研 究ノ ー ト
生活 妨害 にお け る先 住性 の評 価
⎜
危 険 へ の 接 近 理 論 を め ぐ る 近 年 の 判 例 の 展 開 を 中 心 に⎜
田處 博 之
一 はじ め に 生
活妨 害 か ら の私 法 的 救 済 とし て 損 害 賠償 や 差 止 め が請 求 さ れ る 場面 で
︑ 生 活妨 害 を 生 ぜ しめ る 行 為 を加 害 者 が か ね て から 行 っ て いた と こ ろ に 被害 者 が あ とか ら 住 み 着 いて き た と い う事 実 経 過 であ っ た 場 合 に︑ こ う し た事 実 経 過 は ど う 評価 さ れ る か︑ す な わ ち
︑加 害 者 は 先住 者 で あ る こと で そ の 責 任を 免 れ
︑ ある い は 責 任 を完 全 に 免 れず と も そ の 責 任 は軽 減 さ れ るか
︒ こ の問 題 は
︑ わが 国 で は
︑ 大阪 国 際 空 港公 害 訴 訟 に おい て い わ ゆ る危 険 へ の 接近 の 理 論 の 適用 の 有 無 が争 わ れ た こ と で 特に 注 目 を 浴び る よ う に なっ た
︒ 筆 者は す で に
1︶
前 稿に お い て
︑ 学説 に よ る 評価 も 含 め て
︑こ の 訴 訟 にお け る 各 審 札幌 学 院法 学
︵ 二五 巻 一号
︶
︶ 一
一
★★データ分割注意 ★★
級 の 判決 を 紹 介 し︑ ま た
︑ こ の訴 訟 以 前 の判 例
・ 学 説 をも 概 観 し て おい た
︒ こ こで 簡 単 に
︑先 住 加 害 者 の責 任 関 係 につ い て 大 阪 国際 空 港 公 害 訴訟 に お け る各 審 級 の 判 決が 示 し た 立場 を 確 認 し て お
2
︶
こう
︒ 空 港 の設 置
・ 管 理 主体 で あ る 国に 対 し 周 辺 住民 が 航 空 機 の騒 音 等 を 理由 に 差 止 め と損 害 賠 償 を請 求 し た こ の 訴 訟で
︑ 控 訴 審の
︻ 03 大阪
︼ 大阪 高 裁 昭 和五
〇 年 一 一 月二 七 日 判 決 以降
︑ 後 住 の被 害 者 に 対 する 関 係 で 加害 者 が 責 任 を 負 うか ど う か の問 題 は
︑ 危 険へ の 接 近 の理 論 の 明 示 的な 援 用 の も とに 論 じ ら れる よ う に な
3
︶
った
︒ そ し て︑ 控 訴 審 の
︻ 03 大阪︼大 阪 高 裁 判決 が
︑ B 滑 走路 供 用 開 始後 に 移 転 し てき た
4︶
者 ら に つい て
︑ 航 空機 騒 音 が 問 題と さ れ て いる 事 情 の 認 識 が なか っ た こ とや
︑空 港 周 辺 地 域が 本 来 住 宅 地域 で あ る こと な ど を 指 摘し て
︑ 被 告 は
︑周 辺 住 民 に 対し て は
︑そ の 各 個 人の 入 居 の 先後 を 問 わ ず
︑本 件 空 港 が先 に 存 在 し たこ と に よ る 優位 を 主 張 する こ と は で きず
︑ 住 民 の側 が と く に 公 害 問題 を 利 用 しよ う と す る ごと き 意 図 をも っ て 接 近 した と 認 め ら れる 場 合 で ない か ぎ り
︑ いわ ゆ る 危 険へ の 接 近 の 理 論 は適 用 が な い と し た の に対 し
︑ 上 告審 の
︻ 06 大阪
︼最 高 裁 昭 和 五六 年 一 二 月一 六 日 判 決 は︑ 危 険 へ の接 近 の 理 論 は 必 ずし も そ の よう に 狭 く 解 すべ き で は ない と し
︑ こ れら の 者 に 右 認識 が な か った と の 事 実 認定 を 経 験 則上 信 じ 難 い と 疑 った う え で
