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匠から科学へ そして医学への融合 技術レポート Vol.5 リューサイト結晶の種類とその熱膨張特性 研究開発センター

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研究開発センター

リューサイト結晶の種類と

その熱膨張特性

リューサイト結晶の種類と

その熱膨張特性

技術レポート

技術レポート

 

Vol.

5

 

Vol.

5

匠から科学へ、そして医学への融合

(2)

1. はじめに

2. 結晶の種類と構成成分

3. Al-リューサイトRAlSi

2

O

6

(R:K,Rb and/or Cs)系結晶

   3.1 結晶格子の温度依存性    3.2 結晶の正方晶系⇔等軸晶系転移    3.3 結晶の熱膨張    3.4 Alリューサイト結晶におけるアルカリイオンの増大に伴う結晶構造変化

4. リューサイト固溶体

   4.1 リューサイト固溶体の生成とその転移温度    4.2 リューサイト固溶体の結晶構造と転移温度の降下    4.3 リューサイト固溶体の熱膨張特性

5. Na

2

O成分がリューサイト結晶の熱特性に及ぼす影響

6. Li

2

O成分がリューサイト結晶の熱特性に及ぼす影響

7. 終わりに

2

2

4

4

4

5

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7

7

8

9

9

10

11

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目 次

(3)

K-リューサイト K-リューサイト固溶体 K-Rb-リューサイト Rb-リューサイト Rb-リューサイト固溶体 Rb-Cs-リューサイト Cs-リューサイト Fe-リューサイト Fe-リューサイト固溶体 K-Rb-Fe-リューサイト Rb-Fe-リューサイト Rb-Cs-Fe-リューサイト Cs-Fe-リューサイト Al-Fe-リューサイト Al-Fe-リューサイト固溶体 KAlSi2O6 (KAl)1-xSi2+xO6 K0.5Rb0.5AlSi2O6 RbAlSi2O6 (RbAl)1-xSi2+xO6 Rb0.5Cs0.5AlSi2O6 CsAlSi2O6 KFeSi2O6 (KFe)1-xSi2+xO6 K0.5Rb0.5FeSi2O6 RbFeSi2O6 Rb0.5Cs0.5FeSi2O6 CsFeSi2O6 KAl0.5Fe0.5Si2O6 (KAl0.5Fe0.5)1-xSi2+xO6 M+ K K K&Rb Rb Rb Rb&Cs Cs K K K&Rb Rb Rb&Cs Cs K K M3+ Al Al Al Al Al Al Al Fe Fe Fe Fe Fe Fe Al&Fe Al&Fe M4+ Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si Si O 2-O O O O O O O O O O O O O O O a = b 13.08 13.09~13.12 13.22 13.36 13.31~13.35 13.53 13.69 13.22 13.22~13.25 13.08~13.22 13.08~13.22 c 13.77 13.77~13.73 13.76 13.74 13.70~13.76 13.72 13.69 13.98 13.98~13.95 13.77~13.98 13.77~13.98 1-5) 5), 14) 星川他 10) 星川 4), 10, 11) 星川他 11) 星川他 10) 星川 4), 10) 星川他 3), 6-8) 星川他 6) 星川他 8) 平尾他 8) 平尾他 8) 平尾他 8) 平尾他 9) 星川 9) 星川 630±10 640~400 520±10 430±10 260~440 170±10 25±10 550±10 560~430 630~550 630~390 25.0 25.0~24.6 28.7 22.2 23.4 -26.8 26.8~31.9 構成成分 転移温度 Ti(℃) 熱膨張係数 (Rt ~ Ti) (ppm/℃) 格子定数(Å)注 1 種  類 化 学 式 文献No.

1. はじめに

 修復歯冠用のメタルセラミックスは審美性とメタル-セラミックス間の融着が要点であり,従って 使用されるセラミックス(陶材)には半透明性(着色の自在性)とメタルと適合する高熱膨張性が求 められる.これら両要件を兼ね備えた材料は,現在のところ微細なリューサイト結晶がガラス中に分 散したガラスセラミックスに限られていること,およびこの結晶の高熱膨張性に関わる結晶構造とそ の多形転移(低温型(正方晶系)→高温型(等軸晶系))について,先のレポート4で記述した.  他方,リューサイト結晶(KAlSi2O6)では,構成イオンであるK+のRb+,Cs+への置換,および Al3+のFe3+へ置換された組成においてもリューサイト結晶と同じ構造1-11)が形成される.更にSiO 2成分

