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A Chemical Kinetics Study of Fuel Effects on HCCI Combustion

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(1)

   

予混合圧縮着火燃焼に及ぼす燃料性状の  影響に関する反応速度論的研究  

   

A Chemical Kinetics Study of Fuel Effects on HCCI Combustion

           

2004 年 7 月

 

田 中  重 行 

(2)

第1章 序 論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1 . 1 研究の背景と目的   1

1 . 2 従来の研究 4

1 . 2 . 1 各種燃料の燃焼特性に関する従来研究 5

1 . 2 . 2 反応速度論を用いた燃焼モデルに関する従来研究 9

1 . 3 本研究の方法 1 6

1 . 4 本論文の構成 1 7

第2章 急速圧縮装置による予混合圧縮着火燃焼の特性と燃料の影響・・・・ 1 8

2 . 1 緒 論 1 8

2 . 2 炭化水素の酸化反応と燃料構造について 1 9

2 . 3 実験装置および実験方法 2 0

2 . 3 . 1 急速圧縮装置 2 0

2 . 3 . 2 試験燃料 2 2

2 . 3 . 3 実験方法 2 3

2 . 4 実験結果および考察 2 5

2 . 4 . 1 予混合圧縮着火燃焼速度とノッキングについて 2 7

2 . 4 . 2 各種燃料の予混合圧縮着火燃焼特性 2 8

2 . 4 . 3 燃料構造と予混合圧縮着火燃焼特性の関係ならびに

予混合圧縮着火燃焼における二段燃焼の効果 3 2

2 . 4 . 4 燃料による予混合圧縮着火燃焼の制御に関する考察 3 4

2 . 5 まとめ 3 7

第3章 予混合圧縮着火燃焼における添加剤の影響・・・・・・・・・・・・ 3 8

3 . 1 緒 論 3 8

3 . 2 セタン価向上剤の反応メカニズム 3 9

3 . 3 実験方法および条件 4 1

3 . 4 実験結果および考察 4 1

(3)

3 . 4 . 2 予混合圧縮着火燃焼に及ぼす混合気初期温度の影響 4 5

3 . 4 . 3 燃料と添加剤および初期温度調整の併用による

予混合圧縮着火燃焼制御法 4 8

3 . 4 . 4 燃料着火性指標と予混合圧縮着火燃焼における

着火遅れの関係 5 0

3 . 5 まとめ 5 1

第4章 急速圧縮装置による予混合圧縮着火燃焼に対する

化学反応モデルの開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 3

4 . 1 緒 論 5 3

4 . 2 シミュレーションモデルの開発方法 5 4

4 . 2 . 1 簡略化した反応スキームの開発 5 4

4 . 2 . 2 圧縮と伝熱のモデル化 5 9

4 . 2 . 3 計算方法 6 1

4 . 3 計算結果および考察 6 2

4 . 3 . 1 不活性ガスの圧縮シミュレーション結果 6 2

4 . 3 . 2 予混合圧縮着火燃焼シミュレーション結果 6 3

4 . 3 . 3 予混合圧縮着火燃焼に関する化学反応速度論的考察 6 8

4 . 4 まとめ 7 3

第5章 熱力学的モデルによる予混合圧縮着火エンジンの

燃焼特性に関する検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 5

5 . 1 緒 論 7 5

5 . 2 解析方法 7 6

5 . 3 計算結果および考察 7 7

5 . 3 . 1 予混合圧縮着火エンジンにおける燃焼特性と

燃料着火性の関係 7 7

5 . 3 . 2 初期温度と予混合圧縮着火燃焼の関係 7 9

5 . 3 . 3 当量比と予混合圧縮着火燃焼の関係 8 1

(4)

第6章 結 論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 5

6 . 1 結 論 8 5

6 . 2 今後の研究の方向性 8 8

参考文献 9 0

謝 辞 9 5

A p p e n d i x 1 9 7

A p p e n d i x 2 1 1 4

A p p e n d i x 3 1 1 6

研究業績 1 2 0

(5)

第1章 序 論

1.1 研究の背景と目的

近年, 地球 温暖化 問題 ととも に地 域的な 大気 環境汚 染問 題が注 目さ れてお り, 二酸化 炭 素(CO2)の削減や窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)の低減が望まれている.石油 製品であるガソリンや軽油を燃焼させてエネルギーを得る内燃機関を動力源とする自動車 は,大気汚染物質の主要な排出源の一つであり,エネルギー効率の向上と排出ガスの低減 が求められている.内燃機関には大きく分けて,燃料と空気の予混合気をピストンにより 圧縮し火花点火させ火炎伝播により燃焼させるガソリンエンジンと,圧縮した空気に燃料 を噴射し自己着火により燃焼させるディーゼルエンジンがある.ディーゼルエンジンを動 力源とするディーゼル自動車はガソリン自動車に比べ優れた熱効率を示すが,排出ガスが 酸素富であるためガソリン自動車のように三元触媒が使用できず NOxの排出量が多く,か つ発ガン性との関連性が指摘されている PM を多く排出する問題がある.ディーゼル車か らの NOxや PMを低減するために排出ガス規制が強化されているが,ディーゼル燃焼はシ リンダ内に温度や燃料濃度の不均一性を有する拡散燃焼であるため,高い熱効率を維持し つつ NOx や PMを同時に低減することは非常に困難である.一方,ガソリンエンジンは,

理論空燃比近傍で運転するために排出ガスの後処理が容易である反面,圧縮比が低いため 熱効率に劣るといった欠点がある.

これら の問 題を解 決す るため に, 希薄条 件下 におい て燃 料と空 気を 予混合 化し て圧縮 自 己着火させる,予混合圧縮着火(HCCI:Homogeneous Charge Compression Ignition)燃 焼が注目されている.HCCI燃焼の概念は,1979年に,Onishiらにより 1),2ストローク エンジンに Active Thermo Atmosphere Combustion (ATAC)として適用されたのが最初で あり,その後,Najt ら 2)が4ストロークエンジンにより HCCI 燃焼を研究し,燃料炭化水 素の酸化反 応が重要な 役割を果た しているこ とを報告し ている.近 年,HCCI 燃焼に 関 す る研究が多方面で行われており,高い熱効率と低い NOx排出量そして PMの成分の一つで

(6)

ある Soot をほとんど排出しない理想的な燃焼が達成できることが見出されている.

一方で,HCCIは燃料・空気予混合気が多点で同時期に着火するために燃焼速度が速く,

着火制御が困難であり,燃焼温度が低いがゆえ炭化水素(HC)排出量が多いなど実用化に 向けて多くの課題を抱えている.着火制御に関しては,吸気温度制御,圧縮比調整,燃料 噴射系制御,残留ガスあるいは EGR の利用などエンジン側での制御方法が挙げられ,各 方面で研究が活発に行われている 3).一方,HCCI における着火は与えられた場における 燃料の酸化反応に依存しており,燃料の化学構造も HCCI 燃焼をコントロールする重要な 因子の一つである.各種の燃料の HCCI 燃焼特性が研究されており,例えば,methane, propane,butane,heptane,iso-octane といった軽質なパラフィンの HCCI 燃焼特性が,

その酸化反応機構がある程度明らかにされている理由から,実験的あるいはコンピュータ シミュレーションにより広く研究されている.さらに,着火性に優れる燃料と劣る燃料を 組み合わせた二成分系の燃料によりHCCI燃焼を制御しようとする試みもなされている4). しかしながら,より高分子かつパラフィン以外のナフテン,オレフィン,芳香族炭化水素 といった石油系燃料中に含まれる多種多様の成分の HCCI 燃焼特性に関する研究例はほと んどないの が現状であ る.さらに 燃料による 着火制御も 確立されて いないため ,HCCI 燃 焼を考える上で各種燃料組成物の HCCI 燃焼に及ぼす影響を把握することは重要であろう.

