経済と経営 45−2(2015.3)
研究ノート>
電子楽器の聞こえ方の違い
各社音源の比較
浅 見
郎
1.はじめに 電子楽器が普及し,シンセサイザー等が手に入れやすくなった。楽器としてのシンセサイザーが 登場した当初はアナログ方式で電圧を制御し発音させる方式であった。現在ではほとんどがデジタ ル方式を採用している。国内外を問わず数多くのメーカーから電子楽器が製作されているが,機材 によって発音される音が異なっている。その違いについて PC ソフトを 用して簡単に 析を試み た。この稿では,インターネット社の Singer Song Writer 10にある周波数アナライザを い,音の 密度をグラフで比較する 。ただし専門的な 析機器ではないので,あくまでも一般の耳にはどの様 に異なって聞こえるか,という点に重点を置き,波形の 析などは行わないこととする。 音源は筆者の所有するシンセサイザーより数台を い,グラフを用いて簡単に 察してみたい。 1) ここで 用する周波数アナライザは,どの高さの音がどのくらいの割合いで含まれているのかを確認するものである。縦軸 が 出力レベル(dB) を表し,横軸が 周波数(Hz) を表す。 グラフ凡例
2.ピアノ音色
まず,ピアノの音を比較する。比較に 用した曲は Chopinの Nocturne op.9 No.2である 。ア ナライザーの 用箇所は,①3小節目の2拍目(グリッド 3.4.0.)C6とC3の部 ,②5小節目の 1拍目(5.1.0.)B 6とB 4の部 である。機材は,YAMAHA 社から DX7,DX7II-D,ポケッ トミク(NSX-39),Roland社から VSTi(INVSC M),PRO-E,KAWAI 社から K11,CASIO社 から GK-700を 用した 。音色は,プリセットされている中で最もピアノに近いものを 用した。 DX7,DX7IID は FM 音源である 。軽く煌びやかな音が特徴とされている。共に6オペレーター であるが,DX7IID はデュアルボイス形式で発音することができる 。
DX7の音色は Piano1を 用した(グラフ1参照。左が①,右が②の箇所を表す。以下同じ)。 DX7IID の音色は,パフォーマンスモードの Rich Grand Piano を 用した(グラフ2参照)。
2) 用した部 の楽譜は資料1として掲載する。
3) INVSC M は,Roland 社の Virtual Sound Canvasで,Singer Song Writer専用の音源である。 4) Frequency Modulation(周波数変調)を応用する音色合成方式を用いた音源。
5) ここではパフォーマンスモードで発音させている。
(グラフ1 DX7)
DX シリーズの他は PCM 音源となる 。
NSX-39 はボーカロイド 初音ミク のポケット版として発売されているが,内蔵されているシン セサイザーは GM 規格のもので,音源として利用しても十 な性能である(グラフ3参照) 。
Roland 社の INVSC M は,DAW(Digital Audio Workstation)ソフトにプラグインされてい る GM 音源である(グラフ4参照)。
PRO-E は GM 対応ではないので,音色配置が異なる 。ここでは ACOU PIANO1を 用した(グ ラフ5参照)。 KAWAI 社の K11は,減算方式を利用している多くのシンセサイザーと異なり,加算方式を採用 している(グラフ6参照)。 最後に CASIO社の GK-700である。この機種は厳密に言えばシンセサイザーのカテゴリーでは なくキーボードという位置づけではあるが,GM 音源を 用しているので今回比較の対象とした(グ ラフ7参照)。 (グラフ3 NSX-39) (グラフ4 INVSC M)
6) パルス符号変調(pulse code modulation)方式である。
7) General MIDI 規格。メーカー毎に異なる音色が われていたが,1991年 Roland 社などが提案し,全メーカーで共通の音 色配列を決めた。
ピアノ曲のため大差が表れていないが,FM 音源では①のグラフで,1kHz を頂点として 2kHz, 3.5kHz,4kHz,5kHz,7kHz 周辺にはっきりとした波形のピークが見られる。このピークが, FM 独特のキラキラした音となって聞こえてくると えられる。PCM 音源の方では,1kHz が頂点 である。2kHz,4kHz に若干のピークが見られるが比較的なだらかな形状となっている。LA 音源 の PRO-E は,中間の周波数帯で密度が薄い。LA は柔らかな音をしているのはそのためであると (グラフ6 K11) (グラフ5 PRO-E) (グラフ7 GK-700)
えられる。
