高出力半導体発光素子による植物栽培の研究(III)
著者
岡井 善四郎
雑誌名
技術報告集
巻
8 (2002年度)
ページ
61-66
発行年
2003-04
URL
http://hdl.handle.net/10098/7492
高出力半導体発光素子による植物栽培の研究 (ill)
第三技術室システム制御技術班 岡井善四郎 1.はじめに 昨年度の研修では、半導体発光素子を栽培用光源として用い、まだ栽培報告がなされていない果 菜類(トマト)の栽培を試みた 1)。結果は花芽、着果とも順調に行われたが、茎の太さ、果実の大 きさ、食味の点で露地物と太陽光照射による水耕栽培と比べて劣った。これは第一に光量の差が原 因と思われる。やはり果菜類には最低でも光合成有効光量子東密度 (PPFD) が 200μmol/m2 • S 以上必要なことがわかった。本実験では最高 50μmol/m2 • S で、この解決には更なる LED 、 LD の高出力化が望まれる。 また、赤色、青色の他に食味向上の点からも近赤外、紫外域の光で、ある時間タイミング良く照 射することが有効であると考えられる。それには白色光の LED 照射も有効だと思う。 これらの点を踏まえて、今年度は、光合成の光化学系を中心に更に詳しい内容を研修すると供に、 光源に近赤外光、白色光を追加して栽培実験を行い、それらの光源による影響を調べることを目的 とする。2. 光合成の光化学系について
光合成には明反応と暗反応があることが、これまでの定説であった。しかしいろいろな実験から 矛盾があることが指摘されはじめ、最近ではこの言葉は誤解を招く恐れがあるということで、使わ れなくなってきた。変わりに、光化学反応、電子伝違反応、 ATP 合成反応、炭酸固定反応と呼ぶこ とが一般的になってきた叱詳しいことは発表の場で述べることにして、ここでは省略する。 2-1 光化学反応 次に、光化学反応について考察する。これは図 1 に示すように、 2 種類の光学系 E と I が電子伝 達系を介して繋がっている 2)。葉緑体の中におおよそ 109個のクロロフィルが存在し、この 11300 が電子伝達系に関与している。これらは反応中心のクロロフィルとよばれ、ク d ロフィル a である。 その他のク p ロフィルは反応中心のクロロフィルへ光を集める役目を果たしている。クロロフィル は単体で存在しているわけではなく、特定のたんぱく質と結合し幾種類かのクロロフィルたんぱく 質結合体として存在している。結合していても化合物を作るような強い結合(共有結合)ではなく、 ゆるい結合である。現在では光学系 H 、 I についても反応中心クロロフィル a のたんぱく質複合体 と他のたんぱく質複合体が一定の様式で集合し、機能的な光合成単位を作っていると理解されいて -61 ーと呼ば
LHCP
いる。反応中心以外のクロロフィルは集光性クロロフィル a/b-たんぱく質複合体 (LHCP) れる複合体が、光合成単位の周縁部に位置し、効率の良いアンテナの役割を果たしている。 は光化学系 E 、 I にも存在するが、両者はアボタンパク質もクロロフィル a/b比も異なっている。LHCII
はクロロフイノレ a を 8 分子とクロロフィル b を 7 分 クロロ 子結合しているので\ フィノレ a/b比が 1 に近いが、 @何回フィJ~.LHC
1 ではクロロフイノレ b よ りも a のほうを多く結合して クロロフィル a/b比は 光化学系 E は P680 とも呼ばれ、 680nm の 光をよく吸収する。対して光 3.5""'-'4.0 である。 この結果、 おり、 .知ロフィルb 光 JF 仏 Este' とも呼ば 化学系 I は、 P700 れ、 700nm の光をよく吸収す 光合成の光化学系 2) 図 1 る。 '99 年度の発表で述べた の原因の一つがここにある 3)。 光化学反応は光合成の最初に行われる反応で、葉緑体のチラコイドで行われる。 光の強弱によっ てのみ光合成速度が変化し、温度による影響を受けない。 光エネルギーによってクロロフィルが活 「エマーソン効果」 元に戻ろ 性クロロフィルになる。 活性クロロフィルよりクロロフィルのほうが安定しているため、 が出る。 (正確には電子 H) エネルギー このとき、 うとする。 NADP e-〆ヘ、〆『、 rヘ〆向、/喧/当/官/、 • • • .' .cbl .chl 事.
.