を固溶したリューサイト固溶体5)((KAL)1-xSi2+xO6)の生成や低融性成分(Na2O,Li2O)12-16)の共存

が形成されるリューサイト結晶に与える影響などの課題がある.つまり,セラミックス中に含有され るリューサイト結晶自体の熱膨張特性は,構成成分の種類やSiO2成分の固溶に依る結晶の組成と構造 によって大きく変動する.従って,セラミックスの熱膨張係数を厳密に調整・制御するにあたって は,含有されているリューサイト結晶自体の熱膨張特性の制御は重要な課題である.   本 レ ポ ー ト 5 で は , 最 初 に リ ュ ー サ イ ト 結 晶 の 種 類 と 構 成 成 分 を 示 し , A l - リ ュ ー サ イ ト RAlSi2O6(R=K,Rb and/or Cs)における結晶構造並びに熱膨張特性(多形転移と熱膨張率)を記述 する. 次に,リューサイト結晶は常に理論組成(KAlSi2O6)を有さず,SiO2成分を固溶したリューサイト 固溶体(KAl)1-xSi2+x)が形成14)される.この固溶体の結晶構造と熱膨張特性について記述する.  最後に,歯科用セラミックスとして,その低融化に欠かすことが出来ないNa2O12-14)及びLi2O15,16)成 分の共存が生成リューサイト結晶の構造と熱膨張特性に及ぼす影響について述べる.

2. 結晶の種類と構成成分

 これまで,歯科用として利用されているリューサイト結晶(KAlSi2O6),いわゆるK-リューサイト 結晶について述べた.この結晶の構成成分は,1価のK+(アルカリイオン),3価のAl3+(金属イオ

ン),4価のSi4+(金属イオン)およびO2-イオンである.この結晶の単位格子は, SiO4四面体による

四員環とこの四員環の間がAlO4四面体で繋がった網目(001面に平行)が四層積層されており,K+

イオンは網目中の空所のAlO4四面体近傍に配置させていることを,先の「report-4」で詳述した.こ

れらK+,Al3+およびSi4+イオンについて,異なる元素イオンによってもリューサイト結晶の形成が考

えられる.これまでその存在が明らかな結晶の種類,構成成分並びに熱的性質を表1にまとめた.

注:表中,K0.5Rb0.5およびRb0.5Cs0.5の表示は,それぞれにおいてX=0~1を有するKxRb1-x組成および RbxCs1-x組成の結

晶生成が可能であることを示し,同様にAl0.5Fe0.5においてもAlxFe1-x組成の結晶が形成されることを示している.

 表1は,4価イオンがSi4+(:SiO4四面体)に限られることを示している.Si4+と同様に四面体を形

成するとされているGe4+(:GeO

4四面体)を用いて結晶の合成を試みたが,リューサイト構造の結晶を

得ることができなかった.他方,Al3+はFe3+への置換並びにAl3+とFe3+とを共存させた結晶を合成で

きた.このFe3+イオンの半径は0.64Åで,Al3+イオン(半径=0.5Å)に近い大きさであるために置換

されたと考えられた.しかし,Al3+イオンに近い大きさを持つCo3+(イオン半径=0.63Å)やNi3+

(イオン半径=0.62Å)ではリューサイト結晶を合成することができなかった.

 このリューサイト結晶構造は比較的粗な(=低密度)構造であり,その成立には強固な共有結合に よる網目が重要な役割を果たしている.Si-OおよびAl-O結合は,共にsおよびp軌道電子に基づき高い 共有結合性をもっているので,強固な網目を形成している.他方,Ge-OやCo-O(又はNi-O)結合 は,何れもd軌道電子の関与に基づいた高いイオン性のために,リューサイト結晶網目を保持出来な いものと推察される.このようなリューサイト結晶形成におけるSiO4とGeO4との差異,およびAl3+

(又はFe3+)とCo3+(又はNi3+)との差異は珪酸塩鉱物に特有であって,GeO

4およびCo3+(又は Ni3+)を含む長石構造の結晶が見出されていないことと符合する.  最後に1価イオンであるが,K+(イオン半径=1.33Å)に対して, Rb+(イオン半径=1.48Å)及 びCs+(イオン半径=1.69Å)へ置換した結晶を合成することができた.この時,K+とRb+の共存,及 びRb+とCs+の共存した結晶が生成したが,K+とCs+とを共存させることが出来なかった.他方,Na+ (イオン半径=0.95Å)はK+との部分的置換も困難であった. 表1 リューサイト結晶の種類とその熱的性質 注1:室温(RT) における値

リューサイト結晶の種類とその熱膨張特性

山本貴金属地金株式会社 工 学 博 士 星 川  武 ― 2 ― ― 3 ―

(4)

