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この40年のディスプレイ技術の変遷と将来展望について

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(1)

この

40

年のディスプレイ技術の変遷と将来展望について

奥村

治彦

a)

内田

龍男

††

金子

節夫

†††

下平

美文

††††

内池

平樹

†††††

服部

励治

††††††

中西洋一郎

†††††††

山崎

映一

††††††††

中本

正幸

†††††††

40-Years History of Display Technologies and the Vision for Future Displays

Haruhiko OKUMURA

†a)

, Tatsuo UCHIDA

††

, Setsuo KANEKO

†††

,

Yoshifumi SHIMODAIRA

††††

, Heiju UCHIIKE

†††††

, Reiji HATTORI

††††††

,

Yoichiro NAKANISHI

†††††††

, Eiichi YAMAZAKI

††††††††

,

and Masayuki NAKAMOTO

†††††††

あらまし 2002 年には,金額ベースでは,FPD 全体の市場が CRT 市場を超え,特に成長が著しく FPD の 活躍の場である携帯電話を中心としたモバイル市場はもとより,最近になって,CRT の最大市場であるテレビ 受像機市場でも逆転現象が発生するまでにFPD 市場が急成長してきた.このような中,本論文では,中心的な 役割を果たしてきたCRT と,その主役を引き継ぐ FPD(LCD,PDP,EL,FED に分類)について,ここ 40 年のそれぞれの技術進化を振り返り,将来を展望する. キーワード フラットパネルディスプレイ,LCD,PDP,EL,CRT,FED (株)東芝研究開発センター,川崎市

Toshiba Corporate Research and Development Center, 1 Komukai Toshiba-cho, Saiwai-ku, Kawasaki-shi, 212– 8582 Japan

††東北大学大学院工学研究科電子工学専攻,仙台市

Department of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University, 6–6–05 Aza-aoba, Aramaki, Aoba-ku, Sendai-shi, 980–8579 Japan

†††NEC液晶テクノロジー株式会社,川崎市

NEC LCD Technologies, Ltd., 1753 Shimonumabe, Nakahara-ku, Kawasaki-shi, 211–8666 Japan

††††静岡大学創造科学技術大学院,浜松市

Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University, 3–5–1 Johoku, Naka-ku, Hamamatsu-shi, 432–8561 Japan

†††††佐賀大学名誉教授

Emeritus Professor of Saga University, 1–8–11 Inokuchi-Suzugadai, Nishi-ku, Hiroshima-shi, 733–0843 Japan ††††††九州大学大学院システム情報科学研究院,福岡市

Department of Electronics, Faculty of Information Sci-ence and Electrical Engineering, Kyushu University, 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka-shi, 819–0395 Japan †††††††静岡大学電子工学研究所,浜松市

Research Institute of Electronics Shizuoka University, 3–5–1 Johoku, Naka-ku, Hamamatsu-shi, 432–8011 Japan

††††††††千葉市稲毛区萩台町664–38(元 日立製作所)

664–38 Hagidai-cho, Inage-ku, Chiba-shi, 263–0012 Japan a) E-mail: [email protected]

1.

ま え が き

2002年には,金額ベースでは,FPD全体の市場が CRT市場を超え,特に成長が著しくFPDの活躍の 場である携帯電話を中心としたモバイル市場はもとよ り,最近になって,CRTの最大市場であるテレビ受像 機市場でも逆転現象が発生するまでにFPD市場が急 成長してきた.これは,製造装置の大面積化や生産性 の向上に基づくFPDの低コスト化によるところが大 きいが,高画質動画像表示技術や,低消費電力化技術 が進んできたことが,更に市場拡大に拍車をかけてい る.また,最近では,CRTを超える動画性能とLCD を超える低消費電力を武器にSEDと呼ばれるフィー ルドエミッション型ディスプレイ(FED)や軽量で張 合せによる大型化が容易なプラズマチューブディスプ レイなど,新しいディスプレイも提案されてきている. 一方,携帯電話を中心としたモバイルディスプレイ は,LCDの独壇場であったものが,有機ELの登場に より,薄型化,低消費電力化への競争が激烈になって きている.更には,究極の低消費電力化を高画質で実 現するために,反射率が高く明るい新たな反射型ディ

(2)

図 1 ディスプレイの歴史(1968∼2008) Fig. 1 History of display technologies.

スプレイ方式も電子ペーパー応用を目指して提案され る一方,このような従来の低消費電力化の軸から,薄 型の究極ともいえるフレキシブルという新たな進化軸 に向けた動きも出てきている. このような中,本論文では,中心的な役割を果た してきたCRTと,その主役を引き継ぐFPD(LCD, PDP,EL,FEDに分類)について,図1の概略の歴 史で示すように,ここ40年のそれぞれの技術進化を 振り返り,将来を展望する.

2. LCD

技術

2. 1 LCD技術開発の経緯 液晶は分子間力が液体と同様に極めて弱いが結晶と 同様に分子が一様に並んでいる特異な物質である.こ のために,分子の配列方向によって屈折率や誘電率, 導電率などが大きく異なること,数V以下の電圧で 配列方向を大きく変化させ得ることなどの特長を有す る.この低電圧で光学特性が変化する性質を低電圧・ 低電力のディスプレイに応用できることがHeilmeier ら[1]によって提案されたのが1968年のことである. 当時はoff状態で透明,on状態で白濁することを利 用したdynamic scattering(DS)モードが用いられ た.透明電極を付けた2枚のガラス基板の間に液晶を 5μmほどの厚さで挟んで液晶セルを構成し,透明電 極のセグメントの組合せで数字を表示するものであっ た.これを1973年にシャープ(株)が初めて量産し, 低電力の液晶電卓に応用した.その後,数字だけでな く文字の表示を可能とするためにドットマトリックス 表示が開発された.2枚のガラス基板のそれぞれにx 方向及びy方向の多数の透明ストライプ電極を設ける XYマトリックス駆動方式である.しかし走査線に相 当するX電極の数が増して駆動周波数が高くなると, イオンの移動速度が追随できなくなり,走査線数の限 界が見えてきた. その後,1971年にはSchadtら[2]によってtwisted nematic(TN)方式が提案された.これは液晶分子を 2枚の基盤の間で90ねじらせて配列させたものであ る.この方式はDSモードのようなイオン電流を必要 としないためにイオンの移動速度による走査線数の限 界がないこと,消費電力を更に低減できることなどの 特長がある.1973年にはこの方式を用いた液晶腕時 計が服部精工舎から市販された.その後,多くの電気

(3)

メーカーがこれをXYマトリックス表示に応用して電 子タイプライタ,ワープロなどが登場してきた.やがて ラップトップパソコンが開発され一部実用され始めた が,走査線数が100本程度になるとコントラストがと れなくなって表示容量の限界が見え始めてきた.しか し,1984年にねじれ角を270としたsuper-twisted birefringence effect(SBE)方式がScfefferら[3]に

よって提案され,走査線数400∼600本が達成された. 更に量産しやすいねじれ角240程度のsuper-twisted nematic(STN)方式の提案,これらの着色を明りょ うな白黒表示に変換する2層型STN方式,位相差フィ ルム補償型STN方式へと発展していった.これらは PDAやノートパソコンをはじめとして多くの新しい 製品を生み出した. 一方,かなり早い時期から各画素ごとに薄膜トラ ンジスタ(TFT)を付けたアクティブマトリックス方 式が提案されていたが,TFTにアモルファスSiが使 えることがComberら[4]によって示され,急速に実 用化が進められた.一方,液晶セル内にマイクロカ ラーフィルタを付けたフルカラー表示方式がUchida ら[5], [6]によって提案され,対角2∼3インチ程度の 小型液晶テレビ,次いで10インチ程度の中型液晶テ レビやノートパソコンの開発・実用化が続いた. 次いで本格的な中∼大型テレビへの応用に向けて視 野角の大幅な拡大が求められ,液晶モードの根本的見 直しが行われた.その結果,IPS(in-plane switching) 方式[7],VA(vertical alignment)方式[8], [9],OCB (optically compensated bend)[10]方式などが考案・