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電子伝達系 @ O2"
@ NADPH NADP'"….)> 光合成o
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-水の電気分解 酸素発生のメカニズム 2) 図 2まとめると ① アンテナの働きをするクロロフィルが光エネルギーを吸収する。 ② このクロロフィノレが反応中心クロロフィルを励起する。 ③ 反応中心のクロロフィルから電子の放出が起こり、次の反応に利用される。 2-2 電子伝違反応 上記のエネルギーは、活性化されたクロロフィル a の強い酸化力によって、根から吸収された水 H20 が酸素と水素に分解される。図 2 参照。 そして、水の電気分解によって生じた水素 (2H) は、 NADP (ニコチン(酸)アミドアデニンジヌク アミチド燐酸)という補酵素に渡される。最終的に還元され NADPH になる。
2
-
3
ATP 合成反応 同時に、反応中心のクロロフィルから放出された電子はチラコイド膜にある電子伝達系に渡され る。このチラコイド膜には図 3 に示すように、光化学系 I 複合体、光化学系 E 複合体、チトクロム b/f 複合体、 H+-ATP 合成酵素複合体の大きな 4 つの複合体がある 2)。 光化学系 E からチトクロム b/f にプラストキノンが電子を 運び、このときプラストキノン は同時にチラコイド膜の外側か ら H+ も一緒に運び、チラコイド 膜内に放出する。この結果チラ糊u
w
コイド膜の外と内側(内腔)と の間で H+の濃度勾配が生じる。 この差をエネルギーとして H+-ATP 合成酵素複合体が ATP の合成を行う。 3. 実験装置・方法 昨年度と閉じ栽培装置を使用した 4)。 光源には H' 図 3 チラコイド膜に組み込まれた光化学系の構造 ①赤色 LED に東芝製 (TLRH190P:
644nm
,
15000mcd) 、 9 ケ 50 列計 450 個をプリント基板 に取り付けたもの(以後光源パネルと称す)、 ②青色 LED に豊田合成製 (EIL-51・ 3B:
465nm
,
1800mcd) 、 5 ケ 36 列計 180 個、 ③近赤外光源に半導体レーザー (LD) 浜松ホトニクス製 (L8446・04:800nm
,
1000mW) 、 ④閉じく近赤外光源には、 800nm 以下の波長が必要なため、簡易的な方法として(白熱電球に セロファン赤、青 2 枚づっ重ねたもの)を使用。スペクトルを図 4 に示す。 ⑤白色 LED に日亜電子製 (NSPW500BS1500:1
5
0
0
m
c
d
)
5 ケ 36 列計 160 個 ⑤赤色 LED(655nm
,
1
3
0
0
m
c
d
)
8 ケ 62 列計 496 個 の 6 種類を用意した。 実験方法としては、①の (PPFD) を 50μmol/m2 .8 、②を 5μmol/m2 • S に設定し、③、④、⑤、 -63 ー2
0
0
組 150 寂 思;
:
-
1
0
0
E 4ミ ヨヨ5
0
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9
0
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0
0
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1
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2
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7
5
0
7
6
0
7
7
5
波長 (nm) ⑥を比較光源として照射 した。 これら比較光源パ ネルの光量は 30μmol/ m2 .s に設定した。 栽培 植物には、これまでに栽 培した植物で比較的栽培 しやすい葉菜類のステム レタスとほうれん草を選 んだ。 播種一週間後、生 育の良い 6 本を選び、水 耕栽培装置に定植した。 照射時間は朝 6 時から午 図 4 白熱電球+セロファンによる近赤外光のスベクトル 後 7 時までの 13 時間と した。そして一週間ごと に 5 週固まで、根を含めた植物体全部を乾燥させ乾物重量を測定した。 6 本目は、食味調査のため、 あと 1'"'"'2 週間栽憶を続けた。 4. 実験結果・考察 図 5 に栽培の様子。 図 6 に乾物重量の測定結果を示す。生育の良かったのが基本光の①、②に 定植時 1 週目 3 週目 5 週目 図 5 ほうれん草の栽培⑤の白色光を照射した場合 5)J 次いで⑥の赤色光の照射、 3 番目に④の近赤外光、最後は③の (LD) 照射となった。体型を観察すると、④の光源を照射した場合、若干徒長傾向がみられた。本実験で は、 (PPFD) を、赤色光
(
R
)
50μmol/m2 • S 、近 1000 赤外光 (FR) 30μmol/9
0
0
m2 ・ s と R/FR> 1 とした ためであろう。 R の光量 を減らし R/FRく1 にする と、徒長がもっと顕著に 現れると予想される。こ れはクロロフィルとは別 のフィトクロムとよばれ るタンパク質が関係して いる。植物が森の中のよ うに近赤外光が多い場合、 より早く伸長して光を 得ようとする。進化の 過程で得られた特質で ある。 FR 光はフィト クロムの吸収により、 伸長生長を促進するよ うに働くと考えられる 6.7)。 白色光、赤色光はク ロロフィルに効率良く 吸収され、他の光に比 べて光合成が効率よく 進んだためであろう。 800nm の光はクロロ フィノレにもフィトクロ8
0
0
7
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0
6
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2500
2400
mg
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W
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物 1500•
•
mg1000
白色光 田赤色光 園近赤外光 1 週目 口白色光 震警近赤外光 1 週目 2週目 3週目 4遭自 畿地湖 m 2週目 3週目 4遭自 裁量告期間 図 6 光源の違いによる生育の相違 5遭目 5週目 ムにも吸収されず、照射の効果がなかったものと思う。フィトクロムは 730nm に吸収のピークが ある。 食味の点では、④の近赤外光を照射した場合が、甘味もあり、やわらかく感じた。 詳しいことは分からないがコマツナの育成実験で、 730nm を中心とした近赤外光に対して、顕著 な葉柄伸長効果がみられたこと。また栄養成分についても、照射する光の質によってビタミン含有 量に大きな差がみられたこと。植物栽培用蛍光灯で栽培したコマツナに比較して 660nm の赤色光 を照射したものが通常の 2.9% の糖質が 3.8% に増加した。さらに 660nm の赤色光に 730nm の近 赤外光を加えると、与えなかったものに対して 100g 中 54mg ビタミン C 含有量が増加したと報告-65-されている 8,9, 10)。この点を考えると、今回の実験でステムレタス、ほうれん草も近赤外光照射によ り、食味、栄養成分も向上したことが考えられる。 5. まとめ 基本光の赤色、青色の他に、近赤外、白色を照射して栽培したところ、分析機器で栄養成分の分析がで きなかったので、確かなことはいえないが、栄養成分の増加が報告されていることから鑑みて、栽培植物は 異なるが、栄養成分も増加傾向がみられ、食味の向上も期待できる。 これからの植物工場の基礎研究としては、収穫量の増大も重要な一因であるが、露地栽培よりも栄養成 分、食味の点で勝った栽培方法を見出すことも大切だ、と考える。