3. Al-リューサイトRAlSi

2

O

6

(R:K,Rb and/or Cs)系結晶

 ここでは,Al-リューサイト結晶(RAlSi2O6,R=K,Rb and/or Cs,以後単にR-リューサイト と記述する)の構成成分,結晶構造とその多形並びに熱膨張特性について詳細に記述する.  3.1 結晶格子の温度依存性  図1は,Al-リューサイト結晶(RAlSi2O6,R; K,Rb,Cs)の格子定数の温度依存性10)を示す.  アルカリイオン半径が最も小さいK-リューサイ ト(KAlSi2O6)は,25℃では格子定数a=b値(以後 単にa値と表現する)は最も小さく,逆にc値は最 大値で正方晶系(c>a)を示す.温度の上昇に伴 い,a値の伸張とc値の収縮が同時に起こり,約 630℃(正方晶系―等軸晶系転移温度,以後単に 転移温度と呼称する)でa=cになって等軸晶系に転 移する.  K-Rb-,Rb-,Rb-Cs-の順にアルカリイオン半径 の平均値が増大するが,その増加に伴い25℃にお けるa値の増加とc値の減少が同時に起り,転移温 度が降下する.他方,アルカリイオン半径が最も 大きなCs-(緑丸印)の場合,その格子定数aおよ びc値は,測定温度範囲内(25℃(室温)~800 ℃)で同じ値 (a=b=c,等軸晶系)を示した.  図1中の全ての結晶は,そのアルカリイオンの 種類および温度(25~800℃)に無関係にSiO4四 面体とAlO4四面体が同じ配列の網目で構成されて いる.リューサイト結晶の熱特性(結晶構造の変 化=熱膨張)は,基本的な結晶骨格を形成する網 目構造の変形によると考えられている.  3.2 結晶の正方晶系⇔等軸晶系転移  図1に示した温度の上昇に伴う格子定数(aおよ びc値)の変化から,a=cを示す温度(転移温度)を 求め,表1に併記した.それら転移温度をアルカ リイオンの平均半径に対してプロットした結果を 図2に示した.Cs-リューサイトについては,測定 温 度 範 囲 を 低 温 域 ま で 下 げ て , そ の 正 方 晶 系 (c/a>1)の存在とその昇温に伴う等軸晶系への 転移を確認していないが,図2の直線関係から, その転移温度は25±10℃と推定できる.  図3は,25℃における格子定数とアルカリイオ ンの平均半径の関係を示したものである.イオン 半径が最も小さいK+イオンを含むK-リューサイト (KAlSi2O6)は,その格子定数c/a(=格子の正方 歪み)値が全結晶中最大である.アルカリイオン の平均半径の増加(K-Rb-,Rb,Rb-Cs-の順)に 伴い,a値の直線的増加とc値の直線的減少が同時 に 起 り , 半 径 が 最 も 大 き な C s - リ ュ ー サ イ ト (CsAlSi2O6)で両直線が交わって(aとc値が一致 (a=b=c)して),等軸晶系を示した.即ち,Cs-リ ューサイト(CsAlSi2O6)の正方晶系―等軸晶系転 移温度が室温(約25℃)であること(Cs-リュー サイトの転移温度が25℃よりも低温ならば,図3 中の両直線はCsの点より左側で交差する)を示 し,図2での推定と一致する.  3.3 結晶の熱膨張  図4は,図1に示した各結晶の格子定数(a及びc 値)から求めた単位格子体積を温度に対してプロッ トした結果を示したものである.  格子体積は,アルカリイオン半径の大きいCs-リ ューサイトが最大値を示しており,その温度の上 昇に伴う変化は小さい.他方,イオンの平均半径 はRb-Cs-,Rb-,K-Rb-,K-の順に小さくなるが, それらでは低温側に温度の上昇に伴う体積増加が 大きい領域(正方晶系)が認められるが,転移後 の等軸晶系では温度の上昇に伴う変化は何れも小 さくなっている.  図5は,図4に示した温度の上昇に伴う結晶格 子体積(V)変化から算出した線膨張率(dL/d T = (dV/dT)/3,L:長さ,T:温度(℃))曲 線である.この曲線から,各結晶の正方晶系領域 における線膨張係数(室温(Rt=約25℃)から転 移温度(Ti)間)を求め,前記の表1に示した. 図1 アルカリイオン種が異なるAlリューサイト    結晶の格子定数の温度依存性10)     Rb-Cs-:Rb0.5Cs0.5AlSi2O6組成,     K-Rb- :K0.5Rb0.5AlSi2O6組成 図2 転移温度のアルカリイオンの    平均半径依存性10) 図3 25℃における格子定数とアルカリイ オンの平均半径の関係10) 0 200 400 600 800 13.1 13.2 13.3 13.4 13.5 13.6 13.7 13.8 温度(℃) 格子定数 (Å) a a a=c c K-リューサイト K-Rb-リューサイト K-Rb-リューサイト Rb- Rb-Cs-Cs-リューサイト c K -K -Rb -Rb -Rb -Cs -Cs -1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 13.0 13.1 13.2 13.3 13.4 13.5 13.6 13.7 13.8 イオン半径(Å) 格子定数 (Å) K -K -Rb -Rb -Rb -Cs -Cs -1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 0 100 200 300 400 500 600 700 イオン半径(Å) 転移温度 (℃) 図4 アルカリイオン種が異なるAlリューサイト    結晶の格子体積の温度依存性10) 0 200 400 600 800 2350 2400 2450 2500 2550 2600 温度(℃) 格子体積 K-リューサイト Rb-Cs-リューサイト Cs-リューサイト K-Rb-リューサイト Rb-リューサイト