開発され,大型液晶テレビの時代を迎えた.コントラ ストの向上,応答速度の改善などが続き,現在では高 品位テレビとして広く実用化されている. これに先立って,カラーLCDのバックライトを除い た反射型カラーLCDがUchidaら[11]によって1984 年に提案され,1998年に実用化された.超低電力の特 長が生かされてPDA,ノートパソコン,携帯電話な どに応用された.その後,室内では透過型,屋外では 反射型として機能する半透過型に発展し,現在ほとん どの携帯電話やディジタルカメラ等に広く応用されて いる.このように反射型カラーLCDは,付加価値の 高い小型ディスプレイの分野をひらくきっかけとなっ て,大きく発展している. これらの展開と相前後して,超小型LCDを用いる プロジェクションディスプレイが開発され,大型ディ スプレイとして広く実用化されている. 2. 2 液晶モードと関連材料技術 液晶自体は非発光型であり,透過光を制御するだけ でよい.また,明るさを必要とする場合はバックライ トを付加すればよい.このように,液晶と光源を機能 分離しているために,液晶自体は超低電力駆動である こと,コントラストや視野角などを液晶の設計や光学 材料によって幅広く制御できること,また光源につい てはそのスペクトルや光の強度分布などを任意に設計 できることなどの柔軟性や改良の幅広い可能性を有し ている.実際,小型から大型まで同じ基盤技術を共通 に用いて多様な用途に用いられている. LCDの表示性能を著しく高めたのは,アモルファ スシリコンの薄膜トランジスタ(TFT)を用いること ができたこと及びカラーフィルタという簡単な方法で フルカラー化を達成できたことによる. LCDは簡単な数字表示器にも用いられているが,最 近では,TFTを用いた高品位液晶ディスプレイ(以下 TFT-LCDと書く)が主流を占めるようになってきて いるので,ここではこれを中心に説明する. TFT-LCDは当初TN方式が用いられていたが,用 途の拡大とともにまずその視野角の改善が強く求め られた.視野角を狭くしている原因が,液晶の屈折率 異方性によるものであるため,この改善策として,ま ずディスコティック液晶フィルム(WVフィルム)を TNセルの両側に貼って屈折率異方性を補償する方法 がMoriら[12]によって提案され,視野角がかなり広 くなったため,小型液晶テレビやノートパソコン,モ ニタディスプレイなどに広く実用された.しかし,中 型∼大型テレビでは更に広い視野角が要求され,IPS 方式,VA方式,OCB方式などが考案・開発された. IPS方式は液晶の配向が基板にほぼ平行で面内方位 を変化させるだけであるため,基本的に広い視野角を 有する特長がある.しかし,分子長軸方向と短軸方向 の方位で光学特性が若干異なるため,各画素ごとに2 方向に配向分割したマルチドメイン方式が用いられて いる.これによって,IPS方式はその広視野角特性が 最初に実証され,LCDの視野角に対する懸念を払拭 させた.次いで更なる視野角特性の改善が検討され, 液晶セルの両側におかれている直交偏光子に問題があ ることが明らかにされた.斜めから観察すると実効的 に直交から角度がずれて,光漏れが生じることである. この問題は,位相差フィルムを用いて偏光子の実効的 な角度ずれを補償することによって解決できることが 示された[13], [14].

(4)

VA方式では垂直配向の液晶セルが用いられている が,このセル自体は視野角が狭いため各画素ごとに4 方向に配向方位を分割するマルチドメイン方式が用い られている.更に,垂直配向状態の複屈折効果を補償 するため,及び直交偏光子が上述のように斜め方向で 実効的に直交からずれる問題を補償するために位相差 フィルムが用いられる.VA方式は他の方式と違って, 製造過程でラビングを必要としないため,大型ディス プレイの製造プロセスの簡素化に有利であると考えら れている. OCB方式では,液晶が基板に垂直な面内で弓なり に曲がったベンド配向をとるようにしてある.このた めに屈折率異方性が自己補償されるという特長があ り,マルチドメインは必要ない.しかし,高いコント ラストを広い視野角で得るためには自己補償だけでは 十分でないこと,及び黒状態を得るための電圧を低く することのためにWVフィルムが用いられる.なお, OCB方式はベンド配向に起因して,応答速度が著し く速いという特長がある.これは分子配向が変化する 際,ミクロな分子の移動が生じ,これが応答を加速し ているためである.このために低温使用のLCDやカ ラーフィルタなしのフィールドシーケンシャルカラー LCD [15]として関心がもたれている. LCDに用いる材料は多岐にわたっている.まず液 晶としては誘電率異方性(分子長軸に平行及び垂直方 向の誘電率ε及びε⊥の差ε− ε⊥)が正及び負のネ マティック液晶(それぞれNp及びNnと略記)があ る.IPS及びOCB方式にはNp液晶が,またVA方 式にはNn液晶が用いられる.いずれもTFT-LCD用 として超高純度・高抵抗が要求され,フッ素系のもの が用いられている. 基板材料としてはアルカリフリーで平面性の高いガ ラスが要求される.最近では軽量,フレキシブルなど を目的としてプラスティック基板が検討されている. この表面にはIn2O3にSnを添加したITOの透明電 極及び液晶を配向させるための高分子配向膜が付けら れる.更に一方の基板には顔料によるカラーフィルタ が付けられる. 他の重要な部材として,バックライトユニットがあ るが,光源として冷陰極蛍光灯CCFLが広く用いら れている.最近では水銀レス,高色純度,輝度制御な どを目的としてLEDへの置き換えが検討されている. 平面光源とするために導光板方式と直下型方式がある が,後者では反射板,拡散板,集光プリズムシートな どが併用される. ほかにも多くの部材が用いられてLCDのコントラ ストや視野角が高度に制御されるが,これらがLCD の柔軟性を高くしている. 2. 3 駆動システム技術 液晶ディスプレイ(LCD)の駆動技術の歴史は,基 本的には,材料やデバイスの進化とともに,主にコン トラスト,フリッカと残像という三つの性能軸を中心 に改善され続けてきた.1968年,RCA社によって世 界で初めて開発された当初は,上下の基板に透明電極 をマトリックス状に直行させて配置しただけの単純マ トリックス型(PM型)であった.PM型では,クロ ストークを低減してコントラストを高めるために,駆 動電圧–透過率特性(V-T特性)の急しゅんな特性を もち,応答性の遅く実効電圧応答しかしないSTN液 晶を使う必要があった.そのため,残像が非常に多く 動画性能としては不十分であった.その後,更に応答 性の良い液晶を用いて,複数のラインを同時に駆動す ることにより残像とフリッカを同時に低減するマルチ ライン駆動が1990年から1992年に開発され,応答性 50ミリ秒,コントラスト30が達成された[16], [17]. しかし,最終的には,残像をテレビに使うレベルまで に改善することができなかった. 一方,1画素ごとにスイッチ素子をつけるアクティ ブマトリックス型(AM型)が1973年T.P. Brody らによって開発された.AM型に構造が変わることよ り,1画素ごとにスイッチで分離され,クロストーク をほぼ完全に抑えられるため,コントラストは100以 上と大幅に改善されたが,スイッチが閉じるときにス イッチのON/OFF信号が画素部にもれるフィードス ルーのために,書換えを行うフィールドごとに電圧が 異なることで発生する面フリッカが新たな問題として 浮上した.これを解決するために,人間が微小領域の フリッカを視認できないという特性を利用して,1986 年から1989年までに,面フリッカを線や点のフリッ カに変換する各種のフリッカレス駆動が提案され,今 でも使われ続けている[18]∼[21]. このようにして,1980年後半にはデバイスにあっ た各種の駆動方式により,コントラストやフリッカは 大幅に改善したが,残像については,応答性の比較的 良いTN型に材料を変えることで2値応答については 改善されたが,テレビでよく使う中間調レベルの応答 性は70∼100ミリ秒以上と不十分であった.そこで, 1992年にオーバドライブ技術,つまり,電圧の変化

(5)

