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ジャーナリスト出身の呉豊山氏のもとで, 公共は 高品質 の番組の制作に注力した 開局後間もない 1999 年, 行政院 ( 内閣 ) が専門家に依頼して番組の中から優秀作品を選ぶ 金鐘奨 に, 連続ドラマ部門で 塩田児女, 子ども向け番組部門で 水果冰淇淋, 教育文化番組部門で 旧情綿綿, 公共サー

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第 3 回

台湾

「公共放送への資金投入の大幅増加を」

~国立政治大学 馮建三教授に聞く~

メディア研究部

山田賢一

馮氏は,1959 年に台北市近郊の台北県(現・新北 市)三重市に生まれ,政治大学報道学科の大学院を 卒業後,イギリスのレスター大学で博士号を取得,台 湾に戻ってからは淡江大学,政治大学で教鞭をとり, 1995 年から政治大学教授を務めている。主な著作に 『広告文化』,『新聞学』(「新聞」は報道の意味),『媒 介経済学』などがあり,台湾におけるマス・コミュニ ケーションやメディア研究の第一人者として知られる。 1990 年代 以降は台 湾で公共放 送のテレビ局を開 設・発展させるための市民運動に長く取り組んできて, 2002 ~ 05 年にはメディア NGO の台湾媒体観察教 育基金会(Taiwan Media Watch)理事長も務めた。 馮氏へのインタビューは 2015 年 3 月 19 日に実施し, 一部電話で補足取材した。

─台湾における公共放送の歴史と現状

台湾では戦後,蔣介石政権の軍隊が進駐 し,長期にわたって国民党の一党支配による 権威主義体制が続いた。こうした体制下で は,当局の意向に忠実なメディアのみが認めら れ,1962 年に開局した「台湾テレビ(台視)」, 1969 年に開局した「中国テレビ(中視)」,1971 年に開局した「中華テレビ(華視)」はいずれも 国民党系の商業局で,この3局により寡占体制 が長期間維持された。1980 年代後半から民主 化が始まる中,政治的に中立で編集権が独立 した公共放送を求める声が高まり,1998 年に 初めて「公共テレビ(公視,PTS)」が開局した。 初代の理事長(中国語で董事長)を務めた 公共テレビ ひょう けんさん 三 教授

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ジャーナリスト出身の呉豊山氏のもとで,公共 テレビは「高品質」の番組の制作に注力した。 開局後間もない1999 年,行政院(内閣)が専 門家に依頼してテレビ番組の中から優秀作品 を選ぶ「金鐘奨」に,連続ドラマ部門で『塩田 児女』,子ども向け番組部門で『水果冰淇淋』, 教育文化番組部門で『旧情綿綿』,公共サービ ス番組部門で『原住民新聞雑誌』など多数が 選ばれた。その後も公共テレビは毎年,金鐘 奨の受賞数で圧倒的な強さを見せた1) 現在の従業員は 754人(2015 年9月)で,地 上デジタル放送でPTS(メインチャンネル), PTS2,HDの3チャンネルを送出している。放 送時間は PTSが毎日24 時間,PTS2は午前 6 時~翌日午前 2 時の20 時間,HDは午前6 時~翌日午前 2 時または 3 時である。内容は PTSとPTS2 がニュースから教養・娯楽まで 幅広く,HDは主にニュース以外の編成となっ ている。視聴率については台湾でケーブルテレ ビによる多チャンネル放送が普及していること や,公共テレビが後発であることもあって,メ インのPTSが 全日平均で 0.13%,18 時半~ 24 時の時間帯でも0.23%にとどまっている。 台湾には受信料制度はなく,公共テレビの 2015 年度の運営予算は,行政院からの交付金 や一般の寄付を含め収入が約18 億元(約 70 億円),支出が約 22.9 億元(約 89 億円)とい う赤字予算となっている2)

