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特集 活躍する滋賀大生 特集1 「「活躍」する滋賀大生」

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Academic year: 2021

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(1)

4 しがだい

活躍する滋賀大生

特 集 4 しがだい

23%

 2005年の京都大学の就職率です。一瞬目を疑いますが、ホームページで公開している数字です。学部卒 業生の4人に1人しか就職していないのです。  「滋賀大は就職に強い」というイメージがあります。同志社や立命館と併願した受験生が、最後に選択 する決め手が就職実績というのもよく聞く話です。教育学部の教員採用試験の合格率は全国有数ですし、 経済学部は彦根高商以来の学内外の強い結束と人脈を誇っています。就職率は余裕で9割を超えているは ずです。  ――と思いきや、2005年3月に滋賀大を卒業した学生の就職率は、なんと75%でした。4人に1人は就 職していません。では、同志社や立命館はどうでしょうか。立命館についてはデータが見つけられません でしたが、同志社は公表している数字で計算するとさらに低い64%でした。それでも、京大よりは数段ま しに見えます。  種明かしをすると、京大では大学院への進学者が6割を占めており、理工系の学部では実に9割近い学 生が大学院に進学しています。研究志向が強いため、卒業生に対する就職者の比率は他大学に比して著し く低くなるのです。しかし文系はさほどでなく、特に経済学部の進学率は2割以下、就職率は68%で、滋 賀大や同志社とあまり変わりません。一方で、世間には100%近い就職率を豪語している大学も少なくな いというのに、この中途半端な数字はどうしたことでしょうか。

派手なチラシにはご注意を

 派手なチラシにはご注意を  要するに「数字のマジック」なのです。四年制大学の卒業者のうち2 割がフリーターというご時世に、就職率が9割を超えることはありえま せん。多くの大学で言う就職率とは、正確には「就職決定率」のことです。 つまり就職希望者のうちどれくらいが就職できたかという数字で、進学 者や就職意思のない学生を分母から除いており、文部科学省が公表する 数値もこれです。決定率ならば滋賀大も9割を超えています。  ところが、この「決定率」というのがまたくせものなのです。内定調 査は学生の報告が頼りですが、当初意欲満々だった学生も、厳しい就職戦線の中、10社20社と撃沈するう ちに戦意喪失、「行きたくもない会社に入るくらいなら……」と諦観に陥り、ついには回答すらしなくな る「行方不明者」になります。そういう学生は「その他」として統計の対象から除外される仕組みで、中 には本人の意思にはおかまいなしに、就職未定者をすべて分母から除く大学もあると聞きます。就職率は 限りなく100%に近づき、こうして、実態からかけ離れた数字が歩き出すのです。  学生全員が律義に現状報告してくれる訳ではないので、一般の人が想像する以上に、大学が彼らの進路 状況を把握するのは至難のわざで、卒業証書とひきかえに報告を求める大学も少なくありません。昨今は 個人情報保護法のおかげでそれすら難しくなり、同時に外部からもほんとうの「就職力」が見えにくくなっ ています。  世間には派手なパフォーマンスや宣伝活動で目立つ大学もちらほらあります。しかし、設備やイメージ にばかり目が行っていては、入学後に後悔することになります。建物が講義をする訳でもなければ、豪華 なパンフレットが就職を助けてくれる訳でもありません。大学案内やウェブ・サイトに、卒業者と未定者 の数をきちんと出してあればひとまず合格ですが、就職先の企業名や決定率しか公表していないところは、

特集1

「 活 躍 」 す る 滋 賀 大 生

吉川  栄治

(教育学部教授)

(2)

しがだい 5 しがだい 5 それなりの理由があると思った方が無難でしょう。大学が気にするほど受験生は就職データを見ていませ んが、それは大きなまちがいです。大学にいるのはたった4年間、その先の人生の方がはるかに長いのです。

