<総 説>
集中治療室に入室するがん患者の看護:国内文献を通しての考察
Nursing for cancer patients in intensive care unit: a review of the literature
木下 里美
1)田中 博子
2)Satomi Kinoshita Hiroko Tanaka
キーワード:がん患者、集中治療室、がん看護Ⅰ.はじめに
がん患者が集中治療室(Intensive Care Unit 以下ICU)に 入室するケースには、侵襲の大きな手術後、手術後合併 症、化学療法後合併症、放射線治療後合併症、がんの進展 に伴う合併症、がんの治療経過中に新たに発生した急性疾 患、慢性疾患の急性増悪がある1) 。がん治療が進歩し集中治 療を必要とする患者はいるが、がん患者の集中治療につい て調査した研究は少ない1)2) 。ICUに入室するがん患者の割合 は、施設により異なるが、一般市民への調査では、ICUなど の集中治療部門で死亡した患者387名中152名はがん患者 で、約40%を占めていた3) 。また、ICU患者の体験を調査し た研究では40名のうち 9 名が食道腫瘍4)であり、ICUに入室 する患者の一定数を、がん患者が占めていると言える。集 中治療を受ける患者は、生命を脅かす健康問題のリスクが 高いことから5,6) 、回復するための集中的な看護が必要とさ れる。また、患者は自分の生命の危機を感じることで、心 理的に衝撃を受けるため、患者や家族の心理的危機状態に 対する看護介入も重要である7)。一方、2006年にがん対策基 本法が成立してから、がん看護の専門性が今まで以上に求 められるようになり、他の疾患を持つ患者とは異なるがん 看護の視点が必要とされている。がん患者には、がんの進 行や治療の影響による身体の変化、それに伴う症状に対す る看護に加え、がんと知った人の受ける衝撃や予後の不安 に対する心理的な支援も必要である8-10)。 このように、がん看護の専門性が求められる中、集中治 療を受けるがん患者の看護にも、がん以外の疾患をもつ患 者と違った看護の視点が必要なのではないかと考えた。例 えば、がん患者が集中治療を受けることになった場合、が んと知ったことの衝撃と集中治療室に入室することの恐怖 や不安、重症感が加わることにより、回復に何らかの影響 があると考える。 そこで、今回、集中治療を受けるがん患者の看護の視点 や特徴を見出すため、集中治療を受けるがん患者の看護に 対し、研究的な取り組みがどのようにされているのかを概 観し分析することとした。 Ⅱ.ICU看護におけるがん看護の位置づけ 文献検討に先立って、ICU看護において、がん看護が、 元々どのように位置づけられているかを明らかにするた め、ICU看護とがん看護の定義と概念について整理を行っ た。 日本でのICUの設置は、1964年順天堂大学附属病院が初11) であり、1973年日本麻酔科学会がICU設置基準を発表11) し た。そこでのICUの定義は、内科系・外科系を問わず呼吸、 循環、代謝、そのほかの重篤な急性機能不全の患者を収容 し、強力かつ集中的に治療看護を行うこと12) により、その効 果を期待する部門とされている。日本集中治療医学会は 1974年に設立され11) 、翌年から、医師のみでなく看護師の参 加が認められ、1996年には独自の会則をもつ看護部会が発 足した13)。ICU看護の目的は、主に重症患者の回復を目的に 集中的で濃厚に診療の補助と看護を行うことである。ICU看 護のテキストから教育概要を抽出した結果、呼吸管理、循 環管理、代謝管理といった身体機能別看護、疾患別看護、 処置や医療機器の取り扱いで構成されていた5,6,14,15) 。また、 患者が重症で生命危機状態であることや、ICUの特殊な環境 が患者・家族に与える影響を踏まえた、心理社会的支援が 記載されていた。しかし、これらは、ICUに入室する患者す べてに共通する看護であり、がん患者の看護に特徴的な記 載はなかった。 がんに関する学術講演会は、癌研究会創立時の明治41年 (1908年)4 月 2 日に癌研究会が主催した第 1 回学術集談会 が始まりで、昭和16年(1941年)4 月 5 日に日本癌学会が創 設された16) 。がん看護が認識されるようになったのは、1962 受付:2014年 9 月 9 日 受理:2015年 1 月16日 1)関東学院大学 看護学部看護学科 2)創価大学 看護学部