──「公共テレビ」への基本的な評価

―まず公共テレビの様々な番組への評価からお 聞きしたいと思います。 馮氏:例えばドラマに関して言うと,商業局に は良いものがありませんが,公共テレビの「 人 生劇展」の内容は良いと思います。 ニュースに関しては,商業局は本来のニュー スバリューをあまり考えず,YouTubeに載って いる交通事故の映像など,人目を引くものを安 易に引用する傾向がありますが,公共テレビに はそうした問題がなく,商業局にはほとんどな い国際ニュースもきちんと出しています。国際 ニュースについて自前で取材したものが少ない ことは不満ですが,これは公共テレビに十分 な予算がないことが原因です。ニュース評論番 組でも,商業局は「名嘴」と呼ばれるお決まり のコメンテーターが毎日出てくるのですが,公 共テレビはその日のテーマによって呼ぶ専門家 を替えていますし,議論のバランスをとること を重視しています。ただ,『有話好説』3)のキャ スターは,自分でしゃべりすぎず,もう少しゲ ストの意見を聞いた方がいいですし,番組の中 で頻繁に台湾語が出てくるのは,私自身の母 語は台湾語ですけれども,「全ての人への放送」 という点で好ましくないと思います。 解説 「人生劇展」は,公共テレビの看板とも言え る1回完結のドラマ番組枠で,毎週日曜日の 22 ~ 23 時半に放送されている。商業局がアイ ドルの主演する若者向けドラマを主とするのに 対し,人生劇展は多彩なテーマと品質の高さ に定評があり,映画監督も務める柯一正,王 小隷といった著名なディレクターが制作を手が けている。 解説 台湾の公用語は北京語だが,台湾の人口の 約 70%を占めるホーロー(福佬)人という福建

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地方ニュースに関しては,統計をとっていな いので詳しくは言えませんが,台中や高雄など, 台北以外のニュースもまずまず出ていると思い ます。 番組全体として再放送比率が高いことは問 題ですが,これも予算が足りないせいです。デ ジタル発信の出来が今一つということもそうで すが,現在,公共テレビが抱える問題は,突 き詰めるとみなお金の問題になるのです。 ―公共テレビの政治的独立についてはどうご 覧になっていますか? 馮氏:私は毎日,公共テレビを見ていますが, 政府・議会・司法・財閥といった対象について, 問題があれば指摘するという批判性は持ってい ます。確かに今の公共テレビの理事長(邵玉銘 氏)は,(政府でメディアを管轄する部署だった) 新聞局の局長経験者ですし,こうした“ 背景” がない方がいいのは確かです。ただ,現実に は政治的圧力を感じる事例はありません。 ―今の公共テレビの理事長は与党である国民 党員ですが,このことに問題はありませんか? 馮氏:法律上はダメということはありません。 ただ,党籍保有者がなれる理事の人数につい ては一定の制限があります6) 幹部が誰であるかにかかわらず,編集権の 独立が基本的に確保されているのは,公共テ レビ内部の文化が大きいと思います。初代理 事長の呉豊山氏の 6 年の任期中に,こうした文 化が築かれました。公共テレビの労働組合は 頻繁にSNSで自らの局を批判しており,組織 ジャーナリストの表現の自由が守られているの です。

