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役員給与に関する損金不算入額の歴史的変遷

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(1)

役員給与に関する損金不算入額の歴史的変遷

―近年の社会情勢の変化を中心とした検討―

久保田 俊 介

はじめに

 役員給与に関する損金不算入は,1959 年(昭和 34 年)に法人税施行規則として法整備 されたが,それ以前は,通達により規定されていた。

 2006 年(平成 18 年)の法人税法改正後は,役務提供部分(損金算入)と利益処分部分(損 金不算入)という考え方を使用せず,役員給与は,法人税法 34 条 1 項に①定期同額給与,

②事前確定届出給与及び③利益連動給与(現在は,業績連動給与)を規定して,①,②及 び③に該当するものは,損金算入とされ,それ以外は損金不算入として規定された。また,

同法同条 2 項には,「不相当に高額」な役員給与も損金不算入とされている。

 役員給与の問題点は,この「不相当に高額」な役員給与がどの程度なのかという金額の 問題がある。この金額は,同種企業の役員給与の平均額を超えた部分を,損金不算入とし て課税庁側から更正処分される流れとなっている。しかしながら,納税者側は,企業の業 績も考慮に入れて「不相当に高額」な役員給与の金額を検討すべきという主張をしており,

裁判所では,業績を考慮して判決している場合もある。

 筆者は,役員給与について,2020 年 3 月千葉商大論叢第 57 巻第 3 号で,近年の裁判例 を考察し,納税者の個別事情や功績度合いなども「不相当に高額」な役員給与の判断に組 み入れる必要があると結論づけているが,本稿では,役員給与の歴史的変遷を概観し,近 年,企業の価値向上にむけて,コーポレートガバナンス・コード(以下,「CG コード」

という。)などの社会情勢の変化から業績連動給与の議論が重要視されている点について 考察を加えることを目的としている。

第 1 章 現状の社会情勢と課題

 役員給与は,恣意性の入り込む余地が多いことから,法人税法 34 条 2 項に「内国法人 がその役員に対して支給する給与…略…の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令 で定める金額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しな い」という規定がある。この「不相当に高額」な役員給与は,抽象的な概念であり,課税 庁と納税者の争点になりやすい問題がある。

 「不相当に高額」な役員給与の損金不算入額は,通例として,倍半基準を使用して,同 種の企業のうち,売上高の倍から半分の企業を抽出する。その抽出された企業の役員給与 から平均額を算定する。その算定された役員給与の平均額を超えた部分は,損金不算入と して,課税庁側が更正処分する流れであった。

〔研究ノート〕

(2)

 近年の裁判例では,業績が向上していないのに役員給与が増加している点を理由に損金 不算入にしている判決があり,業績も考慮している判断となっていた。

 筆者は,この「不相当に高額」な役員給与の判定は,同種の企業の役員給与と比べるだ けではなく,納税者の個別事情や功績度合いなども「不相当に高額」な役員給与の判断に 組み入れる必要がある(1)という主張をしている。

 このように課税庁と納税者の争点となる「不相当に高額」な役員給与は,今まで恣意性 を排除し,課税の公平を重要視していた。しかしながら,近年は,企業の中長期的な企業 価値向上に向けて CG コードが重要視されており,中長期的なインセンティブのために,

税制改正を通じて,役員給与の損金算入の範囲が広がっている。

 この中長期的な企業価値向上は,日本再興戦略(改訂 2015)において,「経営陣に中長 期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを付与することができるよう金銭でな く株式による報酬,業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とするための仕組みの整備 等」(2)を指摘している。さらに,日本再興戦略(2016)において,「取締役会の役割・運用 方法,CEOの選解任・後継者計画やインセンティブ報酬の導入,任意のものを含む指名・

報酬委員会の実務等に関する指針や具体的な事例集を,本年度内を目途に策定する」(3)と しており,一貫して役員給与によるインセンティブの重要性について述べている。

 近年の社会情勢は,役員給与について中長期的なインセンティブ報酬が検討されており,

実際に上場企業では,多くの企業で業績連動給与が採用されている。また,伊藤レポート(4)

では,米国や欧州と比べわが国の収益力が低いことを指摘しており,原因としては,諸外 国と比べてわが国の役員給与が低い(5)ことが問題としてあるのではないだろうか。

 第 2 章では,役員給与について,歴史的な概観をすることで,どのような社会情勢の変 化から役員給与の考え方に変化がもたらされてきたのかを検討する。

第 2 章 現行制度に至るまでの歴史的変遷

 本章では,現行制度の役員給与の規定がどのように変化してきたのかを確認するととも に,法人税法施行規則として法整備された 1959 年(昭和 34 年)までは,どのように役員 給与が規定されていたのかを概観する。

(1) 久保田俊介「役員給与に関する不相当に高額の一考察 ―近年の裁判例を中心として―」『千葉商大論叢』,

57 巻 3 号,p.251

(2)「日本再興戦略改訂 2015」首相官邸ホームページ(最終閲覧日 2021 年 1 月 10 日(https://www5.cao.go.jp/

keizai-shimon/kaigi/minutes/2015/0630/shiryo_02-1.pdf))

