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<論文>グローバル・コーポレート・シティズンシップとステークホルダーズ 利用統計を見る

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プとステークホルダーズ

著者

中村 久人

著者別名

Nakamura Hisato

雑誌名

経営論集

51

ページ

123-142

発行年

2000-03-15

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00005570/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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グローバル・コーポレート・シティズンシップとステークホルダーズ

中 村 久 人 はじめに Ⅰ 日系企業の現地化とコーポレート・シティズンシップ Ⅱ コーポレート・シティズンシップからグローバル・コーポレート・シティズンシップへ Ⅲ グローバルに拡大されたステークホルダーズ 結びにかえて――コーポレート・シティズンシップの精神的基盤 はじめに  日本企業の海外直接投資は、いかに現地に進出するか、いかに効率的な生産システムや販売シス テムを現地で構築し、実現するかということも重要ではあるが、他方では現地企業としていかに地 域社会に貢献し、よき企業市民(good corporate citizen)として受け入れてもらうかという重要な課 題がある。この課題は日系企業の現地化にとって究極かつ最大の問題であると思われる。なぜなら ば、外国企業であるその企業が現地で事業を行えるのは、その地域社会に受け入れられてはじめて 可能となるからである。  本稿の目的は、日系企業の現地化に不可欠なコーポレート・シティズンシップについての重要性 を再確認し、まず、従来言われてきた企業の社会的責任や社会的貢献との関係でコーポレート・シ ティズンシップの概念を明確にしたい。次いで、コーポレート・シティズンシップの世界標準と考 えられる「グローバル・コーポレート・シティズンシップ」の概念を検討する。さらに、コーポ レート・シティズンシップとの関係でグローバルに拡大されたステークホルダーズについて具体的 に考察する。最後に、コーポレート・シティズンシップの中心的課題である企業貢献活動の精神的 基盤についても検討したい。 Ⅰ 日系企業の現地化とコーポレート ・シティズンシップ  企業の社会貢献(フィランスロピー)が企業活動の周辺領域から企業の中核領域(競争優位の源 泉)へと移行しつつある。本稿ではこれまで言われてきた企業の社会的責任と社会貢献活動を併せ 持つ概念としてコーポレート・シティズンシップを位置づけたい。  この概念とその実践は日本のグローバル企業にとって国内だけでなく、進出先国での現地化に とって緊密で不可分な関係にあると考えられる。経営の現地化は、言うまでもなくヒト、カネ、モ

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ノ、技術、情報といった、いわゆる経営資源の1つ1つを現地化することである。これまで日本企 業は現地化を進める上で、現地従業員や現地国政府あるいは地域住民との間で摩擦を生じさせてき たが、それは主として雇用関係の問題を中心とした企業の社会貢献活動の不足から派生した問題で あり、大きくはコーポレート・シティズンシップに関する問題であった。  ここではまず、コーポレート・シティズンシップの概念を明確にしておきたい。60年代、70年代 に惹起された企業の社会的責任の問題から80 年代になると、企業の「社会的貢献(活動)」 (corporate philanthropy)が出現する。それは企業の本来の業務とは直接関係のない分野(例えば、 教育、文化、医療、福祉など)でも、公共の目的のため社会に貢献する活動であり、その分野への 企業献金や、経営幹部や従業員の行うボランティア活動などを内容とする。つまり、それは、企業 に課される法的責任や、商品やサービスを効率的に生産・供給することにより消費者、株主、従業 員などの利益を増進させる「経済的責任」を超えて、企業が地域社会や一般社会、場合によっては 国際社会に対しても、自主的、自由裁量的に行う活動である。  また、80年代からこれらの言葉と関連して、「コーポレート・シティズンシップ」の名称が使わ れるようになっている。それは、コーポレート・フィランスロピーの活動内容に加えて、当該企業 内部の採用・訓練・昇進、サプライヤーへの援助・開発、社会事業への投資など、より広い領域を カバーする概念である。社会的責任と社会的貢献の両領域を含むあるいはそれを超えて拡大する概 念である。  以上の、類似概念を整理したのが図1である1)。コーポレート・フィランスロピーは、短期的に は企業の本業と関係ない領域の活動なので、横軸に企業活動(corporate activity:CA)とは対極に置 くことにする。そして、縦軸の一番下には、義務としての消極的責任 (negative responsibility: NR)を、一番上には前向きに責任を果たす積極的責任(positive responsibility:PR)を配置すれば、 4つの社会関連領域からなるマトリックスが描ける。  図1の①は、営利を目的とした企業活動を行う際に、それに伴う義務や最低限の法的責任などが 要求される領域である。たとえば、従業員に対しては、法律による最低賃金の規定を遵守するとか、 国や地方自治体に正しい納税をするなどである。  ②は、企業が地域社会を含む各種利害関係者(stakeholders)から課されるあるいは期待される 基本的な活動の領域である。例えば、「付き合い」で行う地域社会に対する金銭的、物的、人的支 援などである。  ③は、事業活動との関係で、地域社会を含む各種利害関係者が期待する以上のことを行う領域で ある。例えば、株主には積極的な情報の開示を行うとか、地域社会には法定基準以上の環境対策を 実施するとか、従業員に対して積極的な福利厚生の充実を行うとか、身障者を積極的に雇用すると

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かいったことである。

図1 コーポレート・シティズンシップ、企業の社会的貢献、企業の社会的責任の関係

 ④については、典型的なコーポレート・フィランスロピーの領域であり、企業本来の業務と直接 関係のない分野でも、公共の便益のために経営資源を活用する領域である。例えば、地域社会や一 般社会のために教育、文化、福祉の支援活動などを行ったり、国際社会に対しては地球規模の環境

