原 著 〔東女医大誌 第62巻 第11号頁1300∼1310平成4年11月〕
15年間にわたる長期経過を観察し得たneuronal ceroid−1ipofuscinosis
幼児型(late infantile form)の1例
「臨床,電気生理学的,神経放射線学的経過および剖検所見,
早期.若年型(early juvenile form)との異同一
東京女子医科大学 ヨシダ マコト シシクラ吉田 眞・宍倉
イズミ タツロウ ヤジマ泉 達郎・矢島
東京女子医科大学 フ キヨウ 付 強・ 小児科四教.室(主任:福山幸夫教授) ケイコ サイトウカ ヨ コ タカハシリ エ コ啓子・斎藤加代子・高橋里恵子
クニオ フクヤマ ユキオ邦夫・福山 幸夫
第一病理学教室(主任:小林愼雄教授) トヨダ チサト コバヤシ マキオ豊田 智里。小林 損雄
(受付 平成4年6月22日) Long・Term Survival in a Case of Neuronal Cero蓋d−L,ipofuscinosis(Late lnfantile Form):Clinica1, Electrophysiological and Neuroradiological Features, Autopsy Findings and Differential Diagnosis from Early Juvenile Form Makoto YOSHIDA, Keiko SHISmKURA, Kayoko SAITO, Rieko TAKAH:ASHI, Tatsuro IZUM1, Khnio YAJIMA and Yuldo FUKUYAMA Department of Pediatrics(Director:Prof. Yukio FUKUYAMA), Tokyo Women’s Medlcal College Q覗ian FU, Chisato TOYODA and Makio KOBAYASHI Department of Pathology(Director:Prof. Makio KOBAYASHI), Tokyo Women’s Medical College Long・term observation, from age 5 through 19, was made of a boy with neuronal ceroid・ lipofuscinosis(NCL, late三nfantile form). The patient’s paternal grandmother and maternal grand・ father were half−siblings born to the same mother but d量fferent fathers。 His presenting symptom was a febrile seizure followed by mental deterioration at the age of 3 years 9 months. Anticonvulsant− resistant seizure and myoclonus began to occur at 4 years 5 months and visual symptoms at 5 years. His genera孟condition continued to deteriorate unremittingly, resulting in a complete vegetative state at age 7 and death at 19 years 10 months. Electron microscopy failed to reveal any abnormalities in peripheral lymphocytes at either 7 years 10 months or 19 years 7 months of age. Autopsy revealed typical findings of NCL, specifically marked cerebr㏄erebellar and bra量nstem atrophy associated with heavy deposition of ceroid−1ipofuscin in nerve ce11s throughout the nervous system. Electron microscopy revealed manyとurvilinear profiles as well as a few fingerprint profiles and granular matrix in nerve