は じ め に HLA は内在・外来性ペプチドを抗原提示細胞表 面に提示し,T 細胞の分化・活性化制御を担う獲得 免疫系の主要分子である.HLA 領域は第 6 染色体 短腕部(6p21)に位置し,各座位の遺伝子が高度の 多型を呈する.HLA クラス I のうちHLA-B では 3,200 アリル,HLA クラス II のなかでも最も多型性が高 いHLA-DRB1 では 1,600 アリルがアミノ酸配列レベ ルで異なるアリルとして登録されている(IPD-IMGT/ HLA Release 3.26.0.1, 2016-11-03)(http://www.ebi. ac.uk/ipd/imgt/hla/)1).HLA 領域における多様性は HLA の機能的多様性と密接に関わっており,免疫 応答の個体差を生み出すと同時に,集団レベルでの 免疫応答の多様性をもたらしている.このような HLA の多様性は,感染症をはじめとする様々な免 疫系疾患に対する感受性・抵抗性との関わりを通し て維持されてきたと考えられている.HLA と疾患
第
44 回総会ポスター賞受賞記念論文
総 説(推薦論文) 推薦者:慶應義塾大学医学部先端科学研究所・細胞上法研究部門 河上 裕HLA クラス II 結合ペプチド探索法の開発
宮 寺 浩 子*1, 2, 3,野口恵美子*1,溝 上 雅 史*2,徳 永 勝 士*3Development of an assay system for large scale analysis of HLA class II-binding peptides
Hiroko Miyadera*1, 2, 3, Emiko Noguchi*1, Masashi MizokaMi*2 and Katsushi TokuNaga*3*1Department of Medical Genetics, Faculty of Medicine, University of Tsukuba
*2Research Center for Hepatitis and Immunology, National Center for Global Health and Medicine *3Department of Human Genetics, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo
(Accepted December 9, 2016)
summary
Genes encoding the human leukocyte antigens (HLA) are associated with diverse immunological disorders, including autoimmune diseases and infections. Recently, significant progresses have been made in the HLA typing technologies through the use of next generation sequencers. The reliable platforms for the SNP-based imputation of HLA genotypes have also been established. These technical advancements should enable further identification of HLA associations with diseases. One of the remaining questions is the mechanism through which HLA confer disease susceptibility. As a first step toward comprehensive understanding of functional variations among HLA allele products, we established a protocol to analyze the HLA-binding pep-tides through quantification of cell-surface HLA expression in an engineered cell line. In this article, we summarize the over-view of the cell-surface HLA expression assay, which we plan to use for screening and collection of HLA-peptide interaction profiles for large sets of HLA alleles and peptides.
Key words human leukocyte antigens (HLA); HLA-disease association; HLA-peptide interaction; HLA class II;
autoim-mune diseases
抄 録
ヒト白血球抗原(human leukocyte antigens(HLA))遺伝子は様々な免疫系疾患と非常に強く関連することが知ら
れている.近年,HLA の解析技術の進展および HLA の遺伝子型推定法(imputation)の開発により,HLA と疾患と
の関連をより大規模に行うことが可能となりつつある.一方,HLA が疾患と関連する機序については十分に解明 されていない点が多く残されており,今後,より多数のHLA アリルの機能性を明らかにする必要がある.その一 つの試みとして著者らはHLA クラス II 結合ペプチドの探索および結合性の評価を多数のアリルについて行うため のアッセイ系を開発している.本稿では,その研究背景と測定法の概要を紹介する. *1 筑波大学医学医療系遺伝医学 *2 国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター ゲノム医科学プロジェクト *3 東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学分野