年に国立がんセンター設立の時点と言われている17) 。1970年 代のがん医療・看護の焦点は疼痛緩和、症状コントロー ル、生存率の上昇、治癒、生活の質(Quality of life 以下 QOL)であった。1981年以降、がんが死亡原因の第1位とな り、次第にがん患者は在宅医療から医療機関に集中するよ うになった。そして、看護師は急性期にあるがん患者と終 末期にあるがん患者の看護に追われるようになった17) と言わ れている。がん看護に関わる実践、教育、研究の発展のた め、1987年に日本がん看護学会が設立され18)19) 、平成18年 (2006年)がん対策基本法が成立し、更にがん看護の専門性が 求められるようになった。がん看護のテキスト等を概観す ると、集学的治療(手術療法・化学療法・放射線療法)に 応じた看護、各症状別看護、疾患別看護、患者への心理社 会的支援、家族支援が記載されている20) 。治療場所別看護に ついては、がん患者の療養支援において、一般病棟、回復 期リハビリテーション病棟、療養病棟、緩和ケア病棟の記 載はある20)が、ICUに関する記載はされていなかった。ま た、がん看護のコアカリキュラムでは、オンコロジーエ マージェンシーの内容に、播種性血管内凝固(DIC)や敗血 症、頭蓋内圧亢進や心タンポナーデなど、ICUで主に扱われ る病態が含まれていた21) 。しかしながら、これらの記載の中 に、ICUに入室するがん患者の看護の特徴は記載されていな かった。 Ⅲ.ICUにおけるがん患者の看護に関する研究の動向 1.対象文献の選定 がんは、日本において死亡原因の1位であることや、がん 対策基本方法の成立から、がん看護の専門性が強調される ようになったという社会的背景があり、海外での状況とは 異なると考えた。そこで、本研究で対象とする文献は日本 国内のICUに入室したがん患者の看護に関するものに限定し た。 検索は、書誌情報データベースの医学中央雑誌を用い た。現代の、ICU看護におけるがん看護の視点を明らかにす るため、「ICU」または「集中治療室」と「がん」を組み合 わせた過去5年間の看護の原著論文を検索した。しかしなが ら、該当文献が少なく、分析するには不十分であると判断 し、年代をさかのぼって検索を行った。研究者2名で、ヒッ トした全ての年度の文献の抄録を概観した結果、2000年以 降の文献で、研究の傾向を把握できると判断し、2000年以 降の文献を分析の対象とした。 結果、ICUと「がん」で61件、集中治療室と「がん」で13 件、重複を除くと合計66文献であった。国際標準逐次刊行 物番号(ISSN)の記載がない施設での集録集を除き、がん 患者やその家族の看護に関する内容が含まれる文献を選定 した。選定は研究者2名で行い、最終的に17文献を分析の対 象とした。 な お 、 削 除 し た 文 献 は 、 国 際 標 準 逐 次 刊 行 物 番 号 (ISSN)がない18件、新生児集中治療室(NICU)2 件、 ICUでの研究ではない12件、ICU看護師を対象とした研究 6 件、がん患者か家族の研究ではない11件であった。 2.分類・分析方法 分析の対象とした文献について、①対象者の区別を患者 と家族とに分類をした。②ICU入室目的の区別を、術後の回 復目的と重症患者の回復目的で分類した。③研究方法と内 容別に分類した。④対象の患者の疾患名を分類した。 また、「ICU」と「看護」をキーワードにした過去5年間の 原著論文816件を概観すると、呼吸器管理に関連する看護、 せん妄患者の看護、早期離床やリハビリテーション、褥瘡 予防、終末期ケア、安楽やリラクゼーション、ICU入室患者 の体験、家族支援が主であった。その中で特に、呼吸器管 理、せん妄患者の看護、家族支援に関する研究が多くを占 めていたため、これらを軸にして考察を行うこととした。 3.結果 分類した結果を、表1に記載した。 なお、文献で「癌」の記載がされているものについて は、そのまま「癌」の用語を使用し、それ以外は「がん」 の記載で統一をした。 1)患者を対象にした研究 術後の回復目的が9件、重症者の回復を目的としたものが 3件であった。