cells. Only curvilinear profiles were found in the rectus abdominis muscle. His clinical course was extremely long in comparison to the average survival per孟od for the late infantile form. Thus the differential diagnosis of this case, as opposed to the early luvenile form(by Lake et al)and a variant of Jansky−Bielschowsky disease(by Santavuori et a1), is discussed.緒 言 Neuronal ceroid・lipofuscinosis(NCL)は家族 性黒内障性白痴の中から,全身臓器にセロイドや リポフスチンが蓄積する一連の疾患として1969年 Zemanらにより分離提唱された遺伝性変性疾患 であり,その一部は進行性ミオクローヌスてんか んの症状を呈する.発症年齢,臨床経過より一般 に4型に分けられ,そのうち幼児型(late infantile form, Jansky−Bielschowsky)は,幼児期,3∼4 歳にけいれん発作,精神退行などで発症し,8∼12 歳前後までに死亡するとされている1).我々は,3 歳9ヵ月時,有熱時けいれんと精神退行で発症, 7歳時には,ほぼ症状が完成し,典型的な経過を とったにもかかわらず,19歳10ヵ月まで長期生存 し,詳細に臨床経過を観察し得た1例を経験した. 初期の臨床,電気生理学的,神経放射線学的経過, 後期の管理上の問題点,および剖検病理所見につ いて報告し,Lakeら2)によって提唱された早期若 年型(early juvenile form),およびSantavuori ら3)によって提唱されたvariant of Jansky− Bielschowsky diseaseとの異同についても論ず る. 症 例 症例:1971年8月4日生,死亡時19歳10ヵ月, 男子. 家族歴:父方の祖母と母方の祖父が異父兄弟. 父の姉が3歳時破傷風で死亡している.けいれん 性疾患等の神経疾患なし. 既往歴:出生前異常なし.37週2日,3,150gで 出生.膀帯巻絡,頸部に2回あり,3分間暗泣せ ず.黄疸中等度であったが,3日目より哺乳力良 好となった.3ヵ月時暉暉.5ヵ月半で寝返り, 6ヵ月で坐位可能.8ヵ月でつかまり立ち,10カ 月でつたい歩き,1歳3ヵ月より独歩可能.1歳 6ヵ月で排便を教え,1歳10ヵ月には排尿習慣が ついた.2歳7ヵ月,走るのは遅かったが,ズボ Th鷺rapy PB P凹T NZP
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1月8日,4歳5ヵ月,4分間の無熱性けいれん
を起こした.この頃より発語不明瞭,手先は一層 不器用となり,転び易くなった.4歳6ヵ月,目 周囲および全身のミオクローヌス出現,電車の音 を恐がるようになる.4歳7ヵ月,某院入院し, 精査を受けた.知能指数(IQ)は41.汚いもの危 険なものがわからなくなり,舌がもつれ,階段昇 降困難となった.歩行は失調性.4歳8ヵ月,脱 力発作出現.すなわち,2∼10秒程度身体の力が ガクガクと抜けて前,横あるいは,しりもちをつ く等,重心のある方に倒れる発作が1日目数回起 こる.4歳10ヵ月,他院へ入院,手が震えて,も のが食べられない.この頃より,両眼に,1秒に 5回,視角にして約5度の水平性,振り子様眼振 を認めるようになった. 1976年9月25日5歳1ヵ月,当科初診.同10月 6日∼12月1日,当科初回入院.嚥下困難あり. 上半身がカクカクと前屈する発作が頻発.発作時 の脳波(図2a)は2∼3c/sの山鼠性血振幅棘徐波複合群発であった.この発作はethosuximide