を強調(オーバドライブ)して駆動する手法が提案さ れた[22], [23].本手法は,2000年以降,低コスト化の ためのフレームメモリ容量削減手法[23], [24]やソフ トウェアだけで実現できる手法[25]など各種改善が継 続して行われ,今では液晶テレビの基盤技術,必須技 術となっている[26].また,更に,残像の新たな発生 要因として,1985∼1996年ごろにかけて研究が行わ れ,1フィールド期間電圧を保持することに起因する ホールド効果が発見された[27].これを改善するため に,CRTのようにインパルス状にバックライトを発光 させる手法や,書換え速度を60 Hzから120∼240 Hz と2∼4倍に高速化して,その間の画像を補間する手 法が各種提案されている[28]∼[30]. また,コントラストについては,画像のもっている ダイナミックレンジに応じて,バックライト自体を全 面若しくは部分的に変化,つまり,暗い画像ではバッ クライトを下げて,明るい画像ではバックライトを上 げることで,コントラスト100万や1000万以上にま で向上させることができる高ダイナミックレンジLCD が2003年に開発された[31].本手法はコントラスト, ダイナミックレンジ拡大だけでなく,液晶テレビの消 費電力の大部分を占めるバックライトの消費電力を, 必要な部分の輝度を上げて,不要な部分の輝度は下げ ることで低減する手法としても期待されている[32]. また,これに合わせて,駆動するドライバICについ ても,1990年後半の8ビットから2000年初頭には10 ビット,更には2007年には12ビットへと進化してき ている[33]. これからの駆動システム技術は,色再現範囲の拡大 も含めた高ダイナミックレンジ化,環境に配慮した低 消費電力化を中心に,単にLCDモジュールだけにと どまらず,ディスプレイシステム(例えばD2PO低消 費電力技術[34]),更には,撮像や伝送,画像処理技術 を巻きこんだ映像システム全体を最適化する方向へと 進化していくものと予想される. 2. 4 画質改善,評価技術 LCDの画質を振り返るとき,重要な観点はCRTか ら平板型ディスプレイへという流れであり,画素が非 発光素子ということである.このようなデバイスの主 役の交代は,大画面で軽量という目標を達成するため に考えられたことである.このことが発光原理や走査 原理が異なることによる,画質に対する新たな多くの 検討課題を提供することになった.視野角特性,動き ぼけ妨害,コントラスト,色再現,解像度,等の研究 は,CRT時代にはほとんど問題にされなかった画質 要因とその探求の経過を含んでいる.以下にはLCD に特徴的な画質要因について簡潔に研究の経緯を振り 返って見る.ほかにも重要な課題及び文献は多数ある が紙面の関係で割愛させて頂く. 2. 4. 1 視野角特性 LCDに画像の表示が可能になった1980年代中ごろ から1990年代に,画面を見る観視角度によって画質 が著しく変化する現象が多数の研究者により精力的に 研究された[35].黒反転現象を代表に,輝度,ガンマ, コントラスト,色再現などが多数の要因が複合して変 化するもので,CRTでは見られないものであった.こ れらを総称して視野角特性といいその評価方法につい ての研究が行われた[36].LCD視野角特性の業界の 評価基準は当初からコントラスト10以上が得られる 観視角度で定義されている.この基準が画質の観点か らは現実に対応していないという見解があり,総合画 質の観点から行うことの提案がなされている[37]がま だ確立されておらず,現在もその評価方法については 研究が行われている[38]. 視野角特性は,スクリーン面に張る位相差フィルム の開発や,セル構造の改善,このような現象の起こり にくい動作モード(例えば[39])の採用などにより, 現在は通常の用途には十分なほど,特性の改善が実現 されている. 2. 4. 2 Motion Artifacts LCDの大画面,高解像度,高輝度がおおむね満た されるようになるにつれて,Motion Artifactsの課題 がクローズアップされた.なかでも最も顕著な現象は 「動きぼけ」と「動きのぎくしゃくさ」等である.その 課題については早い段階(1985年)で指摘され,研究 が行われた[27].この現象は,画像の中で動く部分の みに特徴的に発生する現象で,画像の動きと眼球の動 きの相対運動に連携して知覚される.この原因はLCD がホールド型の画像表示方式を採用している,液晶の 動作モードが一般にはフィールド周期に比較して遅い ことが原因であった.この現象は,高速動作の液晶の 開発,動作を速める駆動方式の提案[40]に始まり,多 方面にわたる駆動方式の開発により大きく改善された (解説文献[41]).動きぼけ妨害に対応する物理量を測 定する方法が提案され,この劣化を容易に推定するこ とができるようになった[42]. 更に近年,LCDは純粋なホールド型の動作から光 の透過時間をフィールド時間より短くするパルス的な

(6)

表示をする方法[43]やフィールド周波数を2倍から4 倍に上げ,動き部分の画像を動き補償処理で補完して 表示する方法[44]などが採用されるようになった.こ れらの工夫によりMotion artifactsの劣化も著しく減 少した. 2. 4. 3 コントラスト,ダイナミックレンジの拡大 LCD の 高 輝 度 化 が 進 み ,300 cd/m2 以 上 1000 cd/m2 を超えるものが開発されるようになり, 輝度は通常の用途には満足するレベルに到達し,画質 の観点からはコントラスト及び黒レベルの重要性が改 めて認識されるようになった.その中でコントラスト の向上も目覚ましく,バックライトの制御と組み合わ せてダイナミックレンジが数十万もあるディスプレイ が製作された[45].これらは,従来の画質の範疇を超 えた強い印象を与えた. 2. 4. 4 広 色 域 画像機器において半世紀を越えて大きな改善がなさ れていない要因として色域がある.LCDはフィルタ とバックライトの組合せで色域を比較的容易に拡大で きることから,積極的な開発が行われている.注意深 く撮影された画像を表示するとその効果が見え,こ れまでの画像と品質の違いが分かる.現状では,物体 色の色域程度に色域を拡張したLCDが開発されてい る[46].しかし,大きな効果を得るためにはカメラの 色取得特性から変更する必要があり,この点の対応が 遅れているといえる. 2. 4. 5 今後の展望 今後ますますディスプレイの画質は向上すると思わ れるが,省エネルギー,省資源など地球規模の課題の ほかに,LCDにとって実現が有利な高精細化,ダイ 表 1 アクティブマトリックスデバイスの種類と用途 Table 1 Active matrix devices and their applications.

ナミックレンジ拡大,広色域化が大きな軸になりそう である.更に,ディスプレイの用途からみると高精度 色再現という軸と,個人の好みや環境に順応した色再 現という軸,及び疲労が問題にならない3Dが実現さ れればこれらも含めて今後のディスプレイ開発の中心 軸になるのではないかと思われる.

3.

アクティブマトリックス型デバイス技

[47]

[49]

アクティブマトリックス(AM)型LCDの開発は 1973年にT.P. BrodyらがCdSeをチャネル層に用い た薄膜トランジスタ(TFT)駆動TN型LCDを試作 し,その可能性を実証したことから始まるが,TFT 自体は1962年にP.K. WeimerによるCdSを用いた TFT構造の提案が最も古い.その後,太陽電池等へ の応用研究が開始されていた水素化アモルファスシリ コン(a-Si:H:以後a-Siと略す)TFT駆動AM-LCD がP.G. LeComberらにより1979年に報告され,ポ ケットテレビへの実用化,更には1990年代のノート PC用,モニタ用,携帯電話用から2000年代の大型 薄型テレビに至るまで応用が進み,開発当初には考え られないほどの大型工場による生産がなされている. このような発展を遂げたアクティブマトリックス型 LCDではあるが,この間には多くのデバイスが開発 され,またその特長を生かしたディスプレイ製品へ実 用化されてきている.表1にはアクティブマトリック ス型デバイスの使用される活性層(チャネル層)材料 による種類とその用途を示す.単結晶基板上に形成さ れたSi MOSトランジスタを用いたLCDの開発は 1970年代に開始されたが,現在ではLCOS(Liquid

(7)

Crystal On Silicon)として周辺回路等を内蔵した超

小型高精細LCDや投写型ディスプレイ(プロジェク

タ)用DMD(Digital Mirror Device)に使用されて

いる.また,Si LSIプロセスを活用して石英ガラス基

板上に形成したHTPS(High Temperature Poly-Si)