︑一 定 程 度 の 航空 機 騒 音 の存 在 を 認 識 しな が ら 相 当 期間 に わ た る間 の 住 居 と して あ え て その 住 居 を 選 択 し たの で あ れ ば︑ 騒 音 被 害 をや む を え ない も の と し て容 認 し て 入 居し た も の と推 定 で き る とし
︑ 航 空機 騒 音 の 存 在 の 認識 と こ れ によ る 被 害 の 容認
︑ 被 害が 直 接
︑ 生 命︑ 身 体 に は かか わ ら な いこ と
︑ 本 件空 港 の 公 共性
︑ 入 居 後 実 際に 被 っ た 被害 の 程 度 が 推測 の 範 囲 を超 え る と か
︑入 居 後 に 騒 音の 程 度 が 格段 に 増 大 し たと か い う よう な 特 段 の 事 情 がな い こ と を要 件 に
5︶
免 責 を可 能 と す る︒ こ のよ う に
︑ 大阪 国 際 空 港 公害 訴 訟 で は︑ 危 険 へ の 接近 の 理 論 の 適用 要 件 を めぐ り
︑ 大 き くい え ば
︑ 被害 者 の 側 で と く に公 害 問 題 を利 用 し よ う とす る ご と き意 図 を も っ て接 近 し た 場 合で な い か ぎり
︑ そ の 適 用は な い と する
︻ 03 大阪
︼
生活 妨 害に お け る先 住 性の 評 価︵ 田 處 博 之
︶
︶ 二
二
大 阪 高裁 判 決 の 立場 と
︑ 危 険 に接 近 し た 者に そ の よ う な意 図 が な く ても
︑ 一 定 の要 件 の も と で︑ 比 較 的 ゆる や か に そ の 適 用を 認 め よ うと す る
︻ 06 大阪︼ 最 高 裁 判決 の 立 場 と の対 立 を み る こと が で き る︒ 学 説 で は
︑そ の 多 く が︻ 06 大阪
︼ 最 高 裁 判決 の 立 場 を批 判 し
︑ む しろ
︻ 03 大阪
︼大 阪 高裁 判 決 の 立 場が 支 持 を 集め る が
︑︻ 大阪06
︼最 高裁 判 決 に おい て
︑ 危 険 へ の 接近 の 理 論 の適 用 に よ り 加害 者 の 免 責を 導 く た め の判 断 枠 組 が 提示 さ れ た こと の 意 味 は 大き く
︑こ の 判断 枠 組 は
︑ 以 下 にみ る よ う に︑ そ の 後 の 判例 の 展 開 に大 き な 影 響 を与 え る こ と にな る
︒ ま た︑
︻ 06 大阪
︼最 高 裁 判 決 は
︑地 域 性
︑ 先住 性 に よ る 免責 と 危 険 へ の接 近 の 理 論に よ る 免 責 とを 区 別 し たと も み る こ と が でき る も の であ っ た
︒ 地 域性
︑ 先 住 性に よ る 免 責 とは
︑︻ 06 大阪
︼最 高 裁 判 決 の述 べ る と こ ろに よ れ ば
︑強 大 な 騒 音 に さ らさ れ る 地 域で あ る こ と が一 般 的
︑ 社会 的 に 認 識 され
︑ あ ま ね く了 承 さ れ てい る と き に 認め ら れ る もの で あ る
︒
︻ 06 大阪︼最 高 裁 判 決は
︑ 事 案 の 解決 と し て は︑ 地 域 性
︑ 先住 性 に よ る 免責 を 認 め ない
︒ 地 域 性
︑先 住 性 に よる 免 責 と 危 険 へ の接 近 の 理 論に よ る 免 責 とは
︑ 控 訴 審の
︻ 03 大阪
︼ 大阪 高 裁 判 決 を含 め て そ れま で の 裁 判 例で は
︑ 必 ずし も 区 別 さ れ て いな か っ た が︑ こ れ ら を 区別 す る こ とも
︑ 以 下 に みる よ う に
︑ その 後 の 裁 判例 で は 前 提 とさ れ る こ とと な る
︒ と ころ で
︑ 大 阪国 際 空 港 公 害訴 訟 で の 各審 級 の 判 決 を含 め て そ れ まで の 裁 判 例で は