(ESM)で一旦軽快,一方ミオクローヌスもclon・ azepam(CZP)の投与により一旦軽快した.この 頃,覚醒直後に散瞳しており,時に対客反射もな く,数時間で回復するという現象が観察されてい る.5歳3ヵ月時の発達指数(DQ)は25.この頃 より,視力低下傾向顕著.5歳6ヵ月,歩行不能, 全身のミオクローヌスが強くなった.5歳9ヵ月, 痙性増強.NCLを強く疑い,皮膚,直腸生検を試 みたがNCLと確診できず.その後も,ミオクロー ヌスは増悪と小康状態を繰り返しながら強くな り,6歳2ヵ月’C舌のミオクローヌスも増強,頭 部のコントロール,寝返り,経口摂取不可となり, 3回目の入院をした.その後も退行は進み,最終 的には失明.7歳時にはほぼ終日臥床の植物状態 となった.全身のミオクローヌス,全身性強直間 代性発作(GTCS)持続.肺炎を頻回に繰り返すよ うになり,11歳4ヵ月,気管切開.13歳7ヵ月か ら14歳2ヵ月にかけて強いミオグローヌスのため に頻回に入院.合計で計24回の入院歴がある.第 23回目入院は肺炎と気管支喘息,Methicillin resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の気 道内保持にて1990年12,月20日から1991年3月31日 と長期に及んだ.弘南から,MRSA, Pseudomonas aeruginosa, Acinetobacter calcoaceticus, Cor− ynebacterium, Micrococcus, Serratiamarces− cens等が検出され,数種類の抗生剤を感受性テス トに基づき長期間使用.結局,気道:内のMRSAは 完全には消失しないまま退院した.第24回目入院 は肺炎によるもので1991年6月4日.中心静脈栄 養(IVH)を併用して抗生剤,多剤を使用.経過順調で6月18日IVH中止,熱発なく良好な全身
状態であったが,6月25日1:00AM予期せぬ呼
吸停止に気づき,心肺蘇生術を施行したが反応せ ず死亡した. 血液,尿,生検組織検査所見:血液,尿一般検 査では,経過中の感染症に関する炎症反応等の異 常値以外には特記すべきものなし.4歳7ヵ月時, 他院で施行した筋生検は,異常なし(大小不同, 炎症像,変性像なし).5歳3ヵ月時測定の白血球 ライソゾーム酵i素はArylsulfatase A,β一 galactosidase, N・acetyl一β一glucosaminidase等正 常.5歳9ヵ月時,骨髄,末梢リンパ球には空胞 変性なし.sea blue histiocytes等なし.皮膚,直 腸生検を施行したが,NCL確認できず.7歳10カ 月時,および19歳7ヵ月時に,末梢リンパ球の蓄 積物質につき電顕的検討を加えたが,異常を発見 できなかった. 眼科的所見:5歳9ヵ月時,黄斑変性あり,蛍 光眼底検査では,黄斑中心部よりHuoresceinの漏 れを指摘された. 脳波所見:4歳7ヵ月,二三の混在する徐波化,/ 毒 ]量
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a 5歳2ヵ月時の発作時脳波(1976年10月9日).2∼3c/s禰至当高振幅棘徐波群発の 後半部から,坐位にて上半身がカクカクと前傾する.四肢,顔面筋の表面筋電図には 脳波の棘波に対応するミオクローヌス等は認められない. b 6歳3ヵ月時の覚醒 時脳波(1977年12月1日).後頭優位の4∼5c/s,50∼120μVの不規則な基礎波に爾漫 事2∼3c/s三重を混じ,多焦点性風波あり.2f/sの光刺激で,頭尾上,後半部優位の禰 漫性高振幅棘三姫複合が誘発された. c 9歳6ヵ月時の覚醒時脳波(1981年2月13 日).基礎波は1.5∼4c/s,30∼120μVの徐波で,禰漫性高振幅一三波複合の他,多焦 点性棘波(下線部)を認める. d 13歳1ヵ月時の覚醒時脳波(1984年9月15日). 頻回のミオクローヌスにもかかわらず,脳波上に変化なく,低電位徐波化が著しい. 量 茎 壽a b 図 3 a 5歳9ヵ月時の頭部CT(1977年5月25日置(図1,臨床経過図の②の時点で撮影). 第四脳室を含めた脳室系の拡大を認め,大脳および小脳の萎縮がある. b 12歳3ヵ月時の頭部CT(1983年11月21日).著しい大脳皮質,白質,小脳,脳幹の 萎縮を認める.
4歳10ヵ月,左頭頂,前頭部の棘波を他院で指摘 されている.5歳1ヵ月,初回入院時の覚醒時脳 波は,中心,頭頂,後頭優位に2∼3c/s,200∼250 μVの高振幅門門が周期的に出現.睡眠時には多 焦点性の棘波が頻発していた.脱力発作時の脳波 (図2a)は2∼3c/sの礪漫性高振幅棘徐波複合群発 であった.6歳3ヵ月時の覚醒時脳波(図2b)は, 覚醒時基礎工が,後頭部優位の4∼5c/s,50∼120 μV不規則波.2∼3c/sの徐波を混じ,多焦点性巴 波あり.1∼3f/sの低頻度光刺激で,中心,頭頂, 後頭部優位の濁漫性高振幅棘徐波複合が誘発され た.9歳6ヵ月時の脳波(図2c)は,覚醒時基礎 波1.5∼4c/s,30∼120μVの徐波で,灘漫性高振幅 二二波複合の他,両側前頭,頭頂,後頭部,右中 心部等の多焦点二二波を認めた.13歳1ヵ月時の 脳波(図2d)は,頻回のミオクローヌスが起こっ ているにもかかわらず,低電位二二のみを示した. 