(3)「日本再興戦略 2016」首相官邸ホームページ(最終閲覧日 2021 年 1 月 3 日(https://www5.cao.go.jp/keizai- shimon/kaigi/minutes/2016/0602/shiryo_04.pdf))

(4)「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト(伊藤レポー ト)」経済産業省ホームページ

伊 藤 レ ポ ー ト は,2014 年 8 月 公 表 さ れ て い る。((最 終 閲 覧 日 2021 年 1 月 4 日 https://www.meti.go.jp/

policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf)

(5) CGS 研究会(コーポレートガバナンス・システム研究会)(第 6 回)

配布資料ウイリス・タワーズワトソン説明資料(最終閲覧日 2021 年 1 月 6 日(https://www.meti.go.jp/

committee/kenkyukai/sansei/cgs_kenkyukai/pdf/006_05_00.pdf))

(3)

1899 年(明治 32 年)

 わが国の所得税制度は,1887 年(明治 20 年)に創設されたが,創設当時は,法人に所 得税を課税しておらず,法人の所得が個人に配分されたときに個人に所得税が課税され,

法人の所得については非課税とされていた(6)。その後,1899 年(明治 32 年)の所得税法 改正では,法人に国税を課税するようになった(7)。1899 年(明治 32 年)10 月 2 日主税局 長通達では,利益の有無にかかわらずに支給される賞与は損金になるが,利益が出た場合 に支給される賞与は所得とみる,つまり損金にはならないと規定されたのが始まりであ る(8)。当時より,会社の利益処分による役員賞与は,損金不算入となるという考え方が採 用されており,この考え方は,2006 年(平成 18 年)の法人税法改正に至るまでその根底 に流れるものと考えられる(9)

1923 年及び 1926 年(大正 12 年及び大正 15 年)

 1923 年(大正 12 年)には,同族会社の行為についての否認規定が創設された(10)。その 後,1926 年(大正 15 年)の所得税法改正により,同族会社が初めて定義された(11)。また,

1923 年(大正 12 年)頃には,同族会社の「行為」のみの否認規定であったが,1926 年(大 正 15 年)頃には,「計算」が追加されることになった(12)。現行と同様な同族会社の留保 金課税及び行為計算の否認規定などの制度改正が行われており,過大な役員報酬の取扱い は,同族会社の行為計算の否認規定で取り扱われることになった(13)。当時,過大な役員 報酬を,同族会社のみに規定したのは,恣意的な処理が行われやすかったことが影響して いると考えられる。

1950 年(昭和 25 年)

 1949 年(昭和 24 年)のシャウプ税制勧告により,1950 年(昭和 25 年)に税制改正が 行われた。1950 年(昭和 25 年)から 1959 年(昭和 34 年)の法人税法施行規則制定まで の役員賞与等の取り扱いは,シャウプ税制改正に伴い制定された法人税基本通達(昭和 25 年 9 月 25 日付直法 1-100)により取り扱われていた(14)。当該通達には,現在の形式基 準と同様に定款又は株主総会の承認を受けた金額を超えるものが,利益処分による賞与と して損金不算入とされていたが,株主総会の承認を受けた金額であっても,過大と認めら れる報酬の損金不算入の規定は,当該通達には制定されておらず,1959 年(昭和 34 年)

(6) 山口孝浩「役員賞与・役員報酬をめぐる問題―改正商法等の取り扱いを問題提起として―」『税大論叢』,48 号,2005 年 6 月 29 日,p.183

(7) 山口孝浩,前掲論文(注 6),p.183

(8) 山口孝浩,前掲論文(注 6),p.184

(9) 長尾元彦「役員給与税制における損金算入要件のあり方」第 28 回租税資料館賞(最終閲覧日 2020 年 12 月 31 日(https://www.sozeishiryokan.or.jp/award/028/z_pdf/ronbun_h31_10.pdf)),p.4

(10)福浦幾巳「租税判例における『役員給与』規制の回顧と動向」『西南学院大学論叢』,第 54 巻第 1 号,2007 年 6 月,pp.2-3

(11)山口孝浩,前掲論文(注 6),pp.191-192

(12)山口孝浩,前掲論文(注 6),pp.191-192

(13)山口孝浩,前掲論文(注 6),p.185

(14)山口孝浩,前掲論文(注 6),p.187

(4)

3 月に制定された法人税法施行規則により規定されている(15)1959 年(昭和 34 年)

 1959 年(昭和 34 年)の「法人税法施行規則制定時の基本通達は,直法 1-150 通達であり,

現在の取扱通達とされているもののほとんどが制定されている。その後,昭和 34 年直法 1-240 通達では,役員賞与,報酬で重要な取り扱いとなる定期の給与の意義及び報酬と賞 与との具体的な区分が制定されている。また,役員報酬の取扱いについては,同族会社の 行為計算規定における取扱通達も規定されていたことから,同族会社に対しては,法人税 法施行規則及び同族会社の行為計算規定の両方の取扱ができるようになっていた。」(16)

1965 年(昭和 40 年)

