財政学
講義ノート16 佐藤主光(もとひろ)
税の機能と帰結
税の「経済的帰結」≠建前・意図 理念(政策的意図)は掲げただけで実現するわけではない ⇒その実現の有無は、経済主体の誘因との両立性に拠る 例:格差是正を掲げた所得税の増税の帰結=富裕層の流出 ⇒ 格差是正は実現していない 課税は個人・企業(経済主体)の意思決定に影響 =誘因効果 家計の効用最大化 企業の利潤最大化 ⇒需要・供給パターンの変化 ⇒市場均衡の変化=税の帰着分析仏「税率
75%」避け富裕層脱出
フランスのオランド政権は所得税の最高税率を75%に大幅に 引き上げる増税案を修正する方向で検討に入った。重い税負 担を嫌って富裕層が外国籍を取得する「国外脱出」が相次ぐ うえ、違憲判決も下ったからだ。 昨年5月に発足したオランド政権は、富裕層から低所得者へ の所得再配分を掲げる。2013年からは2年間の時限措置で年 収100万ユーロ(約1億1500万円)を超える個人の所得税率を、 現行の約40%から一気に75%に引き上げる案を示した。 企業経営者や富裕層の多くが脱出先に選ぶのが隣国ベルギー。 12年中にベルギー国籍を申請したフランス人は126人と、前年 から倍増した 日本経済新聞2013/1/9何故「誘因効果」か?
税の「支払い」と受益の関係が不明瞭(所得再分配) ⇒納税者は課税を「対価」(価格)ではなく、「コスト」と して認識 ⇒税の支払いを回避するように行動 税は経済主体の経済活動(消費・生産)を対象 ⇒経済活動の変化で税支払い(負担)も変化 ⇒課税の「非中立性」 税の公共選択と私的選択の区別 ⇒公共選択で増税に合意していても、私的選択において各経 済主体は自己利益を追求=課税の誘因効果経済主体の行動
家計 -消費選択 -貯蓄選択⇒「異時点間消費選択」 -資産選択(ポートフォリオ) -労働供給選択(労働参加・労働時間) 等 企業(生産者) -供給選択(生産量の選択) -要素需要選択(雇用・投資選択) -ファイナンス(資金調達)選択 -利益移転 等税と市場メカニズム
0
)
(q
S
x)
(q
D
x X財価格 0 0p
q
=
0x
X財生産量 E 市場価格の変化 =税の帰着 誘因効果新古典派(サプライサイド) ケインズ 従来の税制論議は短期の景気に及ぼす影響に偏重? ケインズ型有効需要(短期マクロ)モデルを前提 サプライサイド(新古典派)=課税の長期的効果に着目 着目点 マクロ 潜在的経済成長力 ミクロ=誘因効果 家計=労働・貯蓄、消費選択 企業=立地、雇用・設備投資選択 マクロ需給式
Y = C + I + G + (X-M)
効用最大化と需要関数
家計は、予算制約式と市場価格を「制約」として、自身の効 用を「最大化」するよう消費の組み合わせを選択。 選択された消費の組み合わせは、家計が「与件」とした変数 (価格、所得)に依存。 ⇒価格、所得が変われば需要も変化する 財貨の価格は家計の観点からすれば、「外生的」であるが、 需給を調整するよう市場においては「内生的」に決定される。)
,
(
} , {U
x
y
Max
x yI
y
q
x
q
t
s
.
.