画像診断: 頚動脈血管撮影(CAG);4歳7ヵ月,正常.三 二写(PEG);4歳7ヵ月,中等度の脳萎縮あり. Na99mTc−04脳シンチグラフィー;4歳7ヵ月, 視床近傍に相対的集積増加があるが,絶対的な所 見ではないとされた. 頭部CT;5歳3ヵ月,大脳及び,小脳の萎縮, 5歳9ヵ月時も同様の所見(図3aに示す.図1の ②の時点で撮影).12歳3ヵ月時の頭部CT(図3 b)は,著しい大脳皮質,白質,小脳,脳幹の萎縮 を認めた. 電気生理学的検査: 筋電図(EMG);4歳7ヵ月,正常. 網膜電位図(ERG);5歳2ヵ月,正常.5歳11 ヵ月,b波,律動様小波の二二化.7歳10ヵ月,完 全消失. 視覚誘発電位(VEP);5歳2ヵ月,左半球優位 に振幅の低下あり.5歳10ヵ月,左右とも振幅の 低下が進行. 聴性脳幹反応(ABR),中潜時反応(MLR);5 歳10ヵ月,異常なし. 体性感覚誘発電位(SEP);7歳11ヵ月,左正中 神経電気刺激により右頭頂部より導出したSEP で振幅が正常の8倍に達するgiant SEPを認め た. 末梢運動神経伝導速度(MCV);5歳10ヵ月時, 上下肢とも正常. 死亡時臨床診断: 1)急性呼吸不全 2)気管支喘息を伴った急性気管支肺炎 3)神経性セロイドリポフスチノーシス(幼児 型) 病理学的所見: 1)肉眼的所見 剖検は死後2時間57分で施行された.脳重量445 g.大脳,小脳,脳幹における中枢神経の系統的な 高度の萎縮がみられ,特に前頭葉に著明であった (図4).禰漫性に萎縮した大脳皮質には,散在性 の小軟化巣もみられた.海馬,尾状核は高度萎縮 し,側脳室,第三脳室は拡大していた. 2)組織学的所見 組織学的には,大脳,小脳に高度で,脳幹,脊 髄にも分布する神経細胞の脱落と残存神経細胞の 脂質蓄積を認めた.同域には,著明なグリオーシ スが形成されていた.神経細胞は腫脹し,西洋梨 状を呈し,穎粒状で,核は濃縮偏在していた.こ の蓄積脂質は,HEで黄∼榿, Sudan IIIで燈∼榿 赤,Luxol fast blueで青緑∼紫青, PASでは暗 赤色,唾液で消化されなかった(図5a, b, c, d). 大脳皮質には,第2,3層に海綿状態がみられ, 慢性的循環障害に起因する変化と考えられた. 小脳皮質(図5c)では,穎粒細胞層が消失, 図4 剖検脳外観 高度の脳萎縮を認め,特に前頭部(図の左方)に著し い,
尋詩肇誓鳶ぐ営許罵
轟讐 潔 馬 翻
編 禽
毒口鷺轡難鼠 蜘 Y毒か 威勢蕪 帯、哺厨
晦誓ウノ≠ ノ 壕ボザ 愚 嚥 ∼蓄・瀦 φ紫
難藤藩誰舞毒:欝{考〆
蜜
繁
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㌶ 綿
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憲㍉㌦ボ槽 斐1艮り撚難癖
齢 讐掛 翫や濾響織二f晒 ノ 族壌・継継 贈 ∵等 が ・≧ ウ嘆∵弧 ..ζ∵答寡賦蟹’号 図5 剖検組織光顕所見 神経細胞内に穎粒状物質が充満し,周囲に星状膠細 神経細胞内にリン脂質の蓄積を認め 荒廃した小脳組織.わずかに残存するPurkln]e細胞 副腎髄質神経細胞内にも蓄積物質を認める.鰯撚,
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a 頭頂葉皮質(HE染色,×400) 胞の増殖を認める. b 頭頂葉皮質(Luxol fast blue染色,×400) る, c 小脳皮質(HE染色,×200) 中に蓄積物質を認める(矢印). d 副腎髄質(HE染色,×400)Purkinje細胞は,濁漫性かつ高度に萎縮,脱落し, Bergmannダリア増生を伴っていた.残存する極 めて少数のPurkinje細胞には明瞭な脂質沈着を 認めた.歯状核も荒廃し,ダリア増生が著しかっ た. 脊髄前角の神経細胞にも脂質蓄積を認めたが, 仙髄Onuf核には著変をみなかった. 末梢神経(副腎髄質(図5d),胃腸壁神経叢の神 経細胞)にも脂質沈着を認めた. 上記に基づく続発性病変として全身筋肉の高度 萎縮と散在性変性,著明な脊柱側轡と四肢内攣, 三二下葉の高度の拡張不全と慢性気管支炎を認め た. 肝には,慢性欝血と右葉の2mm径の血管腫が 認められた. 3)電子顕微鏡的所見 電子顕微鏡的検索は,大脳皮質神経細胞,小脳 Purkinje細胞,腹直筋につき検討した. Purkinje 細胞内には,多数のcurvilinear profile(以下CLP と略)を認め,これらは,granular osmiophilic materialと混在していた(図6a).