• 検索結果がありません。

ベネズエラ 何が争点か? 19 年 6 月 1 日現在 1. マドゥーロ大統領の正当性 2. グアイドー暫定大統領の正当性 3. 経済危機の現状 : 厳しい経済状況 4. 人権が著しく侵害されているか? 5. なぜ 人道的危機 と規定するのか 6. 弾圧があるのか? 7. 制裁と内政干渉 8. 外国

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ベネズエラ 何が争点か? 19 年 6 月 1 日現在 1. マドゥーロ大統領の正当性 2. グアイドー暫定大統領の正当性 3. 経済危機の現状 : 厳しい経済状況 4. 人権が著しく侵害されているか? 5. なぜ 人道的危機 と規定するのか 6. 弾圧があるのか? 7. 制裁と内政干渉 8. 外国"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

ベネズエラ、何が争点か?

19 年 6 月 1 日現在 1. マドゥーロ大統領の正当性 2. グアイドー暫定大統領の正当性 3. 経済危機の現状:厳しい経済状況 4. 人権が著しく侵害されているか? 5. なぜ「人道的危機」と規定するのか 6. 弾圧があるのか? 7. 制裁と内政干渉 8. 外国軍事介入の可能性 9. 米国及び EU の干渉の目的 10. 国民の支持はどこにあるのか 11. メキシコ・ウルグアイの対話案提出される 12. 真の解決を求めて 現在、ベネズエラについての報道の基準は、日本の内外においても、マドゥーロ大統領の 正当性を認めるかどうかで、正反対のものになっている。米国、EU 諸国の大半、日本を含 め52 カ国がマドゥーロ大統領を、法的に正当性をもたないとして認めず、グアイドー臨時 大統領を正当な大統領と認めている。一方、非同盟諸国120 カ国を始め、140 カ国は、マド ゥーロ政権を正当と認め外交関係を維持している。 以下、一体どうして大きな見解の分裂が起きているのだろうか。現在のベネズエラ問題の 諸側面から見てみたい。 1. マドゥーロ大統領の正当性 マドゥーロ政権が正当性をもっていると見られるのは、次の経過からである。 2016 年 2 月から野党の MUD(民主団結会議)は、マドゥーロ大統領退陣に向けた罷免国 民投票を求めた。しかし、全国選挙評議会(CNE)の申請承認が大きく遅れ、罷免国民投票を 2016 年中には実現できなかった。そこで野党は、2017 年 1 月、多数を占める国会で多数決 により、マドゥーロ大統領が職務放棄(憲法第233 条の絶対的不存在)をしているとの宣言 を採択した。しかし、最高裁は、無効と判断したが、野党は国会で閣僚の罷免要求を乱発し、 国会は機能不全になった。また、野党は、4~5 月過激な暴力デモ継続した。 そこで2017 年 5 月 1 日、マドゥーロ大統領は、憲法第 347 条(制憲議会選挙の許可)な どに基づいて制憲議会の招集を提案。野党 MUD は、制憲議会選挙への参加の意向を示し、 与野党会議で従来の国会と制憲議会が共存すること、議席の配分も合意した。しかし、双方 がその合意書にまさに署名しようとしていた時、米国大使館から野党側の携帯に電話があり、 野党は合意書に署名しないと態度を豹変した。制憲議会の正当性を否定することは、この野 党の討議プロセスと到達点、合意点を否定することになる。 与野党双方は、2017 年 9 月 13 日からは、ドミニカ共和国でメディーナ・ドミニカ大統 領、サバテーロ元スペイン首相の仲介で、会談をおこなった。野党の過激派、大衆意志党は

(2)

2 会談に参加しなかったが、与野党協議は断続的に行われた。協議では、①ベネズエラの主権、 ベネズエラへの干渉と制裁への反対、②大統領選の選挙日程、選挙の保証、③立憲主義国家 の強化、④経済・社会政策、⑤真相究明委員会、⑥合意検証委員会にの6 項目が話し合われ、 野党の意見が入れられ、合意に達した。 最終的には2017 年 2 月 6 日、政府側は、合意書の署名のためにドミニカを訪問し、合意 書に署名して、野党側の署名を待つことになった。しかし、ホルヘ・ボルヘス野党代表は、 コロンビアにいるティラーソン米国務長官から電話を受け、署名しないようにとの指示で翻 意し、署名をしなかった(HispanTV, Telesur 18.02.07)。仲介者のサパテーロ元首相は、双 方が合意に達していた文書を公表し、野党側の不誠実な態度を批判しているのである。 この交渉プロセスを見ると、マドゥーロ大統領に正当性がないと断罪するのは困難がある。 2. グアイドー暫定大統領の正当性 2019 年 1 月 5 日輪番制で野党が支配する国会議長に大衆意志党のフアン・グアイドー氏 が選出されると、グアイドー氏は、「軍部の支持があるならばマドゥーロ氏に代わり臨時大 統領に就任し、その後に自由選挙を実施する用意がある」と表明し、米国とリマ・グループ の要望に呼応する発言を行った。 グアイドー議長は、1 月 23 日、突然、野党の集会で「(憲法)第 333 条及び 350 条に基づ く責任を私は果たす。非暴力を約束する。(マドゥーロによる)権限侵害を止めさせるため、 ベネズエラの使命を与えられた大統領として国家行政権を正式に掌握することを誓う」と宣 言した。しかし、この二つの条文は、憲法擁護の精神をのべたもので、大統領を宣言する理 由は書いておらず。グアイドー議長の宣言の直後、ポンペオ米国務長官は、「米国は、憲法第 233 条に基づき(絶対的欠缺=不存在)就任したグアイドー新臨時大統領を承認する」と述 べた。 憲法第233条には大統領の絶対的不存在について、以下のように述べられている。 「第233 条【絶対的欠缺(不存在)】 共和国大統領の絶対的欠缺(絶対的不存在)と は、次のものを言う。死亡、辞任、若しくは最高裁判所の判決により命じられた罷免。 または最高裁判所により任命され、国会の承認を受けた医師団が認定したその身体的あ るいは精神的な恒常的な不能力。または国会により職務放棄と宣言された状態、あるい はその任期についての国民投票による取消(下線筆者)。 この憲法の内容からすれば、マドゥーロ大統領の不存在を問うことには無理がある。 しかも、同じ野党の社会主義運動党(MAS)のフェリーペ・ムヒカ議長(Globovisión, 19.01.2)、エンリケ・カプリーレス正義第一党の指導者(19.01.31 Nuevo Herald)も、自己 宣言に反対しており、23 日にグアイドー議長が暫定大統領を宣言するとは知らなかったと 証言している。 実際は、前夜の22 日、ペンス副大統領がグアイドーに電話し、大統領を宣言するなら、 支持すると約束していたのである。これは、数週間前から、米国政府上層部、同盟国、国会 議員、ベネズエラの野党と極秘に進められた計画によるものであったと、ウォール・ストリ ート・ジャーナルは報道している (19.01.25 WSJ)。同氏の自己大統領宣言は、野党が支配 する国会でも事前の承認を得ておらず、街頭で行ったものであり、正当性は疑わしいもので