 法人税法の全文改正により,過大な役員報酬の損金不算入及び過大な役員退職給与の損 金不算入が規定された(17)。役員給与に対する通達改正は,役員の範囲,同族会社の役員,

同族会社の判定の基礎となる株主等の範囲,使用人兼務を認められない同族会社の判定の 基礎となる株主等の範囲等が規定されている(18)

1998 年(平成 10 年)

 1998 年(平成 10 年)の法人税法改正では,事実の隠蔽又は仮装経理による役員報酬の 損金不算入が規定された(19)。また,役員の親族等には,特殊関係使用人に対する不相当 に高額な給与の損金不算入及び退職金についての損金不算入が規定されている(20)2003 年(平成 15 年)

 2003 年は,わが国における CSR 元年として指摘されることが多い。CSR(企業の社会 的責任)は,「企業活動において,社会的公正や環境などへの配慮を組み込み,従業員,

投資家,地域社会などの利害関係者に対して責任ある行動をとるとともに,説明責任を果 たしていくことを求める考え方」(21)として説明され,企業の不祥事や環境意識の高まりか ら注目されるようになった。このような企業の不祥事は,法律ではなく,ソフトローといっ た形で正していくことが,後の CG コードの策定にもつながっていった。

2004 年(平成 16 年)

 当時,役員給与については,労働の対価と考えて損金算入が可能なもの,及び利益の処 分と考えて損金不算入なものに分類する処理が行われていた。

(15)山口孝浩,前掲論文(注 6),p.189

(16)山口孝浩,前掲論文(注 6),p.189

(17)福浦幾巳,前掲論文(注 10),2007 年 6 月,pp.2-3

(18)山口孝浩,前掲論文(注 6),p.190

(19)福浦幾巳,前掲論文(注 10),pp.2-3

(20)山口孝浩,前掲論文(注 6),pp.182-183

(21)厚生労働省ホームページ(最終閲覧日 2021 年 1 月 17 日(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudouseisaku/

csr.html))

(5)

 この点は,2004 年に企業会計基準委員会が公表している実務対応報告第 13 号において,

以下のように公表している。

 「役員賞与は,株主総会決議を経るまでは確定的な支払い義務を伴わない場合であって も,職務執行に対し支払われるものであり,経済的実体としては,業績連動型の役員報酬 と同様の性格であると考えられる。このため,会計上,役員賞与は,基本的に,未処分利 益の減少ではなく,発生時に費用として会計処理することが適切であると考えられる。

 また,これまでのように役員賞与を利益処分として会計処理する際の説明については,

次のような理由から,会計上,妥当ではないと考えられる。

 ①役員報酬は職務執行の対価として利益の有無にかかわらず支給されるものであるが,

役員賞与は利益をあげた功労に報いるために支給されるものであって,両者の性格は 異なるとの見解がある。しかし,利益をあげた功労は職務執行の成果であるから,や はり職務執行の対価であり,いずれの支給も同じ性格と考えられる。

 ②仮に,両者の性格は異なると考えた場合であっても,それは相対的な区別であり,支 給の内容や水準によって区分することは実務的に困難であると考えられる。

 ③また,株主から委任された役員は,株主の代表として職務を行い,功労により生じた 利益の一部が株主の意思(株主総会決議)により与えられていると説明される場合も ある。しかし,基本的には,役員報酬と役員賞与はともに,株主総会における決議を 経たものであり,株主の意思により与えられている点で相違はないと考えられる。」(22)

 2006 年(平成 18 年)の法人税法改正は,この実務対応報告との整合性を合わせている と考えられる。

2006 年(平成 18 年)

 2006 年(平成 18 年)の法人税法改正以前は,役員報酬と役員賞与に分類し,役員報酬は,

役務提供の対価として損金算入が認められていたが,役員賞与については利益処分と考え,

損金不算入としていた。これは,役員給与の職務執行の対価と利益の処分という区分につ いて,定期同額給与を役員報酬とし,臨時の給与を役員賞与というように,給与の支給形 態や外形を基に執行上の便宜から区分していた(23)

 2006 年(平成 18 年)の法人税法改正により,大幅に役員給与規定を改定しており,役 員給与を,①定期同額給与,②事前申告給与及び③利益連動給与(現行では,業績連動給 与に変更されている。)にわけて,①,②及び③については,損金算入であり,それ以外 のものは,損金不算入とした(24)。また,各支給時期における支給額から源泉税等の額を 控除した金額が同額である場合には,その支給額を同額であるものとみなす規定が追加さ れた(25)。これは,外資系法人の外国法人等に支給する給与に,手取額を同額にする契約

(22)「役員賞与の会計処理に関する当面の取り扱い」実務対応報告第 13 号,企業会計基準委員会ホームページ,

2004 年 3 月 9 日,p3,(( 最 終 閲 覧 日 2020 年 12 月 30 日 )https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/

bonus.pdf)

(23)矢頭正浩「定期同額給与 損金算入となる改定事由を理解する」『税務弘報』,第 68 巻第 6 号,2020 年 6 月,

p.28

(24)福浦幾巳,前掲論文(注 10),pp.2-3

(25)矢頭正浩,前掲論文(注 23),p.29

(6)