疾患別で最も多かったのが食道がんの術後で 6件であり、他の疾患は 1件ずつであった。 術後の研究で最も多かったのは、人工呼吸器装着患者の 呼吸器合併症予防や人工呼吸器離脱に関するもの5件であっ た。内2件は口腔ケアにより、人工呼吸器関連肺炎の予防に 関する内容であり2件とも食道がん患者を対象としたもので あった22)23) 。いずれも、口腔ケア後の細菌数から効果を検証 した内容である。1 件は、食道がんの術式から術後の肺炎の 危険性に言及し、化学療法の有無や術式の影響による結果 の違いについて述べているが22)が、1 件については食道がん 患者を対象とした理由や考察の記載はなかった。 術後の早期離床や体位変換により呼吸器合併症の予防や 改善を目的とした研究では、食道がん患者が術式の特徴か ら呼吸器合併症を起こしやすいことに着目した研究24) 、胃が ん術後のイレウス解除術後に、胸腔内に便汁様の膿が漏れ たことによる膿胸患者の無気肺改善を目的とした研究25) が あった。また、肺移植術後患者の人工呼吸器離脱が進まな い理由として精神的要因、ICUでの環境の特徴に着目し考察 した研究26)があった。 術後のせん妄予防に関する研究は、2 件とも食道がん術後 患者を対象としたものであった。2 件とも食道がん手術の侵 襲の大きさからせん妄発症のリスクが高いこと27)28) を理由に 挙げ、実際にせん妄を発症した患者の看護について報告し ていた研究27)と、せん妄症状発現と夜間の睡眠覚醒状態、 尿中プロスタグランディンE2の排泄量のパターンとの関係 を明らかにした研究28) があった。午前中の補光が回復過程に どのように影響するかを検討した研究では、せん妄予防を
目的とした研究を発端としており、補光を行った患者は行 わなかった患者にくらべ、歩行開始日が早く回復を早める 可能性を示唆していた29) 。 脳腫瘍術後にICUに入室した患者との関わりでは、患者と のプロセスレコードから実施されたケアの抽出を行ってい る30) が、がん患者であることに着眼したケア内容の記載はな かった。 重症患者の研究では、予後1 年の悪性神経膠腫患者が、 呼吸状態の悪化でICU入室になり、積極的治療を行いなが ら、QOLを重視したケアを実施した報告31) があった。緊急入 院になった気管癌患者の心理的危機状態について報告した 研究では、癌の告知と予後に対する心理的危機状態、ICUに 入室による心理的影響を考察している事例32) があった。ま た、呼吸状態の悪化により、気管切開後にICUに入室した患 者に対し、希望を見出す看護を報告している研究33) があった が、この研究では、がん患者であることに視点を置いた考 察の記載はなかった。 2)家族 がん患者の家族支援に関する研究では、術後のがん患者 の家族3件、重症患者の家族 2件であった。 術後ICU入室になったがん患者家族の満足度の調査では、 患者が、がんであることと手術をすることで、家族の心理 的危機状態が高まる可能性に着目している34) が、アンケート は一般的な術後の対応とICUでの環境に関する内容になって いた。また、肺がん術後患者の家族の心理と面会に対する ニーズを調査した研究35) でも、術後にICUに入室したことに 着目した調査内容と考察であり、がん患者の家族であるこ とに関する記載はなかった。がんの手術後にICUに入室した 患者の家族が必要としている情報について調査した研究36) で も、手術に関連する情報についての記載はあるが、がんに 関する情報の記載はなかった。 急性リンパ性白血病患者の家族の代理意思決定に関する 事例研究37) では、臍帯血移植後に全身状態が悪化し、ICUに 入室した患者の延命処置に関する意思決定について、看護 表1.ICUに入室したがん患者家族への看護の研究 (N=17) 研究対象 研究テーマ 研究方法 疾患名 研究内容 ①食道がん術後患者の口腔ケアによる細菌学的変化 量的研究 食道がん ①食道がん患者の口腔ケアに使用する洗浄液について、化学療法の有 無、術式の影響を加味し検討 ②人工呼吸器装着患者のオーラルケアのスタンダード化 事例研究 食道がん ②食道がん患者のプラーク残存が少ない口腔ケア方法を検討。 ③ICUにおける食道癌術後の呼吸器合併症に対する早期 離床の効果 事例研究 食道がん ③食道がん術後に両側声帯麻痺が出現した患者の呼吸器合併症に対 する早期離床の効果を検討。 ④人工呼吸器管理中の無気肺患者への腹臥位の効果 腹臥位を試み,無気肺が改善した一症例 事例研究 胃がん ④胃がん術後イレウス解除術後の、膿胸患者の無気肺改善ケアの報 告。 ⑤脳死肺移植術後患者の人工呼吸器離脱を困難とした 精神的要因 事例研究 リンパ管平骨 筋腫 ⑤肺移植後患者の人工呼吸器離脱を困難とした要因を環境的側面、精 神的要因から検討。 ⑥食道がん術後せん妄の発症要因の分析 事例研究 食道がん ⑥食道がん術後にせん妄を発症した症例を振り返り、術後せん妄の発 症状況とその要因を検討。 ⑦食道がん術後患者におけるせん妄症状・睡眠・尿中 PGE2排泄パターンの関係 量的研究 食道がん ⑦食道がん患者の術後せん妄症状の発現,睡眠覚醒パターンおよび夜 間尿中プロスタグランジン(prostaglandin:PG)排泄量の関係を検討。 術後の生体の回復過程 1件 ⑧食道癌術後患者に対する午前中の補光と直腸温変動・ 回復過程との関連性 量的研究 食道がん ⑧食道がん患者の午前中の補光と直腸温変動・回復過程との関連性を 検討 患者への関わり 1件 ⑨手術直後にICUに入室した患者と看護婦の関わりの分 析 質的研究 脳腫瘍 ⑨脳腫瘍患者と看護師とのプロセスレコードから、ICUにおける重症患者 との関わりを検討。 複雑な重症事例・チーム医療実践 1件 ⑩悪性神経膠腫患者のQOL維持に取り組んだケアの一 事例 急激な症状悪化をたどった患者と行ったチーム医療事例研究 悪性神経膠 腫 ⑩悪性神経膠腫で急激な症状悪化をたどった患者へのチーム医療実践 の報告。 ⑪気管癌で緊急入院・手術を受けた患者への援助 生 命・喪失の危機に対する段階別援助が役立った一事例 事例研究 気管癌 ⑪気管癌により生命・喪失の危機にある患者対するフィンク危機理論を 用いた援助の報告。 ⑫ICUに緊急入室した気管切開後の患者が希望を見出す ための看護介入 モースの「病気体験の理論」を用いて 事例研究 膵頭部ガスト リノーマ ⑫誤嚥性肺炎を併発した膵頭部ガストリノーマ患者に対し、モースの「病 気体験の理論」を用い実践した心理的看護介入の報告。 ⑬対応改善後のICU入室患者家族の満足度 量的研究 がんセンター 患者 ⑬ICUに入室した術後がん患者の家族に対する家族対応を満足度にて 評価。 ⑭ICU・HCUにおける手術終了後の面会方法と看護介入 について考える 面会に対する家族ニーズの実態調査か ら 量的研究 肺がん ⑭肺がん患者家族を対象としたICU・HCUにおける手術終了後の面会方 法と看護介入を検討。 ⑮手術を終えたがん患者の家族が求める看護援助につい て 量的研究 がんセンター 患者 ⑮手術直後のがん患者家族が必要としている情報、看護師に望むサ ポートを検討。 ⑯ICUにおける家族の代理意思決定にかかわる看護師の 役割 トンプソンのモデルを用いての振り返り 事例研究 急性リンパ性 白血病 ⑯トンプソンの「看護倫理のための意思決定における10のステップ」を用 いICUに入室した患者の母親の意思決定の分析報告。 ⑰急遽ICUに入室したがん患者の治療方針について意志 決定を迫られた家族の体験 人工呼吸器装着の代理決 定を行った母親との面接を通して 事例研究 血液疾患 ⑰急変によりICUに入室したがん患者家族の意思決定に関する看護の あり方を考察。 家族 5件 術後 3件 術直後の家族の面会方法と看護介入の検討 3件 ICU入室目的 患者 12件 術後の回復 9件 人工呼吸器装着患者の呼吸器合併症予防・ 離脱に関するもの 5件 重症患者の回復 3件 重症 2件 代理意思決定への支援 2件 術後せん妄予防 2件 重症患者への心理的ケア 2件 表 1.ICU に入室したがん患者家族への看護の研究