また, CLPよ り頻度は少ないが,丘ngerprint pr面le(以下FPP と略)もgranular osmiophilic materia1と混在し て認められ(図6b),大脳皮質神経細胞についても 同様の所見であった.一方,腹直筋の電顕像では, 筋鞘膜下,筋原線維間に多数のCLPを認め,これ らは不完全な一層の限界膜に包まれていた(図6 c). 考 察 本症例の初発症状は,3歳9ヵ月時の,けいれ ん発作と知的退行であり,引き続いて,著明な失 調を認めた.視力障害は,発症後約1年半,けい れん,ミオクローヌス頻発後1年弱で明らかに なってきた.発作は,全身性強直間代性発作と, 非定型欠神発作と考えられる脱力発作であり,後 者は二二が立位,座位を取れなくなると共に目立 たなくなった.末梢血リンパ球の光顕,電顕的検 索,骨髄細胞所見,あるいは,皮膚,直腸生検組 織の電顕的検索はすべて陰性であり,生前に確定 診断することができなかったが,臨床的には症状, 経過より,5歳9ヵ月時にNCL幼児型と診断,今 図6 電子顕微鏡的所見 a小脳Purkinje細胞(×21,600):curvilinear profileを認める. b小脳Purkinje細胞(×37,500):Fingerprint pro創e(矢印)を認める. c腹直筋(×21,600):筋鞘膜下にcurvilinear profileを認め,不完全な一層の限界膜(矢印)に包ま れている.Mf:myo丘bri1 回剖検にて確定診断となった. 病理所見の特徴としては,極めて高度の脳萎縮 があげられる.NCL幼児型の剖検に関する文献
報告では,一般に脳重量は500∼800g前後であ り4),旧例の著しい脳萎縮(19歳10ヵ月で脳重量 445g)は,長期にわたるけいれんと,慢性呼吸不 全による二次的循環障害の影響が加味されている と考えられた.特に,小脳における神経細胞の脱 落は著しく,病初期の小脳症状と,その後の長い けいれんの病歴に一致するものであった. 他の臓器における脂質蓄積は末梢神経,とりわ け副腎髄質に高度の蓄積が観察できた.旧例にお ける細胞内蓄積物質は,組織化学ならびに電顕的 所見がceroid,1ipofuscinに相当する.中枢神経系 に広汎に分布し,しかも大脳皮質,脳幹,小脳に 強調されている点は,これまでの報告例に合致し ていた. 旧例の剖検組織電顕像は,大脳小脳皮質神経 細胞内ではCLPを主体とし, FPP, granular matrixを含んだ1ipopigmentを認めた.一方,腹 直筋では筋鞘膜下,筋原線維二等に多数のCLP を認め,これらは不完全な一層の限界膜に包まれ ていた.当科においてNCL幼児型と診断した別 の症例で,8歳時に施行した生検大腿四頭筋の電 顕所見と,本症例の腹直筋所見(剖検時)を比較 すると,本例ではCLPの分布密度が圧倒的に濃 厚であり,骨格筋内では経過とともに,CLPの蓄 積を来すことが示唆された.骨格筋内にはCLP 以外の形態を示す蓄積物は認められず,おそらく 骨格筋内においては,CLPのみが存在するものと 推定された. 次に,幼児型報告例との対比であるが,Wisni− ewskiら5)の幼児型116・例,若年型163例の臨床経過 を本四と比較すると,表1のごとく,その発症年 齢はそれぞれ2.5±0,2歳,5.4±0.2歳(平均±標 準偏差)であった.またDykenら6)の幼児型15例, 若年型34例についての集計でも,発症年齢はそれ ぞれ,1.0∼3.1歳(2.54±0.71歳),4.0∼9.0歳 (5.93±1.35歳)であり,本症例の発症は幼児型の 平均よりやや遅く,若年型よりは早い.発症がや や遅いこと,および末梢血リンパ球の電顕検索が 陰性であったことを除けば,VEP, ERG反応の早 期喪失,脳波の基礎波の徐冷化,低頻度光刺激で の過敏性,画像診断等の検査所見と初期の臨床症 状は,いずれも幼児型に典型的な経過と思われた. 早期に臨床症状が完成した後,死亡するまでの経 過は,幼児型としては異例に長く,亜型分類上に 問題があるようにも思われる.しかし,本症例で 長期生存が実現した主な理由は,我々の考えでは 疾患の自然経過というより,家族による献身的な 看護の力,並びに理想に近い医療体制にあったと 思われる.本義の亜型分類学的位置について敢え て考察するとすると,Lakeら2)の提唱した早期若 年型(early juvenile form),およびSantavuori ら3)の提唱したvariant of Jansky−Bielschowsky diseaseとの鑑別が問題になりうる. Lakeらの提唱する早期若年型は幼児型より発 表1 幼児型,若年型の症状発現時期と本例の比較(Wisniewskiら5)の表を改変)