があることを考慮したものである(26)

2016 年及び 2017 年(平成 28 年及び平成 29 年)

 2017 年(平成 29 年)には,コーポレートガバナンス改革に応じた改正が盛り込まれ,

役員給与の損金算入対象が拡大されるなどの整備がされた(27)。2016 年(平成 28 年)改正 には,特定譲渡制限株式が事前確定届出給与に追加され,2017 年(平成 29 年)改正には,

に株式交付信託やストック・オプションも追加された。

(小括)

 本章では,1899 年から現在までの歴史的な変遷を概観してきたが,役員給与は,2006 年の前後で考え方が大きく変化していることがわかる。すなわち,2006 年以前は,役務 提供部分の役員給与が損金算入可能であり,利益処分部分に関する役員給与は,損金不算 入である考え方の下に規定されていた。しかしながら,役員給与は,2004 年の企業会計 基準委員会で指摘されるように,①利益処分であっても役員に対する職務執行の成果であ ること,②利益処分かそうでないかについて区別が困難であること及び③報酬部分と賞与 部分はともに株主総会決議を経て決定されたものであることという理由から,報酬と賞与 を分ける必要性について,妥当でないとの意見を表明している。

 また,役員給与は,恣意性を排除し,課税の公平を図るという目的があるため,同族会 社については,2006 年の改正後も業績連動給与として役員給与を支給することができな い制約がある。

 さらに,企業の不祥事に対する 2003 年以降の CSR の意識の高まりや,2014 年以降は,

伊藤レポート,日本再興戦略及び CG コードで企業価値向上に向けて中長期的なインセン ティブが必要であるという社会情勢の変化から役員給与の損金算入の範囲が拡大している ようである。

 第 3 章では,本章でも明らかになった通り,2006 年が大きな改正であり,当該改正に よりどのような考え方になっているのかを検討する。

第 3 章 2006 年(平成 18 年)改正論点の考察

 本章では,役員給与の改訂論点として大きく変更された 2006 年(平成 18 年)改正論点 である①定期同額給与,②事前確定届出給与及び③利益連動給与(現行は,業績連動給与)

について考察を行っていく。

 2007 年(平成 19 年)3 月 13 日付で国税庁が公表した趣旨説明によると,「平成 18 年改 正後の法人税法により損金算入の対象とされる役員給与は,定期同額給与,事前確定届出 給与及び利益連動給与とされ,いずれもその役員給与があらかじめ定められているかどう かを重要な判断基準として整理されたものであり,あらかじめ定められたところに従い支 給される給与については,法人税法第 34 条第 1 項各号の要件を満たせば損金算入される

(26)矢頭正浩,前掲論文(注 23),p.29

(27)矢頭正浩,前掲論文(注 23),p.29

(7)

という制度である」(28)と説明しており,特に,あらかじめ役員給与の金額が定められてい るか否かで恣意性を排除しようとしていると解釈できる。

(定期同額給与)

 定期同額給与については,法人税法基本通達 9-2-12 によると,「あらかじめ定められた 支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて,毎日,毎週,毎月のように月以下の期 間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるものをいうのである」と規定してお り,恣意性を排除し,職務執行としての対価として毎期同額の役員給与は損金算入が可能 であり,賞与のような年に数回支払が行われるものは該当しない。

 業績悪化による役員給与の減額改定は,法人税法基本通達 9-2-13 によると,「『経営の 状況が著しく悪化したことその他これに類する理由』とは,経営状況が著しく悪化したこ となどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから,法 人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれな いことに留意する」と規定しており,業績悪化による減額改定が認められるのであれば,

業績向上による増額改定も認めるべきであるが,課税の公平の見地や恣意性の排除の考え 方からも増額については,特に慎重に判断するべきであると思われる。2011 年(平成 23 年)

1 月 25 日の国税不服審判所裁決では,経常利益が対前年比で 6%程度減少した事実をもっ て役員給与を減額したが,当該減額改定については,若干の下落であり,さらに当事業年 度及びその前の 6 事業年度を比較すると経常利益も 2 番目に高く,業績が著しく悪化した ものとは,認めることはできず,役員給与を減額する特段の事情が生じていたと認めるこ とはできないと判断した。

 当該役員給与の減額について矢頭(2020)は,「利益操作以外にも経営上の判断から行 われることもある。著しい悪化になる前に経営者は対策を講じるものである。単なる悪化 ではなく,著しい悪化が要件とされているが,その程度も不明確である。これが給与減額 の典型的理由として例示しているだけであるならば理解できる。業績悪化改定事由は,利 益調整等の恣意性を伴う減額に絞って否認すれば済む」(29)と指摘しており,業績悪化につ いては,著しい悪化ではなくても経営判断により減額を認めるか,業績悪化の程度を明確 にすべきであると主張している。