──公共テレビの財源問題

―先ほど,公共テレビの問題は予算不足という 話をされましたが,どうすれば良いとお考えで すか? 馮氏:もともと台湾の公共テレビは諸外国と比 べ,歴史的にハンデを背負ってきました。例え 系の移民の母語をホーロー語もしくは台湾語と いう。両者は発音が全く異なり,戦後中国か ら台湾に渡ってきた外省人や,客ハッ カ 家,原住民4) などの少数派住民は,台湾語ができない人は 少なくない。公共テレビは,公共テレビ法11 条で「国民全体に属する」とされ,その第5 項 では,番組制作について,「多元性,客観性, 公平性を保持し,かつエスニックグループの間 の均衡に配慮すること」とされている。 解説 公共テレビをめぐっては,2008 年の総統選 挙の直前に,当時与党だった民進党が社長 (中国語で総経理)に民進党色の強い女性を 起用。これを不満とした国民党が,総統選挙 で勝利した後,社長の更迭を理事長に迫った。 しかし,理事長が応じなかったため,今度は 法改正を行って理事の人数を21人にまで増や し,国民党系の理事を大量に送り込むことで 理事長更迭を断行した。これに対し理事長側 は裁判に訴え,公共テレビの理事会運営が 3 年余りにわたってマヒ状態となった5)。このよ うに公共テレビをめぐっては,幹部人事に関す る政治的対立が一時激しかったが,その間も 番組内容についての“偏向”批判などはほとん ど聞かれなかった。

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ばヨーロッパや日本では,放送は公共放送が 商業放送より早くスタートし,人々はまず公共 放送を見る習慣がつきました。これに対しアメ リカや台湾は,商業放送が先にスタートし,公 共放送は後から参入する形となった分,ヨーロッ パや日本より不利なわけです。しかも台湾の公 共テレビは開局が 1998 年で,アメリカよりもずっ と遅れました。 世界的に公共放送を見てみると,フィンラン ドやドイツは受信料制度を改革し,財源が安定 して良くなりました。台湾でも財源の強化・安 定化が必要で,行政院文化部が 2014 年に公共 テレビの予算を増やす公共テレビ法改正案を 提出したのは良いことです。 この案を作成した龍応台部長(大臣)が辞任 したので,後任の部長が同じ目標に向かって 努力してくれるかは分かりませんが,公共テレ ビの予算はもともと多くないので,政策の重点 に持ってきさえすれば,そう難しいことではな いはずです。 ―具体的にはいくらくらいの予算が妥当だと思 われますか? 馮氏:25 年前に公共放送を新設する計画が進 められていた時,与党の国民党は当初,年 60 億元( 約 230 億円)を拠出すると言っていまし た。当時からのインフレ率を考慮すると,「 公 共放送グループ」全体で年間 100 億元( 約 390 億円)の予算を配分するのが適当だと思います。 解説 公共テレビ法改正案では,公共テレビがラ ジオ業務も行えるようにすること,物価の変 動に合わせて毎年,政府交付金の額の調整 を検討することなど,公共放送拡大にとって プラスとなる条項がいくつか盛り込まれ,法 律の名称も公共テレビ法(公共電視法)から 公共ラジオテレビ法(公共廣播電視法)に変 更するとされている。ただ,具体的に交付金 をいくら増やすといったことは明記されておら ず,公共テレビ職員の中には「さほど大きな 前進とは言えない」との声もある。また,台湾 では総統選挙が近づくとこうした法案が選挙 後まで棚上げにされることが多く,いつ法改 正が実現するかは全く未知数である。 解説 ここで「公共放送グループ」(公廣集団)に ついて説明する。台湾では,メディア環境の 改善を目標に,馮氏らメディア研究者が中心 となって2003 年に設立した「媒体改造学社」 というNGOなどが,公共放送の拡充運動に 取り組んできた。これを受けて民進党政権時 代に公共放送拡充政策がとられ,2006 年, 旧3 大商業局の1つである「中華テレビ」が公 共化された。続いて2007年には,少数派住 民向けチャンネルの「客家テレビ」と「原住民 テレビ」,さらに国際放送の「宏観テレビ」が 相次いで加わり,アナログ放送でテレビ 5チャ ンネル,デジタル放送も含めると8チャンネル の公共放送グループを形成した7)(次頁図参 照)。この時点でグループの年間予算は,公 共テレビが自ら集めた寄付収入などを含める 公共放送拡大を求める市民運動(馮氏提供)

