日系生命保険会社の中国進出に 関する一考察
史 新 秀
■アブストラクト
WTO加盟による中国保険市場の開放に伴い,外資系保険会社の中国保険
市場への進出が容易になった。こうした環境の中,日系生命保険会社の大手 である日本生命と住友生命は,それぞれ中国の上海と北京で合弁生命保険会 社を設立した。本研究は日本生命と住友生命の中国進出をケースに取り,両社が中国へ進 出するに際してどのような問題に直面しているかの分析を行った。日系生命 保険会社の中国進出には,⑴パートナーの選択,⑵販売チャネル,⑶人材の 育成,⑷収益性の増大といった課題を克服していく必要がある。特に販売チ ャネルの確保と人材育成の問題をどのように解決していくのかが,今後の事 業展開の鍵として模索しなければならない重要なポイントである。
■キーワード
中国保険市場,日系生保の中国進出
1.はじめに
中国は毎年10%に近い
GDP
伸び率を示す著しい経済発展を遂げており,今日ますます世界の人々に注目されている。発展途上国としてインフラ設備 や,国民所得格差など,様々な問題が存在しているにもかかわらず,世界各
*平成18年9月30日の日本保険学会関西部会(富士火災)報告による。
/平成18年10月23日原稿受領。
国の各業界が,13億の人口を持ち巨大な潜在的市場を有する中国へ積極的に 進出しようという姿勢を示している。
こうした環境の中,特に注目を集めている産業として保険業がある。改革 開放政策を実施して以来,中国保険業は最も将来性がある10大産業の一つと して巨大な成果を収めており,各産業の中でも 21世紀の朝日産業 と呼ば れている。
WTO加盟により,中国保険業は様々な面で外資に対する規制緩和が進め
られ,外資系保険会社の進出がより容易になった。しかし,中国保険市場は まだ歴史が浅く発展途上であるため,中国政府は外資の進出に関して慎重な 態度を示しているのが現実である。日系保険会社に目を向けると,80年代から大手各社が中国の北京,上海な どの主要都市で駐在員事務所を設置した。そして損保では1994年9月に当時 の東京海上火災が上海で支社を設立し,日本初の中国進出を実現した。その 後,三井住友海上,損保ジャパンもそれぞれ上海と大連で支社を設立した。
特に損保ジャパンは2005年6月1日付で日系損害保険会社として初めて中国 における現地法人を設立し,中国で事業を展開しようとする活発な動きが目 立っている。一方で,生保に関しては,大手生命保険会社の日本生命と住友 生命がそれぞれ上海と北京で合弁会社を設立している。
中国保険市場へこうした積極的な参入が行われているにもかかわらず,す でに進出した会社にしても,今進出準備をしている会社にしても, 中国進 出難 という声をよく耳にする。中国に進出する際にどのような問題が存在 しているかを明らかにするため,本研究は対象を日系生命保険会社に絞り,
日本生命と住友生命のケース・スタディーを行う。その中で両社の中国進出 までの経緯,準備段階から開業するまでのプロセス,および現在の事業展開 に関する課題を示し,今後の両社の事業拡大や新たな日系生命保険会社の中 国進出における課題を検討する。
次の第2節では,中国保険市場を取り巻く環境,および保険市場の開放を めぐる概要を紹介する。第3節では,日本生命と住友生命の中国進出をケー
スとして取り上げ,これらの現状から日系生命保険会社が中国進出の際に克 服しなければならない課題について考察する。第4節では全体を総括する。
2.中国保険市場の概要
2.1 中国保険市場を取り巻く環境
2006年現在,中国保険市場では合わせて92社の国内・外資系保険会社の厳 しいシェア争奪戦が行われている。会社数は2004年10月の71社から急激に増 加した。
図1は収入保険料ベースによる中国保険業の発展状況を示している。中国 保 険 市 場 全 体 の 収 入 保 険 料 は1992年 の211.70億 人 民 元 か ら2005年 に は 4927.34億人民元まで増加し,年平均27.89%の増加率を達成している。
2005年における収入保険料は世界第11位であり,その内生命保険は第8位,
損害保険は第12位にランクしている。しかし,世界保険市場におけるシェア はまだ1.76%であり,日本の8分の1程度しかない。
現在,中国保険業は急速に発展しているが,表1に示されているように,