 また,小原(2020)は,「現状では,売上などの数値的指標が著しく悪化していないとし ても,今後の業績悪化が見込まれる等経営環境が悪化しているといった状況において,役 員給与の減額等といった経営改善策を講じなければ,客観的な状況から判断して,急激に 財務状況が悪化する可能性が高く,今後の経営状況が著しく悪化することが不可避といっ たような場合にも同様に取り扱われることが明らかとされている。したがって,給与減額 の実地を検討する際に考慮した財務情報等については,減額改定の合理性についての疎明 資料として整理しておくことが望ましい」(30)と指摘しており,業績悪化については,単に

(28)国税庁「平成 19 年 3 月 13 日付『法人税基本通達等の一部改正について』の趣旨説明について」(最終閲覧 日 2021 年 1 月 4 日(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/070313/10.htm))

(29)矢頭正浩,前掲論文(注 23),p.34

(30)小原一博「法人のための税務対応と税制措置」『税務弘報』,第 68 巻第 6 号,2020 年 6 月,p.129

(8)

現在の財務状況のみでなく,将来の業績悪化も考慮に入れる点に注意すべきとしている。

 さらに,佐藤(2019)は,経営状況が相当程度悪化しているような場合でなければこれ に該当せず,対象となる事例は限定されるのではないかという疑問について,財務諸表の 数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく,経営状況の悪化に 伴い,第三者である利害関係者(株主,債権者,取引先等)との関係上,役員給与の額を 減額せざるを得ない事情が生じていれば,これも含まれることになるとしている(31)。  このように,定期同額給与は,株主総会で決議されたとおりに役員給与を支払うことで 恣意性を排除し,課税の公平を保つことを目的としていると解釈できる。しかしながら,

業績の急激な悪化に伴って役員給与を減額することについては,単に,目標に達成できな かったこと等をもって減額することはできず,財務諸表の数値が相当程度悪化している事 実が必要である。ただ,この部分については,業績の著しい悪化という不確定概念が発生 しているため,今後納税者との争点として課題が残る。

 定期同額給与がこのような規定になっているのは,当初の役員給与を高額にしておいて,

その後,役員給与を減額することで恣意的に役員給与を決定することができてしまうこと を危惧してのことであろう。

(事前確定届出給与) 

 法人税基本通達 9-2-14 では,「法第 34 条第 1 項第 2 号《事前確定届出給与》に掲げる 給与は,所定の時期に確定した額の金銭等…略…を交付する旨の定めに基づいて支給され る給与をいうのであるから,例えば,同号の規定に基づき納税地の所轄税務署長へ届け出 た支給額と実際の支給額が異なる場合にはこれに該当しないこととなり,原則として,そ の支給額の全額が損金不算入となることに留意する」と規定しており,この規定の「所定 の時期」に「確定した額の金銭等」をあらかじめ「定め」ておくことが重要であり,恣意 性を排除するため,法人税法施行令 69 条 5 項に臨時改定事由又は,業績悪化改定事由を 基因としてその定めの内容を変更する場合には,「所定の時期」までに変更の届出を行う ことにより,変更後の役員給与についても,事前確定届出給与とすることが規定されている。

 役員の職務執行期間は,一般的に,定時株主総会から次の定時株主総会までであるが,

その期間中に複数回の事前確定届出給与の支給を予定している場合もある。その際,1 度 目の役員給与は,定められた金額を支給し,2 度目の役員給与は,定められた金額でない 金額を支給した場合には,2 度目の金額だけが損金不算入となるのか,それとも,1 度目 と 2 度目の両方が損金不算入にするのかという問題があるが,一般的に,役員給与は,定 時株主総会から次の定時株主総会までの間を職務執行期間の対価であると解されることか ら,支給が複数回であっても,その職務執行期間を 1 期間と考え,あらかじめ定められた 金額かどうかで判定することになる(32)

 役員報酬と役員賞与は,本来の意義ないし内容を異にするものであり,旧商法では,役 員賞与を各事業年度における利益に対する役員の功労に報いる報奨金としての性質を有 し,その支払いは,利益の処分であることが通説とされ,実務上もほとんどの会社は,役

(31)佐藤友一郎『法人税基本通達逐条解説(9 訂版)』,税務研究会出版局,2019 年 7 月,p.829

(32)佐藤友一郎,前掲書(注 31),p.834

(9)

員に対する賞与について,利益処分として処理していた(33)。2006 年(平成 18 年)改正前 の法人税法では,現実に役員に支給される給与について,そのいずれに該当するものであ るかを判別することが,実際上必ずしも容易ではなく,また,同族法人等においては,利 益処分として支給すべきものを,容易に報酬化することによって,課税を免れる場合も考 えられる(34)。2006 年(平成 18 年)の創設当時の事前確定届出給与の対象は,金銭により 支給される給与に限られていた。しかしながら,2016 年(平成 28 年)度改正では,同年 4 月に政府の成長戦略の 1 つとして,経営陣に中長期の企業価値向上を図るインセンティ ブを付与することを目的に導入された株式報酬である特定譲渡制限付株式が,事前確定届 出給与の対象とされた(35)。さらに,2017 年(平成 29 年)改正では,これと整合的な税制 とする目的で株式交付信託やストック・オプションとして新株予約権を交付する場合も事 前確定届出給与の範囲に追加され,損金算入の範囲が拡大している(36)