また, ディ ーゼル 燃料 の着火 性指 標であ るセ タン価 を向 上する 目的 で使用 され ている セ タン価向上剤は,比較的低温で熱分解によりラジカルを容易に生成し,それにより燃料の 酸化反応を促進すると考えられており,少量の添加でその効果を発揮する.そのため,HCCI 燃焼においても,セタン価向上剤のような添加剤を使用することにより着火が促進される と推測されるため,燃料のみならず添加剤との併用による HCCI燃焼制御も一方策として 考えられよう.

さ ら に ,HCCI 燃 焼 は , 燃 料 ・ 空 気 の 予 混 合 気 が 圧 縮 さ れ て 自 己 着 火 す る 現 象 で あ る た め,化学反 応速度論的 なアプロー チが適して いるといえ る.これま でに,HCCI 燃焼 を 理 解する目的で,各種燃料の化学反応スキームが検討されている 4).しかしながら,炭化水 素の酸化反応は複雑であり,炭素数が多くなると反応種や素反応数が指数関数的に増加す る.例えば,ガソリンやディーゼル燃料の代表燃料としてよく用いられている iso-octane

(炭素数8)や n-heptane(炭素数7)の酸化反応スキームは反応種が数百,素反応数で 数千にものぼる.このような詳細スキームは,実験データをよく再現できるが,計算に時 間がかかることや,二種類の燃料の混合といった単純な燃料影響を評価する場合にも使用

(7)

しにくいなどの欠点がある.そのため,このような詳細スキームから重要な反応のみを抽 出した簡略スキームを確立し,燃料影響を評価可能なシミュレーションモデルを開発する ことは重要である.

また, この ような 簡略 スキー ムが 確立さ れれ ば,エ ンジ ンにお ける 圧縮・ 膨張 行程の モ デリングに応用できるばかりでなく,エンジン内の様々な物理量の空間分布を考慮した多 次元シミュレーションへの応用が期待できる.

以上の観点から,本研究では,n-heptaneiso-octane に加えナフテンやオレフィン,

芳香族炭化水素の HCCI 燃焼特性を評価し,かつディーゼル燃料に着火性向上剤として使 用される各種セタン価向上剤の影響を把握し,燃料や添加剤の化学構造と HCCI 燃焼特性 に関して考 察を行う. その結果か ら,HCCI 燃焼特性を 左右する重 要な因子を 探索し , さ らに燃料や添加剤による HCCI燃焼の制御法について提案を行うことを目的とする.なお,

研究には,非常に短時間で高温高圧に燃料空気混合気を圧縮でき,熱損失が少ないため自 己着火の化学反応速度論的検討や熱発生過程を研究する上で有用な急速圧縮装置を使用す る.この急速圧縮装置は,エンジンでの圧縮過程をよく模擬することができるとともに,

圧縮前の初 期状態を任 意に制御す ることが出 来るため,HCCI 燃焼の基礎的検 討には 最 適 である.

また,急速圧縮装置により得られた n-heptaneiso-octane の HCCI 燃焼特性を再現す る た め に , 炭 化 水 素 の 反 応 機 構 を 考 慮 す る こ と で 重 要 な 反 応 を 抽 出 し , 燃 料 の 着 火 性 が HCCI 燃焼に及ぼす影 響を評価で きる簡略反 応スキーム を構築する .この場合 には, 急 速 圧縮装置において生じる伝熱を考慮にいれたモデルを用いて反応スキームの設計にあたる.

さらに,開発した反応スキームを用いて,熱力学的モデルにより HCCI エンジンのシミュ レーションを行い,HCCI燃焼における燃料着火性の影響を明らかにし,HCCIエンジンに おける燃料品質のあり方について提言を行うことを目的とする.

HCCI エ ン ジ ン は , 高 い 熱 効 率 と 低 い 排 出 ガ ス 特 性 を 両 立 し う る 可 能 性 の あ る 優 れ た 燃 焼方式であり,その実用化が望まれている.その実現には,新規な燃料品質が求められる と考えられ,実験的な検討かつコンピュータシミュレーションにより HCCI 燃焼における 燃焼性状の影響を化学反応速度論的に把握することは,学問的にも工業的にも意義のある ことと考え られる.ま た,開発す る簡略反応 スキームは ,HCCI 燃焼のみなら ず,例 え ば ガソリンエンジンにおけるノッキングに対するモデリングにも応用可能と考えられ,本研 究の持つ意義は大きい.

(8)

1.2 従来の研究 

HCCI エ ン ジ ン は , 希 薄 下 で 燃 料 と 空気の予混合気がピストンにより圧縮 され着火することにより燃焼の化学反 応をエネルギーとして取り出す機関で あり,いわばガソリンエンジンとディ ーゼルエンジンの両方の特性を有する ハ イ ブ リ ッ ド エ ン ジ ン で あ る .HCCI エンジンは,その燃料供給方式により 図 1-1 に示すように分類することがで きる 3).吸気管噴射方式では,ガソリ

ンエンジンのように燃料を吸気管に噴射し,空気・燃料の混合気を形成し,燃焼室内に投 入する.筒内噴射方式については,その噴射時期によって早期噴射方式と後期噴射方式に 分類できる.早期噴射方式においては,燃料を吸気行程から圧縮行程中に筒内に噴射し,

混合気を形成させる.後期噴射方式では,燃料を膨張行程前半に噴射し,強い空気流動に より混合気形成を促進する.いずれの方式においても,あらかじめ空気と燃料がよく混合 された状態で燃焼に至るため Soot の発生が少なく,かつ希薄燃焼であるため燃焼温度が

低く Thermal NOの生成も抑制できる.さらに,燃焼温度が低いことはシリンダ壁面への

熱損失が少ないことに繋がり,エンジンシステムとした場合にはポンピングロスを少なく することができること,さらにガソリンエンジンに比べ高圧縮比化が図れるなどの理由に より,高い熱効率が期待できる.また,近年のディーゼルエンジンに求められるような高 圧噴射が基本的には必要ないため,製造コスト的にも優位といわれている.

一方で,HCCIエンジンは,予混合化された燃料と空気の圧縮自己着火燃焼であるため,

幅広いエンジン回転数や負荷領域での着火制御が困難であり,自己着火が多点で同時に起 こるため燃焼速度が速く特に高負荷条件ではノッキングのような現象が起こるといった問 題がある.さらに,低温燃焼であるため,低負荷領域では未燃炭化水素(HC)や一酸化炭 素(CO)の酸化が十分に行われずに排出され燃焼効率が悪化するなど,実用化に向けて多 くの課題がある.図 1-2 に,HCCI 燃焼に関する研究の歴史を示した.上述したような課 題を解決す るために,HCCI 燃焼に関する研 究開発が活 発に行われ るようにな ってき て お り,様々な燃料を用いてエンジン要素技術が検討されている.

