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SCATLINE Vol.94 SCATLINE Vol.94 Winter, 2014 IN ACTIVITY 平成 25 年度 SCAT 研究助成応募状況 平成 25 年度 SCAT 研究助成については 研究費助成と国際会議助成は 9 月 1 日から 10 月 31 日まで 研究奨励金は 10

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1 ● と き:平成 25 年 11 月 15 日(金) ● と こ ろ:SCAT 会議室 参加費無料のセミナー「テレコム技術情報セミナー」とは別に、 開催している有料セミナーです。今回は「今後のネットワーク について」をテーマにご講演いただきました。 次回は「G 空間の高度利用について」をテーマに、2 月 14 日(金) の開催を予定しています。

平成25年度SCAT研究助成応募状況

IN ACTIVITY

第3回SCAT先端ICTセミナー

講演 1:スマートフォン時代のドコモのネットワーク戦略 (株)エヌ・ティ・ティ・ドコモ 取締役常務執行役員 ネットワーク部長 徳広 清志 氏 講演 2:NTT コミュニケーションズの OpenFlow/SDN の 取り組み 取締役サービス基盤部長 伊藤 幸夫 氏 講演 3:コンバージェンスネットワークに向けたNTTの 研究開発 NTTネットワーク基盤技術研究所 所長 高木 康志 氏 平成 25 年度 SCAT 研究助成については、研究費助成と国際会議助成は 9 月 1 日から 10 月 31 日まで、研究奨励金は 10 月 1 日か ら 11 月 30 日まで募集を行い、研究費助成には 106 件、国際会議助成には 31 件、研究奨励金には 14 件の応募がありました。現 在、研究助成審査委員会による厳正な審査が行われており、平成 26 年 3 月に採用対象を決定する予定です。

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2 ● と き:平成 25 年 12 月 13 日(金) ● と こ ろ:SCAT 会議室 財団の賛助会員企業などから 66 名が参加されました。今回は 「M2M とビッグデータ」をテーマにご講演いただきました。 本講演 2,3 の要旨は、第 95 号 SCAT LINE(5 月発行予定)に 掲載します。

第91回テレコム技術情報セミナー

講演 1:M2M に適したネットワークのあり方と今後の トレンド (株)エヌ・ティ・ティ・ドコモ M2Mビジネス部 部長 高原 幸一 氏 講演 2:ワイヤレスM2Mとビッグデータ (株)日立製作所 情報・通信システム社 通信ネットワーク事業部 事業主管 木下 泰三 氏 講演 3:M2Mデータを利活用するビッグデータ処理技術と 今後の方向性 日本電気(株) 情報・ナレッジ研究所 エグゼクティブエキスパート 福島 俊一 氏 2

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3 新世代ネットワークは、現在までのインターネットの改良で はなく、ゼロから作り直そうということで、クリーン・スレー ト・デザインと呼ばれています。コンパチビリティを考えると、 色々と過去の技術に引きずられることになるので、完全にゼロ から構築しようというプロジェクトです。それゆえ、今後数十 年間使用できることを想定しています。インターネットは現在 完全に社会インフラの一つになっており、その社会インフラと してのインターネットを新たに作り上げようということです。 当初の予定では、概ね 2020 年代には実現したいというのが 研究者の間での希望的観測ですが、将来のことなので実際はど うなるのかは定かではありません。欧米ではこの新世代ネット ワークのことを、フューチャーインターネットと呼んでいます。 現在、インターネットは大いに成功しています。しかし、現 在のインターネットの基本技術は 1970 年代、あるいは 1980 年代に作られた技術に基づいています。その当時からすると、 現在は環境も大きく変化しております。当初は研究開発ネット ワークとして使われていたものが、現在は商用ネットワークと して誰でも使えるようになっています。また、当初は研究者が 使うネットワークとして開発されたものが、現在は誰でも使え るということで、悪用するユーザも出てきています。 本来、インターネットはベストエフォートサービスを提供す るということで、最善を尽くすが失敗も許すことにしています。 これが基本的な設計思想となっています。最近では、ベストエ フォートサービスではあるが、メティアによって優先順位をつ けて送るという QoS サービスが要求されています。また、当 初は固定設置されたコンピュータ中心であったものが、最近は スマートフォンを中心とした移動端末の数が非常に増えてきて います。サービスアプリケーションもリモートログインからウ ェブサービス、ビデオ、ソーシャルネットワークサービスと大 きく変化してきています。 現在のインターネットの一番大きな問題点はセキュリティで す。受け取るメールの 95%ぐらいは概ねスパムメールと言われ ています。それに、ウイルス感染や DDoS(Distributed Denial of Service)攻撃の問題があります。有名なウェブサイトは DDoS 攻撃を受けています。次に移動性やスケーラビリティの問題が あります。固定端末から移動端末に移行して、ネットワークの 規模が急増してきています。利用者数も最近では 50 億人に達 し、端末数やトラフィック量も急増しているわけです。このほ かには、マネージャビリティの問題があります。当初のインタ ーネットはネットワーク管理ということを考慮しなかったので す。 これからのインターネットは、新しい社会のインフラとして、 災害、老齢化社会、エネルギーの問題、食糧危機、健康の問題、 経済格差の問題、犯罪防止など、あらゆる分野で使われること が予想されます。現在までのインターネットは、色々な要求が 出てくるたびに、コミュニティが協力して新しい機能、新しい プロトコルが考えられて、機能の追加や修正が行われてきまし た。また、これらの要求を満たすために、プロトコルレイヤも 追加されました。その例としては、レイヤー2.5 と呼ばれる MPLS(Multi-Protocol Label Switching)があります。

以上の理由で、研究者たちは「新しいインターネットをゼロ から構築する時期が到来した」という考えに至ったわけです。 図 1 に示すように、2005 年頃からフューチャーインターネッ トに関連する研究が始められています。まず米国では、国立科 学財団(NSF:National Science Foundation)を中心に研究が進 められました。欧州では、第 7 次研究枠組み計画(FP7:Seventh Framework Programme)というプロジェクトの中でフューチ ャーインターネットの研究支援が行われ、日本では、新世代ネ ットワーク、そして韓国でも、フューチャーインターネット・ フォーラムという組織を作って研究を始めています。

