幼児のパーソナリティ特性に関する双生児研究
奥 田 援 史
A twin study of personality traits in preschool children
Enji OKUDA
問 題 と 目 的 人間の特性や能力の発達において、生後から 乳幼児期までの養育環境の影響は特に大きいと 考えられる。例えば、野生児の事例などは、人 生初期の劣悪な環境での育ちが気質や性格、言 語、運動の発達に絶大な影響を及ぼすことを報 告している (例えば、シング、1977)。しかし、 そのような報告は人間の育ちに必要とされる環 境が剥奪されたケースに限定されるため、人間 が持って生まれた様々な特性や能力を具現化で きないことで、おのずと育ちの環境の影響にの み焦点化されたに過ぎないとみなすこともでき る。子どもの様々な特性や能力の発達への真の 環境の影響を評価するためには、生まれと育ち の両面を同時にとらえる必要である。そこで、 本研究では、平均的に期待される環境下に暮ら す子どもを対象として、パーソナリティ特性へ の個人差に対する遺伝と環境の影響について推 定する。本研究は、いわゆる遺伝・環境問題と いうテーマに関する研究のうちのひとつであり、 比較的少数の報告しかみられない幼児のパーソ ナリティ特性について検討したものである。 まず、このテーマの解決の糸口を見出すため には、人間の特性や能力に対する遺伝的影響を 検討する必要があり、その方法には大きく分け て 2 つのアプローチがある。ひとつは表現型か ら推定するトップダウンアプローチであり、も うひとつは表現型に関連する遺伝子型から推定 するボトムアップアプローチである (Bouchard, et al., 1997)。こ こ で 言 う、表 現 型 (pheno-type) とは観察可能な特徴であり、身長やテス ト得点などの観測変数のことを指す。一般には、 まずトップダウンアプローチにより遺伝的影響 が認められた後に、ボトムアップアプローチの 手法を採用する。 トップダウンアプローチは、血縁固体間の表 現型の類似度を比較することにより遺伝的影響 を検討するものであり、その代表的な方法が双 生児研究である。双生児研究の基本的な考え方 は、遺 伝 的 に 100% 等 し い 一 卵 性 双 生 児 (monozygotic twins : MZ) と平均して遺伝的 に 50% 等しい二卵性双生児 (dizygotic twins : DZ) の表現型において、MZ が DZ よりも類 似している関係にあれば、その表現型に遺伝的 影響があると判断する。一方、ある表現型にお いて、MZ と DZ の類似度に差がなければ、そ の表現型に遺伝的影響はあまり認められないと 判断する。多くの遺伝子が同じ程度に表現型に 影響することを仮定したポリジーンモデルに従 えば、一卵性双生児の類似性 (rMZ) と二卵性 双生児の類似性 (rDZ) が与えられると、相加 的遺伝 (A)、共有環境 (C)、非共有環境 (E) の各影響度 a、c、e を推定することができる。 相加的遺伝とは表現型にひとつひとつの遺伝子 が等しく影響する要因、共有環境とは家族メン バーを類似させるように作用する要因、非共有 環境とは家族メンバーを異ならせるように作用 する要因を言う。MZ の類似性は rMZ=a + c1、DZ の類似性は rDZ=0.5a+c2、そして双生児 の共有環境は等しいと仮定されるので c1=c2 と な る。こ れ ら の 式 か ら、a=2 (rMZ−rDZ) と求めることができる。この値を表現型におけ る遺伝率 (h2) という。この遺伝率は狭義の遺 伝率と呼ばれるもので、ある表現型の個人差に 対する遺伝 (相加的遺伝) の影響度を示す。ち なみに、環境率という表現は用いない。 上記のような算出方法を用いて遺伝的影響度 を求めることができるが、現在では、汎用性の 高い統計解析の普及により、次のようなモデル を仮定した研究が主流である。そのモデルとは、 相加的遺伝 (A)、共有環境 (C)、非共有環境 (E) などの要因を潜在変数とし、適合度の高 い最適モデルにおける各潜在変数からの表現型 への影響度を推定するものである。このような 方法を用いて、最も広範に研究されているのは、 肥満や疾病などの健康関連指標と幅広い年齢層 に共通した指標である IQ である。McGue, et al. (1993) は、IQ の個人差に対する遺伝と環 境の相対的影響度について調査した結果、IQ への遺伝的影響度を認め、また各年齢段階ごと でその影響度が変化することを報告している。 パーソナリティ特性に関する研究では、主に 成人双生児を対象として、それぞれの特性への 遺伝的影響が認められ、また非共有環境の影響 が大きいと報告されている (例えば、Jang, et al., 1996 ; 豊田・村石、1998)。しかし、幼児双 生児を対象としたものは少なく、わが国ではほ とんどみられない。