HCCI

Full Time Dual Mode

HCCI HCCI

Diesel Spark Ignition

Fuel Injection

Port In Cylinder

Late Early

Figure 1-1 Classification of HCCI engines HCCI

Full Time Dual Mode

HCCI HCCI

Diesel Spark Ignition

Fuel Injection

Port In Cylinder

Late Early

Figure 1-1 Classification of HCCI engines

(9)

1.2.1 各種燃料の燃焼特性に関する従来研究

HCCI燃焼の概念は,1979 年に Onishiらが2ストロークエンジンに ATAC 燃焼として応 用したことに端を発する 1).ATAC は,2ストローク火花点火エンジンにおいて低負荷時 に機関回転速度と内部 EGR の条件により起きる自己着火燃焼であり,燃焼圧力のサイク ル 変 動 が 小 さ い 安 定 し た 燃 焼 で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る . ま た ,Noguchi ら 5)は TS

(Toyota-Soken)燃焼と呼ぶ2ストロークガソリンエンジンの自己着火燃焼を検討してお

り,ATACと同様の特性を観察している.TS燃焼では,着火は多点で同時に発生し火炎が 全方向に急速に広がることを示している.また,燃焼の分光分析により,ラジカルがある 順番で観測されることを報告しており,CHO, HO2, O ラジカルが最初に,ついで CH,C2, H ラジカルが観測され,OH ラジカルが最後に観測されるとしている.この2ストローク ガソリンエンジンにおける HCCI 燃焼は,その後研究が進められ,燃焼室内のラジカル発 光像および発光スペクトルの解析により,多点での自己着火によるバルク燃焼であること が確認されている.

Iidaら 6)は燃料として methanolを用い,2ストローク ATAC燃焼を広範囲なエンジン運 転領域に応用しており,さらに dimethyl ether (DME)や ethanol,propane など数種の燃料 を用い,HCCI燃焼における燃料の影響を検討している7).2ストロークエンジンへの HCCI 燃焼の応用は,ホンダ技研工業(株)により達成されており 8),1997 年 1 月にAR(Activated

Radical)燃焼と呼ばれる燃焼方式を採用したエンジンを実用化している 9).AR 燃焼エン

1979 Onishi et al, “Active Thermo –Atmosphere Combustion (ATAC) – A new Combustion process for Internal Combustion Engine”. Two Stroke, 7.5 compression ratio

March, 2002 More than 20 papers at SAE World Congress

Figure 1-2 History of research for HCCI engines

Early HCCI experiments

Sandia diagnostics of diesel combustion

Diesel combustion inherently limited in emission reduction potential Honda and Toyota HCCI paper @ SAE

Active analytical investigation of HCCI Initial single cylinder tests

Multi-cylinder demonstration

Single cylinder engine demonstrated that noise, BDFC, PCP and power optimize at the same point

Simple control system maintains optimum operating point

Six HCCI papers at SAE congress

Continued

February, 1996 March, 1996

April, 1996 August/Sept, 1996

June, 1997 January, 1998

February, 1998

1979 Onishi et al, “Active Thermo –Atmosphere Combustion (ATAC) – A new Combustion process for Internal Combustion Engine”. Two Stroke, 7.5 compression ratio

March, 2002 More than 20 papers at SAE World Congress

Figure 1-2 History of research for HCCI engines

Early HCCI experiments

Sandia diagnostics of diesel combustion

Diesel combustion inherently limited in emission reduction potential Honda and Toyota HCCI paper @ SAE

Active analytical investigation of HCCI Initial single cylinder tests

Multi-cylinder demonstration

Single cylinder engine demonstrated that noise, BDFC, PCP and power optimize at the same point

Simple control system maintains optimum operating point

Six HCCI papers at SAE congress

Continued

February, 1996 March, 1996

April, 1996 August/Sept, 1996

June, 1997 January, 1998

February, 1998

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ジンは,低負荷域での不整燃焼を克服することで,燃費や排気ガス性能,ドライバビリテ ィを 向上 さ せ, 2サ イ クル エン ジ ンの 総合 性 能を 一段 と 高め たも の であ る.AR 燃焼 は,

シリンダ内の残留ガスと新混合気を積極的に混ぜ,残留ガス中のラジカルを利用して自己 着火を発生させており,燃焼室内の無数の点で自己着火が発生するため,燃焼効率が高く,

また通常不整燃焼が問題となる低負荷域でも失火は発生しなくなるとしている.

2ストロークエンジンにおいては,内部 EGR の効果を積極的に利用することにより , HCCI 燃 焼 固 有 の 高 い 熱 発 生 率 を 抑 制 し 実 用 エ ン ジ ン に 応 用 し て い る が , 基 本 的 に 内 部 EGR 率の低い4ストロークエンジンでは HCCI燃焼の達成が難しいと言われている.4ス トロークエンジンに対する HCCI燃焼の応用は,1983年に Wisconsin 大学 Madison 校の Najt らにより初めて報告されており 2),HCCI 燃焼が火炎伝播ではなく,燃料の酸化反応 に大きく影響され,化学反応速度が支配的因子であることを報告している.その後,HCCI

燃焼が低 NOx,低 Soot という優れた特性を示すことが見出され,4ストロークエンジン

においても様々な燃料の HCCI燃焼が検討されている.

Thringは 10)ガソリンを燃料として用い,HCCI燃焼が可能な領域を様々な当量比,EGR

率,エンジン回転数,初期温度などにより定義した.ディーゼルエンジンなみの高い熱効 率は,HCCI燃焼では非常に限られた範囲でのみ達成可能であり,それには高い EGR 率や 初期温度が必要であることを示している.Aoyamaら 11)も,ガソリンを吸気ポートに噴射 し,圧縮自己着火燃焼を試み,低燃費できわめて低い NOx特性を示す当量比の領域を示す とともに,この領域の拡大に吸気加熱が有効であることを示した.Hirayaらも 12),ガソリ ン HCCI エンジンにおいて,様々な条件における最適の吸気温度を求めているが,さらに 内部 EGR により筒内混合気の温度上昇を図り吸気温度を加熱することなしに,エンジン 回転数の拡大に成功している.Morikawa らは 13),高負荷領域では通常の火花点火燃焼に 切 り 替 え 高 出 力 を 得 る こ と を 前 提 に し , 低 負 荷 領 域 で ガ ソ リ ン エ ン ジ ン を ベ ー ス に し た HCCI 燃焼を達成する ことを試み ている.可 変バルブ機 構を用いる ことにより ,圧縮 比 が 12 程度でもガソリンが自着火可能であることを示し,バルブの開閉特性を制御することに より HCCI 運転領域を拡大している.このように,ガソリンを燃料とした HCCI エンジン においては,燃料の圧縮着火性が低いため吸気加熱や内部 EGR,可変バルブ機構などによ り筒内混合気の温度を上昇させる必要があることが分かる.また,燃料の着火性が低いた め,未燃炭化水素(HC)の排出が高いといった欠点も報告されている.

一方,ディーゼルエンジン用の燃料である軽油を使用した HCCI 燃焼の研究も行われて

(11)

いる.Ryan や Gray ら 14)が,軽油を用いた4ストロークエンジンにおける HCCI燃焼の研 究を行っている.ポート噴射された軽油により HCCI燃焼を行った場合,大幅な NOxの低 減が達成されており,PM排出量が減少することを報告している.なお,PM中の大部分は 未燃の燃料炭化水素と潤滑油由来の成分であり,スモークレベルは極めて低いことが確認 されている.ただし,このような HCCI 燃焼を軽油で達成するには,適切な圧縮比や高い 初期温度が必要であるとしている.後に,Christensenら 15)も,軽油をポート噴射し HCCI 燃焼を行っており,Ryan や Gray らと同様に圧縮比や初期温度の影響を報告しているが,

スモークや NOxの十分な低減が達成できない場合もあり,これは軽油の揮発性が乏しいた め均一な混合気を形成するのが困難であるためとしている.Kaneko16)らも,吸気マニホー ルドから燃料を噴射し,混合気の均一性を高めて HCCI 燃焼を行っているが,軽油を燃料 とした場合には HC 排出量が急増し,軽油がシリンダ壁面に付着するため潤滑油希釈も生 じ る と し て い る . こ の よ う に , 軽 油 を 燃 料 と し た 場 合 に , 吸 気 ポ ー ト に 燃 料 を 噴 射 し て HCCI 燃焼を達成しよ うとするに は,混合気 形成を促進 することが 必要であり ,実用 上 は 非常に難しいことが分かる.したがって,軽油を燃料とする場合には,燃焼室内に燃料を 直接噴射することにより燃料と空気の予混合気化を達成するための研究が行われている.