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問題解決に向けて支援活動を行うなどの領域である。  このようなマトリックスを描けば、社会的責任は、①と③の領域であり、社会的貢献は②と④の 領域として把握できよう(図2および図3)。また、コーポレート・シティズンシップは①および ②の領域からなる基本的コーポレート・シティズンシップと③および④の領域からなる戦略的コー ポレート・シティズンシップの双方で構成されるものとして把握できる(図4および図5)。  基本的コーポレート・シティズンシップとは、本来企業としてまた市民として果たすべき、政治 的、経済的、社会的な義務であり、それが企業市民としての基本になっているという意味である。 戦略的コーポレート・シティズンシップとは、上記の本来的義務を超えて、社内の労働条件の改善 や社外の公益増進のためにも自発的・積極的に活動することである。したがって、コーポレート・ シティズンシップには、①、②、③、④のすべてが含まれることになる。つまり、それは社会的責 任と社会的貢献の統合体である。  付言すれば、このような理解に立てば、従来から言われてきた企業活動の営利性とコーポレー ト・フィランスロピーの非営利性のジレンマの問題は、概念的にはコーポレート・フィランスロ ピーからコーポレート・シティズンシップへの展開・拡大過程によって解決されることになろう。 つまり、コーポレート・フィランスロピーはコーポレート・シティズンシップにまで活動を拡張し、 昇華させることによって、営利性とのジレンマは解消されるといえるであろう。 Ⅱ コーポレート・シティズンシップからグローバル・コーポレート・シティズンシップへ  次に、コーポレート・シティズンシップの本質解明のために、1つのモデルを提示したい。今、 社会的責任、社会的貢献、コーポレート・シティズンシップなどが議論の俎上に上るのはどのよう な問題領域か考えてみると、それは、コーポレート・ガバナンス(corporate governance)論の領域、 ステークホルダーズ(stakeholders)論の領域、企業の社会 ・公共活動(social issues や public affairs)の領域である。もちろんこれ以外の理論領域からのアプローチもあり得るが、この3つの 領域を、社会的責任と社会的貢献の統合であるコーポレート・シティズンシップの本質解明にとっ て、必要欠くべからざる重要な基盤と措定することにしよう。別のいい方をすれば、コーポレー ト・シティズンシップの概念は、それら3つの領域の一部を構成しており、かつそれら3つの問題 領域が互いに重複する部分を共有し合う関係になっていると考えられる。  このように考えれば、コーポレート・シティズンシップの固有の領域は、図6のように、コーポ レート・ガバナンス、ステークホルダーズ、企業の社会・公共活動の3つの領域が交わってできた 共通の部分ということになろう。

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図6 コーポレート・シティズンシップの領域を示す概念図  図6のコーポレート・シティズンシップの領域を示す概念図は、基本的には、国内企業であると グローバル企業であるとを問わず適合する概念図であると思われるが、特にグローバル企業のコー ポレート・シティズンシップとして描写すれば、図7のような展開が可能であろう。つまり、コー ポレート・ガバナンスについては、アングロサクソン(英米)系の基準だけでなく、日本やヨー ロッパ諸国における優れた基準も組み込んでグローバル・スタンダードを確立し、これをガイドラ インとしたコーポレート・ガバナンスの実施が緊要である。グローバル ・スタンダードに基づく コーポレート・ガバナンスでは、当然企業の現地受入国社会に対する貢献活動は基準に組み込まれ ている。  また、ステークホルダーズについては、グローバル企業の本国におけるステークホルダーズに加 えて、現地受入国での各子会社ごとのステークホルダーズが加わることになる。例えば、ステーク ホルダーズとしての受入国政府は、雇用の創造をはじめとして、自国の社会的厚生水準の向上を企 業に期待することになるが、それはとりも直さず、グローバル企業のコーポレート・シティズン シップに関わる領域である。  次に、企業の社会・公共活動についても、本国の社会・公共問題に関わる活動だけでなく、現地 受入国での問題(例えば、米国では教育、貧困、麻薬が社会の三大社会問題)にも前向きに対処す ることが要請されている。グローバル企業の権力の増大とともに、この領域におけるグローバルな コーポレート・シティズンシップへの期待の質と量とは共に高まりしつつある。 コーポレート・ シティズンシップ ステークホルダーズ     企業の 社会・公共活動 コーポレート・ ガバナンス

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図7 グローバル企業のコーポレート・シティズンシップの概念図   さらに、各領域区分を明確にするために、コーポレート・シティズンシップと上記3つのそれ ぞれの基盤領域以外に3つの領域の内2つの領域が交わる部分についても図8のように番号別に区 分してみる。   コーポレート・ガバナンスの領域(①)では、適法性や社会的責任以前の問題として、正しい 「企業倫理」が中核に位置づけられている必要があり、それはコーポレート・シティズンシップ (⑦)の拠って立つ基盤でもある。さらに、コーポレート・ガバナンスとステークホルダーズとの 重複領域( ④ ) で は 、 例 え ば 、 株 主 総 会 の 運 営 、 株 主 へ の 積 極 的 な 情 報 開 示 と し て の I R (investers relation)、株主代表訴訟、ストックオプション制、従業員持ち株制、従業員に対する作 業環境の改善、などを挙げることができる。  また、企業の社会・公共活動(③)は、環境、雇用、人権、貧困、教育、福祉などの改善に関す る活動を内容としているが、これとステークホルダーズとの重複領域(⑤)には、例えば、企業に よる環境アセスメント、政府関係活動、消費者運動・社会のリーダーやアクティビストへの対応な どがある。   最後に、企業の社会・公共活動とコーポレート・ガバナンスの重複領域(⑥)については、例 えば、コンプライアンスの問題がある。企業経営の適法性を確保し、違法行為の発生を防止するた めの体制の整備である。コーポレート・ガバナンスには、効率性と適法性の2つの側面が要請され るが、後者の確保のためにもコンプライアンスの充実が必要である。そのためには、外部取締役の 拡充や場合によっては米国企業に例をみるような公共取締役(public interest director: PID)制度の 導入も効果的と思われる。 グローバルに拡大された ステークホルダーズ グローバル・コーポレ ート・シティズンシップ グローバル企 業の社会・公 共活動 グローバル・ スタンダードに 基づくコーポレ ート・ガバナンス

