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Steel Construction Engineering Vol.23 No.91 (September 216) ムを取り付けずに補強する構法の研究 [8] が行われているが, 柱が角形鋼管の場合には外ダイアフラムを取り付けるのが一般的であるというのが現在の実状であり, 外周構面の柱梁接合部で

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部を再溶融でき,かつ,溶接ビードを大きく できることから,疲労強度を改善できる. 今後の課題を以下にまとめる. 本研究では,レーザヘッドと溶接トーチの駆動 は多関節ロボットのアーム部に取り付けて行った. 実際の現場での適用にあたっては,専用治具の開 発が必要である.また,溶接の始終端処理への対 処も今後の課題である.さらに確実に補修溶接を 行うための事前の溶接施工試験や,フェイズドア レイUT 法などの非破壊検査による溶接品質確保 などの施工管理方法の確立が必要と考える. 参考文献 [1] 土木学会鋼構造委員会:鋼床版の疲労,鋼構造 シリーズ19,土木学会,2010.12. [2] 丹波寛夫,迫田治行,閑上直浩,杉山裕樹, 平嶋健太郎:既設鋼床版Uリブ溶接部に対するTIG 溶接の適用性検討,土木学会第66 回年次学術講演 会,I-163,2011. [3] 後藤浩二:レーザ・アークハイブリッド溶接 技術の導入に向けた造船業界共同研究の概要,溶 接技術,Vol.62,No11,pp.56-60,2014.11. [4] 猪 瀬 幸 太 郎 , 大 脇 桂 , 中 西 保 正 , 宮 地 崇 , 薮 野 真 史 , 小 川 勝 治 :レーザ・アークハ イブリッド溶接の歩道部鋼床版部材への適用,土 木学会第63 回年次学術講演会,I-408,2008. [5] 猪 瀬 幸 太 郎 , 神 林 順 子 , 井 戸 伸 和 , 大 脇 桂 ,宮 地 崇:レーザ・アークハイブリッド溶 接の橋梁部材への適用,IHI 技報,Vol.49,No1, pp.60-63,2009.3. [6] 清宮理,飯 田 博 光 ,滝 本 孝 哉:沈 埋 ト ン ネ ル の 車 両 火 災 へ の 対 策 ,トンネルと地下, Vol.31,No4,pp.63-69,2000.4. [7]白旗弘実,赤坂健,飯塚貴則:鋼床版 U リブに 発生する疲労き裂検出に関する超音波探傷表面波 法の適用性,土木学会第62 回年次学術講演会, I-314,2007. [8]土木学会鋼構造委員会:鋼床版の疲労,鋼構造 シリーズ4,p.34,土木学会,1990.9. [9] 小椋好幸,八木尚人,池上克則,古田大介:鋼 道路橋鋼床版U リブ溶接部に発生する疲労き裂に 対するフェーズドアレイUT 法の適用,日本非破 壊検査協会保守検査ミニシンポジウム,MI-00045, 2015.7. 1 / 13 図1 ビルト H 梁の SAW 部

先組みビルト

H 梁の塑性変形能力の改善方法

1. 序  本研究では,サブマージアーク溶接による先組 み型の溶接組立H 形断面梁を用いた梁端接合部 について,力学性能の評価,破壊要因の解明およ び破壊防止法の開発を目指している(以下,サブ マージアーク溶接を「SAW」,溶接組立 H 形断面 を「ビルトH」と略記).  鋼構造梁端接合部の早期の脆性破壊は,ラーメ ン骨組の耐震性能を確保する上で最も避けるべき 現象の一つである.しかし,ビルトH 梁を用い た梁端接合部の載荷実験において,先組み型の試 験体がスカラップ底を延性き裂の発生起点とした 梁フランジの脆性破壊を生じた[1],[2].  文献[2] では,図 1 に示す SAW 部の 0℃シャ ルピー吸収エネルギーが15J の場合に,梁の要求 性能[3] を満たさずに脆性破壊が生じ,47J 以上 の場合に要求性能を満たした実験結果が得られて いる.このことから,新たに先組みビルトH 梁 を製作する場合に対しては,SAW 部の靭性が高 くなる溶接材料を使用することで,梁の塑性変形 能力の改善を図ることができるといえる.しかし, 既存鋼構造建築物で使用されているものに対して は,上記を適用することができず,何らかの手当 てが必要である.  本論文では,先組みビルトH 梁の塑性変形能 力を向上させるための改善方法を検討する.まず, 既往研究で提案されている様々な改善方法の中か ら,スカラップ底を延性き裂の発生起点とする梁 フランジの脆性破壊を防止する観点で,有効と考 えられるものを抽出する.次に載荷実験を行い, 耐力や塑性変形能力などの力学性能および破壊性 状を把握した上で,その有効性を明らかにする. 2. スカラップ底からの破壊を防止できる改善方 法の調査  これまでに既往の研究で提案されている梁の塑 性変形能力の改善方法の中で,スカラップ底から の破壊を防止できるものとして,図2 に示す 8 種 類が挙げられる[4] ~ [7].  図2(a)~(d)は文献 [4] で提案されている ものであり,梁の耐力を増大させるとともに,塑 性変形が生じる範囲を梁端から離すことでスカ ラップ底からの破壊を回避することが可能であ る.図2(d)については,近年,外ダイアフラ ABSTRACT In this paper, the improvement methods of plastic deformation capacity of

pre-built-up H-shaped beam by submerged arc welding were investigated. First, a survey of improvement methods for the beam end connection of existing steel structure buildings was conducted. Next, the improvement effect about slit, boxing welding, backfill welding and web stiffener were investigated by the loading test. From test results, it becomes clear that the plastic deformation capacity of the beam increases by slit, backfill welding and web stiffener.

Improvement methods of plastic deformation capacity of pre-built-up H-shaped beam

倉成 真也*      中野 達也 **

Keywords:先組みビルト H 梁,サブマージアーク溶接,脆性破壊,改善方法

    pre-built-up H-shaped beam, submerged arc welding, brittle fracture, improvement method

Shinya KURANARI   Tatsuya NAKANO

* 第 1 種正会員 修士(工学)株式会社巴コーポレーション (元 宇都宮大学大学院生) (〒104-0054 東京都中央区勝どき 4-5-17) ** 第 2 種正会員 博士(工学)宇都宮大学大学院 准教授 (〒321-8585 栃木県宇都宮市陽東 7-1-2) 㒊 ᱱࣇࣛࣥࢪ ᱱ࢙࢘ࣈ ୙⁐╔㒊 ― 73 ―