Takeda らは 17),燃焼室上部サイドに向かい合って設けた二つの燃料噴射ノズルから,燃

焼室中心に向けて燃料を圧縮行程の早期に噴射することにより,燃料の壁面への付着を抑 制するとともに空気との混合気形成を促進し,PREDIC と名付けた低 NOx・低スモーク燃 焼を達成し ている.た だし,この 燃焼が低負 荷領域での み可能なこ と,HC 排 出量が多 い こ と , 一 般 的 な 軽 油 ( セ タ ン 価 :62) で は 過 早 着 火 し て し ま う こ と な ど を 報 告 し て い る .

Akagawaらは 18),PREDIC における課題を解決するべく,様々なエンジン技術や燃料の影

響を報告している.燃焼室上部中央に設けた燃料噴射ノズルを併用した多段噴射方式を採 用 し , 燃 料 の セ タ ン 価 を 下 げ る か 着 火 性 に 劣 る エ タ ノ ー ル な ど を 配 合 す る な ど し て , 低 NOx,低スモーク燃焼を高負荷でも達成可能にしている.圧縮行程の早期噴射による HCCI 燃焼は,トヨタ自動車の Yanagiharaら 19, 20)によっても研究されている.直噴ディーゼル エンジンにおいて,燃料噴射を二段化し,一段目の燃料噴射を早期化することにより混合 気の形成を促進し二段目の噴射を着火トリガーとすることにより,UNIBUS(Uniform Bulky

Combustion System)と名付けた低 NOx,低スモーク燃焼が研究されている.トヨタ自動

車は,2000年 8月に,UNIBUSを低負荷領域で採用したディーゼルエンジン 1KD-FTVを

実用化している.一方,日産自動車の Kimuraらは 21),燃料の噴射時期を遅延し,大量 EGR

(12)

と高スワールにより低 NOx,PM燃焼を可能にする MK(Modulated Kinetics)燃焼と呼ば れる方式を報告している.大量 EGRにより燃焼温度を低減することで NOxの生成を抑制 し,それにより悪化する煤の生成は,ディーゼルエンジンの燃料噴射時期を遅延し着火遅 れ期間を長期化することに加え,燃焼室形状やスワール比の適正化によって着火の前に予 混合気形成を促進することで抑制している.日産自動車は,1998年に MK 燃焼を低負荷領 域に応用したエンジンを実用化している.

このように,一部 HCCI の概念を取り入れた4ストロークディーゼルエンジンが実用化 されているが,その運転領域は依然限られたものであり,より着火性が劣る燃料の方が適 しているとの報告もあることから,燃料によってはさらなる HCCI 燃焼の改善が期待され る.そのような観点から,ガソリンや軽油以外の燃料による HCCI 燃焼の研究も盛んに行 われている.

Christensen らは 15),ガソリンと軽油あるいはその代用である iso-octanen-heptane の混合燃料の HCCI 燃焼特性を圧縮比が可変なエンジンを用いて評価している.上死点で 自己着火を達成するために必要な初期温度や圧縮比を実験により求め,燃料のオクタン価 が高くなると初期温度を高くするか圧縮比を高くすることが必要であると報告している.

iso-octanen-heptane の混合燃料は,着火特性がそれぞれガソリンや軽油のそれと同等

であること ならびにオ クタン価測 定用の標準 燃料として 使用される ことから,HCCI 燃 焼 に関する研究においても広く使用されている.Aroonsrisopon らは 22),CFR(オクタン価 測定用)エンジンを HCCI 燃焼モードで運転して燃料特性の影響を実験的に評価した.彼

らは,n-heptaneiso-octane の混合燃料を用いてオクタン価の異なる燃料を調製し HCCI

燃焼の可能領域(当量比,負荷)を求め,燃料により反応特性が異なることを示し,オク タン価指数(RON+MON)/2 がエンジンの自己着火の傾向に相関があることを報告している.

それ以外にも代替燃料として,天然ガス,LPG,methanol,ethanol,DME などを燃料と した HCCI燃焼の研究が進められている.

表 1-1に,HCCI燃焼研究に使用されている燃料の着火特性を示す 4).一般的に,オクタ ン価が高い天然ガスや LPG およびそれらの代用燃料である methane,propane,butane などを用いた場合,高い圧縮比や初期温度が要求される 23,24,25.また,Fiveland らは 26), 天 然 ガ ス 組 成 が HCCI 燃 焼 特 性 に 及 ぼ す 影 響 を 評 価 し て お り , 天 然 ガ ス の 主 成 分 で あ る

Methane に 5%の Ethane や Propane が配合されると要求初期温度が 20 ℃程度低下する

ことを報告している.また,天然ガスや LPGに着火性の良い DMEを配合して HCCI燃焼

(13)

を制御する試みも検討されてい る.Chen らは 27),天然ガスと DMEの混合燃料のHCCI燃焼特 性 を 評 価 し , そ の 着 火 特 性 は DME と空気の混合比に依存し,

全体の燃料と空気の混合比には 依らないことを示している.さ らに,Chenらは28),LPGとDME の混合燃料による HCCI 燃焼も 評価しており,比較的低い初期

温度条件で HCCI燃焼を達成するには DME の添加が必要であり,その着火時期は DME添 加量に大きく影響されることを報告している.

また,methanol や ethanolなどのアルコールの HCCI燃焼も研究されており,アルコー ル類は HCCI 燃焼領域を拡大できる可能性が示されている.Oakley らは 29),methanol,

ethanol の HCCI 燃焼特性をガソリンと比較しており,特に methanol は EGR 許容量が高

く広範囲に HCCI燃焼が適用できると報告している.

以上のように,ガソリンや軽油を燃料とした HCCI エンジンは,2ストローク機関やデ ィーゼルエンジンの一部の領域に応用されすでに実用化されているが,その領域が低負荷 条件に限られており,HCCIの有する各種課題が解決されたものではない.これに対して,

燃料によってはその範囲が拡大出来る可能性や,着火性などの燃料性状によって HCCI 燃 焼を積極的に制御する可能性が示されている.しかしながら,燃料の影響を系統的に評価 した例はなく,また検討されていても,methane,propane,butane,heptane,iso-octane といった軽質なパラフィン系炭化水素による報告例が多く,より高級でパラフィン以外の ナフテン,オレフィン,芳香族炭化水素といった実用燃料中に含まれる多種多様の成分の HCCI 燃焼特性に関する研究例はない.さらに燃料による HCCI 燃焼制御も確立されたも の で はな い た め ,HCCI 燃 焼 を 考 え る上 で こ の よう な 各 種 化合 物 や そ の混 合 燃 料 の HCCI 燃焼に及ぼす影響を把握することが必要と考えられる.