図1:中国保険市場の収入保険料とその成長率(1992−2005)
(出所: 中国保険業発展報告(2005年) より作成)
注:2005年データはSwiss Re, Sigma2006年第5号の数値
先進国と比べれば,まだ差が大きいのが現状である。
表1:保険密度・保険浸透率の世界との比較(2005年)
(出所:Swiss Re, Sigma2006年第5号)
パネルA:保険密度(=収入保険料╱人口)(単位:ドル)
国家 順位 密度 生保 損保
スイス イギリス アイランド ベルギー デンマーク アメリカ 日本 オランダ フランス フィンランド 韓国
中国 インド
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 22 72 78
5558.4 4599 4177 3985.6 3876.2 3875.2 3746.7 3739.7 3568.5 3389.3 1706.1 46.3 22.7
3078.1 3287.1 2759.7 2988.7 2489.9 1753.2 2956.3 1954.2 2474.6 2707.8 1210.6 30.5 18.3
2480.3 1311.9 1417.4 996.9 1386.3 2122
790.4 1785.5 1093.9 681.4 495.5 15.8 4.4 世界平均 ‑‑ 518.5 299.5 219 パネルB:保険浸透率(=収入保険料╱ GDP)(単位:%)
国家 順位 浸透率 生保 損保
台湾 南アフリカ イギリス スイス ベルギー 日本 韓国 フランス 香港 オランダ アメリカ インド 中国
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 12 43 50
14.11 13.87 12.45 11.19 11.15 10.54 10.25 10.21 9.93 9.79 9.15 3.14 2.7
11.17 10.84 8.9 6.2 8.36 8.32 7.27 7.08 8.63 5.12 4.14 2.53 1.78
2.93 3.03 3.55 4.99 2.79 2.22 2.98 3.13 1.29 4.67 5.01 0.61 0.92 世界平均 ‑‑ 7.52 4.34 3.18
保険密度から見れば,2005年は46.3ドルであり,世界第72位にランクして いる。世界平均保険密度は518.5ドルであり,中国の11倍である。
保険浸透率から見れば,2005年は2.70%であり(生命保険は1.78%,損害 保険は0.92%),世界第50位にランクしている。世界平均の7.52
%と比べて
みると,中国保険市場はまだ巨大な潜在力を有していると考えられる。2.2 中国保険市場の開放
中国保険市場の開放は中国金融市場の対外開放の重要な部分を占めている。
発展途上にある中国保険業は,新興産業として歴史が浅く,規模が小さく,
発展レベルが低いため,保険市場の開放は慎重に進めなければならない。保 険市場の開放は以下の段階を経て進められてきた。
第一段階:20世紀80年代〜90年代初め⎜最低限度の開放
この時期に中国で駐在員事務所を設立することが許可された。ただし,業 務を営むことは禁止されていた。
その代表は,1980年に北京で事務所を設立したアメリカの
AIG
と日本の 東京海上火災である。1992年末までには,22社28所の事務所が設立された。これらの事務所は,中国国内保険会社や政府機関,社会各業界との広範的な 交流を通じて知名度を高め,中国での営業認可に向けて積極的な活動を行っ ていた。
第二段階:1992年〜2001年12月 WTO加盟前⎜試験的開放
この時期は,旧
PICCを中心とした独占時代であった。1992年に国務院は,
上海で試験的に保険市場を開放することを公布した。世界各国の大手保険会 社が中国保険市場の潜在力に注目し,早期に中国進出することのメリットか らその実現に向けた努力を行った。美国友邦保険会社(米
AIA
)は外資系 保険会社初の中国進出を実現し,1992年上海に支社を設立した。その後,中 国における第一号の合弁生命保険会社である中宏人寿保険有限公司 の設立1) カナダのマニュライフと中国対外経済貿易信託投資会社によって1996年に上 海で設立された合弁生命保険会社である。