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3 / 13 SL 試験体(スリット) MW 試験体(回し溶接) NS 試験体(埋め戻し溶接) WS 試験体(梁ウェブ水平スチフナ) ける方法である[7].この方法は著者らの研究グ ループが提案している補強方法で,既往の研究で 補強効果が確認されているものである.補強の基 本方針は,塑性化開始位置を梁端溶接部から離れ た位置とすることでスカラップ底からの破壊を避 け,断面性能を向上させることを期待するもので ある[10],[11]. 3. 実験方法 3. 1 試験体計画  図3 に試験体形状および加力概要を示す.試 験体は逆T 字形の部分骨組架構とし,柱両端を ピン支持としている.梁はBH-600×200×16×25 (SN490B) と し, 柱 お よ び 接 合 部 パ ネ ル は □ -500×500×19 (BCP325) としている.  表1 に試験体リスト,表 2 に施工状況を示す. 実験パラメータは図2(e)~(h)の 4 種類の改 善方法である.比較に用いるSBR・PL 試験体 は,文献[1],[2] において梁の要求性能を満たさ ずに脆性破壊した試験体である.使用する梁材は, SBR・MW 試験体が同一ロット材(a 材),PL・ SL・NS・WS 試験体が同一ロット材(b 材)で ある.接合部パネルおよびダイアフラムはすべて 同一ロット材である.以下に,各試験体の詳細お よび施工状況を述べる.なお,スリット,回し溶接,       ᶓ⿵๛఩⨨ 䕕  ࢪࣕࢵ࢟    㻗 㻙 ṇ㈇₞ቑ ⧞㏉ࡋ㍕Ⲵ  u1 u2 v1 v2 図3 試験体形状および加力概要(単位:mm) 表2 施工状況 試験体名 改善方法 梁ロット SBR 改善無し a 材 PL 改善無し b 材 SL スリット b 材 MW 回し溶接 a 材 NS 埋め戻し溶接 b 材 WS 梁ウェブ水平スチフナ b 材 表1 試験体リスト 2 / 13 ࢞ࢫษ᩿ ᇙࡵᡠࡋ ࢫ࢝ࣛࢵࣉࡢᇙࡵᡠࡋ ࢫࣜࢵࢺ እቨ ᗋࢫࣛࣈ ᗋࢫࣛࣈ Ꮝ࠶ࡅ ࢫ࢝ࣛࢵࣉᗏࡢᅇࡋ⁐᥋ ᗋࢫࣛࣈ ᱱ࢙࢘ࣈỈᖹࢫࢳࣇࢼ࡟ࡼࡿ⿵ᙉ ᗋࢫࣛࣈ Ỉᖹࢫࢳࣇࢼ Ỉᖹࢫࢳࣇࢼ ࢆ๐㝖ࡋ࡚  Ỉᖹࣁࣥࢳ࡟ࡼࡿ⿵ᙉ 㖄┤ࣁࣥࢳࡼࡿ⿵ᙉ ᙧ㗰࡟ࡼࡿ⿵ᙉ ᙧ㗰ࡼࡿ⿵ᙉ ᗋࢫࣛࣈ እቨ ᗋࢫࣛࣈ ᗋࢫࣛࣈ ᗋࢫࣛࣈ Ỉᖹࣁࣥࢳ ᙧ㗰 ᙧ㗰 㖄┤ࣁࣥࢳ 㒊ࡢ୍㒊ࡀṧ␃ እࢲ࢖࢔ࣇ࣒ࣛ እࢲ࢖࢔ࣇ࣒ࣛ እࢲ࢖࢔ࣇ࣒ࣛ ᅇࡋ⁐᥋ እቨ እቨ እቨ 図2 既往の補強工法 ムを取り付けずに補強する構法の研究[8] が行わ れているが,柱が角形鋼管の場合には外ダイアフ ラムを取り付けるのが一般的であるというのが現 在の実状であり,外周構面の柱梁接合部では外壁 を除去する必要がある.  本研究では,梁の塑性変形能力の改善だけでな く,施工の簡便さを考慮するため,以下の3 点を 加味する. 1) 2) 3)    これらの点を勘案して,本研究では図2(e) ~(h)に示す 4 種類の方法に着目する.以下に これらの改善方法を概説する.  図2 (e)は,スカラップ近傍の梁ウェブにスリッ トを入れる方法である[5].施工方法は,スカラッ プ上部に沿って梁ウェブをガス切断によりスリッ トを入れ,スリット先端の応力集中を避けるため に円形の孔を設けるものである.スリットを入れ て梁ウェブと梁フランジの縁を切ることにより, 図1 に示している不溶着部が開口するような破壊 力学におけるモードⅠの負荷を軽減させ,延性き 裂の発生が遅れることで梁の塑性変形能力が向上 することを期待している[9].なお,破壊力学に おけるモードに関する検討については付録1 で述 べる.  図2 (f)は,スカラップ底の SAW 金属を除去 したうえで,ガスシールドアーク溶接により開先 先行型の場合と同様に回し溶接を行う方法である (以下,ガスシールドアーク溶接を「GAW」と略 記).文献[1] において,開先先行型では梁の要 求性能を満足する塑性変形能力が得られることが 明らかとなっている.そのため,スカラップ底の SAW 金属を除去することでスカラップ底近傍の 不溶着も無くなり,回し溶接を行うことで再熱効 果による靭性の改善が得られる可能性があること から,スカラップ底を起点とする脆性破壊を避け, 開先先行型と同等の塑性変形能力が得られること を期待している.  図2 (g)は,GAW によりスカラップを埋め戻 す方法である[6].スカラップによる断面欠損, スカラップ底の応力・歪集中箇所を無くすことで スカラップ底からの破壊を避け,断面性能を向上 させることを期待している.  図2 (h)は,梁ウェブに水平スチフナを取り付 中低層骨組の柱梁接合部として,採用事例が最 も多い通しダイアフラム形式を対象とする. 床スラブを有する場合,床スラブを除去するこ となく施工できる. 外周構面の柱梁接合部について外壁を有する場 合,外壁を除去することなく施工できる. ― 74 ―

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3 / 13 SL 試験体(スリット) MW 試験体(回し溶接) NS 試験体(埋め戻し溶接) WS 試験体(梁ウェブ水平スチフナ) ける方法である[7].この方法は著者らの研究グ ループが提案している補強方法で,既往の研究で 補強効果が確認されているものである.補強の基 本方針は,塑性化開始位置を梁端溶接部から離れ た位置とすることでスカラップ底からの破壊を避 け,断面性能を向上させることを期待するもので ある[10],[11]. 3. 実験方法 3. 1 試験体計画  図3 に試験体形状および加力概要を示す.試 験体は逆T 字形の部分骨組架構とし,柱両端を ピン支持としている.梁はBH-600×200×16×25 (SN490B) と し, 柱 お よ び 接 合 部 パ ネ ル は □ -500×500×19 (BCP325) としている.  表1 に試験体リスト,表 2 に施工状況を示す. 実験パラメータは図2(e)~(h)の 4 種類の改 善方法である.比較に用いるSBR・PL 試験体 は,文献[1],[2] において梁の要求性能を満たさ ずに脆性破壊した試験体である.使用する梁材は, SBR・MW 試験体が同一ロット材(a 材),PL・ SL・NS・WS 試験体が同一ロット材(b 材)で ある.接合部パネルおよびダイアフラムはすべて 同一ロット材である.以下に,各試験体の詳細お よび施工状況を述べる.なお,スリット,回し溶接,       ᶓ⿵๛఩⨨ 䕕  ࢪࣕࢵ࢟    㻗 㻙 ṇ㈇₞ቑ ⧞㏉ࡋ㍕Ⲵ  u1 u2 v1 v2 図3 試験体形状および加力概要(単位:mm) 表2 施工状況 試験体名 改善方法 梁ロット SBR 改善無し a 材 PL 改善無し b 材 SL スリット b 材 MW 回し溶接 a 材 NS 埋め戻し溶接 b 材 WS 梁ウェブ水平スチフナ b 材 表1 試験体リスト 2 / 13 ࢞ࢫษ᩿ ᇙࡵᡠࡋ ࢫ࢝ࣛࢵࣉࡢᇙࡵᡠࡋ ࢫࣜࢵࢺ እቨ ᗋࢫࣛࣈ ᗋࢫࣛࣈ Ꮝ࠶ࡅ ࢫ࢝ࣛࢵࣉᗏࡢᅇࡋ⁐᥋ ᗋࢫࣛࣈ ᱱ࢙࢘ࣈỈᖹࢫࢳࣇࢼ࡟ࡼࡿ⿵ᙉ ᗋࢫࣛࣈ Ỉᖹࢫࢳࣇࢼ Ỉᖹࢫࢳࣇࢼ ࢆ๐㝖ࡋ࡚  Ỉᖹࣁࣥࢳ࡟ࡼࡿ⿵ᙉ 㖄┤ࣁࣥࢳࡼࡿ⿵ᙉ ᙧ㗰࡟ࡼࡿ⿵ᙉ ᙧ㗰ࡼࡿ⿵ᙉ ᗋࢫࣛࣈ እቨ ᗋࢫࣛࣈ ᗋࢫࣛࣈ ᗋࢫࣛࣈ Ỉᖹࣁࣥࢳ ᙧ㗰 ᙧ㗰 㖄┤ࣁࣥࢳ 㒊ࡢ୍㒊ࡀṧ␃ እࢲ࢖࢔ࣇ࣒ࣛ እࢲ࢖࢔ࣇ࣒ࣛ እࢲ࢖࢔ࣇ࣒ࣛ ᅇࡋ⁐᥋ እቨ እቨ እቨ 図2 既往の補強工法 ムを取り付けずに補強する構法の研究[8] が行わ れているが,柱が角形鋼管の場合には外ダイアフ ラムを取り付けるのが一般的であるというのが現 在の実状であり,外周構面の柱梁接合部では外壁 を除去する必要がある.  本研究では,梁の塑性変形能力の改善だけでな く,施工の簡便さを考慮するため,以下の3 点を 加味する. 1) 2) 3)    これらの点を勘案して,本研究では図2(e) ~(h)に示す 4 種類の方法に着目する.以下に これらの改善方法を概説する.  図2 (e)は,スカラップ近傍の梁ウェブにスリッ トを入れる方法である[5].施工方法は,スカラッ プ上部に沿って梁ウェブをガス切断によりスリッ トを入れ,スリット先端の応力集中を避けるため に円形の孔を設けるものである.スリットを入れ て梁ウェブと梁フランジの縁を切ることにより, 図1 に示している不溶着部が開口するような破壊 力学におけるモードⅠの負荷を軽減させ,延性き 裂の発生が遅れることで梁の塑性変形能力が向上 することを期待している[9].なお,破壊力学に おけるモードに関する検討については付録1 で述 べる.  図2 (f)は,スカラップ底の SAW 金属を除去 したうえで,ガスシールドアーク溶接により開先 先行型の場合と同様に回し溶接を行う方法である (以下,ガスシールドアーク溶接を「GAW」と略 記).文献[1] において,開先先行型では梁の要 求性能を満足する塑性変形能力が得られることが 明らかとなっている.そのため,スカラップ底の SAW 金属を除去することでスカラップ底近傍の 不溶着も無くなり,回し溶接を行うことで再熱効 果による靭性の改善が得られる可能性があること から,スカラップ底を起点とする脆性破壊を避け, 開先先行型と同等の塑性変形能力が得られること を期待している.  図2 (g)は,GAW によりスカラップを埋め戻 す方法である[6].スカラップによる断面欠損, スカラップ底の応力・歪集中箇所を無くすことで スカラップ底からの破壊を避け,断面性能を向上 させることを期待している.  図2 (h)は,梁ウェブに水平スチフナを取り付 中低層骨組の柱梁接合部として,採用事例が最 も多い通しダイアフラム形式を対象とする. 床スラブを有する場合,床スラブを除去するこ となく施工できる. 外周構面の柱梁接合部について外壁を有する場 合,外壁を除去することなく施工できる. ― 75 ―