 このように,事前確定届出給与は,従業員に対する賞与について損金算入可能であり,

役員に対する賞与が損金不算入になると,毎月の給与に賞与分を組み入れることも容易に 考えられる。そのため,賞与については,事前に届出を提出することで,損金算入を可能 としている。また,企業の中長期的なインセンティブになるように,金銭以外のものも,

損金算入可能として CG コードと整合性を合わせているように解釈できる。

(業績連動給与)

 業績連動給与は,法人税法 34 条 1 項 3 号に「内国法人(同族会社にあっては,同族会 社以外の法人との間に当該法人による完全支配関係があるものに限る。)がその業務執行 役員…略…に対して支給する業績連動給与」として規定しており,基本的には,同族会社 以外の企業が適用対象となっている。

 2019 年(平成 31 年)税制改正による業績連動給与の改正は,2018 年 6 月の CG コード の改訂に基づいて支給決定等の手続きを見直し,CG コード原則に即して要件を定めたも のと考えられる(37)

 役員退職給与について,実務上,功績倍率が多く用いられているのは,計算の容易さに 加えて,一定の合理性があると考えられているからである(38)。静岡地裁 1988 年 9 月 30 日判決(1989 年 1 月 23 日の東京高裁判決)では,「功績倍率は,実際に支給された役員 退職給与の額が,当該役員の退職時における最終報酬月額に勤続年数を乗じた金額に対し,

いかなる比率になっているのかを示す数値であるところ,役員の最終報酬月額は,特別な 場合を除いて役員の在職期間中における最高水準を示すとともに,役員の在職期間中にお ける会社に対する功績を最もよく反映しているものであり,また,役員の在職期間の長短 は,報酬の後払いとしての性格の点にも,功績評価の点にも影響を及ぼすものと解され,

(33)田代雅之「事前確定届出給与 事前の定めのとおりに支給しない場合」『税務弘報』,第 68 巻第 6 号,2020 年 6 月,p.37

(34)田代雅之,前掲論文(注 33),p.37

(35)田代雅之,前掲論文(注 33),p.38

(36)田代雅之,前掲論文(注 33),p.37

(37)新井優美子「業績連動役員給与の改正ポイント」『企業会計』,第 71 巻第 7 号,2019 年 7 月,p.131

(38)上西左大信「役員の範囲と役員給与(その 2)」『税研』,206 号,p.75

(10)

功績倍率は,当該役員の法人に対する功績や法人の退職支払い能力等の個別的要素を総合 評価した係数というべきであるから,類似法人の功績倍率を比較検討して,退職役員に対 する退職給与の支給が不当に高額であるか否かを判断する被告の判定方法は,前記法令の 趣旨に合致する合理的なものというべきである。」

 佐藤(2019)によると,「『職責』については,慣例的に定められている場合や経済状況 等によって変動する場合もあるなど,その決め方は幅広いものと考えられる。そのため,

仮に法人が用いている功績倍率が業績連動給与に該当することとなる利益の状況を示す指 標,株式の市場価格の状況を示す指標等を基礎として算定されるものである場合,業績連 動給与に該当するケースもあると考えられる。したがって,その退職給与が業績連動給与 に該当する場合には,業績連動給与の損金算入要件を満たすものでなければ損金の額に算 入されないことに留意する必要がある。なお,功績倍率による退職給与であっても,不相 当に高額な部分の金額や,事実を隠蔽し又は仮装して経理をすることにより支給する給与 に該当するものは,損金の額に算入されないことはこれまでと同様である。」(39)

 業績連動給与については,山口(2005)によると,近年の企業は,従来の年功序列制度 から成果主義へ移行しつつあるとして,取締役の報酬についても企業の利益獲得に直結し た業績連動報酬を導入することで,取締役の業務に対する意欲・士気の向上をはかるなど の利点があると指摘している(40)。しかしながら,成果主義は,各人別の成績を反映するも のであり,業績連動報酬は,会社全体の成績を反映するものとして本質的に異なる(41)と説 明しているように,本来の成果主義へ移行するのであれば,役員給与も会社全体の業績の みではなく,役員個人の成績も反映するようなものが,一般的に納得しやすいであろう。

 役員給与が職務執行の対価として相当なものであるか否かの判断にあたっては,支給慣 行や支給実態よりも恣意性の排除が優先されているように思われる(42)。また,恣意性の排 除は,臨時改定事由と業績悪化改定事由の重要な判断要素になっている(43)。さらに,恣意 性の排除に重点を置いているため,要件が限定的となり厳格すぎるといった問題がある。

(小括)

 本章では,2006 年(平成 18 年)の法人税法改正論点について検討してきたが,課税庁 側では,課税の公平の観点から恣意性の排除を重要視しているようである。

 また,分類方法を検討すると,①定期同額給与,②事前確定届出給与及び③業績連動給 与については,①短期,②中期及び③長期の給与に分類できるのではないだろうか。すな わち,①定期同額給与は,1 月分の労働の対価として事前に定めた金額を支払い,②事前 確定届出給与は,賞与のような今期の業績に基づき支給額を決定し,③業績連動給与は,