(3)

3 ある。実際、1 月 21 日~2 月 2 日に行われたインテルラセス社による世論調査によると、マ ドゥーロ氏が合法的と見る人々は57%、グアイドー氏を正当と認めるのは 32%, 回答なしが 11%であった(19.02.10 Ultimas Noticias)。 ベネズエラの大統領選挙では、マドゥーロ候補か野党統一候補に直接投票するのではなく、 それぞれの候補を推薦している政党を選び、政党に投票するのである。マドゥーロ候補は、 10 政党が参加する拡大祖国戦線の統一候補であり、MUD には 16 の政党が参加している。 それぞれの政党は独自に活動し、選挙やデモに参加している。デモの写真を見ればそれは一 見してわかるはずである。独裁と批判するが、与党の10 政党は独自の見解を表明し、国会、 県知事職ではそれぞれが選出されている。 1 月 21 日~2 月 2 日に行われたインテルラセ社による世論調査によると、マドゥーロが 合法的57%、グアイドー32%, 回答なし 11%(19.02.10 Ultimas Noticias) 3. 経済危機の現状:厳しい経済状況

(4)

4 チャベス大統領は、歴史的な「石油依存体質」(GDP の 16%、輸出額の 90%)から脱出す るため経済の多角化を図ったが、15 年の短期間では十分な成果を上げられなかった。03 年 には、慣習となっている資本の海外逃避を避けるため、また輸入食料品などの生活必需品に 補助金を支給するため、国内通貨ボリーバルとドルの交換レートを固定した。外貨収入が十 分あった場合、固定レートは機能したが、交換レートの固定化は、国内通貨の過大評価とな り、インフレを恒常的に引き起こす要因となった。2008 年、2014 年石油価格が下落した際、 補助金を削減し、輸入も削減し、政府は価格の高騰を統制しようとしたが、物資の買い占め、 隠匿、横流し、密輸が増加して、闇市場がこの政策を阻んだ。インフレの高騰、物資不足の 蔓延、人為的な通貨高などは、貧困層、中間層の生活に大きな打撃を与えることとなった。 インフレは、15 年 181%、16 年 404%で、ハイパー・インフレではあったが、数千%とい う天文学的なものではなかった。しかし、ここまでは、国内の与野党の共同の努力で、ハイ パー・インフレの鎮静化も、経済の活性化も不可能ではなかった。マドゥーロ政権は、国内 産業に経済活性化のためベネズエラ経団連(FEDECAMARA)や中小企業に幾度となく協 力を要請したが、政治の両極化が進んでいる中で、協力が実現するには至らなかった。 しかし、14 年 12 月にオバマ米大統領が、「14 年ベネズエラの人権及び市民社会擁護法」 で、経済制裁を科して以降、ベネズエラ経済は、加速して経済が後退した。インフレは、2017 年にトランプ政権により経済制裁が強化される中で性質が変わり、天文学的に悪化した。 200 1 200 2 200 3 200 4 200 5 200 6 200 7 200 8 200 9 201 0 201 1 201 2 201 3 201 4 201 5 201 6 201 7 201 8 ラテンアメリカ 0.4 -0.4 2.2 6.1 5.0 5.8 5.8 4.1 -1.9 6.1 4.2 2.6 2.7 -0.4 -0.4 -1.1 1.2 2.2 ベネズエラ 3.4 -8.9 -7.8 18.3 10.3 9.9 8.2 4.8 -3.3 -1.9 4.5 5.6 1.3 -3.0 -7.1 -8.0 -8.0 -22. -25 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 25

ベネズエラ

GDP推移2001~2018

(5)

5 こうした経済状況の中で、実際の生活状況では、いずれも、著しく誇張された数字が報道さ れている。17 年、食料不足のために過去1年で国民の約4分の3が痩せ、1人当たりの体重 が平均8.7 キロ減った(日経)と報道され、さらに 18 年の 1 年間ベネズエラ生活状況調査 (ENCOVI)で 64%が、体重が 11 キロ減ったとされている。2 年間で平均約 20 キロ体重 が減ったことになる。平均体重が70 キロと過程すれば、50 キロに激減したことになる。し かし、映像や、写真で集会やデモの参加者の顔を観察してもそういう印象はない。いずれも、 対象の選択、データ作成に疑問がある。このことから、食料を保障もできない政府は、政府 の資格がないと断罪するのは、報道の真偽の読みが浅いものと言わざるを得ない。グアイド ー国会議長は、このままでは、20~30 万人の餓死者がでるだろうと演説しているが、その 断定の根拠を示していない。 このような経済危機の中で、本年3 月カラカスのグリ発電所の電気供給システムが破壊さ れ、24 県中 18 県で 9 日間停電が続いた。原因は、野党は設備の老朽化によると主張してい るが、政府側は、米国の米国防相、米南方軍司令部により、シカゴとヒューストンから行わ れた「米の電磁攻撃」として具体的に反論し、国内の犯人2名を逮捕した。この攻撃による 被害額は、GDP の 1.05~2.5%に達すると推計されている(19.04.03 El Universal)。 また、ラテンアメリカ地政学戦略研究所 (Celag)によれば、2013 年から 2017 年までの米 国による経済制裁の被害は、3,500 億ドルに達した(19.02.10 GV)。これは、毎年 GDP の 20%程度に該当する。また、トランプ政権は、4 月 PDVSA の在米子会社 CITGO の資産 13 億ドルを押収し、グアイドー氏の管理下の置くと発表した。 このように米国の破壊行為、経済制裁は、ベネズエラの経済状況を極めて困難にしている。 IMF は、ベネズエラは 2019 年、1,000 万%のハイパー・インフレの見込みと発表した (18.10.09 Reuters)。これは、過剰な予測で、本年、2 月野党が支配する国会の発表では、 年率約40 万%であったが、5 月、4 年ぶりにベネズエラ中央銀行は、18 年のインフレは 13 万%で、経済はマイナス 22.5%であったと発表した(15.05.29 BBC)。ハイパー・インフレ ではあるが、1,000 万%という天文学的数字は、IMF が恣意的に作成した数値だったのであ る。 あるベネズエラ・アルアナリストは、経済困難の原因の一つとして、「ばらまきともいえ る政策の典型は、チャベス前政権時に始まった貧困層向けアパートづくりだろう。200 万戸 に達し、事実上、無償で提供される。チャベス前大統領は、中国から購入した白物家電も配 った」と断罪している。 30.9 25.1 26.9 27.6 20.0 56.3 68.5 181 404 967 0.0 500.0 1000.0 1500.0 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