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5 / 13 反対側からも溶接を行っている.  WS 試験体は図 2(h)に示すように梁ウェブ に水平スチフナを取り付けた試験体である.図7 にスチフナの詳細を示す.施工方法は,4 枚のス チフナを梁ウェブ,パネルフランジ,パネルウェ ブの3 箇所を隅肉溶接により取り付けている.ス チフナのサイズは,文献[7] の算定法により,梁 ウェブの全塑性曲げモーメントとスチフナによっ て増大する梁端補強断面の全塑性曲げモーメント を等置して設計している. 3. 2 溶接方法  ビルトH 梁の組立溶接は無開先の両面隅肉溶 接であり,溶接方法は2 電極方式の SAW で下向 姿勢(傾斜角45 度)の 1 パス施工である.使用 する溶接ワイヤは規格がYS-S6 で径は 4.8mm φ, フラックスは規格がJIS Z 3302 SFMS1 であり, 溶着金属の品質区分はJIS Z 3183 S501-H 該当 である.表3 に溶接条件を示す.極間は 20mm, ワイヤ突出し長さは30mm である.結線方法は 逆V 結線,溶接電源は AC-AC である.  梁端部は梁フランジ接合部分を完全溶込み溶接 とし,梁ウェブ接合部分を隅肉溶接とする,いわ ゆる工場溶接接合形式である.梁端部の溶接は GAW で行い,溶接ワイヤは 1.4mm φ(YGW18) 梁ロット 電極 溶接 電流 (A) アーク 電圧 (V) 溶接速度 (cm/min)溶接入熱(kJ/cm) a 材 先行 850 30 75 41 後行 850 30 b 材 先行 750 30 55 49 後行 700 32 表3 溶接条件 図8 スカラップ詳細(単位:mm)            㸪㸪 㸪㸪 表4 素材の機械的性質 部位 鋼種 t (mm) (N/mmσy1 2) (N/mmσy2 2) (N/mmσu 2) (%)el. 梁フランジ a 材 SN490B 25.6 372 361 532 29.5 b 材 25.4 345 327 522 30.4 梁ウェブ a 材 16.7 368 343 517 28.8 b 材 16.2 352 343 519 27.5 SAW 金属 a 材 S501-H 7.3 - 520 619 26.6 b 材 6.0 - 489 613 27.5 ダイアフラム SN490C 32.2 376 367 565 26.7 接合部パネル BCP325 19.6 375 359 519 26.5 スチフナ SN490B 22.0 371 362 541 29.2 ※1 溶着金属の品質区分,t:板厚(※ 2 径),σy1:上降伏点,σy2:下降伏点(0.2%オフセッ ト耐力),σu:引張強さ,el.:破断伸び ※2 ※2 ※1 とし,入熱40kJ/cm 以下,パス間温度 350℃以 下で管理している.エンドタブは固形タブであ る. 裏 当 て 金 はFB-9×25 であり,梁フランジ 内面と組立溶接している.通しダイアフラムの 板厚は32mm (SN490C) であり,梁フランジと 芯通しで配している.スカラップは図8 に示す 35mm+10mm の複合円型である.試験体の製作 時期の違いにより,スカラップ35R の回転中心 の位置が図8 に示すように異なっている.また, 実際のスカラップ加工では梁フランジの溶接変形 を考慮して梁フランジ表面までスカラップ切削 加工を行わず,梁ウェブおよびSAW 部を少し削 り残すことが多い.本実験の試験体もそのように しており,削り残しの厚さはSBR・PL 試験体で 2mm 程度,SL・WS 試験体で 1mm 程度である. 3. 3 素材の機械的性質  表4 に素材引張試験により得られた素材の機械 的性質を示す.試験片形状は,梁フランジ,梁ウェ ブ,ダイアフラム,接合部パネル,スチフナが JIS Z 2241 1A 号,SAW 金属から採取した溶金 引張試験片についてはa 材が JIS Z 2241 14A 号, b 材が JIS Z 3111 A2 号である.  図9 にシャルピー衝撃試験片の採取位置を示 す.試験片形状は,JIS Z 2242 V ノッチ試験片で 4 / 13 写真1 SAW 金属の除去状況 図6 埋め戻し溶接施工手順(単位:mm) ձ⁐᥋ ղ⁐᥋ ղ⁐᥋  ձ⁐᥋ ճ⁐᥋ ࢭ࣑ࣛࢵࢡ ࣂࢵࢡ࢔ࢵࣉᮦ 写真2 バックアップ材の設置状況 埋め戻し溶接の施工は上下スカラップともに行っ ている.  SL 試験体は図 2(e)に示すように,スカラッ プにスリットを入れた試験体である.図4 にス リット寸法の詳細図を示す.スリット先端位置に 応力集中を避けるための孔(φ=6mm)をあけ た後,梁ウェブをガス切断している.スリット長 さに関しては,事前に有限要素解析によりスリッ ト長さと梁フランジの座屈に対する検討を行って 決定している[8].  MW 試験体は図 2(f)に示すように,スカラッ プ底に回し溶接を行った試験体である.写真1 にスカラップ底のSAW 金属の除去状況を示す. SAW 金属の除去は一般的なエアアークガウジン グにより行っており,除去領域の長さはスカラッ プ底から150mm 程度である.なお,スカラップ 底には図2(f)に示すように若干の SAW 金属が 残留している.回し溶接は,文献[12] に示され ている開先先行型の方法に準拠して図5 に示す順 序で行っている.  NS 試験体は図 2(g)に示すようにスカラップ に埋め戻し溶接を行った試験体である.図6 に埋 め戻し溶接の施工手順を示す.溶接施工条件は, 事前に溶接施工試験を行って決定している.施工 手順は,バックアップ材を当てて溶接する際に, 裏当て金の前後に隙間ができるため,始めに写真 2 に示すように裏当ての前後を溶接して隙間を埋 めている.次にバックアップ材を当てた状態で片 側から溶接を行い,バックアップ材を外した後, ձ ղ ճ 䐢 䐣 䐤 ձ ղ ճ 䐣 䐢 䐤   図5 回し溶接の順序 図4 スリット詳細(単位:mm) ղ࢞ࢫษ᩿ ձᏍ࠶ࡅ䃥          図7 梁ウェブ水平スチフナ詳細(単位:mm) ― 76 ―