新世代ネットワークと情報指向ネットワーク

SEMINAR REPORT

早稲田大学大学院 国際情報通信研究科 教授

朴 容震

新世代ネットワークの概要

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4 図 1 Future Internet 研究

図 2 の NSF のプロジェクトを眺めてみると、ごく最近では FIA(Future Internet Architecture)Project が 2010 年に 4 つの プロジェクトを採択しました。一つ目はネームド・データ・ネ ットワーキングです。ICN(Information Central Networking)の プロジェクトで、UCLA を中心に研究が行われています。二つ 目は NEBULA です。ペンシルバニア大学を中心としてクラウ ドコンピューティング・セントリック・アーキテクチャとして 研究されています。三つ目はモビリティ・ファーストです。ラ トガース大学を中心に無線環境下のモバイル端末をサポートす るアーキテクチャの研究が行われています。四つ目はエクスプ レッシブ・インターネット・アーキテクチャです。カーネギー メロン大学で研究が行われており、現在までのホスト中心から、 コンテンツ、ホスト、サービスという 3 つのタイプを想定し、 将来の発展性を包含するアーキテクチャとして研究されていま す。 これらの共通点としては、何よりも大きいのはセキュリティ です。米国ではご存じのように、セキュリティが一番重要な問 題となっています。2番目の共通点がコンテンツ指向、情報指 向となっています。モビリティ・ファースト、あるいはエクス プレッシブ・インターネット・アーキテクチャは、この基本概 念を取り入れています。 図 2 NSF の FIA Project ICN(Information-Centric Networking)の背景としては、イン ターネットのパラダイムシフトが起こっていることが挙げられ ます。如何なる目的でインターネットが使われているのか? 当初はリモート・リソース・シェアリングとして、高性能コン ピュータ、あるいは高性能プリンターを利用するというような、 様々なリソースを遠隔から共有することが主な目的でしたが、 現在は情報を共有する、情報をアクセスするという使い方が中 心になっています。 それに伴って通信形態も変化しています。従来はホスト中心、 host-to-host のコミュニケーション形態であり、IP プロトコル は位置情報であるネットワークアドレスを使ってホストアドレ スを指定しています。ところが、現在は information-to-user を 指向しており、インフォメーションをユーザに送るという通信 形態になってきています。この形態を満足させるために、イン ターネットに新しいプロトコルが考えられました。例えば、 CDN(Contents Delivery Network)、あるいは P2P(Peer to Peer)などです。information-to-user を満足させるようなプロ トコルが開発されました。 しかし、これらは本質的な解決にはなっていません。ロケー ション・セントリックなネットワークの上に information-to-user を満足させるために、CDN あるいは P2P というプロトコルが 開発されたということに他ならないからです。本質的に解決す るためには、すなわち情報アクセスを効率的にするためには、 インフォメーション・セントリック・ネットワーキング(ICN) というプロトコル体系が必要になるということです。故に ICN というのは、CDN のコンセプトの一般化でもあるとも言えます。 以上のことをまとめたのが図 3 です。

図 3 ICN の背景 - Internet Paradigm Shift - CDN について図 4 で説明します。頻繁に使われるウェブサ イトがあると、一つのノード(サーバ)だけでは耐え切れない ので、幾つかのノードにデータを分散しておいて、各ユーザは それぞれ分散されたノードに接続してデータを得るという方法 です。 アクセス方法は幾つかありますが、一つの方法としては、オ リジナルサイトから最初のページを持ってきて、そのページを クリックすると、CDN の DNS サーバーに誘導して、そこから 適宜別のノードに誘導することによって、分散してアクセスさ せるというものです。ここで見受けられることは、分散ノード を設置してデータをキャッシュしていることです。 図 4 CDN のデータの流れ

何故、情報指向ネットワーク ICN か?

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5 インターネット・トラフィックが年代を経ることで、どのよ うに遷移しているかを図 5 に示します(出典はシスコ)。これ を見ると、1990 年代の初期は、ファイル転送(FTP)、あるい は e メールが主流でした。ところが、2000 年代になると、ウ ェブトラヒックが主流になってきて、2010 年からはビデオデー タが 51%になっています。現在は、ビデオの比率が一層増えて います。故に、現在は如何に効率的にビデオを配送するかとい うことが、インターネットでは大きな問題となっています。 図 5 米国の Internet Traffic の比率 - 効果的にビデオを配送することが大きな課題 - 現在のインターネットの情報アクセスでは、通常、先ずはキ ーワードでサーチエンジンをアクセスし、該当する URL 情報 を得て、その情報でもって DNS サーバーに対応する IP アドレ スを提示してもらい、その IP アドレスに基づいてプロバイダー のウェブホストにアクセスし、実際のコンテンツを得るという 手順をとっています。これに対して ICN では、欲しい情報、コ ンテンツの名前を送って、直接手に入れます。極めて単純に、 直接的にコンテンツを得るということです。両者の比較を図 6 に示します。 図 6 ICN と Internet ICN の特徴は、コンテンツに名前をつけて、場所ではなく直 接名前でアクセスすることです。特徴的なことは、IP テーブル ではなく、名前テーブルを使ってルーティングすることです。 他には、コンテンツ・セキュリティが非常によく考えられてい ることとインネットワーク・キャッシング、即ちネットワーク の中でキャッシングしていることです。 インネットワーク・キャッシングの例を図 7 に示します。ユ ーザ 1 があるコンテンツを欲しい場合、ソース元「A」まで取 りに行ってそこからもらって来るとなると、途中のルータ「B」、 「D」にもコンテンツがキャッシュされます。次にユーザ 2 が 同じコンテンツを要求した場合、「B」にコンテンツがキャッシ ュされているので、「A」まで行かずに「B」から得られます。 そして、「E」にもキャッシュされます。キャッシシング方法は 色々あり、今説明したのがオンパス・キャッシングで、全ての パス上でキャッシュされます。それに対して、オフパス・キャ ッシングは、ネットワーク上のある特定のノードにキャッシュ されます。