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──

公共放送グループのあるべき姿

―公共放送グループのあり方についてはどうお 考えですか? 馮氏:今のグループの状況は,お金も足りない し,士気も低下した好ましくないものです。グ ループの構成員がみな「 あなたはあなた,わた しはわたし」という態度で,バラバラになって います。しかもこの状況について,総統や行政 院長( 首相),文化部長といった政治リーダー 達が何も発言しないことが最大の問題です。 現在の公共放送は規模が小さすぎるので,原 住民テレビを含め,再度,公共テレビが主導す る形で統合すべきです。多チャンネルの体制で 資源を共有した方が効率が良くなるので,邵玉 銘理事長がもっと政界に働きかける必要があり ます。 と,合わせて20 億元(約 78 億円)を超えて いた。ところが,中華テレビについては,政 府が当初予定していた予算 6 億元(約 23 億 円)の配分が実際は行われず,9 年経った今 でもその収入は全面的に広告に依存しており, 中華テレビが果たして本当に「公共化」した のかは疑わしい状態である。また原住民テレ ビについても,「真の原住民のためのテレビ 局になるには,漢民族の主導する公共放送 グループから独立すべき」との原住民選出の 立法委員(国会議員)らの強い主張によって, 2014 年1月,運営が原住民団体の原住民族 文化事業基金会に移管され,本部が中国テレ ビのビルに移った。さらに国際放送の宏観テ レビについても,海外華僑へのサービスを担 当する行政院僑務委員会に移管すべきとの議 論が出ていて,公共放送グループはその存在 意義を問われる状況となっている。 解説 公共放送グループの統合に向けて,最大 の難関は中華テレビの扱いである。中華テレ ビは開局が 1971年と公共テレビより27年も早 く,またメインチャンネルの視聴率も公共テレ ビより高いことから,中華テレビの職員の間に は,公共放送グループに加入して以降,ずっ と「なぜ公共テレビの主導で統合されなけれ ばいけないのか」という不満があった。その 一方で中華テレビは,かつて国民党の権威主 義体制下で地上テレビが 3局しかない中で莫 大な利益を上げていた1980 年代までの体質 を引きずっているため,現在は恒常的な赤字 体質で,台北の中心部にある土地・建物の莫 大な資産のみがたよりという状態にある。公 共テレビと中華テレビの理事長を兼任する邵 玉銘氏らは,この中華テレビの土地資産の活 図 公共放送グループの変遷 2006 年 7 月 2007 年 1月 2014 年 1月 中華 テレビ 中華 テレビ 中華 テレビ 公共 テレビ 公共 テレビ 公共 テレビ 原住民 テレビ 原住民 テレビ 宏観 テレビ 宏観 テレビ 客家 テレビ 客家 テレビ

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―公共放送グループの統合を考えるにあたっ て,一番難しいのは中華テレビの扱いではあり ませんか? 馮氏:中華テレビは公共放送グループに入った 後,自分達の改革目標について政府に説明し, それに見合った予算を要求すべきだったので すが,そうした説明をしてきませんでした。そ れで赤字がひどいので資産活用という話になっ たわけですが,どういう計画なのか詳細が全 く分かりません。少数の関係者がブラックボッ クスの中で計画を進めたために,文化部長や 立法委員から反対されることになったのです。 中華テレビの遊休資産を外に貸し出すこと自体 には反対しませんが,今の計画については今後 を楽観していません。だいたい遊休資産活用 の現計画が良いものだとしたら,なぜもっと早 く取り組まなかったのでしょう?