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5 / 13 反対側からも溶接を行っている.  WS 試験体は図 2(h)に示すように梁ウェブ に水平スチフナを取り付けた試験体である.図7 にスチフナの詳細を示す.施工方法は,4 枚のス チフナを梁ウェブ,パネルフランジ,パネルウェ ブの3 箇所を隅肉溶接により取り付けている.ス チフナのサイズは,文献[7] の算定法により,梁 ウェブの全塑性曲げモーメントとスチフナによっ て増大する梁端補強断面の全塑性曲げモーメント を等置して設計している. 3. 2 溶接方法  ビルトH 梁の組立溶接は無開先の両面隅肉溶 接であり,溶接方法は2 電極方式の SAW で下向 姿勢(傾斜角45 度)の 1 パス施工である.使用 する溶接ワイヤは規格がYS-S6 で径は 4.8mm φ, フラックスは規格がJIS Z 3302 SFMS1 であり, 溶着金属の品質区分はJIS Z 3183 S501-H 該当 である.表3 に溶接条件を示す.極間は 20mm, ワイヤ突出し長さは30mm である.結線方法は 逆V 結線,溶接電源は AC-AC である.  梁端部は梁フランジ接合部分を完全溶込み溶接 とし,梁ウェブ接合部分を隅肉溶接とする,いわ ゆる工場溶接接合形式である.梁端部の溶接は GAW で行い,溶接ワイヤは 1.4mm φ(YGW18) 梁ロット 電極 溶接 電流 (A) アーク 電圧 (V) 溶接速度 (cm/min)溶接入熱(kJ/cm) a 材 先行 850 30 75 41 後行 850 30 b 材 先行 750 30 55 49 後行 700 32 表3 溶接条件 図8 スカラップ詳細(単位:mm)            㸪㸪 㸪㸪 表4 素材の機械的性質 部位 鋼種 t (mm) (N/mmσy1 2) (N/mmσy2 2) (N/mmσu 2) (%)el. 梁フランジ a 材 SN490B 25.6 372 361 532 29.5 b 材 25.4 345 327 522 30.4 梁ウェブ a 材 16.7 368 343 517 28.8 b 材 16.2 352 343 519 27.5 SAW 金属 a 材 S501-H 7.3 - 520 619 26.6 b 材 6.0 - 489 613 27.5 ダイアフラム SN490C 32.2 376 367 565 26.7 接合部パネル BCP325 19.6 375 359 519 26.5 スチフナ SN490B 22.0 371 362 541 29.2 ※1 溶着金属の品質区分,t:板厚(※ 2 径),σy1:上降伏点,σy2:下降伏点(0.2%オフセッ ト耐力),σu:引張強さ,el.:破断伸び ※2 ※2 ※1 とし,入熱40kJ/cm 以下,パス間温度 350℃以 下で管理している.エンドタブは固形タブであ る. 裏 当 て 金 はFB-9×25 であり,梁フランジ 内面と組立溶接している.通しダイアフラムの 板厚は32mm (SN490C) であり,梁フランジと 芯通しで配している.スカラップは図8 に示す 35mm+10mm の複合円型である.試験体の製作 時期の違いにより,スカラップ35R の回転中心 の位置が図8 に示すように異なっている.また, 実際のスカラップ加工では梁フランジの溶接変形 を考慮して梁フランジ表面までスカラップ切削 加工を行わず,梁ウェブおよびSAW 部を少し削 り残すことが多い.本実験の試験体もそのように しており,削り残しの厚さはSBR・PL 試験体で 2mm 程度,SL・WS 試験体で 1mm 程度である. 3. 3 素材の機械的性質  表4 に素材引張試験により得られた素材の機械 的性質を示す.試験片形状は,梁フランジ,梁ウェ ブ,ダイアフラム,接合部パネル,スチフナが JIS Z 2241 1A 号,SAW 金属から採取した溶金 引張試験片についてはa 材が JIS Z 2241 14A 号, b 材が JIS Z 3111 A2 号である.  図9 にシャルピー衝撃試験片の採取位置を示 す.試験片形状は,JIS Z 2242 V ノッチ試験片で 4 / 13 写真1 SAW 金属の除去状況 図6 埋め戻し溶接施工手順(単位:mm) ձ⁐᥋ ղ⁐᥋ ղ⁐᥋  ձ⁐᥋ ճ⁐᥋ ࢭ࣑ࣛࢵࢡ ࣂࢵࢡ࢔ࢵࣉᮦ 写真2 バックアップ材の設置状況 埋め戻し溶接の施工は上下スカラップともに行っ ている.  SL 試験体は図 2(e)に示すように,スカラッ プにスリットを入れた試験体である.図4 にス リット寸法の詳細図を示す.スリット先端位置に 応力集中を避けるための孔(φ=6mm)をあけ た後,梁ウェブをガス切断している.スリット長 さに関しては,事前に有限要素解析によりスリッ ト長さと梁フランジの座屈に対する検討を行って 決定している[8].  MW 試験体は図 2(f)に示すように,スカラッ プ底に回し溶接を行った試験体である.写真1 にスカラップ底のSAW 金属の除去状況を示す. SAW 金属の除去は一般的なエアアークガウジン グにより行っており,除去領域の長さはスカラッ プ底から150mm 程度である.なお,スカラップ 底には図2(f)に示すように若干の SAW 金属が 残留している.回し溶接は,文献[12] に示され ている開先先行型の方法に準拠して図5 に示す順 序で行っている.  NS 試験体は図 2(g)に示すようにスカラップ に埋め戻し溶接を行った試験体である.図6 に埋 め戻し溶接の施工手順を示す.溶接施工条件は, 事前に溶接施工試験を行って決定している.施工 手順は,バックアップ材を当てて溶接する際に, 裏当て金の前後に隙間ができるため,始めに写真 2 に示すように裏当ての前後を溶接して隙間を埋 めている.次にバックアップ材を当てた状態で片 側から溶接を行い,バックアップ材を外した後, ձ ղ ճ 䐢 䐣 䐤 ձ ղ ճ 䐣 䐢 䐤   図5 回し溶接の順序 図4 スリット詳細(単位:mm) ղ࢞ࢫษ᩿ ձᏍ࠶ࡅ䃥          図7 梁ウェブ水平スチフナ詳細(単位:mm) ― 77 ―

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7 / 13 試験 体名 スカラップ 底の延性 き裂発生 破壊の タイミング 破壊の起点 eMmax (kNm) ebMMmaxp EηS EηA + - + - + - + - Total SBR +2Rp(1) -4Rp(1) スカラップ底 1819 -1742 1.22 -1.17 3.5 2.3 5.7 5.7 11.4 PL -4Rp(1) -4Rp(1) スカラップ底 1722 -1718 1.20 -1.19 2.7 1.8 4.1 4.2 8.3 SL -2Rp(1) -6Rp(1) スカラップ底 1918 -2030 1.33 -1.41 6.0 7.8 17.5 20.1 37.6 MW +2Rp(2) +4Rp(1) スカラップ底 1862 -1680 1.25 -1.13 3.0 1.3 6.0 2.8 8.8 NS - +6Rp(1) 埋め戻し溶接溶接止端部 1950 -2019 1.36 -1.40 4.3 5.1 16.6 12.7 29.3 WS -2Rp(1) -6Rp(2) スカラップ底 2280 -2429 1.59 -1.69 10.5 9.5 27.5 28.3 55.8 表6 主要な実験結果 eMmax: 最 大 曲 げ 耐 力 実 験 値,bMp: 全 塑 性 曲 げ モ ー メ ン ト 計 算 値(SBR,MW=1493 kNm,PL,SL,NS, WS=1438 kNm),EηS:骨格曲線を対象とした塑性変形倍率,EηA:履歴曲線を対象とした累積塑性変形倍率 図11 M-R 関係 -6 -4 -2 0 2 4 6 R / Rp PL -4Rp(1) -6 -4 -2 0 2 4 6 -2 -1 0 1 2 MW +4Rp(1) R / Rp M / b M p -6 -4 -2 0 2 4 6 NS +6Rp(1) R / Rp -6 -4 -2 0 2 4 6 SL -6Rp(1) R / Rp -6 -4 -2 0 2 4 6 R / Rp WS -6Rp(2) -6 -4 -2 0 2 4 6 -2 -1 0 1 2 R / Rp -4Rp(1) SBR M / b M p 試験体は改善を施していないPL 試験体に比べて 梁の塑性変形能力が向上していることがわかる. 他方でMW 試験体は改善を施していない SBR 試 験体に比べて塑性変形能力が劣化していることが わかる.各試験体の実験経過および破壊性状につ いては4.4 節で詳しく述べる. 4. 2 力学性能の改善効果  図12 に履歴曲線より抽出した正側,負側の 骨格曲線を示す[13].横軸は骨格曲線の部材角 sR を Rpで無次元化している.図12(a)から, SBR・MW 試験体は骨格曲線がほぼ一致している ことがわかる.図12(b)から,NS・WS 試験体 は,PL 試験体に比べて同一部材角時の曲げ耐力 が大きいことがわかる.これはNS 試験体はスカ ラップを埋めたことにより断面性能が向上したこ と,WS 試験体はスチフナが曲げを負担したこと が影響していると考えられる.PL・SL 試験体は 骨格曲線がほぼ一致していることから,スリット の存在が梁の曲げ耐力の低下へ与える影響は小さ いといえる. 6 / 13 図9 シャルピー試験片の採取位置(単位:mm) ( ) exp[ ( )] v shelf v v re E E T T T α = − − +1 ( ) exp β( ) = − +     100 1 r v s C T T T (1a) 表5 シャルピー衝撃試験結果 採取位置 vE0 (J) vE(J)shelf (℃ )vTre (℃ )vTs α×10 -2 (℃-1) β×10 -2 (℃-1) SAW 部 a 材 14 59 46.2 52.9 2.46 3.65 b 材 15 80 29.4 43.2 3.78 6.72 母材部 a 材 191 220 -37.9 -26.2 4.98 4.97 b 材 165 238 -25.8 -11.2 3.34 4.71 vE0:0℃吸収エネルギー,vEshelf:上部棚吸収エネルギー,vTre:エネルギー遷移温度,vTs:破面遷移温度, α:エネルギー遷移係数,β:破面遷移係数 -60 -30 0 30 60 90 0 50 100 150 200 250 v E (J) T (�) 27J ���(a�) ���(b�) SAW�(a�) SAW�(b�) -60 -30 0 30 60 90 0 20 40 60 80 100 T (�) Cr (%) 図10 シャルピー衝撃試験結果 (a) 吸収エネルギー (b) 脆性破面率 (1b) あり,SAW 部と母材部から採取している.SAW 部については,載荷実験時に梁フランジに材軸 方向に引張力が作用することを想定し,試験片 が全て溶接金属となるように採取している.表 5,図 10 にシャルピー衝撃試験結果を示す.母 材部の0℃シャルピー吸収エネルギーvE0はa 材 が191J,b 材が 165J であり 100J を超えている. 他方で,SAW 部のvE0はa 材が 14J,b 材が 15J と27J を下まわっており,母材部に比べて非常に 小さいことがわかる. 3. 4 載荷方法   載荷は,図3 に示しているように,油圧ジャッ キにより梁自由端に正負交番の漸増振幅繰返し荷 重を作用させるものである.制御は,次式で求め られる梁部材角R に対して行っている. u u v v R L h − + = 1 2 − 1 2 2)      ここで, 変位 u1,u2,v1,v2は正載荷時に変形す る方向が正である.  載荷履歴は,±弾性域,±2Rp,±4Rp,±6Rp をそれぞれ2 回ずつ繰返す.ここで,Rpは表4 の素材試験結果に基づく全塑性曲げモーメント 計 算 値bMp(a 材 で =1493 kNm,b 材 で =1438 kNm) に 対 応 す る 弾 性 部 材 角 計 算 値(a 材 で =0.00609 rad,b 材で =0.00595 rad)であり,梁 部材の曲げ変形とせん断変形を考慮して算定して いる. 4. 実験結果 4. 1 実験経過  図11 に梁の M-R の関係,表 6 に主要な実験 結果を示す.図11 の縦軸および横軸はbMpRp でそれぞれ無次元化しており,図中には破壊を生 じた時点およびサイクルを併記している.同一 ロット材の梁同士で比較すると,SL・NS・WS 㻎 㻎   㒊 ẕᮦ㒊   ― 78 ―