を皮切りとして,WTOに正式に加盟するまでにすでに12カ国29社の外資保 険会社が中国での営業を開始した。ただし,当初中国政府は保険市場の開放 に対して極めて慎重な態度を取り,外資保険会社の営業認可は上海と広州に 限定されていた。
第三段階:2001年12月 WTO加盟後〜現在⎜全面的開放
長年に渉る交渉の末,2001年12月に中国は
WTOへの加盟が認められた。
加盟時における外資進出に関する公約については,表2のようにまとめられ る。
WTOへの加盟をきっかけに,中国保険市場における外資への制限はほと
んどが撤廃され,外資保険会社の中国進出が加速化した。2006年現在中国で 営業を営んでいる外資保険会社はすでに41社に達している。3.日系生命保険会社の中国進出
第2節では,中国保険市場の概況を簡単に述べた。この節では,生命保険 会社に対象を絞り,日系生保の中国進出状況について具体的に検討する。
表2:保険業における WTO加盟公約
生命保険分野 損害保険分野
2001年12月 (加盟時)
外資比率50%までの合弁会社 が上海,広州,大連,深セン,
仏山に設立可能。合弁パート ナーの選択は自由。
外資比率51%までの合弁会社が 支店を上海,広州,大連,深セ ン,仏山に設立可能。
2003年12月 (加盟2年内)
北京,成都,重慶,福州,鄭 州,アモイ,寧波,瀋陽,武 漢,天津に個人生命保険の提 供が可能に。
外資100%の子会社の設立が可 能。北京,成都,重慶,福州,
鄭州,アモイ,寧波,瀋陽,武 漢,天津に業務範囲拡大。自動 車の第三責任保険(強制保険)
以外の損害保険サービスの提供 が可能に。
2004年12月 (加盟2年後)
地理的制限を撤廃。健康保険,
団体保険及び養老保険の提供 が可能に。
地理的制限を撤廃。
3.1 日系生命保険会社の進出状況
現在の中国保険市場における生保会社44社のうち外資系生保は25社あり,
中国系生保の数を上回っている。外資系の状況をみると,欧米勢が積極的に 進出しているのに対し,日系生保は出遅れ感がある。日系大手生命保険会社 の進出は,表3にまとめている。
明治安田生命と第一生命は今のところ,出資という資本参加の形を取って いるが,ここではその詳細を省略し,すでに中国保険市場に本格的に参入し た日本生命と住友生命の進出状況を具体的に見てみる。
⑴ 日本生命の中国進出
日本生命は日本の生命保険業界のリーディングカンパニーとして80年代か ら中国進出に動き始めた。1985年に中国関係業務を専門に担当する 中国委 員会 を設置し,翌年には中国委員会の事務局として中国室を設置した。そ の後,1987年の北京事務所の設立を初めとして,89年に香港事務所,94年に 上海事務所,98年に広州事務所を次々と設立した。
表3:日系生命保険会社の進出状況
(出所:各社ホームページおよび中国語新聞報道により作成)
社 名 形態 出資比率 時期 地域 備 考
日本生命 合弁 50% 2003年 上海
売上高4位の電気メーカーで ある上海広電集団有限公司と 合弁で 広電日生人寿保険有 限公司 を設立
住友生命 合弁 29% 2005年 北京
中国最大手損害保険会社の持 株会社である中国人保控股公 司と合弁で 中国人保寿険有 限公司 を設立
明治安田生命 出資 4.50% 2000年 全国 中国第4位の新華人寿保険に 出資
第一生命 出資 1% 2003年 全国 中国第2位の平安保険に出資
同社は長年にわたる消費者意識調査や市場分析などを通じて,中国に進出 するメリットと内在する問題点を十分検討した上で,国際戦略の一環として 中国で合弁会社を作る決定を下した。2001年12月に中国監督管理委員会より 設立準備認可を取得した後,2003年1月に合弁パートナーである上海広電
(集団)有限公司との合弁契約書に調印した。2003年9月に設立認可を取得 し,11月に50%の出資で上海において合弁生命保険会社 広電日生人寿保険 有限公司 (以下, 広電日生 )を開業した。
表4に示されているように,合弁会社を開業してからほぼ3年経つが,収 入保険料ベースでは外資系生保全体に占める広電日生の比率はまだ低いのが 現状である。当面の課題として販売チャネルの拡大や他都市展開を通じて規 模拡大に力を注ぐ必要がある。
⑵ 住友生命の中国進出
住友生命は日本の大手生命保険会社として,90年代に北京で事務所を設立 して以降,中国保険市場の成長力に注目してきた。特に同社は2004年から 新成長ビジョン を作成し,巨大な潜在力がある中国市場へ進出するため