1.2.2 反応速度論を用いた燃焼モデルに関する従来研究

HCCI 燃 焼 は 予 混 合 さ れ た 燃 料 ・ 空 気 混 合 気 の 圧 縮 着 火 に よ る も の で あ り , 燃 料 の 酸 化

Fuel MON RON Cetane

Number

LHV (MJ/kg)

Hydrogen >130 120

Methane 120 >127 49.9

Propane 97 112 46.3

n-Butane 89 94 45.8

Gasoline 82-89 90-100 13-17 42-44

Diesel 40-60 〜42.5

F-T Diesel 74-81 〜42.5

Natural Gas 120 >127 <6 45-49

LPG 93-96 94-110 <3 〜46

Methanol 92 106 <5 19.9

Ethanol 89 107 <5 26.8

DME 55-60 28.8

Table 1-1 Fuel properties for neat alternative fuels

(14)

反応過程の理解が非常に重要になる.さらに,エンジン内では化学反応に加えシリンダ内 の複雑なガス流動や壁面への熱損失など様々な因子が混合気の着火・燃焼特性に影響して いる.この ような理由 から,HCCI エンジンを実用化 する手段の 一つとして ,また燃 焼 現 象自体の詳細な解明を目的として,シリンダ内のガス流動と化学反応を含む燃焼シミュレ ーションモデルのニーズが高まっている.

炭化水素の酸化反応 30, 31)について見ると,予混合圧縮着火現象は,混合物の温度,圧力 によってその過程が分けられ,一般的なエンジンで取り扱われる領域は,低温酸化反応に より表現される.燃料の種類や混合気の物理条件によっては,低温酸化反応後にある程度 の誘導期間を経て高温酸化反応,熱炎へと発展する二段着火を示す場合もある.さらに,

温度が上昇した場合には,熱炎の発生のみを伴う高温燃焼が実現される.

炭化水 素な どの着 火は ,フリ ーラ ジカル の数 が増加 する 連鎖分 枝反 応によ って 引き起 こ されるが,低温酸化反応の領域ではヒドロペルオキシアルキルラジカルが重要な準安定中 間体としての役割を担っている.一方,より高温条件では,ヒドロペルオキシアルキルラ ジカルは連鎖成長過程の主要な生成物ではなくなり,代わって過酸化水素が二分子の OH ラジカルを生成することにより連鎖分枝反応を支配するとされている 30)

1958 年に Semenov(1956年ノーベル化学賞)により提案された炭化水素の低温酸化反

応機構は以下の通りであり,連鎖分枝反応が進行するためには ROOHや R”CHO の蓄積が 必要になるが,この蓄積時間が実験上の着火誘導期間と関係づけられる.ここで,低温酸 化反応の進行に関する ROOHとアルデヒドの重要性については,反応速度論的な見地から ROOH の重要性が指摘されてきている.なお,この反応機構は炭素数が2および3の炭化 水素に関してよく説明されており,それ以上の炭素数を有する炭化水素に関する低温酸化 反応には後述するように更なる中間反応が追加される.

RH + O2 → R・ + HO2・ R1-1

R・ + O2 → RO2・ R1-2

R・ + O2 → olefin + HO2・ R1-3

RO2・ + RH → ROOH + R・ R1-4

RO2・ → R’CHO + R’’O R1-5

HO2・ + RH → H2O2 + R・ R1-6

ROOH → RO・ + OH・ R1-7

(15)

R’CHO + O2 → R’CO・ + HO2・ R1-8

RO2・ → destruction R1-9

まず,連鎖開始反応であるが,反応 R1-1 は高い吸熱反応であり反応が緩慢であるため,

これも炭化水素の燃焼における誘導期間を説明している.ただし,いったんラジカルが生 成されるとこの反応自体は重要でなくなり,以下ようなラジカルとの反応がアルキルラジ カルの生成反応として優位になってくる.

RH + X → R・ + XH R1-1’

 ここで,Xはラジカルであり,OHラジカルの場合により有利である.

水素が引き抜かれる位置は炭化水素の C-H結合エネルギーに依存し,分子中に第三級炭 素(Tertiary Carbon)が存在する場合に,酸素分子はそこから水素原子を引き抜く.存在 しない場合には末端炭素の次の第二級炭素(Secondary Carbon)から水素原子を引き抜く.

続いて, R1-2 反応によりアルキルラジカルに酸素分子が付加しアルキルペルオキシラジ カルが生成する.ついで,アルキルペルオキシラジカルは R1-4 反応によりヒドロペルオ キシアルキルラジカルを生成する.

より高分子の炭化水素の低温酸化反応に関しては,もう一つの重要な分枝反応が加わる.

Benson により提案されたその反応は図 1-3 に示す通りである 30)

+O2

isomerization ・ROOH branching chain

+X +O2 (d)

RH R・ RO2・ (C)

(a) (b)

decomposition Olefin – free radical straight chain

O2 +RH

・ROOH ・OORI - RIIOOH HOORI - RIIOOH + R・

RIIIketoneCO + RIValdehydeCHO + 2OH

Figure 1-3 Branching chain reactions for heavy hydrocarbons

(16)

分枝反 応は ペルオ キシ アルキ ルラ ジカル の分 子内水 素引 き抜き 反応 による ヒド ロペル オ キシアルキルラジカルの生成により開始されるが,図 1-3に示したようにさらに酸素分子 が付加することにより進行する.

現在は,これらの反応を Semenov の反応機構に加えたものが一般的に低温酸化反応と 呼ばれている.この低温酸化反応ではペルオキシアルキルラジカルの分子内水素引き抜き 反応が重要な役割を担っているが,ペルオキシアルキルラジカルの反応性に関しては,も との炭化水素の分子構造が大きな影響を及ぼしており,引き抜かれる水素の結合エネルギ ーや引きぬく際の環状中間体の安定性などが関与している.

一方,温度が高くなると R1-2 の逆反応が優勢になるため, R1-3 反応によりアルキル ラジカルは酸素分子と反応し,オレフィンと HO2ラジカルを生成する.生成した HO2ラジ

カルは R1-5 の反応あるいは,HO2ラジカル同士の反応により H2O2を生成する.温度上昇

に伴い H2O2が蓄積され,それが分解すると系内に大量に OH ラジカルを放出することか ら,燃料分子の消費が急速に進行することになる.これが熱炎反応の開始であり,その後 系内の温度が急激に上昇するため炭化水素の熱分解が生じ COと H2Oを生成,その後 CO の酸化が起こり CO2を生成し,燃焼が完結する.

このよ うに ,炭化 水素 の予混 合圧 縮自着 火は ,フリ ーラ ジカル の数 が増加 する 連鎖分 枝 反応によって引き起こされるが,系内におけるラジカルの蓄積が重要な役割を担っている.

ところで,ディーゼル燃料の着火性を向上する目的で使用されているセタン価向上剤であ る硝酸アルキルやパーオキサイドは熱分解しやすく,かつその熱分解生成物が燃料の酸化 を促 進す る と考 えら れ てい る.Salooja は炭化 水素 の 燃焼 にお け る前 炎段 階 と着 火に 及 ぼ すセタン価向上剤の効果について検討した結果,セタン価向上剤は (1) 酸化反応が始まる 温度を著しく下げる, (2) 前炎段階での反応の範囲を広げる, (3) 着火温度を下げる等の 効果があることを見出している 32).代表的なセタン価向上剤である 2-Ethyl-Hexyl-Nitrate

(EHN)とDi-Tertiary-Butyl-Peroxide(DTBP)は,前炎段階において熱分解によりアルコ キ シ ラ ジ カ ル (RO・) や 二 酸 化 窒 素 (NO2) を 生 成 す る . こ れ ら の ラ ジ カ ル は 燃 料 分 子か ら水素を引き抜き,さらに,副生する反応性の高い HO2ラジカルや OH ラジカルにより,

燃料分子の酸化反応を促進することになる.セタン価向上剤の添加によりディーゼル燃料 の着火生指標であるセタン価が向上し,ディーゼル燃焼に影響を及ぼすことはよく知られ ているが,これを HCCI燃焼に応用した例は見あたらない.