図 7 ICN In-network Caching

ICN を使うと、どういうことが解決されるのか? まずは、 高速にアクセスできます。名前により直接アクセスして低遅延、 高信頼になるのは、元々のソースまで取りに行かなくても中間 にあるルータがキャッシュしているので、そこに保存してある データをもらうことで低遅延になります。また、同じデータが ネットワーク内にいくつかキャッシュされているので、信頼性 があるということです。 セキュリティに関しては、従来の IP では、通信路をセキュア にするという考えに基づいていますが、ICN コンテントにセキ ュリティの機能を持たせています。 移動性が優れています。中間に位置するルータにデータがキ ャッシュされているので、移動後のユーザの近くに位置するル ータからすぐコンテンツが得られるので、ユーザにとって移動 性に優れていることになります。 図 8 は有名な砂時計モデルです。現在のインターネットでは、 スリムなウエストを持ったアーキテクチャであって、その中心 にある IP がユニバーサルネットワーク層として機能していま す。「Everything over IP」として IP 上で色々な応用アプリが動 作し、「IP over Everything」として IP は色々な通信形態が使え ます。新しい技術、コミュニケーションテクノロジーが容易に 利用でき、新しいアプリケーションも開発し易いというのが、 現在のインターネットの成功の一つだとも言われています。

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6 これに対して ICN では、スリムなウエスト部分にコンテンツ が当てはまり、このスリムなウエストのプロトコル・アーキテ クチャ体系を如何に作り上げるかということが、ICN の研究目 標となっています。 図 9 の ICN の研究プロジェクトを見ると、2000 年代後半か ら始まっています。非常に新しい技術です。 米国で有名な論文としては、DONA(Data-Oriented Network Architecture)がカリフォルニア大学バークレイ校から出されて います。残念ながら、その後のインプリメンテーションは行わ れておらず、途中で中断していますが、非常に参考となる研究 論文となっています。CCN(Content-Centric Networking)は、 ゼロックスのパロアルト・リサーチセンターが中心に研究が行 われています。リーダーはバン・ジェイコブソンで、インター ネットの世界では有名な方です。現在の TCP のフロー制御プ ロトコル部分に関する新しい提案をした方です。NDN(Named Data Networking)は、NSF のフューチャーインターネット・ アーキテクチャ・プロジェクトで支援されているものです。 UCLA のリシャ・ジャンという方がリーダーをしています。 CCN と NDN は共同で研究しているので、呼び名が違うが同じ ものです。これは 3 年間で 790 万ドルもの予算をもらっていま す。図 9の緑字で示したのはプロトタイプのソフトウエアです。 誰でもダウンロードでき、CCNx により CCN をコンピュータ 上で動作させることができます。同様に、ndnSIM は NDN を NS-3 シミュレーター上で動作させることができます。 欧州においては、FP7 の支援下で研究が行われているのです が、フューチャーインターネットの全体の予算は、10 億ユーロ と言われています。ですから、欧州はこのフューチャーインタ ーネットに大きな投資をしていることになります。1970 年後半

から始まって、欧州では ISO(International Organization for Standardization)の OSI(Open Systems Interconnection)を強 力に推進していたのですが、結局米国が開発した現在のインタ ーネットとの競争に敗れて、インターネットを使わざるを得な くなったという歴史があります。そういうことなので、米国に は負けたくない、フューチャーインターネットでは自分たちが 優位を保ちたいということの現れです。概ね 2000 年代後半か ら、米国と同じ時期に欧州のフューチャーインターネット研究 も始まっています。現在のインターネットの場合、技術開発に 10 年遅れをとったわけで、これだけ遅れたら挽回するのは非常 に大変ですが、同じ時期に始めていれば、米国に対抗できると いうことです。 欧州のICNプロジェクトとしては、PSIRP(Publish/Subscribe Internet Routing Paradigm)、後続の PURSUIT(Pursuing a Pub/Sub Internet)が挙げられます。プロジェクト期間はそれぞ れ 2 年半です。FP7 では、継続して行う場合、継続研究であっ ても名前を変えています。PSIRP は今現在では PURSUIT と呼 ばれています。Blackadder はプロトタイプのソフトウエアです。 他には、NetInf(Network of Information)というプロジェクト があります。現在は SAIL(Scalable & Adaptive Internet Solutions)と呼ばれています。GIN もプロトタイプ・ソフトウ エア です。これ以 外にも、 COMET ( COntent Mediator architecture for content-aware nETwork)というプロジェクトも

あります。 図 9 ICN 研究プロジェクト 今現在活動中のICNは、米国と欧州のプロジェクトだけです。 米国のNDNとCCNは共同研究されているので実質一つとみな されます。欧州は図 9 で示した以外にも幾つかあり、これらの プロジェクトが同時並行して研究されています。 米国の CCN の基本動作について図 10 で説明します。CCN では、インタレストパケット(要求パケット)とデータパケッ ト(応答パケット)の 2 種類を使います。インタレストパケッ トはコンテント名を有していて、この名前のコンテンツを要求 することになります。データパケットは、コンテンツ名とその データ(コンテンツ)部分を共に有しており、更にシグネチャ ーというセキュリティ機能が追加されています。 ユーザ 1 がインタレストパケットを送出する(①)と、CCN ルータで名前をベースにしてルーティング(②)して、次のル ータに送ります。次のルータも名前をベースにしてルーティン グ(③)して、目的のソースに要求が届けられます。ソースか らデータパケットが返されて(④)、コンテンツがルータでキャ ッシュ(⑤)され、元のルート(⑥)を通って、再びキャッシ ュ(⑦)されて、ユーザ 1 に要求したコンテンツが到着する(⑧) ことになります。ユーザ 2 がインタレストパケットにより同じ コンテンツを要求する(⑨)と、ルータにキャッシュされてい るので、それが応答として返されて来る(⑩)ことになります。 図 10 CCN の基本動作 CCN ルータの構造を図 11 で説明します。基本的に三つのテ ーブルを持っています。一つ目はコンテント・ストア(CS)で、 キャッシュしているコンテンツ(データパケット)、すなわち何