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7 / 13 試験 体名 スカラップ 底の延性 き裂発生 破壊の タイミング 破壊の起点 eMmax (kNm) ebMMmaxp EηS EηA + - + - + - + - Total SBR +2Rp(1) -4Rp(1) スカラップ底 1819 -1742 1.22 -1.17 3.5 2.3 5.7 5.7 11.4 PL -4Rp(1) -4Rp(1) スカラップ底 1722 -1718 1.20 -1.19 2.7 1.8 4.1 4.2 8.3 SL -2Rp(1) -6Rp(1) スカラップ底 1918 -2030 1.33 -1.41 6.0 7.8 17.5 20.1 37.6 MW +2Rp(2) +4Rp(1) スカラップ底 1862 -1680 1.25 -1.13 3.0 1.3 6.0 2.8 8.8 NS - +6Rp(1) 埋め戻し溶接溶接止端部 1950 -2019 1.36 -1.40 4.3 5.1 16.6 12.7 29.3 WS -2Rp(1) -6Rp(2) スカラップ底 2280 -2429 1.59 -1.69 10.5 9.5 27.5 28.3 55.8 表6 主要な実験結果 eMmax: 最 大 曲 げ 耐 力 実 験 値,bMp: 全 塑 性 曲 げ モ ー メ ン ト 計 算 値(SBR,MW=1493 kNm,PL,SL,NS, WS=1438 kNm),EηS:骨格曲線を対象とした塑性変形倍率,EηA:履歴曲線を対象とした累積塑性変形倍率 図11 M-R 関係 -6 -4 -2 0 2 4 6 R / Rp PL -4Rp(1) -6 -4 -2 0 2 4 6 -2 -1 0 1 2 MW +4Rp(1) R / Rp M / b M p -6 -4 -2 0 2 4 6 NS +6Rp(1) R / Rp -6 -4 -2 0 2 4 6 SL -6Rp(1) R / Rp -6 -4 -2 0 2 4 6 R / Rp WS -6Rp(2) -6 -4 -2 0 2 4 6 -2 -1 0 1 2 R / Rp -4Rp(1) SBR M / b M p 試験体は改善を施していないPL 試験体に比べて 梁の塑性変形能力が向上していることがわかる. 他方でMW 試験体は改善を施していない SBR 試 験体に比べて塑性変形能力が劣化していることが わかる.各試験体の実験経過および破壊性状につ いては4.4 節で詳しく述べる. 4. 2 力学性能の改善効果  図12 に履歴曲線より抽出した正側,負側の 骨格曲線を示す[13].横軸は骨格曲線の部材角 sR を Rpで無次元化している.図12(a)から, SBR・MW 試験体は骨格曲線がほぼ一致している ことがわかる.図12(b)から,NS・WS 試験体 は,PL 試験体に比べて同一部材角時の曲げ耐力 が大きいことがわかる.これはNS 試験体はスカ ラップを埋めたことにより断面性能が向上したこ と,WS 試験体はスチフナが曲げを負担したこと が影響していると考えられる.PL・SL 試験体は 骨格曲線がほぼ一致していることから,スリット の存在が梁の曲げ耐力の低下へ与える影響は小さ いといえる. 6 / 13 図9 シャルピー試験片の採取位置(単位:mm) ( ) exp[ ( )] v shelf v v re E E T T T α = − − +1 ( ) exp β( ) = − +     100 1 r v s C T T T (1a) 表5 シャルピー衝撃試験結果 採取位置 vE0 (J) vE(J)shelf (℃ )vTre (℃ )vTs α×10 -2 (℃-1) β×10 -2 (℃-1) SAW 部 a 材 14 59 46.2 52.9 2.46 3.65 b 材 15 80 29.4 43.2 3.78 6.72 母材部 a 材 191 220 -37.9 -26.2 4.98 4.97 b 材 165 238 -25.8 -11.2 3.34 4.71 vE0:0℃吸収エネルギー,vEshelf:上部棚吸収エネルギー,vTre:エネルギー遷移温度,vTs:破面遷移温度, α:エネルギー遷移係数,β:破面遷移係数 -60 -30 0 30 60 90 0 50 100 150 200 250 v E (J) T (�) 27J ���(a�) ���(b�) SAW�(a�) SAW�(b�) -60 -30 0 30 60 90 0 20 40 60 80 100 T (�) Cr (%) 図10 シャルピー衝撃試験結果 (a) 吸収エネルギー (b) 脆性破面率 (1b) あり,SAW 部と母材部から採取している.SAW 部については,載荷実験時に梁フランジに材軸 方向に引張力が作用することを想定し,試験片 が全て溶接金属となるように採取している.表 5,図 10 にシャルピー衝撃試験結果を示す.母 材部の0℃シャルピー吸収エネルギーvE0はa 材 が191J,b 材が 165J であり 100J を超えている. 他方で,SAW 部のvE0はa 材が 14J,b 材が 15J と27J を下まわっており,母材部に比べて非常に 小さいことがわかる. 3. 4 載荷方法   載荷は,図3 に示しているように,油圧ジャッ キにより梁自由端に正負交番の漸増振幅繰返し荷 重を作用させるものである.制御は,次式で求め られる梁部材角R に対して行っている. u u v v R L h − + = 1 2 − 1 2 2)      ここで, 変位 u1,u2,v1,v2は正載荷時に変形す る方向が正である.  載荷履歴は,±弾性域,±2Rp,±4Rp,±6Rp をそれぞれ2 回ずつ繰返す.ここで,Rpは表4 の素材試験結果に基づく全塑性曲げモーメント 計 算 値bMp(a 材 で =1493 kNm,b 材 で =1438 kNm) に 対 応 す る 弾 性 部 材 角 計 算 値(a 材 で =0.00609 rad,b 材で =0.00595 rad)であり,梁 部材の曲げ変形とせん断変形を考慮して算定して いる. 4. 実験結果 4. 1 実験経過  図11 に梁の M-R の関係,表 6 に主要な実験 結果を示す.図11 の縦軸および横軸はbMpRp でそれぞれ無次元化しており,図中には破壊を生 じた時点およびサイクルを併記している.同一 ロット材の梁同士で比較すると,SL・NS・WS 㻎 㻎   㒊 ẕᮦ㒊   ― 79 ―

