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プロトン照射及び Mg イオン注入 GaN の 格子変位に関する研究

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プロトン照射及び Mg イオン注入 GaN の 格子変位

に関する研究

著者

西片 直樹

出版者

法政大学大学院理工学・工学研究科

雑誌名

法政大学大学院紀要. 理工学・工学研究科編

58

発行年

2017-03-31

URL

http://hdl.handle.net/10114/13544

(2)

法政大学大学院理工学・工学研究科紀要 Vol.58(2017 年 3 月) 法政大学

プロトン照射及び Mg イオン注入 GaN の

格子変位に関する研究

STUDY ON LATTICE DISPLACEMENT IN PROTON-IRRADIATION AND Mg-IMPLANTED GaN

西片直樹 Naoki NISHIKATA

指導教員 栗山一男

法政大学大学院理工学研究科電気電子工学専攻修士課程

The proton irradiation (peak concentration: 1.0 × 1015 cm-2) into GaN bulk is performed using a 500 keV

implanter. The hydrogen concentration at ~250 nm is ~5.8 × 1013 cm-2, ~1.2 × 1014 cm-2, ~8.1 × 1013 cm-2, for un-irradiated, as-irradiated and 200℃ annealed samples, respectively. The displacement concentration of N is larger than that of Ga, suggesting the presence of N interstitial (Ni) related to proton-irradiation. Mg-ion

implantation into GaN single crystal wafer is performed with energies of 30 keV (ion fluence: 3.5 × 1014 cm-2) and 60 keV (6.5 × 1014 cm-2) at room temperature. V

Ga, VN and Ni is introduced in Mg-ion implanted GaN.

Key Words :GaN, Proton irradiation, Mg-ion implantation, Rutherford backscattering

1. 序論 GaN はユニークな電気的、光学的特性を示し [1]、室温 において約 3.4 eV のワイドギャップを有し化学的に安定 であることから高い放射線耐性が期待できるため、宇宙 空間などの特殊環境下で使用する耐放射線半導体デバイ スとして期待されている。さらに Mg イオン注入 GaN にお ける pn 接合の特性評価は、多くの研究機関によって報告 されているが [2, 3]、Mg イオン注入による p 型 GaN の作 製は非常に困難であり、イオン注入による格子変位の評 価を行うことが重要である。本研究では、GaN 単結晶にプ ロトン照射および Mg イオン注入を行い、それぞれの格子 変位に関する評価を行った。プロトン照射および Mg イオ ン注入 GaN 単結晶における不純物準位はフォトルミネッ センス(PL: Photoluminescence)測定によって明らかに した。GaN 単結晶内の水素の挙動は弾性反跳分析 (ERDA: elastic recoil detection analysis) 法を用いた。GaN 単結晶の格子変位について明らかにするために、ラザフ ォ ー ド 後 方 散 乱 ( RBS: Rutherford Backscattering Spectroscopy)実験を行った。

2. プロトン照射および Mg イオン注入

プロトン照射は 5 mm × 5 mm × 430 μm の GaN バルク単 結晶に対して TRIM (the Transport of Ions in Matter) シ ミュレーションに基づき、法政大学イオンビーム工学研 究所タンデム型加速器を用いて、室温にて加速エネルギ ー 500 KeV、ドーズ量 1 × 1015 cm-2で行った。図 1 に TRIM シミュレーションの測定を示す。図 1 からプロトン照射 後の深さピークは約 3600 nm(500 KeV)、水素濃度のピ ークは 1019 cm-3であった。試料の表面付近に水素が内在 していることが確認できる。プロトン照射を行った後、 200 ℃、30 分、窒素雰囲気中で熱処理を行った。 Mg イオン注入は厚さ 5 mm の GaN 単結晶に対してプロト ン照射同様に TRIM シミュレーションに基づき、室温にて 加速エネルギー 30 keV (ドーズ量:3.5 × 1014 cm-2)、60 keV (6.5 × 1014 cm-2)で Mg イオンの多段注入を行った。 このとき全ドーズ量が 1.0 × 1015 cm-2となるように注入 を行った。また Mg イオン注入後、1230 ℃、1 分、窒素雰 囲気中で熱処理を行った。図 2 から、最大注入深さ約 150 nm と観測された。また、最大 Mg 濃度は深さ約 50 nm 付 近で 1019 cm-3となり、試料表面付近に Mg イオンが注入さ れている。 図 1 TRIM シミュレーション (プロトン照射)

(3)