世界の ICN 研究プロジェクト

代表的 ICN の基本動作

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7 をキャッシュしているのかをこのテーブルで示しています。二 つ目はペンディング・インタレスト・テーブル(PIT)で、未 解決のインタレスト要求を記憶しています。インタレストパケ ットがここを経由して次のルータへ送られたときに、経由した ということを記憶しておきます。三つ目はフォワーディング・ インフォメーション・ベース(FIB)で、IP で使用しているル ーティング・テーブルと同じ機能です。名前と行先情報、すな わち、どこのインタフェース(CCN ではフエ-スと呼ぶ)を通 じて転送するかを記憶しています。 図 11 CCN ルータのアーキテクチャ CCN で使用するネーミング構造は、図 12 の例のように、 parc.com/videos/...という階層構造を取っています。同時にこ の名前はヒューマン・リーダブルなコンテンツ名になっていま す。このネーミング体系は、まだ研究段階にあります。 図 12 CCN Naming System CCN のセキュリティは、コンテント・ベースド・セキュリテ ィと呼ばれ、セキュリティ機能がデータパケット自体に組み込 まれているのが特徴です。図 13 に示すように、データパケッ トの中にデジタル署名(シグネチャー)が含まれています。こ のデジタル署名によってセキュリティが確保されます。これに は公開鍵基盤(PKI:Public Key Infrastructure)を使用していま す。現在の IP ネットワークが IP アドレス間のチャネルをセキ ュアにしているのに対して、一つ一つのコンテンツにセキュリ ティを持たせて、データの完全性を確認し、また、認証を行っ ています。 デジタル署名は、図 14 に示すように、シグネチャーで検証 します。コンテンツ・ソース側では、コンテンツ名とデータを 合わせて1方向ハッシュ関数でハッシュ値を計算し、これをプ ライベート鍵で暗号化してシグネチャーを作り、データパケッ ト内に入れて送ります。ユーザ側では、シグネチャーを公開鍵 で復号化してハッシュ値を計算し、コンテンツ名とデータを使 って計算されたハッシュ値と一致するかどうかで、改竄やなり すましをチェックします。 図 13 デジタル署名の作成 図 14 デジタル署名の検証 PURSUIT では、違った方法を用いています。図 15 に示すよ うに、供給者(コンテンツ・ソース)の方でデータをランデブ ーシステムというところに登録(①)します。登録後に要求者 がデータ名を使って要求する場合、このランデブーシステムに 要求を出します(②)。ランデブーシステムでは、要求者のデー タ名に当たるデータをチェックして、登録したものが一致する (③)場合、供給者から要求者まで届けるのにはどういうパス を経由すればよいかという情報を持っているトポロジーマネジ ャーに問い合わせをし、得られたパス情報(FI:Forwarding Identifier)を供給者に渡す(④)と、そのパス情報を使って供 給者は要求者にデータを送る(⑤⑥⑦)という仕組みになって います。 図 15 PURSUIT の基本動作

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8 同じく欧州のプロシェクトである NetInf では、図 16 に示す ように、二つの方法を取り入れています。まず、名前解析方式 というのは、いわゆる DNS と同じやり方です。要求者はネー ム・リゾリューション・サービスにデータ名を送って(①)、そ れに対するロケーション、即ち IP アドレスをもらってきます (②)。その IP アドレスを使って供給者にデータを要求して (③)、コンテンツを得る(④)という方法です。もう一つはネ ーム・ベース・ルーティングという方法です。データ名を直接 使って GET メッセージを送り(⑤)、名前を使ったルーティン グ(⑥)が行われて、目的の供給者に到達し、その名前のルー ティングを逆にたどって、(⑦⑧)要求者にデータを返します。 NetInf では、ロケーションを中心とする名前解析方式と名前ベ ースルーティングの両方使っています。 図 16 NetInf の基本動作 表 1 に CCN、PSIRP、NetInf の比較を示します。大きな違い は、CCN は階層構造を取っていますが、他の二つはフラット構 造です。どれもデジタル署名は使いますが、PKI を使うのは CCN のみです。キャッシングはオフパスとオンパス、両方使う のと三者三様です。ネットワーク層を運んでくれるリンク層以 下は、CCN、NetInf は IP 以外にも色々使えますが、PSIRP は IP または PURSUIT のプロトコルを使います。 表 1 ICN の特徴の要約 PURSUIT や NetInf などは、フラット構造な名前を使ってい ます。図 17 に示すように、フラットデータ名は、データラベ ル「L」とデータ供給者の公開鍵のハッシュ値「P」との二つを 使って表しています。要求者がこれで要求を出すと、供給者か らデータが返ってきて、同時に公開鍵とデジタル署名を受信し て、デジタル署名等の復号化ができることになります。ちなみ に PURSUIT では、「L」と「P」と同時にスコープ ID というの も使って、コンテンツがどういうセットに属するかということ も表せるようになっています。 図 17 フラット構造な名前スペース 現在の ICN に関する標準化活動を図 18 に示します。 ACM(Association for Computing Machinery)の SIGCOMM (Special Interest Group Data Communication)という、権威の あるコンファレンスの一つですが、そこで 2011 年から ICN ワ ークショップが行われています。今年は 8 月に香港で開催され ます。

IEEE にも INFOCOM(International Conference on Computer Communications)という有名なコンファレンスがあります。こ こでも 2012 年から ICN ワークショップが開かれています。

インターネットの標準化は IETF で行われますが、将来の革 新的な技術の研究を推進する組織が IRTF(Internet Research Task Force)です。IRTF の議論の結果、必要と認められると、 IETF に上げられ標準化が行われます。この IRTF で ICNRG (Information-Centric Networking Research Group)が去年の 4 月に発足しています。

ITU の Study Group 13 の中でも ICN の標準化が始まってい ます。そこでは ICN をデータ・アウェア・ネットワーキングと 呼んでいます。 IEEE のコミュニケーションマガジンには、去年の 7 月と 12 月に ICN の小特集が組まれています。 それ以外にも、アジア・フューチャーインターネット・フォ ーラムという組織が作られていて、大学院生を対象とした ICN ワークショップが開催されています。 図 18 ICN Workshop/標準化 では、アジアでの ICN の研究の状況はどうなっているのか? 中国では、Huawei や精華大学で ICN の研究が進められていま す。日本では、昨年、情報通信研究機構(NICT)で EU との共 同プロジェクトのアナウンスがありました。その中の一つに ICN のプロジェクトがありました。一部の企業で行われていま すが、まだ ICN が実際のビジネスに直接結びつくかどうか微妙