インフレ率

1988~2016 %

(6)

6 しかし、チャベス政権時代のプライマリー・バランスを見ると、概ね許容範囲といわれる マイナス3%以下であり、バラマキで財政規律を失くしたという批判は当たらない。社会福 祉政策を「ばらまき」としか見ないのは、坂口安紀氏などの内外の共通の新自由主義経済観 と同一で、こうした貧困者への共感のない姿勢で、社会変革を理解できるであろうか。 また、小松崎氏は、「米国は制裁の理由として人権侵害や汚職、民主主義の蹂躙などをあ げている。グアイドー氏はじめ野党はベネズエラに対する国際的な圧力や制裁を歓迎してお り、そのグアイドー支持は7割以上にのぼる。経済制裁に限った昨年一月の調査(米シンク タンク、アトランティック・カウンセル)では、47%が支持し、政府に反対する人々の間で は81%に上った」(19.03.14 日本 AALA ニュース・レターへの寄稿)。小松崎氏が引用して いるAtlantic Council of the United States(米国大西洋協議会)は、保守系のシンクタンク で、グアイドー氏を支持し、ロシア、キューバがマドゥーロ政権を支えていると見る立場に 立っており、同会の調査は、かなりバイアスがかかっているものである。1 月の同会の調査 では、政府支持27%、野党支持 35%、中立 35%で、経済制裁については、不賛成 44%、賛 成47%である。同会の 18 年 9 月の調査では、政府支持 22%、野党支持 32%、中立 48%で ある。マドゥーロ支持が70%以上という数字は、見当たらない。小松崎氏は、資料提供者と 再度数字をチェックされると良いであろう。 ところで、本年1 月 21 日~2 月 2 日に行われたインテルラセ社による世論調査によると、 マドゥーロが合法的 57%、グアイドーが合法的 32%, 回答なし 11%(19.02.10Ultimas Noticias)。また、同社の世論調査によると、べネズエラ国民の 84% は、与野党の対話が国 の問題を解決すると考えている(19.01.27 Globovisión)。 移民問題は、300 万人が国外に?と言われているが、正確な統計はない。しかし、コロン ビア政府統計によると、ベネズエラ=コロンビア国境を通過する9 割近い人々は、買い物や 家族訪問、観光の短期滞在と報道されている(19.02.16 El Universal)。実際は、60 万人程 度と筆者は推定している。 ベネズエラ側でなく、コロンビア政府の資料である。 -5.0 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2009 2010 2011

ベネズエラ、財政収支推移

GDP %

(7)

7 出所:国際移民機構コロンビア委員会及びコロンビア外務省、Telesur 18.09.19. 出所:国際移民機構コロンビア委員会及びコロンビア外務省、Telesur 18.09.19. 4. 人権が著しく侵害されているか? 国連人権理事会は、これまで3 本のベネズエラ報告を発表している。 ①2017 年 8 月「国連人権高等弁務官の報告」ザヒール氏が執筆。 ②2018 年 6 月「国連人権高等弁務官事務所報告」ザヒール氏が執筆。 ③2018 年 8 月「ベネズエラにおける人権の状況等に関する国連の独立専門家による報告 書」国連人権理事会の独立専門家、アルフレド・デ・サヤス専門官が執筆 ①②と③の報告は、真逆の内容となっている。サヤス氏は、①②の執筆者ザヒール氏は、 ベネズエラを訪問せず、反政府勢力の提供した資料に基づいて作成したものと批判している。 ザヒール氏は、キューバに関する人権報告でも特定のバイアスがかかった報告をしており、 同氏の報告を読む際、注意が必要である。 一方サヤス氏の報告は、ベネズエラで与野党、アムニスティ・インターナショナル、人権 監視委員会、ベネズエラ商工会議所などを含め調査した結果の報告であり、より客観性があ 24時間以内の 短期滞在 69% 数カ月以内の 中期滞在 23% 移民目的 5% コロンビア経由 他国に 3%

ベネズエラ・コロンビア国境通過滞在別

18.09 %

24時間以内の短期滞在 数カ月以内の中期滞在 移民目的 コロンビア経由他国に 52 17 14 10 5 2

ベネズエラ・コロンビア国境通過目的

別18.09 %

買い物 家族訪問 就労 その他 観光 留学

(8)