表4:広電日生の2006年1月〜8月収入保険料 (単位:万元)
(出所:中国保険監督管理委員会ホームページ数値によ り作成)
注:2月以後の収入保険料は1月からの累計数値 収入保険料 外資系生保合計 外資系生保に
占める割合 1月
2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
463.00 1091.92 1641.03 2601.70 3082.90 3668.39 4054.50 4917.70
338044.28 476481.62 640084.84 784077.27 927158.44 1086857.12 1262229.68 1435344.92
0.14% 0.23% 0.26% 0.33% 0.33% 0.34% 0.32% 0.34%
に本格的に動き始めている。
ちょうどその時期に中国最大手損害保険会社である中国人民財産保険股分 有限公司
PICCが,まだ開拓余地の大きい生保事業への進出を検討し始めて
いた。合弁パートナーとしてAIG
やアリアンツなど欧米の有力生保数社と 競い合った結果,最後に信頼を獲得したのは住友生命であった。住友生命は,2005年2月から中国事業推進委員会を立ち上げ,合弁会社の 設立準備に必要となる人材を整え,基本戦略を作成して,3月14日から本格
(出所:住友生命の社内データより作成。)
注:中意および海康の7月に関しては入手できず。
表5:各生保会社北京支社7月収入保険料状況
(単位:万元)
会社 設立年度 収入保険料 7月順位
(国内+外資) 収入保険料累計 累計順位 (国内+外資)
国 内系
平安 人寿 新華 泰康 太平洋 太平 長城 華泰 合衆 民生 国民
1994 1949 1996 1996 1991 2001 2005 2005 2005 2003 2006
45159 31547 31171 20278 11952 7016 1652 1175 1051 674 259
1 2 3 5 6 8 14 16 17 20 21
377401 303557 250121 176220 124563 77526 16125 6659 9022 14240 1087
1 2 3 5 6 7 11 19 18 13 24
国内系合計 151935 1356521
外 資系
人保寿険 友邦(AIA)
中英(Aviva)
大都会(Metlife) 信誠(Prudential) 瑞泰(Skandia) 金盛(AXA)
首創安泰(ING)
光大永明(Sun Life) 恒安標準(Standard) 中宏(Manulife) 中航三星(Samsung) 中意(Generali Spa) 海康(Aegon)
2005 2002 2004 2004 2003 2004 2005 2005 2004 2006 2004 2005 2004 2005
25678 9851 3651 2160 2121 1775 1708 1428 964 848 187 31
‑
‑
4 7 9 10 11 12 13 15 18 19 22 23
‑
‑
37038 74614 18481 12141 15543 13226 10600 10574 4135 1337 1335 377 248151 3170
9 8 10 15 12 14 16 17 20 23 22 25 4 21
外資系合計 50401 450742
的な開業準備をスタートした。開業への準備は当初の予想よりも早く完了し,
同年11月10日に,29%の出資で北京に
PICC
の持株会社である中国人保控股 公司(PICCホールディング)との合弁生命保険会社 中国人保寿険有限公 司 (以下 人保寿険 )を設立した。合弁会社の設立後,事業は順調に拡大しており,2006年7月18日に湖南省,
9月8日に吉林省にそれぞれ支社が設立された。また来年内に新たに3社の 子会社の設立を目標に掲げている。
表5は,各生保会社の北京における2006年7月の収入保険料を示している。
表を見ると,開業後まだ8ヶ月しか経っていないのにもかかわらず,北京市 場における国内・外資系25社のうち人保寿険は既に全体の第4位,外資系の 第1位という好業績を収めている。
3.2 日本生命と住友生命の進出に関する考察
