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森林空間を想起させるメディアアートの制作

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Academic year: 2021

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(1)情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2009-MUS-83 No.14 2009/12/6. 1. はじめに. 森林空間を想起させる メディアアートの制作. 日本において,森林は国土面積の 67%を占めており,私たちの生活から切り離すこ との出来ない存在である.京都議定書では温室効果ガスの削減目標 6%のうち 3.9%が 森林による吸収として最も大きな割合を占め,森林は環境保全の面から高い注目を集 めている.また,水源涵養,騒音防止,災害防止,生物多様性の保全といった機能を 果たし,日常生活を送る上でも重要な役割を果たしている.さらに近年では,森林浴, 森林セラピーといった現代社会におけるストレス解消の場としても森林の研究が進め. 室内インスタレーション作品《Curtain》の制作を通して,森林空間を想起させる 環境をメディアアートとして設計・制作する手法の一端を明らかにすることが本 研究の目的である.制作理念として 1.森林の画像・音声を素材とする,2.作品 に空間移動の概念を盛り込むことの 2 つを掲げ,3つの試作を踏まえて制作に臨 み,手法の検討を図った.その結果,1.鑑賞者の位置情報を映像・音声の変化 のためのトリガーとして用いる,2.鑑賞者の動きをリアルタイムにカメラで捉 える,3.森林の画像・音声を効果的に活用し,空間移動を実感させるため,幾 重にも重なった透過性のスクリーンを用いることの 3 点が手法として挙がった.. られてきている.こういった風潮から,筆者らには作品を通して多くの人々に森林が どのような場所であるかを実感してもらい,その重要性と共に森林を身近なものとし て感じてほしいという思いがあった. 本研究の目的は,インスタレーション作品《Curtain》の制作を通して森林体験を想 起させる環境をメディアアートとして設計する手法の一端を明らかにすることである. この場合の環境とは美術館の一室を想定した室内空間であり,メディアアートとして. A Design of Media Art Evoking Experience of Forest. 設計するとは,コンピュータに代表されるデジタル環境のマルチメディア性を重要な 構成要素とするということである.そこでは鑑賞者の位置情報などを入力として用い ることも当然取り入れられることになる.森林体験を想起させるとは,素材として森 林の画像や音声を用い,あたかも森林にいるかのような気分を鑑賞者に与えるという ことである. 本研究と関連する先行作品としては,藤幡正樹の《Field-Works》 (1992)が挙げられ. This study provides a means to design media art evokes the experiences of a forest by producing the installation “Curtain”. The development of this work was based on two approaches: the use of videos and sounds related to forests; and bring in the policy of ambulation for work. This was achieved through three prototypes. Therefore, there exist three means. The First uses a viewer’s positional information as a trigger to change videos and sounds. The Second captures the viewer’s movement in real-time using a camera. The Third uses a layer of transmissive cloth as a screen to project videos and sounds more efficiently and give the viewer a feeling that he/she is walking through a forest.. る.この作品において,藤幡は,GPS による位置情報を用いたメディアアートを展開 しており,素材として森林を含む自然を取り込んでいる.なお森林を素材とはしてい ないものの,仲居伊織の《streetscape》(2002)は位置情報とそれに関連する音声を素 材としたメディアアートであり,その点において本研究を触発した. またインタラクティブ性はないが,映像を用いたインスタレーションとして,Bill Viola の《The Veiling》(1995)からは,映像の提示の仕方などの点で多くの影響を受 けた. なお,研究主担当者の塩崎は大学学部時代に農学部に籍を置き,そこで森林調査を 行い,直に森林と触れ合ってきた経験が,作品制作のキッカケのひとつになっている.. 1. ⓒ2009 Information Processing Society of Japan.