8 ると思われる。 リマ・グループは、17 年 8 月にベネズエラの野党勢力が過激な暴力デモが批判を受け、 活動が行き詰る中、米国の主導のもとに野党勢力を支援するために結成されたもので、結成 以来、常にマドゥーロ政権を人権問題、民主主義の点で批判活動を行っている。リマ・グル ープは、創立時、カナダ、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、グア テマラ、ホンジュラス、パナマ、パラグアイ、ペルー、メキシコ、ガイアナ、セントルシア の14 か国であったが、本年 2 月 25 日にボゴタで開催された会議では、非加盟国の米国の ペンス副大統領が出席し、会議を主宰し、米国の強硬な対ベネズエラ政策、制裁を述べ、グ ループに同調を求めた。フリオ・ボルヘス(正義第一党)国会議員は、米国に軍事介入を要 請した。グループ全体としては、軍事的解決には反対したが、外国勢力の干渉そのものには、 反対してはいない。 また、米国によるリマ・グループの結成とその利用は、米国とカナダを抜きにした33 カ 国が加盟する中南米・カリブ海諸国共同体(CELAC)の中に分裂を持ちこみ、機能不全に して、再び米州機構(OAS)を中心に西半球を支配しようという米国の覇権政策であること を見落としてはならない。 前述の小松崎氏は、人権問題で、アムネスティ・インターナショナルの報告を引用し、「グ アイドー氏が暫定大統領就任宣言前後の5日で反政府参加者が少なくも41人が射殺され、 900人以上が拘留された」とマドゥーロ政権の人権問題を批判しています。アムネスティ・ ベネズエラは、「マドゥーロ政権はこの(グアイドー氏派の)市民の抗議を聞き入れず、解決 策などを平和的に話し合う代わりに、軍隊や警察を派遣して、武力と暴力で対応している。 政府はこの暴力的な弾圧に終止符を打ち、責任追及と被害者の救済を行うべきですが、それ が望めない今、国際社会の介入が必要です」と報告し、外国(特に米国)の介入を誘導する のが目的であることが見え隠れしている。アムネスティ・ベネズエラは、反政府派により構 成されており、野党の意見がそのまま報告されるものとなっているのである。グアイドー氏 が大統領を宣言した後の集会やデモも、先頭の一部の過激派が暴徒化して治安当局と衝突し て、制圧されたことが映像でもわかる。17 年 4~7 月のデモと同じ風景である。なお、アム ネスティ・ベネズエラは、17 年 2 月の「出口作戦」で大衆意志党などの過激派が行った暴 動で、与党派の一般人60 余名が死傷したが、その報告は全く行っていない。アムネスティ・ ベネズエラの報告を、事実の慎重な吟味もせずに引用するのは、科学的な論文執筆の態度と はいえない。 5. なぜ「人道的危機」と規定するのか 2005 年 9 月の国連首脳会合成果文書では、軍事的介入は安保理の承認が必要としていま す。国連の人権部門の独立専門家である米国の弁護士のアルフレド・デ・サヤス氏は、ベネ ズエラを訪問し調査を行い、「もちろん不満、懸念、モノ不足はあるが、ベネズエラの状況は 人道的危機には当たらない」と述べている。 2017 年 4 月、米南方軍司令官のカート・ティッド提督は、米国上院軍事委員会に対して 「ベネズエラの深まりゆく人道的危機が最終的に地域レベルでの対応を要求するかもしれ ない」と断言し、人道的危機と決めつけ、その結果、軍事介入が必要となることを示唆し、

(9)

9 人道危機を口実に軍事介入を行う本心を吐露している。 人道支援の受入れには2 つの形がある。 ① 公的な機関を通じて政府が受け取り、全国民に公平に供給する。 ② 特定の国、組織が、特定の組織に供給する。 マドゥーロ政権は、①の形の人道支援受け入れを、否定してはいない。19 年 2 月、マドゥ ーロ大統領は、ベネズエラの国連機関を通じて20 億ドルの技術的人道支援を政府が受け取 ることを受諾し、20 億ドルは借款として、後ほど支払うと述べている。また、国連に、医薬 品と食料の購入のため技術的な人道支援リストを要請。不可能なれば、ベネズエラは年間40 億ドル支払う用意があると明言している(19.02.21 Sputnik) マドゥーロ政権は、②の米国、ブラジルが行おうとしている反政府勢力への直接の引き渡 しを拒否しているのである。 コロンビア在住の国際赤十字委員会代表団長、クリストファ・ハーニッシ氏は、「現在野 党がおこなおうとしている人道支援は、人道支援ではない。赤十字の人道の条件を満たして いないので、参加しない。独立、一部に利益を与えない、中立という人道の条件により守ら れなければならない」と述べている(19.02.10 Ultimas Noticias)。グテーレス国連事務総 長、人道支援は、マドゥーロ政権を通じて行うべきと主張(19.02.02 La Jornada)。 2 月 23 日グアイドー派は、米国、コロンビアと結託して、コロンビアの国境ククタから 人道支援物資の搬入を強行した。しかし、ベネズエラの国家警備隊に阻まれ入国できず、1 台を炎上させ、国家警備隊の仕業と喧伝した。しかし、実際は、野党派が放火したものであ った(19.03.10 NYT)。グアイドー派の人道援助の真の目的が、人道的なものではなく、政 治的なものであることが暴露された事件であった。 今年になり、5 月末までに政府は、ロシア、中国、キューバから人道支援で 269 トンの医 薬品、食料品を受け取っている(19.05.27 Telesur)。 6. 弾圧があるのか? 弾圧があるのかどうかの判断するためには、次の事実を見ておく必要がある。 ① マドゥーロ政権になって、いずれの政党も禁止されていない。 ② 2014 年、2015 年、2016 年、2017 年、2019 年と反政府派の大規模なデモが行われた が、一部が暴徒化し、公共建造物、個人、警察への過激な破壊行為に出た場合を除き、 デモは制圧されていない。 ③ カプリーレス、アジュップ、フリオ・ボルヘ、ベッキオ、コリーナなどの反政府リーダ ーは、逮捕されずに政治活動を自由に行っている。大衆意志党のレオポルド・ロペスは、 2014 年 2 月の破壊活動の中心人物として裁判を受け自宅軟禁中であったが、4 月 30 日 のクーデター未遂事件の際、脱出し、スペイン大使館に亡命した。 ④ 今回暫定大統領を自己宣言したグアイドー国会議長も弾圧されず、国会議長に今年1 月 選出されている。 ⑤ 今回2 月 22 日にグアイドー氏の方から、カベージョ制憲議会議長に会見を申し込み、 ホテルで会談を行い、翌日の暫定大統領宣言を否定して去り、翌日暫定大統領を自由に 宣言した事実をどう見るか。弾圧機関に、弾圧されている方が生命の危険を顧みず、夜

(10)