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9 / 13 能力の評価指標には,履歴曲線に基づく累積塑性 変形倍率EηAならびに骨格曲線に基づく塑性変形 倍率EηSを用いる[13].ここで,EηAおよびEηS は塑性変形による吸収エネルギーに基づく評価指 標であり,それぞれ履歴曲線や骨格曲線に面積が 等価な完全弾塑性関係の塑性変形倍率に相当す る.図14(a)から,EηAはWS 試験体> SL 試 験体>NS 試験体> SBR 試験体> MW 試験体> PL 試験体の順に大きいことがわかる.また,梁 崩壊するラーメン骨組の構造ランクⅠの部材に要 求される塑性変形能力はreqη b A =20 であり [3],改 善を施したSL・NS・WS 試験体は要求性能を満 足している.他方でMW 試験体は改善を図った にもかかわらず,要求性能を満足していない.図 14(b)からも概ね同様の傾向がわかる. 4. 3 梁フランジの歪性状  図15 に梁フランジの歪測定位置を,図 16 に梁 フランジ幅端部の骨格歪εfを示す.ここでεfは 負載荷時の引張側梁フランジの結果である.PL 試験体に比べて,NS・WS 試験体は同一部材角 時のεfが小さくなっており,WS 試験体のεfが最 も小さい.よってNS・WS 試験体は,PL 試験体 よりも梁フランジに作用する負荷が小さくなった ことで,塑性変形能力が向上したものと考えられ る.また,WS 試験体はスチフナの存在により梁 フランジに作用する引張力が大幅に軽減されたた めに,スカラップ底に発生した延性き裂の進展が 抑えられ,塑性変形能力が最も向上したものと考 えられる. 4. 4 破壊性状  表7 に各試験体の破壊状況の一覧を示す.以下 に,各試験体の破壊状況を述べる.  SBR 試験体は,+2Rp(1) でスカラップ底におい て図17(a)に示すような不溶着上部から延性き 裂の発生が目視により確認され,-4Rp(1) で梁フ ランジが脆性破壊を生じている.また,脆性破壊 への転化点は,SAW 金属であることが確認され ている.  PL 試験体は,-4Rp(1) でスカラップ底において 図17(a)に示すような不溶着上部から延性き裂 の発生が目視で確認された直後に,梁フランジが 脆性破壊を生じている.また,脆性破壊への転化 点は,SAW 金属であることが確認されている.  SL 試験体は,-2Rp(1) でスカラップ底において 図17(b)に示すような不溶着端部から延性き裂 の発生が目視により確認されている.以後,延性 図17 スカラップ底の延性き裂発生位置 ୙⁐╔㒊 ⁐᥋㔠ᒓࡢ๐ࡾṧࡋ 㛤ཱྀ ᘏᛶࡁ⿣ ୙⁐╔➃ ᘏᛶࡁ⿣ ⁐᥋㔠ᒓࡢ๐ࡾṧࡋ 2 4 6 2 4 6 0 RS / Rp εf (%) PL NS WS      図15 歪測定位置 図16 梁フランジ骨格歪 (a) 不溶着上部から発生 (b) 不溶着端部から発生 8 / 13 0 20 40 60 E ηA NS SLMW WS PL SBR 0 5 10 15 �� �� E ηS MW SL NS WS PL SBR 1 1.2 1.4 1.6 1.8 e M max / b M p SL MW NS WS �� �� PL SBR 図14 塑性変形能力の比較 (a) 累積塑性変形倍率 (b) 塑性変形倍率 図13 耐力上昇率の比較 η req b A  図13 に耐力上昇率eMmax /bMpの比較を示す. ここでeMmaxは最大曲げ耐力実験値,bMpは全塑 性曲げモーメント計算値である.まず,改善を 施していない試験体に対する改善効果をみると, SL・NS 試験体は PL 試験体の約 1.2 倍,WS 試 験は約1.4 倍となっている.他方で MW 試験体は SBR 試験体と大差が無い.次に,本論文ではbMp の計算に素材試験結果を使用しているため,塑性 変形性能を保証するために必要な梁端のひずみ硬 図12 骨格曲線 (a) SBR,MW 試験体の比較 (b) PL,SL,NS,WS 試験体の比較 化による耐力上昇を考慮した係数であるξ=1.2 と 比較する[14].図 13 から,正側ではすべての試 験体のeMmax /bMpが1.2 以上となっているが,負 側ではSBR・PL・MW 試験体のeMmax /bMpが1.2 未満である.前述しているとおり,WS 試験体は スチフナが曲げを負担していることで梁の曲げ耐 力と変形性能が向上し,耐力上昇率が大幅に上昇 したものと考えられる.  図14 に塑性変形能力の比較を示す.塑性変形 ξ 0 2 4 6 8 10 0.5 1 1.5 2 sR / Rp M / b M p MW�� SBR�� �� 0 2 4 6 8 10 -2 -1.5 -1 -0.5 sR / Rp SBR MW �� 0 2 4 6 8 10 0.5 1 1.5 2 sR / Rp M / b M p �� 0 2 4 6 8 10 -2 -1.5 -1 -0.5 sR / Rp WS�� NS�� PL�� SL�� PL SL NS WS �� ― 80 ―

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9 / 13 能力の評価指標には,履歴曲線に基づく累積塑性 変形倍率EηAならびに骨格曲線に基づく塑性変形 倍率EηSを用いる[13].ここで,EηAおよびEηS は塑性変形による吸収エネルギーに基づく評価指 標であり,それぞれ履歴曲線や骨格曲線に面積が 等価な完全弾塑性関係の塑性変形倍率に相当す る.図14(a)から,EηAはWS 試験体> SL 試 験体>NS 試験体> SBR 試験体> MW 試験体> PL 試験体の順に大きいことがわかる.また,梁 崩壊するラーメン骨組の構造ランクⅠの部材に要 求される塑性変形能力はreqη b A=20 であり [3],改 善を施したSL・NS・WS 試験体は要求性能を満 足している.他方でMW 試験体は改善を図った にもかかわらず,要求性能を満足していない.図 14(b)からも概ね同様の傾向がわかる. 4. 3 梁フランジの歪性状  図15 に梁フランジの歪測定位置を,図 16 に梁 フランジ幅端部の骨格歪εfを示す.ここでεfは 負載荷時の引張側梁フランジの結果である.PL 試験体に比べて,NS・WS 試験体は同一部材角 時のεfが小さくなっており,WS 試験体のεfが最 も小さい.よってNS・WS 試験体は,PL 試験体 よりも梁フランジに作用する負荷が小さくなった ことで,塑性変形能力が向上したものと考えられ る.また,WS 試験体はスチフナの存在により梁 フランジに作用する引張力が大幅に軽減されたた めに,スカラップ底に発生した延性き裂の進展が 抑えられ,塑性変形能力が最も向上したものと考 えられる. 4. 4 破壊性状  表7 に各試験体の破壊状況の一覧を示す.以下 に,各試験体の破壊状況を述べる.  SBR 試験体は,+2Rp(1) でスカラップ底におい て図17(a)に示すような不溶着上部から延性き 裂の発生が目視により確認され,-4Rp(1) で梁フ ランジが脆性破壊を生じている.また,脆性破壊 への転化点は,SAW 金属であることが確認され ている.  PL 試験体は,-4Rp(1) でスカラップ底において 図17(a)に示すような不溶着上部から延性き裂 の発生が目視で確認された直後に,梁フランジが 脆性破壊を生じている.また,脆性破壊への転化 点は,SAW 金属であることが確認されている.  SL 試験体は,-2Rp(1) でスカラップ底において 図17(b)に示すような不溶着端部から延性き裂 の発生が目視により確認されている.以後,延性 図17 スカラップ底の延性き裂発生位置 ୙⁐╔㒊 ⁐᥋㔠ᒓࡢ๐ࡾṧࡋ 㛤ཱྀ ᘏᛶࡁ⿣ ୙⁐╔➃ ᘏᛶࡁ⿣ ⁐᥋㔠ᒓࡢ๐ࡾṧࡋ 2 4 6 2 4 6 0 RS / Rp εf (%) PL NS WS      図15 歪測定位置 図16 梁フランジ骨格歪 (a) 不溶着上部から発生 (b) 不溶着端部から発生 8 / 13 0 20 40 60 E ηA NS SLMW WS PL SBR 0 5 10 15 �� �� E ηS MW SL NS WS PL SBR 1 1.2 1.4 1.6 1.8 e M max / b M p SL MW NS WS �� �� PL SBR 図14 塑性変形能力の比較 (a) 累積塑性変形倍率 (b) 塑性変形倍率 図13 耐力上昇率の比較 η req b A  図13 に耐力上昇率eMmax /bMpの比較を示す. ここでeMmaxは最大曲げ耐力実験値,bMpは全塑 性曲げモーメント計算値である.まず,改善を 施していない試験体に対する改善効果をみると, SL・NS 試験体は PL 試験体の約 1.2 倍,WS 試 験は約1.4 倍となっている.他方で MW 試験体は SBR 試験体と大差が無い.次に,本論文ではbMp の計算に素材試験結果を使用しているため,塑性 変形性能を保証するために必要な梁端のひずみ硬 図12 骨格曲線 (a) SBR,MW 試験体の比較 (b) PL,SL,NS,WS 試験体の比較 化による耐力上昇を考慮した係数であるξ=1.2 と 比較する[14].図 13 から,正側ではすべての試 験体のeMmax /bMpが1.2 以上となっているが,負 側ではSBR・PL・MW 試験体のeMmax /bMpが1.2 未満である.前述しているとおり,WS 試験体は スチフナが曲げを負担していることで梁の曲げ耐 力と変形性能が向上し,耐力上昇率が大幅に上昇 したものと考えられる.  図14 に塑性変形能力の比較を示す.塑性変形 ξ 0 2 4 6 8 10 0.5 1 1.5 2 sR / Rp M / b M p MW�� SBR�� �� 0 2 4 6 8 10 -2 -1.5 -1 -0.5 sR / Rp SBR MW �� 0 2 4 6 8 10 0.5 1 1.5 2 sR / Rp M / b M p �� 0 2 4 6 8 10 -2 -1.5 -1 -0.5 sR / Rp WS�� NS�� PL�� SL�� PL SL NS WS �� ― 81 ―