Late infantile This case Juvenile
Number of cases 116 1 163 Age at onset 2.5±0,2 3.8 5.4±0.2 Mental deterioration 3.3±0.2 3.8 7.2±0.4 Retinal degeneration 3.6±0.2 5.8* 6.3±0.3 Seizure 4.2±0.5 F3.8 AF 4.4綿 9.1±0.5 Motor abnormality 4.3±0.5 4.4**傘 10.7±0.7 Death 9.1±1.0 19.8 14.5±1.0 (Mean±SD years old) 体症例では,眼振は4歳10ヵ月で,瞳孔異常は5歳1ヵ月で認められたが,明瞭な視力低下は 5歳3ヵ月過ぎである,黄斑変性を指摘されたのは,5歳9ヵ月であった, 綿F:有熱時けいれん.AF:無熱性けいれん. *牌^動症状の出現は,本症例の場合,明瞭なミオクローヌス,失調の始まりの時期とした.
表2 NCL亜型分類と本症例の鑑別(木村7)の表を一部改変)
Late ihfantile @ (Jansky−
aielschowsky)
This case Early juvenile @ Jansky−Variant of
aielschowsky
Juvenile
Age of onset 2∼4yrs 3.8yrs 4∼6yrs 5∼7yrs 5∼8yrs
Early signs seizure 高凾盾モ撃盾獅tS . @ selzure @ mental р?狽?窒奄nratiOn ▼ @selzure 高凾盾モ撃盾獅tS @ ホ visual failure @ mental р?狽?窒奄盾窒≠狽奄盾 visual lOSS
Age of death 4∼10yrs 19.8yrs ?1 ? 12∼25yrs
Lymphocytes @Vacuolation
@EM
(一) bLP (一) 氏DP. (一) ePP零* (一) 氏DP. (十) ePP EM:electron microscopy, CLP l curvilinear pro五1es, FPP:五ngerprint pro丘les. *Lakeら2}の例では,5例中4例が失調,1例のみけいれんで初発している.木村7}の例でも,失調,知 的退行での初発が含まれている。 **kak6ら2)の報告は,直腸生検の電顕像でFPPが特徴的としている. 症,症状の進行ともにやや遅いが,電気生理学的 特徴,末梢血空胞リンパ球を認めないことなどは, 幼児型に類似する.一方,その生検組織の電顕的 検討では,若年型への類似,あるいは,特徴的な 所見が認められるという2)7)8).本例との鑑別点を 表2に示した.Lakeら2)の5例は,いずれも5歳 から6歳にかけて発症し,初発症状は4例で失調, 1例で全身発作,脱力発作である.直腸生検で神経細胞と平滑筋細胞の中にFPPのみを認め,
CLP, granular osmiophilic materialは認めな かったとしている.木村7)が早期若年型と診断し た4例のうち,preclinica1な1例以外は4歳の発 症であり,末梢血リンパ球内のFPP, granular matrixが特異的であるとしている.旧例では,生 前,末梢血リンパ球,皮膚,直腸の生検を施行し たが,いずれもNCLと診断するには至らなかっ た.そのため早期若年型として報告されている ケースと全ての生検組織の特徴を対比させること ができないが,末梢血リンパ球の電顕検索が陰性 であったこと.は,Lakeらの例とは異なり,本症例 に特異なところである. 幼児型あるいは若年型の亜型の報告としては, 他にSantavuoriら3)によるものがある.彼女らに よると,variant of Jansky・Bielschowsky disease は,幼児型より発症が遅く,5∼7歳で発症,視 覚症状が比較的早く出現,進行は遅いという(表 2).リンパ球の空胞変性なく,16例中8例で,リ ンパ球の電顕的検討を行い;8例とも異常を認め ていない.Lakeらの早期若年型に比し,より緩徐 進行性であると主張している.本症例は,3歳9 ヵ月,幼児型の平均よりやや遅く発症し,臨床症 状の出現もやや遅れたが,初期の経過は幼児型と してほぼ典型的なものである.しかし,長期間生 存,末梢血リンパ球に空胞変性及び電顕的異常を 認めず,剖検脳の電顕像ではCLPを主体とし, FPP, granular matrixを認めた. Lakeらの早期若年型とは末梢血リンパ球電顕所見が,