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図8 コーポレート・シティズンシップ・モデル  さらに図7、図8をもとに、グローバル企業のコーポレート・シティズンシップ・モデル(図9、 グローバル・コーポレート・シティズンシップ・モデル)の各領域は以下のように区分できよう。   このモデルにおいては、④の領域として、例えば、外国人株主や米国カルパースのような外国 機関投資家に対しても、ステークホルダーズの一員として企業は適切な対応が必要になる。グロー バル・スタンダードに基づくコーポレート・ガバナンスを実施できなければ、株主から見離なされ てしまうからである。コーポレート・ガバナンスのグローバル・スタンダードとしては、99年5月、 OECD の閣僚委員会に提出された「コーポレート・ガバナンスの原則」(OECD Principles of Corporate Governance)は、株主の権利、ステークホルダーズの役割、情報の開示と透明性、取締 役会の責任等について、公正・中立の立場で、グローバルな観点から検討されている。  ⑤の領域では、例えば、現地の人権擁護団体や活動家、さらには環境保護団体の活動家(例えば、 グリーン・ピース)との交渉といったものが含まれよう。また、⑥の領域では、例えば、世界的環 境問題への対応や実践からグローバル企業自体の行動規範(例えば、OECDによる多国籍企業の 行動規範)の検討などが挙げられる。 ステークホルダーズ コーポレート・シティズ ンシップ コーポレート・ ガバナンス 企業の 社会・公共活動 ② ④ ⑤ ① ⑦ ⑥ ③

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図9 グローバル・コーポレート・シティズンシップ・モデル  企業のコーポレート・シティズンシップのあり方からすれば、グローバル企業は世界のどの国に 進出しても、母国市場に対するものと同等(平等)の市民度を発揮するべきであろう。例えば、環 境問題への対応や消費者への情報の開示にしても、その企業が母国市場で行っているのと遜色ない 活動を行うべきであり、進出先国ごとに質の高低を違えるようなことは許されないであろう。否む しろ、深刻な社会問題を抱える発展途上国においてこそ、より高い企業市民度を発揮するべきでは ないかと考えられる。 Ⅲ グローバルに拡大されたステークホルダーズ  前節で述べた「グローバルに拡大されたステークホルダーズ」については、どのような理論的考 察が可能か、またどのような対象から成っているのか、グローバル企業は現地でそれらに具体的に コーポレート・シティズンとしてどのような貢献をすることが期待されているのであろうか、ここ ではこれらについて検討したい。  ① ステークホルダー理論  資本主義経済における現代的企業の特徴は、「所有と経営の分離」が行われていることである。 つまり、それは企業規模の拡大や高度な技術の開発のために必要とされる株式資本の増大により所 有が分散し、さらにそれによって生ずる専門経営者による経営者支配(management control)が行 われる結果として生じたものである(Berle=Means(1932)2), Burnham(1941)3)   現代的企業の特質は、出資者の所有物たる利益追求機関としての性格から脱却し、出資者以外 の多くのステークホルダーズとも利害関係を有する社会的機関としての性格を有するという点であ グローバルに拡大され たステークホルダーズ グローバル・コーポレート ・シティズンシップ グローバル・ スタンダードに 基づくコーポレ ート・ガバナンス グローバル企業の 社会・公共活動 ② ④ ⑤ ① ⑦ ⑥ ③

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る。また、それは、一個の主体性、自主性を持った社会的制度でもあるから、現代的企業は制度的 企業としての性格を有することになる。  企業を取り巻くステークホルダーズとしては、多くの論者がさまざまなものを挙げているが、一 般的には、以下のものが挙げられよう。従業員、株主、労働組合、顧客、消費者団体、供給企業 (納入業者)、関連企業、競争企業、地域社会(住民)、金融機関、政府、地方自治体、公益団体、 慈善組織、メディア関係、文化団体などである。  多国籍企業の場合は、現地受入国によっても異なるが、これらに加えて、マイノリティ・グルー プ、女性団体、教会組織、宗教団体、環境保護団体、などが重要なステークホルダーズとして挙げ られよう。

 Grosse, R & Kujawa, D(1988)によれば4)

