Komazawa University
NII-Electronic Library Service Kom 三1z三1w三1 Umversrty
駒澤大學
佛教
學
部 研 究
紀要第
56
號
平
成
10
年
B
月
(
19
)
カ
ーマ
の
矢
イ
ン
ド
愛 神 考 序 説
金
沢
篤
Wine
co 皿 esin
at the mouthAnd
love
comesln
at the eye;That
’s al1 we shaU
knew
fer
truthBefore we grow o!d and die
.
(W.
B.
Yeats)筆者
は先 年
,心
臓
h
;daya
に関
して小論
を
草
し た 。 ま た昨年
は,そ
の心
臓
との関
わり を
考慮
して ,頭/ 首
9iras
に関
して ,す
こ しく
論
じた
。今
回
は
, そ の心
臓
を
住
処
と
す
る者
h
;cchayaと
呼
ば れ
る こと も あ
る愛
(
神
)
カー
マkama
であ
る。改
め
て言 う
ま
でも な
いが
,イ
ンド
の古
典作
品
で は, こ の愛
(
神
)
カー
マが
縦横
無 尽
に活 躍 す
るの であ
る。恋
愛物
語
だ
らけ
, という
こ と でも
あ
る のだ が
, と に かく
そ
う
した
印
象
が 強
い の であ
る。万
人 周 知
であ
りな が ら
,な お
微
妙 不 可 思
議
と
言
う
ほ かな
い恋愛現 象
を
, こ の愛
(
神)
カー
マを介
在
さ
せ て描 出
し よう
とす
る ,そ れ
はイ
ンド
人
にと
っ ても
古
来
顕
著
な
合
理
精神
の見
事
な
詩 的 発
露
と
言 う
べき も
の であ
る。 した が
っ て愛
(
神 )
カ・
・
一
・’
7 の解
明
が
,イ
ンド
思
想
・文
化 史研究
上 重
要
不 可 欠
とな
ろう
。当
然
のよ う
に既
に様
々な
形
で考
究
の俎 上
に上
せ られ
てき
てい るが
,謎
めいた
問題 点
が
ま だ
多
々あ
る。万 人
周 知
であ
る こ とが
,逆
に細
部
に対
す
る しっ かり
と し た取
り
組
みを
阻
んで い る よう
でも あ
り, イ ンド
人
の英
知
が
案
出
し た, こ の複雑 精
妙
な
恋 愛
の メ カ ニ ズムが 十
二分
に解
明
さ
れ たと
はま
だ言
い難
い状 況
であ
る 。浅
学
非 才 を
省
み
ず筆者
が
敢
えて小
論
を
草
す
る所
以
であ
るが
,も と よ
り膨 大
な
古典
サ ン ス ク リ ット
文献 群
を
余
さ
ず 渉
猟
して の こと
で は なく
, 『カ ター
・サ リ
ッ ト・サー ガ
ラ』を
中
心
と し て,筆者
が た
ま た ま遭
遇
し た ほ んの ひ と掴
み
の用 例
に基
づ い て , 「恋
愛
の メ カ ニズ
ム 」 , な か んず く
, そ こ に重
要
な
役
割
を
担
う と
考
え ら れ
る 厂愛
(
神)
カー
マ 」な
い し 「カー
マ の矢
」を
めぐ
っ て若
干
の考察
を
加
え
てみ
る に過
ぎ
な い 。種
々近
代
語
に よ る翻 訳 を
含
め ,先
学
の諸研 究
に負
う
と
こ ろ甚 大
であ
る こと
は, こ れ まで同様
,言 う
ま でも
ない 。一
338
一
N工 工一
Eleotronlo Llbrary(
20
)
カー
マ の矢
(
金 沢)
1
.
恋 愛 は如 何
に
道 行 す る
か
?
「
古典
イ
ンド
の恋
愛
」 に つ い て考
え
る とき
,筆者
は まず
, 『 ナラ王
物 語
』 の以 下
の用
例
二例
を
思
い浮
か べ る 。 サ ン ス ク リ ッ トの初 学
者
1
と
も
馴
染
み
深
い有 名
な物 語
の有名
な
条
り
であ
る 。主
人 公
の ナ ラ王
とダ
マヤ
ン テ ィー
姫
の 「恋
にお ち
て 」は
,以 下
のよ う
に描
き
出
され
て い る 。(
量)
(
1
)
(
1
’)
未
だ
見
ぬ相
手
へ の愛
が
芽
生
え
たの で し たを
抑
え
切
れ
ず
l
p
.
13
,L13
−p .