長期の業績に反映するような株式により対価を支払うこととなっている。このように,役 員給与は,明確に分類することにより,今後の役員の中長期的なインセンティブとして働

(39)佐藤友一郎,前掲書(注 31),p.858

(40)山口孝浩,前掲論文(注 6),p.234

(41)山口孝浩,前掲論文(注 6),p.234

(42)矢頭正浩,前掲論文(注 23),2020 年 6 月,p.34

(43)矢頭正浩,前掲論文(注 23),p.34

(11)

くのではないだろうか。

 つまり,業務執行役員のような中長期的な企業価値向上を重視している役員は,業績連 動給与の割合を増加し,社外取締役のようなモニタリング機能を重視している役員は,定 期同額給与の割合を増加するという,バランスを変えることで,企業としての機能向上に 寄与するということである。

 この考え方は,①定期同額給与の減額についても説明できる。定期同額給与の減額の際 には,業績悪化について相当程度悪化していることが財務諸表などから客観的に判断でき る状況などに制限している。定期同額給与は,労働の対価と考えることから,そもそも業 績が悪化したことを減額理由として採用するには,論拠が乏しいと思われる。

 また,同様の考え方から②事前確定届出給与については,複数回の役員給与の支給があ る場合,業績悪化を原因として減額する際に制限を課している。これは,役員賞与のよう な業績に合わせた役員給与を事前に定めたのであるから,その変更についても相当の業績 悪化の理由が必要であることを論拠としている。

 このように,2006 年(平成 18 年)の法人税改正では,今まで臨時的な給与は損金不算 入であった部分が,事前に届出を提出することにより,損金算入可能となったのは大きな 改正であろう。これは,役員給与が企業価値向上に向けて中長期的なインセンティブにな りうる点からも有用であることを反映したと考えられる。また,業績連動給与は,CG コー ドなどの社会情勢の変化からも,今後適用する企業が増加すると思われる。

 以上から,役員給与の損金算入は,その適用範囲を拡大してきたと考えられる。また,

課税庁側では,課税の公平のため,恣意性を排除できると客観的に判断できれば,今後,

その範囲がさらに増加することもあるだろう。

第 4 章 役員給与の今後の可能性

 本章では,社会情勢の変化や CG コードの行動原則から,長期のインセンティブになる うる業績連動給与について,考察していくこととする。

 近年の役員給与については,CG コードの適用とともに変化を遂げている。2018 年の CG コード補充原則 4-2 ①では,「取締役会は,経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健 全なインセンティブとして機能するよう,客観性・透明性ある手続に従い,報酬制度を設 計し,具体的な報酬額を決定すべきである。その際,中長期的な業績と連動する報酬の割 合や,現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」としており,中長期的 な業績を重要視していることがわかる。また,2016 年(平成 28 年)度及び 2017 年(平 成 29 年)度の税制改正では,一部の類型を除くインセンティブ型報酬について,一定の 要件を満たせば法人税法上の損金算入が可能となり,その結果,導入する企業は増加して いる(44)

 役員報酬については,図表の諸外国との比較でもわかるとおり,わが国の報酬は,際立っ

(44)川井久美子「税制改正による実務への影響と導入の課題」『税経通信』,第 74 巻第 1 号,2019 年 1 月,p.100,

川井(2019)によると,2016 年から 2017 年の 1 年間で株式報酬制度を採用している会社が 7%増加している ことを指摘している。

(12)

て低いことがわかる。また,報酬の割合では,基本報酬割合が高く(58%),インセンティ ブ報酬割合が低い(42%)。これは,基本報酬が米国 11%,英国 25%,ドイツ 28%及び フランス 29%と比較しても際立って低いことがわかる。

 橋本(2019)によると,「インセンティブ報酬を導入する意義としては,一般に,経営 者に中長期的な企業価値向上のインセンティブを与え,わが国企業の『稼ぐ力』向上につ ながること,特に,株式報酬については,経営陣に株主目線での経営を促したり,中長期 の業績向上のインセンティブを与えるといった利点があり,その導入拡大は海外を含めた 機関投資家の要望に応えること」(45)を指摘している。

 また,川井(2019)によると,「報酬を受ける側としては,退職型が税コストを抑える メリットがあり,企業側として損金算入ができるインセンティブが当然望ましいと考えら れ,当然ながら双方のメリットを生かすインセンティブ制度を検討することになるケース が多くなる」(46)と指摘しており,役員本人からみると,給与所得として税額計算されるよ りも,退職所得として税額計算されるほうが,所得税の計算上,税額が低くなるであろう。

 さらに,「業績に連動したインセンティブ型報酬の場合には,業績連動給与が典型であ るが,業績指標の有価証券報告書等への開示が必要となる。企業としてのポリシーや定性

図表 日米欧 CEO 報酬比較(2015 年度)

出典:CGS 研究会(コーポレートガバナンス・システム研究会)(第 6 回)

   配布資料ウイリス・タワーズワトソン 説明資料(最終閲覧日 2021 年 1 月 6 日(https://www.meti.go.jp/committee/

kenkyukai/sansei/cgs_kenkyukai/pdf/006_05_00.pdf))