ICN の学会活動と標準化

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9 な段階なので、様子を注視している会社も多いようです。いく つかの大学で関心を持って始められています。韓国では、サム スンがスマートフォンのコンテンツを効率的に流すためという 観点から研究を始めています。他には、コリア・テレコムやソ ウル大学などが挙げられます。 ICN の今後の発展の一つの課題として、これを如何にディプ ロイメントするかということですが挙げられます。図 19 に示 すように、ICN は IP 上のオーバーレイネットワークとして使え ます。これを徐々に IP の部分を少なくして、最終的にはピュア な ICN にすることが可能であるので、ディプロイメントがとて も容易です。IPv4 と IPv6 の移行に約 15 年かかったのは互換性 がなかったからで、ICN は現行の IP と混在して使えるのが大き な特徴であり、そういう意味では、今後の展望は明るいと言え ます。 図 19 ICN の展開 最後に、ICN は有望なフューチャー・インターネット・アー キテクチャであって、ホストのエンドポイントアドレス中心か らコンテンツ ID 中心へと変わるパラダイムシフトです。課題と しては、図 20 に示すように、ネーミング体系をどうするか、 効率的なルーティングにはどうすればよいのか、キャッシング ポリシーは、どうするのか、ICN はどの問題に効果を発揮する のか、更には、ICN 技術はどのような制約・制限があるのか等、 実現にはまだ多くの研究が必要です。 さらに一つ大きな問題としては、コンテント数が挙げられま す。今現在の IP 数は概ね 10 の 9 乗ぐらいです。これに対して 名前つきのコンテントの数は、今現在で 10 の 12 乗から 15 乗 ほどです。これから益々増えていくので、ネーミング体系と共 に、ルーティングのためのネームテーブルを如何にして作って いくかということも研究課題として取り組んでいく必要があり ます。 図 20 まとめと課題

まとめと課題

9 本講演録は、平成 25 年 6 月 14 日に開催されました、SCAT主催の「第 90 回テレコム技術情報セミナー」、テーマ「新世代ネット ワークと情報指向ネットワーク」の講演要旨です。 *掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。

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10 本日は OpenFlow、それから SDN( Software Defined Networking)に関してお話したいと思います。どういう時代背 景で始まって、どういう思いで始めたのか、最新の標準化動向 についてもせっかくの機会なのでお話したいと思います。また、 OpenFlow の特徴の一つであるオープンイノベーションが、ど のようにして行われてきたのか、実際のデータセンターとクラ ウドシステム、キャリアネットワークに向けてどのような応用 が考えられるのか、といったこともご紹介したいと思います。 2006 年頃の時代背景として、そろそろインターネットの限界 を何となく世の中の人達が意識し始めた時代です。 図 1 に示すように、1970 年代からインターネットは始まっ ています。例えば、RFC1 は 1969 年です。最初のインターネ ット通信、ARPAnet(Advanced Research Projects Agency Network)上の通信が 1969 年 10 月 29 日 10 時半に行われまし た。これは失敗でした。確か、遠隔ログインしようと”login”と 打とうとして、”lo”と打ったところでハングアップしてしまい、 世界初のインターネット通信は 2文字で終わってしまったとい うのが、私が関係者から聞いた話です。TCP の原著が 1970 年 代に出され、その後 IP の RFC が出されて、本格的にインター ネットが始まりました。 1970 年代に生まれた技術で他に何があるのかネットで調べ てみると、リアルタイムプログラミング言語 HAL/S があります。 これはスペースシャトルの機体制御に使われたコンピュータ言 語らしく、インターネットと違ってこの技術には終わりがあり、 一昨年スペースシャトルの最後の打ち上げでこの技術の寿命は 尽きました。それに比べて、インターネットが今でも十分現役 で使われているのは、よほど最初の設計が良かったことが当然 あると思いますが、インターネットで使われている対象に大き な変化があったことも関係あります。 図 1 インターネットはいま何歳? 図 1 の左端の記述にあるのは、最初の ARPAnet の設計仕様 書に書かれていたプロジェクトの目的で、主にコンピュータ間 の情報交換を目的としています。ここから始まったインターネ ットが、例えば、メディアや World Wide Web などに使われる ようになるにつれて、赤の雲で示すように、モビリティーは、 安定性は、セキュリティは、QoS はどうかと、非常に疑問が持 たれるようになってきました。 こういったところから、インターネットのインフラを考え直 そうという気運が、2005~2006 年当時の人達の心に芽生えて きました。なぜ米国政府が 400 億円もの予算をかけて GENI (Global Environment for Network Innovations)プロジェクトを 始めたのかは、こういった背景があるからだと当時話されてい ました。 当時はインターネットが大いに花盛りで、イノベーションが とても活発に行われていました。インターネットでのイノベー ションというものの、残念ながらインフラには光はあたってお らず、ほとんどの学生はユーチューブ、フェイスブック、グー グルなどのインターネットを使った新しいサービスに関心を向 けていて、そういったところではとても盛んにイノベーション