、国際ビジネスにおける多国籍企業とステークホル ダーズの関係を下図のように示している(図10)。ステークホルダーズの例を本国と受入国に分け て示しており、株主と、銀行については両国にまたがって描かれているが、もちろんそうでない場 合や一方だけにしか存在しない場合もあり得るのであり一例を示しているに過ぎない。受入国に よっては、アクティビストやテロリストが重要なステークホルダーズになる場合もあり得る。また、 日本では周知のように特別株主である総会屋がステークホルダーズの一員に数えらる場合もありえ よう。   企業による権力の行使はこれら企業を取り巻くステークホルダーズによって容認されるもので な け れ ば な ら な い 。Davis &Blomstrom (1975 )に よ れ ば5 )、 企 業 の 権 力 の 行 使 に は 正 当 性 (legitimacy)が必要であり、ステークホルダーズに受容されるためには企業の権力に照応した責 任を果たすことが期待されるのであり、彼らはそれを企業の権力・責任均衡の原則 (the power-responsibility equation principle)と呼んでいる。企業がステークホルダーズの期待に応えて社会的 責任を果たすとき、彼らは企業への投下資源を質と量において一段と充実させるか、あるいは、企 業に友好的な世論を形成することで、企業の存続と成長に寄与することになる。以上のように、企 業は権力の行使について正当性を獲得することが必要なるがゆえに、ここに企業の社会的責任さら にはコーポレート・シティズンシップとの関係が不可分のものとして出現することとなる。   特に、多国籍企業の場合、その権力、つまり経済的影響力は絶大であり、巨大企業の売上高は 中進国のGDPをも凌駕する金額になっている。例えば、GMの総売上高は現在でもタイ、マレー シア、フィンランド、ポルトガルなどのGDP額を上回っている。また、多国籍企業の巨大な経済 力のために、その政治的、社会的、さらには文化的影響力も受入国にとって重大な関心事とならざ るを得ないであろう。

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図10 国際ビジネスにおける多国籍企業とステークホルダーズ 本国      受入国 株 主 政 府           政 府 地域社会          地域社会 供給企業           供給企業 関連企業          多国籍企業          関連企業 顧 客         顧 客 従業員        従業員 競争企業          競争企業 銀 行

出所:Grosse, R. & Kujawa, D.(1988), International Business: Theory and Managerial Applications, p.23に筆者 が加筆

 ところで、 ステークホルダーという言葉は1950年代頃から使われるようになったが、1963年に は、Stanford Research Institute によってステークホルダーの定義がなされている。それによれば、 「ステークホルダーズとは、企業を存続・維持するために不可欠な支持者集団であり、株主、従業 員、サプライヤー、貸出先、地域社会がこれに含まれる」としている。  また、Ansoff(1965)は企業の目的との関係で、ステークホルダーという言葉を援用している 6)。そして、いろいろなステークホルダーズのニーズや利益の衝突をいかに調整し、バランスさせ るかという経営者の能力を重視している。  Freeman, R. E.(1984)も、企業目的の達成に影響する個人ないし集団をステークホルダーズと 呼んでいる7)。具体的には、株主、従業員、顧客、サプライヤー、公益団体、政府機関などを挙げ ている。彼は、「経営計画と経営政策モデル」および「ステークホルダー・マネジメントの社会的

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責任モデル」という2つのモデルによって、ステークホルダーの概念を説明している。前者では、 企業が戦略を決定する際に配慮すべきステークホルダーズの承認・評価に重点がおかれ、後者では 敵対的利害関係者をも含めたより広い範囲のステークホルダーズの管理と社会的責任との関係を考 察している8)。要は、企業の戦略的目的を達成するためには、社会的責任を十分に果たし、ステー クホルダーズの要求を満足させることの重要性が強調されている。  Ullmann(1985)もステークホルダーズの理論的枠組みの構築、企業の社会的責任の概念モデル の開発を行っている9 )。彼は企業の社会的責任を戦略的意思決定に組み込むこと、また、それに よって企業は事業活動を行うことの正当性を確保できると述べている。  このように、企業経営者とステークホルダーズとの間で企業の果たす社会的責任について十分な 共通認識があることが望ましいが、実際には多くの論者が指摘するように、経営者とステークホル ダーズ間に利害対立が存在するのである。Sturdivant(1979)によれば、両者の間では常に利害衝 突が発生するという仮設が提起されている10)。彼は、活動家集団のリーダーと企業経営者の社会的 責任に対する態度や考え方についての観察を行い、両者では大きな認識ギャップがあることを検証 している。特に、活動家リーダーは、企業が社会問題に関する責任を果たすべきであると強く感じ ているのに対して、企業経営者は事業活動の達成との範囲内においてのみステークホルダーズの利 益、従って社会的責任を考える傾向が強いことを指摘している。  しかしながら、Chakravarthy(1986)は、戦略的な事業の達成には、伝統的な利潤獲得のみを指 標とするよりもステークホルダーズの満足度を指標とすべきことを主張しており、彼の考え方は 「フォーチュン」誌による「ステークホルダーの満足度が企業名声に与える影響」に関する調査結 果とも一致しており、彼の主張が裏付けられる結果となっている11)。これらのステークホルダーズ 理論に共通する概念は、企業活動の目的は株主のためだけに極大利潤を追求するのではなく、その 企業に関わるすべてのステークホルダーズの最大利益を実現することにあるのである。  以下、本稿では、主要なステークホルダーとして、株主と銀行、受入国政府、供給企業を多国籍 企業のコーポレート・シティズンシップを念頭に置いてみていこう。  ②多国籍企業の株主および銀行  既述のように、ステークホルダーズの最大利益の実現ということは、企業が株主だけでなくその 他多数の受託者に対しても責任を果たすべきであるということである。この点は先のコーポレート ガバナンスとも密接な関係を有する領域であるが、米国でステークホルダーズ論が出現したのは株 主の力が他のステークホルダーに抜きんでて強力であるからであろう。米国ではそれまで、企業ま たは経営者と株主との関係はエージェンシー理論に立つ考え方が支配的であった。そこでは株主が プリンシパル、経営者はエージェントであり、株主の利益が他のいかなるステークホルダーズより

