底面が共通な三次元双曲 complete orthoscheme の 最大体積について
市原 一裕 (日本大学 文理学部)∗1
牛島 顕 (金沢大学 数物科学系)∗2
1. orthoscheme
頂点がP0, P1, . . . , Pnであるn次元単体P0P1· · ·Pnがorthoschemeであるとは、面や 辺の直交関係を⊥で表すとして
P0P1 ⊥P1P2· · ·Pn, P0P1P2 ⊥P2P3· · ·Pn, . . . , P0P1· · ·Pn−1 ⊥Pn−1Pn
が成り立つときをいう。直角三角形を高次元化したものがorthoschemeであるといえ る。ここでは、三次元双曲空間内のorthoschemeの体積を主に考える。
2.
射影球体モデル
B3三次元双曲空間の、射影球体モデルB3を紹介する。B3は三次元実射影空間RP3内に 実現されるが、ここではR3内の原点中心で半径が1の開球体として扱う。B3に計量
ds2 = dx2+dy2+dz2
1−x2−y2−z2 +(x dx+y dy2+z dz)2 (1−x2−y2 −z2)2
を考えたものが三次元双曲空間のモデルとなる。
このモデルは多面体のtruncationの導入に適している。R3内の四面体P0P1P2P3が、
頂点P0はB3の外部にあり、その他の部分はB3内にあるとする。P0を頂点としB3の 境界に接する直円錐をCとして、P1, P2, P3がCに属さない程度に、P0はB3の境界の 充分近くにあるものとする。このとき、P0P1P2P3からCの内部を除いたものはB3内 の多面体となり、これを「P0P1P2P3をP0でtruncateして得られる多面体」と呼ぶ。
3. complete orthoscheme
B3内のorthoschemeP0P1P2P3に対し、頂点P0及びP3は、B3の外部にある場合も許容 される。その場合に、truncationにより得られる多面体も含めてorthoschemeとして扱 うとき、orthoschemeの代わりにcomplete orhoschemeと呼ぶ。
これが確かにorhoschemeの一般化になっている理由は、上記の意味でtruncationを することによって、面と辺の間の直交性を保ちつつB3内の多面体を得ることが出来 るからである。例えばP0がB3の外部にある場合、辺P0P1とは、端点をP0とP1とす るR3内の線分と、truncationして得られる多面体との共通部分としての辺を指し、面 P0P1P2とは、頂点がP0,P1,P2であるR3内の三角形と、truncationして得られる多面 体との共通部分としての面を指すことにすると、P0P1 ⊥ P1P2P3かつP0P1P2 ⊥ P2P3 はP0がB3の外部にある場合も意味をなす。
本研究はJSPS科研費23740061及び24540071の助成を受けたものです。
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4.
ここで考える問題
ユークリッド平面内の直角三角形に対し、底辺を固定したまま高さを上げていくと、面 積は限りなく大きくなる。
同じ操作を、双曲平面内の直角三角形に対して行ってみる。底辺を固定したまま高 さを上げていくと、やはり面積は単調に大きくなるが、限りなく大きくなることは無 く、その上限はπ/2から底角(底辺が作る角のうち、直角ではない方)を引いた値にな る。この上限は、頂角(高さを表す辺が作る角のうち、直角ではない方)に対応する頂 点が双曲平面の無限遠点にある場合に実現され、そのとき多角形は双曲平面内では非 有界となるが、面積は有限となっている。
更に、上記のtruncationをこの直角三角形に適用する(つまり二次元complete orhoscheme を考える)と、頂角に対応する頂点が底辺から離れるほどtruncationして得られる多角 形の面積は小さくなり、最後にはtruncationにより底辺ごと消し去られて、面積が0に なる。そこで、次の問題を考える。
底辺を固定し、「高さ」を変数とする二次元complete orhoschemeの族を考 えるとき、面積が最大となるのはいつか。また、最大の面積を与える「高 さ」は一意か。
ここでの「高さ」とは、ユークリッド平面内での、頂角に対応する頂点と底辺との距 離を意味している。二次元complete orhoschemeの場合は、これらの問いの答えは面積 の公式から容易に得られるので、同じ問題を三次元の場合に考える。
底面を固定し、「高さ」を変数とする三次元complete orhoschemeの族を考 えるとき、体積が最大となるのはいつか。また、最大の体積を与える「高 さ」は一意か。
5.
主結果
底面が共通な三次元complete orthoschemeの頂点は、等長変換によりR3の座標で以下 の様に表すことが出来る:
P0 = (rsinθ, rcosθ,0), P1 = (0, rcosθ,0), P2 = (0,0,0), P3 = (0,0, h), 但し0 < θ < π/2とする。底面をP0P1P2とし、hを変数とする三次元complete or- thoschemeをRr,θ(h)で表す。{Rr,θ(h)}h>0に対する先の問題への答えが、以下の定理 である。
定理. 任意のr > 0及びrcosθ > 1を満たす任意のθ ∈ (0, π/2)に対し、
Rr,θ(h)の体積の最大値はh >1の時に一意に生じる。
更に、体積が最大となるRr,θ(h)はLambert cubeと呼ばれる種類のorthoschemeでは あり得ないことも示される。なお、二次元の場合は一意性は成り立たない。
hの関数として表される、Rr,θ(h)の体積Vr,θ(h)の極値問題を解くことが証明の方針 であり、dVr,θ/dhは所謂Schl¨afli differential formulaを用いて求められる。実際の証明 では、[Ke]の結果に従ってSchl¨afli differential formulaを用いた。
参考文献
[Ke] R. Kellerhals, On the volume of hyperbolic polyhedra, Mathematische Annalen 285 (1989), 541–569.