10 半に会談を申し込むだろうか。また、弾圧しているのなら、その夜、グアイドー氏をな ぜ逮捕いなかったのか。 ⑥ ベネズエラでは、2 ページの表のように、与党が 10 政党、野党が 18 政党、どの政党も 禁止閉鎖されず、それぞれ自由に活動しており、また自由にデモを行っている。火器な どを使用した過激な暴力デモ以外はいずれも制圧されていない。TV も新聞も反政府派 が70%以上握って、自由に報道している。検閲制度はない。GDP の 60%は私的資本が 占めており、ベネズエラは、完全な資本主義、複数政党制、複数マスメディア主義の国 である。 弾圧があったかどうかの結論は明白であろう。 7. 制裁と内政干渉 もともと、ベネズエラの問題は、チャベス大統領の時期から、新自由主義と決別し真の社 会変革を推進し、大多数の国民の生活向上を図る勢力、革命の側と、これまでの富と権利を 維持して変革をつぶし、新自由主義政策を復活させようという寡頭勢力、富裕層の反革命の 側の、両者の生存をかけた熾烈な戦いである。野党勢力、反革命の側は、人権、政治的自由 の問題を提起しているが、真の目的は一つ、革命を推進する政権を打倒することで、そのた めに、クーデター、街頭での暴力的破壊活動、経済戦争、偽の情報の拡散、内政干渉などあ らゆる手段を使っている。反革命の側は、米国を初めとする海外の新自由主義政権に支援を 求め、ベネズエラの豊富な資源の確保も目指して、内政干渉を誘引しているのである。 革命の側は、これに対抗しつつ、社会改革を進めるが、憲法に依拠しながら反革命の策謀 と戦わなければならない。その中で無法な反政府勢力の過激な行動に対する対応に誤りが出 ることもある。その点を反革命側は利用して反撃する。 マドゥーロ政権になって、体制変換をめざす内政干渉は、一層頻度を早めている。制裁は、 14 年 12 月にオバマ米大統領が、制裁法、「14 年ベネズエラの人権及び市民社会擁護法」案 に署名した時から、EU 諸国も歩調を合わせて始まり、金融制裁は、16 年 4 月から開始され ている。 国連のイディリス・ジャザイリ制裁特別報告官は、1月31 日、米国がベネズエラへの制 裁を強化したことについて、飢餓と医薬品不足につながり、ベネズエラの危機の解決にはな らないと強調している。 制裁は、松井芳郎他『国際法(第5 版)』(有斐閣、2007 年)によれば、「国際法上違法と されるのは,他国の国内管轄事項に命令的に介入すること、すなわち、他国を強制して特定 の行動をとらせ,またはとらせなくすることである。命令的・強制的介入の典型的な手段は 武力であるが。武力による威嚇および武力の行使は国連憲章2条4でそれ自体として禁止さ れているから,武力干渉は不干渉原則と武力行使禁止原則の両方に違反することとなる。 経済援助の停止などの政治的・経済的圧力の行使も,他国による主権的権利の行使を従属さ せたり,他国の政治・経済・文化的体制の選択権を侵害する目的で行われる場合には,違法 な干渉となる(不干渉宣言,友好関係原則宣言)。」ということです(110 頁)。 1970 年に国連総会で採択された「国際連合憲章に従った国家間の友好関係及び協力につ いての国際法の原則に関する宣言(友好関係原則宣言)」では、このように述べられていま

(11)

11 す。 「いかなる国又は国の集団も、理由のいかんを問わず、直接又は間接に他国の国内問題又 は対外問題に干渉する権利を有しない。 したがって、国の人格又はその政治的、経済的及び文化的要素に対する武力干渉その他 すべての形態の介入又は威嚇の試みは、国際法に違反する。 いかなる国も、他国の主権的権利の行使を自国に従属させ又は他国から何らかの利益を得 る目的で他国を強制するために、経済的、政治的その他いかなる形の措置も使用してはな らず、またその使用を奨励してはならない。 また、いかなる国も、他国の政体の暴力的転覆に向けられる破壊活動、テロ活動又は武 力行動を組織し、援助し、助長し、資金を与え、扇動し又は、黙認してはならず、また、 他国の内戦に介入してはならない」。 トランプ政権は、ベネズエラの軍幹部の調略に躍起となっているが、ベネズエラ軍は、チ ャベス大統領の下で、市民と強固に結びついた社会活動を行っており、軍民一体の軍となっ ており、マドゥーロ政権への忠誠は揺るがない。そこから、今度は、ロシア、キューバがマ ドゥーロ独裁政権を支えているという奇妙な「新東西対決論」を持ち出し、ロシア、キュー バにベネズエラに介入するなと恫喝している。 小松崎氏は、「米国の介入批判と共にロシアの介入(軍事基地建設、軍事訓練)批判もすべ きでないでしょうか。また、最近少し報道されるようになりましたが、中国の関与と意図に ついても分析が必要でしょう」と驚くべき主張をしている。同氏は、まさかトランプ政権の 片棒を担ぐつもりはないのであろうが、同氏の主張は、ペンス副大統領(19.05.26 Ultimas Noticias)、ボルトン大統領補佐官(19.03.22 G)、ポンペオ国務長官(19.05.01 El Universal) の主張と同じ内容となっている。ロシアのベネズエラへの軍事協力は、主権国家として2001 年5 月の両国の合意によるものである。本年 3 月、米国の軍事干渉が取りざたされる中、ベ ネズエラの防衛力強化のため、ロシアの空軍機2 機がカラカスに到着し、軍事技術者 100 名 が到着したが、二国間の協定によるもので、何ら第三国に非難されるものではない。ロシア 政府は、ベネズエラにロシア軍の基地はないと明言しており(19.03.27 CNN)、どのような 根拠をもって小松崎氏は、軍事基地建設を非難しているのであろうか。また、万一軍事基地 が建設されるとしても、主権国家としての両国の合意にもとづくものであり、何ら非難され るべき問題ではない。こうした非難は、1962 年ミサイル危機を呼び起こした米国政府の論 理であったことが思い出される。 また、ベネズエラに20,000 人以上いる医療関係者は、04 年チャベス大統領とカストロ議 長の間で取り決められた協力協定に基づくことは、広く知られていることである。医療関係 従事者の60%は女性であり(19.05.05 Granma)、グアイドーがいうような軍事要員ではな い。 ロシア、中国、キューバのベネズエラ政府の協力は、主権をもった2 国間が対等・平等の 原則に基づき、締結した協力協定であり、小松崎氏などがいうような内政干渉とはまったく 無縁なものである。 米国のペンス副大統領は4 月 10 日、ベネズエラ問題についての国連安保理の特別会合で 演説し、マドゥーロ政権を国連から追放するように呼び掛けた。ベネズエラの問題は「独裁