(5)

これら線膨張係数は,アルカリイオンの種類お よび算出温度範囲を異にするが,23ppm/℃ から29ppm/℃の範囲内の大きな値を示し, リューサイトの正方晶系はセラミックスの熱膨 張係数を高めるに優れた結晶構造であることを 示している.  結晶の熱膨張(温度上昇に伴う体積変化) は,基本的には,その骨格を構成するAl-O及び Si-O距離,O-Si-O結合角度及びO-Al-O角度,更 にはAl-O-Si及びSi-O-Si結合角度の変化を総合 したものである.  リューサイト結晶の場合,高熱膨張性は示す 正方晶系に限られており,その存在温度域(転 移温度以下)はアルカリイオンの大きさに依存 している.以下に,アルカリイオンの大きさと 結晶構造との関係を記述する.  3.4  Alリューサイト結晶におけるアルカリイオンの増大に伴う結晶構造変化  リューサイトは,SiO4四面体とAlO4四面体が繋がった網目(001面に平行)が4層積み重なった結晶骨格 を有し,12個のO(酸素)で取り囲まれた空所にアルカリイオンが配置された結晶構造を有している.  図6は,リューサイト結晶(KAlSi2O6)の等軸晶系(高温型,630℃)における001面近傍のSiO4四面 体とAlO4四面体で構成されている網目中に, K+,Rb+,Cs+およびNa+イオンの挿入を試みた 結果である.  アルカリイオン半径が小さい(K,Rb)場 合,O(酸素)との間には間隙が存在するので 低温では各アルカリイオンはAlO4四面体中の 2個のOに局所的に配位した結果として単位格 子内のO(96個)の等価性が崩れて(6種類の Oとなって),正方晶系(c>a,低温型)を示 す.温度が上昇すると,アルカリイオンの熱振 動が増大し,アルカリイオンが空所の中央, つまり全Oは等価となって,等軸晶系(c = a, 高温型)となる(詳細は技術レポート Vol.4で 記述した).十分大きいCsの場合,空所を満 たしているために室温で既に等軸晶系を示す. 逆に空所より極端に小さいNa+では,リューサ イト結晶網目骨格が保持できず崩壊するために 結晶中に固溶できないと推察された.

4. リューサイト固溶体

5)  歯科用の陶材において,リューサイト結晶はその高熱膨張性が使命である.つまり,陶材の大きな 熱膨張係数(13.5~14.2ppm/℃)は含有するリューサイト結晶の高熱膨張性に依存している.従っ て,陶材中のリューサイト結晶に関して,その含有量並びに結晶自体の熱膨張係数の安定性が求めら れる.ところが,このリューサイト結晶(以後単に結晶と呼称する)は,その組成(理論組成: KALSi2O6)がしばしば変動し,低温型(正方晶系)⇔高温型(等軸晶系)転移温度(理論組成: 615±10℃)と熱膨張係数も大きく変動する.  4.1 リューサイト固溶体の生成とその転移温度  図7は,この結晶の理論組成(KAlSi2O6,Si含有率(=δ=Si/(Si+Al+K=0.5)を中心とし,δ値を 変化させた組成(K/Al=1)の非晶質体から生成した結晶の転移温度を示したものである.KAlO2成 分に富む領域(δ>0.5)では,δ値及び結晶化温度に無関係に一定の転移温度620±10℃を示し, 理論組成を有する.他方,δ>0.5の組成域で は,転移温度はδ値の増大と共に降下し,又結 晶化温度が低下すると更に降下し,約400℃を 示す場合がある.この降下はリューサイト固溶 体((KAl)1-xSi2+xO6)の生成に基づくもので, SiO2成分の固溶量の増大と共に転移温度も降下 する.  即ち,リューサイト結晶の骨格網目は,非晶質 体中のSiO4及びAlO4四面体が配列することによっ て形成される.この場合,結晶化温度が低くて 非晶質体の粘度が大きいと各四面体の拡散効果 が小さいために,非晶質体組成によっては理論組 成からずれたKxAlySizO0.5(x+3y+4z)(x:y:z≠1:1:2)結晶 が生成する.Si含有率がリューサイト結晶の理論 組成のそれより大きい場合(δ>0.5),【K(AlO4)】 4-が【SiO4】4-に部分的に置換された組成を持つリュ ーサイト固溶体(KAl)1-xSi2+xO6(x>0) 結晶が生成 する.他方,Si含有率が小さい場合(δ<0.5)に は,非晶質体中に存在する過量のAlO4四面体が SiO4四面体の一部が置換されたようなリューサイ ト結晶骨格が形成されないので,生成結晶は全て理論組成となる.なぜなら,その場合には結晶中の電荷 の平衡を保つ上で過量のK+の導入が必要であるが,この結晶骨格網目中には理論量を超えたK+(直径2.65 Å)が入る空所が存在しないからである.なお,この(δ<0.5)場合の過量のK+とAl3+は非晶質体中に残 留し,K+とAl3+の含有率の大きいカルシライト(KAlSiO 4)として共晶する.