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11 / 13 き裂が梁の変形の進行に伴って進展し,SAW 金 属を通過している.また,-6Rp(1) で梁フランジ 外面中央の溶接止端部からも延性き裂の発生が確 認され,スカラップ底からの延性き裂とつながる 前に梁フランジが脆性破壊を生じている.スリッ ト先端からの延性き裂発生などの異常は確認され ていない.  MW 試験体は,+2Rp(2) でスカラップ底におけ る回し溶接の溶接止端部に延性き裂の発生が目視 により確認され,+4Rp(1) で梁フランジが脆性破 壊を生じている.脆性破壊への転化点はスカラッ プ底に残留するSAW 金属であることが確認され ている.梁の塑性変形能力が向上しなかったのは, 回し溶接の溶接止端部に応力・歪が集中して,回 し溶接を行っていないSBR 試験体に比べて早期 に延性き裂が発生し,直ちに梁フランジ母材の板 厚方向へ進展したことが影響していると考えられ る.また,スカラップ底に残留するSAW 金属で 脆性破壊に転化したことから,再熱効果が無く, SAW 金属の靭性は低いままであったと考えられ る.  NS 試験体は,埋め戻し溶接部近傍からの延性 き裂の発生は確認されず,表7 に示す SAW ビー ド上の溶接止端部を起点として,+6Rp(1) で梁フ ランジが脆性破壊を生じている.よって,SAW 金属の靭性が低い場合,SAW ビード上に応力集 中箇所を設けてしまうと,当該箇所を起点として 脆性破壊が生じることから,改善効果が小さくな るおそれがあるといえる.  WS 試験体は,-2Rp(1) でスカラップ底におい て図17(b)に示すような不溶着端部から延性き 裂の発生が目視により確認されている.その後, 延性き裂の進展は確認されず,-6Rp(2) で梁フラ ンジが脆性破壊を生じている.脆性破壊への転化 点はSAW 金属であることが確認されている. 4. 5 破面分析  各試験体の梁フランジ側破面を見ると,SBR・ PL・MW・NS・WS 試験体は破面全体に明瞭な シェブロンパターンが確認でき,脆性破壊への転 化点はSAW 部であることがわかる.他方で,SL 試験体はスカラップ底から発生した延性き裂が SAW 部を突破して梁フランジ母材へ進展した後 に脆性破壊していることがわかる.以下,脆性破 壊への転化点が異なっている点を考察する.  まず,延性き裂の発生モードをみると,SL 試 験体とWS 試験体は図 17(b)のモードで共通し ているが,脆性破壊への転化点は異なっているた め,延性き裂発生モードとの関連は薄いようであ -6Rp(1) 写真3 SL 試験体の延性き裂の進展範囲 SAW 部 フュージョンライン -4Rp(1) -4Rp(2) る.次に,靱性の影響であるが,溶接部の破壊靭 性が大きなばらつきをもち,極めて低い靱性を呈 するのは,溶接金属近傍の母材(溶接熱影響部) に存在する局部的な脆化部が大きな役割を果たし ていることが指摘されている[15].一方で溶融金 属部における組織変化は非常に複雑であり,ミク ロな観点ではSAW 金属の材質もまったく同じで あることはない.  したがって,SL 試験体は SAW 金属および熱 影響部のミクロな材質の違いに起因して,SAW 部で脆性破壊に転化しなかった可能性がある.脆 性破壊への転化については明らかとなっていない 点が多いため,その要因の解明については今後の 課題とするが,ここでは他の試験体と同様の位置 で脆性破壊に転化した場合のSL 試験体の塑性変 形能力の評価を試みる.  写真3 に破面解析より得られた,SL 試験体の 各サイクルの延性き裂の進展範囲を示す.写真3 には破面から10mm 離れた位置の断面マクロか ら得られた,SAW 部のフュージョンラインを併 記している.スカラップ底から発生した延性き 裂は,-4Rp(2) で SAW 部に進展し,-6Rp(1) には SAW 部を突破して梁フランジ母材へ進展したと 考えられる.延性き裂がSAW 部に進展したとき に脆性破壊に転化すると仮定すると,SL 試験体 は+4Rp(2) と -4Rp(2) の間で破壊することになる. SL 試験体の +4Rp(2) 終了時までのEηAは17.1 程 度,-4Rp(2) 終了時までのEηAは21.5 程度であり, 梁の要求性能であるreqη b A=20 を大きく上回るよ うな塑性変形能力が得られない可能性がある. 5. 結論  本論文では,まず,既往研究からスカラップ底 からの破壊を防止し,梁の塑性変形能力を向上さ せるための改善方法を抽出した.次に,サブマー 10 / 13 表7 破壊状況一覧 梁フランジ外面 スカラップ底近傍 梁フランジ側破面 SBR PL SL MW NS WS 破壊 起点 ― 82 ―

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11 / 13 き裂が梁の変形の進行に伴って進展し,SAW 金 属を通過している.また,-6Rp(1) で梁フランジ 外面中央の溶接止端部からも延性き裂の発生が確 認され,スカラップ底からの延性き裂とつながる 前に梁フランジが脆性破壊を生じている.スリッ ト先端からの延性き裂発生などの異常は確認され ていない.  MW 試験体は,+2Rp(2) でスカラップ底におけ る回し溶接の溶接止端部に延性き裂の発生が目視 により確認され,+4Rp(1) で梁フランジが脆性破 壊を生じている.脆性破壊への転化点はスカラッ プ底に残留するSAW 金属であることが確認され ている.梁の塑性変形能力が向上しなかったのは, 回し溶接の溶接止端部に応力・歪が集中して,回 し溶接を行っていないSBR 試験体に比べて早期 に延性き裂が発生し,直ちに梁フランジ母材の板 厚方向へ進展したことが影響していると考えられ る.また,スカラップ底に残留するSAW 金属で 脆性破壊に転化したことから,再熱効果が無く, SAW 金属の靭性は低いままであったと考えられ る.  NS 試験体は,埋め戻し溶接部近傍からの延性 き裂の発生は確認されず,表7 に示す SAW ビー ド上の溶接止端部を起点として,+6Rp(1) で梁フ ランジが脆性破壊を生じている.よって,SAW 金属の靭性が低い場合,SAW ビード上に応力集 中箇所を設けてしまうと,当該箇所を起点として 脆性破壊が生じることから,改善効果が小さくな るおそれがあるといえる.  WS 試験体は,-2Rp(1) でスカラップ底におい て図17(b)に示すような不溶着端部から延性き 裂の発生が目視により確認されている.その後, 延性き裂の進展は確認されず,-6Rp(2) で梁フラ ンジが脆性破壊を生じている.脆性破壊への転化 点はSAW 金属であることが確認されている. 4. 5 破面分析  各試験体の梁フランジ側破面を見ると,SBR・ PL・MW・NS・WS 試験体は破面全体に明瞭な シェブロンパターンが確認でき,脆性破壊への転 化点はSAW 部であることがわかる.他方で,SL 試験体はスカラップ底から発生した延性き裂が SAW 部を突破して梁フランジ母材へ進展した後 に脆性破壊していることがわかる.以下,脆性破 壊への転化点が異なっている点を考察する.  まず,延性き裂の発生モードをみると,SL 試 験体とWS 試験体は図 17(b)のモードで共通し ているが,脆性破壊への転化点は異なっているた め,延性き裂発生モードとの関連は薄いようであ -6Rp(1) 写真3 SL 試験体の延性き裂の進展範囲 SAW 部 フュージョンライン -4Rp(1) -4Rp(2) る.次に,靱性の影響であるが,溶接部の破壊靭 性が大きなばらつきをもち,極めて低い靱性を呈 するのは,溶接金属近傍の母材(溶接熱影響部) に存在する局部的な脆化部が大きな役割を果たし ていることが指摘されている[15].一方で溶融金 属部における組織変化は非常に複雑であり,ミク ロな観点ではSAW 金属の材質もまったく同じで あることはない.  したがって,SL 試験体は SAW 金属および熱 影響部のミクロな材質の違いに起因して,SAW 部で脆性破壊に転化しなかった可能性がある.脆 性破壊への転化については明らかとなっていない 点が多いため,その要因の解明については今後の 課題とするが,ここでは他の試験体と同様の位置 で脆性破壊に転化した場合のSL 試験体の塑性変 形能力の評価を試みる.  写真3 に破面解析より得られた,SL 試験体の 各サイクルの延性き裂の進展範囲を示す.写真3 には破面から10mm 離れた位置の断面マクロか ら得られた,SAW 部のフュージョンラインを併 記している.スカラップ底から発生した延性き 裂は,-4Rp(2) で SAW 部に進展し,-6Rp(1) には SAW 部を突破して梁フランジ母材へ進展したと 考えられる.延性き裂がSAW 部に進展したとき に脆性破壊に転化すると仮定すると,SL 試験体 は+4Rp(2) と -4Rp(2) の間で破壊することになる. SL 試験体の +4Rp(2) 終了時までのEηAは17.1 程 度,-4Rp(2) 終了時までのEηAは21.5 程度であり, 梁の要求性能であるreqη b A=20 を大きく上回るよ うな塑性変形能力が得られない可能性がある. 5. 結論  本論文では,まず,既往研究からスカラップ底 からの破壊を防止し,梁の塑性変形能力を向上さ せるための改善方法を抽出した.次に,サブマー 10 / 13 表7 破壊状況一覧 梁フランジ外面 スカラップ底近傍 梁フランジ側破面 SBR PL SL MW NS WS 破壊 起点 ― 83 ―