──政権交代による変化の可能性

―次の総統選挙で政権交代が起きたら,公共 放送にとっての環境は良くなるのでしょうか? 馮氏:今のところ何とも言えません。というの は,民進党の蔡英文候補は,住宅政策や経済 政策についての方針は打ち出していますが,メ ディア政策については特に言及していないから です。確かに前回(2012 年)の総統選挙の前 に蔡英文候補は,公共放送が台湾のテレビ文 化改善の先頭に立つべきだとの発言をしていま すが,そのために必要なお金の話はしませんで した。また,一般市民も,今テレビ局は多すぎ るほどで,1 つなくなっても大して変わらないく らいに思っていて,メディアの重要性を認識し ておらず,そのことが公共放送への無関心につ ながっています。

──商業局での「中国への遠慮」の蔓延

用を考え,ホテルの建設などを主な内容とす る計画を2015 年7月の公共テレビ理事会で可 決させた。ところがこの計画は,公共テレビ を管轄する文化部の部長が全く知らない中で 進められたため,文化部長や一部の立法委員 が強硬に反対を表明,計画の先行きは不透明 となっている。 事態の改善が見られるのではないかとの期待 もある。実際,中華テレビの公共化や,客家 テレビ,原住民テレビ,宏観テレビの公共放 送グループ入りが実現したのは,いずれも民 進党政権の時代だった。こうした期待が出る 背景には,現在与党の国民党が,ケーブルテ レビ事業者やチャンネル事業者など商業局の 利益を重視し,公共放送の“肥大化”に否定 的な傾向があることがある。しかし,民進党 時代に行われた公共放送の拡大は,予算投 入の裏付けが不十分だったため,実際は機能 しなかったのも事実である。 解説 公共放送の充実は,台湾のメディア研究者 の多くが主張しているが,現実にはここ数年, その動きは全く止まっている。そこで一部に は,2016 年1月の総統選挙で,現在優勢が 伝えられる民進党への政権交代が起きれば, 解説 台湾の商業局の間では,ここ数年,中国 への批判的報道が影を潜めたと言われる。 これは商業局のオーナーが,中国ビジネスに

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―公共放送を考える上で,中国からの影響の 問題はいかがですか? 馮氏:三立のような商業局の場合,仮に視聴者 が反発しても,オーナーが「 俺の局のことは俺 が決める」と言って無視すればそれまでです。 しかし,公共テレビは視聴者の意見に応えざる を得ないので,中国に関する問題を取り上げて おり,批判的な内容もあります9)。「 中国に対 する商業局の遠慮 」の問題も公共放送の必要 性を明らかにしていると言えます。

──まとめ

人口2,300万人の市場に300を超すテレビ チャンネルがひしめく台湾では,商業局間の過 当競争が確かに大きな問題となっている。例 えば 2004 年の総統選挙の際には,開票速報 を行ったテレビ局のうち,台湾テレビ,中国テ レビ,中華テレビ,GTV 総合,TVBS,年代, 東森,中天,全民(現・民視)の 9局が,候 補者の総得票数を上回る“中間票”を速報する という問題が起きた。視聴率を上げるためには 他局よりも多くの票が出ている必要があり,各 局が競って“予想”した票数の早出し競争をし ていたのである。主要局で問題が起きなかっ たのは公共テレビだけだった10)。このように, 過度の商業主義から自由な立場にあり,かつ 政治的中立も基本的に維持してきたことは,有 識者の間で公共テレビへの評価を高めた。ま た,中国による台湾や香港のマスメディアへの 影響がここ数年強まっているとされる中で,中 国をタブー視しなくても良い,商業的利益と無 関係な公共放送の重要性は,ジャーナリズム の視点からは一段と高まっていると言える。 しかし,公共テレビを中核とする公共放送グ ループがスムーズに拡大できるかどうかは,ま た別問題で,拡大への第一の難関は,商業局 の反対である。本来,商業局間の過当競争は, 商業局間の合併など,ある程度の寡占化によっ て解決すべき問題だ。しかし,もともと文化的 にサラリーマンよりも企業経営者への志向が強 いとされる台湾において,テレビ局のオーナー は,立法委員などの政治家とのコネを作りや すいこともあって,「赤字でもやりたい」事業と なっている。そして商業局のオーナーは,メ ディアの持つ社会性といったことへの配慮より, もっぱらオーナー個人の利益を考える傾向が 強い。こうしたオーナー達からすれば,視聴率 が一部でも公共放送に奪われれば,広告収入 の減少につながるので,公共放送は極力小規 模であってほしいのである。 もう1つの問題は,仮にこういった経済的問 題を何とか乗り越えたとしても,公共放送が拡 大すれば,政治介入もより大きくなるおそれが あることだ。現在の公共テレビについては,確 かに政治的圧力はそう目立っていないが,公共 テレビ報道部の関係者によると,これは「うち の視聴率が低いことと関係がある」という。視 魅力を感じているのが原因とされる。例えば 三立テレビは,もともと中国の独裁体制に批 判的な民進党寄りのメディアだが,テレビド ラマの海外展開に力を入れる中で,2012 年 5月,中国への批判をいとわない論調で人気 を博していた10 年間の長寿番組『大話新聞』 の鄭弘儀キャスターを突然降板させ,番組を 打ち切った8)。この問題について三立と鄭氏 は沈黙を守っているが,テレビ業界関係者の 多くは,中国から圧力がかかったのが原因と 見ている。