最新の OpenFlow/SDN 技術とこれから期待される応用

SEMINAR REPORT

日本電気株式会社 知的資産R&Dユニット中央研究所 情報・ナレッジ研究所 主任研究員

下西 英之

OpenFlow/SDN 登場の背景

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11 が行われていました。コンピュータサイエンスを志向する学生 自体もますます減ってきて、その中でネットワークを志向する 学生も同様に減ってきているのは非常に問題視されていました。 しかも、インターネットを支えるインフラは多くの問題を抱え ており、今後ともイノベーションを必要としています。こうい った状況に非常に危機感を持って、どうしたらインフラにイノ ベーションを取り戻せるのか、学生を引きつけられるのかとい うのを非常に危惧しておりました。 インターネットを用いたサービスでは、例えば、大学生など がフェイスブックなどのような新しいサービスを始めたいと思 いついたとき、アマゾンのサーバを借りてくれば、当面のプロ グラミングスキルさえあれば、誰でもサービスを始めて、そこ からイノベーションに成功すれば、一夜にして大金持ちになれ ると、非常に魅力的な領域でした。それに比べて、インターネ ットのインフラそのものは、大手のベンダーが莫大な開発費を かけて、例えば、ルータや交換機を開発して、それをキャリア に納めて 5 年 10 年と運用するとなると、学生がどんなに面白 いアイデアを考えたとしても、イノベーションが実際に世の中 で花開くまでに学生が学生でいられなくなるほどの時間を費や してしまいます。 このような状況に非常に危機感をもって、それではどうやっ てインフラのイノベーションを持続的に回したらよいか、イン フラを再発明しようかと、先ほどの GENI やその他色々な動き が始まりました。注目を浴びていなかったところに再び光をあ てて、インターネットのインフラに対して人々の興味を集めて、 イノベーションを活発にしていこうという機運です。 図 2 が 2006 年当時の世の中の状況で、日本、欧州、米国で 色々なプロジェクトが走っていました。一つ注目すべきことは、 図の上半分は通常のリサーチファンドで、色々なリサーチに対 してファンドがありましたが、下半分はテストベットに対する ファンドで、国家予算による資金投入が大きな割合を示してい たのが特徴でした。 図 2 Future Internet に向けた日欧米の取り組み(当時) これはどういうことかというと、例えば、インターネットの 仕組みで新しい事業を考え着いたとき、プラットホームがベン ダーの装置にインプリされないと世の中に出せないのであれば、 イノベーションしようと思っても、モチベーションがわきづら い面があります。そうなると、考えたものが実際に装置として 動作し、それがインフラとして運用されるようなテストベット が必要になります。色々な新しい考えを持っている人が、テス トベットによる運用を始めて、そこで通信サービスとして成り 立つようになれば、それは大きなインセンティブになると思わ れます。テストベットに対して大きなファンドが付くようにな ったのが、欧米では 2006 年以降、日本では 2007~2008 年以 降です。JGN2plus(Japan Gigabit Network 2 plus)はそれ以前 からありましたが、JGN2plus 上での OpenFlow のテストベッ トが始まったのは 2009 年以降です。このあたりが当社の手掛 けてきたところです。 新世代ネットワークに関する2006年~2008年の状況があっ て、テストベットを作ろうという機運が各国で盛り上がってき た中で、その内の実用化技術の一つとして OpenFlow が生まれ ました。当時、OpenFlow 以外にも色々なオプションがありま したが、最終的にこの OpenFlow 技術が残ったわけで、テスト ベットが実際に動き始めたところから、以降注目を浴びた技術 です。 OpenFlow とは何かを図 3 にて説明します。一般にネットワ ーク機器は二つの機能要素から成り、一つは、単純にデータを 右から左側へ流すだけの、純粋にデータパケットを受け渡しす るフォワーディング機能であり、ハードウエアの進化に伴って ますます高速になっていく部分です。もう一つは、頭脳に相当 するところで、例えば、隣接にどの様なルータが存在していて、 どの経路でパケットを流せば、どの様にパケットが届くだろう という、ネットワークのインテリジェンスを司る非常に重要な 部分です。 図 3 OpenFlow とは? ネットワークで新しいことを導入するときに重要となるのは、 データをただ単に右から左に流すフォワーディングの方ではな く、ネットワークをどの様に制御して、どの様にパケットを流 すかというインテリジェント部分の方です。前者は汎用的な機 能としてハードウエアによる高速化を進めればよい領域です。 後者のインテリジェント部分は、前者から切り離して、コント ローラと呼ばれる汎用サーバを用いるというのがOpenFlow の 基本的な考え方です。 そうすると、従来はネットワークにインテリジェンスを持た せようとすると、両者の機能が一つの機器に一体化されている と、そこに新しい機能を実装するのは容易ではありませんが、 インテリジェント部分を切り離して誰でも触れるようになって、 その間にオープンな標準プロトコルを定めると、その上のイン テリジェンスは誰でも設計できるようになると考えられます。 こういったものをテストインフラとして例えば GENI などでデ プロイメントして、コントローラ上のプログラミングを誰にで も許すようにすれば、誰でもイノベーションに参加し、新しい ことを実際に運用されているインフラ上で直ちに試すことがで きるようになります。これは大変面白い試みだというところが、

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12 OpenFlow のスタート地点なのです。 ネットワークの制御サイドを切り離して、コントローラ上に 置いたとすると、当然ネットワークの制御だけでなくて、例え ば、バーチャルマシン(VM)の制御とか、サービスの制御とか、 それこそネームサーバやセキュリティなどの色々なインフラを 制御する機能などが、同じようにサーバ上にインプリされます。 今まではそういった IT インフラ側のインテリジェンスとネッ トワークは完全に切り離されていましたが、図 4 に示すように、 ネットワークのインテリジェンスだけを上に切り出して、IT イ ンフラ側のインテリジェンスと一緒になったとき、従来ネット ワークだけでは提供できなかった新しいサービスが可能になる と言われています。そして、ネットワーク技術のイノベーショ ンだけでなく、ネットワーク技術を含んだインフライノベーシ ョンが、このコントローラ側の役目として存在することになり ます。 図 4 OpenFlow とは? (つづき) OpenFlow の活用方法としては、当時、色々考えて幾つか実 践しました。図 5 に例を示します。 一つは、キャンパスネットワークです。学生が授業や研究室 で何かネットワークの新しい仕組みを考えようとプロジェクト を始めたとき、自分達が考えたネットワークの仕組みを OpenFlow を使ってキャンパスネットワークで実践してみます。 例えば、新しいメールデータを流す仕組みを作ったとき、実際 に自分達がキャンパスで使っているメールを配信してみます。 すると、自分で思ったことが実際にキャンパスネットワークで 動いて、それを皆で使ってみて面白いというのは勿論インセン ティブになるのですが、研究室のテストネットワークで動かす だけでなくて、実際に実ユーザーを募ることで、更に新しい課 題を発見し、次のイノベーションの種になるということです。 次に考えたのはデータセンターネットワークです。この図 5 では、サーバは左から右に動いて行っていますが、例えば、夜 中のデマンドが少ないときにサーバの数を減らして、デマンド を 1 台のサーバに集めて、残りのサーバをシャットダウンして 消費電力を下げていこうというときに、単純にサーバ、仮想マ シンを移動するだけでなくて、そこに張っていたネットワーク パスも同時に切り替えます。ネットワークとサーバ制御の仕組 みを OpenFlow コントローラで一体化すれば、こういったこと が自由にできるようになるのではないか、そうすると、これは 新しいデータセンターの運用形態として使えるのではないかと いった議論もありました。 あとは、企業ネットワークの話です。OpenFlow コントロー ラがネットワークのコントロールを司るのであれば、例えば、 セキュリティアプライアンスや従業員の認証システムなどのサ ーバの認証システムとネットワークアクセス制御をきちんと繋 ぎ合わせることによって、よりセキュアなプライベートネット ワークが構築できます。 他には、キャリア網をモバイルのバックフォールにするとか、 有線系のキャリアのアクセス系にするとか、サービスネットワ ークにするとか、こういった議論を OpenFlow の活用事例とし て検討しています。 図 5 OpenFlow を活用した研究開発 そして、最初はフューチャーインターネットという呼び方で 始まったものが(日本では新世代ネットワークという呼び方で したが)、OpenFlow というのが生まれて、最近はそれを総称し て、ソフトウエア・ディファインド・ネットワーク(SDN)と 呼ぶようになってきています(図 6)。 図 6 そして、SDN (Software-Defined Networking) それでは何故、OpenFlow がここまでうまくいったのでしょ うか? 図 7 に示すように、幾つかの要因が重なったような気 がします。 図 7 そして、OpenFlow 一つは、非常にシンプルに物事を捉えようとしたことです。 データパスとコントローラ部分を切り離すという考え自体は、