14
,L
2
)
(
三i
)
tata≦
cintaparadina
vivarpavadanak
;≦
a!
1
)abhuvadamayanti
tu
nih §vasaparamatada〃
2
〃
且rdhvad
衂
ir
dhyanapara
babhovonmattadara
ξalla!
p
盃pduvarrpa
ksarpenatha
hrcchayavistacetana
〃
3
〃
(
MNU
,II
−
2
−
3
;
p
.
8
)
(
2
)
Lost
in
thought
she satdejected
,pale
her
melancholy cheek ,Damayanti
sat andyielded
allher
soulto
sighs ofgrief
.
Upward
ganing
, meditative , with a wilddistracted
look
,Wan
was allher
so 正t
complexion , and withpassion
heart
−
possessed
,
(
WilliamsTr
.
,p
.
9
,11
.
4
−
7
)
(
2
’)
以
来
,ダ
マ ヤ ン テ ィー
姫
は思案
に暮
れ
,悄 然
と
して ,顔
の色
つや も失
せ ,や
せ細
っ て,た
め息
ば か り
つ い てお り ま
し た。心 は
恋
に魅
入
られ
て虚 空
の一
角
を
一
337
一
tayor
adrS ζakamo’
bhut
6
典 vatoh satata 甲gu
頃 n!
anyonyarp
prati
kaunteya
sa vyavardhatahrcchayab
〃
17
〃
a6aknuvan nalah
kEmam
tadadharayiturp
h
;dE
!
antabpurasamipasthe vana
aste
rahogatah
〃
18
/
!
(
MNU
,1
−
17
−
18
;
p
,
4)
Hearing
so eachother
’s virtus, all
unseen
they
’
gan
to
love
.
Thus
of each,
O
son ofKunti
,the
deep
silentpassion
grew
.
Nala
,in
his
heart
impatient
,Ionger
that
deep
love
to
bear
,To
the
grove
,in
secret , wandered ,by
the
palace
’
inmost
court.
(
WilliamsTr
.
,p
.
5
,11
。
15
−
18
)
相
手
の美 質
を
不 断
に耳
にす
るう
ち に.一
ク ン テ ィー
妃
の御
子
よ一
互
い に ,。
恋
は募
り
,や が
てナ ラ王 は
,心
中
,愛
こ,
秘
か
に後 宮
近
く
の森
に赴
い て腰 を
下
ろ してお り ま
した
。(
鎧,
Komazawa University
NII-Electronic Library Service Kom 三1z三1w三1 University カ
ー
マ の矢
(
金 沢 )
(
21
)
見
つ め,物 思
い に耽
り
,面 持
も
の狂
お
しげ
に, ふ と一
瞬
,色 青
ざ
めた
りいた
しま
し た。(
鎧
,P
.
16
,ll
.
8− 11)
(2
”b
)
心
瞬
時
に恋
に魅
入
ら れ たが
故
に,仰
ぎ見
て は,物
思
い に耽
り
,顔
青
ざ
め て は,面
も ち
も
の狂
おし
げ
とな
っ た の であ りま した
。(
拙 訳
)
恋
愛
の メ カ ニズ
ムが
極
め
て合
理
的
に記述
さ れ
てい る ,と あ
る意 味
では
看
做
し得
る用 例
であ
る。鎧
博
士
に よっ て , 「愛
」kama
と
「恋
」hrcchaya
と
訳
し わけ
られ
て はい るが
,そ
の両 者
が
同義 語
であ
るこ と は明 白
であ
ろう
。互
い の噂
を耳
に して い るう
ち に,ま
だ見
ぬ相
手
へ の 「愛
」kama
が
二人
の内
に, 「芽
生
え
た」abhUt
。 ナ ラ王
に あっ て は, その 「恋
.
」hVcchaya
が
「募
り」 vyavardhate ,そ の結
果
, 「心
」h
τd
と
いう揚 所
/容器
で, 「愛
」kama
を
「抑
え
」 るこ と,保 持
す
る こ とdharayitum
が
出 来
なく
な っ た。 か たや
,ダ
マ ヤ ン テ ィー
姫
の方
は, 「心
は恋
に魅
入 られ
て」h
;cchaya−aviSta −
cetana状 態
にな
っ た。こ の
(
i
) (
ii
)
の描
写
によ
っ て ,イ
ンド人
の考
え
る恋 愛
のメ
カ ニ ズム の概
要
はと
も
かく
も知
れ る よう
に思
わ れ るが
, た だ 「恋愛
の メ カ ニズ
ム 」 と一
口 に言
っ ても
,そ
れが 一
筋 縄
で はい か ない だ ろう
こ と は容
易
に想 像
でき
る と こ ろ であ
る。問
題 点 を
さ ら
に明
確
にす
べく
,以
下
にダ
ンデ
ィ ン作
『十
王
子
物
語
』と
ソー
マデ ー ヴ
ァ作
『カタ ー ・サ リ
ット ・サ
ー
ガ ラ』 の用 例 を見
てみ
よう
。(
iii
)
mahati ratnarahgapi ζ
he
sthitarpprathamam
tamro
§thim
apa§
yam
!
atiSthacca s巨 sadya eva mama
hrdaye
!
na maya ’nyena va ’ntaraledr
§ta1
(
DKC
,p
.