Santavuoriらのいうvariant of Jansky−
Bielschowsky diseaseとは初期の臨床症状が,決 定的に異なる.NCL幼児例で,視力障害で発症 し,筋生検でCLPを証明した報告9)等もあり,視 覚症状の出現時期と,生検組織所見の組み合わせ には種々のものがありうるが,それぞれが真に独 立した亜型であるかどうか,いまだ議論のあると ころと思われる.本例についても亜型分類につい て結論を下すことはできないが,現時点では,幼 児型の非典型例における極めてまれな長期生存例 として報告した. 幼児型の長期生存例に関しては,まとまった報 告はない.先述のSantavuori3)のvariant formの 症例の中に21歳半まで生存した1例が含まれてい る.この例は,1951年出生,5歳の時,知的退行 で発症し,13歳には荒廃状態(もurnt−out stage) となり,21歳半で死亡した.剖検諸臓器と脳に,FPP, CLPを認めたという.3歳9ヵ月,けいれ んと知的退行で発症,7歳で荒廃状態となり,19 歳9ヵ月で死亡した本症例と,類似性を持つもの と思われた. 本症例では,GTCS,ミオクローヌスの頻度は 徐々に減じていったが,11歳で気管切開施行,19 歳で死亡するまで8年間に亘る呼吸管理,鼻腔 チューブおよび中心静脈カテーテルによる栄養管 理など,生命維持のための医療技術が徹底して応 用された.またMRSA保有状態での自.宅看護は, 予防衣,手洗い,消毒等の面で配慮を要した.院 内と同様,自宅看護においても,感染に対する抵 抗力の低下した者との間接的接触の予防を常に考 慮しなけれぽならない.今後同様のケースが増加 すると思われるため,MRSA保有状態での自宅看 護の適切なガイドラインが必要になってくるもの と考える. 末梢血リンパ球,剖検脳組織の電顕検索を行い, 種々御教示くださった,横浜市立大学医学部小児科木 村清次助教授に深謝いたします. 文 献 1)Swick HM:Diseases of gray matter.動 Pediatric Neurology(Swaiman KF ed)pp777 一781,Mosby, St Louis(1989) 2)Lake BD, Cavanagh NPC: Early juven三1e Batten’s disease. A recognizable subgroup dis・ tinct from other fomls of Batten’s disease. J Neurol Sci 36:265−271,1978 3)Santavuori P, Rapola J, Sainio K et al:A variant of Jansky・Bielshowsky disease。 Neur− opediatrics 13:135−141, 1982 4)Zeman W:The neuronal ceroidlipofus. cinosis.1勿Progress in Neuropathology(Zim− merman HM ed)vol 3, pp203−223, Grune& Stratton, New York(1976) 5)W童sniewski KE, Kida E, Patxot OF et al: Variability in the clinical and pathologica1 丘ndings in the neuronal ceroid lipofuscinosis. Am J Med Genet 42:525−532,1992 6)Dyken PR: Reconsideration of the classification of neuronal ceroidlipofuscinoses. Am J Med Genet 5(Suppl):69−84,1988 7)木村清次:Neuronal ceroid−lipofuscinosls. Early juvenile typeの電顕的特徴.脳と発達 20:226−231, 1988 8)Kimura S, Goebel HH:Electron microscopic studies on skin and lymphocytes in early juve. nile neuronal ceroidlipofuscinosis. Brain Dev (Tokyo)9:576−580,1987 9)松尾光弘,松坂哲磨,折原康子ほか:筋生検にて 診断できたneuronal ceroidlipofuscinosisの1 例.脳と発達 22:396−398,1990