これまで日本生命と住友生命の中国進出の経過を簡単に紹介した。その中 で,両社が進出する前段階での事前調査や開業準備,あるいは合弁会社設立 後に直面している問題を明らかにすることは,日系生保の中国進出戦略に対 する重要な指針となるであろう。この節では,日本生命と住友生命のケース を基に,両社が直面しているいくつかの問題の所在を明らかにする。
⑴ パートナーの選択
損害保険会社は100%の独立法人の設立が可能であるのに対し,生命保険 会社は合弁会社の設立しか認められていない 。そのため,中国に進出する 際に,そのパートナーを探すことが極めて重要である。
日本生命の合弁パートナーが中国で売上高4位の電気メーカー上海広電で あるのに対し,住友生命は中国最大手の損保持株会社である
PICCホールデ
ィングとの合弁契約を結んだ。それぞれのケースにおけるメリットとデメリ2) 特例としての米AIAは独資の支店形態が認められている。それ以外の外資 生保はすべて合弁形態をとっている。
ットは表6のようにまとめられる。
パートナーの選定に関して留意すべき点は,⑴十分な資金を有する大企業 であること,⑵経営が安定していること,⑶ブランド力・ネットワークが強 いこと,⑷国際性を重視していること,⑸利益の配分,人事,管理職のポジ ションなどでお互いに満足できること,などが挙げられる。
中国保険市場において保険会社以外の大手企業を合弁相手として選ぶケー スは数多く見られる。表6にある日本生命側のメリットを見れば,その理由 は明らかであろう。これらのケースでは,経営主導権を握り相手企業のブラ ンド力とネットワークを活用して事業展開を目指すことが容易である一方,
それに伴うリスクやデメリットも大きな問題である。こうした問題をどのよ うに克服するのかは進出する前に真剣に検討する必要がある。
開業3年の広電日生の営業地域はまだ上海に限られているが,まだ1年も 表6:合弁相手についてメリットとデメリットの比較
合弁相手関連 メリット デメリット
日本生命
傘 下 に100以 上 の 関連会社を有する。
そ の 中 に は,N EC,ソ ニ ー,松 下電器,東芝との 合弁企業もある。
上 海 広 電 の ブ ラ ン ド 力・ネットワークの活 用が可能。
家電メーカーであるた め,保険のノウハウが 一切なく,日本生命側 が経営主導権を握るこ とができる。
現地化しにくい,ノウ ハウはそのまま使えな い。
早く収益を挙げろ というプレッシャーが あり,生保事業はそん なに早く黒字化するも のではないと理解して もらうのに苦労してい る。
住友生命
親 会 社 で あ る PICCは4500拠 点 に及ぶ全国ネット ワーク,6割の中 国損保シェアを誇 る。
PICCのネームバリュ ーに働きかけることが 可能。
元々持っている販売チ ャネルなど,そのまま 活用できる。
29%出資なので,経営 提案などについてどこ までが聞いてくれるか 懸念。
日本式管理システムを 導入しにくい。
経っていない人保寿険はすでに2支店を開設している。申請を出してもなか なか許可を期待通りにもらえないというのが実情であり,その監督体制には 不透明なところがある。人保寿険がこれほど急速に事業を拡大できた背景に は,親会社である
PICCの協力があったものと見られ,パートナーの コ
ネ や人脈の重要性が感じられる。合弁相手の選択に関してはそれぞれメリットとデメリットがあり,どちら が有利でどちらが不利かは今のところ断言できない。明言できるのは外資系 保険会社にとって,中国保険市場,消費者意識,中国本土文化への理解不足 は企業間競争にとって不利であり,それを補うことができるのは合弁パート ナーだという点である。したがって,最良なパートナーの選択は今後の事業 展開に大いに関連している。協力体制が可能なパートナーをどのように選択 し,いかに見つけられるかが,中国事業を成功に導くかどうかの鍵である。
⑵ 販売チャネル
a.従来の営業職員販売の問題点
1992年前後に米
AIA
が営業職員による対面販売を導入して以降,他の生 保各社も相次いで営業職員制度を導入している。図2に示されているように,現在外資生保の保険商品の78
%は営業職員によって販売されており,今後も
(出所: 中国人身保険発展報告(2005年) )
図2:2004年外資生保販売チャネルシェア
主流チャネルとして各社に使用されるものと思われる。