 図8aはKAlSiO4(カルシライト)-KAlSi2O6(リューサイト) 系,図8-bはKAlSi2O6(リューサイト)-

SiO2系相平衡図で,共にリューサイト結晶の生成領域を示した代表的な相平衡図である.この図の上 部に各組成のSi含有率を挿入した.つまり,図7に示した転移温度の降下(=Si含有率>0.5領域)は, 図5 アルカリイオン種が異なる    Alリューサイト結晶の線膨張曲線10) 図6 リューサイト結晶を構成する網目と アルカリイオンのパッキング状態 図7 KAlSiO2-SiO2系における組成と    リューサイト結晶の転移温度5) ― 6 ― ― 7 ― 0 200 400 600 800 0 0.5 1.0 1.5 2.0 温度(℃) 線膨張率 (%) K-リューサイト Rb-Cs-リューサイト Rb-リューサイト Cs-リューサイト K-Rb-リューサイト 0 5 10 0 5 10 15 a-axis (Å) b-axis (Å) 13.575 13.575 1.33Å 1.69Å 1.48Å 0.96Å Cs+ Al Rb+ Al Si K+ Na+ O O Si 650 600 500 400 0.45 0.50 0.55 0.60 550 450 転 移 温 度(℃) KAlSi2O6 結晶化温度 結晶化温度 1600℃ 1500℃ 1400℃ 1300℃ 1100℃~

(6)

図8-b(KAlSi2O6(リューサイト)-SiO2の領域)において起こった現象である.リューサイト (KAlSi2O6)組成に過量のSiO2成分が加わった組成域において生成するリューサイト結晶の組成は過 量のSiO2成分が固溶したリューサイト固溶体であり,そのSiO2固溶量の増加に伴って転移温度が降下する.  4.2 リューサイト固溶体の結晶構造と転移温度の降下5)  SiO2成分の固溶と転移温度との関係は,この結晶骨格網目中のO(酸素)に12配位(紙面内では6 配位)された空所を(0

k

0)面で示した図9の模式図から明確となる.  図9中の上段は理論組成(KAlSi2O6)を示すが, 空所内にK+が各1個存在し,正方晶系(低温型)で はK+はAlO 4四面体中の酸素(O)と結合(Al-O-K+)し た配置になっており,(0

k

0)面内に示した6個の 酸素は何れも不等価で,単位格子内の酸素(O)は 6種類に分類されることに対応する.その結果とし て,c軸が伸張し,a=b軸が収縮して,c/a>1とな って,正方晶系を示す.他方,高温型(右側)で は,温度の上昇に伴うK+の熱振動の増大により, (0

k

0)面内の6個の酸素と等距離(空所の中央)に位 置し,単位格子内の全酸素(96個)は等価になっ て,等軸晶系(a=b=c)に転移する.  下段の固溶体((KAl)1-xSi2+xO6)は,【K(AlO4)】4-が 【SiO4】4-に部分的に置換された組成を持つ.この置 換された空所は,K+が欠落していて,構成している

図8 KAlSiO4(カルシライト)-KAlSi2O6(リューサイト)-SiO2系相平衡図17)