x+
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,
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* *I
q
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y
I
q
q
D
x
y x y y x x=
=
I
y
q
x
q
x+
y=
) , , ( * I q q D x = x x y ) , , ( * I q q D y = y x y)
,
,
(
q
q
I
V
V
=
x y y xq
q /
x
y
0
E y x xyq
q
y
U
x
U
MRS
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/
/
=
∂
∂
∂
∂
≡
最大効用=間接効用関数 効用最大化条件 予算制約式0 1.リンゴ 2.明日の消費 3.消費 4.雨の日の消費 1.ミカン 2.今日の消費 3.余暇(労働) 4.晴れの日の消費 図3:家計の選択
所得効果と代替効果
x財価格の上昇は(1)財貨xへの割高感(当初の限界代替率 に比べて市場価格が上昇)を与えるとともに、(2)家計の 「購買力」(=実質所得)にも影響。 代替効果=割高感 ⇒x財からy財への代替を促す:x↓ y↑ 所得効果=購買力の低下 ⇒ 「正常財」への需要を減じる:x↓ y↓ 財xの価格上昇 X需要 Y財需要 代替効果 (-) (+) 所得効果 (-) (正常財) (-) (正常財)I
y
q
x
q
x+
y=
) , , ( * I q q D x = x x y ) , , ( * I q q D y = y x y)
,
,
(
q
q
I
V
V
=
x y y xq
q /
x
y
0
E y x x q q q )/ ( +∆ 価格上昇後、MRSが 価格比と一致する点割高感=代替効果
F y x x xyq
q
q
MRS
<
(
+
∆
)
/
I
y
q
x
q
x+
y=
) , , ( * I q q D x = x x y ) , , ( * I q q D y = y x y ) , , (q q I V V = x y y xq
q /
x
y
0
E y x xq
q
q
)
/
(
+
∆
価格上昇の結果、購入でき なくなった消費の組み合わせ購買力の低下
) , , ( * I q q D x = x x y ) , , ( * I q q D y = y x y
)
,
,
(
q
q
I
V
V
=
x y y xq
q /
x
y
0
E y x x q q q )/ ( +∆代替効果・所得効果
F G 代替効果 所得効果所得効果と代替効果
何故、価格の変化が需要に及ぼす効果を所得効果と代替効果 に区別するのか? 課税のもたらす資源配分への「非効率」効果(=「歪み」) は「代替効果」でもって測定される。 所得効果と代替効果が反対方向に作用する場合、価格変化が 消費者の選択に及ぼす効果は曖昧になる 価格変化 代替効果 所得効果 備考 労働供給 賃金率上昇 下落 (+) (-) (-) (+) 労働は劣等財 貯蓄 利子率上昇 下落 (+) (-) (-) (+) 現在消費は正 常財スルツキー方程式
(復習)
価格の財需要への効果は「スルツキー方程式」によって表さ れる: ={代替効果}+{所得効果} ={効用水準を一定としたx財からy財への代替} +{所得の購買力の低下による需要の変化} ={補償需要の変化} + *{購買力の低下額} ⇒代替効果=補償需要の変化)
,
,
(
)
,
,
(
q
q
q
I
D
q
q
I
D
D
x=
x x+
∆
x y−
x x y∆
I
D
x∂
∂
/
参考:補償需要
補償需要関数=一定の効用水準を維持するよう所得補償がな されているときの(仮想的)財需要⇒「代替効果」のみを抽 出 「支出最小化問題」の解=補償需要関数 y x xyq
q
y
y
x
U
x
y
x
U
MRS
=
∂
∂
∂
∂
≡
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(
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,
(
* * * *)
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(
* * 0y
x
U
u
=
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,
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,
,
(
~
0 * 0 *u
q
q
D
y
u
q
q
D
x
y x y y x x=
=
支出最小化の一階条件 制約=効用水準一定)
,
,
(
q
q
u
0E
x y ) , , ( ~ 0 * u q q D x = x x y ) , , ( ~ 0 * u q q D y = y x y)
,
(
0y
x
u
u
=
y xq
q /
x
y
0
E y x xyq
q
y
U
x
U
MRS
/
/
/
=
∂
∂
∂
∂
≡
支出最小化 支出最小化の一階条件 制約=効用水準一定 最小支出=支出関数x
q
x xq
q
+
∆
1x
x
0)
,
,
~
(
~
0u
q
q
D
x x y G E F 0 x 価格変化前効用 xq
~
)
,
,
~
(
q
q
I
D
x x y 2x
代替効果 所得効果) , , ( * I q q D y = y x y
)
,
,
(
q
q
I
V
V
=
x y y xq
q /
x
y
0
E y x x q q q )/ ( +∆代替効果・所得効果:再論
0x
1x
F G 代替効果 所得効果 2x
スルツキー方程式(完成版)
「一定」の効用水準を維持するために必要な所得「補償」 =価格上昇前の消費E点を実現するような所得補償 =失った「購買力」 =△p =補償需要の変化+= -
px
D
I
x∂
∂
∆
*/
*x
)
,
,
(
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,
,
(
q
q
q
I