との関連は1960 年代終わりから 1970 年代初頭にか けてリンパ腫や自己免疫疾患について見出され2), その後,様々な免疫系疾患においてもHLA との強 い関連が報告されている.これまでに感染症,自己 免疫疾患,アレルギー,固形がん,薬剤副作用(重 症薬疹)などを含む100 以上の疾患において,HLA 領域が最も強い疾患感受性領域であることが見出さ れている. 臨床免疫学に関わるさまざまな関連分野の中で, HLA 遺伝子解析技術および疾患関連研究は近年急速 に発展した領域の一つである.HLA タイピングに 次世代シーケンサを用いることにより,非コード領 域の配列決定(HLA アリルの 8 桁レベルでの同定) が可能となり3),また,HLA 領域の SNP データを 基にしたHLA アリルの高精度予測法(imputation) が日本人を含む各ヒト集団において開発されてい る4, 5).これらの新規技術の確立により,HLA と疾 患との関連解析をより大規模かつ詳細に行うことが 可能となりつつあることから,今後もHLA と疾患 との関連についてより多くの知見が蓄積してゆくと 予想される. HLA と疾患とが関連する機序については,殆ど の疾患についてまだ十分な知見が得られていないが, 多型の多くがペプチド結合溝に存在することから(図 1 ),提示ペプチドのアリル間の違いが疾患感受性・ 抵抗性に寄与すると考えられている.例えば,関節 リウマチ,1 型糖尿病,セリアック病などではアミ ノ酸の一部が脱イミド化,脱アミド化したペプチド や,異なるペプチド間の融合により新たに形成され たペプチドがHLA に提示され T 細胞応答の標的と なっていることが見出されており,関節リウマチで はシトルリン化ペプチド(vimentin, aggrecan, 他), 1 型糖尿病ではインスリン(融合型ペプチド),セ リアック病では脱アミド化したグリアジンペプチ ドがCD4 陽性 T 細胞の標的として同定された6−8). HLA が病態に関わる機序を解明するためには免疫 学,生化学,構造生物学など幅広いアプローチが 必要であるため,機能解析が詳細に行われている HLA アリルは少数にとどまる.今後,HLA と疾患 との関連の機序を読み解くには,個別の疾患研究に 加え,多数のHLA アリル産物の機能性を体系的に 明らかにし,疾患感受性・抵抗性に関連する特性を 同定するアプローチも有効である.このような観点 から,著者らはHLA クラス II のタンパク質安定性 の網羅的解析を行い,HLA-DQ タンパク質低安定 性と自己免疫疾患感受性との関連を見出した9).さ らにHLA 結合ペプチドレパトアについても体系的 に解析・評価する仕組みの確立を目指して,現在, HLA 結合ペプチド探索法の開発を進めている. HLA-ペプチド結合アッセイ HLA 関連疾患の発症・進行機序を明らかにする ためには,T 細胞アッセイによる T 細胞エピトープ 同定や,HLA 結合ペプチド溶出による抗原ペプチ ドの同定などの手法によって,抗原特異的免疫応答 に関わる自己・非自己抗原ペプチドをつきとめる必 要がある. これらの解析に加え,HLA と特定のペプチドと の結合親和性について知見を得る場合,HLA-ペプ チド結合アッセイを行う.一般的には,HLA ホモ 接合細胞株から精製したHLA タンパク質または組 換えHLA タンパク質を用いて,HLA と合成ペプ チドとの相互作用の強さを測定する.HLA とペプ チドとの相互作用の検出にはELISA や高速クロマ トグラフィ(HPLC)などさまざまな方法が用いら れている10−13).検出方法の違いはあるが,いずれの 場合も基本的にはHLA とペプチドとの結合親和性 (多くの場合,標準ペプチドに対する50%結合阻害 濃度(IC50))を測定することにより,結合の強さ を評価する.Immune Epitope Database(http://www. iedb.org/)14)に収集されているMHC-ペプチド結合 データ(MHC-Ligand Assays)の多くは,このよう な相互作用解析から得られたデータである. HLA-ペプチド結合アッセイは,長年使われてい る方法であるが課題点もある.例えば,IC50 を求 めるためには各HLA アリルについて,適切なコン 図1 HLA クラス II の構造 HLA クラス II は α へリックスと β シートの間のペプチド 結合溝に,約9 −30 残基のペプチドを提示する.HLA の多 型はペプチドと相互作用する領域に集中しており,HLA ア リル間では提示するペプチドのレパトアが異なる.