 学校から居酒屋へ

 10年以上も前になりますが、教育学部の国語研究室に、すばらしい卒論を書いた男子学生N君がいまし た。作品への愛情と緻密な論理構成の両立したみごとな論文で、指導教授は雑誌への投稿を勧めたほどで す。N君は人柄も申し分なく指導力もあり、誰からも好かれ敬意を払われる人間でした。教師として理想 的な人物でしたが、卒業後彼が就職したのは居酒屋でした。  その訳を聞いて、妙に納得したものです。三年生の夏休みに飲み屋でバイトをして、天職を見つけたと いうのです。N君は自己主張をするタイプではありません。人の話にじっくり耳を傾けては、絶妙のタイ ミングで感想を入れ、相手を気分よくしてくれます。天性の「聞き上手」で、たしかにカタルシス(精神 の浄化)をなりわいとする客商売にうってつけです。  教師になりたかった彼が方向転換した先は、同じく人間を相手にする仕事でした。要するに、彼は教壇 の上から人にものを教えることが好きなのではなく、同じ目線のカウンター越しにするコミュニケーショ ンが好きであることに気づいたのです。学校と飲み屋のちがいは、相手が子どもか大人かのちがいだけだ、 と言ったら言い過ぎかもしれませんが、彼の中では二つの職業の距離は遠くなかったのです。  N君のえらいところは、行く手の判断に近所の聞こえや途中経過へのこだわりを交えず、親もしっかり 納得させたことです。その後のことは耳にしませんが、大きく人生の舵を切ったこの選択に、後悔はして いないだろうと思います。

 活躍なんかしなくていい

 しかし、こんな人生を、世間は「活躍している」と表現するでしょうか。この言葉には、いかにも「ば りばり働いている」「人の上に立っている」「大いに目立っている」という、うすっぺらい価値観の無神経 な押しつけがましさがあります。獅子奮迅、八面六臂、汗をまき散らしているような、どうにもむさくる しい語感です。まして、みずから口にできるような言葉ではありませんが、少子化と国策で競争に駆り立 てられている大学の宣伝文には、判で押したようにこの言葉が出てきます。  「活躍する卒業生、就職率100%」「第一線でパワフルに活躍する卒業生」「国際化時代に活躍する教養豊 かな知識人」「世界があなたの活躍する舞台」――まるで日本にいるのが犯罪のようですが、中には「グロー バルな視野をもちローカル社会で活躍する『グローカル』な人材の育成」という地方大学らしい珍妙な(涙 ぐましい)フレーズもありました。  ある大学は「各界で活躍する有名人」OBの名前を列挙し、ある大学は学会賞を受賞した「活躍する教 員」の名前を並べたてています。右手にチラシ、左手にメガホンで絶叫する家電量販店の呼び込みさなが らです。必死さのあまり、逆に受験生から「生活感」を見透かされることに気づいていないのです。かよ うに、むさくるしい精神状況からは安直で空疎な言葉しか生まれません。学生がどう「活躍」しようが、 学生の勝手ではありませんか。学生の努力の結果を大学の手柄にしてはいけません。  N君がすぐれた論文を書くことができたのは、行間を読む深い洞察力があるからです。迷うことなく進 路変更ができたのは、周囲にあおられない冷静な自分をもっているからです。いまも淡々と酔客の相手を しているでしょう。才能が惜しい気もしますし、両親と大学と社会が期待する「活躍」とは少しばかりち がうのでしょうが、肩ひじ張らないそのおだやかな表情に、自省の深さと人生の充足とがあったように感 じます。  N君と同じ年に巣立った学生の中に、もう一人、目を見張る卒論を書き上げた子がいました。粗削りな がら、天性の文章批評力と図抜けた場面分析力には、副査として査読した私も舌を巻いたほどで、私の教 室では10年に1人の素材です。批判精神の強い彼女は集団行動が苦手で、あまり授業に出ていなかったた め成績もパッとせず、記憶に残っていませんでした。好き嫌いの強い指導教授は、人当たりの良いN君は お気に入りでしたが、彼女の論文は推薦しませんでした。方向転換のタイミングは、その時点で失われて いました。  私は研究者として食べていけることを保証し、何度も大学院への進学を勧めましたが、自分を過小評価 しがちですでに選択の幅を見切っていた彼女は、カウンセラーの仕事を見つけ、北海道の鑑別所へ赴任して 行きました。教育学部で学びながら教師にはならない、私の記憶に残っているのはそんな学生ばかりです。