(45)橋本浩史「導入を促す法整備の動向と法務上の導入ポイント」『税経通信』,第 74 巻第 1 号,2019 年 1 月,p.111

(46)川井久美子,前掲論文(注 44),p.100

(13)

的な要件や裁量的な評価と連動させたいと考えるケースの検討も行われる可能性がある が,29 年の税制改正において業績指標は具体的・客観的な指標を要件としているため,

こういったケースは認められていないと考えるべき」(47)と指摘している。

 上記のように,業績連動給与は,社会情勢から今後一層議論が進み,導入も進むと考え られる。しかしながら,業績連動給与のデメリットは,役員給与が役員同士で同額になり,

役員個別の評価には使用できない問題も含んでいる。

 役員報酬は,必ずしも高ければ良いものではないが,今後,インセンティブ報酬割合が 増加することにより企業価値向上につながると考える。

 企業価値を向上するために,CG コードには,積極的に社外取締役を導入することや,

スチュワードシップ・コード(以下,「SS コード」という。)には,機関投資家と建設的な 対話をするべきとの記載がある。この CG コードは,上場企業であれば,規制の対象となる。

また,SS コードの場合は,CG コードより規制は強くないが,近年の機関投資家の受入表 明数が増加している背景からも,役員給与の恣意性を排除するのに有用であると考えられる。

 業績連動給与について鈴木(2020)は,導入され 10 年超を経過しているが,裁判に係 争されているものはないと指摘して,裁決例について非公開の令和元年 6 月 7 日を検討し ている(48)。ここで紹介されている裁決では,算定方法について客観性が必要であり,恣 意性が働かないものを業績連動給与として使用することが指摘されていた(49)

 法人税法において損金算入が認められる業績連動給与の算定方法は,支給の透明性・適 正性の確保の要件を充足するのみならず,その前提として,客観的なものであることが求 められている(50)。この場合の客観的であるか否かは,支給時期・支給額に対する恣意性 の排除といった観点が重視され,当該算定方法には,利益に関する指標等をあてはめさえ すれば個々の業務執行役員に対して支払われるべき利益連動給与の額が自動的に算出され る算定方法であることといった解釈が示されている(51)

 このように役員給与の今後の可能性を検討すると,業績連動給与の重要性は,近年重要 視してきていることがわかる。また,業績連動給与については,客観的であり,恣意性が 排除できていることが明らかにされることにより,損金算入が可能となるため,今後,使 用する企業が増加することが推測される。

むすびに代えて

 本稿では,社会情勢の変化から恣意性を排除するような役員給与についての歴史的変遷 の考察を行った。そこでは,2006 年(平成 18 年)に大きな改正があり,今までの役務提

(47)川井久美子,前掲論文(注 44),p.100

(48)鈴木修「業績連動給与 職務執行の評価係数・割合の算定根拠も要開示」『税務弘報』,第 68 巻第 6 号,2020 年 6 月,p.53

(49)鈴木修,前掲論文(注 48),pp.48-50

鈴木(2020)によると,企業が使用した利益連動給与に使用されている考課係数が客観的ではなく,恣意性 が排除できていないものとして説明している。

(50)鈴木修,前掲論文(注 48),p.50

(51)鈴木修,前掲論文(注 49),p.50

(14)

供と考えて損金算入か,利益処分と考えて損金不算入という問題ではなく,①定期同額給 与(短期),②事前確定届出給与(中期)及び③業績連動給与(長期)に該当するものは 損金算入であり,それ以外は,損金不算入という規定になっていた。また,2006 年以降 の改正も,インセンティブ報酬の範囲を広げる等の改正になっていた。

 このように,近年の税制改正は,課税の公平の考え方から中長期の企業価値向上へ考え 方がシフトしているように思われる。そのため,将来の法人税法改正は,課税の公平と企 業価値向上のバランスをとった改正になると考えられる。

 役員給与の金額は,米国や欧州と比べて少額である問題があるが,役員給与は,恣意性 が入り込む余地が大きく,その結果,不公平な税制になることに問題がある。この恣意性 が入り込む余地がないような指標を使用する業績連動給与は,今後,役員給与の金額を決 めるうえで重要な論点となると考える。

(2021.1.20 受稿,2021.2.25 受理)

(15)

〔抄 録〕

 本稿では,役員給与の歴史的変遷を近年の社会情勢とともに検討している。

 2006 年以前は,役務提供部分が損金算入であり,利益処分部分が損金不算入であった。

その後,2006 年の税制改正により,①定期同額給与(短期),②事前確定届出給与(中期)

及び③業績連動給与(長期)に該当するものが,損金算入できるものとして改正された。

この改正により,役員給与の損金算入の範囲は,大きく拡大している。

 この中の業績連動給与は,日本再興戦略や CG コードに,企業価値を向上する上で重要 視されている。そのため,今後は,役員に対する中長期的なインセンティブとして業績に 連動する役員給与が拡大すると思われる。

 従って,以前の改正は,恣意性の排除や課税の公平性から損金算入額について,制限を 課していたが,今後は,CG コードや社会情勢の変化も考慮に入れた改正が行われると考 えられる。

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