TFTは当初2型クラスのポケットテレビへ実用化され たが,基板サイズなど低コスト化への制約から,現在 ではプロジェクタ用液晶ライトバルブなどの超小型高 精細LCDへ活用されている.大面積可能なガラス基 板上に周辺回路をTFTで内蔵する研究は,比較的低 温(約500C)のプロセスで形成できるLTPS(Low Temperature Poly-Si)TFTで1980年台後半から開 始され,1990年代後半から,小型LCDへの実用化が 進み,現在では携帯電話用LCD∼ノートPC用LCD 更には有機ELDへ活用されてきている. 新たな材料を用いたTFTとしては,a-Si TFTよ りも電子移動度が高く,LTPS TFTよりも高均一性 が得やすいと期待されているマイクロクリスタルSi

μ-Si)TFTやZnO,InGaZnOなどの透明酸化物半 導体(Transparent Oxide Semiconductor)TFTが

活発に研究されている.また,100C以下の低温で形 成できるためプラスチック基板を使用したペンタセン などの有機材料を用いた有機半導体(Organic Semi-conductor)TFTは電子ペーパなどのフレキシブル ディスプレイへの応用が期待されている. TFTの代表的な断面構造を図2に示す.a-Si TFT に使用されている逆スタガード構造(図2 (a))は走査 線と信号線,蓄積容量線のクロス部分をTFTのゲー ト絶縁膜で代用可能なため,PRプロセス数が4∼5と 最も少なく,低コスト化に向いている.配線材料は当 初のCrやTaなどの高融点材料からAl合金などの低 図 3 TFT製造ラインの設置年と使用されたガラス基板の面積 Fig. 3 Build of a-Si and LTPS TFT manufacturing lines.

抵抗配線へ,大型LCDへ用途が拡大するにつれ進化 している. 一方,LTPSやHTPS TFTではMOS界面の性能 を引き出すために,プレーナ構造(図2 (b))を採用す ることが多いが,PRプロセス数は7∼9と多く,高精 細化や周辺回路内蔵化などの付加価値をつける必要が ある. 図3にはa-Si TFTやLTPS TFTの製造で使われ るガラス基板の面積とその製造ラインの設置年を示す. a-Si TFTは1990年に30 cm× 40 cm程度のガラス 基板使用した製造ライン(Generation 1:G1)が設置 されたが,2002年には1 m角基板以上のガラス基板用 の製造ライン(G5)が設置され,現在2.2 m× 2.4 m ガラス基板用製造ラインが(G8)が稼動している.一 (a) (b) 図 2 (a)逆スタガート構造 TFT,(b) プレーナ構造 TFT Fig. 2 (a) Revered staggered type TFT (b) Planer

(8)

方,LTPS-TFTの製造ラインは,用途が小型∼中型 LCDであるとともに,イオンドーピング装置などの 制約もあり,現状73 cm× 93 cmガラス基板用製造ラ イン(G4)にとどまっている.これら製造装置の大型 化は,多面取りによるディスプレイ面積単価の低減を 狙ったものであり,使用されるCVD装置などの成膜 装置からエッチング装置,露光・現像装置,搬送装置 に至るまですべての装置の精度,生産速度を保ちつつ 大型化に対応すべく進化している.

4. PDP

技術

4. 1 表示素子としてのPDP プラズマディスプレイパネル(PDP)は,AC型と DC型の二つの方式でそれぞれ長年にわたり開発が行 われた.一般にはDC型のほうがAC型よりも早く世 の中に現れたように思われているが1964年にイリノイ

大学のBitzer,Slottow及び大学院生だったWillson らが試作したパネル,4× 4セルのAC型PDP(図4) が世界最初のPDPである.その電極構造は図5 (a) に示した対向放電型であった[50].当時CRTに静止 画を表示させるフレームメモリには磁気コアメモリ が使用されていたが非常に高価なものであった.イリ ノイ大学では大規模な教育援用システム(PLATO) の開発が進められており,そのような中でパネル自体 にメモリ機能が備わっているAC型PDPは,ディス プレイ端末として打ってつけであった.まもなくして Owens-Illinois社で製造された対角8インチのAC型 PDPがタッチパネル端末として採用されたのである. 余談だが,このPLATOシステム,今日使用している パソコンで計算や文書ソフトウェアを使用する感覚と 同じように扱える代物でありプログラミングの知識を 必要としなかった.また,現在のネットワークシステ ムとほとんど同じ機能を有していてホワイトハウスと クレムリンの執務室に備えられていたのである. 一方,DC型PDPは1969年Burroughs社のG. Holzらが駆動用ICを節減してコストを低く抑えるこ とが可能なSelf-Shift方式のパネルを起源とする[51]. 松下電子工業は,Self-Shift方式とは異なる放電セル ごとに電圧を印加するDC型PDPに対して印刷技術 を基本とする製造プロセスを確立し,コストを著しく 低減することに成功した.1988年ごろをピークに世 界中ほとんどすべてのラップトップPC用のディスプ レイにこのDC型PDPが搭載され,年間製造数がお およそ50万枚の大ヒットとなった[52]. 図 4 AC型 PDP がイリノイ大学で発明された当時試作 された 4× 4 セルのモノクロム PDP(AC 型 PDP が発明された当時 Ph.D 課程の学生だった Roger L. Johnson博士からの提供)

Fig. 4 Photograph of Mono-chrome AC-PDP with 4× 4 cells which was fabricated by the

stu-dents at the University of Illinois when the AC type PDP was invented. (This photograph was given by Dr. Roger L. Johnson who was Ph.D student.) (a)対向放電型 (b)面放電型 放電部分と蛍光体部分を分離 図 5 (b)図に示した面放電型の蛍光体塗布方式は,透過 型である.反射型は,表示電極を ITO 透明電極で 作成した側から発光を取り出す方式である. Fig. 5 Figure shows the transmissive type of

phos-phor deposition in the surface discharge PDP. The reflective light excited at the phosphor deposited on the rear glass substrate is taken through the transparent ITO sustaining elec-trodes. 国内におけるPDPの開発はその黎明期からCRT に代わるテレビ表示用ディスプレイとして壁に掛ける ことも可能な大型ディスプレイがたどり着くゴールと されていた.ノートPC用ディスプレイのカラー化で はLCDに先を越されたが,壁掛けテレビ実現のため のPDPのカラー化への取り組みが,大学,NHK放 送技術研究所,電機・材料メーカーで継続して行われ た[53].

(9)