②の各グラフでは,FM 音源が高音域で音量の揺れが大きくなっている。この響きもキラキラ音を 奏でる原因であろう。
3.GM 規格
次に GM 規格での音を比較する。比較するのに 用した曲は,Yellow Magic Orchestraの RYDEEN から冒頭の部 である 。アナライザーの 用箇所は,①2小節目の1拍目(グリッド 2.1.0.)ハイハット部 ,② 12小節目の1拍目(12.1.0.)の部 である。機材は,Roland社から は INVSC M,JW-50,KAWAI 社からは K11,KC20,CASIO社からは GK-700,YAMAHA 社 からはポケットミク(NSX-39)を 用した。全て PCM 音源であるが,KAWAI K11及び KC20は 加算方式である。MIDI チャンネルの構成は以下の通りとなる(表1)。なお,音色を比較するため,音 はエディットせずにプリセットのまま 用した。また各チャンネルの音量も一定の状態にしてある。 (グラフ8 INVSC M) (グラフ9 JW-50) 9) ノクターンと同様に, 用した箇所の楽譜は資料2として掲載する。
(グラフ 10 K11)
(グラフ 11 KC20)
以下にアナライザーのグラフを掲載する。 ①のハイハットの音色については,各音源で差が見られる。INVSC M では 10kHz 周辺をピーク に,上の周波数帯域が減衰している。反して 4kHz から 10kHz の間があまり音の差がないため, やや柔らかな音として聞こえる。JW-50は 15kHz 周辺にピークがあり,その前後で減衰しているの で,非常に歯切れの良い音となって聞こえる。K11は 10kHz 周辺がピークではあるが,高音域の 20 kHz 周辺の音も大きく聞こえるため,やや耳障りな感じになる。また 100Hz 周辺の低音域も聞こえ るので,やや重い音となって聞こえる。KC20も K11と似ているが,高音域が減衰しているので K11 ほど重さを感じないであろう。GK-700は高音域が減衰しているため歯切れがよく聞こえるが,中音 域以下も響くため,やや重い感じで聞こえる。NSX-39 は 10kHz 周辺がピークではあるが,上下共 に大きな減衰が見られないので,メリハリのない音となって聞こえてくる。 ②のメロディー部 では,INVSC M は全体的にバランスが取れているので,違和感のない音と して聞こえてくるであろう。JW-50は低音域 100Hz 周辺にピークが見られる。ベースの音が響くの で,安定感のある音として聞こえてくるが,高音域では音量の差が見られないので,やや間 びし た歯切れの悪さが残って聞こえる。K11と KC20はほぼ同じ曲線が見られるが,K11では 20kHz 以 上の高音域が強いので,やや耳障りな音となって聞こえてくるであろう。GK-700は 100Hz 周辺の 低音部がピークになっており,また中音域でも大きな減衰がないため,重く歯切れの悪い音となる であろう。NSX-39 も 10kHz 周辺の音が密集しており,やや耳障りに感じることもある。 全体を通じて 察すると,音の好き嫌いにも関係してくるが,Roland社の音源が比較的安定して 聞こえるということが かる。ただし,本稿は周波数による 析であるので,波形による音の響き (グラフ 13 NSX-39) (表1) MIDI Ch Prg. No. 音色名 パート 2 088 Bass & Lead ベース 3 049 Strings メロディー 4 091 Polything ハーモニー 5 008 Clav. オブリガード 10 001 Standard ドラムス
方などが絡むと違う結果となることも えられる。 4.まとめ 今回は周波数によって音がどの様に聞こえるかという点で 察をした。ただし,各メーカーの音 源の特徴や,各 MIDI チャンネルの音量によっても聞こえ方が変わることは確かである。概して Roland 社はストリングス系の音が良いとか,YAMAHA のブラス系の音が良い等と言われるが,音 の波形について調べることができれば,また結果も違ってくるであろう。また,今回は Roland, YAMAHA,KAWAI のメーカーしか取り上げていないが,KORG や他のメーカーについても 察 を続けてみたいと えている。 参 文献 相原耕治(2011) シンセサイザーがわかる本 予備知識から歴 ,方式,音の作り方まで スタ イルノート 秋山 良(2003) 読んでナットク デジタル・ミュージックの基礎用語 音楽之友社 安斎直宗(1998) エフェクターの全知識 リットーミュージック 大人の科学マガジン編(2014) 歌うキーボード ポケットミク 式ブック 学研 用楽譜 リットーミュージック編(1992) コンプリート・ベスト Y.M.O.(イエロー・マジック・オーケストラ) リットーミュージック