(12)

12 と民主主義の闘争だ」とし、第二次世界大戦の教訓や、共産主義とのたたかいを宣言したト ルーマン・ドクトリンを想起させながら、マドゥーロ政権の打倒は安保理の重要な任務だと 強調。またキューバとイランを名指しし、マドゥーロ政権をささえる「ならず者国家」と非 難、制裁を強化するとのべた。問題にされるべきは、政情不安が長引くベネズエラ情勢で米 国防総省がベネズエラからロシア、キューバと中国の影響力を削ぐための新たな軍事力行使 の選択肢を検討していることである(19.04.20 CNN)。また、「ベネズエラに民主化を求め る米州諸国から成るリマ・グループは15日、チリのサンティアゴで外相会議を開き、ロシ アや中国などに対して、独裁的な反米左派マドゥーロ大統領への支援をやめるよう求めた (19.04.16 サンパウロ時事)。リマ・グループは,トランプ政権、OAS のアルマグロ事務総 長と歩調を合わせ、早期大統領選挙、人道支援物資のグアイドー派への引き渡しを主張して いる。これらは、明らかに内政干渉的な行為である。 ≪補論≫ある国際問題専門家は、「チャベス前大統領は、09 年 11 月、左派政党国際 会議で左派の国際的な組織として第5 インターナショナルの設立を提起した。チャベス 氏は、中南米の左派・革新勢力が結集する第18 回サンパウロ・フォーラム(12 年 7 月) でも、再度、第5 インターナショナルの設立を呼び掛けた。この提起は、ベネズエラの 与党・統一社会主義党の綱領にいまも残っている。第5 インターナショナルの提起は、 (自らが国際左翼運動の指導者となろうとしたもので)チャベス氏自身の変質と無関係 ではないだろう」と、ベネズエラ社会主義統一党が信頼するに当たらない政党であると 批判している。しかし、この提案は、FMLN、エボ・モラーレス、エクアドルのパティ ニョなどから支持される一方、ブラジル労働党のポマール国際部長により強硬に反対さ れた。キューバ共産党は、賛成も反対も表明しなかった。 しかし、ベネズエラ社会主義統一党第2 回党大会後、2014 年の第 3 回党大会でも、 2018 年の第 4 回党大会でも、第 5 インターナショナルの問題は、全く触れられていな いし、公式文書にも現れていない。事実上、不可能としてすでに克服された問題である。 国際問題専門家は、古証文を引き出して、チャベス主義、それを受け継ぐマドゥーロ政 権を批判したいのであろうが、そもそもこの問題は実現性がなく、第18 回サンパウロ・ フォーラムでも採択されず、閉会の挨拶でチャベスが触れたにすぎないものである。チ ャベス主義を分析する場合、氏が思い付きで問題提起をして、それを継続的に実行しな いことが少なからずあることを、国際問題専門家は理解していないようである。 8. 外国軍事介入の可能性 2 月 9 日、フランシスコ・パルミエリ米国務省西半球担当主席副次官補は、「もしマドゥ ーロ政権がベネズエラ国民に食料、医薬品、医療サービス援助だけを許可するなら、われわ れは直接の衝撃を与えるであろう」と述べ、軍事介入を示唆した。ボルトン大統領補佐官は、 ベネズエラの軍事介入に関して、5,000 名の部隊をコロンビアに派遣するというノートを記 者会見で意図的に見せ、「ベネズエラに侵攻があれば、それは、ベネズエラ軍の責任」と述 べ、軍事進攻が行われても、ベネズエラのせいだと軍事侵攻を弁護した。ペンス米副大統領 は、何度も「今は対話の時でなく、行動の時である」と述べ、軍事的介入を示唆している。 トランプ大統領は、2 月に入り、軍事介入の可能性を繰り返し、マドゥーロ大統領との対談

(13)

13 を拒否した。 グアイトゥー氏が、「米国の軍事介入は、論議をよぶことだが、米国の人道支援を受ける ため、排除せず」と早くから述べている(19.02.08 AFP)。グアイトゥー氏は、4 月 30 日ク ーデターが失敗した後、米国が「必要なら大統領はやる用意がある」(ポンペオ国務長官)と 公言する軍事介入について、「もし必要なら認めるだろう」と容認する立場を示した。しか し、軍事介入によってマドゥーロ政権が倒れることはあっても、ベネズエラ国民の 90%以 上は、米国の軍事介入に反対しているのである(19.02.21 Correo del Orinoco)。「暫定大統 領」としては、国民の要望に全く沿わない自己都合の発言ではないであろうか。 2 月 26 日、米国の要請で国連安保理が1月 26 日ついで2回目に開催された。大多数国々 は、軍事介入反対。南ア、クエート、インドネシアは、対話による解決を主張。ペルーも、 ベネズエラ国民により平和的に解決されるべきと主張。ドミニカ、フランス代表も軍事介入 に反対。ロシア、中国、赤道ギニアは、内政干渉にも軍事介入にも反対した。世界の大勢は、 米国や、米国と協調したコロンビア、ブラジルの軍事介入に反対なのである(Telesur, Ultimas Noticias)。 ベネズエラの野党指導者グアイドー国会議長は10 日までに「もし米国が軍事介入を提案 したら私は受け入れるだろう」と述べ、米軍の介入を拒否しない方針を示した。4 月 30 日 に軍人の蜂起を呼びかけたが失敗に終わり、マドゥーロ政権は野党の有力議員を身柄拘束す るなど強権姿勢を強めている。不利な状況に追いこまれる中で米国の介入に期待を示したが、 周辺国や欧州諸国の反発は避けられない。 第二次大戦後のラテンアメリカにおけるアメリカの干渉は、2018 年まで 22 件、内、米軍 の直接侵攻3 件、傭兵による侵攻 3 件ある。こうした歴史からすれば、米国の軍事介入の可 能性は低くはない。 軍事介入には、当然の多くの国が反対しているが、その中には二通りの態度がある。①一 つは、ベネズエラへの軍事介入には反対するが、現在まで行われてきた、また現在行われて いる内政干渉には反対しない国々がある。それらは、EU 諸国、リマ・グループ諸国などで ある。②もう一つは軍事介入にも、内政干渉にも反対する国々である。それらは、キューバ、 メキシコ、ウルグアイ、ボリビア、ニカラグア、カリブ共同体、南アなどである。しかし、 国際法、国連憲章、友好関係原則宣言などに照らすと、①の政策は、米国の軍事干渉に反対 することによって、むしろ米国、EU、リマ・グループの内政干渉を是認するものとなって いるのである。 米国の軍事介入として予想されるのは、民間契約軍(傭兵)をコロンビア国境から侵入さ せ、長期間政府軍を攻撃し、経済制裁とともにベネズエラ政府を疲弊させようとする、ニカ ラグア型の作戦ではないだろうかと筆者は考えている。 9. 米国及び EU の干渉の目的 次のことが考えられる。 ① 少しでも社会主義的用語を掲げる政権は許すことができないという、伝統的な反共主 義(19.02.18 トランプ演説)。 ② かつて勢力圏として支配していた米州を、CELAC(ラテンアメリカ・カリブ海諸国共

