伸展のROM制限、右大殿筋下部線維、腸腰筋、 大腿四頭筋の筋緊張低下、右腸腰筋、大腿直筋の筋緊張 亢進、右股関節、膝関節の深部感覚障害が予測された。さ

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らに左後足部は前足部に対して回外位であり、下腿が外 側傾斜位を呈していることから、左足部外がえしのROM 制限、左長腓骨筋の筋緊張低下、左後脛骨筋、長母趾屈筋、 長趾屈筋の筋緊張亢進が予測された。つぎに日本舞踊に おける基本姿勢をとっていただくと、上記の立位姿勢と 同様の姿勢であった。基本姿勢より右下肢の後方ステッ プ動作時には、右下肢を後方へと振り出す際の腰椎のわ ずかな右側屈による骨盤右挙上が困難であった。さらに 支持側である左下肢への体重移動時に、左足関節背屈に 加え左後足部の過剰な回外を伴う下腿外側傾斜が増強し ていた。加えて左足関節底屈による下腿後傾および左股 関節屈曲による体幹前傾、さらには遊脚側の右股関節伸 展、膝関節屈曲にて右下肢を後方へと振り出していた。こ のとき立位姿勢から続く左股関節内転位の状態で左股関 節屈曲、内転による体幹が右前方傾斜しようとする働き が増強し、転倒の危険性を認め安全性、安定性が低下し ていた(図3ab)。この右下肢の後方ステップ動作時に予 測される問題点としては、立位姿勢から予測された問題 点に加えて、腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上が 困難であったことから、右外腹斜筋縦線維、内腹斜筋斜 走線維、腰方形筋、腸肋筋の筋緊張低下が予測された。加 えて左側体重移動時にも常に左股関節内転位で体幹右傾 斜位を呈していたことから、左中殿筋の筋緊張低下が予 測された。さらに右下肢を後方へと振り出す際に、左股 関節内転位の状態で左股関節屈曲が増強し、体幹の右前 方傾斜が生じていたことから左大殿筋、腸腰筋の筋緊張 図 1 日本舞踊の正常動作 両側股関節、膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位を基本姿勢とし、衣装にしわを作らないために動作中 は常に股関節の内転、外転、内旋、外旋および体幹の側屈、回旋を最小限にする必要があることが確認さ れた。そして右下肢の後方ステップ動作時には、左図のように支持側の左足関節背屈、後足部回外により 足底内側を離床しながら下腿を前外側傾斜させ左側体重移動をおこない、中央図および右図のように腰 椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上および遊脚側の右股関節伸展により右下肢を後方へと振り出す。 図 2 立位姿勢 左図は前方から見た立位姿勢を、右図は後方から見た立位姿勢 を示す。上位胸椎部屈曲位、胸腰椎移行部屈曲、左側屈位で体幹 直立位保持が困難であった。加えて両股関節、膝関節は屈曲位 を呈し、右股関節、膝関節が左側と比べてより屈曲しているこ とで、骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈し、骨盤の水平位保 持は困難となっていた。さらに左膝関節は内反位を呈し下腿は 外旋、外側傾斜位で、左後足部は前足部に対して回外位を呈し ていた。

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82 武 凪沙,他 低下が予測された。以上の姿勢および動作観察より、予 測された問題点に対して検査測定をおこなった結果、筋 緊張検査における低下筋は、両側最長筋であり、右側が より低下していた。加えて右外腹斜筋縦線維、大殿筋下 部線維も筋緊張低下を認めた。また亢進筋は、腹直筋上 部線維、両側のうちとくに左側の外腹斜筋斜走線維、左 後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋であった。さらにROM 検査については、胸腰部伸展–20°とROM制限を認めてい た。なお胸腰部右側屈15°、右股関節伸展5°、右膝関節伸 展–10°、左後足部外がえし15°に関してROM制限は認め たものの、今回の日本舞踊の動作に必要なROMは獲得さ れていることから機能障害として考えなかった。