PDPのカラー表示は,希ガス放電で発生する真空 紫外線により蛍光体を励起させR,G,Bの可視光を 発光させる.イリノイ大学が開発したAC型PDPは 対向電極構造で,電極が対向して配置されているため, AC電圧の半サイクルごとにイオンが蛍光体を衝撃し て損傷させるので,長寿命化は構造的に困難であった. 一方DC型はそれぞれの電極に印加される極性が固 定されるので,陽極近傍に蛍光体を塗布することでイ オン衝撃による蛍光体の損傷を避けることができる. このため,PDPのカラー化の研究はDC型PDPに 注力していたNHK放送技術研究所などが中心となっ て行われた時期がある.一時は研究の主流となりつつ あったDC型であったが寿命と量産性の問題を解決す ることが困難であったためDC型によるカラーテレビ は実現するに至らなかった. 一方,カラー化が困難なAC型PDPではあったが, 1975年ごろから片側のガラス基板にサスティン電極 対を配置する図5 (b)に示した面放電方式のPDPの 研究に従事していたG. Dick博士は,1985年背面板 上にサスティン電極対,前面板上に書込み電極を配置 し,その上に蛍光体を塗布する3電極方式の面放電型 PDPを開発した.対向面に塗布された蛍光体は,サ スティン放電によるイオン衝撃を受ける確率が低くな るため,長寿命のカラー化が期待された.ところで, このパネル構造は,蛍光体層を透過してくる光を利用 することから透過型,これに対して,背面板に塗布し た蛍光体からの発光を前面板から取り出す現在と同じ パネル構造は反射型と呼ばれていた[54]∼[56]. 1980年代後半,富士通においてカラーPDP実用化 のための開発が進められた.特に透過型方式から,前 面板にITO電極で形成したサスティン電極で構成され る反射型の方式を確立し,200 cd/m2を超える高輝度 の性能を得る結果を得て,1993年21型カラーPDP を市販することに成功した.21型カラーPDP市販 の成功を見て電機各社(NEC,パイオニア,日立製作 所,三菱電機,松下電器産業)はプラズマテレビの可 能性を確信,サイズの大型化を視野に入れながら開発 スピードを加速させた.1990年代の中ごろには,各企 業はその大量生産のプロセスを確立するとともに,こ れに同時並行して輝度向上,発光効率の向上による高 画質化,低消費電力化の開発が盛んになった[57], [58]. それまではユニットとして市販されていたPDPが, 2001年日立製作所から32型,37型及び42型のプラ ズマテレビとして発売された.PDPによる“薄型テレ ビ”市場はその誕生と同時に爆発的に拡大していくこ とになる.32型,37型及び42型プラズマテレビの大 成功は,PDP企業の大型テレビ事業に対する期待と 投資意欲を大いに高ぶらせた. 現在,プラズマテレビは大画面薄型テレビとして店 頭に並んでいる.LCDテレビも大画面化を進めてき たことによりサイズによるすみ分けの構図は消滅した. しかし,PDPが自発光型ディスプレイであり,大型化 に有利である特長を実行した結果,2006年パナソニッ クからの103型PDPテレビの製品化,及び2008年 150型PDPテレビの発表として結実した. 現在PDPテレビとして市販されている構造を図6 に示した.R,G,Bの蛍光体を塗布した3個の放電 セルで1画素を構成している.上部ガラス基板と下部 ガラス基板とを衝立のような障壁で仕切って,隣の放 電セルからの発光した色が混ざり合わないようにして いる. 3色の蛍光体が塗布された障壁は,ワッフルリブと 名づけられた構造が採用されていて,初期のストライ ブリブ構造よりも30%程度輝度と発光効率を改善して いる.PDPにおける障壁は,その高さが150μm程 度とかなり高いので,かなり難しい製造工程を必要と する.現在,感光性ペースト材料を用いて露光して製 造する方式とサンドブラスト方式が用いられている. PDPの高精細化と低価格化を進める上で最も重要な 製造プロセスであるため,PDP製造企業として今後 とも技術の展開を図ることが求められている. 図 6 標準的なカラー PDP の構造.R,G,B の蛍光体が 塗布された 3 組のセルで 1 画素が構成されている. Fig. 6 Typical electrode structure of color PDP. One

pixel consists of three cells which are de-posited by R, G, and B phosphors.

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4. 2 ACPDPの基本動作機構 PDPはCRT同様自発光ディスプレイであるが,1 フィールド期間に1画素を1回発光させる点順次走査 のCRTに対して,PDPは1回の放電の強弱では階調 を作ることは不可能なため1フィールドにおける各セ ルの放電回数を制御することによって階調表現を行っ ている.現在実用になっている3電極面放電構造では アドレス電極とスキャン電極とで点灯・非点灯のセル を選択し(アドレス期間),それに続き表示電極と走 査電極間で放電(サスティン期間)を行う方式でテレ ビ画像を表示している. AC型PDPでは外部から電圧を導く金属電極が誘 電体層で被覆されている.このため,放電が開始する と誘電体層に印加電圧と反対の極性の壁電荷が蓄積す る.付着した壁電荷による壁電圧は,放電セル内に印 加される実効的な電圧を低下させる.実効的な電圧が, 放電を維持できない値になると放電は自動的に停止す る.次のサイクルで反対の極性の外部電圧が印加され ると,外部印加電圧による電界に壁電界が加算され, 放電が再び発生する. 誘電体層を被覆する保護層は,誘電体層をイオン衝 撃によるスパッタリングから守る働きをしている.ま た,イオン衝撃による二次電子放出係数の高い材料が 低電圧を可能にする.カラーPDPを実用化使用とし たとき,MgO保護層により印加電圧の低減とともに 長寿命を獲得できたことが,AC型PDPに薄型テレ ビへの可能性をもたらし,その歩みを継続させて今日 に至る契機となっている[59]. PDPの発光原理は蛍光灯と同じである.気体放電 で真空紫外線を発生させ,その紫外線で蛍光体を励起 し可視光を得る.真空紫外線を放射するガスは,蛍光 灯では水銀蒸気であるのに対し,PDPではXeガス である.Xe単独では放電電圧が高いため実際にはNe を混合したペニングガスが用いられている.製品開発 当初のXe分圧は4∼5%であったがXe分圧を増やす と,Xe共鳴線147 nmに加えて分子線173 nmの放射 量が増加し,発光効率が向上する[60].したがってXe 分圧を上げることが望ましいが,駆動電圧を上昇させ る弊害を生じさせるため,現在も10%程度にとどまっ ている. モノクロの場合にはカソード近傍の負グロー領域か ら発光するネオンオレンジ色の発光を利用する.一方, 真空紫外線による蛍光体励起現象を利用するカラー表 示の場合には,真空紫外線がカソード領域とアノード 領域の双方から同時に発生する特性を利用できること が重要な特長である.極端にいえば,カラーPDPの 方がモノクロPDPよりも高い輝度と発光効率が得ら れるのは,この特長に起因している[61]. 4. 3 PDPの信号処理 4. 3. 1 PDPの階調表示 PDPのテレビ画像表示に重要な階調は,維持パル スによる発光数の制御により行われる.現在用いられ ている3電極面放電構造ではアドレス電極とスキャ ン電極とで点灯・非点灯のセルを選択し(アドレス期 間),それに続きサスティン電極とスキャン電極間で発 光放電(サスティン期間)を行う方式を用いてテレビ 画像を表示している.PDPでは1枚のテレビ映像を 表示するために,7∼12枚の明るさの異なる映像を用 いる.すなわち,テレビの1フィールドを7∼12個の サブフィールドに分割し,アドレスと表示を分離駆動 するADS(Address Display Period Separated)方 式を採用している.最近では,黒の発光輝度を抑える ためにリセット放電を弱め,回数も削減している[62]. PDPでは1枚の映像を作っているため,動画に対し ては注視点の移動により偽輪郭と呼ばれる現象が発生 する.注視点が動かない静止画の場合はなだらかな階 調を表現できるが,動画の場合サブフィールド(SF) で移動が起きると本来の映像信号にはない階調を人の 目は感じ取る.人間の目はそれぞれのSFの映像を重 ねて1枚の映像として見るため,動画表示では,静止 画(本来の映像)とは異なった映像を見ることになる. 偽輪郭による画質劣化はPDPだけでなく,プロジェ

クタで使われるDMD(Digital Mirror Device),一

部の反射型液晶デバイスなど,SFを用いるディスプ レイ特有に生じる問題である.この問題に対し,PDP では映像内容によるSF配列の並べ換え,誤差拡散処 理やディザの適用など各社独自の手段で軽減している. 最近では動き部分を検出し,画像の部分で逐次処理を 変える手法も採用され,テレビ映像として観るときに 不自然さがないレベルに改善されている. 一方,パイオニアが開発した原理的に偽輪郭が生じ ないクリア駆動方式がある.アドレスすることにより 点灯させるセルを選択する書込み放電ではなく,点灯 しているセルを消すための選択を行う消去アドレス方 式を採用している.現時点ではリセット方式の改良, 新材料や新信号処理などの開発を行い,高コントラス ト並びに高画質を実現している.