151
,ll
.
2
−
4
)
(
3
)
and
I
beheld
丘rstthe
red・
lipped
(
damsel
)
seated on ajewelled
seat.
The
里
g
璽g
逆
Isaw
her
she stoodin
(
i
.
e.
captivated)
myheart
, and neither anyone else nor
I
could seeher
in
the
interval
(
ofher
leaving
her
seat
and entering my
heart
)
.
(
KaleTr
.
,p
.
105
,ll
.
26
−
30 )
(
3
’)
私
は ま
ず
,宝
石
を ち りば
めた
舞
台
に
立
つ王
女
の赤
い唇
に見
とれ
ま した
。す
る
と
,た ち ま ち
彼
女
はも
う
私
の心
に立
っ て い ま し た。私
ば
かり
で なく
,他
の人
々に と っ て
も
,〔
彼
女
が ど んts
風
に し て そ ん な に早 く私
の心
の中
に は い っ てき
た のか
〕
空
間
〔
の通
り路 〕
が
見
え
ま せ ん で した
。(
田中
指
田,P .
163
下
)
(
iv
)
tatra
kanyarp
dadar
≦aika 叩 rajfiahgribimbakeh
sutam!
figatam
盃k
τtimati
皿 s且k
ξladiva
madhu6riyam〃
89
s亘 m ;
gankavati
n 盃mah
;dayam
tasya
tatk
§apam!
vive §a
dattam5rgeva
drEtyssya
savik 且say酬
90
〃
一
336
一
(
22
)
カー
マ の矢 (
金
沢 )(
KSS
,II
−
2
−
89
−
90
;
p
.
29 )
(
4)
There
he
beheld
a maiden,
the
daughter
ofKing
Bimbaki
, whohad
come
to
seethe
show ,100king
like
the
Goddes
ofthe
Splendour
ofSpring
present
in
bodily
form
。
She
,by
nameM
;igankavatl
,that
型g
鯉 塁t
pene
・
trated
into
his
hear
彑
, asif
through
the
openings
left
by
the
expansion ofllis
eye.
(
TawneyTr
.
,
i
,p
.
112
,11
.
27
−
32
)
(
4
’)
そ こ で ,彼
は春
光
の女
神
の権 化
の よう
な一
人
の娘
を 見
か け ま し た。彼 女
は威
勢 赫
々た
る ビム バ キ王
の王
女
で, ム リ ガー
ン カヴ
ァ テ ィー と
いう名
で した
。彼
女
は,彼 女 を見
つ め て見 張
った
眼
の隙
間
から
忍
び
こ ん だ か の よう
に,忽
ち に彼
の心
に這
入
り
こ み ま した
。(
岩 本
,i
,
P .
3Q
−
31
)
(
4
”)
「〔
彼
は
〕
そ こ で , シ ュ リー
ビン バキ 王
の息女
に して,春
の女神
の化身
た る一 人
の美
しい 乙女
が
来
た
のを
見
ま
した
。彼
の眼差
しが
見
開
かれ た
こと
によ
り,通
路
を得
た か
の如
き
彼
女
, ム リ ガー
ン カヴ
ァ テ ィー は
,彼
の心
に,瞬
時
に入
り
込
ん だ の であ
りま
した
。 」(
拙
訳)
い か
が
であ
ろう
か, 「恋
」と は
何
か?
「
愛
」 と は何
か?