そして 感覚検査においては右股関節、膝関節の深部感覚に問題 を認めず、また右下肢の運動機能の評価としてフューゲ ル-マイヤー運動機能評価をおこなったところ、股関節お よび膝関節、足関節の項目は28/28点であり、右下肢の分 離運動は検査上では充分に可能な状態であった。 問題点の整理 以上の理学療法評価により、本症例は立位姿勢から両 側最長筋においてとくに右側の筋緊張低下が著明に認 められたことから、上位胸椎部屈曲位、胸腰椎移行部屈 曲、左側屈位を呈し体幹を直立位に保持することが困難 であると考えた。また上位胸椎部屈曲位、胸腰椎移行部 屈曲、左側屈位を呈することで、常に左側腹部の胸郭と 骨盤間の距離が狭くなっていたと考えた。そのため、腹 直筋上部線維および両側のうちとくに左側の外腹斜筋斜 走線維は常に短縮した状態となり、筋緊張亢進が生じて いると考えた。以上より、本症例が立位姿勢から上位胸 椎部屈曲位、胸腰椎移行部屈曲、左側屈位を呈している 主要問題としては、両側最長筋の筋緊張低下であると考 えた。そして上位胸椎部、胸腰椎移行部が屈曲位を呈し 体幹直立位保持が困難であることに対し、両股関節、膝 関節を屈曲し両膝を前方に位置させ、殿部を後方変位さ せることで重心を支持基底面内にとどめていると考えた。 しかし右大殿筋下部線維の筋緊張低下により、右股関節 が左側と比べてより屈曲することで、それに伴い右膝関 節がさらに屈曲し右膝がより前方に位置した結果、骨盤 右下制位による体幹右傾斜を呈し骨盤の水平位保持が困 難となり、左側体重移動時には左下肢への体重移動が不 十分となっていると考えた。また左後脛骨筋、長母趾屈 筋、長趾屈筋の筋緊張亢進により、立位姿勢から左後足 部は前足部に対して回外位を呈し、下腿は外側傾斜位と 図 3 右下肢の後方ステップ動作 aの左図、bの左図のように、支持側である左下肢への体重移動時に、左足関節背屈に加え左後足部の過剰な回外を伴う下腿外側 傾斜が増強していた。またaの右図、bの右図のように、右下肢を後方へと振り出す際の腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙 上が困難であった。加えて、左股関節内転位での支持側の左足関節底屈による下腿後傾および左股関節屈曲による体幹前傾、さ らには遊脚側の右股関節伸展、膝関節屈曲にて右下肢を後方へと振り出していた。このとき左股関節内転位の状態で左股関節屈 曲、内転による体幹が右前方傾斜しようとする働きが増強し、転倒の危険性を認め安全性、安定性が低下していた。

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なっていると考えた。そのため左側体重移動時には、左 後足部回外による下腿外側傾斜が過剰に生じていると考 えた。さらにこのとき、常に左股関節内転位で体幹右傾 斜位を呈していたが、検査測定結果より左中殿筋の筋緊 張に問題は認められなかった。よって左後足部回外によ り下腿外側傾斜が過剰となることに対して、左股関節内 転位で体幹を右傾斜させておくことで、左側への過剰な 体重移動を制動していることも考えられた。しかし本症 例は脳梗塞発症前から踊りにくさを自覚しており、左膝 関節の内反変形により当時から下腿は外旋、外側傾斜位 で、左後足部が前足部に対して回外位であったことが予 測された。このことから、左後足部回外位を生じさせて いる左後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋の筋緊張亢進は、 脳梗塞発症前から存在する機能障害であると考え、下位 の問題点とした。そして右股関節、膝関節が左側と比べ てより屈曲し骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈してい ることで、左下肢への体重移動が不十分となり、さらに 右外腹斜筋縦線維の筋緊張低下により、腰椎のわずかな 右側屈による骨盤右挙上がより困難となると考えた。こ のため、積極的に支持側の左足関節を底屈し下腿を後傾 することで後方へと体重移動し、同時に左股関節屈曲に よる体幹前傾と遊脚側である右股関節伸展、膝関節屈曲 により右下肢を後方へと振り出していると考えた。