(2) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2009-MUS-83 No.14 2009/12/6. また,卒業研究では森林内における GPS 機器の測位精度について研究を行っていたと いう経歴がある.. 3.1.2 移動の軌跡を視覚化・音声化する試み. 設計理念の第 2 の要素に関連して,位置情報の視覚化と音声素材の使用をテーマに Max/MSP を用いて《Walking Sound》を制作した(図 2).この作品では画面が市街地 図を模して構成されており,画面上での地図の道路に沿ってマウスをドラッグすると, その軌跡が移動の軌跡として残る.さらに,特定の区画までドラッグして,その区画 部分をクリックすると,駅のアナウンスやスーパーのレジの音,公園で遊ぶ子供たち の声といったその区画名に見合った音声が再生され,実際に自分がその場にいるかの ような感覚を得られる.GPS 機器を所持して実際に移動することで作品に変化が起こ るシステムを作った場合,どのようにディスプレイを構成し,位置情報を視覚化すれ ばよいかをこの作品で検討した.また,森林との関わりはないが,街で採集した音声 素材を作品に使用し,第 1 の理念についても検討を行った. 3.1.3 音声・画像による自然の表現の試み 設計理念の第 1 の要素に関連して,自然風景の画像による自然の象徴的な表現をテ ーマに Processing を用いて《Breath of Earth》を制作した(図 3).スクリーン上に投影 された写真をマウスでドラッグして離すことで写真が滑るように動き出し,一つの画 面の中で複数の写真を造形的に動かすことが出来る.その動きの中で写真同士が重な り合ったり,画面の端とぶつかったりすることで,写真が 1 色の長方形に変化したり, 電子音が出力されたりする.また,長方形の色は時間経過ごとに変化し,電子音はぶ つかった画面位置に応じて左右にパンニングが行われるようになっている.写真同士 が重なり合う様子を自然同士の関係性,その中で色が変化していく様子を絶え間なく 変化し続ける自然,画面端とぶつかり音が出る様子を地球上で起きている自然現象と して,それぞれ象徴的に表現した.. 2. 制作理念 森林体験を想起させる環境をつくるために 2 つの要素を作品に取り入れる.第 1 の 要素は,森林の映像や音声を素材とすることである.森を歩くことで癒されるとよく いわれるが,近年では,現象としての“森の癒し”が証明されつつあり,森林歩行時 の風景を見せた際の視覚実験,小川のせせらぎ,鳥の鳴き声といった森林由来の音を 聞いた際の聴覚刺激実験で,ともに交感神経活動の鎮静化されるというデータが挙が っている(田中,2009).また,映像と音声は作品の臨場感を高める上で,重要な要素 でありながらも,比較的容易に作品に取り入れることが出来る.こういったことから も,作品の制作にあたって,森林に関わる映像・音声を用いることは森林空間の再現 に効果的であり,適切であると考えた. 第 2 の要素は,森を歩き回るといった“空間移動”の概念を作品に盛り込むことで ある.森林とのふれあいを考えたとき,登山やハイキング,森林浴といった様々なア プローチが考えられるが,その多くは歩くことと切っても切れない関係にある.それ ゆえ,森林空間を想起させる上で,空間移動の概念を作品に盛り込むことは非常に効 果的であると考えた.そこで,塩崎は卒業研究で GPS 機器を扱っていた経験を作品に 活かし,GPS 機器をシステムに組み込むことで“空間移動の概念”を作品に盛り込も うと考えた. 今回の作品制作では,これら 2 つの理念を満たすことで森林空間が想起できると定 義づけることにする.つまり,これら 2 つの理念を満たす手法を探ることが,研究目 的の達成へと繋がることになる.. 3. 《Curtain》にむけての 3 つの試み 3.1 制作 3.1.1 GPS 機器からの情報を音声化する試み. 設計理念の第 2 の要素に関連して,位置情報(空間移動)の音声変換をテーマに Max/MSP を用いて《Color Sound》を制作した(図 1).モニタ上の仮想キャンバスに マウスで図形を描くと,音声が出力される作品である.図形の描画位置と色の RGB 値によって出力される音声の音色,ピッチが変化するようになっており,この作品で は X 軸の値を電子音の周波数に,RGB 値を MIDI 音源のピッチに対応させている.実 際に GPS 機器から取り入れた位置情報は,ここでのキャンバス上の位置情報(X 軸・ Y 軸の値)に取って代わるものとして想定されている. 図 1 《Color Sound》実行画面 2. 図 2 《Walking Soung》実行画面 ⓒ2009 Information Processing Society of Japan.