とい
う
根 本
問
題
も
含
めて ,恋愛
の メカ ニズ
ムも
基本 的
に
露
にな
る よう
では な
い か 。外
な
る 「愛
の対
象
」が
,聴覚 (
i
)
,視
覚
(
ii
)
な ど
の感
官
を
通
じ て内
な
る心
臓
/
心
に入
り込
む。な
に も な
か っ た内
な
る心
臓/
心
の中
に,突
如 外
な る対
象
に対 応
す
る な にが
し かが
生
ず
る。 そ し て成 長
す
る/
増
大
す
る,と
描
写
され
る の であ
る。 愛 [の対象
】(
2
’)
の鎧 訳
が, “k
§apena ”を う ま く
訳
せ て いな
い こと は
,訳 文
「ふと
一
瞬
,色
青
ざ
め た りいた
し ま した
」自体
の不 可 解
さ
から も
容 易
に想 像
でき
る こと
であ
るが
,動
作 を修
飾
す
るも
の であ
る こ の 「瞬
時
に」 「一
瞬
のう ち
に 」は
,外
な
る 「愛
」が
内
な
る 「愛
」 と な る際
の アク
シ ョ ンを
修
飾 す
る副
詞
と し て捉
え
て初
め て意 味深
いも
のと な
るよ う
に思
わ れ る
。 “ sadyas ”, “kSarPena
”, “kSapam
”と
い った
副詞
が
一
335
一
Komazawa University
NII-Electronic Library Service Kom 三1z三1w三1 University
カ
ー
マ の矢
(
金 沢)
(
23
)
「入
る 」 vi≦一 と
いう
動
詞 語
根
のあ ら
わす
動作
と
呼応 す
るも
の と し て用
い られ
て いる
こと
を看 過 す
べき
では な
い 。恋 愛
の メ カニ ズムを
考
え
る上
で,重要
な副詞
と
言
う
べき
であ
る 。(
ii)
の ,字義
通 り
に は ,「
愛
」hrcchaya
に 「入
られ
た」avi
§ta
r 心
」 cetanaを
有
し てい る,と
いう表 現
の持
つ意義
は,さ
ら に,同
じ『
ナ
ラ王
物 語
』
中
の以
下
の用例
を
対
比
さ せ て み るな ら ば
, い っそ う
明
確
とな
る であ
ろう
。(
v)
k
;tva
matram upaspT6ya sandhyam anvasta nai §adhah/
akptva
padayoh
≦
aucarptatrainarp
kalir
avi
≦at〃
3
〃
sa
samavi≦
ya
ca nala 甲 samipaqlpu
§karasya
ca!
gatva
puskaram
ahedam
ehidlvya
nalena vai〃4〃
(
MNU
,VII
−
3
−
4
;p
.
34
)
(
5
)
Nala
after
act uncleanlyholy
waterhaving
sipped ,Went
to
prayer
, withfeet
unwashen ;−
Kali
seizedthe
fatal
hour
.
Into
Nala
straighthe
垈tered
, and
possessed
his
inmost
soul.
Pushkara
in
haste
he
summoned−
’Come
, withNala
play
atdice
,(
WilliamsTr
.
,p
.
35
,11
.
15
−
18)
(
5
つ
ニ シ ャ
ダ
国
王 が
小
用
を
し た後
,手
, 口を す す
い だま ま
,両 足
の浄
めを
せず
,朝 夕
のお
勤
め
を
した
の です
,そ
こ で, カ リ王 は
ナ ラ王
の身
体
に取
り
憑 き
ま
し迄
。カ リ
王
はナ
ラ王
の身
体
に取
り憑
い た後
,姿
を
変
え
,プ
シ ュ カラ王
子
の許
に
出
かけ
て行
っ て ,プ
シ ュ カ ラ王 子
に こ の よう
に申
し ま し た。 「さ あ
, ナ ラ王 と
賭
を す
る んだ
。(
鎧,P.
42
,ll
.1−
6
)
(
vi)
hirarPyasya
suvarpasyayanayugyasya
v且sasarp!
avistah
kalina
dyute
jiyate
sma nalastada
〃
911
(
MNu
,
VII
−
9
;
P
.
36
)
(
6
)
For
his
wealth ,his
golden
treasures
,
for
his
chariots ,for
his
robes ,Then
possessed
by
Kali
,Nala
in
the
game
was worsted stil1.
(
WilliamsTr
.
,p
.
37
,ll
.
4
−
5
)
(
6
’)
カ リ王
に取
り憑
か れ た ナ ラ王
は , そ こ で黄 金
,貴
金
属
や
,乗 物
,馬
,衣 服
を
かけ
て ,負
け
て しま
いま し た
。(
鎧
,P.
43
,11
.