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聴率が上がって影響力が大きくなれば,政治 的圧力も当然大きくなるというわけだ。実際, 現在の公共テレビの規模はヨーロッパや日本よ りはるかに小さいにもかかわらず,国民党は政 権奪還後に公共テレビ理事長の座を自派の人 間に置き換えたし,現在の理事長も国民党籍 を持っている。今後,公共放送の規模が拡大 すれば,人事だけでなく,個別の番組や報道 の内容にまで口を出す可能性が大きくなる。 さらに,公共テレビがこれまで果たしてきた, 商業局には希薄な「公共性」「社会性」「批判 性」などの機能を,新興のネットメディアが果 たしつつある11)ことも,今後,公共放送の拡 大は必要不可欠ではないとの議論につながる 可能性がある。公共テレビを中核とした公共 放送拡大の前途は非常に険しい。 (やまだ けんいち) 注: 1) 詳細は,拙稿「台湾公共テレビの挑戦」『放送研 究と調査』2002 年 11 月号参照。 2) 公共テレビに関する諸データについては,以下の ホームページを参照。http://www.pts.org.tw/ 3) 公共テレビが月~木の 20 ~ 21 時に放送してい るニュース評論番組。陳信聡氏がキャスターを 務める。 4) 台湾では「先住民」という言葉には滅亡した民 族のイメージがあり,先住民自体が「原住民」と いう言葉の使用を主張していることから,本稿で は「原住民」を使用する。 5) 詳細は,拙稿「新政権の“圧力”に揺れる台湾の 公共放送」『放送研究と調査』2009 年 4 月号, 及び拙稿「揺らぐ公共放送の政治的独立」『放送 研究と調査』2011 年 6 月号参照。 6) 公共テレビ法 13 条第 2 項には,「理事は同一政 党に所属する人物が 4 分の 1を超えてはならない」 とあり,同時に「理事は任期中に政党活動に参加 してはならない」とされている。 7) 詳細は,拙稿「公共放送拡大に向かう台湾」『放 送研究と調査』2007 年 6 月号参照。 8) 詳細は,拙稿「中国への「配慮」強まる台湾・香 港メディア(上)」『放送研究と調査』2013 年 5 月号参照。 9) 例えば,中国の人権派弁護士の陳光誠氏が 2012 年,当局による軟禁を逃れて北京のアメリカ大使 館に逃げ込んだ際,公共テレビは 5 月 8 日の『有 話好説』で電話による単独インタビューを実施, 関係者によるとこれは台湾のテレビ局では陳氏へ の唯一のインタビューだったという。 10) 詳細は,拙稿「メディアの“行き過ぎ”を監視」『放 送研究と調査』2004 年 12 月号参照。 11) 詳細は,拙稿「“百花繚乱”香港・台湾のネッ トメディア(下)」『放送研究と調査』2015 年 10 月号参照。

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