(3) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2009-MUS-83 No.14 2009/12/6. 3.2.4 作品全体での課題 3 つの試み全てを通して残った課題は,第 1 の理念である森林と関わりのある素材の 使用と第 2 の理念である“空間移動”の概念を融合させる GPS 機器の使用方法であっ た.どの作品においても,1 つの理念を満たし,制作毎に成果・課題を見つけること は出来たが,2 つの理念を同時に満たす明確な手法を見出すことは出来なかった.特 に,《Walking Sound》において明らかになった作品と鑑賞者の分離が起こる問題は作 品のリアルタイム性かインタラクティブ性のどちらかを切り捨てることでしか解決が 出来ないものであった.筆者らには,鑑賞者に空間の移動と森林の体感を同時にさせ たい―すなわちリアルタイム性,インタラクティブ性の両方を作品に取り入れたいと いう思いがあったが,この希望を満たすには,GPS 機器を用いることが適切ではない と考えられた.. 4. 最終形態としての作品《Curtain》 図 3 《Breath of Earth》実行画面. 4.1 作品概要. 《Curtain》は,鑑賞者の移動に呼応して映像と音声が変化する空間を作り出し,鑑. 3.2 成果および考察. 賞者に森林の中を歩いているような感覚を与えたり,自然の美しさや癒しを体感させ. 3.2.1 《Color Sound》. たりすることをコンセプトとしたインタラクティブな室内インスタレーションである.. この作品では,位置情報の音声変換を試みた.Max/MSP を用いることで,描画した 画像の位置情報を音声のピッチや周波数へと変換できることを確認した.これにより, GPS 機器の位置情報も同様に音声に変換すると判断できた. 3.2.2 《Walking Sound》 この作品では,移動の視覚化と音声素材の使用を試みた.GPS 所持者が動いた様子 をモニタ上の地図に表示し,音声を出力する仕掛けを施すことは Max/MSP を用いる ことで可能だと判断できた.また,音声素材を用いることで作品の臨場感が高まる確 かな手応えがあった.一方,実際に GPS 機器を使用すると,GPS 機器の特性上,GPS 所持者は屋外にいなければならないことになる.ディスプレイ等の展示空間は室内を 想定しているため,作品にリアルタイムにインタラクティブ性を持たせることを考え た場合,GPS 所持者を含めた作品と鑑賞者が分離されてしまうという課題が見えた. 3.2.3 《Breath of Earth》 この作品では,写真を中心に作品を構成し,自然の美しさや癒しの象徴的な表現を 試みた.複数の写真を自在に動かすことで,写真が変容したり,音声が出力されたり, また,動的な表現が出来るといった面白さを発見出来た.一方,素材の使用方法に課 題が残った.この作品で用いた写真のサイズが非常に小さかったため,作品全体のコ ンセプトが見えにくいものとなってしまったのである.森林空間を想起させるために は素材をより強調して用いる必要があることがわかった.. 空間内に吊るされた複数の透過性のスクリーンの中を鑑賞者がライトを持って歩き回 ると,その光をカメラが検知し,ライトの位置に応じてスクリーンに投影された動画 がコマ送りされ,それと同時に音声も再生される.映像は森林をはじめとする自然の 中を散策している動画,音声は森の中で聞こえる音声で,実際に採集してきたものを 用いている.歩いた分だけ,スクリーンの映像も森の中を歩いたように再生され,歩 みを止めれば,映像もそのコマで一時停止する(図 4).音声も特定の位置に到達する ことで鳥の音が再生されたり,小川の音が再生されたりする.これにより,まるで森 の中を歩いているかのような感覚を得られる. 4.2 制作 この作品では,過去の試作とは異なり 2 つの設計理念を同時に取り入れることを試 みた.そのために,2 つの制作のポイントを掲げた.1 つ目は今まで想定してきた GPS 機器ではなく,カメラを鑑賞者の動きを捉える機材として用いることである.これに より,試作で課題となった作品と鑑賞者の分離を防ぎ,作品のリアルタイム性,イン タラクティブ性の確保を図った.2 つ目は幾重にも重なった透過性のスクリーンを用 い,それらに映像を投影することである.試作で課題となった素材の使用方法を見直 3. ⓒ2009 Information Processing Society of Japan.