3
−
4
)
こ こ で
鎧
博
士 が
, 「取
り
憑
く
」a
−
vig と訳
さ れ
て い る行
為 自体
, わ れ わ れ にと
っ ても
既
に比
較
的馴
染
み
深
いも
の であ
る。侵
入
経路
,侵
入
箇所
は
詳
ら
か にな ら な
いも
の の ,悪 魔
によ
る こ の いわ ゆ
る 「憑 依
」 は,先
に見
た,恋
愛 現
象
と基本
的
に は一
334
一
N工 工一
Eleotronio Library(
24
)
カー
マ の矢 (
金沢)
同
じも
の であ
ると
看
倣 す
べき
であ
ろう
。外
な
るな
に か 「異 物
」が
, そ のも
の の中
に 「入
る」avig
こ と に よ っ て , そ のも
の に大 き
な
変 化
が
引 き起
こさ
れ,そ
のも
の の行 動
に大 き く関 与 す
る よ
う
にな
るの であ
る 。悪 魔
カ リ王取
り憑
く/入
る五一
vi一
→ sam一
ま一
vi≦層
◎
そ こ で ,
次
の点 を
指摘
して おき
た
い 。悪 魔
と
も呼
ぶ べき
カ リ王
が
, ナ ラ王
に
厂取
り
憑 く
」 こと
によ り
, ナラ王
が賭
博行
為
に駆
け 立
てら れ
, そ の結
果
,財産
のす
べ てを
失
う
,と
いう
有名
な
エ ピ ソー ド
の発 端
に位 置
して ,き
わめ
て重 要
な
役 割
を
担
う
こ の条 文
であ
るが
, 「取
り
憑
く
」 という
現
象
が
, こ のイ
ン ド的文 脈
の中
で は,そ う も
自明
な
こ と で は ない の であ
る。不 可
解
そ
のも
の の よう
にも
見
え
る。先
ず
は,悪
魔
カ リ王 が
ナ ラ王
の心
の中
に 「入
る 」 という
形
で理
解
さ れ
る。 「心
の中
に入
る」と
一
一
口 に言
っ ても
,簡単
な
こと
では な
い よう
であ
る。隙
を
伺
った
上
, ち ょ っと
した
過 失
の時
を
逃
さ
ず
, カリ王 は
ナ ラ王
の心
の中
に入
る こと
に成 功
す
る。 だが
,(
v)
にも
明
ら
かな
通
り, 「入
った
後
」, カ リ王
は再
び
外
に出
て プ シ ュ カ ラ王
子
の下
に
出
か け
て いく
と
の こと
であ
る。ナ ラ王
の内部
に入
り込
ん だ悪
魔
カリ王
の影 響
で , ナ ラ王
は, ふ つう な ら
決
して手 を
出
さ
な
い筈
の賭博
に踏
み
込
ん で いく
の であ
る。一
度
入
っ たな ら
ば
,出
るのも
入
るのも
自在
であ
る, という
こと
であ
るの か?
悪
魔
カ リ王
に し ても
,身
が
一
っだ と
した ら
,ナ
ラ王
の心
の中
にず
っと
住
み
続
け
るのも
,窮
屈
き
わま りな
い こと
に違
いな
い の で あ る。鎧
博
士 の訳
で は,博
士
が
その点
を ど
のよ
う
に考
え
て いる
の かが
明
確
に な
らな
い の であ
る
。悪
魔
カリ
王
の存
在
を
ど の よう な も
のと
老
えれ
ば
よい の か?
こ の ,
外 部
から心
の中
に
入
り込
む異物
,突
如 心
の中
に生 ず
る異 物
「愛
」kama
の擬
人
化
さ
れ
た
も
のが
,愛神
カー
マと
な る わけ
だが
,別
な伝
承
にあ
っ ては
,愛
神
カー
マ自
身
の か わり
に, カー
マ の持物 (
一
部 ?)
であ
る 「矢
」i
§u にそ
の役割
が
託
され
る こと に な
る。以 下
の 『 ア タ ルヴ
ァ・ヴ
ェー ダ
』 の《女
子
に熱
烈
な
愛
情
を
起
こさ
し む るた
め の呪
文》
と
して の記 述
が
, そ の い わゆ
る 「カー
マ の矢
」 の最
も
古
い用 例
と
して , しば
しば
引
き
合
い に出
され
,種
々 カー
マ論 議
に あ っ て ,詮 議
さ
れ
るの であ
る。(
vii)
uttudastv6ttudatu
m6dh
;th
且h
蠢ayane
sv61i
$ubk
益
masyay
益
bhim
益
taya
vidhyamitva
h
;dl
〃
1
〃
記
hipar
項
卑kama
≦
alyami
§u単 sarpkalp ゑkulmal
且mノ
Komazawa University
NII-Electronic Library Service Kom 三1z三1w三1 University
カ
ー
マ の矢 (
金
沢)
(
25
丿t6m
s丘sarpnatatpkrtvti
k6mo
vidhyatutva
hrdi
〃
2
〃
y
ま
plih
ま
narP首
o頒
yati
kamasy6suh
susalpnata!
prticinapakStt
vy6Sataya
vidhyamitv
且h
;di
〃
3
!