酸素(O)は全て等価であるために等軸晶系である.つまり,固溶体((KAl)1-xSi2+xO6)は,高温型結 晶骨格を部分的に固溶しているので,結晶骨格の対称性がよくなり(c/a値が減少),転移温度が降 下するという結果になる.  4.3 リューサイト固溶体の熱膨張特性18)  図10は,リューサイト固溶体の熱膨張特性の一例を示したものである.□印は転移温度が約500℃ の固溶体 ((KAl)1-xSi2+xO6),●印は比較として示した理論組成(KAlSi2O6)である.図10-(B)に示した 線膨張曲線は,図10-(A)の格子定数から算出したものである.通常のガラスでは歪み点(固体化がほ ぼ完全になる温度)は約500℃である.線膨張係数(=α,28-500℃間平均)は,固溶体(α=31.1ppm /℃)が理論組成結晶(α=22.5ppm/℃)より約40%大きい.つまり,これらの線膨張係数は通常 のガラス体では決して得られない大きな値で,この結晶が高膨張性セラミックスの調製に優れている ことを示している.なお,SiO2固溶量が増大して,転移温度が室温以下を示す固溶体が生成すること もあり,そのような場合には膨張係数は極端に小さくなる.

5. Na

2

O成分がリューサイト結晶の熱特性に及ぼす影響

14)  歯科用セラミックスは,その操作性から低融化が求められ,リューサイト成分にNa2Oが加わった

SiO2-Al2O3-K2O-Na2O四成分系を主要成分としている.

 SiO2-Al2O3-K2O-Na2O四成分系に均一非晶質体を調製し,その加熱によるリューサイト結晶化に

ついて種々実験を試みた.その結果,Na2O成分は結晶化加熱に伴って分離して,マトリックス融

液相(非晶体)を形成し,前出2リューサイトの種類の項で述べたように,K+がNa+に置換した結

晶の形成は困難であった.得られたリューサイト結晶の高温X線回折結果に依れば,転移温度は 580℃から645℃の範囲を示した.これらの転移温度をSi含有率(φ=Si/(Si+Al+K+Na))に対して

図10 SiO2-Al2O3-K2O-Na2O四成分系に生成するリューサイトの結晶転移と熱膨張

図9 リューサイト固溶体における    結晶転移に伴う構造変化の模式図 k Si含有率=Si/(Si+Al+K) (+KAlO2)← 0.5 →(+SiO2) 1800 1605 1686 0.40 0.4430.4570.4780.492 0.5050.5190.5410.564 0.45 0.50 0.50 0.55 0.60 1615 1600 1400 1200 1000 0 20 40 60 80 100 温 度 (℃) (wt%) 1800 1686 1600 1400 1200 1150 1000 990 1470 1713 0 20 40 60 80 100 温 度 (℃) (wt%) 液相 斜方晶系 KAlSiO4 + 液相 斜方晶系 KAlSiO4 リューサイト + 液相 リューサイト + 液相 トリジマイト + 液相 リューサイト + カリ長石 + リューサイト KAlSiO4 リューサイト KAlSi2O6 リューサイト KAlSi2O6 長石 KAlSi3O8 シリカ SiO2 Si 含有率(Si/Si + Al + K) Si 含有率(Si/Si + Al + K) 液相 クリストバライト   + 液相 カリ長石 +液相 カリ長石+トリジマイト(SiO2) 42.2 54.4

(a)KAlSiO4-KAlSi2O6系相平衡図 (b)KAlSi2O6-SiO2系相平衡図

Si Si K+ K+ K+ K+ Si Si Si Si Si Si Al Al Al Al c c a a Si c a c a K+ K+ Si Si Si Si Al Si Si Si Si Si Al 理論組成 低  温 低温型 a=b<c a=b=c 低  温 高  温 a=b=c 高  温 高温型 a=b=c KAlSi2O6 固溶体 置換:[K(AlO4)]4-   [SiO4] 4-(KAl)1-xSi2+xO6 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 13.8 格 子 定 数 ( Å ) a c a=c 0 0.5 1 1.5 2 線 膨 張 率 ( % ) 13.1 13.2 13.3 13.4 13.5 13.6 13.7 温度 (℃) (A) 格子係数の変化 (B) 熱膨張曲線 温度 (℃) (A) (B) (KAlSi2O6) ((KAl)1-xSi2+xO6) 理論組成 (KAlSi2O6) 理論組成 固溶体 ((KAl)1-xSi2+xO6) 固溶体

(7)

プロットすると,図11が得られた.図中に,SiO2-Al2O3-K2O 三成分系で得られたリューサイト固溶体の生成に伴う転移 温度の降下(図7)を破線で挿入した.φ<0.5におい て,転移温度は約15℃の上昇が認められるが,この上昇 が少量のK+がイオン半径の小さなNa+への置換効果に基づ くとも推察できるが明確とは言えない.他方,φ>0.5に おいては,約40℃の転移温度の降下が認められ,この降 下は先に述べたようにSiO2成分の固溶に基づくものと判断 された.この場合の生成リューサイト結晶は図10と同様 な熱膨張特性を示すことも明らかになっている.