その原因を考察すると,保険が浸透している日本と異なり中国人の保険意 識はまだ浅く,保険に対する知識を完全には修得していない段階にあるため と推測される。したがって,中国では伝統的な営業職員による販売チャネル が最も効果的な手段になったわけである。
しかし,外資系保険会社にとっての当面の課題として収益を確保するため に販売量を増大する必要に迫られ,単純な人員の増大によって販売量を増加 させることに重点を置いた結果, ねずみ講 まがいのケースが発生する事 態を招いた。こうしたことから,営業職員の離職率の高さやスキルの低さと いった問題も浮上している。
この問題を克服するためには,自社独自の人材育成・管理システムを構築 していく必要がある。この問題についてはまた後述する。
b.銀行・郵便局窓口販売の重点化
中国保険会社の操業年数は外資系保険会社よりも長く,相対的に安定した 販売網と固定客を持っているため,外資保険会社にとって短期間で匹敵でき ないのが現実である。一方で,外資系保険会社の伝統的な営業職員販売への 依存度は中国保険会社よりも低いため,販売チャネルの選択においての裁量 余地はより大きい。特に,近年急速に拡大している銀行・郵便局の窓口販売 に力を入れることが,中国保険会社との差別化を図る上で大きいものと思わ れる。
中国の銀行窓口販売は1996年に兼業代理という形で開始されて以降,営業 職員販売に次ぐ生保販売チャネルの柱になっている。ただし,銀行窓口販売 は未成熟な新業務として,保険商品単一化,提携短期化,不正競争,銀行職 員の保険知識欠如などの問題が顕在化しており,日系生保にとってそれらの 問題を解決するためには様々な試みが必要である。
将来,インターネット直販や通信販売など,チャネルの多様化が予測され る。今後いかに専門知識と顧客サービス向上に力を入れ,差別化した販売チ
ャネルを確立するかが,日系保険会社が直面している最大の問題である。
⑶ 人材の育成
中国の保険市場は急速に拡大したため,人材の育成がそのスピードに追い ついていない状況にある。最近になって大学や専門学校に保険学科を増設し,
専門知識の豊かな人材を育てようとする動きが見られるが,人材不足という 状況が変わるにはまだ時間を要するものと思われる。
会社側の視点に立てば,人材育成体制はまだ整備されていないのが実情で ある。1ヶ月の研修を受けてからすぐ営業に出されるため,彼らの専門知識 の欠如,プロ意識の低さなどから顧客の保険会社に対する不信感が生じ,保 険業へのイメージ低下の一因となっている。
現在,競争激化による優秀な営業職員や本社管理職の人材の引き抜きが保 険業界で話題となっている。長期的な視野に立って自社の独自の人材育成シ ステムを構築し,時間をかけて自社に専属するプロの営業職員と管理職人材 を育てることが今日の保険会社の急務である。
この問題の解決法としては以下のように提案できよう。
1)中途採用者の在籍確保
保険業界において人材は激しく流動するため,営業職員のほとんどが 中途採用者である。他社より魅力的な待遇と公平な昇進制度作りにより,
長期在籍者を確保することが,経営安定化の一因になると思われる。
2)新卒の積極的な採用
保険業界に目を向ける新規卒業者がますます増えているにもかかわら ず,保険会社側の自己
PR
はまだ足りていない面がある。中国では日本 のように学生達が会社セミナーに参加し,会社に興味を持っていれば選 考に入るという就職活動システムが導入されていないため,より優秀な 人材を獲得するために会社側が学校へ行って積極的に保険会社での仕事 の内容や自社の宣伝をすることが必要である。3)専門家と管理職の育成
中国において精算師(アクチュアリー)は極めて少なく,中国精算師 資格を有する専門家の数はたったの60人である。特に養老保険と健康保 険のような新しい業務領域における精算システムがまだ遅れており,日 本のノウハウを中国に導入することが人材育成の一環として検討すべき 問題である。
一方,コミュニケーション能力が高く市場変化に機敏に応じることができ る上級管理職の不足も深刻化しており,管理職の現地化を着実に進めていく 必要がある。
⑷ 収益性の増大
近年外資系保険会社の進出はますます活発になり,市場全体に占める外資 系の割合は大きくなっている。しかし,表7に示されているように,2004年 度の最終損益において外資19社のうち黒字になったのはわずか1社であった。