!
(
AV
,III
−
25
−
1
−
3
;
p
.
45
)
(
7
)
L
Let
the
up・
thruster
thrust
(
tud
)
thee
up ;
do
not abide(
dhr
)
in
thine
ownIair
;the
arrow oflove
(
航 解 α) that
is
terrible
,therewith
I
pierce
thee
in
the
heart
.
2
.
The
arrowfeathered
withIollging
(
々4
ん6
)
,tipped
withlove
, neckedwith
resQlve
(
?5
α瞬
ψ
6
一
)
−
having
madethat
wel1・
straightened,
let
love
pierce
thee
in
the
heart
.
3
.
The
we11−
straightened arrow oflove
whichdries
the
spleen,
foward
−
winged , consuming
(
vOr δ5a)
−
therewith
I
pierce
thee
in
the
heart
.
(
WhitneyTr
.
,{
,p
.
130
,1L
25
−
39
)
(
7
’)
一
刺
戟 者 (
uttuda愛神
カー
マ)
が
汝
を
刺戟
せ ん こ とを
。お
のが
寝床
に留
ま る
な
かれ
。 カー
マ の恐
ろ しき
矢
を も
っ て , わ れ汝
の心
臓
を
貫
く
。二
渇 望
を 羽 と し
,愛
壑
を
鏃
と
し ,空
想
を
クル マラ
(
鏃
と矢 柄
の接合 点)
と
な
す
こ の矢
を
,狙
い定
め て〔
番
え
〕
, カー
マを
して汝
の心
臓
を
貫
か し め よ 。三
狙
い定
め
て番
え られ た
る カー
マ の矢
は
,脾 臓
を涸
ら
し,そ
の矢
羽
は直
進
し,
焼
き 尽
くす
。三
の矢 も
て わ れ汝
の心
臓
を
貫 く
。(
辻
2
,P .
100
,II
.
2
−7)
筆者
に は, こ の 『ア タ ルヴ
ァ・ヴ
エー ダ
』 の(
vii)
に対
して の翻
訳
であ
る , ホイ
ット
ニ ・一一
の(
7
)
や
辻 直
四
郎博
士
の(
7
’)
に就
い てあれ
これ
詮議
す
る資
格
はな
い 。が
,あ
る意
味
で は, こ の条
文
に見
ら れ る カー
マを め
ぐ
っ て の用 語 法
こ そが
, それ
以
降
にあ
っ ても
,や
はり
支 配 的
なも
の ,決 定 的
な も
のと
言
え
るの であ
る。 こ こ に は 「カー
マ 」kama
も
「カー
マ の矢
」kamasya
〜
i
$u一
も
,さ ら
にま た
「カー
マ の鏃
」kama
−
≦alya ま でも が
し っ かり
と現
れ
て い る の であ
る。 しかも
辻
博
士
は ,踵
を
接
して用
いられ
る同
一
の 二 つ の語
“kama
”を
, 「愛神
カー
マ 」 の こと
を
意味
し
て の 「カー
マ 」と
,抽
象 的
な
(?
)
「愛 欲
」と
に訳
しわ け
てお
ら れ る。 「矢
」i
§u は, カー
マ神 所 属
のも
の と し, 「鏃
」ξ
alya に先
立
つも
のを
厂愛 欲
」と理
解
さ れた
。 「愛 欲
の鏃
」kamagalya
を
有 す
る
愛神
「カー
マ 」 の 「矢
」kamasya
〜i
$uと
で あ る。そ し て, こ れ に カ
ー
リ
ダ
ー
サ
作
『ヴ
ィ ク ラマ ・ウ
ルヴ
ァ シー
』 の以
下
の用
例
を
対
比 さ
せた
な
ら
ば
, 「カー
マ の矢
一
)に関
す
る一
つ の重 要
な
局 面
が
明確
に な る だ ろ一
332
一
N工 工一
Eleotronio Library(
26 )
カー
マ の矢 (
金沢
)う
。(
viii)
a
dar
≦anatpravi
§ta
sa me suralokasundarlh
;dayam
!
btipena
makaraketohkrtam
訌rgam avandhyapatena〃2〃
(
VU
,II
−一
?“
;p
.
30 )
(
8
)
Ever
sinceI
sawher
,that
celestial onehas
enthronedherself
in
myheart
to
which access wasgiven
to
her
by
the
unerring shafts ofLove
.