︑ 主 と して
︑ 後 住 の被 害 者 に 対 す る 関係 で の 加 害者 の 免 責 の 有無 に 関 心 が向 け ら れ て いて
︑ こ れ に 対し て
︑ 後 住の 被 害 者 に 対す る 関 係 で加 害 者 の 責 任 を 認め つ つ も
︑こ れ を 軽 減 する と い う 処理 は
︑ あ ま り行 わ れ て い なか っ た
︒ 大阪 国 際 空 港 公害 訴 訟 で
︻06 大阪
︼ 最 高 裁 判 決が 示 し た 判断 枠 組 も
︑後 住 の 被害 者 に 対 する 関 係 で の 加害 者 の 免 責 のみ を 念 頭 に置 い た も の であ っ た
︒し か し
︑ こ の 訴訟 以 降 の 裁判 例 で は
︑ 以下 に み る よう に
︑ む し ろ︑ 加 害 者 が 後住 の 被 害 者に 対 す る 関 係で 免 責 さ れる こ と は な い と いう こ と を 前提 に
︑ 免 責 はさ れ な い けれ ど も 責 任 が軽 減 さ れ な いか の 問 題 が検 討 対 象 の 中心 と な っ てい く
︒ そ し て
︑ そこ で の 判 例の 展 開 の 出 発点 に は
︑︻ 大阪06
︼最 高 裁判 決 が 提 示し た 危険 へ の 接 近 理 論
⎜ そ れ は 後住 の 被 害 者 札幌 学 院法 学
︵ 二五 巻 一号
︶
︶ 三
三
に 対 する 関 係 で の加 害 者 の
︵ 責任 軽 減 で はな く
︶ 免 責 を導 く た め の もの で あ っ たに も か か わ らず
⎜ が あっ た
︒ 本 稿で は
︑ 生 活妨 害 を 理 由 とす る 損 害 賠償 や 差 止 め の請 求 に お い て加 害 者 の 先住 性 が ど う 評価 さ れ る かの 問 題 を 検 討 す る一 作 業 と して
︑ こ の 問 題を め ぐ っ ての わ が 国 の 判例 と 学 説 の 展開 過 程 に つい て
︑ 大 阪 国際 空 港 公 害訴 訟 以 降 の 近 年 の判 例 の 展 開を 中 心 に 跡 づけ を 試
6︶
み る︒ そ こ で は
︑右 に も 述 べ たよ う に
︑ 後住 の 被 害 者 に対 す る 関 係で 加 害 者 の 責 任 が軽 減 さ れ るか ど う か が 考察 の 対 象 の中 心 と な る
︒ な お︑ 一 覧 の 便宜 の た め
︑ 本稿 で 参 照 する 裁 判 例 を 一覧
*︶
番 号 と と もに こ こ に 列挙 し て お く
︒
*︶ 一 部 の 裁判 例 に つ い ての み 一 連 番号 欄 の
︻
︼内 に 漢 字 二 文字 の 略 号 を付 し て あ る が︑ そ の 意 味す る と こ ろ は
︑ 以 下 のと お り で あ る︒ 都営: 都 営地 下 鉄 工 事 騒音 事 件
︑ 大阪: 大 阪 国 際 空港 公 害 訴 訟 名古︑: 東 海 道新 幹 線 公 害 訴 訟
︑ 横田: 横 田 基 地 公 害訴 訟
︑ 厚木: 厚 木 基 地 公 害訴 訟
︑ 労災: 労災 事 案
︑ 国道: 国 道 四 三 号線 公 害 訴 訟︑ 福岡: 福 岡 空 港 公 害 訴訟
︑ 日本: 日 本坂 ト ン ネ ル事 故 訴 訟
︑ 小松: 小 松 基 地 公害 訴 訟
︑ 嘉手: 嘉 手 納 基 地公 害 訴 訟
︒ ま た
︑ 同様 に 一 部 の 裁判 例 に つ いて の み 一 連 番号 欄 の
︻
︼の あ と の
︵
︶ 内 に 序 説と 題 し た 二桁 の 数 字 や 澤 井 と 題 した 丸 数 字 を 付し て あ る が︑ 前 者 の 二 桁の 数 字 は 拙 稿︵ 注⑴
︶で 付 し た 一 連番 号 で あ り︵ その 二 一