図 2 TRIM シミュレーション (Mg イオン注入) 3. ERDA 測定 加速エネルギー 1.5 MeV の He+を用いて、法政大学イオ ンビーム工学研究所のバンデグラフ加速器を使用してプ ロトン照射及び Mg イオン注入 GaN に内在する水素を測定 した。バンデグラフ加速器の測定限界深さは約 300 nm である。図 3 はプロトン照射による測定結果である。 200 ℃アニーリング後の水素量が照射後よりも減少し、 アニーリングによる水素の前方拡散が確認できる。ここ で未照射のスペクトルに着目すると、水素が GaN 結晶に 内在していることが確認できる。GaN 単結晶は、MOCVD (Metal Organic Chemical Vapor De) 法などによって作 製されるが、GaN の基になる Ga(ガリウム)の原料とし てトリメチルガリウム(Ga(CH3)3)が用いられる。このトリ メチルガリウムに含まれる水素が結晶作製の際に Ga と結 合し、微量に残存したものと考えられる。ここで GaN 内 に含まれる水素量を算出するため、水素濃度算出式(1) [4]によって導出を行った。 Y= [NQ (dσ / dΩ) ΔΩ] / sin θ (1) ここで Y:反跳粒子の収量 (表面の水素カウント)、N: 水素の濃度 (cm-2)、Q:入射イオン数、(dσ/dΩ):反跳 微分散乱断面積(cm2)、ΔΩ:検出器の立体角、θ:入射 角(15○)である。試料表面から深さ約 250 nm 付近におけ る最大水素濃度は、(1) 式より、 未照射 5.8 × 1013 cm-2 照射後 1.2 × 1014 cm-2、 200℃アニール 8.1 × 1013 cm-2と算出された。 図 3 未照射、照射後、200℃アニール GaN の PL 測定結果 図 4 は Mg イオン注入 GaN の測定結果である。試料表面 より約 275 nm で最大水素濃度を算出した。(1)式より注 入前後の最大水素濃度は、それぞれ 3.1 × 1014 cm-2、6.1 × 1014 cm-2となった。注入前後の水素濃度を比較すると、 注入後の最大水素濃度は注入前よりも約 2 倍大きいこと が分かる。これらの結果から Mg イオン注入によって、試 料に内在している水素が前方拡散したものと考えられる。 さらに、Mg イオン注入層における水素濃度は 3.0 × 1016 cm-2 以下である。ゆえに、H-Mg の複合欠陥 [5] による 影響は小さいものと考えられる。 図 4 未注入、Mg イオン注入 GaN の ERDA 測定結果 4. H+ビームを用いた RBS 測定 未照射、照射後、200℃で熱処理を行ったプロトン照射 GaN の H+ビームを用いた RBS 測定によるアライン・ランダ ムスペクトルの結果を図 5 に示す。 図 5 未照射、照射後、200℃アニーリングの RBS 測定結果 縦軸は後方散乱された H+イオンのカウント量を示し、 横軸はエネルギーを示している。入射イオン(H+)が特定の 結晶軸や結晶面に平行に入射する場合をアライン入射と 呼び、そうでない場合をランダム入射と呼ぶ。図 5 にお いて得られたアライン・ランダムスペクトルは、入射イ オンを c 軸方向に入射させたものである。 アライン・ランダムスペクトルより、375 ch 付近に N 原子に起因した微量な立ち上がり、480 ch に Ga 原子に起 因したピークの立ち上がりが観測された。アラインスペ

(4)

クトルのカウント量が徐々に上昇しているのは H イオン が奥深くに侵入すればするほどデチャネリングが起こる 確率が上昇するためである。得られたスペクトルから、 表面直下 40 ch ( ~180 nm)の幅で最小収量χminを算出し

た。χminは次の(2)式より算出した。

χ min=random yieldaligned yield (2)

未照射、照射後、200℃で熱処理を行ったプロトン照射 GaN のχminはそれぞれ 1.4 %、2.4 %、18.1 %であった。

得られた最小収量から、結晶表面付近における Ga 原子の 変位濃度を求めることができ、算出方法として以下の最 小収量に関係した近似式(3)を用いた[6, 7]。

ND= NGa or N (χ min− χ min0 )/(1 − χ min0 ) (3)