D
q
q
I
D
D
x=
x x+
∆
x y−
x x y∆
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,
,
(
~
0u
q
q
D
x x y∆
I
D
px
∂
x∂
∆
−
)
/
(
*)
,
,
(
)
,
,
(
~
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,
,
(
0 *D
q
q
I
I
x
u
q
q
D
q
I
q
q
D
q
x x x y x x x y∂
x x y∂
−
∂
∂
=
∂
∂
スルツキー方程式(完成版)
財y需要の変化についても同様: ただし、 購買力の低下(=一定の効用を維持するために必 要な所得保障)は△p 財xの価格p が上昇したとき、一般的にx財と「代替的」な 財(例:ミカンとりんご)の間では代替効果は(+)、「補 完的」(例:コーヒーとミルク)の間では代替効果は(-))
,
,
(
)
,
,
(
~
)
,
,
(
0 *D
q
q
I
I
x
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q
q
D
q
I
q
q
D
q
x y x y x y x y∂
y x y∂
−
∂
∂
=
∂
∂
*x
代替効果が大きい ⇒密接な代替財が存在 例:ビール対発泡酒 自動車対軽自動車 相対価格の変化に対 して、当該財需要の 弾力性が大きくなる ⇒需要関数は水平 需要関数の傾き=弾 力性 ⇒税負担の転嫁を決定 (相対)価格 需要 0 密接な代替財あり 代替財なし 需要関数 注:所得効果は捨象
課税と家計の選択
2財X,Yを消費している「代表的」家計を想定 所得Iは与件 物品税=財Xに対して税率t(従量税)でもって課税 消費者の観点からすれば、財Xの価格が引き上げられたこと に相当⇒ただし、生産コストが高まったわけではない。 物品税の効果=所得効果+代替効果 代替効果=課税による「相対価格」の変化に起因)
,
,
(
p
p
I
V
V
=
x y y xp
p /
x
y
0
E y x x t p p )/ ( +X財への課税
0x
1x
F G 代替効果 所得効果 2x
留意:消費者は納税額を最小化するの ではなく、物品税を価格の一部(税込 価格)として消費選択一括(定額)税の効果
家計の消費選択に関わらず定額でTだけ税を課す⇒「相対価 格」を変化させることなく消費者の予算制約式が「平行」に シフト 定額税=家計から政府への所得移転⇒所得効果のみを発揮 税等価:所得Iを「与件」とするとき、財X,Yに対して均 一に課税を行う(一般)消費税は一括税と税等価:I
t
t
p
x
p
I
p
t
x
p
t
x y x y
+
−
=
+
⇒
=
+
+
+
1
1
)
1
(
)
1
(
0
x
0 y 0u
y xp
p /
x
y
0
E
定額税=T一括(定額)税の場合
*y
) , , ( * T I p p D x = x x y −H
代替効果と所得効果
含意 集めた税収を家計に一括 移転として戻す 代替効果 消費者の認識する相対価格 の変化 相対価格は変化したまま =代替効果は消えない 所得効果 納税者(消費者)から政府へ の所得移転 解消 消費者(納税者) 政府 X財市場 納税 税金の還付=一括移転 支払いX財への課税と代替効果
y 1 y 1 xx
0 y 0 x0
0 u E F y x p p / y x t p p )/ ( + y p I / y p tx /1 代替効果 所得補償(税収の還付)後も税の 効果(=相対価格の変化)が残る =代替効果代替効果VS所得効果
物品税の場合、課税財(例:財X)が「正常財」でる限り、 代替効果、所得効果ともに課税財の需要を低下させる。 ただし、「非課税財」(例:財Y)の場合、代替効果(+)と 所得効果(-)は逆方向 賃金や利子率に対する課税も代替効果(+)と所得効果(-) が逆方向に作用 通念:所得税は勤労意欲(=労働供給)や貯蓄を阻害 ⇒賃金税や利子所得税の労働供給、貯蓄への誘因効果は確 定的ではない!軽減税率
出所:諸外国の付加価値税【2008】 英国 標準税率=17.5% ゼロ税率=食料品 ・ケータリング、レストランでの飲食、温かい食べ 物のテイクアウトは除く。 ・菓子、酒、飲料(水を含む)、ジャガイモ製品、 自家用酒製造用パックは標準税率 ・飲料でも茶、ココア、コーヒー、牛乳はゼロ税率 ドイツ 標準税率=19% 7%税率=飲食料品 ・レストランでの飲食は除く フランス 標準税率=19.6% 税率5.5%=水(ソフトドリンクを含む)・人用の 食料 ・菓子、植物性脂肪、チョコレート、キャビア、レ ストランでの食事を除く。 カナダ 標準税率=5% ゼロ税率=基礎的飲食料品 ・酒、ソフトドリンク、菓子、温められた飲食料品、 自動販売機で販売される飲食料品、レストランでの 食事を除く
税制メールマガジン 第36号2007/2/6 カナダでは、食品に適用される税率はゼロ。つまり、消費者 から見れば付加価値税はかかりません。他方で、レストラン などでの外食は、食品の購入ではなくサービスの購入ですか ら、標準税率(6%)が課されることになります。 とは言っても、食品と外食との区分が簡単でない例が多々あ ります。・・・そこで、カナダでは「すぐの消費に適してい るか」という基準を設けています。具体的には、ドーナツの 場合、6個以上ならばその場で食べきれないと見なされてゼ ロ税率、5個以下ならば標準税率、という具合です。 そのため、ドーナツ屋の前で購入者が集まって、即席の 「ドーナツ・クラブ」が作られ、ドーナツを共同購入してい るという、本当のようなうそのような話が出回ったほど。
カナダの
GST
税率=5% (州税を含めたHST=12%) ゼロ税率適用
基礎的食料品(Basic Groceries)
Objective: The zero-rating of basic groceries reflects the widely held view of
Canadians that, as a general principle, basic foodstuffs should not be taxed(Goods and Services Tax Technical Paper, August 1989.)