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も優先されたのである。具体的には、株主に対する株価上昇に伴うキャピタルゲインと高い配当率 の実現である。  従って、米国ではステークホルダーズ理論による多数受託者の観点に立てば、経営者は意思決定 においてステークホルダーズ間の中立性を堅持しなければならないことになるが、この中立性は、 プリンシパルの最大利益を志向するエージェントとしての経営者にとっては、「倫理的」ジレンマ を発生させる可能性があるといえよう。  しかしながら、日本企業の場合、むしろ反対であって、今日株主の法的権利の強化や情報開示に 対する企業の法的責任の一層の拡大が要請されているのである。例えば、日本企業における、株式 相互持ち合いは、投資家にとって株式の投資魅力を低下させる典型的な慣行といえよう。また、投 資家向けの広報活動としての investers relation(IR)の拡大が強く要請されているのが現状である。 従って、日本ではむしろ株主権の強化を必要としており、米国でのステークホルダー論の主張はこ の部分については相容れないものがあると考えられる。  ところで、株主は「一般株主」と「機関株主」に大別することができよう。前者は短期的に配当 と株価の値上がり(キャピタルゲイン)のみを期待しているが、後者については、長期持続的な キャピタルゲインを期待しており、またその内の特に大株主は持ち株を通じて当該企業を支配でき る立場にあるという意味で「支配株主」と呼ばれる場合もある。  アメリカ法律協会の『会社運営 ・統治機構の諸原理 −分析と勧告−』でも、「支配株主」 (controlling stockholder)という用語が使われており、コーポレート・ガバナンスの観点から、支 配株主が被支配企業と取り引きする際、公正取引義務を遵守しなければならないという制限条件を 設定している12)。それは、支配株主が、取締役や経営者と同様に会社に関する特別な情報を得たり、 特別に影響を与え得る地位にあるので、一般株主とは区別して特別な制限を課し、株主を平等に扱 うという趣旨からである。  それでは、機関株主とは具体的にどのような機関であろうか。一般的には、日本では信託銀行の 信託部、保険会社、年金基金などを機関株主(機関投資家)と呼んでいる。政府系銀行、都市銀行、 地方銀行などの銀行は含まれない13)  保険会社や年金基金などの機関株主は、生命保険や損害保険の加入者、年金の委託者に代わって 資金を運用し、利益を向上させることを目的としている。しかし、元本割れを起こしたり、運用成 果が悪かった場合、そのリスクは保険の加入者や年金の委託者が負うことになる。  これに対して、銀行は預金者からのカネを預かり運用し、その純益や手数料収入の拡大を目的と する。リスクは銀行自身が負う。しかし、銀行が高い運用成果を上げても、預金者には元本と確定 利子しか支払われない。機関株主は、顧客を常に意識しており、投資先企業の株価や配当を重視し

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ている。銀行の場合は、顧客よりも自行の方針に従って預金を運用しているのであり、運用成果よ りも投資先企業との取引を重視しているといえる。  また、機関株主の投資先企業に対する関わり方は消極的、間接的である。運用成果が悪ければ、 株式を売却して他の運用手段を考えればよいのであり、経営者を派遣したり、経営再建のための出 資を行うようなことはしない。これに対して、銀行の関わり方は、積極的、直接的である。いろい ろ注文を出したり、場合によっては経営者を送り込んだり、融資も行う。  株式投資の運用については、機関株主は一般的に短期的、分散的、流動的であるのに対して、銀 行のそれは長期的、集中的、固定的である。このことは、機関株主はコーポレート・ガバナンス (統治)には積極的だが、企業支配には消極的だということである。すなわち、機関株主の統治と は、株式を所有して、経営成果の配分には強い要求をするが、経営内容には必ずしも深く立ち入ら ない。これに対し、銀行の支配とは、株式を所有して、自らもしくは代理人が経営を行い、その経 営成果のかなりの部分を占有しようとするものである。戦前の財閥はその典型であったが、今日で も系列融資を中心としたメインバンクについては該当する部分があるといえよう。  従って、機関株主は統治すれど支配せずである14)。つまり、コーポレート・ガバナンスは機関株 主の問題であり、銀行の問題ではない。  さて、以上で対象が明らかになった株主に対して、企業はコーポレート・シティズンとして、ど のような貢献をすべきであろうか。  まず、ROIやROEの向上をはかり、高配当と株価の値上がりを実現することが基本的責任で あろう。これと同時に、IR活動など企業情報の積極的開示を行うことも重要である。さらに、株 式の証券市場における十分な流動性を確保し、株式の投資魅力を増強させる、などを挙げることが できよう。  しかし、ここで問題となるのは、企業ないし経営者と株主の間には、時として利害対立が存在し うるということである。それは、株主はその投資に対して最大可能な利益(収益性)を期待するの に対して、経営者はむしろ企業の維持・成長(安定性)を重視するのであり、また従業員の福利厚 生等、他のステークホルダーズとの利害のバランスも配慮しなければならないからである。  周知のように、近年のアメリカでは、いくつかの社会問題(少数民族や女性の雇用・訓練・昇進、 大学等への献金や政治献金の会社資金からの拠出、および人権抑圧的な国家での事業遂行など)へ の対応にも、株主と経営者がしばしば対立するに至っている15)。日系企業においても、これらの問 題にいかに対応し、株主の合意を得るかは多国籍企業の今日的課題である。  最後に、海外で事業を行う日系企業では現地の株式市場に上場しているのはごく少数の企業に限 られている。非上場の日系企業にとっての株主はまさに親企業であり、厳密に言えば親企業の出資