(14)

14 同体)を解体して、全面的に支配力を回復すること(18.02.01 ティラーソン演説)。 ③ 左派政権で、反新自由主義国であるベネズエラ、キューバ、ボリビア、ニカラグア政 権を転覆する(18.11.01 ボルトン大統領安全保障補佐官)。 ④ ベネズエラの豊富な資源(石油埋蔵量世界第1位、天然ガス第 8 位、ボーキサイト世 界第7 位、鉄鋼第 17 位)を確保するという帝国主義的野望、 ⑤ EU は、政治的原則として、人権、民主主義、法の支配を掲げ、経済的原則として市場 経済の尊重を掲げている。お互いの国内問題に干渉する下で、共通行動を行い、利益 を得るという統一の原理で成り立っている。内政干渉について考え方が甘いところが ある。 4 月 30 日早朝、首都カラカスで野党の大衆意志党を中心とする過激派により、クーデタ ー未遂事件が発生した。このクーデターは、グアイドー国会議長、自宅軟禁を脱出したレオ ポルド・ロペス大衆意志党党首の首謀のもとに、一部の国家警備隊、国防軍、国家諜報組織 の重機関銃で武装した数十人により実行された。グアイドー議長は、30 日早朝からカルロ タ空軍基地の前の高速道路から、「自由作戦」の最終段階として、再三再四、軍隊と市民にク ーデターに加わるように呼びかけたが、軍も市民もそれに反応しなかった。ロペス党首はチ リ大使館に、軍関係者はブラジル大使館にそれぞれ亡命し、クーデターは失敗した。政府側 は、警察力、軍事力からすればグアイドー氏の逮捕は難しくはないが、国際的な影響ととも に、国内で熾烈な武力対決をもたらすものとして避けてきた。 こうした膠着状態を打ち破るものとして、今回のクーデターが企てられたのであろうが、 政府側も国民の固い支持を得ており、クーデターが、大きな流血の惨事をもたらすことは、 明白であり、グアイドー派がクーデターに訴えることは、非民主主義、非人権的な暴挙と批 判されても仕方がない。今回のクーデターに対し、政府側は、直ちに平和が必要で暴力に訴 えるべきではないと非難したが、クーデター派に、米国、コロンビア、リマ・グループ、ア ルマグロ米州機構事務局長などが直ちに支持を表明したことは、無謀なクーデター行為に賛 成する無責任な態度である。一方、メキシコ、キューバ、ボリビア、ニカラグア、ロシア、 中国、EU などは、クーデターが平和的、政治的解決を阻むものとして批判した。 10. 国民の支持はどこにあるのか マドゥーロ政権が、どれだけ国民に支持されているかについて、いろいろな意見がある。 「グアイドー氏の暫定大統領就任を支持する人々が約8 割」(アジア経済研究所坂口安紀氏) という坂口氏の数字は、反政府派の調査会社Hercon Consultores 社のものと思われる。他 の調査を見ると、独立系調査会社、インテルラセス社は、政府寄りの調査会社だが、近年選 挙予測では結果に近い数字を報道しており、極端な誤差はなく、一定の信頼性がある。これ を報道した新聞社は、ベネズエラの中道右派のGlobovisión 紙である(2 月 3 日付)。 インテルラセス世論調査は、2019 年 1 月 7 日~20 日、1,580 人を調査したものである。 31%がベネズエラ社会主義統一党を支持、1%が大祖国連合 (GPP)で、与党支持合計は 32% です。一方、野党は、民主行動党 (AD), 3 %、正義第一党 2 %、大衆意志党 6 %、民主団結 会議 (MUD)1 %、キリスト教社会党(Copei) 1 %、進歩的前進党 1 %、その他野党 1 %で、 野党合計は16% である。このことから、与党支持派は 32%、野党支持派は 16%、無党派は

(15)

15 52%となる。 この数字は、2018 年 11 月ジェトロ・アジア経済研究所セミナーにおいて、ベネズエラ人 のブリセーニョ教授が引用したラテンアメリカ最大の世論調査ラティノバロメトロの結果 とほぼ一致している。ブリセーニョ教授は、マドゥーロ大統領の退陣を望んでいる野党派の 研究者だが、与党10 政党の合計支持率は、47.6%、野党 8 政党の合計支持率は 38.1%、穏 健野党2 党の合計支持率は 9.5%、その他独立系 1 党の支持率は 4.8%と報告している。 大統領選挙、県知事選挙、県議会、基礎行政府選挙、世論調査などをみても、チャベス派 は55~65%、反チャベス派は 45~35%の支持を得ている。毎年のように選挙が行われるベネ ズエラでは、その回ごとに支持者の信念が固まり、固定化しているのが特徴である。ブリセ ーニョ教授も与野党で大きな支持の差があったことを認めているのである。 31 1 3 2 6 1 1 1 1 52

ベネズエラ政党支持

19.01

ベネズエラ社会主義統一党 大祖国連合 民主行動党 正義第一党 大衆意志党

(16)