この とき立位姿勢から続く左股関節内転位の状態で左股関節 屈曲、内転による体幹が右前方傾斜しようとする働きが 増強し転倒の危険性を認め、動作の安全性、安定性が低 下していると考えた。 以上より、本症例の日本舞踊における右下肢の後方ス テップ動作の安全性、安定性を向上させるためには、ま ず立位姿勢から体幹直立位に保持させることが重要であ ると考えた。 理学療法 問題点の整理より、日本舞踊における右下肢の後方ス テップ動作の安全性、安定性を向上させるためには、体 幹直立位保持した立位姿勢の獲得が重要であると考え た。そこでまず、立位姿勢における体幹直立位保持困難 の主要問題である、両側最長筋の筋緊張低下に対してア プローチをおこなった。まず座位にて上位胸椎部屈曲位、 胸腰椎移行部屈曲、左側屈位であることに対し、上位胸 椎部の伸展、胸腰椎移行部の伸展および右側屈を誘導し、 両側最長筋のうちとくに右最長筋の求心性収縮を求め た。このとき両側最長筋の活動により胸椎部および胸腰 椎移行部伸展、右側屈が可能となったことで、左側腹部 の胸郭と骨盤間は距離が広がり、腹直筋上部線維、両側 のうちとくに左側の外腹斜筋斜走線維は伸張された(図 4a)。さらに立位では体幹直立位保持が可能となったこと で、重心を支持基底面内にとどめるために生じていた両 股関節、膝関節屈曲位にも改善を認めた。しかし右股関 図 4 理学療法 aの図のように座位にて上位胸椎部の伸展、胸腰椎移行部の伸展および右側屈を誘導し、両側最長筋のうちとくに右最長筋の求 心性収縮を求めた。つぎにbの図のように、体幹直立位保持させた立位にて、右大殿筋下部線維を把持し右股関節を伸展方向へ と誘導することで、大殿筋下部線維の求心性収縮を求め、日本舞踊の基本姿勢をとらせた。そしてcの図のように、左後足部回外 位から回内方向へと誘導することで、左後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋の筋緊張減弱を図った。最後にdの図のように、左後足 部、前足部回外により足底内側を離床しながらの左側体重移動を確認したなかで、右下肢の後方ステップ動作練習をおこない、 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を促し右外腹斜筋縦線維の求心性収縮を求めた。

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84 武 凪沙,他 節、膝関節の伸展は不十分であり、骨盤右下制位による 体幹右傾斜を呈した状態であった。そこで右股関節、膝 関節が左側と比べてより屈曲し、骨盤右下制位による体 幹右傾斜を呈している問題点である右大殿筋下部線維の 筋緊張低下に対してアプローチをおこなった。体幹直立 位保持させた立位にて右大殿筋下部線維を把持し右股関 節を伸展方向へと誘導することで、大殿筋下部線維の求 心性収縮を求めた(図4b)。その結果、右股関節伸展が可 能となりそれに伴い右膝関節も伸展したことで、骨盤の 右下制位が改善し、骨盤を水平位に保持したなかで体幹 直立位保持した立位姿勢が獲得された。そして日本舞踊 における両側股関節、膝関節を軽度屈曲させた体幹直立 位での基本姿勢をとることも可能となった。さらに基本 姿勢が獲得された状態で、より円滑な左側体重移動を可 能とするために、左後足部回外位を呈する問題点である 左後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋の筋緊張亢進に対し てもアプローチをおこなった。体幹直立位保持させた基 本姿勢にて、左後足部回外位から回内方向へと誘導する ことで、左後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋の筋緊張を 減弱させた(図4c)。その結果、立位姿勢より呈していた 左後足部回外位、下腿外側傾斜位に改善を認め、左側体 重移動時に生じていた、左後足部回外による過剰な下腿 外側傾斜および左股関節内転による体幹右傾斜も改善し た。そして左後足部、前足部回外により、足底内側を離 床しながらの左側体重移動が可能となった。最後に、日 本舞踊における右下肢の後方ステップ動作に必要とされ る、腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を困難とさ せる問題点である、右外腹斜筋縦線維の筋緊張低下に対 してアプローチをおこなった。