6. Li

2

O成分がリューサイト結晶の熱特性に及ぼす影響

15),16)  Li2O成分は,Weinsteinら19)によって開発された歯科用セラミックスをはじめ,低融化材として導 入されることが多い.このLi+イオンの半径は,Na+イオンより更に小さいために,リューサイト結晶 中への固溶が困難と見なされる.しかし,Li2O成分の存在が,生成するリューサイト結晶に与える影 響が極めて大きいことが示されたので,その要点を記述する.  図12は,KAlSi2O6(リューサイト)・Li2SiO3

(リチウムシリケイト)組成にSiO2成分を添加した 非晶質体(ガラス)を800℃で6時間結晶化熱処理 後,大気中で室温まで急冷し,その試料中の生成結 晶相の量的関係を示したものである.リューサイト 結晶が室温において等軸晶系(高温型)を示すな ど,複雑なので順を追って記述する. 【リューサイト結晶の構成成分であるSiO2-Al2O3-K2O 三成分系にLi2O成分が加わったときには,必ずリチウ ムシリケイト結晶(以後,単にLi2SiO3結晶と略記す る)の析出が先行する.】したがって,Li2O成分とリ ューサイト結晶との関係は,(KAlSi2O6(リューサイ ト)・Li2SiO3)組成が基点となる.

 つまり,図11の左端(KAlSi2O6・Li2SiO3)組成で

は,先ずLi2SiO3結晶が生成し,残留非晶質相から理

論組成(KAlSi2O6)のリューサイト結晶が形成され

る.図中の横軸は(KAlSi2O6・Li2SiO3)組成への

SiO2成分添加量を示すが,それらにおいても先ずLi2SiO3結晶の生成が完了した後にリューサイト系の結

晶の生成が始まるので,添加されたSiO2成分はリューサイト結晶に固溶する.生成したリューサイトの

結晶構造は,SiO2添加量<0.5molの場合にはその全てが室温で正方晶系を示す固溶体((KAl)1-xSi2+xO6)を

示す.SiO2添加量=0.5~1.0molの場合,SiO2添加量の増加に伴い正方晶系固溶体((KAl)1-xSi2+xO6)が減少

し,それと逆に室温で等軸晶系を示す固溶体((KAl)1-ySi2+yO6)が増加する.この場合の等軸晶系固溶体

は,先の図5で示したCs-リューサイト結晶と同様に,熱膨張係数が小さいと類推できる.SiO2添加量 >1.0molの場合,リューサイト系結晶の生成は認められず,SiO2含有率が高いサニディン(KAlSi3O8) が生成する.  因みに,図11中の試料の線膨張係数は,SiO2添加量が0.7molの時に最大の20.2ppm/℃を示し,添 加量の増加に伴って急激に減少して1.0molの時に最小の6.2ppm/℃を示した後増加に転じ,1.3molで は7.4ppm/℃となった.これら線膨張係数の急激な変化に関して,最大値(20.2ppm/℃)は正方晶系 リューサイトの寄与,急激な減少は室温において等軸晶系を示すリューサイト固溶体の生成に基づく と判断された.  室温において等軸晶系を示すリューサイト固溶体は,現在市販されている歯科用陶材においてもそ の存在が報告20)されており,Li2O成分を含有する陶材に限られているようである.Li2O成分は実用陶

材の低融化に極めて有効であるが,陶材の熱膨張係数の調整を複雑にすると考えられるので,その取 り扱いは困難で細心の注意を要すると言える.

7. 終わりに

 審美修復歯は,現在メタルセラミックが主流であり,審美着色のための半透明性及び高熱膨張性合金と の適応性から,セラミックの熱膨張係数を高めるために高熱膨張性のリューサイト結晶は要件である.  本稿は,リューサイト結晶の本質である高熱膨張性を明確にすることを主体とした. アルカリイオン(K,Rb,Cs)が異なるリューサイト結晶を取り上げ,その変態(低温型(正方晶 系)⇔高温型(等軸晶系))間の転移温度を結晶構造との関連性を記述した.高熱膨張は正方晶系に限 られ,その結晶転移のプロセス(結晶格子における正方歪み=c/a-1の減少)が結晶格子体積の異常膨 張(高熱膨張)として現れることを示した.  次に,多くのリューサイト系結晶でその転移温度と熱膨張曲線が変動することを示し,それら変動 は結晶組成の揺らぎ(=固溶体の形成)に基づくことを結晶構造で関係付けた.