最も早く中国に進出した米友邦(AIA)さえも赤字状態である。
外資系生保の収支が赤字である主な理由は,⑴収益性の低い商品が中心で あること,⑵営業地域が一部の都市に限られており,知名度がまだ低いこと,
⑶現地合弁パートナーとの経営方針の対立や経営者の現地化が進んでいない こと,⑷予想以上に初期コストが高くなり,操業年数がまだ短いこと,など が考えられる。黒字化には開業から10年以上を要すると言われているが,現 在ほとんどの外資系生保に撤退の動きはなく,黒字化の早期実現のために 色々な試みがなされている。
収入保険料の伸び悩みが深刻化している広電日生の課題は,効率的な販売 チャネルを作り,規模を拡大した上で周辺地域への展開に取り組んでいくこ とである。一方,著しい発展を遂げた人保寿険は今のところ基盤作りに成果 を出しているが,今後ボトムラインの収益性をいかに高めるかが,模索しな ければならない重要な課題である。
黒字化させるために両社ともに検討すべき方策としては,⑴消費者ニーズ
に合わせた収益性の高い保険商品の開発,⑵高齢者向けや独身世代向け,あ るいは子供向けのようなターゲットの特化,⑶団体保険と企業年金分野の拡 大,⑷広告宣伝による認知度のアップ,などが挙げられる。
4.まとめ
以上,中国保険市場の現状,日系生保の中国進出における問題点およびそ の解決法をめぐって論述した。
既に中国で事業を営んでいる日本生命と住友生命は,厳しいシェア争奪戦 にいかに勝ち抜くことができるか,そのために販売チャネルの確保と人材育
(出所:住友生命の社内データより作成)
▲37.93
▲131.33
▲72.95
▲1.50
▲60.73 25.23
▲80.38
▲40.63
▲54.40
▲40.52
▲54.61
▲56.45
▲22.85
▲72.15
▲10.39
▲56.31
▲17.24
▲47.68
▲26.43 4805.18
650.98 617.36 598.00 333.90 292.22 213.04 188.26 174.87 120.62 116.74 87.48 75.69 53.60 50.32 28.14 21.56 11.25 3.66 アメリカ
イギリス アメリカ カナダ イタリア イギリス カナダ ドイツ フランス オランダ アメリカ イギリス アメリカ オランダ オーストラリア
アメリカ アメリカ スウェーデン
日本 上海
広州 上海 上海 広州 天津 天津 上海 上海 大連 上海 広州 上海 上海 上海 北京 深セン
北京 上海 1992
2000 1998 1997 2002 2004 2002 1998 1999 2002 2002 2003 2000 2003 2000 2004 2003 2004 2003 米国友邦
信誠 太平洋安泰 中宏 中意 恒安標準 光大永明 安聯大衆 金盛 首創安泰 海爾紐約 中英 恒康天安 海康 中保康聯 中美大都会 招商信諾 瑞泰 広電日生
最終損益 収入保険料
外資所属国 本社
設立年度 会社名
表7:外資系生保各社の2004年最終損益
(単位:万元)
成の問題をどのように解決していくのかが,今後事業展開の鍵として模索し なければならない重要なポイントである。
第一生命,明治安田生命およびその他の日系生命保険会社は,二度とない チャンスを逃さないように,海外事業の一環として今後も積極的な中国進出 戦略を立てていく必要があると思われる。
とは言え,巨大な潜在力を有する中国保険市場への本格的な進出の意思決 定は慎重に行う必要がある。確かに市場は魅力的であるが,進出後長年の赤 字状態に耐える体質をつけていなければ,中国で成功することは難しい。中 国特有の事情からの現地化の困難さ,あるいは合弁会社の経営主導権の確保 などの問題が顕在化しており,今後厳しい競争に負けて淘汰される企業が出 てくるものと予想される。
また,日系生保独自の問題としては,現在中国に根強く残っている反日感 情を進出後にどう克服するかの課題があり,これらの問題を総合的に分析・
判断を行った上で,慎重に中国保険市場への進出を図っていくべきであろう。
(筆者は,神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程)
参考 献
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