体幹直立位保持させた基 本姿勢にて、左後足部、前足部回外により足底内側を離 床しながらの左側体重移動を確認したなかで、右下肢の 後方ステップ動作練習をおこない、腰椎のわずかな右側 屈による骨盤右挙上を促し右外腹斜筋縦線維の求心性収 縮を求めた(図4d)。 上記の理学療法を約60 分間、1 日に 2 回の頻度で 1 週 間継続しておこなった結果、理学療法前と比較し体幹直 立位保持した立位姿勢の獲得に至った(図5a)。そして 日本舞踊における両側股関節、膝関節を軽度屈曲させた 体幹直立位での基本姿勢をとることも可能となった。ま た右下肢の後方ステップ動作においては、腰椎のわずか な右側屈による骨盤右挙上が可能となった。そして立位 姿勢より呈していた左後足部回外位の改善により、左側 図 5 理学療法後の基本姿勢および右下肢の後方ステップ動作 aの左図は前方から見た立位姿勢を、右図は後方から見た立位姿勢を示しており、体幹直立位保持した立位姿勢 の獲得に至った。そして日本舞踊における両側股関節、膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位での基本姿勢をとる ことも可能となった。またbの左図のように左後足部回外位の改善により、左側体重移動時の左後足部回外によ る過剰な下腿外側傾斜が軽減した。さらにbの右図のように右下肢の後方ステップ動作においては、腰椎のわず かな右側屈による骨盤右挙上が可能となった。そして立位姿勢の体幹直立位保持および左後足部回外位が改善 された結果、右下肢を後方へと振り出す際に生じていた左股関節屈曲、内転、足関節底屈は軽減し、体幹を直立 位に保持した状態での右下肢の後方ステップ動作の獲得に至った。

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体重移動時の左後足部回外による過剰な下腿外側傾斜が 軽減した。さらに立位姿勢の体幹直立位保持および左後 足部回外位が改善された結果、右下肢を後方へと振り出 す際に生じていた左股関節屈曲、内転、足関節底屈は軽 減し、体幹を直立位に保持した状態での右下肢の後方ス テップ動作の獲得に至った(図5b)。機能障害に関しても、 ROM検査において胸腰部伸展ROMが–20°から–5°と改 善を認めた。また、筋緊張検査において低下筋であった 両側最長筋および右外腹斜筋縦線維、大殿筋下部線維に ついては低下しているものの改善を認め、亢進筋であっ た腹直筋上部線維、両側外腹斜筋斜走線維、左後脛骨筋、 長母趾屈筋、長趾屈筋についても筋緊張減弱を認めた。 そして、右下肢の後方ステップ動作が可能となったこと で、続く方向転換が可能となり、退院後の公演会にて日 本舞踊を披露することができた(図6)。 考 察 日本舞踊では両側股関節、膝関節を軽度屈曲させた体 幹直立位を基本姿勢とし、衣装にしわを作らないために 股関節の内転、外転、内旋、外旋および体幹の側屈、回旋 を最小限にする必要がある。そして右下肢の後方ステッ プ動作時には腰椎のわずかな右側屈により骨盤を右挙上 させ下肢を後方へと振り出す。本症例の立位姿勢は、両 側最長筋においてとくに右側の筋緊張低下が著明に認め られ、さらに腹直筋上部線維および両側のうちとくに左 側の外腹斜筋斜走線維の筋緊張亢進により上位胸椎部屈 曲位、胸腰椎移行部屈曲、左側屈位で体幹直立位保持が 困難となっていた。そして体幹直立位保持が困難である ことに対し、両膝関節を屈曲させることで大腿を後傾さ せ、重心を支持基底面内にとどめていると考えた。そこ で理学療法にて両側最長筋の活動を求めた結果、体幹直 立位保持が可能となり、両側股関節、膝関節屈曲位にも 改善を認めた。しかし右大殿筋下部線維の筋緊張低下に より、右股関節伸展とそれに伴う膝関節伸展は不十分で あった。そのため、右大殿筋下部線維の活動を求めた結 果、右股関節伸展とそれに伴う膝関節伸展が得られ、骨 盤の右下制位が改善し、骨盤を水平位に保持したなかで 体幹直立位保持した立位姿勢が獲得された。さらに立位 姿勢が獲得されたことで、日本舞踊における両側股関節、 膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位での基本姿勢をとる ことも可能となった。