(
DevadharTr
.
,i
,p
.
31
,11
.
2
−
4
)
(
8
’)
一
目
見
し目
より
こ の か た, か の天
界
の美女
余
が
胸
に入
りこみ
てあ
り一
鰐
鮫
を
旗幟
に描
ける愛神
の必
中
の矢
に ,通
路
の穿
た
れ て し胸 中
に(
大 地原
p ・
132
,11
・
2
−
3
)
(
8
”)
一
目見
て以来
, か の天
界
の美
女
が
, マ カ ラを
旗
印
とせ
る〔
愛神
カー
マ〕
の必
中
の矢
に よっ て ,通 路
の穿
たれ た
,わ
た しの心
に,入
り込
ん で い る の であ
り
ます
。 (拙 訳
)
筆 者
が管
見 す
る に , カー
リダ
ー サ
の この(
Viii
)
の記 述
ほど
に 「一
目
惚
れ
」 に対
して愛 神
カー
マ の関
与
す
る様
を
,合
理
的
に解
き
明
か し,描
写
した
も
の はな
い よう
に思
う
。 い かが
であ
ろう
?
愛神
カー
マは
,時
を
見計
ら
っ て ,男
の心
臓 /
心
に向
け
て 「矢
」bana
を放
つ 。 その結 果
,男
の心
臓
/
心 に は
,外 部
に通
ず
る 「通 路
」 margaが
穿
た れ る 。そ
の通 路
を
通
っ て , 「愛
の対 象
」た
る女
性
が
,外部
か ら心
臓
/
心
の中
に入
り
込
む
。恋
愛
は
,愛
の対
象
であ
る外
な る人物
が
,心
臓
/ 心
の中
に住
まう
, こと
に起
因 す
るド
ラマ とし
て描 出
され
る。(
iv
)
の揚
合
は ,眼
が
大
き
く見 開
かれ る
こ と に よ っ て ,心 臓
へ の通 路
が
開
かれ た
か の如
く な
り , それ を
通
じて ,外
な
る美女
が
,心
臓/
心
の中
に瞬
時
に住
ま う
よう
に な る, と 「愛
神
カー
マ 」を
介
在
さ
せ る こと な
し に,描
写
さ れ
た。だ が
, こ の(
Viii
)
に お い て は, 厂愛 神
カー一
? 」と
厂カー
マ の矢
」が
しっか り と
役割
を与
え られ
ている
の であ
る。先
にも
触
れ
た如
く
,恋
愛描
写
に お い て ,通
常
こう
した
(
viii)
の ような
科 学 的
な
ア プ ロー
チ が な され
る わけ
では な
いが
,次
の点
だけ
は, こ の機
会
に しっ かり
と確 認
して おく
べき
であ
ろう
。外
な る愛
の対
象
が,あ
る時
を
境
に ,内
な
る心
にも
住
まう
よう
に な る。射
ら れ た者
に なにが
し か の 「苦痛
」を も た
らす
こ とが
確
実
な
そ の 「矢
」 は,端 的
に, そ の外
から
内
へ の 「ベ ク トル 」 とし て適 用
さ
れ る わけ
だが
,単
にそ
れ に尽 き
るも
の で は ない 。 そう
, 厂通
路
」を
穿
つ 「ボー
リング
」 と しても機 能
し て い るの であ
る。一
度
穿
たれ
た通
路
は, 「異物
」 に とっ て, 厂入
る」 こと と
同様
, 「出
る」 こと
を 可
一 331 一
Komazawa University
NII-Electronic Library Service Kom 三1z三1w三1 Unlverslty カ
ー
マ の矢 (
金 沢)
(
27)
能
と
す
る。先
の(
V) (
vi)
の悪魔
の 「取
り憑
く
」a
・
vig一
こ とが
,自由
往
来
の為
の 「通
路
」を
穿
つ こ とと
して眺
め た
時
に,初
めて合
点
が ゆ
く
よう
に思
われ
る の であ
る 。悪
魔
とは
, 「他者
の 」内 部
に 「入
っ て 」も
な お
か つ意 志
を
持
ち
続
け
る 「異
物
」 の謂
い であ
ろう
。か
く
し て, イ ンド人
に とっ ても
古来大
問 題
であ
っ た 「恋
愛
」 と, そ の メカ ニ ズ ム の説
明原
理 と
し て重
要
な
役
割
を
担
った
「愛
(
神
)
カー
マ 」,及
び,そ
の持物
と
し て の 「矢
」が
次
の老 察
の対 象
と な る わけ
であ
る 。 こ の 「矢
」 に関
し ても
,従 来
「愛
(
神 )
カー
マ 」を
論 ず
る際
に関 説
さ れ
る こと が
普
通
で,そ れ ら
につけ ば
, お お む ねそ
の概要
を
了
解 出来
る よう
な塩
梅
で はあ
る が, にも
か か わらず
,具体
的
な
文
献
に即
し ての歴
史
的
な
ア プ ロー
チが
徹
底 さ
れ て い る と は言
い難
い状 況
と も
見
ら
れ
,ま た
,そ れ
を扱 う研 究 文 献
な ど
も
,気軽
に参 照
でき
るよ う な
状
況
で は ないと
も見
られ
る の で , こ こ で の筆者
のや や ト
リヴ
ィ ァ ル に過
ぎ
る か の よう
な取
り
組
み にも
,な
にが
し か の意義
があ
ると
考
え る。愛
が
心
の内
部
に
自
生
して い るも
の で はな
し に,あ
る時
突
然
に心
の外
部
から
侵 入
し てく
る , という
メ カ ニ ズ ムを
十 分
に解
き
あ かす
上
でも
,重
要
な鍵
を
握
る 「愛
(
神)
カー
マ の矢
」 の問題
で あ る。2
.