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13 OpenFlow が最初に始めたのではなく、色々なところで昔から ありました。 ネットワーク分野の周辺にいる若い人達やネットワークが本 業ではない人達が、色々なイノベーションをネットワークの世 界で起こすようになるためには、ネットワークの世界が閉じて いるのではなく、色々な人が簡単にこの世界に飛び込んで来ら れるように、ともかく物事がシンプルになるようにしました。 仕様をシンプルにするだけではなく、動作ソフトのオープン ソースコードを最初から提供して、誰でもコードを書けば始め られるところから始めました。そうしたら、まず、大学の学生 達が使い始めて、それが徐々に広がっていって、そしてクリテ ィカルマスを超えました。 もう一つ、デプロイメント可能ということをとても重視しま した。これはどういうことかと言うと、例えば、新しい方式を 考えて、それを実験室のサーバに実装して動かしてみても、実 験室のサーバ上のソフトでは、当然ながら実用には耐えられな い。実用化しようとすると、新しく交換機を作るなどハードウ エアから始めたのでは、今度はコストや時間がかかってしまい ます。そうではなく、考えついたアイデアがストレートに、そ れも実環境で使えるような速度のハードウエア上で速やかに実 現しないことには、イノベーションがテイクオフしません。そ こで、既存のハードウエアをそのままで、ファームウェアを書 き換えるだけでこのプロトコルが実現できるように、非常に注 意深く仕様をデザインしました。新しくハードウエアを作った り新たにチップを開発したりせずに、今あるハードウエアのフ ァームウェアを少し書き換えるだけで、実用可能なスペックを 有したOpenFlowのハードウエアができるところを極めて重視 しました。 そういうところをきちんと考えていたから、単に実験室の道 具に終わらず、実用にまで素早くたどり着けたということで、 最初の頃のベンダーである当社と大学の学生達がこれだけうま くやってこられたのは、当社がベンダーとしてハードウエアを 提供したその上に、彼らがソフトウエアを乗せていくという両 者の win-win の関係でスタートできたからです。 三つ目は、適用領域が注意深く選択されていたということだ と思います。OpenFlow では最初の適用先としてアカデミック に持っていきました。色々なオープンネットファンドがあり、 その関係者達がイノベーションのためにプラットホームを必要 としていて、そこに話を持っていって、GENI などの政府系資 金を使ったプロジェクトが広まっていきました。 その次にOpenFlowの適用先としたのがデータセンターです。 クラウドが流行ってきて、データセンターをより効率的に使い たいところに、OpenFlow がうまく使えるのではないかと考え られました。こういった新しい技術が即使えるような状況を見 定めて、常に OpenFlow をターゲッティングしていきました。 OpenFlow というのは、技術的に誰もとても思いつかないよ うなことを思いついて実行したというよりも、非常にシンプル な技術を種として、世の中の状況を見定め、周りの人達を巻き 込んで、どうすれば世の中に広がっていくかをしっかり考えて、 テクノロジーマーケティングしてきたところが、とてもうまく 回った実例ではないかと思っています。多くの人が参加し、実 験室ではなく実際に運用してみて、そして、それがキャンパス ネットワークやデータセンターで活用されるようになりました。 リサーチからインダストリーにどうすれば繋がるかをしっかり と考えながら、関係者を集めて働きかけたことで、最初はリサ ーチ環境から始まったものが、最終的にはインダストリーへと 繋がったということです。リサーチ・インダストリー間のイノ ベーションの橋渡しがうまくいったのが、今日 OpenFlow がこ れだけ受け入れられている理由ではないかと思っています。

現在では、OpenFlow の仕様は、ONF(Open Networking

Foundation)という標準化団体で議論されています(図 8)。 まず、2007 年にスタンフォード大学、NEC、NTT ドコモ、 ドイツテレコムなど 5 社によるクリーン・スレート・プログラ ムという活動を始めました。これが OpenFlow の仕様の原点で す。その後、2009 年にクリーン・スレート・ラボラトリー活動、 そして発展的に解消して、最初の仕様書が作成されました。そ の後、2011 年 3 月に ONF という標準化団体を正式に発足しま した。この間、4 年間のタイムラグがありますが、これは既存 の標準化団体に話を持っていくのではなく、自ら新たな標準化 団体を立ち上げるべく、4 年の期間をかけて準備したというこ とです。 図 8 OpenFlow / SDN の活動の経緯 そもそも OpenFlow、SDN を始めた理由は、ネットワークに 対してイノベーションが起こるような環境を作ることが目的で した。実際、どの様なことを行ってきたかというと、最初にス タンダード大学と一緒に OpenFlow を立ち上げたときに、当社 が持っているイーサネットスイッチのハードウエアを改造して、 OpenFlow の機能が動作するようにしました。 プロトタイプを作った後に最初に行ったことは、それを様々 な研究機関、特に米国の大学に提供し評価をして頂きました(図 9)。 図 9 スイッチ試作機開発と研究機関への提供

OpenFlow 関連標準化動向

オープンイノベーションに向けた取り組み

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14 図 10 は、当社とスタンフォード大などが一緒に行った第 3 回 GENI Engineering Conference での実証実験です。スタン フォード大に OpenFlow のネットワークを構築して、日本側 は NICT の JGN2plus に OpenFlow のスイッチを配置して、太 平洋を跨いだインターネット通信で JGN2plus とスタンフォ ード大の回線とを接続して、OpenFlow のネットワークによる 仮想マシンの移動などを評価しました。