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形態(完全所有、対等所有、少数所有等)によって、子会社のステークホルダーとしての親会社へ の関わり方も変わってくる。しかし、この問題はむしろ親子会社間の所有政策の問題になるのでこ こでは割愛することにする。  ③多国籍企業と受入国政府  この両者の関係は、共存できる部分と敵対的関係となる部分からなるといえよう。ここでは Dunning(1993)の折衷理論を参考にして考察したい16)。折衷理論によれば、多国籍企業は、企業 のもつ優位性(所有特殊的優位、ownership advantages)と投資受入国がもつ優位性(立地特殊的優 位、location advantages)、そして企業活動を内部化する優位性(internalization advantages)の3つの 優位性をリンクさせ、それぞれの要素を効率的に利用することによって、ベネフィットを獲得する ことができる最適の位置にあり、このことにこそ多国籍企業の存在理由を求めるのである。3つの 優位性の頭文字をとってOLI理論ともいっている。  企業特殊的優位とは、人的資源管理能力、財務能力、技術や情報などの他、製品開発能力、マー ケティング能力、イノベーション能力なども含む。立地特殊的優位には、その国の政府による様々 な経済政策やその国の市場特性、経営資源の賦存状況、インフラの整備状況などがある。内部化す る優位とは、企業の組織効率や企業支配による独占力の行使に関する能力の向上である。具体的に は、事業上の調査・交渉コストの回避、経営資源の供給や販売条件のコントロールなどが容易にな ることである。  図11に示すように、多国籍企業と受入国政府との関係は、そのような優位性を持つ両者の交渉に よって決定される。その際、両者はそれぞれの目的を達成するために交渉するのである。多国籍企 業の目的は、経済的ベネフィットの最大化であり、受入国政府の目的は、広い意味での国益であり、 それは国の経済的パフォーマンスの改善、自国産業の競争力の強化、社会的厚生水準の向上などで ある。  この点、多国籍企業により実施されるコーポレート・シティスンシップは受入国の国益である社 会的厚生水準の向上にとって重要なインセンティブであり、それは多国籍企業の所有特殊的優位の 一要素として、交渉時の企業戦略に組み込まれるべき重要な要素である。  このように、所有特殊的優位とその制約要因をもつ多国籍企業は、その目標を達成するために、 環境要因を織り込んだ経営戦略を駆使することにより、受入国政府側の政策と対峙することになる。 両者の目標は、当然両立するものとそうでないものがある。例えば、多国籍企業にとっての新規工 場の設営は、受入国にとっては産業政策の促進や雇用の創造につながるものであろう。しかし、そ の一方で、政府による環境基準の達成や社会的福利厚生水準の達成目標は、多国籍企業にとって収 益の低下や追加コストの増大につながる場合もあり得る。

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 受入国政府の政策と行動が多国籍企業にとって不利なものと知覚されれば、両者の関係はそれだ け対立的なものになるが、反対に、両者が互いに背反しない目標に対し付与する優先順位が高けれ ば高いほど、その関係は協調的になるといえよう。  一般的には、多国籍企業のもつ所有特殊的優位が大きければ大きいほど、受入国政府に対する交 渉力は大きくなり、政府からベネフィットを引き出す力は強くなる。同様に、受入国政府の立地特 殊的優位が大きければ大きいほど、多国籍企業に対する交渉力は高まり、政府が多国籍企業からベ ネフィットを引き出す力は強化されることになる。  このように、両者がもつ優位性の性質や水準、戦略と政策の内容、さらには世界経済の環境変化 の要因によって、両者の交渉能力および行動パターンは決定されることになる。 図11 多国籍企業と受入国政府の関係

(出所)Lecraw and Morrison(1991)を参考に作成

多国籍企業 受入国政府 戦 略 交 渉 政 策 所有特殊的優位 および制約要因 ・製品開発能力 ・マーケティング能力 ・イノベーション能力 ・人的資源管理能力 ・財務能力 ・リスク管理能力         など 目 標 ・経済的ベネフィット  の最大化   など 立地特殊的優位 および制約要因 ・経営資源の賦存状況 ・諸経済政策 ・市場の状況 ・インフラストラクチャー  の整備状況    など 目 標 ・国の経済パフォーマンス  の改善 ・自国産業の競争力強化 ・社会的厚生水準の向上          など 価値創造 成 果 成果に対する評価 成果に対する評価 戦略の見直し 政策の見直し 環境要因