ここで、NGa or N は Ga 原子および N 原子の原子密度 (4.38 × 1022 cm–3)、χ min 0は未注入試料の最小収量、χ minは 注入試料の最小収量である。プロトン照射後、200 ℃で 熱処理を行ったプロトン照射 GaN の Ga 原子の変位濃度は、 それぞれ 4.4 × 1020 cm–3、7.4 × 1021 cm–3 と算出され た。もう一方の N 原子に対するχ minはそれぞれ 16.6 %、 27.3 %、48.1 %と算出された。さらに(3)式を用いて、N 原子の変位濃度を算出した結果、照射後および 200 ℃で 熱処理を行ったプロトン照射 GaN ではそれぞれ 5.6 × 1021 cm–3、1.7 × 1022 cm–3と算出された。 図 6 未照射、照射後、200℃アニーリング GaN の チャネリングディップ測定結果 さらに、未照射、照射後、200 ℃で熱処理を行ったプ ロトン照射 GaN のチャネリングディップの測定結果を図 6 に示す。チャネリングディップは表面から 60~180 nm の領域で評価を行った。得られたスペクトルから未照射、 照射後、200 ℃で熱処理を行ったプロトン照射 GaN の半 値角の値はそれぞれ 0.58°、0.55°、0.57°と算出され た。Ga 原子の変位量を(4)式で算出した[8]。 φn φm= ln[(Ca r⁄ )x 2+ 1] ln[(Ca ρ⁄ )2+ 1] (4) ここで a はトーマスフェルミ遮断半径、ρは熱振動振 幅、C は定数(~3)、rxは Ga の変位量である。デバイ温度 (835 K)を用いて計算された熱振動振幅は 6.21 × 10-2 Åである。算出された変位量の値が熱振動振幅の値より 大きい値を示していることから、Ga 原子が変位している ことが分かる。 図 7 未注入、Mg イオン注入後、1230℃アニーリング GaN の RBS アライン・ランダムスペクトル測定結果 <0001> 配向のアラインは、深さが増すにつれデチャネ リングが増加するため結晶内で深くなるほどわずかに増 加した。図 7 から Ga、N 原子の変位濃度の算出を行った。 (3) 式を用いて Ga 原子の χ minの値は、未注入で 1.6 %、 Mg イオン注入で 2.5 %であった。一方で N 原子の χ min の値は、未注入で 10.1 %、Mg イオン注入で 11.2 %と算 出された。χ minの値から Ga と N それぞれの変位濃度は、 4.0 × 1020 cm-3、 5.5 × 1020 cm-3であった。N 原子の変 位濃度は、Ga 原子の変位濃度よりもわずかに大きいため、 N 原子の変位による N 原子空孔が Mg イオン注入によって 起因したものと考えられる。また、以下に未注入、Mg イ オン注入後、1230 ℃アニーリング GaN のチャネリングデ ィップの測定結果を示す。 図 8 未注入、Mg イオン注入後、1230℃アニーリング GaN の RBS チャネリングディップ測定結果

(5)