以上のことから、立位姿勢の体幹 直立位保持困難および右股関節の問題点に着目し理学 療法を実施した結果、日本舞踊における基本姿勢でも骨 盤の水平位保持に改善を認め、体幹直立位保持した姿勢 の獲得に至ったと考えた。そしてつぎに右下肢の後方ス テップ動作時に必要とされる、腰椎のわずかな右側屈に よる骨盤右挙上を困難とさせている右外腹斜筋縦線維の 筋緊張低下に対してアプローチをおこなった。大沼ら1) は、外腹斜筋は肋骨から腹直筋に向かって内下方に走行 図 6 退院後の公演会にて 左図では支持側である左後足部、前足部回外による左側体重移動が円滑におこなえるようになった。さらに中央図およ び右図のように、右下肢を後方へと振り出す際の腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を認め、右下肢の後方ステッ プ動作が可能となった。この結果、右下肢の後方ステップ動作に続く方向転換が可能となり、退院後の公演会にて日本 舞踊を披露することができた。

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86 武 凪沙,他 し腹直筋鞘に付着する線維と、肋骨と骨盤間を縦方向に 走行する線維に分かれ、内腹斜筋は骨盤から腹直筋に向 かって内上方に走行し腹直筋鞘に付着する線維と、骨盤 と肋骨間を走行する線維、さらに両側腸骨稜を結ぶ線よ り下部の横方向線維に分かれていると述べている。また 鈴木ら2)は、外腹斜筋の片方の筋活動にて体幹を同側方 へと側屈させる働きがあり、胸郭を引き下げる作用と、 胸郭を固定すると骨盤を引き上げる作用があると述べ ている。そこで右下肢の後方ステップ動作練習のなかで、 右外腹斜筋縦線維による骨盤右挙上を促した結果、腰椎 のわずかな右側屈による骨盤右挙上が可能となった。ま た本症例は、脳梗塞発症前から左膝関節の内反変形によ り下腿が外旋し、後足部は前足部に対して回外位を呈し た状態で、踊りにくさを認めていた。脳梗塞発症後の理 学療法経過にて、左膝関節の内反および疼痛に改善を認 めたものの、左後足部回外位は残存していた。そのため 左後足部回外位にも配慮し理学療法をおこなった結果、 より円滑な左側体重移動が可能となり、体幹を直立位に 保持した状態での右下肢の後方ステップ動作の獲得に 至ったと考えた。 本症例を通して、日本舞踊における右下肢の後方ス テップ動作を獲得するにあたり、日本舞踊という動作特 性を理解したうえで、脳梗塞発症後に生じた問題点と発 症前より生じていた問題点をそれぞれ評価し、理学療法 を展開することの必要性が確認できた。 まとめ 1. 日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作時に、右 前方への転倒の危険性が生じ安全性、安定性の低下を 認めた脳梗塞後右片麻痺患者の理学療法を経験した。 2. 立位姿勢より体幹直立位保持が困難で骨盤右下制位 による体幹右傾斜を呈し、右下肢の後方ステップ動 作では、本来必要とされる腰椎のわずかな右側屈に よる骨盤右挙上が困難となっていた。 3. 理学療法では、上位胸椎部および胸腰椎移行部伸展、 右側屈、さらに右股関節伸展を誘導し体幹直立位保 持させた基本姿勢にて、右下肢の後方ステップ動作 練習の際に、左後足部、前足部回外による左側体重移 動と、腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を促 した結果、動作の安全性、安定性が向上した。 4. 本症例を通して、日本舞踊における右下肢の後方ス テップ動作を獲得するにあたり、日本舞踊という動 作特性を理解したうえで、脳梗塞発症後に生じた問 題点と発症前より生じていた問題点をそれぞれ評価 し、理学療法を展開することの必要性が確認できた。 文 献 1) 大沼俊博・他:立位での踵部および前足部荷重における腹 斜筋群、多裂筋の筋活動について.ボバースジャーナル37: 2–5, 2014.

2) 鈴木俊明・他:The Center of the Body— 体幹機能の謎を探 る—,第 6 版.pp18–30,アイペック,2015.

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