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 ④多国籍企業と下請・供給企業  日本企業の場合、特に自動車、電気・電子に代表される組立産業では、完成品親メーカーと部品 下請メーカーとの間には垂直的な重層構造が形成されている。  こうした重層構造は、欧米には見られない特徴であり、例えば、自動車業界に限定してそれを要 約的に示せば次のようになる17)  まず、部品生産形態の特徴として、  ア)メーカーによる内製比率は欧米よりかなり低く、30%前後である  イ)発注部品のユニット化、集約化、システム化が進んでいる  ウ)日本の自動車部品供給企業は、受注先を自動車産業に特化し、しかも取引先を1つの親会社 に依存する場合が多い  エ)日本では、第1次部品企業等が承認図方式により部品の製造を行う(欧米では貸与図方式)  オ)日本では、親メーカーと部品供給企業間でデザイン・インなどの共同開発が行われている (欧米では両者の共同開発は一般的ではない)  さらに、取引形態の特徴として、  ア)日本では、親メーカーと部品供給企業との取引は長期継続的であることが多い  イ)親メーカーからの注文に、極めて柔軟に対応し、価格設定も固定的ではない  ウ)親メーカーが部品供給企業に技術指導や生産管理上の指導を行い、情報交換も綿密に行って いる  以上のような重層構造は、日本企業の生産管理上の優位性と考えられる全社的品質管理(TQ C)やジャスト・イン・タイム(JIT)と深く関わっており、それらの優位性を実現するための 前提条件と考えられてきた。  こうした重層関係は、これまで系列と呼ばれ、米国からは、それは支配・従属関係と排他的性格 を有する集団として、また対日進出の非関税障壁としても、非難されてきた。しかし、この重層関 係を対象とした最近のいくつかの研究では、親会社(中核企業)は経済循環のリスクを吸収しながら、 供給企業がフレキシブルな生産能力、適応能力を高めることに協力し、両者の間には補完関係が生 み出されており、供給企業間においても厳しい競争関係が存在することが明らかにされている18)  また、現実に、例えば、トヨタは米国工場のNUMMIおよびTMMにおいてそれぞれのサプラ イヤー組織(協力会)としてGAMAおよびBAMAを有しているが、そのメンバー企業には日本 からの傘下企業(合弁企業も含めて)よりも地元米国企業が多く会員になっており、グループ企業 ではあっても支配・従属関係や排他的性格は認められない。  さらに、最近では、トヨタに限らず、自動車組立メーカーは、むしろ系列を中心とした調達から、

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「世界最適地生産」へと大きく変化しており、またそうしなければ生き残れないのが現状であると いえよう。  さて、以上のような特徴を有する日本のグローバル製造企業は、現地の供給企業に対して、どの ような貢献をしているのか、またすることができるのか、を考察してみれば、以下のような項目を 挙げることができよう。   1 供給企業と長期継続的・安定的取引を行う   2 技術供給や合弁会社の設営等により技術移転を行う   3 技術援助に留まらず資金援助も行う   4 現地調達比率を増大させる(現地供給企業の優遇)   5 世界最適地調達によるオープンな取引を行う   6 取引企業との人材交流(技術者の派遣および受入など)  以上、グローバルに拡大されたステークホルダーズとコーポレート・シティズンシップを中心に 述べてきた。さらに、従業員、地域社会などの重要なステークホルダーズとの関係も検討される必 要があるが、次稿に譲りたい。 結びにかえて――コーポレート・シティズンシップの精神的基盤  コーポレート・シティズンとして、企業は数々の社会貢献活動を行っているが、本業と関連のな い領域での社会貢献を大別すれば、企業献金とボランティア活動に分けられる。  企業献金については、献金する意思があるのかないのかで決まり、意思がなければそれまでであ るともいえる。また、現実に企業の創成期や資金難の時に献金をするのは困難であるかも知れない。 ボランティア活動については、資金がなくても企業規模が小さくてもやる気があれば可能である。 企業がフィランスロピーとしてボランティア活動を行う場合でも、具体的にそれを実行するのは従 業員個人である。  そこで、こうした企業ボランティア活動を行う個人が依拠している精神的基盤あるいは心理的構 造について検討することが重要であると思われる。  ① 自己実現(self-actualization)欲求  人はなぜボランティア活動をするのか。どのような人間の欲求が人をボランティア活動に駆り立 てるのか。この問題を考えるとき、頭に浮かぶのは行動科学者マズロー(A.H. Maslow)の欲求5 段階説である。  周知のように、それは人間を行動に駆り立てる欲求の序列であり、低次の欲求から次第に高次の

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欲求へと向かうのであり、順に、①生理的欲求、②安全の欲求、③社会的欲求、④自尊の欲求、⑤ 自己実現の欲求、である。  一度ある段階の欲求が達成されると、それはもはや人間を行動に駆り立てなくなり(動機づけら れなくなり)、次の高次の欲求へと向かう。①∼③までの欲求は、他から与えられることによって 欲求が充足されるために「欠乏欲求」といい、④と⑤の欲求は、充足してもさらに上を希求すると いう特徴があり、「成長欲求」と呼ばれる。  このような5段階の人間の欲求との関係でボランティア活動を行おうとする精神的基盤は、人間 の成長欲求と強く結びついていると考えられる。成長欲求のうち、「自尊の欲求」は、「自我欲求」 ともいわれ、達成、自律を求める一方で、他人から認められたい、尊敬されたいと願う欲求であり、 「自己実現の欲求」は、自己の潜在的可能性を最大限に実現したい、創造的なことをしたいという 欲求である。ボランティア活動の精神的基盤はとりわけ、この内でも人間の最高次の欲求とされる 「自己実現の欲求」との結びつきがより強固であるといえるであろう。  しかし、自己実現でもまだ自己中心、自己本位であり、ボランティア活動の精神は、それらをも 超えたものとして把握される必要があるかもしれない。  ②利他主義(altruism)  人間の本当の満足、真の満足は、自己実現欲求が達せられても、100%満足させられるものでは ない。ケニー(J.A. Kenny)の「自己実現を超えて」の理論は、マズローの理論を超えているとい える19)  彼の考えでは、人間は自己実現から「相互実現」へと進み、最終的に100%の満足を達成するた めには、「自己献身」にまで高められなければならない。「相互実現」は、2人の個人がお互いに豊 かになり、そうすることで個人としても2人の人間としても成長する過程のことである(具体例と しては、結婚などに見いだされる)。  しかし、それでも最終目標ではなく、最終目標は「自己献身」である。まさに、この段階で自己 は自己を超越することを学ぶのである。ある者はそれを「完全なる愛」と呼び、またある者はそれ を「利他主義」と呼ぶ、といっている。彼は、この最終段階に到達した人として、イエス・キリス トの十二使徒や、より実在の人物としてはマハトマ・ガンジーやマーチン・ルーサー・キングなど を挙げている。  ボランティア活動の精神的中核は奉仕である。それは利己ではなく利他の価値観によるものであ る。利他主義は、自らの利得を、極端な場合は犠牲にしてでも、他人のために役立とうとする心情 であり、またその行為に至る過程を支える心性である。そのような心情こそが、この社会を前向き に支えているという意味で「向社会的」(prosocial)ということもある20)