そこで、本研究は、幼児双 生児を対象としたパーソナリティ特性に関する データを得たので、その個人差に対する遺伝及 び環境要因の影響度を推定した。 方 法 1.調査対象者 (表 1) 幼稚園または保育所に通園する 3 歳から 5 歳 児クラスの双生児 96 組、192 名 (3 歳児クラス 19 組、4 歳児クラス 39 組、5 歳児クラス 38 組) の母親が調査対象者である。双生児の卵性 の内訳は一卵性双生児 (MZ) 46 組と二卵性双 生児 (DZ) 50 組 (DZ の同性ペア 28 組、異性 ペア 22 組) である。双生児の卵性診断は、後 述の質問紙によって実施した。 2.調査内容 1) パーソナリティ特性に関する質問紙 平野 (1995) が用いた一卵性双生児の母親へ の質問項目のうち、「外向性」「自律性」「依存」 の 3 下位尺度を用いた。回答方法は「あてはま る」〜「あてはまらない」までの 5 件法であり、 順に 5 点〜1 点と得点化した。各項目は以下で ある。 外向性尺度:明るい、ひょうきんもの、愛想が いい、おしゃべり、の 4 項目。 自律性尺度:意志が強い、責任感がある、がん ばり屋、自主性がある、の 4 項目。 依存性尺度:甘ったれ、さびしがりや、やきも ちやき、照れ屋、の 4 項目である。 2) 卵性診断に関する質問紙 卵性診断を行うために、大木ら (1991) が作 成した母親用質問紙を用いた。この質問紙では、 満 1 歳ごろの双生児について回答し、3 つの質 問項目における評点の総和得点が 6 点以下を一 卵性と判定する。この質問紙における卵性診断 の精度は 90% 以上であり、以下が質問項目で ある。 質問 1 ふたごは、「うりふたつ」のように似 ていましたか。 1・「うりふたつ」のように似ていた 2・ふつうの兄弟姉妹程度に似ていた 3・全く似ていなかった 質問 2 ふたごは当時、間違えられることがあ りましたか。 1・はい、非常にしばしば 2・はい、時々 3・いいえ、決して 質問 3 その場合、ふたごは誰に間違えられま したか (該当する番号すべてに○をつ けて下さい)。 1・両親 2・親戚や近所の人 3・その他の見知らぬ人達 4・誰にも間違えられなかった 3.調査手続き 幼稚園及び保育所に、研究目的等の研究依頼
書及び調査用紙を直接訪問し依頼するかまたは 郵送し、115 組の双生児に関するデータを収集 した。そのうち、回答不備などを含むデータを 除き、96 組のデータを処理した。 調査については、双生児の母親に、当該園か ら依頼していただいた。調査への回答について は、一卵性双生児をより類似するように、また 二卵性双生児をより異なるように回答する傾向 を避けるために、「お子さんと同年齢の子ども さんと比較して回答してください」という教示 文を添えた。そして、回答の順は、双生児のど ちらか一方の幼児について回答してから、もう 一方の幼児の調査について回答する方法で依頼 した。 4.分析方法 パーソナリティ特性の下位尺度ついて、年齢 × 性ごとに標準得点に変換し、ランダムに並 べたデータを用いて分析をした。 表現型への遺伝要因と環境要因の影響度を推 定する場合には、一般に、表現型 (P) に相加 的 遺 伝 (A)、非 相 加 的 遺 伝 (D)、共 有 環 境 (C)、非共有環境 (E) の潜在変数の影響をう け る モ デ ル を 仮 定 す る (Neale and Cardon, 1992)。ここでの表現型とは、パーソナリティ 特性の各下位尺度得点である。次に、統計上の 制約から、3 以下の潜在変数を仮定するモデル についてしか対応できない。例えば、相加的遺 伝 (A)、共有環境 (C)、非共有環境 (E) の 3 つの潜在変数を仮定するモデルを ACE モデル と 記 す。そ し て、ACE モ デ ル、AE モ デ ル、 CE モデルなどのうちから最適モデルを選び、 各潜在変数からの影響度を求めることになる。 ただし、E には誤差も含まれるため、これを除 くモデルは設定できない。本研究ではサンプル 数があまり多くないことを考慮し、非相加的遺 伝 (D) の潜在変数を組み込まないモデル、 ACE モデルに固定し分析を実施する。 このモデルでは、双生児の表現型は次式 (1)、 (2) のように表される。a、c、e は母数であり、 相加的遺伝 (A)、共有環境 (C)、非共有環境 (E) の影響力を表す。1 つの行動が多くの遺伝 子の影響を受けているというポリジーンモデル (Neale and Cardon, 1992) に基づき、相加的遺