図 10 OpenFlow Switch 実証実験(GEC3rd) もう一つ我々が進めてきたことは、コントローラの開発を誰 でも簡単にできるようにしたいということでした。誰かが新し いネットワークの仕組みを考えて、それをコントローラに組み 込みたいと考えたとき、いとも簡単に実現できるようにコント ローラ開発のためのフレームワーク(Trema)を開発して、オ ープンソースとして公開しています(図 11)。 図 11 コントローラのオープンソース活動 実際、このフレームワークを用いてベンチャー企業の人がセ キュリティアプライアンスを作るなど、色々な形でエコシステ ムが広がりつつあります。本を書いたり、色々なセミナーを開 催したり、大学で OpenFlow/Trema の授業をしたり、学生に実 際に OpenFlow のコードを演習として書いてもらったりと、 色々なオープンコミュニティの活動を行っています(図 12)。 図 12 コミュニティー活動 データセンターのクラウドソリューションとしては、どうい ったことを考えているかと言いますと、OpenFlow のユースケ ースの一つとして述べたことですが、データセンターを簡単に 構築することです(図 13,14)。データセンターのインフラを構 築するのを、IT 資源プールを作り、OpenFlow のネットワーク 資源プールを作った後、プロビジョニングシステムによる仮想 ネットワークと仮想サーバを構築することで、速やかにシステ ム構築できるようにすることです。 図 13 IT・NW 統合管理によるシステム構築迅速化(1/2) 図 14 IT・NW 統合管理によるシステム構築迅速化(2/2) 従来はこういったデータセンターのインフラを構築するとき、 IT ネットワークインフラがあって、サーバは何台必要で、それ を繋ぐための仮想ネットワークは、LAN は、ファイアウォール はと設計していくと、以前は大概 2週間ぐらい要していました。

データセンター・クラウドシステムソリューション

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15 それに対して、ユーザーが申込の後、仮想サーバプールして、 VLAN 設計、ネットワーク仮想化設計して、2 週間かかってい たものを 5 分で提供することが一つの例です。 今までの OpenFlow の話は、最初に大学やリサーチ機関への 導入、続いてデータセンターや企業ネットワークへの導入につ いてでしたが、最新動向としては、キャリア向けに OpenFlow 導入の画策が始まっています。 SDN のキャリアネットワークにおける活用例として有力な のが ETSI(European Telecommunications Standards Institute) で議論されている NFV(Network Function Virtualization)です

(図 15)。NFV そのものは SDN がなくとも実現できますが、

NFV を実現するネットワークインフラとして SDN を活用する ことで相乗効果を得られるということが議論されています。

図 15 ETSI NFV (Network Function Virtualization)標準化 図16はキャリア側のETSIネットワークの例を示しています。 例えば、ブロードバンドアクセスサーバとか、ルータとか、セ ッションボーダーコントローラとかのアプライアンス機器を 次々と導入して行くと、維持費用はかかるし、サービス内容も 変わって行く中で専用機器は導入しづらいです。この様なアプ ライアンス機器を全て仮想マシン化して、ソフトウエアで対応 しようというのが NFV でやろうとしていることです。極論す ると、今までキャリアの終端局に設置されていたルータなどの 装置群を、データセンターのようにサーバをたくさん並べて LAN スイッチで結ぶ。後は色々なサービスをサーバのソフトウ エアによって実現してしまうことを検討しています。

図 16 Network Function Virtualization(1/2)

図 17はNFV をキャリアのエッジネットワークに適用した例 です。例えば、赤線で示すようなサービスがアクセスから入っ て、BRAS(Broadband Access Server)、NAT(Network Address Translation)、IPS(Intrusion Prevention System)を経て、ルー タからインターネットへと抜けていくという機器構成のとき、 この様に個々に機器を置くのではなく、全てサーバ上の仮想マ シン(VM)に置き換えて、VM でこれらのネットワークの処理 を行うようにする。こうすることで、サービス需要が変わった ときでも、VM を組み替えるだけで機器構成が変えられます。 長期的な投資の面からも、色々なサービスごとに選んで機器を 設置するのではなく、とりあえずサーバをたくさん並べておい て、必要に応じて VM で対応すれば、提供サービスの変化に対 応してキャリアのウェブサービスが構築できると想定しており ます。

図 17 Network Function Virtualization(2/2)

そもそも OpenFlow や SDN というのは、どういうことを意 図していたのでしょうか? 産業構造という観点で捉えると (図 18)、昔はアプリケーション、専用 OS、専用ハードウエ アというメインフレームの時代でした。それがいつの間にかハ ードウエアは PC などのコモディティーになって、OS はマイ クロソフトやリナックスに標準化されて、OS 上で色々なアプ リケーションが動作するという、まさにコンピュータ世界のオ ープン化によって、このような変革がもたらされました。 図 18 OpenFlow が変えるネットワーク産業構造 それと全く同じことが、ネットワークの機器においても起こ るのではないでしょうか? スイッチやルータでは専用の組み

最後に

キャリアネットワーク向けソリューション

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16 込み OS が動作し、その上で例えば BCP(Business Continuity Plan)対策を支えるソフトウエアが動作し、これがベンダーの ビジネスを支えているわけですが、これが OpenFlow ネットワ ークになれば、コモディティーのハードウエアに内蔵されてい るのはフォワーディングチップだけで、そこには制御ソフトは 動作していません。その上にはオープンなインターフェイス、 オープンなオペレーションシステム、ネットワーク機器用のオ ペレーションシステムが存在し、さらにその上にサービスソフ トウエアとして、色々なネットワークプロトコルが動作するの であろうと思います。 コモディティー上で動作する世界になると、ハードウエアは 共用化されて、その上で動作するソフトウエアの違いで、先ほ どのデータセンターの例では制御プログラムが、キャリアエッ ジネットワークの例ではエッジネットワークソフトウエアが適 用されるということになります。そうなると、コモディティー のハードウエアを製造する人、ユースケースごとに色々なアプ リケーションソフトを作る人と、立場が分かれていくのではな いかと、OpenFlow は意味しているように思います。 本講演録は、平成 25 年 6 月 14 日に開催されました、SCAT主催の「第 90 回テレコム技術情報セミナー」、テーマ「最新の OpenFlow/SDN 技術とこれから期待される応用」の講演要旨です。 *掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。 16

図 3  ICN の背景  - Internet Paradigm Shift -
図 7  ICN In-network Caching
図 10  OpenFlow Switch 実証実験(GEC3rd)
図 17はNFV をキャリアのエッジネットワークに適用した例 です。例えば、赤線で示すようなサービスがアクセスから入っ て、BRAS(Broadband Access Server) 、NAT(Network Address  Translation) 、IPS(Intrusion Prevention System)を経て、ルー タからインターネットへと抜けていくという機器構成のとき、 この様に個々に機器を置くのではなく、全てサーバ上の仮想マ シン(VM)に置き換えて、VM でこれらのネットワークの処理

参照

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