図 8 からイオン注入前と注入後の半値角 φ1/2はそれぞ れ 0.76°、0.50°であった。算出された変位量の値が熱 振動振幅の値より高い値を示していることから、Ga 原子 が変位していることが分かる。さらに、1230 ℃アニール 試料において、Ga 原子の変位量が減少したことから、ア ニールを行ったことにより一部の Ga 原子の変位が回復し たと考えられる。 5. PL 測定 図 9 に未照射、照射後、200℃で熱処理を行った GaN の フォトルミネッセンス測定結果を示す。測定範囲は 350 ~650 nm である。それぞれの PL スペクトルは中性ドナー に束縛された励起子 D0X(368 nm) [9]に起因するピークで 規格化を行った。未照射、照射後において LO フォノン [9] に起因するピークが 370 ~400 nm 付近に観測された。 200℃アニール後の 350 ~ 400 nm 付近の D0X、LO フォノ ンのスペクトルが未照射、照射後試料に比べてわずかに ズレを生じた。これはプロトン照射後に生成された格子 間水素がアニーリングによって前方拡散し、GaN 内に格子 欠陥が増加したものと考えられる。さらに 450 ~ 650 nm 付近にイエロールミネッセンス (YL)の発光スペクトル を観測した。プロトン照射後、200 ℃アニーリング後の 試料は、顕著に発光スペクトルが観測されたことから不 純物または格子欠陥に誘起されているものと考えられる。 この YL の起源については多くの研究報告がなされている [10, 11, 12]が、特に VGaと酸素の複合体によるものと考 えられている。 図 9 未照射、照射後、200℃アニール GaN の PL 測定結果 図 10 に未注入、Mg イオン注入 GaN の PL 測定結果を 示す。Mg イオン注入 GaN の YL の発光強度が未注入 GaN の発光強度よりも約 2 倍増加した。YL の起源としては価 電子帯上 1.1 eV に位置する Ga 原子空孔 (VGa) の深いド ナーへの遷移とされている [13]。Mg イオン注入の YL 発 光強度が増加したことは深いドナー準位の VN から VGa アクセプター準位への遷移によると考えられる [14]。伝 導帯下 50 meV に位置する VNに誘起されるドナー準位 の存在はガンマ線照射によって明らかとされている [15]。 このエネルギー準位は、VNに誘起されたドナー準位 (64 ± 10 meV [16] ) に近い値である。 図 10 未注入、Mg イオン注入 GaN の PL 測定結果 図 11 YL 概略図 図 11 は、16 K における PL から推定された YL の概略 図である。Mg イオン注入 GaN 試料は高抵抗 ( > 108 Ω/□) を示すことから、格子間 N 原子 (Ni) の深いアクセプター が補償センターとして作用していることが考えられる。 格子間 N 原子の存在は中性子照射 GaN においても誘起さ れている [17]。格子間 N 原子が伝導帯下 960 meV で深い アクセプター準位を形成するため、Mg イオン注入後の高 い抵抗の起源は格子間 N 原子の深い準位によるキャリア 補償効果によるものと考えられる。 6. 結論 プロトン照射 GaN バルク単結晶中の水素ピーク濃度は ERDA 測定により試料表面から深さ ~250 nm において ~5.8 × 1013 cm-2 (未照射 GaN)、 ~1.2 × 1014 cm-2 (プ ロトン照射 GaN)と算出された。1.5 MeV H+を用いた RBS 測定によって、Ga 原子の χ min の値は、未照射で 1.4 %、 プロトン照射で 2.4 %であった。一方、N 原子の χ minの 値は、未照射で 16.6 %、プロトン照射で 27.3 %であっ た。Ga と N それぞれの変位濃度は、4.4 × 1020 cm-3、 5.6 × 1021 cm-3と算出された。N 原子の変位濃度が 1 桁大き いため、N 原子空孔がプロトン照射によって誘起されたも のと考えられる。 Mg イオン注入 GaN は RBS 測定結果より、Ga 原子の χ min の値は、未注入で 1.6 %、 Mg イオン注入で 2.5 %であっ た。一方、N 原子の χ minの値は、未注入で 10.1 %、Mg イオン注入で 11.2 %であった。Ga と N それぞれの変位濃 度は、4.0 × 1020 cm-3、 5.5 × 1020 cm-3と算出された。

(6)

N 原子の変位濃度は、Ga 原子の変位濃度よりもわずかに 大きいため、N 原子の変位による格子間 N 原子が Mg イオ ン注入によって誘起されたものと考えられる。格子間 N の存在は中性子照射 GaN においても観測されており、格 子間 N 原子が伝導帯下 960 meV で深いアクセプター準位 を形成するため、Mg イオン注入後の高い抵抗の起源は、 格子間 N 原子の深い準位によるキャリア補償効果による ものと考えられる。 謝辞: 本研究を進めるにあたりご指導を頂いた栗山一 男教授に深く感謝いたします。また実験研究のサポート をして下さった現マイクロナノテクノロジーセンター客 員教授中村徹先生に感謝いたします。研究室生活におい て様々な助言をしてくださった大阪教育大学の串田一雅 准教授に感謝いたします。本学イオンビーム工学研究所 においては、加速器の運転やオペレーター業務などのご 指導にとどまらず、多くの質問に対して快く受け答えし て下さった西村智朗教授に感謝いたします。京都大学原 子炉実験所の共同研究においてご協力して頂きました木 野村淳教授に深く感謝致します。最後に、共に過ごした 先輩方、同期、後輩を始めとする電気電子工学科栗山研 究室諸氏に心から感謝致します。 参考文献

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図 8 からイオン注入前と注入後の半値角 φ 1/2 はそれぞ れ 0.76°、0.50°であった。算出された変位量の値が熱 振動振幅の値より高い値を示していることから、Ga 原子 が変位していることが分かる。さらに、1230 ℃アニール 試料において、Ga 原子の変位量が減少したことから、ア ニールを行ったことにより一部の Ga 原子の変位が回復し たと考えられる。  5.  PL 測定  図 9 に未照射、照射後、200℃で熱処理を行った GaN の フォトルミネッセンス測定結果を示す。測定範囲は 35

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