一方, 上述 したよ うな 炭化水 素の 酸化反 応機 構をも とに ,いく つか の炭化 水素 につい て

(17)

は 詳 細 な 反 応 ス キ ー ム が 構 築 さ れ て い る . 米 国 DOE の Lawrence Livermore National

Laboratory のグループは,様々な炭化水素の詳細反応スキームを公表している33,34).詳細

反応スキームに含まれる反応種の数や素反応数は,燃料の炭素数が増加すると指数関数的 に増加し,例えば n-heptaneの場合,反応種が約 550,素反応数が約 2450,iso-octaneの 場合,反応種が約 860,素反応数が約 3600 にも上る.このような炭素数と詳細反応スキ ームの素反応数との関係を図 1-4 に示す.

Figure 1-4 Number of species and reactions for detail oxidation schemes of different hydrocarbons

10 100 1000 10000

0 2 4 6 8

Carbon Number

Number of Reactions

10 100 1000

Number of Species

Reactions Species

H2 CH4

C3H8

n-C4H10

n-C7H16 iso-C8H18

n-C5H12

ここで,それぞれの素反応の反応速度式は,以下のように解くことができる 35).例えば,

逐次反応 A →k a B,B →k b C では反応定数kaで化学種 Aは Bに,B は Cに反応定数 kbで変 化する.このとき,化学種 A の濃度を [A] などと表記すると,各化学種に関する速度式は 次のとおりである.

[ ]

A dt k

[ ]

A

d / =− a Eq. 1-1

[ ]

B dt k

[ ]

A k

[ ]

B

d / = ab Eq. 1-2

[ ]

C dt k

[ ]

B

d / =− b Eq. 1-3

したがって,これらの連立微分方程式を解くことで,濃度 [A] [B] 及び [C] の時間履 歴を知ることができる.一般に温度 T における i 番目の反応の反応定数 ki は衝突頻度係 数 Ai ,温度指数 ni ,及び活性化エネルギー Ei より式 1-4 のようなアレニウス型で記述

(18)

される.

  ki = Ainiexp

(

Ei/RT

)

Eq. 1-4

シリン ダ内 では温 度, 密度は 非定 常的に 変化 するの で, 各化学 種の 密度, 反応 定数も 変 化 す る . そ こ で , あ る 時 刻 ti に お い て 微 小 時 間 Δt の 間 は , 計 算 セ ル 内 の 温 度 , 圧 力 は 一定として熱物性値,反応定数等を算出し上記の反応計算を行う.このシリンダ内を一様 とするモデルは,熱力学的モデルまたは0次元モデルと呼ばれ,反応種や反応数が極めて 多い詳細反応スキームを用いても計算時間を短縮できるので,シリンダ内で起こる化学反 応過程を理解するには有用な手法である.

一方, 各種 物理量 の空 間分布 や燃 焼室等 の幾 何学形 状の 影響を 記述 できな いの が欠点 で ある.これを解決するためには,燃焼室内をいくつかのセルに区切り,各セル毎に上述し た反応速度計算を行い,その後,各種輸送方程式を解くことでセルごとの温度等の物理量 を算出し,次の時刻 ti+1=ti+Δt) における初期値とする.このような方法は多次元モデ ルと呼ばれ,燃焼に関わる諸現象の解明と予測に使用されている.近年のコンピュータの 性能向上と記憶容量の増大により,このような素反応に含まれる多成分の反応速度式につ いては,ガス流動を記述する数値流体コードに組み込んでも比較的短時間に解くことが可 能となりつつある.Kusaka ら 36, 37は,化学反応速度計算コードである Chemkin と流体 計算コードである KIVA を組み合わせ,多次元モデルにより HCCI 燃焼をシミュレートし ている.0次元モデルに比べ実エンジンでの燃焼により近い特性を予測可能であることが 示されている.しかしながら,汎用の数値流体コードでしばしば用いられる手法では,計 算を容易にする理由から考慮される反応数が制限されるため,出来る限り簡略化した反応 スキームの開発が重要になる.さらに,詳細反応スキームは,単一の炭化水素の反応過程 を構築したものであり,複数の炭化水素の反応スキームは依然構築されていない.反応ス キームの簡略化には,詳細反応スキームから重要な反応種や素反応を感度解析などにより 自動的に抽出する方法と一般的な酸化反応機構から経験則に基づき簡略化した反応スキー ムを構築する方法がある.

Aceves らは 38),個々の化学種,素反応について生成/消費速度比などから設定したカ

ットオフレベルに基づいて反応を取捨し,iso-octane の詳細反応スキームを反応種 199, 素反応 383 まで簡略化し,詳細スキームと同様の圧力履歴,熱発生の予測を可能にできる

(19)

と報告している.また,Lovasらは 39),天然ガスの詳細反応について感度解析により定常 状態にある化学種を計算時間毎に選択することにより反応種の簡略化を図っており,詳細 反応における化学種数 53を 23 まで低減することに成功している.しかしながら,これら の方法は,あくまでも詳細反応スキームが構築されているものに応用可能であり,かつ燃 料性状の影響を評価するために使用するには適していない.

一方, 酸化 反応機 構か ら経験 則に 基づき 簡略 化した 反応 スキー ムを 構築す る方 法につ い ては,Hu らが40,primary reference fuel(n-heptaneiso-octaneの混合燃料.PRFと 略記.)の着火過程について反応種 13,素反応数 18 から成る反応スキームを開発した.

n-heptaneiso-octane の反応性をペルオキシアルキルラジカルの分子内異性化反応速度

定数を調整することにより制御しており,急速圧縮装置における混合気の着火遅れを予測 す る こ と を 可 能 に し て い る . し か し な が ら ,Hu ら の 反 応 ス キ ー ム は 着 火 過 程 の み を 考 慮 しており,炭化水素の熱分解過程やその後の CO酸化過程までは考慮していない.その後,

Zheng らが 41),Hu らの反応を拡張し,高温酸化反応を考慮した反応種が 45,反応数 69

の 反 応 ス キ ー ム を 開 発 し て い る . 単 気 筒 エ ン ジ ン に お い て PRF20(iso-octane の 割 合 が

20%の PRF)を燃料とした場合の当量比,初期温度,体積効率の変化に伴う着火時期や燃

焼期間などの実験データを計算結果と比較している.しかしながら,燃料の着火性(オク タン価),すなわち n-heptaneiso-octane の混合比を自由に変化できるスキームにはな っていない.また,反応スキームの構築にエンジン試験により得られた圧力時間履歴を使 用しているが,エンジンにおける圧縮は比較的緩慢であるため,圧縮途中に酸化反応が進 行してしまい,燃料の酸化反応過程を検討するのに適しているとは言い難い.

エンジンにおける HCCI 燃焼の実現に向けて,シリンダ内のガス流動と化学反応を含む 燃焼シミュレーションのニーズが高まっている.そこで,比較的短時間で計算を行い,か つ HCCI 燃焼に及ぼす燃料性状の影響を評価するためには,複数の炭化水素の複雑な酸化 反応機構を考慮し,かつ出来る限り簡略化した簡略反応スキームの構築が必要である.ス キームの構築にあたっては,エンジンにおける圧縮に似た条件で,場の温度や圧力を必要 とする値に極短時間で設定出来る装置により得られる圧力線図などを利用することが求め られる.こうして構築される十分に簡略化された反応スキームを用い,0次元あるいは多 次元モデルによりシリンダ内での化学反応過程を理解し,それに対するシリンダ内の各種 物理量の空 間分布や流 動の影響を 把握できれ ば,HCCI 燃焼におけ る燃料性状 の影響 を 系 統的に理解でき,それに適する燃料に関する方向性が示せるものと考えられる.