師の役割を考察している。がん患者の人工呼吸器装着に関 する家族の意思決定についての報告38) では、これまでの研究 で、がん患者の急変に関する研究がされていないことに焦 点を置いており、がんと診断を受けた時から悲嘆を経験し ている家族は、急変がより現実的な死を実感させる出来事 であることを考察していた。 Ⅳ.考 察 国内のICUに入室したがん患者の看護に関する研究を概観 した結果、がん患者の特徴に言及した研究はわずかであっ た。抽出された文献から、以下が明らかになった。 1)報告されている論文数は、術後の回復目的で入室した患 者を対象とした研究が多く、重症者の回復を目的とした患 者を対象とした研究は少なかった。また、疾患別では食道 がん術後患者を対象とした研究、機能別では人工呼吸器管 理に関するものが多かった。 2)家族を対象とした研究の中で、がん患者の家族であるこ とに視点を置いた研究では、がんと診断された時からの家 族の心理状態に着目していた。 3)がん患者に対するがん看護への視点は、食道がん患者で は手術の侵襲の大きさに言及し、重症患者の研究ではがん と診断を受けた時からの悲嘆に着目していた。 以下、ICUにおける看護研究の中で、がん患者に対する看 護の視点について考察を行う。 1.ICUでの呼吸器管理に関する看護 今回分析の対象とした17文献のうち、ICUに入室したがん 患者の呼吸器管理に関連した研究は6件あり、食道がん患者 を対象とするものが多かった。食道がん患者は、術後のICU 入室期間が他の術後がん患者に比べ長くなることや、術式 によっては頚部の安静のため、ベッド上の活動が制限され ることで呼吸器合併症のリスクが高いこと、開胸を伴う ケースがあること、術後人工呼吸器管理が必要になること などが理由に考えらえる。 ICUでの呼吸器管理に関する最近の研究では、呼吸器疾患 患者を対象とし非侵襲的陽圧換気療法の継続に関する看護 師の臨床判断39) や、人工呼吸器装着患者とのコミュニケー ションの困難40) 、人工呼吸器を装着した術後患者の回復を促 すための援助がある41) 。1 件目の研究には、がん患者は対象 に含まれていないが、後述の2 件については、食道がん患 者、胃がん患者、舌腫瘍患者が対象に含まれている。しか し、この人工呼吸器装着患者とのコミュニケーションの困 難についての研究では疾患による違いは考察されていな い。また、人工呼吸器を装着した術後患者の回復を促すた めの援助については、すべてが、がん患者を対象としてい るが、侵襲の大きな術後の身体変化と集中治療に伴う苦痛 をどのように乗り越えるかに着目をしており、がん看護を 意識した記述はされていなかった。患者は「病気との闘い」 「病気に打ち勝つ」といった回復意欲に関する気持ちを持 つことが記述されている41) ものの、この意欲が、がんに打ち 勝つための患者の意欲であるかどうかの考察はなかった。 今回、分析の対象となった人工呼吸器装着患者の呼吸器合 併症予防や離脱に関する研究でも、がんの術式に関する身 体的要因には着目がされているが、精神面についてはがん 患者であることの視点はなかった。以上のことを踏まえる と、人工呼吸器装着患者の看護は、術式の違いや、人工呼 吸器装着による心理的影響に着目がされ、がんであること での影響については、考慮はされていないと考えられた。 2.ICUでのせん妄予防 今回、分析の対象となった17文献のうち、術後せん妄予 防とそれに関連する研究は3 件であり、いずれも食道がん患 者を対象としていた。術後せん妄の発生要因や看護に関す る研究はさまざまな対象からなされており、ICUでは高齢の 術後患者42) 、循環器疾患術後43,44) を対象とした研究が報告さ れている。せん妄は、器質的原因のほかに、なんらかの危 険因子が要因となり発生すると言われ、術後せん妄の発生 要因に関する報告では、手術侵襲、脳血管障害の既往、術 後ICUへの入室、手術時間、高齢者、開胸手術、精神的スト レス等が報告されている45,46) 。術後に集中治療を必要とする がん患者は、がんという疾患の受け止めと同時に、ICUに入 室することによる重症感を抱きやすいと推測され、不安も 大きいと考える。従って、心理的負担を抱えICUに入室する がん患者は、それがせん妄の要因の1つである心理的要因と なる可能性があると考える。今回、分析の対象となった文 献は、食道がんの手術侵襲の大きさにはふれられている が、がんという疾患を持った人への考察はみられなかっ た。近年では、予定手術の場合、手術室看護師による術前 訪問や、ICU看護師の入室前オリエンテーション等、治療や 治療の場の変化から生じる不安をできるだけ緩和するよう な介入42) がされている。これらを活用して、疾患に対する受 け止めに加え、せん妄の要因の分析、看護援助の研究も必 要ではないかと考える。 3.