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4. 3. 2 PDPのドライバIC PDPのドライバICは,アドレスICとスキャンIC で構成される.アドレスICにおける大きな進歩はコ ストの低減であり,42型の量産初期と比較すると,1 出力当り1/50以下となっている.当初,スキャンIC と同じ1チップ64出力が,96→128→256出力と高集 積化が図られてきた.アドレスICは動作スピードが 速く,扱う信号によっては損失が大きくなるため,実 装形態とともに放熱構造に工夫が加えられてきた.現 状はフィルム上のパターンにベアチップマウントされ, 更に放熱のためアルミなどの金属構造体にマウントさ れている場合が多い. 駆動方式,駆動波形,パネル構造・材料などの改良 が進んだ結果,駆動電圧の低減が可能になり,素子耐 圧を当初の150 V程度から80 V程度と半減させるこ とができるようになった.駆動電圧の低減は,コスト 低減のみならず,素子の損失低減にも大きく貢献して いる. スキャンICの耐圧は200∼250 V程度から現状で は120∼150 V程度となっている.書込み放電のとき に,アドレスICの電圧を下げるためにスキャンIC側 が負担していることもあり,アドレスICに比べ高耐 圧素子が要求されている. また,スキャンICは高速動作が要求されないため に,ICの出力素子は高耐圧で電流密度が高くとれる

(チップ面積が小さくできる)IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられている.なお,IGBT の活用はサスティン出力回路にも図られ,低損失化と コスト低減に貢献している[63]. 4. 4 PDPの今後の展開 低コストによる低価格化と低消費電力化を実現する ことが,現在薄型テレビに課せられている極めて重要 な課題であり,PDPもそのための開発が行われてい る.カラーPDPの色純度を高くするために必要にな る隣とのセルからの発光色のクロストークをなくすた めに必要な障壁は,当初ストライブ形状であった.こ の障壁を井げた構造にして蛍光体の塗布面積を増やす ことにより約30%の低消費電力化が図られた[64]. 更なる低消費電力化を実現するために,PDPの新 しい構造の開発,それに伴う新しい駆動方式の開発, 並びにPDPを構成する主たる材料としての保護層材 料,誘電体層材料,蛍光体材料を画期的な観点に立っ て開発することが求められている.更に近年の人体, 環境への負荷抑制の観点から,電化製品への環境負荷 物質の使用が制限されつつある.PDPもこの動きに 敏感に対応していて,PDPは蛍光ランプとは異なり 水銀を全く含まない無害なXeとNe封入ガスを使用 している.また,2006年パナソニックは,PDPを構 成している主な材料である基板ガラスや封止用フリッ トガラスなどすべてのガラス材料から鉛を除去するこ とに世界に先駆けて成功した. PDPはLCDなどの平面型ディスプレイと同じよ うに,映像信号を列方向から印加し,横方向の1行ず つ書き込む方式(Line at a time方式)を採用してい る.PDPテレビでもフルハイビジョン表示を可能と するために,解像度を1920 (×3) × 1080にすること が要求され,画質を確保するためにパネルを2分割し て駆動してきた.そのため縦方向から加える信号回路 を2セット必要となり,全体としてコストを高くする 原因になっていた.PDPテレビ全体としてコスト低 減する上で,2分割しないで駆動する,いわゆるシン グルスキャン駆動を可能とするために,放電を安定化 し二次電子放出の大きな新しい材料や壁電荷の精密な 制御技術を実用化することが求められてきた. 最近,放電遅れを低減する材料が注目されている. 放電遅れとは電圧が印加されてから放電が開始される までにかかる時間のことで,PDPでは特に放電遅れ時 間のばらつき(統計遅れ)を問題としている.放電遅 れを縮小できればアドレス期間にさく時間が短縮でき, その分サスティン期間に振り向けられるので階調数や 輝度の改善が可能となる.パイオニアは従来のMgO 保護層の上に高純度クリスタル層(CEL層,Crystal Emissive Layer)を設けることを見出した.これによ り放電遅れを従来の1/10にし,黒の発光輝度を抑え てコントラスト比をこれまでに比べて著しく高くする ことに成功した[65]. これまでPDPの研究開発が気体放電現象に基づい た動作機構の解明とセル構造改良及びガス組成の変更, 駆動回路及び駆動波形の改良,蛍光体材料の改善など について行われてきた.今後,これまでの試行錯誤を 重ねながらの開発とともに,着実な研究に裏打ちされ たPDPの更なる進化を期待している. (本論文は,元(株)日立製作所の大澤通孝氏から協 力頂いた.また,初期PDPの写真はR. Johnson氏 からの提供による.)

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5. EL

技 術

5. 1 有機ELディスプレイ 有機ELディスプレイは1987年,Kodak Co.の Tang氏により有機材料による外部量子効率1%を超 える発光素子が開発されたことに端を発する.彼はも ともと有機太陽電池を作成するためPN接合を作ろう としていたのであるが,偶然にもこの多層素子に電流 を流し,それが明るく光ったのが有機EL素子の発明 につながったのは有名な話である.それ以来,この面 発光素子は次世代の発光ディスプレイの発光源として 注目され,ここに有機ELディスプレイの歴史が始ま るとしてよい.したがって,有機ELディスプレイは まだ20歳代の若いディスプレイであり,40歳を迎え る兄貴分の液晶ディスプレイとは実力がまだまだ違う のは当然といえよう.しかしながら,この若いディス プレイは現段階において液晶ディスプレイと互角に戦 える分野も出てきている. 1990年代の有機EL素子の黎明期を経て,1998年 に日本の企業がパッシブマトリックス駆動で単色では あるが,量産を開始した.この年は有機ELディスプ レイにとって記念すべき年である.それ以来,このパッ シブマトリックス駆動のパネルはフルカラー化を経て, 携帯電話の背面ディスプレイ,車載ディスプレイとし て確実に実績を上げている. 2006年も有機ELディスプレイにとって大事な年と なった.なぜならば,TFTを用いたアクティブマト リックス駆動のフルカラーディスプレイパネルの量産 が本格的に複数の企業で開始されたからである.しか しながら,残念なことに生産量でトップに立ったのは 日本の企業ではなく,韓国であった.有機ELディス プレイ開発は,はじめは日本が中心となり行われてき たが,液晶ディスプレイの場合と少し異なり,パッシ ブマトリックス駆動のパネルが世の中に出るや否や, かなり早い段階で韓国・台湾の企業が主導権を奪わん という勢いで開発に参入してきた.これにより,有機 ELディスプレイは確かに日本生れであるには違いな いが,純粋に日本育ちとはいえない状況になっている. 正確には極東アジア地域でグローバルに育っていると いうのが正しいかもしれない.また,ここで量産され 始めたパネルは現在携帯電話のメインディスプレイと して液晶パネルと互角に勝負している.興味深いこと に,最大の武器とされてきた薄さ・綺麗さではなく, 弱点と見られていた低消費電力性である点が現在携帯 電話に用いられている理由となっている. 現在,有機ELディスプレイはテレビ市場へ本格参 入しようとしている.液晶ディスプレイでさえテレビ 市場への本格参入は5,6年前にようやく果たしただ けなのに,有機ELディスプレイには既に投資サイド からそれが義務付けられている.もし,これが近年中 に達成できないと判断されたならば,研究でさえ中止 させられかねない.ディスプレイ業界は実に恐ろしい. 有機ELディスプレイ技術には現在,低分子vs.高 分子から始まり,LTPS vs. a-Si,白+CF vs. RGB などの数多くの対抗軸が存在している.既にどの技術 を用いてもテレビを実現できるレベルにあるが,問題 はその商品が価格を含め対液晶ディスプレイにおいて 競争力,すなわち魅力あるものとなるかである.これ ら対抗軸を正確に判断し採用したものが最終的に勝者 となるわけであるが,パネルを作れるメーカーが少な くなった今,各々の研究者には国境を越えた十分な論 議と意地や偏見によらない正確な判断が求められる. 5. 2 無機EL技術 5. 2. 1 は じ め に 無機エレクトロルミネッセンス(EL)は1936年の DestriauによるEL現象の発見に端を発する.その後, NESAガラスの発明による1950年のELパネルとし ての商品化に至り,一時は面状の新しい光源として注 目されたが,輝度・寿命等が期待を裏切り,研究は一 時低迷した.これまでは粉末型ELであったが,その 後今度は薄膜ELとして再び脚光を浴びた.しかし, これも今度はフルカラー化の壁をクリアすることがで きず,LCDやPDP等に後れをとった.近年高性能フ ルカラーELディスプレイが実現したものの,商品化 には至っていない.無機EL開発の経緯[66]は図7に 示すように,大まかに第1,2及び3世代というよう に分けて考えることができる.そこで,それぞれの世 代について以下に述べ,40年の歴史を振り返ることと する. 5. 2. 2 第1世代(∼1970年) 前項で述べたように第1世代は粉末型ELが中心 であった.40年前すなわち1960年代後半は輝度,発 光色,寿命等の性能が期待したほど達成されず,既 に研究・開発が衰退しつつあった.しかし一方で,こ のころベル研を中心に薄膜ELについての研究も行 われるようになった[67].既に希土類イオンや遷移金 属イオンが発光中心として用いられており,衝突イ オン化や衝突励起という概念も確立していた.発光

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図 7 無機 EL ディスプレイの開発の経緯 Fig. 7 History of inorganic EL display developement.