伝の相関は MZ で 1.0、DZ で 0.5 と仮定する。 双生児間では等環境仮説により、共有環境が等 しいため、次式となる。ここで、各潜在変数は 互いに無相関で分散が 1 と仮定する。分析では、 各潜在変数からの母数 a、c、e を最尤法により 推 定 す る。こ れ ら の 分 析 に は AMOS4.0 for windows を利用した (豊田、2000;山本・小 野寺、1999)。 P1=aA1+cC+eE1 ㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀(1) P2=aA2+cC+eE2 ㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀㌀(2) DZペア MZペア 人数 ペア数 平均年齢 クラス 表1 調査対象者 192 96 計 78 39 5 歳 3ヶ月 4 歳児 17 21 76 38 6 歳 3ヶ月 5 歳児 50 46 12 7 38 19 4 歳 2ヶ月 3 歳児 21 18 結 果 と 考 察 1.記述統計と相関係数 表 2 は、卵性ごとの各尺度得点の平均値と標 準偏差である。これらの値は、双生児ペアのも のではなく、双生児ひとりひとりのデータから 算出している。パーソナリティ特性における各 下位尺度の平均値と標準偏差について、卵性別 に平均値の差の検定をした結果、パーソナリ ティ特性の「外向性」と「依存性」の尺度にお いて、MZ の方が DZ よりも平均値が有意に高 か っ た (そ れ ぞ れ、t=2.04, p<.05 ; t=3.22, p<.01)。よって、以後の分析は、全ての下位 尺度について卵性ごとに標準得点 (z 得点) に 換算した値を用いた。 表 3 は、卵性ごとの各尺度での級内相関係数 の結果である。ここでは、級内相関係数におい て MZ の値が DZ の値よりも大きいことが確認 できれば、そのパーソナリティ特性に遺伝的影 響を認め、そうでなければ遺伝的影響を認めな いこととなる。級内相関係数の算出結果をみる と、MZ の値は中程度であるが、DZ の値は非 常に小さい。級内相関係数において MZ の値 と DZ の値を比較したところ、依存性特性にお い て の み 有 意 差 が 認 め ら れ た (z=3.04, P<.01) ので、依存性特性には遺伝規定性を確
認できることになる。他の自律性特性と依存性 特性においては卵性間に差が認められなかった。 2.ACE モデルによる分析 パーソナリティ特性の表現型に、相加的遺伝 要因、共有環境要因、非共有環境要因の 3 つの 潜在変数が影響するという ACE モデルを設定 し、共分散構造分析の手法を用いて、各影響度 を推定した。表 4 に、各パーソナリティ特性下 位尺度における相加的遺伝要因、共有環境要因、 非共有環境要因の説明率を示した。各要因の説 明率は ACE モデルにおける各潜在変数から表 現型への母数の二乗した値である。外向性では、 相加的遺伝 15.4%、共有環境 8.8%、非共有環 境 75.7% の説明率であった。自律性では、相 加的遺伝 25.0%、共有環境 0.0%、非共有環境 75.0% の説明率であった。依存性では、相加的 遺伝 53.0%、共有環境 0.0%、非共有環境 47.1% の説明率であった。 幼児のパーソナリティ特性の個人差に対する 遺伝要因と環境要因の相対的影響度を推定した 結果、依存性特性において遺伝的要因の影響が 大きいことがひとつの特徴であり、もうひとつ の特徴は、どのパーソナリティ特性においても 共有環境の影響は小さく、非共有環境の影響が 大きいというものであった。特筆すべきは、自 律性特性及び依存性特性では、共有環境の影響 が全く認められなかったという点である。
Saudino and Cherny (2001) は、質問紙による 母親評定を用いて気質の 5 側面 (Emotionality, Activity, Sociality, Shyness, Persistence) に関 して双生児研究を実施している。その結果、3 歳時点における各要因の影響度は、遺伝要因 0.0%〜35%、共有環境要因 0.0%、非共有環境 要因 65%〜100% であった。この研究と本研究 では測定内容が少し異なるが、遺伝及び環境の 影響度の結果はある程度一致している。 幼児のパーソナリティ特性の個人差に対し、 環境要因の影響が大きいことが示された。しか し、環境要因の中でも、共有環境要因の影響は ほとんどみられないということは、同じ家庭に 暮らすことだけでは、双生児きょうだいのパー ソナリティを類似させないことを示唆している。 この結果は、従来の養子研究の結果においても 支持される。例えば、外向性における養い親と 養子の類似性は 0.01、血縁関係のないきょうだ いの類似性は −0.06 という値が報告 (Rowe, 1993) されていることで確認できる。つまり、 同じ家庭に暮らすことがパーソナリティ特性を 類似させるなら、養い親と養子、血縁関係のな いきょうだいの場合であっても、それらの特性 は類似するはずだが、そうはならない。先の報 告では、外向性の類似性は一卵性双生児 0.55、 実の親子 0.16、血縁関係のあるきょうだい 0.20 である。