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13 / 13  次に,改善なしモデルのKⅠとスリットモデル のKⅠを比較すると,破線のスリットモデルの方 が不溶着端部に作用するKⅠが減少していること がわかる.  ここでは不溶着端部に生じるKⅠに着目して改 善方法の検討を行っているが,き裂の進展方向に 着目すると,不溶着端部に生じるモードⅠでのき 裂の進展方向と,梁フランジ破断が生じるときの き裂の進展方向は実際には異なっている.モード Ⅰでのき裂進展が,梁フランジの破断へ与える影 響については明らかになっていないのが現状であ り,破壊評価指標の適正検討は今後の課題とする. 中野達也,前山大:ビルトH 梁端接合部の塑 性変形能力と破壊性状(先組みビルトH 梁を 用いた鋼構造梁端接合部の力学性能 その 1), 日本建築学会構造系論文報告集,第711 号, 2015.5 倉成真也,中野達也:先組みビルトH 梁を 用いた梁端接合部の脆性破壊,日本鋼構造協 会鋼構造年次論文報告集,第22 巻,pp.742-748,2014.11 日本建築学会:建築耐震設計における保有耐 力と変形性能(1990),鋼構造編,1990.10 日本鋼構造協会,日本建築防災協会:2013 年改訂版 既存鉄骨造建築物の耐震改修施工マ ニュアル,2013.8 JayAllen,JamesPartridge,SkipRadau, Ralph Richard:DUCTILE CONNECTION D E S I G N S F O R W E L D E D S T E E L M O M E N T F R A M E S , S E A O C 1 9 9 5 Convention Proceedings,pp.253-269, 1995.10 石原清孝,小野喜信,宇佐美徹:現場溶接形 式のノンスカラップ工法による柱梁接合部の 構造特性,日本建築学会大会 学術講演梗概集, C-1 構造Ⅲ,pp.729-732,2014.9 金和幸,中野達也,宗川陽祐:梁ウェブ水平 スチフナによる梁端接合部の補強実験-既存 鋼構造建築物における梁端接合部の補強方 法-,日本建築学会 関東支部研究報告集Ⅰ, pp.609-612,2015.3 的場弘晃,浅田勇人,田中剛,山田哲,上原 拓馬:梁にH 形鋼を高力ボルト接合により 付加する耐震補強構法に関する研究(その 4 角形鋼管柱梁接合部を対象とした実験の概 要,その5 角形鋼管柱梁接合部を対象とした [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] 参考文献 実験の結果と有限要素解析による検証),日 本建築学会大会学術講演梗概集,C-1 構造Ⅲ, pp.791-794,2015.9 倉成真也,中野達也:先組みビルトH 梁の補 修工法に関する有限要素解析,日本建築学会 関東支部研究報告集Ⅰ,pp.613-616,2015.3 豊憲太,伊中泰穂,浅田勇人,多賀 謙蔵,田 邉 義和:既存超高層建築物の梁端溶接接合部 の補強方法に関する研究,鋼構造年次論文報 告集,第21 巻,pp.559-566,2013.11 井川大裕,吹田啓一郎,多賀謙蔵,田邉義和, 塚越治夫,坂井悠佑:変厚鋼板を梁フランジ に用いた梁端溶接接合部の塑性変形能力と破 断防止設計法,鋼構造論文集,第19 巻第 75 号, pp.27-39,2012.9 日本建築センター:鉄骨梁端溶接接合部の脆 性的破断防止ガイドライン・同解説, 2003.9 建築研究所,日本建築連盟:鋼構造建築物の 構造性能評価試験法に関する研究 委員会報告 書,pp.81-83,2002.4 日 本 建 築 学 会: 鋼 構 造 接 合 部 設 計 指 針, pp.128-129,2012.7 産業技術サービスセンター:接合・溶接技術 Q & A 1000,pp.428-429,1999.8 [9] [10] [11] [12] [13] [14] [15] 12 / 13 付録1.不溶着部に作用する負荷モード  文献[9] では,不溶着部に作用する負荷モード に着目し,不溶着端部に生じる応力拡大係数の比 較を行うことで,スリットによる改善方法の改善 効果の検討を行っている.  梁が曲げ変形を受け,梁フランジに引張力が生 じるとき,スカラップ底の不溶着部に生じる負荷 は付図1 に示す開口と,面外せん断の 2 種類が考 えられる.不溶着部をき裂とみなして不溶着端部 に生じる負荷を応力拡大係数で評価すると,破壊 力学におけるモードの違いにより,付図2 のモー ドⅠとモードⅢに分類され,それぞれの値は次式 で表される.   =σ π � yy K a (付1)    K=τxz πa (付2) ここで,KⅠはモードⅠの応力拡大係数,KⅢはモー ドⅢの応力拡大係数,σyyはy 軸方向の垂直応力度, ・ ・ スリットによる改善方法を適用した試験体は, 脆性破壊への転化点が改善を施していない試験 体と異なっており,延性き裂がサブマージアー ク溶接部で脆性破壊に転化しなかった要因にミ クロな材質の違いの影響が考えられる.よっ て,延性き裂がサブマージアーク溶接部で脆性 破壊に転化する場合,梁の要求性能を大きく上 回るような塑性変形能力が得られない可能性が ある. サブマージアーク溶接金属の靭性が低いビルト H 梁に対して埋め戻し溶接を行う場合,サブ マージアーク溶接金属のビード上に応力集中箇 所を設けてしまうと,当該箇所を起点として脆 性破壊が生じることから,改善効果が小さくな るおそれがある. ジアーク溶接金属の靭性が低い先組みビルトH 梁を用いた梁端接合部に改善方法を適用し,載荷 実験により塑性変形能力の改善効果を確認した.  スリット,埋め戻し溶接,梁ウェブ水平スチフ ナによる改善方法を適用した試験体は梁の要求性 能を上回る塑性変形能力を示し,各試験体の塑性 変形能力は,梁ウェブ水平スチフナ>スリット> 埋め戻し溶接の順で優れていた.他方で,回し溶 接を施した試験体は,改善を施していない試験体 よりも塑性変形能力が劣化した.ただし,改善方 法の適用に際しては次の2 点に注意が必要であ る. τxzはx軸に対するz軸方向のせん断応力度であり, α は不溶着幅の半長(m)である.  付図3 に応力度データの抽出位置を示す.応力 度データは不溶着端部に沿って抽出している.付 図4 に梁の変形角が 0.005rad 時の KⅠ,KⅢの比 較を示す.実線が改善なしモデルのKⅠ,1 点鎖 線が改善なしモデルのKⅢを示しており,KⅠに比 べKⅢは極端に値が小さく,モードⅠによる負荷 が支配的であるといえる. ୙⁐╔➃ ࢹ࣮ࢱ ᢳฟ఩⨨ 付図3 データ抽出位置 㛤ཱྀ 㠃እࡏࢇ᩿     ࣮ࣔࢻϩ ࡏࢇ᩿    ࣮ࣔࢻϪ 㠃እࡏࢇ᩿    ࣮ࣔࢻϨ 㛤ཱྀ    付図2 破壊力学モード 付図1 不溶着部に作用する負荷モード -2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 50 100 150 � � � � � � K � ,K � R������ (mm) ����K� ����K� ����K� 付図4 応力拡大係数の比較(0.005rad) R 底 ▽ ― 84 ―

参照

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