現象はLUMOCEN(Luminescence from Molecular

CENters)と名づけられた.ただ,素子の構造が片側 絶縁であったため,高輝度には至らなかった.しかし, これはこの後の薄膜ELの展開の基盤をなすもので あった. 5. 2. 3 第2世代(1970年∼1990年) 第2世代のトピックは何といっても猪口らによる二 重絶縁構造ZnS:Mn薄膜EL素子の出現である[68]. 輝度5000 cd/m2 で,10000時間以上の寿命を示した. ZnS:Mn薄膜ELディスプレイは高品質画像,高コン トラスト,広視野角,高信頼性,広い使用温度範囲, 軽量・薄型等の特長を有することから,直ちに国内で はシャープ,国外ではプレーナ社により商品化され, ワープロのモニタや医療機関等信頼性を要求されると ころや宇宙ロケット等広範囲で用いられている.この ELディスプレイは1980年代においてもシャープやプ レーナ社を中心に開発が進められ,ポータブルPC等 のモニタとして高性能化が図られた.当然のことなが ら,これと併行して1980年代に入ってからカラーEL ディスプレイについて,発光材料のみならず,ELパネ ルの構造についても研究・開発が精力的に進められた. 赤色材料としてはZnS:MnにCdSSeをカラーフィル タとして併用したものが,緑色としてはZnS:Tbが一 応実用に見合う輝度を示したが,問題は高輝度青色 EL素子の開発である.数種類の材料が研究されたが, 輝度が低い,色純度が良くない等の理由により結局 ELディスプレイのフルカラー化は足踏みをすること になった.この間,LCDやPDPは飛躍的な進歩を遂 げ,また,OLEDも急速な進展を示し,無機ELディ 図 8 34型 Colo-by-Blue 方式フルカラー EL ディスプ レイ

Fig. 8 34-in Colo-by-Blue type full-color EL display.

スプレイは後れをとることになり,企業での開発も衰 退した.

5. 2. 4 第3世代(1990年∼)

SrS:Ce/[Zns:Mn+CdSSe]やSrS:Ce,K,Eu等の 白色EL素子を用いた“Color-by-White”方式(1988 年),SrGa2S4:CeまたはCaGa2S4:Ceを用いた二重

基板方式,等によるカラー表示が試みられたが,依然 として輝度,色純度等の解決の糸口は見出せなかった. しかし,1999年三浦らによってBaAl2S4:Euを用い た高輝度で色純度の優れた青色薄膜EL素子が開発さ れた[69].この開発は無機EL分野においては極めて 大きなインパクトであった.1 kH駆動で1500 cd/m2 , 50 Hzで100 cd/m2 の輝度が得られ,寿命特性も優れ ている.この開発はiFire等によるフルカラーELディ スプレイの開発に取り入れられ,2003年に “Color-by-Blue”方式による17インチフルカラーELディス プレイが試作され,2006年には34インチとなり,画 質も更に向上した.一例を図8に示す[70].性能的に は商品化可能なレベルにあるが,取り組む企業が模索 されている段階である. 一方で,ZnS:Mnによる黄橙色単色であるが,デン ソーにより透明ELディスプレイが開発され,車載用, アミューズメント機器等への応用が行われている.ま た,2005年に茶谷産業により超高輝度EL素子の展示 があった.直流駆動,10 V以下で,60∼200万cd/m2 の輝度が示された.今後のいろいろな分野での応用が 期待されているが,現在その後の進展が示されてい ない.

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5. 2. 5 お わ り に 以上,無機EL分野の40年を概観したが,粉末型 ELパネルは目立たないが今日でも性能を向上させな がら活発に商品化が行われ,多方面で用いられてい る.一方で,薄膜ELディスプレイはBaAl2S4:Eu青 色EL素子の開発によりELテレビとして商品化可能 なレベルに到達しているが,実現する環境の形成が困 難な状況にある.EL素子は全固体型であるところか ら,すべての点で優れた特徴をもち,また,超高輝度 の可能性も秘めているので,今後の展開が期待される ところである.

6. CRT

FED

技術

6. 1 CRT技術[71] 6. 1. 1 ま え が き CRTの発明以来既に110年,その間CRTは現在 の情報化社会の形成に多大の貢献を成し遂げてきた. しかし今や21世紀,ディジタルテレビ時代にあって はその主役はフラットパネルに取って代わられつつあ る.本論文では1970年以降のその技術動向変遷の経 過を追ってみることにしたい. 6. 1. 2 カラーテレビ時代 1964年の東京オリンピックを契機に白黒テレビか らカラーテレビへの転換が進み同時に普及率も急速に 進展して,1970年代,1980年代は正にカラーテレビ 躍進の年代であった.シャドーマスク方式カラーブラ ウン管が当初よりその主体をなすものであったがこの 間多くの改良改善が加えられ高性能化が進められた. ブラックマトリックスの導入による蛍光面の輝度コン トラストの改善,110偏向の採用による全長の短縮 等々である.3本の電子ビームを1点に集中させるコ ンバーゼンスも重要な課題であった.シャドーマスク 管の開発当初3本の電子銃はデルタ状に配列されてい たため蛍光面全面にわたってコンバーゼンスを行うた めには極めて複雑なコンバーゼンスヨーク及びその駆 動回路を必要とした.1968年にソニーが開発したト リニトロン管は3本の電子ビームが同一平面上にあ るいわゆるインライン配列となっておりこれをスリッ ト型のシャドーマスク,ストライプ状の蛍光面と組み 合わせる構造となっていた.このインライン構造は磁 界分布を適切に設計した偏向ヨークと組み合わせれば コンバーゼンスを簡略化若しくはセルフコンバーゼン ス化が可能であり業界は一斉にその方向に向かった. フォーカス問題ももう一つの重要な課題である.イン ライン電子銃の導入は電子レンズ径の縮小を余儀なく されひいては収差の増大,フォーカス劣化を招くこと となる.対策として見掛け上の等価口径の大きい非軸 対象レンズが開発された.ブラウン管の最大の弱点は その嵩が大きいことにある.完全にフラットな箱形の ブラウン管は松下により開発され1985年科学博に出 品され好評を得たが量産化は極めて少量にとどまった. 6. 1. 3 コンピュータモニタ 20世紀最後の四半世紀はコンピュータの時代であ る.そのごく初期においては出力データはすべてテレ タイプマシンにより紙の上に印刷されていた.文字発 生装置が開発されブラウン管をデータ出力に使うこと ができるようになるとブラウン管がコンピュータモニ タとして一斉に採用されるようになった.しかしこの ようなモニタ用途として使用するためには多くの点 で改良を加えあるいは設計をし直す必要もあった.細 かい文字を表示するためにはシャドーマスクピッチは 0.3 mmあるいはそれ以下とする必要があり,それに 応じてビームスポット径やコンバーゼンス誤差も縮小 を図ることが求められた.更に加えてモニタの前で一 日中長時間働く作業者に対しては人間工学的な配慮を することも求められブラウン管表面には無反射コー ティングを施して文字の読みやすさを改善したり,不 要ふく射を防止するために導電膜を設けるなどといっ た諸種の対策が行われた.現在の情報化社会はこのよ うなディスプレイ・モニタ管の存在なしには存立し得 なかったといっても過言ではない. 6. 1. 4 ディジタルテレビ時代とフラットパネル このようにしてディスプレイ・モニタ管の生産は極 めて急速に立ち上がり20世紀の最後にそのピークに 達した後,突然減少に転ずる.液晶モニタの生産が 始まりしかも極めて急速な立上りを示し,ディスプレ イ・モニタ管の分野を置き換えてしまった結果である. そして同様のことが数年後にカラーテレビでも発生す る.この場合も液晶やプラズマによるフラット・テレ ビの生産が急増しブラウン管テレビのシェアを奪って しまったためである.この間の事情は図9に明りょう に示されている.ここまで述べたように20世紀は正 にブラウン管の世紀であった.そして今21世紀になっ て液晶,プラズマディスプレイ等フラットパネルへの 転換が急速に進展しつつある.いずれにせよ今世紀は ディジタルテレビ,ハイビジョンの時代である.40な いし60型の大画面,200万画素の高精細画像の表示を 可能とする高性能ディスプレイが求められ,最早ブラ

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図 9 ディスプレイの全世界生産 Fig. 9 Worldwide display production.