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 ところで、利他主義は国民文化によって、その認識と実践の程度が異なるのではなかろうか。国 民文化は大別して個人主義の強い文化と集団主義の強い文化に分けられる。個人主義文化の中では、 個人が認識し、実践する利他主義は、自分の属する組織(例えば、企業、官庁、学校など)を超え て地域社会、一般社会、場合によっては国際社会に対しても、自主的に他人や他組織のために貢献 する心情である。しかし、集団主義文化の中では、悪くすると自分あるいは自分の組織や国を超え て、公共の目的のために不特定多数の人々や組織に自主的に貢献するといった発想は出てきにくい ように思われる。  集団主義の文化では、内の者には誠実に対応し貢献するが、外の者に対しては冷淡で利己的にな る傾向がある。極端な例ではあるが、集団主義文化の強いインドで、外国の飛行機がある部落の近 くに墜落したとき、村民は上空から降ってきた金めのものを我先にと奪い合い、遺体の収容作業に はほとんど協力しなかったと報告されている。  もっとも、利他主義だけがボランティアの動機づけになるのか、また、利己を超えた純粋な利他 主義があり得るのかといった疑問も当然生じることになろう。前者については、既述の「自己実現 欲求」の達成も、より高次の欲求に向けての一つの動機づけとして位置づけることが可能であり、 特に活動の周辺部を担当するボランティアにおいてはそれだけで十分な精神的基盤になり得るもの と考えられる。  後者については、世の中には生まれつき利他主義のパーソナリティーを持ち合わせた人がいると いうより、むしろ人生経験や学習を通じて修得していく精神構造として理解する方が自然であるか も知れない。また、利得の考え方を全部否定してしまうことも問題である。ボランティアの中には、 営利組織と比べると低額であるにしても、給与や賃金をもらって非営利組織のスタッフとしてボラ ンティア活動をしている人もいる。  以上のような問題点はあるにせよ、企業ボランティア活動に実際に従事する従業員が、個人とし て人間として最終的に依拠する精神(心性)の基盤は、「自己実現欲求」を超えた「利他主義」で ある、ということができよう。  注および参考文献 1 稲別正晴編著『ホンダの米国現地経営』文眞堂、1998年、188-192ページ。

2 Clea Berle, A.A. and G.C. Means, The Modern Corporation and Private Property, New York: Commerce Cleaning House, 1932(北島忠男訳『近代株式会社と私有財産』文雅堂、1958年)

3 Burnahm, J., Managerial Revolution, 1941(長崎惣之助訳『経営者革命論』東洋経済新報社、1952年) 4 Grosse, R. & Kujawa, D., International Business: Theory and Managerial Applications, Homewood, IL: Richard D.

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5 Davis, K. and R.L. Blomstom, Business and Society: Environment and Responsibility, 3rd ed., McGraw-Hill Kogakusha, 1975.

6 Ansoff, H.I., Corporate Strategy, McGraw-Hill, New York, 1965 (広田寿亮訳『企業戦略論』産能短大出版部、 1969年)

7 Freeman, R.E., Strategic Management: A Stakeholder Approach, Pitman, 1984. 8 李正文著『多国籍企業と社会貢献活動』文眞堂、1998年、237-240ページ。

9 Ullmann, A. , Data in Search of a Theory: A Critical Examination of the Relationship among Social Performance, Social Disclosure, and Economic Performance, Academy of Management Review, 1985.

10 Sturdivant, F., Executive and Activists: Test of Stakeholder Management, California Management Review, 1979, Fall, pp.53-59.

11 Chakravarthy, B., Measuring Strategic Performance, Strategic Management Journal, 1986, pp.437-458. 12 高橋俊夫編著『コーポレート・ガバナンス』中央経済社、1995年、145-167ページ(高橋由明稿分)。 13 坂本恒夫・佐久間信夫編、企業集団研究会著『企業集団支配とコーポレート・ガバナンス』文眞堂、1998

年、119-122ページ。

14 坂本恒夫、佐久間信夫編、企業集団研究会著、前掲書、119-122ページ。 15 櫻井克彦著『現代の企業と社会』千倉書房、1991年、101ページ。

16 Dunning, John H., Multinational Enterprise and the Global Economy, Addison Wesley,1993. 17 高橋俊夫編著、前掲書。

18 浅沼萬里著『日本の企業組織 革新的適応のメカニズム』東洋経済出版社、1997年。

19 Anderson, Jr, Jerry W., Corporate Social Responsibility: Guideline for Top Management, Quorum Books, 1989(百 瀬恵夫監訳、伊佐淳・森下正訳『企業の社会的責任』白桃書房、1994年、126-128ページ)

20 田尾雅夫著『ボランタリー組織の経営管理』有斐閣、1999年、36-43ページ。

参照

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