家族支援 今回の文献検討の結果、家族支援に関する文献は17件中5 件であった。これまでの、ICUに入室する患者家族の研究で は、重症患者の家族という視点が多く7,47-51) されているもの が多く、疾患の特徴による違いについては明らかにはされ ていない。急性心筋梗塞や急性心不全、大動脈解離などの 循環器疾患をもつ患者の家族に対する研究では、緊急の処 置が多く、急変のリスクにともなう家族の精神的苦痛52)が 報告されている。また、心臓血管系の疾患で緊急手術が目 的で入室した患者の家族を対象とした研究では、家族の希 望する看護師への関わり方について報告がされている53) 。以 上の様な心臓血管系の疾患は、死に直結する臓器であるこ とや緊急でICUに入室するケースがあることから、患者だけ でなく家族の動揺は計り知れず、家族支援について必要性 を認識しやすいことが研究として取り組まれている理由の1 つであると考える。今回、分析した文献の中で、術後の患
者の家族支援については、がん看護であることに言及され ていなかったが、重症患者については、がんという死をイ メージする病気と、実際に重症になった時に悲観しやすい 家族の心理状態に着目していることが明らかになった。ICU に入室する重症患者でも、心疾患のように突然の発症によ り入室するケースと、がん患者のように長期療養後の病状 悪化でICUに入室するケースでは、家族のニーズも異なる可 能性もあり、非がん疾患患者の家族と違ったニーズを明ら かにしていく必要があると考える。 4.ICUに入室する患者の体験と看護 今回の文献検討の結果、がん患者の体験については、緊 急入院となった気管癌患者の心理的危機状態32)が報告され ているが、ここで述べられている心理状態が、がん患者特 有のものなのか、または、ICUに緊急入室する患者に共通す るものなのかは明らかではなかった。他の、ICU入室患者の 記憶と体験を調査した研究には、ICU入室患者の記憶の欠落 や非現実的な体験54) 、急な発症に伴う混乱など55) の報告があ る。しかし、これらの報告では、疾患による体験の違いは 明らかにはなっていない。また、疾患別の患者の体験に関 する研究には、心臓血管外科患者の体験を記述したもの56) があるが、他の疾患に共通する体験かどうかは明らかには なっていない。以上のことから、今後、がん患者は非がん 患者と違った特徴があるのかどうか、患者の体験を明らか にし、看護に活かしていく必要性が示唆された。 5.全体を通しての考察 ICUに入室となったがん患者の看護に関する文献検討の結 果、がんの術後回復を目的とした研究の報告が主であっ た。がんの手術は、がんとその周囲の組織や臓器を取り除 くという手術侵襲の特徴がある。そのため、ICU看護師は術 式の違いによる侵襲や身体の変化を考え、看護の展開をし ており、がんの手術であることでの身体侵襲に着目した看 護援助を行っていることが推察された。 一方、患者の心理面や家族への支援については、がんと 診断されたときからの患者・家族の心理状態に着目し、そ のような患者がICUに入室する場合に、どのような支援が必 要なのかを考えていく必要性があることが示唆された。が んでICUに入室する患者や家族が、非がん患者と違った特徴 や看護へのニーズがあるのかどうか、今後、がん看護の視 点の必要性については、ICUに入室する患者や家族の体験か ら明らかにした上で検討をしていく必要があると考える。 Ⅴ.結 論 ICUに入室した患者の看護に関する文献検討を行った結 果、以下の結論が得られた。 1.食道がん術後の看護に関する報告が多かった。 2.身体面での看護援助では、がんの術式に応じた看護援助 がICUでのがん看護の特徴であることが示唆された。 3.患者家族への心理社会的支援に関しては、がんと診断さ れたときからの患者家族への影響を踏まえ、ICU入室後の支 援を検討していくことが必要である。 Ⅶ.引用文献 1) 河崎純忠,阿部伊知郎(2007).集中治療室に入室した がん患者の転帰と予後,日本集中治療医学会雑誌, 14,299-307. 2) 本田完(2007).がん重症患者に対する集中治療,日本 集中治療医学会雑誌,14,623-624.
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