ウン管技術では事実上ほとんど実現不可能な物となっ てしまった.その意味で今や我々はフラットパネル時 代に突入したといえる. 6. 1. 5 む す び 20世紀にあってブラウン管はテレビ,コンピュータ 産業を通じて情報化社会の形成にばく大な貢献を成し 遂げてきた.そして今や21世紀はフラットパネルの時 代である.そのいっそうの発展展開を願うものである. 6. 2 FED技術 6. 2. 1 FED IT を 支 え 環 境 に 配 慮 し た 次 世 代 平 面 ディス プ レイとして,フィールドエミッタアレー(FEA)を 電子源としたフィールドエミッションディスプレイ (FED)[72], [73]がある.FEDは,CRTと同じく電 子線励起蛍光体発光を利用する.CRTの優れた特性 を維持しながら,更に高精細で,画像のひずみがな く,小∼大画面まで作製可能で,温度変化・湿度・放 射線等に対する耐環境性が高く,消費電力も低いとい う特長をもち,究極のディスプレイと呼ばれてきた. 1970年代前半に既にFEDのコンセプトは存在した. 1993年に世界初のフルカラー動画FEDが試作され, 関心がいっそう高まった.FED開発の技術課題とし ては,(a)高効率で安定動作するFEAの実現(b)高 効率・長寿命蛍光体の開発(c)スペーサ,収束電極等 のFED構造(d)FEA特性の劣化しない真空封止プ ロセス・真空きょう体開発などが挙げられる.最大の 技術課題は,(a)の高効率で安定に動作するFEAの 実現であり,開発研究の大部分がここに集約されてき 図 10 FEDの基本構成 Fig. 10 FED basic structure.

た.近年,FEDの実用化が一部開始され[74],カー

ボンナノチューブFEDやSED(Surface-conduction Electron-emitter Display)[75], [76]等のように,よ うやくプロトタイプの試作報告が続いているが,FEA の電流変動,劣化,破壊,といった信頼性の問題は十 分には解決されていない. 6. 2. 2 FEDの基本原理 FEDでは,サブミクロン∼ミクロンサイズの多 数の先鋭な陰極アレー(FEA)に高真空中で106∼ 107V/cmの高電界を印加して,表面のポテンシャル 障壁層を約10 nm以下に薄くし,量子力学的なトンネ ル効果により真空中に電子を引き出す.この電子を陽 極–陰極間に印加した電圧で加速し,陽極上に形成し たRGB蛍光体画素を逐次発光させて画像を表示する. 代表的なFEDの構成を図10に示す. 6. 2. 3 FEDの特長 FEDの特長は,(1)自発光,広視野角(原理的には 180),(2)高速応答が可能(μs台),(3)耐環境性 に優れる,(4)高輝度,高精細性に優れる,(5)画像 ひずみが少ない,(6)低消費電力である,(7)ピーク 輝度が高い,(8)小∼大画面まで製作可能,(9)LCD やPDPとは異なりバックライトによるもれ光やプラ ズマ維持の予備放電による発光がないため,2けた低 い約0.005 cd/m2 以下の純粋な黒表示が容易である, (10)測定限界を超える10万対1以上の高コントラス トが得られる,(11)他のFPDでは低輝度になると色 度点が変化し色再現性が低下するが,FEDではほとん ど変化がなく良好な色再現性が保たれる,(12)FED は,LCD,有機EL等とは異なりインパルス型表示の

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ため,輪郭ぼやけがない動画表示が可能,(13)発光 エネルギーの時間積分で輝度を表示するホールド型と は異なり,インパルス型のFEDでは非常に高いピー クエネルギー密度を画素内で発生させるため閃光的な 輝きが得られる,(14)ガンマ特性がテレビ信号とほ ぼ同じで,全く異なるLCD等と比較して放送時のガ ンマ調整や,色度調整を高精度に行うことが可能であ り,質感の高い画像が得られる. また,水銀レス,自発光,面発光,適度な輝度,高 光束,更に,温度変化・湿度に強いことから,LCD 用バックライト用途だけでなく,一般照明に重要な戸 外でも使用可能な高品質一般照明用フィールドエミッ ションランプ(FEL)を,長年,筆者は提唱しており, 水銀レス光源としては初めて既存の蛍光ランプと同等 の実効発光効率約40 lm/Wをもつプロトタイプを開 発した[77].環境負荷低減の点から,照明応用分野も 期待できる. 6. 2. 4 FEDの研究開発動向 FEAには,大別して,縦型構造と横型構造の2種 類ある.縦型構造の一種では回転蒸着法(Spindt型) FEA [78]が最も長い歴史がある.数年前まで,試作 された大部分のFEDは回転蒸着法FEAを用いて いた.電界電子放出特性の不均一性・非安定性・劣 化,更にはステッパや大型真空装置使用による高コ スト,また,大面積化が困難などの課題がある.しか し,長い間に技術が熟成され,FEDとしては,初の 量産化が始まり,自動車エンジンのモニタ用3インチ FEDや輝度400 cd/m2 の14.4インチFEDが開発さ れた[79], [80].更に,図11に示す240 Hz駆動の動画 像ぼけのない19.2インチ,1280× 960ピクセル,輝 図 11 回転蒸着法エミッタを用いた 19.2 インチ FED Fig. 11 19.2-in FED using the spinning deposition

emitter. 度400 cd/m2,コントラスト20,000:1以上の放送局 用モニタにも使用可能な高画質プロトタイプが発表さ れた[81]. 近年では,均一性・再現性に優れた低電圧駆動の先 鋭エミッタが得られ,大面積化も可能な転写モールド 法FEA及び真空プロセス不要,大面積で,ナノメー タオーダの先鋭度が得られる金型転写モールド法ナノ テクノロジー技術が発表された[82]∼[87].ナノメー タオーダで任意にエミッタ先端曲率半径を変化させ, 駆動電圧を,任意に制御することも可能になった[88]. カーボンナノチューブ(CNT)は,化学的に安定で, 雰囲気依存性が少なく,低真空動作が期待されるため, FEA及びFEDへの応用が激増している[89]∼[95]. 長さが10μmを超え,直径が5∼50 nmと小さく,高 アスペクト比,高先鋭性のため,低電圧駆動が期待さ れる.高解像度グラフィックディスプレイ用に図12 に示す,ゲート電極とアノード電極の間に挿入する開 口付きメタルシートを挿入した構造のFED [94]や, 7 kV加速,輝度600 cd/m2,高発光効率7.7 lm/W 15インチ(1280× 768ピクセル)FEDが試作され た[95].しかし,発光が不均一で,ちらつき,CNTの 破壊もあり,低価格,高収率,大面積,低温度のCNT 作製法,CNTエミッタ形成法,パターニング法,本 格的な3極構造FEDの開発等が,今後のCNTFED の課題である.

横型構造では,Surface-Conduction Electron

Emit-ter(SCE,表面伝導エミッタ)を用いた平面型ディス

プレイ(SED)がある[96]∼[98].粒径5∼10 nmと小 さな超微粒子の酸化パラジウムからなる薄膜に,通電 により酸化パラジウムの溶融に起因する裂け目(ギャッ

図 12 メタルシート挿入 CNTFED のパネル構造 Fig. 12 Panel structure of metal-sheet inserted

図 1 ディスプレイの歴史(1968〜2008)
Fig. 4 Photograph of Mono-chrome AC-PDP with 4 × 4 cells which was fabricated by the  stu-dents at the University of Illinois when the AC type PDP was invented
Fig. 6 Typical electrode structure of color PDP. One pixel consists of three cells which are  de-posited by R, G, and B phosphors.
Fig. 8 34-in Colo-by-Blue type full-color EL display.
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参照

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