カ
ー
マの
矢
そ
も
そも
,筆者
が
本
稿
を
起
こ そう と
思
い立
った
直 接
の動 機
は 『カ ター ・サ
リット ・サ ー ガ
ラ』中
の ,以 下
の一
節
に遭 遇
し た こ と にあ
る。 その解釈
に難
渋
し た こと
に端
を
発 す
る。愛 神
カー
マが
,花
の矢
を
武器
と し て持
つ こと
はつと
に有
名
な こ と であ り
,種
々作
品
の中
にも
しば
しば
そ のよ う
に言 及
され
る。恋
愛
の取
り
持
ち
役
と し
て の カー
マ神
は
, そ の務
め を
自
ら
の武 器
・持
物
とし
て の矢
を
射
込
む
こと
によ
っ て果
た
す
,と
の説 明
に関
わO
を
持
つ ,以 下
の問題
の 「一
目
惚
れ 」 の描 写
を
検 討
し てみ
よう
。(
ix
)
indrotsavaip
kad
且cic caprek
§itur
;i nirgata vayam!
kanyam
ek 護m apa ぎy
且makamasyastram
asayakam〃
3
indradatto
mayap
歟 astatah
keyarp
bhaved
iti
!
upavar §asuta seyam upako ≦eti so ’
bravit
〃4
sa sakhibhi
≦
ca mam.
ififitv
五pritipe
≦
alayad
τ≦a
!
kar
§anti manmanahk
;cchrad agacchadbhavanam
nijam〃
5
pttmacandramukhi
nilanirajottamalocana!
mppalanalalalitabhuja
pinas
tanojjvala
〃
6
一
330
一
(
28
)
カー
マ の矢 (
金 沢)
(
9
)
saw a ma 童
den
lookin
like
some weapon GfKama
, not ofthe
nature of ankambukupthi
prava
; 巨bharadanacchada
≦obhini!
smarabhupatisaundaryalnandirevendirapar 巨
117
tatah
k5ma
・
≦ar五pata
・
nirbhinneh
;daye
na me!
ni≦
量
tasyam
abhUn nidr 巨tadVimbo5thapipasaya
〃
8
(
KSS
,1
−
4
−
3
−
8
;
pp .
7
−
8
)
Once
on atime
when we went outto
witnessthe
festival
ofIndra
wearrow
.
Then
Indradatta
, on my asking
him
whothat
lady
might
be
, replied.
‘‘She
is
the
daughter
ofUpavarsha
, andher
nameis
Upako6
且 ”;and she
found
outby
means ofher
handmaids
whoI was , anddrawing
my soulafter
her
with aglance
madetender
by
love
, she withdi
缶culty managedto
return
to
her
own
house
.
She
had
aface
like
afull
moon, and eyes
like
ablue
lotus
;shehad
armsgraceful
like
the
stalk of alotus
, and a
lovely
full
bosom
;shehad
a neck marked withthres
lines
like
a shel1 , and magnificientcoral
l
量ps
;in
short , she was a secondLakshmi
, soto
speak ,the
storehouseof
the
beauty
ofKing
Kama
.
Then
myheart
was cleftby
the
stroke oflove
’s arrow , and
I
could not sleepthat
nightthrough
皿y
desire
to
kiss
her
bimba
lip
.
(
TawneyTr
.
,