 最後に,実用の低融性歯科用セラミックにおいて汎用されている低融化成分(Na2OおよびLi2O)

がリューサイト結晶の高熱膨張性の与える影響について記述した.

 以上は,現在知られている全リューサイト系結晶について,その高膨張性をはじめとする熱特性お よび結晶構造を網羅した内容となっており,歯科用陶材に限らず広くセラミックスの熱膨張係数を高 める技術を提供するものと確信する.

図11 SiO2-Al2O3-K2O-Na2O四成分系に

   生成するリューサイトの転移温度 図12 室温における結晶の共存状態16)    (800℃で6時間熱処理ガラス) ― 10 ― ― 11 ― 0.45 0.5 0.55 400 500 600 700 転移温度 (℃) Si 含有率(φ=Si/(Si+Al+K+Na)) X 線 回 折 強 度 ( 1 0 2cp s) KASi2O6 Li2SiO3 SiO(mol)2 組成 リチウムシリケイト (Li2SiO3) サニディン (KAlSi3O8) 0 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 0 2 4 6 8 10 12 β-ユークリプタイト 正方晶系リューサイト ((KAl)1-XSi2+XO6) 等軸晶系リューサイト ((KAl)1-ySi2+yO6)

(8)

《参考文献》

1) J. Wyart, Bull. Soc. Franc. Miner., 63, 5-17 (1940) 2) J. Wyart, C. R. Acad. Sci. Paris, 212, 356-58 (1941)

3) G. T. Faust, Schweiz. Mineral. Petrog. Mitt. 43. 164-95 (1963) 4) D. Taylor, C. M .B. Henderson, Am. Mineralogist, 53, 1476-89 (1968) 5) 星川 武, Yogyo-Kyokai-shi, 84, 313-320 (1976)

6) 星川 武, 赤木三郎, Yogyo-Kyokai-shi, 83, 528-534 (1975) 7) 星川 武, 赤木三郎, Yogyo-Kyokai-shi, 82, 185-92 (1974) 8) K. Hirao, N. Soga, M. Kunugi, J. Phy. Chem., 80, 1612-16 (1976) 9) 星川 武, Yogyo-Kyokai-shi, 85, 52-58 (1977)

10) 星川 武, 窯業協会 中四国・京都・大阪研究発表講演要旨, p11-2 (1978)  

11) 星川 武, 木戸博康, 大滝仁之, 滝川裕介, 科学と工業, 62, 112-14 (1988) 12) 星川 武, 赤木三郎, Yogyo-Kyokai-shi, 80, 42 (1972) Si-Al-K-Na glass 13) 星川 武, 清水一宏, 田中雅美, Yogyo-Kyokai-shi, 86, 238-43 (1978) 14) 星川 武, 木戸博康, 科学と工業, 60, 351-55 (1986)

15) 星川 武, 赤木三郎, 清水一宏, 科学と工業, 53, 380-89 (1979) 16) 星川 武, 木戸博康, 瀧波 巌, 科学と工業, 59, 72-77 (1985) 17) J. F. Schairer, N. L. Bowen, Am. J. Sci., 253, 681-746 (1955)

18) 星川 武, 赤木三郎, 苅野征一, 日本特許 No. 1050688 号(出願 (1976))

19) M. Weinstein, S. Kat, A. B. Weinstein, USP. No. 3052982, No. 3052983 (1962) 20) H. Lee, M. Kon, K. Asaoka, Dental Material J., 16, 134-43 (1997)

編集者 安楽 照男 発行者 山本 隆彦 印刷所 株式会社 ウラノ 大阪 発行年月日 2007年10月18日

《技術レポート 既刊》

Vol.1 天然歯と審美修復材料(2004年12月) Vol.2 陶歯とメタルセラミック用の長石系ポーセレン(2004年12月) Vol.3 リューサイト系セラミックの調製とその高熱膨張性(2005年12月) Vol.4 リューサイトの結晶構造とその熱膨張特性(2006年4月) Vol.5 リューサイト結晶の種類とその熱膨張特性(2007年10月)

(9)

営本 20071018 URL http://www.yamakin-gold.co.jp 生体科学安全研究室 〒783ー8505 高知県南国市岡豊町小蓮高知大学医学部 歯科口腔外科学講座研究室内 本 社 〒543-0015 大阪市天王寺区真田山町3番7号 TEL.(06)6761-4739(代) FAX.(06)6761-4743 東 京・大 阪・名古屋・福 岡・仙 台・高 知・生体科学安全研究室 認証範囲 本社及び高知工場 ISO 9001/13485 ISO 14001 認 証 取 得 QAIC/JP/0455 認証範囲:高知工場

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