(4) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2009-MUS-83 No.14 2009/12/6. 図 4 映像変化の概略図 図 6 システム概略図 し,今までの作品で用いていた平面的なスクリーンから脱却し,立体的に作品を展示 することで,森林に関わる素材の強調を図った(図 5).また,それと同時に森林の奥 行き感や木々が立ち並ぶ様子を疑似的に表現し,空間移動の概念の強調も図った.ス クリーンの展示方法は天井から吊り下げたり,スタンドを用いたりと会場の設備によ. 図 5. って臨機応変に対応することにした. 映像・音声出力,およびカメラによる画像解析は C++言語および音声・画像処理に 特化したライブラリである openFrameworks によって制御している(図 6).鑑賞者の 持つライトを画像の色検知によって処理し,そのライトの座標値が映像・音声に変化 を起こすためのトリガーとして機能している.カメラは Web カメラを用い,USB ケー ブルを介して PC と接続することで,画像の取得,解析を行っている. 4.3 考察 最終形態としての作品《Curtain》の設計制作にあたっての解決すべき問題は,作品 と鑑賞者を一体化させつつリアルタイム性,インタラクティブ性を保証することであ り,森林の美しさや癒し効果を的確にスクリーン上で表現することであった.前者の 解決策として GPS 機器ではなく,カメラを用いて鑑賞者の展示空間内での移動情報を 取り込むことにした.これにより,作品と鑑賞者が分離することなく,作品にリアル. 透過スクリーンへ映像を投影した様子. 4. ⓒ2009 Information Processing Society of Japan.

(5) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2009-MUS-83 No.14 2009/12/6. タイム性,インタラクティブ性を確保することが出来た.また,後者の解決策として 幾重にも重なった透過性のスクリーンに映像を投影することにした.そうすることで, 映像素材を今までよりも効果的に使用することが出来ると同時に,作品を三次元的に 捉え,森林体験を想起できる空間を設計することが出来たと考えられる.. 5. まとめ 本研究では,3 つの試みと《Curtain》の設計を通して,設計理念である森林体験を 想起させるための手法として最終的に以下の 3 つを導き出した. ①まず作品のインタラクティブ性の確保のため,鑑賞者の位置情報を映像,音声の 変化のためのトリガーとして用いる. ②次に,作品と鑑賞者の分離を防ぎ,なおかつリアルタイム性を確保するため,位 置情報の取得機器として,GPS 機器ではなくカメラを用いる. ③森林の映像素材を効果的に活用し,鑑賞者に空間移動を実感させるために,幾重 にも重なった透過性のスクリーンを用いる.この手法は素材の活用と空間移動の 実感だけでなく,森林空間の奥行き感の表現にも効果的である. 《Curtain》のこれまでの制作では,映像素材の効果的な使用や展示空間の立体的な 演出といった主に視覚的な要素に重点を置いて制作を進めてきた.今後は,音声素材 の演出にも焦点を当て,スピーカの配置や音声素材の使い方などを検討していきたい. また,プログラミング面からは映像・音声に変化を起こす仕掛けに工夫を凝らし,さ らにリアリティのある森林体験を想起させる空間の実現を試みていきたい.. 参考文献 1). 田中淳夫: 森を歩く―森林セラピーへのいざない, 角川 SSC 新書カラー版,pp 33-34,2009. 5. ⓒ2009 Information Processing Society of Japan.

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図  1  《Color Sound》実行画面          図  2  《Walking Soung》実行画面
図  3  《Breath of Earth》実行画面  3.2  成果および考察  3.2.1  《Color Sound》  この作品では,位置情報の音声変換を試みた.Max/MSP を用いることで,描画した 画像の位置情報を音声のピッチや周波数へと変換できることを確認した.これにより, GPS 機器の位置情報も同様に音声に変換すると判断できた.  3.2.2  《Walking Sound》  この作品では,移動の視覚化と音声素材の使用を試みた.GPS 所持者が動いた様子 をモニタ上の地図に表示し,音
図  4  映像変化の概略図  図  5    透過スクリーンへ映像を投影した様子  図  6  システム概略図  し,今までの作品で用いていた平面的なスクリーンから脱却し,立体的に作品を展示 することで,森林に関わる素材の強調を図った(図5).また,それと同時に森林の奥行き感や木々が立ち並ぶ様子を疑似的に表現し,空間移動の概念の強調も図った.スクリーンの展示方法は天井から吊り下げたり,スタンドを用いたりと会場の設備によって臨機応変に対応することにした. 映像・音声出力,およびカメラによる画像解析はC++言

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