16 小松崎氏は、「ベネズエラの国民は主権を制限ないし奪われ、塗炭の苦しみの状態にあり ます。その状況の是正を一緒に提案する必要があります。そうでないと『独立国の主権』の 尊重と言う崇高な理念が、主権者たる国民への抑圧や弾圧に対する国内外の厳しい目からの 隠れ蓑(口実)に使われ、政権維持の方便に使われかねません。アメリカが介入の口実に『人 道支援』を言うように、現政権の悪政の擁護に『内政干渉』」や『国の主権』が使われかねな いと思われます」とのべている。 しかし、これは、政権が国民に支持されていないと、第三 者が一方的に決めつけ、したがってその国の主権を擁護はできないという実に奇妙な主権論 で、一種の制限主権論に当たる危険な立論である。 筆者は、主権の擁護は、かつてレーニンが、ローザ・ルクセンブルグとの論戦において次の ように述べた政治的傾向の評価よりも上の上位概念と考えます。「ベネズエラのことはベネ ズエラ国民に」と主張することは、ベネズエラの主権、民族自決権の擁護、内政干渉反対、 話合いによる対話と平和の追求を意味するものです。 「民族自決権は民主主義の原則であり、「この一般民主主義的な内容無条件に支持」しな ければならない(レーニン「民族自決権について」、全集⑳ (440-441)。もしも反動派の支 配にそれらの国がおかれるようになったとしても、それぞれの国の進路は、その国の国民 自身が決定するものである。ブルジョワジーが支配を握れば、勤労人民は、自分たちを解 放するために問題となるのは、資本主義であることをますます理解するようになる」とい う指摘があります(レーニン全集⑳ (457-458))。佐々木一司・聴涛弘『社会主義と民族自 決権』(新日本出版社、1982 年)p.31-32 その国の主権を擁護することは、当該国の政府の政策を一つ一つすべて支持することでは ないことを明記すべきである。 11. メキシコ・ウルグアイの対話案提出される 2 月 6 日、メキシコとウルグアイ政府は、「政治的危機に対する総合的かつ長期的な措置 を探求する」ため、無条件の4 段階に渡る交渉の日程を提案した。 第一段階:条件なしの早急な双方の対話。その後の双方の対話の条件を作成。 第二段階:双方の交渉、対話の結果の発表、双方の共通点を見出せるような立場の柔軟化を 進める。 第三段階:約束と合意の署名。 第四段階:国際的な支援を受けて、合意の導入と実行。 この提案、「モンテビデオ枠組み」には大統領選挙の早期実施は、内政干渉になるとして 含まれていない。メキシコ、ウルグアイ、カリコム14 カ国、ボリビア、キューバ、ベネズ エラ政府は、この提案への支持を表明した。米国とグアイドー議長は、交渉の前提として自 由選挙を主張して、この枠組みに反対した。 翌日、国際連絡調整グループ(IGC)14 カ国会議が開催され、最終宣言で、民主主義、法 治国家の復活、国会の尊重、基本的自由、人権の尊重、早期の自由、透明、信頼できる選挙 の実施、継続的な人道支援の受入れ、そのための国連難民局及び国際移民機構より使節団の

(17)

17 派遣、3月に閣僚級の会議の開催などを記載した最終宣言を採択した。賛成は、フランス、 ドイツ、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、イギリス、コスタリ カ、エクアドル、ウルグアイの11 カ国。反対は、ボリビア、メキシコ、カリコム。ボリビ ア、メキシコは、選挙の実施、人道支援受け入れの要請は内政干渉として反対した。ウルグ アイは、グアイドーを正当な大統領として認めないが、柔軟性が必要だとして IGC の宣言 に賛成したと説明している。 12. 真の解決を求めて 与野党は、3 月よりノルウェー政府の仲介で対話をする交渉をノルウェーで秘密裏に行って き(マドゥーロ大統領19.05.29 Telesur)、5 月半ばよりノルウェーで交渉が行われている。 交渉に、マドゥーロ政権は、対立を平和的に解決することに積極的だが、グアイドー議長は、 国際世論を気にしてか、交渉に応じる態度は示すものの、交渉は期待していないと述べた (Reuters 19.05.26)。この背景には、米国が交渉に反対で、国務省が「暴君による監視の下 では自由選挙はできない。我々が繰り返し述べてきたように、米国はニコラス・マドゥーロ との交渉はただ退陣の条件だけだと考える」という声明を25 日に発表していた発表してい たこと、また同日ペンス副大統領が CNN とのインタビューで、「ベネズエラでは対話の時 期はすでに終わり、行動の時期で、マドゥーロが退陣する時期が来た」と述べていた事実が ある。29 日オスロでの交渉が終了した後、マドゥーロ政権は、対話が行われたことは重要 で、今後もノルウェー政府の仲介のもとで平和と民主主義のために協議を続ける意思を発表 した。一方グアイドー議長は、声明を発表し、協議では、マドゥーロの違憲権限のはく奪、 暫定政府、自由選挙の手順を再度述べ、協議は合意なく終了した」と述べた。 このオスロ会議開催の前の5 月初め、グアイドー派は、ファラー米南方軍司令官に書簡を 送り、米軍の軍事介入を要請し、ファラー司令官は、大統領の命令があれば実行する準備が できていると回答している(19.05.13 Foreign Policy)。 交渉開催の交渉期間中に、4 月 30 日にクーデターを起こし、それが失敗すれば米軍の軍 事介入を要請するなど、真剣にベネズエラの平和と民主主義を追求している態度には程遠い と言わざるをえない。 (2019 年 6 月 2 日 新藤通弘)

参照

関連したドキュメント

 トルコ石がいつの頃から人々の装飾品とし て利用され始めたのかはよく分かっていない が、考古資料をみると、古代中国では

わからない その他 がん検診を受けても見落としがあると思っているから がん検診そのものを知らないから

て当期の損金の額に算入することができるか否かなどが争われた事件におい

新設される危険物の規制に関する規則第 39 条の 3 の 2 には「ガソリンを販売するために容器に詰め 替えること」が規定されています。しかし、令和元年

モノづくり,特に機械を設計して製作するためには時

経済特区は、 2007 年 4 月に施行された新投資法で他の法律で規定するとされてお り、今後、経済特区法が制定される見通しとなっている。ただし、政府は経済特区の