トロールペプチドを予め設定する必要がある.また, IC50 によって HLA アリル間のペプチド結合能の違 いを評価することは困難である.精製HLA タンパ ク質を用いて解析を行う場合,その調整に多大な労 力を要するため,多数のHLA アリルを対象として 解析を行うのは容易ではない.疎水性ペプチドを用 いる場合,溶解度が低いため実効濃度の誤差が大き いだけでなく,非特異的シグナルを生じやすいとい う問題点もある.さらに,ペプチドの合成に要する 時間とコストの問題も大規模な解析を進める上での 障壁になりうる.このような理由から,これまでの HLA 結合ペプチド探索研究は,比較的少数のHLA アリルと,数種類~100 種類程度のペプチドとの組 合せに限られている.今後,HLA 結合ペプチド探 索をより大規模に行うためには,従来の方法と比較 して定量性,再現性が高く,多数のHLA アリルに 拡張可能な測定系が必要である. HLA 発現アッセイ HLA クラス II は,αβ サブユニット間の相互作用 による安定化や高親和性ペプチド提示に伴う HLA-ペプチド複合体の安定化によって細胞表面発現量 が上昇する15, 16).著者らは,このようなHLA の特 性を利用することによってHLA 結合ペプチド探索 を行える可能性に着目し,“HLA 発現アッセイ”を 開発した.この測定系は元々,HLA タンパク質安 定性の評価を目的として開発した方法であるが9), HLA 結合ペプチド探索にも有用であったため,そ の一部を改良したものである. HLA 発現アッセイの概要を図 2 ,3 に示す.ま ず,HLA クラス II α 鎖安定発現株をマウス線維芽 細胞株を宿主として樹立する.この株にHLA クラ スII β 鎖とペプチドとの融合タンパク質を一過性に 発現させる.この時,β 鎖のシグナル配列と mature 配列との間に,ペプチドをコードする配列を挿入 することにより,HLA をペプチドとの融合タンパ ク質として発現させる.β 鎖とペプチドとの融合タ ンパク質はKozono らにより考案され17),HLA ク ラスII- ペプチド複合体のタンパク質構造解析に広 く用いられている.本研究で用いたβ 鎖発現ベク ター(pMXs-IG, レトロウイルスベクター)18)には IRES, GFP がコードされている.そのため,β 鎖発 現ベクターの導入量に応じてGFP が細胞質で一過 性発現する.α 鎖安定発現株に β 鎖発現ベクターを 異なる2 点以上の濃度で感染させ,感染 48 時間後, 細胞表面に発現したHLA 量および,細胞質に発現 したGFP 量(内部コントロール)をフローサイト メータで測定する.細胞表面HLA 発現量と細胞内 図2 HLA クラス II タンパク質安定性の測定 ①HLA α 鎖の安定発現株を作製する(例として DQA1 安定発現株を示す).α 鎖は単独では細胞表面に発現しない.② β 鎖をコー ドする遺伝子(DQB1)(N 末端にペプチドの配列を融合)および IRES-GFP を持つ発現ベクター(pMXs-IG)18)をレトロウイル ス発現系を用いてα 鎖安定発現株に感染させる.α 鎖と β 鎖とがヘテロ二量体を形成すると細胞表面に HLA が発現する.感染 したDQB1 発現ベクター量に応じて GFP が細胞質内に発現する.③ α 鎖安定発現株に DQB1 発現ベクターを複数の異なる濃度 で導入する.各濃度でのGFP, HLA 発現量をフローサイトメータで測定し,異なる濃度間での GFP 増分に対する HLA 増分を求
GFP 発現量の比(HLA/GFP)(図 2 ,3 中のグラフ の傾き)を算出し,この値をHLA 発現量の指標と した.内部コントロールであるGFP は β 鎖発現ベ クターの導入効率を補正する目的で用いている. HLA との結合が弱いと考えられるペプチド(ポリ グリシン(9 mer, 12 mer)など)をネガティブコン トロールペプチドとして用いる.また,特定のアリ ル(DQA1*01:02-DQB1*06:02)の HLA/GFP 値を毎 実験日ごとに測定し,実験間の標準化に用いている. HLA 発現アッセイを結合親和性が既知の数種類 のHLA- ペプチドの組合せについて行ったところ, 親和性の強さに応じたHLA/GFP 値を得た(図 2 ). また,従来のHLA-ペプチド結合アッセイで測定困 難であった疎水性領域についてもHLA 発現アッセ イでは測定が可能であった(未発表データ).これ らの結果から,HLA 発現アッセイは HLA クラス II 結合ペプチドの探索と結合性の評価に有用であると 考えている. HLA/GFP 値は HLA-ペプチド複合体の細胞表面 発現量の相対的な指標であり,主にHLA-ペプチド 複合体の安定性を反映する.HLA-ペプチド複合体 の安定性を決めるのはHLA タンパク質自体の安定 性とペプチドの結合親和性であるため,HLA/GFP 値にはこの両者の情報が含まれる.このように, HLA/GFP 値は従来の相互作用解析で得られる IC50 値や結合親和性とは異なる指標であり,これらの既 知のパラメータと比較可能な値に換算することは出 来ない. HLA の細胞表面発現量は,HLA と T 細胞受容体 との相互作用のアビディティの大きさに直接影響す る主要なパラメータの1 つである.このため HLA/ GFP 値は従来の相互作用解析で得られる生化学的 パラメータよりも,HLA の機能性に,より直結し たパラメータであり,HLA アリル間や異なる提示 ペプチド間の結合性・機能性の比較に適している. 今後,測定系の最適化,高速化をさらに進め,より 多数のHLA アリルについて結合ペプチドプロファ イルを明らかにする予定である. 図3 HLA 発現アッセイによる HLA 結合ペプチドの探索
お わ り に HLA と疾患との関連解析に加え,結合ペプチド レパトアなどのHLA の機能的多様性についての知 見が蓄積することにより,今後,HLA 遺伝子型に 基づいた予防法・治療法の開発が大きく進展するこ とが期待される. 謝 辞 本研究は文部科学省科学研究費補助金(16KT 0117, 22133006),日本医療研究開発機構・肝炎等 克服緊急対策研究事業,厚生労働省・国際医療研 究開発事業の助成を受けて行われた.レトロウイ ルスベクター(pMXs)およびパッケージング細胞 (PLAT-E)は北村俊雄先生(東京大学医科学研究 所)にご供与いただいた.本研究は多くの先生方と の共同研究の成果によるものであり,この場を借り て深謝したい. 文 献
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