〜 二 四 頁 に 一 覧が あ る
︒︶
︑ 後者 の 丸 数 字は
︑ 澤 井
・ 前掲
︵ 注
⑹
︶ 危 険 へ の 接近 素 描 が空 港 公 害 判決 に 付 し た 一 連 番 号 であ る
︵ そ の 二七 六
〜 二 七七 頁 に 一 覧 があ る
︒︶
︒
︻ 都営01
︼ 序 説 01︶ 東 京 地 裁昭 和 三 九 年 六月 二 二 日 判決
︵ 都 営 地 下鉄 工 事 騒 音 事件 第 一 審 判決
︶︵ 下 民 集一 五 巻 六 号 三
〇 三 頁
︑判 時 三 七 五 号四 七 頁
︑ 判タ 一 六 二 号 二二 九 頁
︶
︶ 四
四 生活 妨 害に お け る先 住 性の 評 価︵ 田 處 博 之
︶
︻ 大阪02
︼ 序 説 24︶ 大 阪 地 裁昭 和 四 九 年 二月 二 七 日 判決
︵ 大 阪 国 際空 港 公 害 訴 訟第 一 審 判 決︶
︵ 判 時 七 二九 号 三 頁
︑ 判 タ 三
〇 六号 一 一 七 頁
︑訟 務 月 報 二〇 巻 五 号 五 九頁
︶
︻ 大阪03
︼ 序 説 26︶ 大 阪 高 裁昭 和 五
〇 年 一一 月 二 七 日判 決
︵ 大 阪 国際 空 港 公 害 訴訟 控 訴 審 判決
︶︵ 判 時 七九 七 号 三 六 頁
︑ 判 タ 三三
〇 号 一 一 六頁
︑ 訟 務 月報 二 一 巻 一 三号 二 六 六 八 頁︶
︻ 名古04
︼ 名 古 屋地 裁 昭 和 五 五年 九 月 一 一日 判 決︵ 東 海道 新 幹 線 公 害訴 訟 第 一 審 判決
︶︵ 判 時 九七 六 号 四
〇頁
︑ 判 タ 四 二 八 号 八 六頁
︶
︻ 横田05
︼ 澤 井
①︶ 東 京 地 裁 八王 子 支 部 昭和 五 六 年 七 月一 三 日 判 決︵ 横 田 基 地 公 害第 一 次 第 二次 訴 訟 第 一 審判 決
︶︵ 判 時 一
〇
〇 八号 一 九 頁
︑ 判タ 四 四 五 号八 八 頁
︑ 訟 務月 報 二 七 巻 一一 号 二
〇
〇五 頁
︶
︻ 大阪06
︼ 序 説 33・ 澤 井
②
︶最 高 裁 昭 和 五六 年 一 二 月一 六 日 判 決
︵大 阪 国 際 空 港公 害 訴 訟 上告 審 判 決
︶︵ 民 集 三 五 巻 一
〇 号 一 三六 九 頁
︑ 判 時一
〇 二 五 号三 九 頁
︑ 判 タ四 五 五 号 一 七一 頁
︑ 訟 務月 報 二 八 巻 七号 一 二 七 三頁
︶
︻ 厚木07
︼ 澤 井
③︶ 横 浜 地 裁昭 和 五 七 年 一〇 月 二
〇 日判 決
︵ 厚 木 基地 公 害 第 一 次訴 訟 第 一 審判 決
︶︵ 判 時一
〇 五 六 号 二 六 頁
︑ 判タ 四 八 四 号 一〇 七 頁
︑ 訟務 月 報 二 九 巻五 号 七 七 一 頁︶
︻ 労災08
︼ 神 戸 地裁 昭 和 五 九 年七 月 二
〇 日判 決︵ 三 菱 重工 神 戸 造 船 所難 聴 第 一 次 第二 次 訴 訟 第一 審 判 決
︶︵ 判 タ 五 三 三 号 八 六 頁
︑労 働 判 例 四 四〇 号 七 五 頁︶
︻ 名古09
︼ 名 古 屋高 裁 昭 和 六
〇年 四 月 一 二日 判 決︵ 東 海道 新 幹 線 公 害訴 訟 控 訴 審 判決
︶︵ 下 民 集三 四 巻 一
〜四 号 四 六 一 頁
︑ 判 時 一一 五
〇 号 三
〇頁
︑ 判 タ 五五 八 号 三 二 六頁
︶
︻ 10︼ 横 浜 地 裁昭 和 六 一 年 二月 一 八 日 判決
︵ 飼 い 犬 鳴声 事 件
︶︵ 判時 一 一 九 五 号一 一 八 頁
︑判 タ 五 八 五 号九 三 頁
︶
︻ 厚木11
︼ 澤 井
④︶ 東 京高 裁 昭 和 六一 年 四 月 九 日判 決︵ 厚 木 基 地 公 害第 一 次 訴 訟控 訴 審 判 決
︶︵ 判 時 一 一 九二 号 一 頁
︑ 札幌 学 院法 学
︵ 二五 巻 一号
︶
︶ 五
五