(20)

1.3 本研究の方法

上 述 し た よ う に ,HCCI 燃 焼 は , 高 効 率 , 低 排 出 ガ ス と い っ た 優 れ た 特 徴 を 有 す る が , その着火や 燃焼の制御 が難しく,HCCI 運転領域が限ら れるなど実 用化に向け て様々 な 課 題がある.HCCI 燃焼は,予混合 された燃料 と空気の圧 縮による着 火反応によ るもの で あ り,燃料の化学的特性の影響を受けやすいため,それを明確にする必要がある.

そこで ,本 研究で は, 非常に 短時 間で高 温高 圧に燃 料・ 空気混 合気 を圧縮 でき ,熱損 失 が少ないため自己着火の化学反応速度論的検討や熱発生過程を研究する上で有用な急速圧 縮装置を用いて,様々な燃料の HCCI 燃焼特性を評価する.まず,急速圧縮装置により得 られる HCCI 燃焼の圧力履歴と不活性ガスの圧力履歴を比較することにより,燃料の酸化 反応によるエネルギー発生を比較検討する.さらに,得られる圧力履歴から HCCI の着火 性と燃料構造の関係を評価し,HCCI燃焼を特徴づける因子を把握する.

ま た , 軽 油 に 使 用 さ れ て い る 種 々 の セ タ ン 価 向 上 剤 を ,HCCI 燃 焼 に お け る 着 火 性 を 向 上させる添加剤として使用し,急速圧縮装置による HCCI 燃焼に応用しその特性を明らか にするとともに,燃料と添加剤を組み合わせることにより HCCI燃焼を制御する方法を提 案 す る . こ こ で は , ガ ソ リ ン や 軽 油 の 代 替 燃 料 と し て 一 般 に 使 用 さ れ る iso-octanen-heptane 混 合 燃 料 に 加 え , 添 加 剤 と し て 2-ethylhexylnitrate お よ び di-tertiary-butyl- peroxideを用いる.

さ ら に , 急 速 圧 縮 装 置 に よ り 得 ら れ る 圧 力 履 歴 は ,HCCI 燃 焼 を 理 解 す る 上 で 重 要 な 化 学反応速度論的な検討に有用であり,それをもとに化学反応スキームを開発することがで きる.これまでに,様々な炭化水素の酸化反応スキームが確立されているが,膨大な化学 種と素反応からなり,エンジン内の燃焼に応用するには莫大な計算コストが掛かることに 加え,単純な二成分系の燃料影響を評価するのにも適していない.そこで,急速圧縮装置 における圧力履歴をもとに,iso-octanen-heptane 混合燃料の簡略化した酸化反応スキ ームを開発する.ここでは,急速圧縮装置において生じる伝熱を考慮にいれたモデルを用 いて反応スキームの設計にあたり,燃料の影響を評価可能なモデルを確立するとともに,

HCCI燃焼における燃料の化学反応速度論的な検討を行う.

最後に ,確 立した モデ ルを用 いて ,エン ジン におけ る圧 縮膨張 を断 熱条件 下で シミュ レ ートし,HCCI エンジンにおけ る燃料の着 火性の影響 ,初期温度 ,当量比な どの影響 を 評 価検討する.また,様々な条件下で燃料の燃焼特性を評価し,燃焼効率と燃料着火性の関 係を体系的に評価する.

(21)

1.4 本論文の構成

本論文の構成は6章からなる.

第1章は序論であり,研究の背景と目的,従来の研究ならびに解決すべき問題点を示す.

また,研究の方法と概要について述べ本論文の意義を明確にする.

第2章 では ,急速 圧縮 装置を 用い て,様 々な 燃料の 予混 合圧縮 着火 燃焼特 性を 評価し , 燃料の構造と燃焼特性の関係を明らかにする.また,燃焼の一段階目の低温酸化反応にお ける熱発生と着火遅れの関係について言及するとともに,燃料により低温酸化反応を制御 する方法について検討する.

第3章では,急速圧縮装置による n-heptaneiso-octane の混合燃料の HCCI 燃焼に対 して,ナイトレートやパーオキサイド系の添加剤の着火時期に及ぼす添加効果を様々な条 件 で 評 価 す る . ま た , 混 合 燃 料 と 添 加 剤 の 組 み 合 わ せ た 系 に お け る 燃 料 の 着 火 性 指 標 と HCCI 着火遅れとの関 係を整理す ることによ り,予混合 圧縮自己着 火燃焼の着 火遅れ 制 御 に関する考察,燃料と添加剤による HCCI燃焼制御法について提唱する.

第4章では,急速圧縮装置により得られた n-heptaneiso-octane 混合燃料の HCCI燃 焼における圧力線図をもとに,壁面への熱損失をモデル化し,n-heptane と iso-octaneの 混合物の簡略化した酸化反応スキームを構築する.開発したスキームにおいて,化学反応 速度論的な解析を行い,HCCI燃焼における酸化反応速度論の影響を明らかにする.

第5章 では ,開発 した 簡略反 応ス キーム を用 い,エ ンジ ンにお ける 圧縮膨 張行 程を熱 力 学的モデルによりシミュレートし,燃料の着火性と HCCI 燃焼特性について検討を行う.

また,各種着火性を有する燃料の HCCI 燃焼に及ぼす初期温度や当量比などの影響を比較 検討し,HCCI エンジンに適す る燃料着火 性について 提言すると ともに,低 当量比に お け る HCCIの燃焼効率に関しても考察する.

最 後 に 第 6 章 で は , 本 研 究 で 得 ら れ た 結 果 を 総 括 し ,HCCI 燃 焼 に 求 め ら れ る 燃 料 着 火 性について 提唱すると ともに,HCCI エンジンに関し て残された 技術的な課 題とその 将 来 性について 展望する. さらに,HCCI 燃焼を自動車用 エンジンに 応用してい くための 燃 料 品質のあり方について言及するとともに,その燃料油開発に関する研究の方向性について 提言する.

(22)

第2章 急速圧縮装置による予混合圧縮着火燃焼の特性と 燃料の影響

2.1 緒 論

 高効率,低排出ガスという優れた特性を有する HCCI エンジンにおいて,その着火制御 は解決すべき最も重要な課題である.HCCI 燃焼における着火反応は与えられた場におけ る燃料の化学反応に大きく依存しており,燃料の化学構造が HCCI 燃焼をコントロールす る重要な因子である.一般的なエンジンで取り扱われる領域において,燃料・空気混合気 の圧縮自己着火は,低温酸化反応により進行し,その後,ある程度の誘導期間を経て急激 な燃焼へと発展する二段着火を示すと考えられる.一方,燃料や混合気の物理的条件によ っては,低温酸化反応なしに急激な熱炎反応が観測される場合もある.このような燃焼特 性の違いは燃料の種類にも大きく依存するが,低温酸化反応が HCCI 燃焼を制御する一つ の手がかりとなると考えられる.これまでに,軽質なパラフィン系燃料の酸化反応機構が ある程度明らかにされていることから,その燃焼特性や二成分系の燃料により HCCI 燃焼 を制御しようとする試みが,実験的あるいはコンピュータシミュレーションにより広く研 究されている.しかしながら,より高級かつパラフィン以外のナフテン,オレフィン,芳 香族炭化水素といった石油系燃料中に含まれる多種多様の成分の HCCI 燃焼特性に関する 研究例はほとんどない.さらに燃料による着火制御も確立されたものではないため,HCCI 燃焼を考える上でこのような化学種の HCCI 燃焼に及ぼす影響を把握することは重要であ る.

以上の観点から,本章では,パラフィン燃料に加え様々なナフテンやオレフィン,芳香 族炭化水素のHCCI燃焼特性を評価し,化学構造とHCCI燃焼特性に関して考察を行った.