こられの類似性の大部分は遺伝的要因 の影響になると推察される。 一方、同じ家庭に暮らしながらも、それぞれ に独自の環境が、つまり非共有環境要因がパー ソナリティ特性の形成に大きな影響を及ぼして いることが示唆された。非共有環境要因とは、 家族メンバーを異ならせるように作用する要因 と定義づけられ、具体的には出生順、異なる養 育態度、異なるきょうだい関係、異なる仲間関 係、特殊な出来事などが考えられる。これらの 非共有環境要因が、遺伝的要因の影響と関連し ながら、どのようにパーソナリティ特性の形成 に影響していくのかについては、今後の検討が 必要な課題である。 MZ (n=92) DZ (n=100) t 値 *P<.05, **P<.01 表 2 パーソナリティ特性ごとの平均値と標準偏差、 t 検定の結果 3.22** 0.69 3.80 0.70 4.12 依存性 0.76 3.84 0.72 4.06 外向性 N. S. 0.51 3.38 0.59 3.43 自律性 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 2.04* モデル 相加的遺伝 共有環境 非共有環境 表 4 パーソナリティ特性ごとの各要因の相対的影 響度 (%) 8.8 15.4 ACE 外向性 75.0 0.0 25.0 ACE 自律性 47.1 0.0 53.0 ACE 依存性 75.7 −0.07 0.32 自律性 3.04** 0.04 0.59 依存性 rMZ rDZ z 値 **P<.01 (片側検定) 表 3 パーソナリティ特性ごとの級内相関係数 rMZ>rDZ 50 組 46 組 N. S. 0.16 0.21 外向性 N. S.
文 献
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Before investigating any environmental factors that affect the development of personality traits, it is necessary to estimate the heritability of these traits. Concerning genetic effects on peopleʼs behavioral characteristics, the top-down approach has been employed, in which estimation is based on phenotypes (Bouchard et al, 1997). This study was to assess the relative contribution of genes and environment to individual differences in personality traits in young children samples of twins.
Subjects : subjects were 46 monozygotic twin (MZ) and 50 dizygotic twin (DZ) pairs from 3 to 6 years of age. The zygosity of the twins was determined from the questionnaire by mothers of the twins. The accuracy of this diagnosis is over 90% (Ooki et al., 1991).
Measures : The ratings of subjectsʼ personality traits were investigated via mother report questionnaires.
Statistical analysis : A genetic model for twins data was applied using structural equation modelling. The model represented additive genetic effects (A), common environmental effects (C), and specific environmental effects (E) on phenotypes of personality traits.
Behavioral genetics analysis suggested a small genetic influence to personality traits during childhood. Individual differences in personality traits were largely accounted for by specific environmental factors.