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6 しがだい

活躍する滋賀大生

特 集 6 しがだい

 一本道はありません

 誕生から死亡まで、人生のすべての時間が「道の途中」です。道標などありません。道に迷うのはあた りまえで、死ぬまで迷わない人間がオメデタイのです。  私のゼミに、段違い平行棒のような女子学生のコンビがいました。小さい方が実は親分だったのですが、 背丈も性格もまことにユニークな組み合わせで、いつも隣合って座り、いつもいっしょに廊下を歩いていた ので、余計凸凹ぶりが目立ちました。親分は毎回授業に遅刻しては私の目の前の席に座るや爆睡し、隣の相 棒がせっせとノートを取って試験も助けていました。二人とも単位を取るのは手こずっていたようです。  教員採用が宝くじのような時期でしたから、大きい方は試験にはね返され警察官になりました。第一志 望でないとはいえ、30倍の難関を突破したキャリアで、出世が保証されています。活発で歯切れの良い男 性的な性格なので、どうやら向いていたようです。一方、背は低くても器は大きく、おおらかでくよくよ しない気質の親分は教員試験も受けずに民間に行き、旅行会社で楽しく添乗をやって、メールで近況報告 などしていました。そして、どちらも3年で仕事を辞めました。  警察を辞めた理由は、女性上司の執拗ないじめです。辞める前にも何度となく愚痴を聞かされていたの ですが、男性の上司たちはその女性に何も言えず、見て見ぬふりだったそうです。彼女は大学の教職セミ ナーに唯一人の既卒として出席し、警察を辞職した翌年にめでたく教員になりました。性格の悪い女性上 司のおかげで、本来の道にもどれたようなものです。  親分は楽しい添乗から部署を変えられ、楽しくなくなったので辞めたのです。後も決まっていないのに 度胸があるものだ(いい加減なもんだ)と思いましたが、その後何度か採用試験を受けて、いま大阪の小 学校で教員として働いています。やはり中年の女性教師からいびられているそうです。子どもは好きでな いと言っていた彼女が、子どもといるのが楽しいと言っています。3年で辞めることは、多分ないでしょう。  いま親分は、思いどおりにならない恋愛で悩んでいます。そちらの方も相変わらず紆余曲折がありそう ですが、ともあれ、水商売に入ったN君同様、計画どおりの一直線ではなくても豊かな人生を満喫してい ます。ひとつはっきりしていることは、彼や彼女たちは夢のような――それこそ「第一線」を「グローバ ル」に飛び回るような――自分探しに時間を空費することなく、迷いをかかえながらも、節目節目で実に 思い切りよく決断をしてきたということです。彼らが落ち込んでいる姿を見たことがありません。

 いろんな活躍がありまして

 「大学生株日記」「目指せリッチな大学生」「大学生社長」「勝ち組大学生」――ネットに見えるいまどき の世相です。ビル・ゲイツやマイケル・デル、その小型版たる堀江某や三木谷某を夢見る若者にケチを付 ける気はありませんが、これら時代の寵児たちはすぐれた発見や技術革新によってでなく、商機と強運で 若年にして富を得ました。早い話、彼らがいなくても社会は何も変わりません。代わりのゲイツやホリエ モンが現れるだけのことです。  貧相な風貌に共通点があるこの起業家たちの唯一の貢献は、持ちつけない金を持って、世の中を野卑に したことでしょう。最近のみずほ証券の誤発注事件では、他人のミスに乗じて一瞬で20億円を懐にした無 職の27歳がいたそうです。彼は一日パソコンの前に座って何物をも社会にもたらさず、誤入力した社員を マウスクリック一つで絶望の淵に追い詰めたのです。  競争社会と実学重視が行くところまで行けば、大学生のデイ・トレーダー出現という奇形的状況に至る 訳ですが、地に足の着いた実学も無論あります。最近の新聞記事の見出しから、本学の学生たちの実践例 をいくつか拾ってみましょう。  ● 城下町の情緒乗せ 滋賀大生観光客担いで「籠かきプロジェクト」(毎日新聞)  ● 滋賀大生が彦根の町見学 商店街や元旅館巡り 活性化対策を研究(京都新聞)  ● 企業等とのコラボレーション 経済学部学生らが「ひこね街歩きケータイ」制作(読売新聞)  ●  滋賀大の教育学部生 話し相手や学習支援 集団生活になじめない栗東の小中生 週1回 学校訪 れ活動(京都新聞)  ● 学生が懸命に呼び掛け 栗東で献血サマーキャンペーン(みんなの滋賀新聞)  空洞化に悩む彦根市中心部の商店街では、学生が内装や備品調達、給排水工事までして、空き店舗を再 生させました。NTTドコモと提携して店舗情報を携帯に発信するシステムの開発や汗まみれの取材を