自宅で調理・消費する食料品の大半がゼロ税率適用、ただし、ソフトドリ
ンク、キャンディー、アルコール類などは除く
処方箋のある医薬品、医療器具 農産物・水産物
Objective: Many agricultural and fish products are for human consumption and
are therefore zero-rated as basic groceries. In addition, a large range of generally high-cost agricultural and fishing equipment is zero-rated to reduce cash-flow problems for farmers and fishers. (Goods and Services Tax Technical Paper, December 1989.)
カナダの逆進性対策
11.8% 12.2% 11.9% 11.7% 11.5% 11.1% 10.8% 10.2% 10.3% 11.1% 10.9% 11.0% 11.1% 10.8% 10.8% 10.2% 10.1% 10.1% 9.8% 10.1% 10.1% 11.8% 12.3% 12.1% 12.1% 12.6% 0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 14.0% 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 基礎的食料品ゼロ税率 GST 税額控除 GST税収に対する軽減額(Tax Expenditure) の比率)
,
,
(
p
p
I
V
V
=
x y y x y xp
p
p
p
/
%)
5
1
(
/
%)
5
1
(
=
+
+
x
y
0
E %) 5 1 ( / %) 10 1 ( + y + x p p軽減税率の効果
0 x 1x
2x
F G 代替効果 所得効果 基礎的食 料品 基礎的 食料品以外 %) 5 1 ( + y p I 軽減税率は「代替効果」を誘発0
x
0 y 0u
%) 10 1 ( / %) 10 1 ( %) 5 1 ( / %) 5 1 ( / + + = + + = y x y x y x p p p p p px
y
0
E一律税率の場合
*y
) , , ( * T I p p D x = x x y − H %) 5 1 ( + y p I %) 10 1 ( + y p I 所得効果のみ 所得を一定とすれば、一律課税の 効果は所得効果のみ 消費税=賃金所得税0
u
%) 10 1 ( / %) 10 1 ( %) 8 1 ( / %) 8 1 ( / 2016 2015 2016 2015 2016 2015 + + = + + = p p p p p p 2015C
0
E消費税と景気
H %) 8 1 ( 2016 + p I %) 10 1 ( 2016 + p I 所得効果のみ 消費税は消費を落ち込ませるか ⇒税率が一定であれば、現在消費 と将来消費に代替は生じない 2016C
消費税収が社会保障(=所得移転)に充当されるとすれ ば、経済全体で所得効果は相殺2 C 1 C W 0 * 1 C * 2 C =貯蓄 =課税前消費 =課税後消費 E *
u
*S
移行期
wL r C C = + + + + 1 ) 1 ( ) 1 ( τ1 1 τ2 2 ) 1 /( ) 1 )( 1 ( + r +τ1 +τ2(
)
) 1 ( ) 1 ( 1 ) ( ' ) ( ' 2 1 2 1 τ τ β + + + = r C U C U オイラー方程式: 異時点間の消費配分ルール 2 1 5% 10% τ τ = < =(
r)
C U C U < 1+ ) ( ' ) ( ' 2 1 β ) 1 ( +r F 代替効果 消費税増税の前後で代替効果 ⇒掛け込み需要・反動減 移転)に充当されるから経済全 体で所得効果は相殺 酒税率の違い
⇒ビールから発泡酒等へ の代替効果を誘発?