ここでは,HCCI 燃焼特性に対する低温酸化反応の重要性,ならびに燃料による HCCI 燃 焼の制御法について述べる.なお,上述した検討には,非常に短時間で高温高圧に燃料・

(23)

空気混合気を圧縮でき,熱損失が少ないため自己着火の化学反応速度論的検討や熱発生過 程を研究する上で有用である急速圧縮装置を用いる.

2.2 炭化水素の酸化反応と燃料構造について

炭化水素の予混合圧縮自己着火は,混合物の温度,圧力によって,その過程が分けられ るが,一般的なエンジンで取り扱われる領域では,低温酸化反応と呼ばれる連鎖分枝反応 により表現される.とりわけ,低温酸化反応の発生やその後の急激な燃焼までの誘導期間 は燃料構造によっても大きな影響を受ける.

炭化水素の酸化過程について,その詳細は第1章で述べたが,ここでは,燃料構造と酸 化反応機構の関係について詳しく述べる.炭化水素の酸化反応における重要な反応経路を 図 2-1 に示すが,反応は酸素による燃料分子からの水素引き抜き反応により開始される.

比較的低温な領域においては,生成したアルキルラジカルへの酸素付加反応が発熱反応サ イクルを引き起こし,分子内異性化反応,二次酸素付加反応を経て,水分子とアルキルパ ーオキサイドを生成する.この

サイクルは低温酸化反応サイク ルと呼ばれ,系内の温度が次第 に上昇し,アルキルラジカルと 酸素との反応によりオレフィン を生成する反応が優勢になるま で継続する.ここで,このオレ フ ィ ン と さ ら に 副 生 す る HO2

ラジカルの二量化反応により生 じる H2O2 を蓄積する反応が生 じるが,このサイクルの発熱量 は比較的小さく,系内の温度上 昇が緩慢になる.その後,系内 の 温 度 が 徐 々 に 上 昇 し ,H2O2

の分解反応が優勢になる温度に 達すると,多量の OH ラジカル が生成され,燃料分子と OH ラ

HO2 H2O2 M

Olefin O2 RH

RH+O2 R H2O

O2

ROO

ROOH

O2 OH

OOROOH OROOH ORO .

.

.

. .

Initiation

Internal Isomerization High Temperature

Low

Temperature

Internal Isomerization

O O

H OO

H OOH

6-members-ring

ROO・ ・ROOH

Figure 2-1 General oxidation scheme of hydrocarbon

HO2 H2O2 M

Olefin O2 RH

RH+O2 R H2O

O2

ROO

ROOH

O2 OH

OOROOH OROOH ORO .

.

.

. .

Initiation

Internal Isomerization High Temperature

Low

Temperature

Internal Isomerization

O O

H OO

H OOH

6-members-ring

ROO・ ・ROOH

Figure 2-1 General oxidation scheme of hydrocarbon

(24)

ジカルとの反応により燃料を急激に消費し急激な熱発生を生じる.この急激な熱発生領域 では,燃料である炭化水素は熱分解し水分子と一酸化炭素を生成する.生成した一酸化炭 素はさらに酸化され二酸化炭素を生成する.これらの反応の中で,開始反応や低温酸化反 応サイクルの分子内異性化反応は,着火遅れに影響を及ぼす重要な反応と考えられ,燃料 構造や温度・圧力に影響される.

開始反応では,炭化水素分子の C-H結合から水素が引き抜かれる.水素が結合している 炭素は,その炭素と結合する他の炭素の数によって primary(炭素が一つだけ結合してい

る), secondary(炭素が二つ結合している), tertiary(炭素が三つ結合している)と分類

さ れ る . こ れ ら の 炭 素 か ら の 水 素 引 き 抜 き 速 度 は Tertiary-H > Secondary-H >

Primary-H の順に遅くなる.したがって,分子中の Primary-H の割合が多い燃料では,水

素引き抜き反応が起こりにくいことになる.また,分子内異性化反応は,図 2-1に示した ように環状化合物を経由して進行するが,その環状化合物の歪みエネルギーも重要になる.

その歪みエネルギーは六員環あるいは七員環構造をとる場合に小さくなるといわれており

42,例えば炭素数の多い直鎖の炭化水素では六員環あるいは七員環構造をとりやすいため,

分子内異性化反応速度が速い.また,分子内異性化の場合も引き抜かれる水素の位置が反 応速度に影響を及ぼす.このように,燃料構造によって酸化反応の過程やその反応速度が 大きく影響されることから,次節以降,燃料構造と HCCI 燃焼特性の関係に着目して検討 を進める.

2.3 実験装置および実験方法

2.3.1 急速圧縮装置

760.0mmHg

Fuel Air,

N2, CO2

Vacuum Pump

Amplifier

Sampling Cylinder Pressure

Gage

RCM

Pressure Transducer

Heater

Figure 2-2 Experimental apparatus for HCCI combustion

760.0mmHg

Fuel Air,

N2, CO2

Vacuum Pump

Amplifier

Sampling Cylinder Pressure

Gage

RCM

Pressure Transducer

Heater

Figure 2-2 Experimental apparatus for HCCI combustion 本研究に使用した装置

概要を図 2-2 に示す.ま た急速圧縮装置の詳細を 図 2-3,表 2-1 に示す.

この急速圧縮装置は,非 常に短時間で高温高圧に 燃料空気混合気を圧縮し,

定容燃焼させることがで きる.したがって,熱損

(25)

失が少ないため自己着火の化学反応速度論的検討や熱発生過程の研究に使用されている.

また,エンジンのシリンダー内に近い場の形成が再現出来る特性を持つ.本研究で使用し た急速圧縮装置は,シリンダーボアが 50.8 mm であり,ストロークが可変である.さらに,

上死点(TDC)における燃焼室体積はクリアランスを変更することにより調整可能であり,

このクリアランスと,ピストンストロークの調整により圧縮比を最大 19 まで変えること ができる.本研究では,クリアランスを 6.39 mm,ストロークを95.85 mmとし,圧縮比 を 16 に調整した.なお,排気量は約 207 cm3であり,燃焼室体積は 12.95 cm3である.

燃焼室および空気導入部分は電気ヒーターにより所定の温度に制御可能である.

Figure 2-3 Rapid compression machine (RCM)

Stroke Adjustment

Driving Chamber High Pressure Gas

Down FAV Pressure Oil Reservoir

Piston-locking High Pressure Oil

Valve-locking High Pressure Oil Oil Reservoir Pressure

Fast Acting Valve Orifice Area Control Speed Control Chamber Stopping Pin

Gas Chamber Heating Jacket Piston

Figure 2-3 Rapid compression machine (RCM)

Stroke Adjustment

Driving Chamber High Pressure Gas

Down FAV Pressure Oil Reservoir

Piston-locking High Pressure Oil

Valve-locking High Pressure Oil Oil Reservoir Pressure

Fast Acting Valve Orifice Area Control Speed Control Chamber Stopping Pin

Gas Chamber Heating Jacket Piston

Stroke Adjustment

Driving Chamber High Pressure Gas

Down FAV Pressure Oil Reservoir

Piston-locking High Pressure Oil

Valve-locking High Pressure Oil Oil Reservoir Pressure

Fast Acting Valve Orifice Area Control Speed Control Chamber Stopping Pin

Gas Chamber Heating Jacket Piston

Cylinder Bore 50.8 mm

Maximum Stroke 110 mm

Maximum Compression Ratio 19

Clearance Height 6-20 mm

Piston Length 172 mm

Piston Mass 0.97 kg

Maximum Driving Pressure 3.45 MPa

Maximum Piston Speed 10 m/s

Maximum Compression Pressure 7 MPa

Compression Time 10-30 ms

Max. Compression Temperature 1300 K Table 2-1 RCM characteristics

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