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しがだい 7 しがだい 7 行ったのも、経済学部の学生です。  報道されない地道な活動もあります。子どもふれあい教室、びわ湖フローティングスクール「湖の子」 のサポーター、信楽高原鉄道サンタ列車のサンタ役、彦根市の老人福祉施設訪問コンサート、重要無形文 化財「長浜曳山祭」のサポーター……、地域活性化の手助けや子どものサポート、ボランティア活動はひ きもきらずです。大学がコーディネートしていることもありますが、学生たちも嫌々やっているのではあ りません。  大学での授業に加え、地域貢献活動、教育実習、アルバイトと、学生たちは多忙です。私の予定表より も彼らの手帳の方が真っ黒で、ゼミ指導の日程調整も思うにまかせません。東大卒のにわか成金がもては やされる一方で、競争の敗者を支え、混沌とした社会に何かを学ぶ学生たちがいます。

 ごぞんじないでしょうが

 大学だって汗を流しています。最後に少しだけその宣伝をしておき ます。右のグラフは、近年の滋賀県教員採用試験の合格率(%)です。  見てのとおり、平成12年度がどん底です。本学新卒者は受験者の1割、 わずか7人しか採用されませんでした。他府県を加えても20人、教育 学部の年間経費からすると、教師1人作るのに1億円かかっていた勘 定です。納税者は怒るでしょう。潰されても文句が言えません。  その後の大学の動きは、この頃学生たちが口にしていた言葉がきっ かけでした。「大学は何もしてくれない」――何もしていなくはなかっ たのですが、あまり真剣にはしていませんでした。早くから支援の中 核となっていたOBの方たちからも、「学部の教員はなぜ動かないのか」 と批判を受けました。就職は学生自身の問題だ、依頼心を植えつけるべきでないと公言する教員もいまし たが、そういう大学自身が学生の自助努力や外部に依存していたことにはまるで無感覚です。  緊急プロジェクトが動き出しました。矢継ぎ早に対策を実施した結果、4年間で滋賀県の採用枠は2倍 にしか増えませんでしたが、ご覧のとおり合格率は5倍になりました。他大学を含めた受験生全体との差 は年ごとに広がり、支援事業は確実に結果が出ると我々自身が理解しました。もちろん何かの「密約」「取 り引き」があった訳ではありません。支援に無関心な教員の中にはその種の噂を信じる人もいるようです が、支援の実態と、試験前数か月間の学生の成長ぶりを目の当たりにしている我々には、何の不思議もな いことです。  いまは逆に「大学は押しつけがましい」と文句を言われています。学生たちは昨今の大学の切迫感を感 じ取り、冷めて見ている節がありますが、実のところ教員養成学部の実績は臨時採用を含めた数字で序列 づけされますから、この努力は学生の利益にこそなれ、大学間競争にはさして寄与していません。本学の 合格率は全国トップレベルながら、採用率ランキングではせいぜい真ん中です。  経済学部には、各地に支部をもつ陵水会という名だたる同窓会があり、強力なバックアップを行ってい ます。現場や教育委員会の要職を歴任し、教員採用を知り尽くしている教育学部OBの献身的な熱血指導 の効果は絶大なものがあります。宣伝下手なので目立ちませんが、水増しの数字やパフォーマンスではな く、学内外一体となった「実質的な支援」に力を傾注してきました。  2001年には、滋賀県の小中学校の校長の7割を本学OBが占めていました。やや減ってきているものの、 突出した最大勢力であることに変わりはなく、当然とはいえ、滋賀県の教育は本学のあり方に大きく左右 される訳です。日本人の1%の未来に影響するのですから、大学も手抜きができません。

 学生は社会の財産です

 我々大学人が学生の人生にかかわれるのはわずか4年間です。しかし、一生を決める4年間である以上、 責任は軽くありません。一方、彼らの「活躍」を大学の生き残りに利用することも、あまり見た目の良い ものではありません。そもそも卒業後の活動に、大学での学習と経験がどの程度役立っているかは測りよ うがありませんし、極彩色の宣伝チラシは、えてして空砲に終わるからです。  学生たちは、まちがいなく大学で何かを学んで社会へ巣立って行きます。そして多くが、格別身構える こともなく静かに汗を流し、社会の構成員としての責任を果たしています。タイトルの「活躍」にカギ括 弧を付けたゆえんです。 35.1 52.2 50.0 7.0 13.7 20.3 17.7 20.5 20.5 48.4 10.0 5.9 H12 H13 H14 H15 H16 H17 滋賀大新卒 全体

参照

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